亀更新ごめんなさい。
「ところでハチマン、聞きたいことって?それと、どうして俺のいる場所が分かったんだ?今までどうやって暮らしてきたんだ?」
キリトから質問責めにあう。近いし一度に答えられないし。
「あー、あれだ。大体全部鼠のせい……お陰だ」
「アルゴ?」
「ああ。あいつに頼まれてお前の様子を見にきた。最近お前が前線に出てきてないから、情報を集めて来いってよ。場所もあいつに聞いたからな。あの時間帯なら、大抵あの森にいるって」
「…………」
キリトは顎に手を当て、黙り込む。
「ハチマン、お前……騙されてないか?情報屋のアルゴが他人に情報を集めさせるとは思わないし、俺が最近何処で何をしてるかも分かってる口ぶりじゃないか?」
……いや分かってたよ?もちろん分かってましたよ。鼠は裏が取れた情報しか売らないし。フレンドだから位置が分かるとはいえ、いつ何処に行くかは、キリト次第だ。
場所が変わる度に鼠からメッセージが来るならまだしも、俺は最初に指定された場所に行っただけだ。会いたくないから、気づかないふりをして会えなかったことにしようとなんてしてない。
「とにかくだな、キリト。何で攻略組のお前がこんな下層にいる?」
「え?あ、ああ。それなんだけど……」
一週間ほど前、キリトは素材アイテムを求めてこの層にやってきたらしい。その途中、モンスターに苦戦する月夜の黒猫団を手助けした縁で、ギルドに加入したらしい。
「それで、その……みんなには本当のレベルを隠しててさ。レベル差があり過ぎると怖がられたりするだろ?俺は黒猫団のみんなと対等でいたいっていうか……」
「口裏を合わせろってことか……」
「う、まあ……そうなるかな」
バツが悪そうに、目を逸らすキリト。元々俺も合わせてないが。叱られた子どものようにシュンとなるキリトに、少し罪悪感を感じるが、よく考えると俺は怒っても叱ってもいない。
だが、キリトの行為はあまり褒められたものではない。確かにMMOでは、高レベルのプレイヤーが低レベルプレイヤーを手伝って、経験値を一気に稼ぐというのはよくある行為だ。
けれどここはSAOというデスゲームで、しかもキリトはレベルを隠している。
普通なら、高レベルプレイヤーのお陰、となるところを、黒猫団のメンバーは自分たちの実力と勘違いしてしまう可能性がある。もっと稼げるダンジョンにこもれるのではないかと、高望みする。
忠告はしておくべきかと考え直し、口を開こうとした時、扉がノックされる。
「キリト、そろそろ終わったかい?時間が時間だし、話なら食事をしながらにしないか?」
「あ、ああ。ハチマン、久しぶり……っていうか初めてか、一緒に飯食べるの」
「いや、俺は……」
「ほら、行こうぜ」
プロのぼっちゆえに、誘われれば思わず断るのだが、言い切る前にキリトに遮られる。ふぇぇ、どいつもこいつも強引だよぉ……。
「ほらほら、二人とも早く」
部屋から出て、酒場のある一階へ続く階段を降りていると、黒猫団の誰かさんに急かされる。名前は聞いたけど、誰が誰なのか分かんねえよ。
「こほん。それじゃあ、キリトとハチマンさんの再会を祝して、乾杯!」
ケイタの音頭でかんぱーい!と、各々が盃を掲げる。いや、別にお祝い事じゃないんだけど。些細なことでもとりあえず乾杯しちゃうの?毎日がエブリデイな人たちなの?
開始早々、どうやって帰るかを考える俺に気を遣ったつもりなのか、キリトが話を切り出す。
「そういえばハチマン、今日『ユキノシタ』って叫んでなかったか?知り合いと俺たちを間違えたのか?」
「……そうだな、勘違いだった」
「探してるのか……?」
SAOの感情表現は過剰だという。ならば、俺は相当酷い顔をしていたのかもしれない。キリトに心配をかけてしまったようだ。
「いや、多分プレイヤーじゃないな。ゲームをするやつじゃなかったし」
そうだ。雪ノ下がSAOを、ゲームをやってるはずがない。ナーヴギアなんて買うくらいなら、パンさんグッズでも買うだろう。由比ヶ浜も、頭のわりには財布の紐は固い。こんな無駄遣いはしないだろう。
「…………」
重い沈黙が流れる。沈黙は金という言葉があるし、黙り続けていればボーナスというシステムがSAOでは採用されるべきだと思う。ぼっちの俺は基本喋らないため、働かずとも儲かることになる。
「あ!そ、そうだキリト。ハチマンさんにも、ギルドに入ってもらったらどうかな?二人は知り合いなんだろ?今のままだと、キリトに前衛を任せすぎてるし、もう一人前衛がいればサチも転向しなくても大丈夫になるしさ」
「ああ、そうだな。ハチマンまだソロだろ?折角だし一緒に……」
「いや、断る」
また空気が重くなる。いや、あの、そんなにシュンとしなくてもいいんじゃないですか、キリトさん。
いたたまれない気持ちになった俺は、少しフォローをしておく。
「その、あれだ。パーティーの定員は六人だから、俺が入ると一人あぶれるし。そもそも、俺の戦い方はパーティーとかギルドとか、向いてねぇんだよ」
そう言い、背中に吊るしている剣をガチャリと鳴らす。
「ハチマン、両手剣にしたんだな」
ずっと圏外をソロで過ごしてきた俺は、モンスターに囲まれることが少なくなかった。片手直剣だと、攻撃力不足を感じることが多々あったのだ。
ソードスキルで一気にHPを削っても、スキル後の硬直を他のモンスターに攻撃される。硬直時間は、たとえ盾を装備していても動けない。ならば、多対一を想定した戦い方をするしかない。
そんなときに出現した両手剣スキルを、俺は迷わず取った。それからずっと使ってはいるが、まだそこまで熟練度は高くないな。
「そんなわけだから、周りに誰がいると戦いづらくてな。ギルドには入れん」
言うと、立ち上がる。帰るならここだ。このタイミングなら、誰にも咎められまい。
一応飲み代を払うべきかと思って、なけなしのコルを払おうと、ウィンドウを操作する手を、ガシッと掴まれた。
「それでも……それでも構わないから、ギルドに入ってください」
掴んでいるのは、サチと呼ばれている少女。こんな積極的に動くタイプじゃないと思って、油断した。他のギルメンも、「サチが大胆に……」「よっぽど前衛やりたくないんだな……」などと零している。
内気な少女をここまで追い詰めんなよ!てか近い近い柔らかい!くっそ、データの塊なはずなのに何でこんなに柔らかいの!?プロのお兄ちゃんとして、妹と手を繋ぎ慣れてる俺でも、女子と手を繋ぐなんてドキがムネムネする!
「あの、あれ……はなひて」
「お願い、ハチマン……」
「い、いや、このSAOは一人用なんだ。なっ、キリト?」
思わず骨川流の断り方を駆使するが、キリトはグッと親指を立てるだけで助けてくれない。あの指斬り落としてやりたい。また俺をオレンジにしたいのか。
ってか、いきなり呼び捨てとかコミュ力が高すぎる。スカウターが爆発するぞこの女。コミュ力たったの五の俺では、到底太刀打ちできない。
NOと言える日本人代表の俺だが、今回は勝手が違う。雪ノ下によく似た声で、優しく甘えるような甘い物言い。雪ノ下と対比して優しすぎる。雪ノ下がこんなに優しかったら、五回は告って全部フラれるところまで容易に想像できる。いや、全滅なのかよ。
手を取ったままのサチは、畳み掛けるように上目づかいで「ダメ?」と聞いてくる。なんならついでにキリトまで、土下座しそうな勢いで「頼む!」と両手を合わせて頭を下げている。
ふと思い出す。半年ほど前、まだこの世界に来ていなかった頃の喧騒。俺は静かに過ごしていたから、うるさかったのは周りのリア充どもだけだったが。
結論。
押し切られてギルドに入れられました☆