サチが死んでしまいました。ぶっちゃけSAOで1番好きなヒロイン(?)だったんですがねぇ。じゃあ殺すなよという意見は置いといて。
俺ガイル原作にはヒッキー視点以外がほぼ無いため、避けてきましたが今回は違う視点があります。それでは始まり始まり〜。
ヒーローは、まぁ、好きだ。
日曜のスーパーヒーロータイムは欠かさず見てる。Yesもスマイルもファイブも好きだ。……あれはヒロインか。
ただ、ヒーローが好きだからといってヒーローになりたいわけじゃなかった。というかなれると思ってない。そういうのは中学で卒業した黒歴史の一つだ。雄英学園も無いしな。
待てども特殊な力が目覚めることはなかったし、天界から連絡が来ることもなかった。前世の記憶も戻らない。
だから、ヒールで構わないと考えた。
別に率先して悪役に徹したわけではないが、俺に思いつくのはそんな方法ばかりで、それができたのは俺だけだった。それが一般世間的に言えば、俺とは無縁のその他大勢から言わせれば、ヒールだった。それだけのことだ。
悪役が悪と断じられる所以は、目的のためなら周りに被害をもたらすことも厭わないところだ。その点は俺にも当てはまり、よって悪役だと言える。
依頼の完了という目的のためだけに、全体に嫌な結果を押し付ける。そして結局は誰も救えないまま、上辺だけの解決が為される。
そう、誰も救えない。悪役には誰も救うことなどできはしないし、悪役を救うものもいないのだ。
・ ・ ・
【ハチマンがギルドを脱退しました】
そのメッセージウインドウが目の前に現れたときは驚いたが、正直心の中ではこうなることがわかっていた。
サチを救えなかったことに、最も責任を感じているのはハチマンだろうから。
だから、俺は急ぎ足でハチマンがいるであろう場所に向かう。黒猫団が、ハチマン……いや、むしろサチがいつも使っていた部屋に。
部屋に着くとノックもせず、ドアノブを回す。この部屋はいつも、『フレンド/ギルドメンバー開錠可』という設定にされている。普通なら本人が部屋にいるときは『開錠不可』に設定して、勝手に開けられないようにするものだが、ハチマンは常時この設定だ。
ハチマンは「安い宿は鍵が掛けられなくて困る」なんてボヤいていたが、聡い彼ならとっくに気づいていただろう。
けれど、部屋の鍵はいつも開けたままにしてあった。それはきっと彼女のためで、照れ隠しであんなことを言っていたんだと思う。
「キリトか」
扉を開けた途端に聞こえてきた声に、少し肩が震えてしまう。あまりにも冷たい声だった。いつもの捻くれた、それでいて優しい兄のようなハチマンではなかった。
俺は短く「ああ」と答えと、意を決して話し始める。
「……ハチマン、どうしてもギルドを抜けるのか?」
「…………」
ハチマンは答えない。答えるまでもない、という意味だろうか。
「お前に伝言だ。『仕方ないことだった、自分を責めないで』だとよ」
「伝言……?」
とそこで、ハチマンがあるアイテムを手に持っていることに気づく。おそらく録音結晶だ。だとすればあの中に入っているのは……。
「そうか、サチの録音結晶か」
「……あぁ」
「……なぁハチマン、考え直してくれよ。俺たちがバラバラになることないだろ?その……」
言葉を選びながら、ハチマンを引き止める。
「サチも望んでない……か?」
「う……」
言わないようにしていた言葉を、ハチマンはあっさりと口に出す。わかっている。俺なんかがサチを語っていいわけがない。俺よりもずっと彼女を見てきたハチマンには、最も言ってはいけない言葉だ。
「俺は悪くない」
「え?」
唐突な言葉に、意味がわからず疑問の声が出る。
「昔から世間は俺に厳しかった。クラスでなにか起こればまず俺が犯人扱いされる。なんなら犯人にされたこともあった。なら俺だけは俺に甘くなろうと思った。俺が悪いんじゃない、世間が悪いってな」
らしくなく多弁になるハチマン。堰を切ったように溢れ出す感情が抑えきれていない。
「だから、今回もそう考えようとした。……そう、考えようとした。サチを殺したのはモンスターで、そのモンスターを呼び寄せたのはトラップ。そのトラップを発動させたのはダッカーだ」
「…………」
「けど考えるほどに、その考えは自分の中で否定されていった。ダッカーをもっと強く止めなかったのは俺で、そもそも二十七層に行くことに反対したキリトに加勢していればこんなことにはならなかった。トラップが発動したあとサチの側から離れたのは俺で、そもそもトラップの危険性があった部屋にサチを入れなければこんなことにはならなかった。サチを殺したモンスターを殺しきれなかったのは俺で、そもそもキリトの言う通りもっとレベルを上げて、武器も新調していればこんなことにはならなかった。そもそも二十九層のボス攻略で、アスナを助けなければ……!」
「ハチマン!」
はっと我に帰った様子のハチマン。いつもなら絶対に言わない本音を曝け出す。心が相当参っているんだろう。
「落ち着け、仕方ないなんて言いたくないのは俺も一緒だ。……けど、一人で背負うなハチマン。その罪は俺とお前の二人の罪だよ……」
「違う、そうじゃねぇんだ。……責任がどうのじゃない。俺はずっと探していたんだ……」
なにを、と疑問を口にする前に、部屋の扉が勢いよく開け放たれる。入ってきたのはもういないサチを除く黒猫団のメンバー全員。
「ハチマン、黒猫団を抜けるのか……?」
リーダーのケイタが、真剣な表情で問う。俺と同じように、ハチマンを引き止めにきたんだろう。
「…………」
答えないハチマンに、嫌な予感がした。録音結晶を砕けそうなほど握りしめる彼の眼に、決意のようなものが見て取れたからだ。
「……そうだな。サチも死んだし、目当ての女がいなくなったんだ。もうこのギルドに用はない」
「なっ!」
予感が当たった。あいつは第一層で行ったことをもう一度するつもりだ。驚愕で言葉も出ないメンバーに向けて、ハチマンは更に言葉を紡ぐ。
「血盟騎士団から誘われててな、好待遇で迎えてくれるって話だ。こんなしょぼくれたギルドにいるよりよっぽどいい話だ」
「待てよハチマン!俺たちを裏切るのかよ!」
テツオが怒りを露わにする。違う……、ハチマンは以前俺たちのためにその話を蹴っている。けれど、その事実はこの場では俺とハチマンしか知らない。
「やめろ、ハチマン……」
「裏切る?まぁ、足手まといを見限ることをそう呼ぶなら、そうなんじゃねぇの?」
「お前……!」
「だいたい、なんのメリットもないのにここまで付き合ってやっただけ感謝してもらいたいくらいだな。数少ない女プレイヤーがいたから我慢していたが、それもなくなった。ならここにいる理由はねぇだろ」
ハチマンは、ニタリと口を割いて嗤う。
「それに、どうせお前らすぐに死ぬだろ。俺は巻き添えを食いたくない……」
「ハチマン!やめろ!!」
俺はハチマンに掴みかかる。ハチマンの狙いがなんなのか、俺にはまだ理解できていない。けれど、これ以上彼の口から言わせたくなかった。遅すぎたかもしれないけど、俺はハチマンに悪役になんてなって欲しくはなかった。
胸ぐらを掴まれたハチマンは、それでも笑っている。俺には見えないが、確実にハラスメント警告が発動しているはずだ。ハチマンの指一本で俺は黒鉄球地下の監獄エリアに送られる。
「……離せ」
俺の腕を振り払うハチマン。そして、そのまま出口に向けて歩く。
「お前らみたいな雑魚に、攻略組なんてできるわけないだろ。自惚れるな。これは、ゲームであって遊びじゃない。死だけがリアルの悪趣味なクソゲーだ」
そう言い残して、ハチマンは去っていく。
俺はまた彼を止められなかった。何度も同じことを繰り返している。
SAOが始まってから今日まで、俺は全く成長していない。アバターのレベルは上がっても、本体は無力な子どもだと改めて思い知らされた。
結構原作のヒッキーの性格を守ってきたつもりでしたが、今回は無理です(あくまでもつもりです)。
今回は、ヒッキーのやってることを外から見ると、分かる人以外には意味わかんないよね、的なことを書きたかったのです。