ソードボッチ・オンライン   作:ケロ助

13 / 33
続きです。キャラ崩壊と戦闘シーンの無さは大目にみてください。ボス攻略の所をこれからたくさん書いていくので。


第8話

これが戸塚からのお願いだったなら、俺は二つ返事で頷いていただろう。だが、今俺の隣に腰掛けているのはサチという少女だ。ていうか、ぶっちゃけ引いた。

 

え、ビッチなの?それとも俺のこと好きなの?

 

後者はないな、うん。勘違いでフラれて黒猫団に居辛くなってギルドを抜けるところまでは想像できた。

 

とまぁ、こんなことを考えても結論は出ない。俺が今考えるべきは、どうやってこの場から脱出するかだ。「ごっめ〜ん、これから用事があるんだ〜、てへっ」とか言って出られる雰囲気ではない。

 

「ごめんね、今からどこか行くつもりだった?」

 

「まあ、キリトにボス戦に出るよう言われたからな。その下準備だ」

 

「そうなんだ……」

 

そういって、サチはちらりと俺を見る。フル装備をしていることから、予想したんだろう。案外、それを理由に出られるんじゃないか?

 

「ああ、だから悪いが」

 

「……どうして?」

 

「あ?」

 

サチの言葉に遮られ、最後まで言わせてもらえない。何がどうしてなのかも分からず、サチの言葉の続きを待つ。

 

「……どうして、そんなに頑張れるの?ボス攻略だって、死んじゃうかもしれないんだよ?ハチマンだって、怖いって言ってたじゃない」

 

サチは枕を強く抱きしめる。

 

「私、怖いよ……。死ぬのが怖い。ほんとははじまりの街から出たくなかった。でも、みんなはこのゲームを攻略するんだって……そんなの私にできるわけないよ」

 

俺は黙って、彼女の静かな叫びを聞いていた。

 

「ただのゲームなのに、どうして死ぬの?死ななくちゃならないの?私はただ、みんなと一緒に楽しくゲームがしたくてこのゲームを始めただけなのに……」

 

彼女の悲痛な声は、ナーヴギアを通して俺の脳へと伝播する。

 

「毎日モンスターと戦わなくちゃいけなくて……。怖くて、夜も眠れなくて……」

 

彼女はずっと前から限界だったのだ。恐らくはこのゲームが始まったその瞬間から。

 

街から出たくなくても、SAOの中で唯一の知り合いである黒猫団について行くしかなくて、一人で街に残る勇気もなかった。どんどん攻略組に追いつこうとするメンバーとの間にズレを感じて、置いていかれた気になる。

 

だから、彼女はこうして俺に甘えてきた。理解を求めてきたのだろう。せめて、眠りに就く間だけでも安心したくて。このゲームへの恐怖を共有する者として。

 

けれど、サチに必要なのはそんなものなのだろうか。

 

口を開こうとしたところでコンコンと、ノック音とともに聞き慣れた声が聞こえてくる。

 

「ハチマン?二十九層行くだろ?どうせなら一緒に……」

 

俺の返事を待たず扉を開けたキリトは、俺とサチを見て固まる。いや、そういうんじゃないですよ?とはいえ「俺達そういう関係じゃないから」とかわざわざ言うのも、自意識過剰に思える。

 

「えっと、悪い……邪魔だったかな?」

 

「……ううん、大丈夫。ハチマン、無理言ってごめんね」

 

「お、おお……」

 

行ってこい、という意味だろうか。

 

「じゃあ、行くわ……」

 

「いってらっしゃい」

 

無理矢理貼り付けた笑顔に見送られ、部屋を後にする。後ろ髪を引かれる思いではあるが、残ったところで俺に何ができるのか。

 

「ほんとに悪かった……」

 

「そういうんじゃねぇよ……」

 

拝むように頭を下げるキリト。他の宿泊客に見られるから、やめてくんない?

 

その後、俺とキリトは二十九層で三時間ほどレベリングを行い、レベルは共に一ずつ上がったところで、明日のことも考え、ホテルへと引き返した。

 

なんとなく部屋に戻りたくなかった俺は、適当な言葉を並べてキリトの部屋に泊まった。ベッドはダブルサイズだったので、男二人でも充分寝ることはできたが、小町と戸塚以外と同衾とか考えられなかったので、床で寝た。

 

床硬え……。

 

・ ・ ・

 

尖った耳、皺だらけの顔、小さな体躯の亜人型モンスター。ゴブリンと言えばイメージがしやすい。まさに魔法の国の銀行員なんかをしてるゴブリンそのものだった。

 

彼らは棍棒を武器に、二人から三人を一組として襲い掛かってくる。ソロの時に囲まれれば厄介だが、今は頭数もレベルもこちらが圧倒的に上だ。

 

確実にラストアタックを取らせ、一人ずつ屠る。レベルマージンが三十近くある俺には、かなり楽な作業だ。余裕ですねぇ、ヌルフフフと笑いながら倒せるくらい余裕だ。

 

現在十五層の迷宮区。着実に黒猫団はレベルを上げている。俺やキリトのレベルも、夜中に最前線でレベリングをこなすことで、そこそこのラインを保っていた。

 

「このままガンガンレベル上げて、攻略組の仲間入りだー!」

 

「いや、いっそ追い抜こうぜ!」

 

「無理だろ!」

 

ドッと笑いが巻き起こる。キリトもやれやれ、といった表情で肩を竦める。

 

「馬鹿言ってないで、さっさと次の準備だ」

 

「へーい」

 

ケイタの声を受けて、気を引き締める。まあ、声の感じだとあまり引き締まっている気はしないが。

 

「サチ、どうかしたのか?」

 

「……ううん」

 

声のする方に目を向けると、キリトが心配そうにサチを覗き込んでいる。

 

彼女とは、昨晩以降会話はしていない。元々進んで会話をしているわけではなかったし、勘違いだと分かっていても意識してしまう。何を話していいか分からない。

 

「?」

 

「……っ」

 

不意に目が合いそうになるのを、欠伸をするふりをして誤魔化す。慌ててやったからかなり下手な欠伸になったな。

 

「うおっ」

 

顔を逸らした先にキリトの顔が。いつの間に回り込んだんだよ……。心臓に悪いし、顔近くない?

 

キリトはそのまま顔を俺の耳元に寄せてくると、小声で言う。

 

「ハチマン、今日も二十九層行くだろ?」

 

「まぁ、二十九層のボス攻略に参加しないといけないらしいからな」

 

「……その、行きたい場所があるからさ、ついてきてくれないか?」

 

「嫌だ」

 

元はソロだったのに一人で行動できないとか、こいつはぼっちとは言えないな。なんにせよ、誘われたら断るのが俺の流儀だ。

 

「……いや、頼むって。今日の夜も迎えに行くから、部屋で待っててくれ」

 

言うだけ言って、キリトは離れていく。なんて自分勝手なんだ。もう激おこプンプン丸だ。もう古いなこれ。

 

・ ・ ・

 

その日の夜、宣言通り迎えに来たキリトに連れられ、二十九層へ向かう。方向からして、どうやら圏外に出るつもりはないようだ。買い物についてきてほしいって意味だったのか?

 

さっきから何度か行き先を尋ねても「まぁまぁ」しか言わないキリト。NPCと入れ替わったのかと思っちゃったじゃねぇか。

 

そして到着したのはNPCレストラン。深夜だというのに、結構な賑わいを見せている。なかなか高級そうだな。

 

「ていうか、来たかったのここなの?お前女子?」

 

「それ偏見だろ。……待ち合わせなんだよ。ここを指定したのは向こうだ」

 

ぐいぐいと背中を押され、店内に入れられる。待ち合わせだと?俺のことを知ってる人間といえば、あの女しか思い浮かばない。今すぐにでも帰りたいが、キリトが入り口に仁王立ちしていて通れない。

 

嵌められたことに今更気付くが、もう遅過ぎる。ふーっと短くため息を吐いて切り換えることにする。こうなれば、さっさと用を済ませて帰るしかない。

 

「おっ、居た居……た?」

 

キリトの態度を訝しんで、目線を追うとそこには、鬼が居た。

 

外から見て賑わっているように見えたのは、『そいつ』の周りを避けた結果入り口付近の席が埋まっていたからだったようだ。

 

店の中央奥を陣取る『そいつ』は、店内だというのに抜剣して、こちらを睨みつけている。。もちろんこの場所は圏内で、ダメージが通るはずはないのだが、それでも言いようのない恐怖がこみ上げてくる。

 

呪いスキルとかあったっけ?それとも呪いの仮面でもドロップしたのだろうか。月が落ちてきそうだな。

 

「……おいキリト。確かにボス戦に参加するとは言ったが、早すぎない?」

 

「あれはボスじゃない……と思う。とりあえず圏内なら殺される心配はないと思うから、行くぞ」

 

キリトに腕を引っ張られ、俺達は『そいつ』へと近づいていく。この恐怖は、近所の通る度に吠えまくる大型犬を彷彿させる。柵の向こうに居るのに迫力ありすぎなんだよ……。

 

「え、えっとだな。話してなかったんだけど、今日は二十九層にハチマンが参加するってことで、その顔合わせというか。攻略に不都合が出ないよう、打ち合わせっていうか」

 

恐怖に顔を引きつらせて、しどろもどろになりながら真実を語るキリト。

 

「えっと、初めてじゃないと思うけど、こっちが」

 

キリトの言葉はだんっ!とテーブルを叩く音に中断させられる。え、やだ怖い。小町が絡んだ時の親父並みに怖い。

 

「初めまして。ギルド『血盟騎士団』副団長のアスナです」

 

拳でテーブルを叩いた人物は、ゆっくりと顔を上げ、器用に貼り付けた笑顔で自己紹介をしてきた。

 

「貴方は?」

 

「え?アスナ、ハチマンと前に会って」

 

「黙っててください」

 

「はい!」

 

キリトは全力で気をつけの姿勢を取る。

 

「貴方は?」

 

アスナと名乗った少女は、寸分違わぬトーンで言いきった。昔のRPGの村の入り口にいるNPCかよ。このまま答えずにいると、彼女は「ここは◯◯村だよ!」と延々と繰り返す村人Aのように同じ質問をし続けるだろう。

 

「ギルド『月夜の黒猫団』所属、ハチマンだ」

 

「そうですか」

 

アスナはふう、と息を吐くと腰に帯びた鞘に刺突剣を納刀する。そしてもう一度こちらに顔を向けると、言い放った。

 

「では、キリトさん。そしてハチマンさん。貴方達は即時今のギルドを脱退して『血盟騎士団』へ入団してください」




to be continue...

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。