ソードボッチ・オンライン   作:ケロ助

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第28話

ボス攻略のためであれば許される。そう思っていた時期が俺にもありました。

 

リズベット武具店で折る用の両手剣を五本発注し、交換条件で無抵抗での完全決着モードの決闘を挑まれた次の日、俺は血盟騎士団に囲まれてボス部屋の前にいた。よく生きてたな、俺。

 

ようやくマスタースミスになったリズベットに、格安で作らせようとしたのだが、彼女は少し武器に愛着を持ちすぎている気がする。俺も折りたくて折っているのではないと何度も説明しているが、彼女が俺の来店を歓迎することは未来永劫ないのだろう。ちなみに結局両手剣はその辺りの店で適当に見繕った。

 

「……で、お前ら何のつもりなんだよ」

 

「今日一日、あなたは私たちの団長とパーティを組むんでしょう?なら、もうギルドに入ってるのと変わらないじゃない」

 

「いや、違うから。むしろ呉越同舟的な状態だろ」

 

四方八方からオブジェクト化した血盟騎士団の団服を手に、団員たちが迫ってくる。段々と手口がエスカレートしてきてるじゃねぇか、怖いよ。

 

全力で拒否を続けていると、「今日はこのくらいにしておいてあげるわ」というやられ役さながらなセリフを残し、血盟騎士団は団長の元へと向かっていく。

 

ようやく解放されて一息ついていると、苦笑を浮かべたキリトが歩いてくる。

 

「相変わらずだなぁ。この間は黒猫団も血盟騎士団に入る気はないかって聞かれたし」

 

「お前らも今じゃ立派な攻略組だしな」

 

ぶっきらぼうに返す。キリトは肩をすくめると、俺の隣に立ち続けた。

 

「そうだな、結構無茶したよ。睡眠時間とかも結構削ってさ」

 

軽く言っているが、かなり危ないことをしてるな。何度も言うようだが、この世界は死だけがリアルなクソゲーだ。安全マージンは階層より十レベル上だと言われている。攻略組に入るなら、最低でもこれ以上でなければ危険過ぎる。

 

それならば現在黒猫団の全員が六十レベルを上回っているのだろう。この短期間でこれだけレベルを上げるのは至難の技だ。

 

「…………」

 

「…………」

 

昨日も顔を合わせているのだが、改めて気まずさが漂い、一瞬静寂が訪れる。

 

ふと、キリトの背中に目を向ける。以前の攻略から気になっていたんだけど、こんな状態だとソードスキルは使えないはずだが、やはりこれがキリトのユニークスキルなのだろうか。

 

俺の視線に気づいたのだろう、キリトが納得したような声を出し、わざわざ説明をしてくれる。

 

「……ユニークスキルだっけ?俺のは《二刀流》だよ。片手直剣を両手に装備した状態で使うんだ。ハチマンのは噂になってるけど、詳しくは知られてないよな。どんなのなんだ?」

 

突然ぐいぐい来るキリト。ちょ、近い近い怖い!相当なゲーマーであるキリトは、俺のユニークスキルに興味津々だ。正直教えたくないが、教えてもらっておいて答えないわけにもいかないだろう。

 

「……《暗黒剣》だ。両手剣を片手持ちの状態で使う。団長さんのと違ってデメリットも大きいけどな。副団長さんに言わせれば、攻撃偏重の博打スキルだってよ」

 

「なるほど……。ヒースクリフの《神聖剣》が盾持ち片手直剣の上位互換、俺の《二刀流》が盾無し片手直剣の上位互換、ハチマンの《暗黒剣》が両手剣の上位互換ってことか。この感じだと、他のユニークスキルも結構出てきそうだな……」

 

ブツブツと独り考察を始めるキリト。これはぼっち特有の所作だ。やはりキリトは現実ではぼっちだったんじゃないだろうか。

 

妙な親近感を覚えていると、ボス部屋の扉の前にいる血盟騎士団が声を張り上げる。

 

「それでは、現時刻をもって第五十層ボス攻略を始めます!厳しい戦いになると思いますが、現実世界に帰るために、全SAOプレイヤーのために、勝ちましょう!」

 

うぉぉぉおおお!!とアスナの激励に応えて吠える攻略組プレイヤーたち。そして、ボス部屋の扉が開かれた。

 

これは後から聞いた話だが、神統記という叙事詩の中ではケルベロスは五十の首を持つと書かれている。だからこそ、この折り返し地点のボスに選ばれたのかもしれない。

 

今回の攻略組の全員が部屋に入ると、自動で入口の扉が閉まる。そして入口付近から順に灯台に火が灯っていく。黒曜石の大部屋は明かりがついてもまだ薄暗い。その部屋の中央。そこで奴は眠っている。情報通りの三ツ首の鬣を生やした巨大な番犬は、背後の扉へと向かう人間をその体で阻んでいる。恐らく全長は六、七メートルはあるんじゃないだろうか。

 

「眠ってるなら先制攻撃を……」

 

誰かが呟く。俺はふう、とため息を吐いて声を出そうとしたが、その寸前でアスナが苦言を呈す。

 

「危険過ぎます。恐らく軍のプレイヤーたちも同じことを考えたはずです。その彼らが返り討ちに遭ったのなら、不用意に近付くべきではありません」

 

アスナの意見に全員が賛同し、俺・ヒースクリフ・キリトのユニークスキル持ちを十メートル地点、他の隊を十五と二十メートル地点に半分ずつ配置。

 

全員が抜剣した状態で、血盟騎士団の一人が投擲スキルでケルベロスを起こしにかかる。

 

風が吹いた。

 

目で追えなかったわけではない。だが、逆に言えば目以外では全く反応できなかった。俺が気付いた時には二十メートル離れた場所で構えていたはずのプレイヤーが一人、ケルベロスの牙に捕まっていた。

 

「ぐぁぁぁあああ!!」

 

その叫び声で、全員が一瞬の空白から呼び戻される。

 

「くっそ……!」

 

最初に駆け出したのはキリト。次いで俺たちより近い位置にいたアスナ。俺もその後に続いて走り出す。ナベリウスはプレイヤーを咥えたままで、近くにいた他のプレイヤーを前足で薙ぎ払う。

 

「あぁぁぁぁ!!」

 

「やめてーーーーッ!!」

 

アスナが叫ぶ。だがそんなものが通じる相手なら、最初から戦ってなどいないのだ。パキィン!と甲高い音と共に青いエフェクトが散らばる。クソが、間に合わなかったか!

 

「セヤァァァァ!!」

 

閃光の名に恥じないソードスキルが地獄の番犬を襲うが、意にも介さず左右の首をキョロキョロと動かしている。右の首が遠吠えを行うと、周囲に紅い体躯の猟犬、《デス・ハウンド》が多数出現する。

 

「退がれアスナ!まず俺たちが相手をするから、その間に体勢を整えさせろ!」

 

デス・ハウンドを一体倒したキリトがアスナに指示を送り、そのまま三ツ首の番犬に斬りかかる。ナベリウスはそれを躱し、右前腕でキリトに反撃し、キリトはそれを二刀流で受け止めた。

 

「ぐうっ!!」

 

その巨躯から放たれる攻撃は、見た目通り重いのだろう。俺が受けたなら恐らく一撃で死ぬ。

 

「頼みますよ、団長さん!」

 

叫びながら、暗黒剣をケルベロスに叩き込む。暗黒剣スキル《サイクロン》。飛び上がって回転し、遠心力と重力を加算した唐竹割を、ケルベロスの横っ腹にお見舞いする。

 

『ボォアアアア!!』

 

犬っころのHPバーの最上段が、三分の一程減る。やはりクォーターポイントなだけあって、今までのボスよりもかなりHPが多い。それでも通じるということに、俺は確かな手応えを感じていた。

 

直後、スキル後硬直状態の俺に向けて番犬が牙を剥く。

 

「任せたまえ」

 

ギィィィン!と金属音を響かせて、ヒースクリフが俺とナベリウスの間に入る。キリトが両腕で懸命にパリィをしているというのに、片手で防いでいる団長さんには余裕があるように見える。どんだけ強いんだこの人は……。

 

「団長!」

 

アスナを含む半数のプレイヤーが回復を終え、こっちに合流する。残りの半数は、デス・ハウンドの討伐をしているようだ。

 

「アスナくん、隊を半数に割り片方をキリトくん、もう片方を君が率いて三チームで当たろう。こちらは問題ない」

 

「はい!」

 

ヒースクリフの指示に、アスナたちは即座に応える。これで三対三のチーム戦になったな。

 

陣形としては正面右側に俺とヒースクリフ、正面左側がキリト隊。後方にアスナ隊となった。まずは俺が暗黒剣でヘイトを取り、ヒースクリフが防ぐ。

 

その隙に他の二隊がタンクを立てながらダメージを与えていく。前足での薙ぎ払い、噛み付き攻撃をタンクが防ぎ、受けたダメージはポーションで回復する。その間は他のプレイヤーがパリィしたり、俺がヘイトを取ることで時間を稼ぐ。

 

そんな攻防を続け、HPバーが二本ほど減った時、番犬は雄叫びを上げて俺たちから瞬時に距離を取る。常にではないが、時折あの高速移動をするな……。もしずっとあの速度で動き回られていたなら、俺たちはもう全滅していることだろう。

 

叫んだ番犬はこちらを向くと、右の顔が大きく口を開いた。

 

「……ッ!!ブレスだ!全員回避するかブレス用のガードだ!」

 

キリトが叫ぶ。確かに開かれた大口の奥にかすかに炎がチラついている。範囲は分からないが、防御を持たない俺はひたすら回避するしかない。全力でナベリウスの左側に走る。

 

真後ろのアスナ隊は良いとして、ブレス正面のキリト隊は範囲外に行けない可能性を考慮したのだろう、回避ではなく防御に徹するようだ。

 

タンク隊を並べ、その一歩前にキリトが立っている。炎のブレスが放たれる。約九十度の範囲で放たれたそれを、キリトは防御スキル《エアリー・シールド》で凌いでいた。

 

恐らく前に出たのはHPを減らしていたタンクへの負担を減らすためだろう。両手の剣をクルクルと回して風の盾を作るキリトを見て、俺は少し呆れ顔になっていただろう。

 

軽装のダメージディーラーが、タンクを守ってどうすんだよ。だがそこで庇ってしまうのは、キリトらしいな。

 

ブレスが終わると、俺とアスナたちが全力でアタックする。ここでヘイトを取っておかなければ、キリトたちが回復する時間がない。

 

俺はチャンスがあればひたすらに暗黒剣を叩き込み、防御は完全にヒースクリフに任せていた。もちろん躱せるものは躱しているが、スキル後硬直の上パリィもガードも禁止では、ボスの攻撃範囲から逃げるのは至難の技なのだ。

 

ブレスでどうしても受けてしまうダメージを除けば、俺は一度もダメージを受けていなかった。……ボス相手にすげぇな、ヒースクリフ。

 

「パターンが変わった!ブレス来るぞ!」

 

「私たちは総攻撃します!タンクはソードスキルは使わず、いつでも防御できるよう構えておいてください!」

 

アスナの声の直後、今までのように正面にだけではなく、薙ぎ払うようにブレス攻撃をする番犬。油断していた俺は躱しきれず、ブレスを浴びる。反射的に両腕で庇ったため、HPの半分と耐久度が結構減っていた市販の両手剣が持っていかれた。

 

咄嗟に考える。ブレス直後はナベリウスは数秒硬直するため、大ダメージを与える絶好の機会だ。ダメージを無視して新しく剣をオブジェクト化して攻撃するべきか……。

 

ウインドウを操作して剣を出そうとすると、それをヒースクリフが手で制した。

 

「私が前に出よう。その間にまず回復したまえ」

 

「すいません……」

 

駆け出すヒースクリフの背中を見ながら、指示に従いポーションを口に含む。単独でもずばずばとダメージを確実に与え、ナベリウスの攻撃は的確に防ぐ。やっぱ俺いらないんじゃねぇの……?八幡的にはヒースクリフの動きを制限してる気がしてならない。

 

数十秒経過し、HPが全快した俺は戦線に復帰する。そこからまた数度の攻防が続き、遂にボスのHPは残り一段となった。




長いので、一旦切ります。

川なんとかさんも彼女の一人称を間違っていることに、ごく最近読み返して気付きました。

多分これだけだと全く意味わからないと思います。

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