クロスアンジュ イレギュラーと熾天使の輪舞 作:ヌオー来訪者
ヴィルキスって水没二回ぐらいしてませんかね……
流石にロザリーたちの行動が目に余ったのか、サリアは第一中隊のアンジュ以外のメンバー全員を開いた教室に呼び出した。ヒルダが用事がある為に遅れるとのことでヒルダ抜きでこの『反省会』が実施された。ロザリーとクリスは床で正座し、リオス、ミランダ、ヴィヴィアン、エルシャ、シエナは近くで椅子に座り、サリアはロザリーたちの前に立っていた。
「ガス抜きと思って見逃していたけれど、ちょっと目に余るわねこの所。あの娘が気に入らないのは分かるけど……」
サリアもまた、アンジュが気に入らない人間の一人ではあった。だが、仕事上彼女を一応庇わねばならない。サリアの態度が気に食わなかったか、ロザリーはエルシャたちに訴えかけた。
「アンタら何も思わねぇのかよ! 隊長を殺し、新兵を死の危険に追いやった奴がのうのうと生きている事にさ!」
ロザリーが言っている事は最もだったが、リオスとしては流石にフレンドリーファイア紛いの事を看過できるような人間では無かった。下剤の一件もだ。
「でもお前、フレンドリーファイア紛いの事は流石にやり過ぎだろうが!」
「新兵は黙ってろ!」
ロザリーが反駁するが、リオスも引き下がらない。
「いや黙らない! 新兵でもこれは流石におかしいと思うわ! 故意のフレンドリーファイアは軍人としておかしいだろ! 報復にしてはやり過ぎだ!」
「隊長と付き合いの短かった野郎が何を偉そうに言いやがる!」
「そう言って、私刑を見逃せと言うのか!」
「だから新兵は黙ってろって言ってるんだよ! こっちの痛みも知らないでさァ!」
ロザリーとリオスの間に火花が散る。リオスとしてもあちら側の言いたい事が分からない訳でも無かったが、放っておけるようなものでは無かったし、ロザリーとしては隊長を殺したアンジュが許せなかった。
一触即発。空気が張り詰めていたその時、エルシャが口を開いた。
「でも、アンジュちゃんは隊長のお墓も買ったし、戦場にも戻って来た。贖罪は既に果たしているわ」
「ッ、そんなので納得……!」
ロザリーの怒りの矛先がエルシャに向けられる。
分かっていた。それだけで納得できないのは分かっていた。当然だ。今でも編隊を組む奴は皆変態だと言わんばかりに独断専行を行ったりとやりたい放題で反感しか買っていない事は。あちらが反省しているようには見えないのは。命は金で贖えるものではない事ぐらいは。
リオスは理解していた。だが、彼女らのやっている事も認める訳にも行かなかった。無論、己が絶対的に正しいとも思っても居なかった。
「ハッ、それだけで納得しろってのかい? アンタみたいな優等生サマなら兎も角、あたし等凡人には無理だね」
用事を済ませて来たヒルダがこの教室の入り口付近で話を聞いていたのか、吐き捨てるようにロザリーの意志を代弁した。
「ったく、あの司令も何考えているんだか。突然流れて来て早速初戦で機体をぶっ壊した
古株(と思われる)ヒルダたちから不満の一つ二つ出ても何も文句は言えないではないか。……と言うかアンジュを多少擁護している時点で彼女らには敵視されても仕方がない。明らかに
「あぁ、司令も気に入っちゃたんだ、あの二人が。まっそう考えれば変に優遇されているのも納得できるか。あの司令を誑し込むとは大したモンだねぇ。期待の新人二人はベッド上でも優秀ってか?」
ヒルダは厭味ったらしく下品な揶揄をして舌なめずりしていると、サリアの表情が激昂に染まった。眼にも止まらぬ速さでアサルトナイフを引き抜き構えた。リオスも若干下品な揶揄にキレかかるが、サリアの行動で怒りが鎮まった。
「上官侮辱罪よ!」
「―――だったら?」
さらりと下品な揶揄を喰らって怒りかけた人間の言う事では無かったが幾らなんでも怒りすぎではないかとリオスは思ったのだが、そんな事を考えている場合では無かった。ヒルダも拳銃を引き抜いてサリアに銃口を向けた。勿論、ロックは解除しており、何時でも撃てる状態である。
「これ以上、アンジュに手を出す事は許さない」
「ゴミ虫みたいに見下されて、まだ庇うというのかい?」
「……これは命令よ」
価値観の違いか。ノーマが人間では無い等と言われてもリオスにはピンと来なかった。それ故にアンジュを庇う。そしてヒルダたちから敵意を買う。
自分はどうすれば良かったのかと今更ながらリオスは考えた。フレンドリーファイアを放っておくのかと問われれば、迷わず首を横に振る。だが、その行為は敵意を買っている。見て見ぬふりをする事が正解だったのか。それとも彼女らの邪魔をし続ける事が正解なのか。その答えは幾ら考えても見つからなかった。
だが少なくとも、こんな所で同士討ちして血を見るのは間違いではある。だが、どう割って入ればいいのか思いつかず、迷っている内にヒルダが先に矛を収めた。
「フン……分かったよ隊長サン。二人とも行くよ」
ヒルダはそう言い教室を去ると、ロザリーとクリスも後に続くようにこの場から去って行った。張り詰めた空気が一気に緩み、サリアは3人の姿が無くなると溜息を吐いた。
一方でリオスは、自分の頭を掻いて己の足りない頭に嫌悪していた。
/
いざこざから数時間後。リオスは腹が減ったので昼食を取るべく食堂に向かう事にした。視線が集中するのでさっさと食べて去ってしまおうと思いながら、カウンターにて食券と交換で受け取る。
今日はカレーのようだ。カレーは軍人の間ではよく楽しみとされており、艦内での食事は素材は質素ながらも味は美味しく仕上がっている。それ故にカレーの味には五月蠅いつもりである。
実際、旨かった。「うまいぞー」と某味っ子の如く絶叫するのは流石に大袈裟だが、この食堂でこれまでに食べて来たものよりは圧倒的なおいしさだった。具の煮込み具合も絶妙である。この、カレーにしては良いのど越しは恐らくヨーグルトを使っている。
……と、まぁ某味っ子の如く脳内で解説しながら食が進む進む。
「どうだーっ旨いだろーっ」
食に集中していると、リオスの席の向かいにヴィヴィアンがやって来た。
「おうヴィヴィアンか。旨いな今回」
「だろーね。今日の当番はエルシャだからね。ラッキーさん!」
満面の笑みでそう云うと、厨房でカレーを煮込んでいたピンク色のウェーブ掛ったロングの女性……エルシャに向けてサムズアップした。エルシャはヴィヴィアンに気付いて振り向くと手を振って返事した。それにつられるようにリオスは「どうも」と頭を下げた。
「エルシャのカレーは超うまカレー! いっただっきまーす!」
随分と元気な事である。ヴィヴィアンは空気の読めない発言をかます事多々あるが、悪い人間では無いし、それに元気な事は非常に良い事だ。陰鬱としていると周囲も参ってしまう。
ヴィヴィアンの元気さは此方も見習わねばならないとは思う。帰れない事を嘆いても何も始まらないのだから。
「うぅん! うまいぞー!」
「おう、うまいぞー」
某味っ子の如く叫ぶヴィヴィアンに苦笑しながら小さな声で返しつつリオスはカレーをスプーンで掬ってもう一口。……と、ヴィヴィアンが持って居たスプーンを突然皿に置いて服のポケットに手を突っ込んだ。
ヴィヴィアンがポケットの中から取り出したのは舌をべろんと出した継ぎ接ぎの熊の人形のキーホルダーだった。それが三つも有り、シュールさを醸し出している。
キモ可愛い系、という奴だろうか。一時期リオスが居た地球の女性の間で人気だったジャンルだ。
「さぁ、ここでクイズです。これは一体なんでしょう?」
「……ツギハギグマ?」
ヴィヴィアンはどうも人にクイズを出すのが趣味らしく相手問わずしょっちゅう質問してくる。ヒルダと喧嘩してイライラしている時にされると非常に不愉快ではあるが、こういう退屈した時は案外悪くないものである。
この世界のキャラクターの名前なんて知る訳も無かったのでリオスは適当に名前を言って答えた。だが、案の定ヴィヴィアンは「ブッブー」と言ってそれは間違いであると返した。
「正解は、ペロリーナ! これあげる」
掠ってすらいなかった。まぁ当然の結果ではあるが、それなりに自信のあるネーミングだった為に謎の悔しさを覚えながら差し出されたキーホルダーを受け取ってまじまじとチェーンに繋がれぶら下がっているペロリーナとやらを眺めた。
キモ可愛い系が余り心に響く人間では無かったが、それなりに親しくなった人から物を貰うというのは良いものだ。少なくとも嫌われていないという事を実感できる。
「これからも一緒によろしくがんばろー!」
「ン? が、がんばろー?」
ヴィヴィアンのハイテンションさと考えは時として付いていけない。何故今そのようなものを渡したのか? その答えを知るのはこの後、アンジュが現れてからだった。
アンジュが二人とは少し離れた片隅の席に着いたのを見かけたヴィヴィアンは、アンジュの席に向かって食べ残しの昼食とリオスを置いたままキーホルダーを持って走って行った。
行儀が悪いよと彼女を咎めようとしたものの、ヴィヴィアンの動きは迅速だった。
アンジュにも配るつもりだろうか。全員が仲良くなれば良いというヴィヴィアンの考えなのかもしれないと考えたリオスは心の中でヴィヴィアンを応援した。こういうのは悪くない。寧ろもっとやってしまえばいい。出来るかどうか分からないけれど。
クイズをアンジュに出題しているようだ。アンジュはヴィヴィアンの突然の登場に呆気に取られていたのだが、ヴィヴィアンの話を聞いているとどんどんその顔を顰めさせて―――差し出されたキーホルダーをはたき落とした。
流石にリオスも周囲の少女たちも唖然として、どよめき始める。
「言ったでしょう。一人で大丈夫って……」
そう言ってアンジュは瞬く間にカレーを平らげると、立ち上がってお盆を返して食堂の出口へ向かって歩き出した。そしてリオスの横を通りがかる時―――
「貴方もシエナも、余計なお節介はうっとおしいだけよ。私は一人で充分よ」
この一匹狼ぶりは一体誰に似たのやら。妙な既視感を覚えながらリオスは後頭部を掻きながら一体誰だったかを思い出しながら茫然とするヴィヴィアンと共に去りゆくアンジュの背中を見送った。
もう呆れのあまり怒る気もしなくなったのだ。
/
それから数日経った後、警報は早朝に突然として鳴り響いた。
自室にてグースカ眠っていた条件反射の如く叩き起こされたリオスは、ライダースーツが必要なくなった為に漂流の際に着ていたライダースーツに着替えて部屋から飛び出した。因みにライダースーツの借金はとっくの昔に返している。
「待っていたわ。早く機体に!」
第9番格納庫に入ると整備員の少女に背中を押され、リオスはナインボール=セラフのコックピットに乗り込んで、出撃準備と計器の状況を確認してから、リオスは口を開いた。
「行けるかH-1」
リオスの問いにいつもの様にH-1は無機質に答えた。
AIを積んでいるレイズナーのパイロットの気分である。あちらも対話型コンピューターを積んでいた筈だ。まぁセラフはV-MAXは積んでい無さそうなため、期待はしていないが。
『メインシステム起動。出撃準備には入っている』
「ならば出られるな!」
『問題は無い』
クレーンに固定された飛行形態のナインボール=セラフが、真下の海の中に降ろされて行く。そして海に機体が浸かり前方にある海中のハッチが開かれ、クレーンのアームが機体から離れ、海中カタパルトに接続されると、オペレーターから通信が入った。
「リオス機発進準備完了、どうぞ!」
握っていた操縦桿を改めて握り直し、息を大きく吸い込んで意を決して口を開いた。
「サリア隊のナインボール=セラフ、出ます!」
動きだしたカタパルトに押されて基地から外へとナインボール=セラフが放たれると、そのまま海の上に浮上させる。
すると、真上にはサリア隊が編隊を組んで飛行していたのが目に入った。だが中心に居るサリア機が何時も乗っているアーキバスと違う形状をしていた。コックピットは他パラメイルとは違って閉鎖されているので外から中身は見えない。機体から衝撃で投げ出される心配は無いだろう。これは一体何なのだろうか?
「あの機体は一体……」
『ゲシュペンスト・タイプPMだ。お前は以前にみた筈だ』
リオスの疑問は直ぐにH-1が答えてくれた。まぁ、既にデータを持って居たし当然なのだが。知っている限りではゲシュペンストは変形するタイプの機体では無かったので、流石に判別はし辛いものである。
サリアは試作機に機体を乗換でもしたようだ。
リオス機は編隊の中に入り、反応が有った場所へと第一中隊は赴く。そしてサリアの警告と同時に、ドラゴンが湧いてくる門が開いた。
そしてそこからドラゴンが顔を見せたと同時にサリアの合図に従って全機は敵機を減らすために一斉射撃を放った。リオス機はチェーンガンを、サリア機はスプリットミサイルを、砲兵は大砲を放ち、砲を持たぬ者はアサルトライフルの弾丸をドラゴンに放つ。
それでも爆炎を突っ切ってドラゴンは第一中隊に向かって飛来するのだが、そんな中アンジュのヴィルキスは―――隊列から外れて突出した。
「アンジュ! 勝手に突っ込むな!」
サリアの制止を振り切り、アサルトライフルを発砲しながら突っ込むヴィルキス。またかとリオスとシエナ、ミランダは溜息を吐いた。
一人の身勝手な行動が、時として部隊を全滅させる事も有り得ると嘗て誰かが言った。嘗てその言葉を聞いたリオスには前科が無いと言う訳では無いのだが、この言葉は今は大事にしているつもりだ。……と言うか実際初陣で瓦解寸前にまで追い込まれたでは無いか。
今は彼女の圧倒的戦闘力で一切犠牲が出ていないのではあるのだが……
ある程度先行したアンジュ機は本格的に殲滅に入ろうとすべく機体を飛行形態から戦闘機形態へと変えようとしたその時―――不穏な爆音がした。
一体何事だとリオスはアンジュ機を目を凝らしてみた。機体から煙が吹いている。まさか被弾したとでも言うのか? あのアンジュがこんな早くにか?
「メインブースターがいかれた? 違う、これは……」
混乱するリオスたちを他所にアンジュは己の機体の異変に混乱しつつ、機体の状況を確認する。どうやら排熱フィンが壊れているようだ。整備不良とでも言うのか、これは。
ちゃんと整備しろと悪態を付きながら機体を安定させようと操縦桿を動かす。駄目だ、機首が上がらない。無理矢理変形させるべきか。
落ちるヴィルキスの横をヒルダ機が通りがかる。
「助けてやろうか?」
厭味ったらしく言うヒルダにアンジュは舌打ちした。ここで彼女に助けを求めたならば弱みを造ってしまう事になる。それだけは避けたいし、こんな奴に助けられる程自分は落ちぶれても居ないというアンジュなりのプライドがあった。
「失せろ、ゴキブリがッ! 溺死しろ!」
アンジュは力一杯に悪態を付いてからヴィルキスを変形させて、高度を維持しようと試みたその時、背後から衝撃が奔った。……ドラゴンか!
襲って来た小型ドラゴンと取っ組み合いをしている内に機体の高度はどんどん落ちていく。振りほどく事は叶わない。
「パワーも落ちている!?」
機体の足が海面に浸かったのを皮切りに、あっという間に機体の下半身が完全に浸かってしまった。コックピットの気密はいい加減で、水がどんどん中に入って行く。完全にアンジュを海水が呑み込んでしまうのは時間の問題だった。
―――こんな、所で……!
空気が完全になくなって小型ドラゴン共々水没しながらアンジュは無念の想いに駆られながら意識を手放した。
/
「ヴィルキス!」
ヴィルキスが水没しているのを見て助け出そうとサリアは思ったのだが、状況がそれを許さなかった。大型ドラゴンが門から現れ、小型ドラゴンが暴れまわる。そんな状況下で自分だけが勝手に動けば部隊は壊滅してしまう。
サリアは意を決してゲシュペンストPMを人型形態に変形させた。
「見せてやるわ……ゲシュペンストの性能というものを!」
そして早急に終わらせてヴィルキスだけは回収せねばならない。サリアは操縦桿を握って、自分用に用意した武装、メガビーム・ライフルの銃口を手近な場所に居るドラゴンに向けた。
「チィッ!」
一方でリオスも水没するアンジュを見ているしか出来なかった。助けに向かおうとしてもドラゴンが邪魔をする。一番近くに居たヒルダ機は助けに向かえたはずなのだが、彼女はドラゴン掃討を優先してしまっていた。
この状況に舌打ちせずには居られない。だが、今はドラゴン掃討を優先せねばこちらがやられてしまうだろう。こちらにはヴィルキスというアドバンテージを失ったのだ。
リオスはナインボール=セラフにレーザーブレードを発現させて、襲って来た小型ドラゴンを一刀両断のもとに切り捨てながら、次のターゲットを探した。
一刻も早くアンジュを助ける為に。どんな奴であろうとも仲間で有る事には変わりは無いのだから。
ペロリーナがカレー臭くない
ナインボール=セラフが別の場所から出撃していますが、これは若干パラメイルよりでかいのと規格が違うが故の弊害です。クラップ級の戦艦なら楽々入りますが……
まぁ、個人的な趣味も入ってます。