クロスアンジュ イレギュラーと熾天使の輪舞 作:ヌオー来訪者
関係ない話だけれどFreQuencyの曲に今更ながら嵌ってしまった。
STARDUSTやCosmos new versionとか非常に良い。DayAfterDayは無駄にテンションが上がって仕方ない。
今回はお待たせした為約2倍の文字数でお送り致します。
アンジュの侍女であったモモカはアンジュ矯正のために張り切ったが故に奇行は安定して行われた。
その悪意無き奇行の、巻き添えを喰らいまくったサリアは食堂でよく比較的親しい部類に入るヴィヴィアンにシエナやエルシャとリオスに愚痴っていた。
彼女は随分と荒れているようでその荒れっぷりは何時もの優等生っぽいキャラクターは消し飛んでいた。
「やってられるかァ、あのこん畜生めー!」
「……ねぇエルシャ、サリアどんだけお酒飲んでんの?」
「……ウイスキーボトル半分くらいだと思うわ」
荒れるサリアを尻目にシエナはエルシャに問うが、その量に溜息を吐かずには居られなかった。
―――うわー……重症だこれ……
シエナは顔を引き攣らせながら、サリアの愚痴を聞き流していた。サリアの立場と生真面目な性格上ストレスを受け流すすべを持って居ない。ならばせめて愚痴ぐらいきいてやろうと言う理由でお酒を勧めて愚痴に付き合ったのだがそれが想定以上に長くて非常に疲れた。……まぁ今は居ないゾーラにセクハラ喰らうよりは3倍くらいマシだが。
ゾーラは隊長としては有能だし面倒見は良かったのだが、手が早いわセクハラするわとそこで色々台無しにしていた感があったなと感傷に耽っていると、サリアが鬼のような形相でシエナを睨んでいた。
「シエナ、アンタ。ちょっと聞いてる?」
「き、聴いてるよ勿論~……」
愛想笑い。シエナの顔は引き攣り切っていた。
「全く皇女の分際でよくもまぁあんなにコマンドーの如く銃をぶっ放すキャラに変わって……筋肉ゴリラになる才能があったんじゃないかしら全く! そうよ! あいつは筋肉よ!
サリアの愚痴は再開され、聴いていたヴィヴィアンは何故か楽しそうに、リオスとシエナはうんざりしたような表情で、そしてエルシャは困ったような表情で彼女の愚痴を聞いていた。夕方から始まったサリアの愚痴大会だが、もう既に月は一番高い所をすでに通り越して沈み行こうとしている。まだ続くのだろうと思ったリオスはがっくりと机に突っ伏した。―――僕はもう疲れたよパトラッシュ。
「リオス、アンタ寝てるんじゃないわよ!」
「うるさいわねもう寝させなさいよ! 寝不足はお肌の敵なのよ!」
耐えかねたリオスは立ち上がり何故かオネエ染みた言い回しで怒鳴り、サリアも対抗して立ち上がる。そして両者が衝突しかけたその時だった―――
『第一次遭遇警報発令』
/
アンジュは出撃前にアンジュはジルから通達を受けた。明日の夜明けにモモカを迎えに輸送機が到着するのだそうだ。
だが、これだけで済むとはアンジュには到底思えなかった。それに偶然耳にしたヒルダたちの話もある。
実際情報源があのヒルダなので信用するのは癪だったが、モモカは機密保持の為に殺されるのだと言う。まぁ有り得ない話では無い。外部にはアルゼナルの事なんて知らされていないのだから。なぜ知らされていないのか理解に苦しむがそうなっているのだから仕方ない。
最初、モモカを疎ましく思っていた。漸くこの世界に慣れ、自分の居場所を確保出来た所で引き戻そうとしてくる煩わしい邪魔者。けれど、考えてみれば彼女は何も知らないだけなのだ。それに昔からずっと慕ってくれたという事実は消せない。
そのモモカが死ぬ。ヒルダたちの話を耳にしたアンジュはそんな事をふと考えると気分が悪くなった。
せめて、生きて何処かで静かに暮らして欲しい。帰る場所が無くたって生きていれば何とかなる。そう思い立ったアンジュはモモカに迎えが来る前に逃げるように言った。
……だが、モモカは頑なとして離れなかった。
馬鹿だ。大馬鹿だ。
離れない理由が一秒でも長く自分の傍に居たい?
馬鹿だ。救いようのない程に……馬鹿だ。
「ばかっ……!」
アンジュはヴィルキスに乗り、現場に向かいながら務めて吐き捨てるように口にするも、上手くは出来なかった……
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今回の戦闘は大した事は無かったのだが、アンジュが何時も以上の戦果を挙げていた。ロザリーの機体を蹴り飛ばし、クリスに邪魔だと詰ったりと相変わらずやりたい放題。その上リオスが狩る事が出来たドラゴンは小型2体だけとしけた結果で、他は一匹も狩れていないという大惨事。他はアンジュが総て狩ってしまった。
そして当然の如く……
「とんだ命令違反をした挙句ドラゴンを殆ど狩るなんて……!」
サリアは憤慨していた。隊長たる身としてはアンジュの自分勝手は許せないのだろう。まぁリオスとしても今日は切り詰めなければならないかと思いつつ少々げんなりしていた。しかも更に信じられない事が起こった。アンジュが大金を出してモモカを―――
買ったのである。
サリアは自分の胃が痛くなるような感覚を覚え、リオスの言う通り久しぶりに趣味に走った方が良いのかも知れないと、ふと、思い立った。
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隊長日誌:3月3日
ドラゴン出現。我が隊に出撃命令が下される。アンジュ、またも命令無視し独断専行。単騎にて目標を撃破。
アンジュ以外の隊員の収支報告書は連日赤字かぎりぎり黒字という異例の状態に陥る。叱責するもアンジュは悪びれず反省の色なし。規律の順守と命令の徹底。それが出来ぬのならばアンジュをヴィルキスから下ろす事も検討せざるを得ない。以上、記録終了。
備考:リオスとヒルダたちとの喧嘩は相変わらず行われており、罵り罵られの応酬を繰り返している。アンジュ程険悪ではないようだが、こちらも考慮に入れるべきか。
死亡者、ゼロ。
「はぁ」
アンジュのモモカ買収騒動から数日後、ノートパソコンに打ち込み終えたサリアは疲れ切ったか大きく溜息を吐き、掛けていた眼鏡を外した。基本的に、毎日隊長日誌をこうしてノートパソコンに記している訳だが、ログを見れば見るほど頭が痛くなりそうである。
殆どアンジュが戦闘で好き放題やっている事か、アンジュとリオスとヒルダの喧嘩ばかりだった……
だが、悪いニュースばかりでは無い。
タスクが生きていたのだ。彼はヴィルキスの騎士であり、この世界と戦う者の一人だった。死んだと思われたものだがどうやら身を隠していたらしく、アンジュが水没して漂流した際に助け出したのはタスクなのだと言う。アンジュが男の人と二人っきりだったという事に驚きも隠せず、若干いけない妄想もしかけたがそんな事はどうだっていい。重要な事じゃない。
タスクは潜伏中にて正体不明の大型パラメイルを回収したのだという。機体の名前は『クラウドブレイカー』。漂流した時のリオスが尋問の時、さっきまで乗っていたと豪語する知らない機体と名前が一緒だった。
「リオス……あの男は一体何者なの」
謎の手がかりが一つ得られたとは言え、謎が深まった。あの男に妄想癖がある訳では無いと実証された今、リオスから詳しい話を聞く必要があろう。だが、ジルには慎重にするようにと言われた。さて、どうしたものか。
だが、アンジュの行動を放っておく訳にも行かない。あぁ、胃が痛くなってきた。
/
リオスはヤケクソになっていた。モモカ買収事件から3回程戦闘があったのだが殆どアンジュが手柄を独占してしまったので、超高性能機体に乗っているリオスの収支報告書も赤字寸前。というか前回の戦闘では収入は0だった。
そんなものだから、まだ貯えは充分にあるとは言え飯を食う事も正直避けたい所だったが、生憎人間というのは飯を食わねば死んでしまう悲しい生き物で、昼、食堂に何時ものメンバーが集まって一番安い定食を注文して昼食を取っていた。
そしてふと通帳を見る事で、リオスは精神に大きなダメージをうけて完全にヤケクソになって歌い始めた。
「お~れの~収支報告書は~ボーローボーローだぁ~」
「歌わないで下手糞」
サリアの口から辛辣な感想が出て、リオスは押し黙った。随分とカリカリしているものである。まぁアンジュの行動と自分の行動が招いているものというのは分かってはいるのだが。
「ありえないわ、人間がノーマの使用人になるなんて! いいこと? ノーマは反社会的で無教養で不潔で、マナが使えない文明社会の不良品なのよ!?」
突如、エマ監察官はモモカの行動を叱責するような声がこの食堂に響き、リオスたちの耳にも入った。どうやら人間のモモカがノーマであるアンジュの使用人として働いているのが納得いかないらしい。
いい加減諦めればいいのに飽きない事だ。この叱責は今に始まった事では無く、モモカがここに来たばかりの時から叱責してばかりである。しかしまぁ、ノーマに対してよくもまぁ好き放題言う物である。そんなにマナとやらが万能ならば使ってみたいともリオスは思う。
だが、エマの叱責にはモモカは一切激昂せずアンジュに仕える事が「幸せ」だと何の臆面もなく言い切った。強い人だと、リオスは思う。モモカの強さも見習って自分も貧困に打ち勝とうと決意……しようと思ったがそこまでリオスは聖人君子でも仙人でも無く、貧困と闘うのはやめた。
アンジュがドラゴンを他者から横取りしてまで優先して狩るようになったのはモモカの生活費も取らなければならないと思ったのかも知れない。……やり方は碌でもないが、そう思う事で自分を納得させた。
麗しい主従愛を見ていると、エルシャが大きく溜息を吐いた。手には通帳があり、中身は見えなかったが表情からして少ないのであろう。
「ん、エルシャさん? どうしたんすか」
「ちょっとね……リオス君。フェスタって知ってるかしら?」
フェスタとは何なのか。新参であるリオスは知らなくて首を横に振った。すると、一緒にご飯を食べていたミランダが楽しげに口を開いた。
「フェスタって言うのはですね……マーメイドフェスタの略でして、年に一度あるアルゼナルの公休日なんです。私たち兵士は全ての訓練はお休みで、基地の区画に設けられた簡易的な遊園地や映画館、賭博場で遊んだり、露店でリンゴ飴とか買い食いも出来るんですよ!」
「おぉ、まじか」
説明を受けて心が高揚するような感じがした。暇な時間は多少あれど、毎日訓練をさせられる身としては休みぐらい欲しいものだった。年に一度とは非常に少ないがそれでも喜ぶには充分なものだった。
「それで幼年部の子供たちに色々用意してあげたいんだけどね……」
エルシャがそう言うとリオスは察したように一人で(モモカはいるが)昼食を取るアンジュを見た。アンジュが手柄を横取りしている所為なのには間違いないだろう。どうやらアンジュに対する態度が柔らかいエルシャでも明確な被害を受けているようだ。
「あ、一つだけルールがあります」
「ん?」
ミランダが思い出したように声を上げると、続けた。
「伝統として、この日は1日中水着着用が義務付けられているんです」
「そ れ を 早 く 言 っ て く れ よ」
リオスは焦るに焦った。外の世界からの注文でどうにかなるか微妙だし、ジャスミンモールに売っているか怪しいがそれに賭けるしかあるまい。
そんなノーテンキなリオスを他所に神妙な顔でアンジュを遠目で見ていたサリアは呟いた。
「このままじゃ色々拙いわね。早くアンジュを何とかしないと……」
「どう何とかするってんだい?」
サリアの呟きに茶々入れるようにしてヒルダとその取り巻きたちがサリアたちの眼前に現れた。
「どんな罰だろうと金で何とかするだろうね。あのクソ成金姫。というかそれ以前に聞きやしないさ」
ヒルダは吐き捨てるように言い放つ。まぁ間違った事は言っていないだろうとリオスは思うがやはりこの3人が気に食わなかった。
「で? なんだよ」
リオスは敵愾心剥き出しで問うとヒルダが余裕そうに、そして嘲笑うかのように返した。
「舐められてるんだよ。現隊長サンはさ。ゾーラが隊長やってた時は有り得なかったよ? 隊長、変わってあげようか?」
それに同調するように後ろの腰巾着ことロザリーとクリスが得意げにうんうんと頷く。全く持ってブレない連中である。このアバズレ女めとか怒鳴れたらどれだけ爽快か。人を精神病患者などと呼んでいるから自分もそれぐらいの事を言ってもいいのではとリオスは思いかけるが、態々同じ所まで堕ちてやる理由も無いのでとりやめた。
ヒルダとリオスが睨み合っていると、サリアはいつの間にかこの場から去っていた事に気付き、二人のバトルはあやふやに終わり、ヒルダたちも踵をかえして何処かに行ってしまう。その後ろ姿を見送るシエナとミランダ、エルシャはあんまりな状況に溜息を吐き、ヴィヴィアンは相変わらずすっとぼけた顔をしていた。
/
サリアは己の心を鎮めるべく深呼吸しながら、ジャスミンモールに向かって歩いていた。全く持ってどいつもこいつも好き勝手言う物である。自分は好きで隊長をやっている訳では無く、ジルの期待に応えたいからやっているだけなのに。
モールに辿り着くと、店主のジャスミンにクレジットを投げ渡して言った。
「いつもの」
「一番奥の試着室使いな」
「愛の光を集めて、ぎゅっ! 恋のパワーでハートをキュン! 美少女聖騎士プリティ・サリアン、貴方の隣に突撃よ!」
確かに、リオスの言う通り精神的メンテナンスと言う名の趣味に走るというものも悪くない。シュミレーター上のドラゴンをジェットマグナムでタコ殴りにするより効率の良いストレス解消にもなろう。
まぁ、リオスたちに見せられたものでは無いが。
「シャイニング・ラブエナジーで、私を大好きになーれっ!」
試着室内で魔法少女もののコスチュームを纏い、玩具のステッキを振るい決めポーズを取る。こうする事で今のストレスをため込んだ残念な隊長から離れられるような、そんな気がする。満足感で頬が緩んでいると、背後の試着室のカーテンが開く音がした。
まるで錆びついたロボットのようなカクカクとした動きで背後に顔を向ける。そこには眼が点になっている青年、リオスが居た。流石にそれには絶句せずには居られない。ジャスミンは一体何をしていた!?
色々言いたい事は沢山あったが、唖然としたまま両者の動きがフリーズしたPCの如く動かない。そして―――
「何時まで同じ所に突っ立ってんのよ? 邪魔よ」
一番知られたくない人間の声がサリアの耳に入った。
/
流石に水着発注には時間が掛るようでフェスタには間に合わないようだった。ジル曰く特例として普通の服での出場も許すとの事だが、それではリオスの気が済まなかったのでその場にそれなりにあった服装で挑もうという事になった。まぁリゾート地に合いそうなアロハシャツとかそういうものだ。それらを数着持って試着室に向かったのは良いのだが、ジャスミンが指定した試着室には既に先客がいた。
フリフリの魔法少女風の衣装を纏い、どや顔でステッキを振るうサリアの姿を試着室のカーテンを開いた瞬間に見せられたものだからリオスの思考は停止。フリーズしたPCのように動かなくなった。
―――あの生真面目な娘がどうしてこうなった。
何かの間違いではないかと思い、彼女を凝視するがそれは紛れも無くサリアだった。サリアもリオスに気付いたか、引き攣った顔でリオスを見る。
フリーズした両者だが、その静寂を破るようにアンジュの面倒そうな声が二人の耳に入った。
「どいてくれる? 入り口で突っ立ってられると通れないんだけど」
試着室ブースは非常に狭い。通路で人一人が立っていると通り抜ける事は困難であり、今のリオスの立ち位置は迷惑でしかない。アンジュは一体何に驚いているのやらと、リオスの前にある試着室の中を見ると―――何事も無かったかのような表情で見るのをやめてリオスを突き飛ばし、空いた通路を通りモモカと服を選び始めた。
どうやら、モモカに新しい服を買いに行ってやっている真っ最中だったようだ。
リオスに一番奥の試着室に行けと言い、自分のミスに後で気付いたジャスミンは遅れてこの惨状のもとに現れたが、時すでに遅し。ジャスミンは「やってしまった」と額に手を当て俯いた。
「あ……あぁ……」
見られた。見られてしまった。我に返ったサリアはカーテンを閃光の如く速さで閉じてしゃがんで頭を抱えた。よりにもよって面倒な連中に知られてしまった。リオスはうっかり口を滑らせそうだし、アンジュだって何をしでかすか分からない。
もし皆に知られたら隊内、いや、アルゼナル内での笑いものにされてしまう。第一中隊の隊長にそんな趣味があったとはと嘲笑するヒルダたち、そして呆れるジルの姿が脳裏に過る。
「これは……面倒な事に……なった」
もうこれは手段を択んではいられない。強硬策を取る事も辞さない。サリアの心の中にはある決心が出来ていた。
―――だったら 殺 し て で も 黙 ら せ れ ば い い じ ゃ な い
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衝撃的な出来事があったが、忘れようと思った。リオスの中では何も無かった、見なかった事にした。アレは黒歴史ものだ。中学生時代に描いた痛いノートと同じくらいに。そんなもの月の蝶に封印されてしまえばいい。
そんなことより、外の世界について知る人間がやって来たのでこれを機にリオスはモモカから休憩所にて話を聞く事にした。
マナによって形成される社会とはどういうものなのか。そもそもマナって何なのか?
話程度ならばモモカも快諾してくれたし、引き換えとしてだが、自分の居た世界の話をした。それを信じるかどうかは本人に任せるという形だが、モモカにとっては新鮮なものらしい。
「つまり、マナって言うのは物を浮かすだけでは無く、通信手段やエネルギーも兼ねていたりするのか」
「そうです。そして通貨の話になるんですが―――」
モモカの話しは、アンジュと一緒に受けた授業で習った表面的なものより詳しく、細かく補足説明もあって分かりやすかった。流石筆頭侍女と名乗るだけはある、アンジュの家庭教師もやっていたのだろうか? だが、その話に挟まれるノーマという存在に対する排斥と差別の事にリオスは顔を顰めた。
これについては嫌という程アンジュの口から体現するような言葉を聞いてきたので知っているのだが、人はちょっとやそっとのものでは変わらないようだ。
世界がニュータイプで溢れたならば、ニュータイプはオールドタイプを侮蔑し、差別するのだろうか? その疑問はこの話を聞いた事で直ぐに出た。確実にするだろう、と。
だがこのような重苦しい話だけでは無く、エアリアなるスポーツは非常に興味深いものだった。ラクロスに似たスポーツだが、違いとしては選手はマナで動かす乗り物に乗ってフィールドを駆け抜けるようだ。それにアンジュも参加していたらしい。
「じゃぁ、俺の番だな」
ひとしきり話した後、リオスは自分の世界について語ろうとしたが、アンジュの横槍によって中断させられた。
「モモカ。風呂行くわよ」
「はい! それではまた今度お聞かせ下さい」
モモカに丁寧に一礼されると、リオスも恐縮して礼を返した。第一印象は最悪だったが、悪い人間ではない事は分かったし、話してみれば中々丁寧で好感が持てる人だった。
さて、自分は自室に戻ろうとモモカとリオスは休憩所の席を立ち其々の向かう先まで歩を進めようとすると、サリアがリオスとアンジュのもとに向かって歩いてきた。
リオスはサリアを見た瞬間、あのコスプレ姿を思い出してしまい思わず目を背ける。あの出来事の後じゃ何時もの姿でも直視出来たものじゃない。だが、再度見ずには居られない状況に直ぐになった。
「殺すッ!」
サリアは突如アサルトナイフを抜刀し、リオスに向かって斬りかかったのだ。
「何っ!?」
振るわれるナイフはぎりぎり、上半身を逸らす事で回避したがもう少しで顔に大きな傷が付くところだった。サリアのターゲットはリオスだけでは無い。アンジュにも向きナイフを振るうが、アンジュもまたひらりと回避した。
「何だよ!? 何しに来たんだよ!?」
「見られた以上……殺すしかないじゃない!」
「わけがわからないよ!? そんな事言ってどうするのさ!」
リオスは殺される事に納得がいかず叫ぶものの、サリアの返答は素っ頓狂でトチ狂ったものだった。
「アンジュ! にっ、逃げるぞ!」
「こちらも武器で対処すれば―――」
「よせ! 問題起こしたらヴィルキス取り上げられっぞ!」
リオスたちは強引にアンジュの反撃をやめさせて脱兎のごとくこの場から逃げ出した。だがサリアは鬼の形相でナイフを以て追って来る。この感覚はジャブローをネオ・ジオンに爆破される寸前に脱出した時とコロニーレーザー防衛後の脱出、廃棄コロニーでの特攻戦艦の回避以来だ。
人生に二度とない体験だったのだが、あんなスリル二度と味わいたくないと思っていたの。それに似た思いをまた味わう事になるのか。
地味にサリアの足が速いのがまた、恐怖である。
いつの間にかモモカと逸れてしまい、アンジュとリオスだけで外の以前リオスが流れ着いた砂浜に出て、サリアに追い詰められてしまっていた。
「全く……誰にも言って無いし、言う相手居ないし、アンタがどういう趣味していようとどうでも良いし私には関係ないんだけれど?」
アンジュは面倒臭そうに言い放つが、それがサリアの逆鱗に触れたようで鬼のような形相が更に悪化して眉間に皺が増え、ナイフでアンジュに斬りかかる。
逃げ場を失ったアンジュはナイフを抜刀して応戦し、両者は鍔迫り合いの状態に持ち込んだ。
「関係ないですって……こっちはアンタに迷惑かけられているのに関係が無いですって!? 私たちはチームなの! なのにアンタ一人が好き勝手にやって……」
「水に下剤入れたり、フレンドリーファイアやらかす連中が居るってのに何がチームよ!」
アンジュの叫びと共に切り上げられるナイフがサリアの持つナイフを吹っ飛ばした。サリアのナイフは宙でくるくると回転しながら地面に落下して突き刺さり、アンジュはナイフの切っ先をサリアに向けて、サリアは咄嗟に銃を引き抜いてアンジュに向けた。
「連中を止めないって事は貴女もそしてあんたも私に落ちて欲しいって事なんでしょう!? 貴方たちの殺されるのは真っ平御免被るわ」
アンジュの言葉の矛先は二人の決闘に割り込めなかったリオスにも向いていた。
その言葉が、やけにリオスの脳裏に反射する。自分の立ち位置がはっきりしないという事実を改めて突き付けられたからか。自分はアンジュの味方であるのか、それとも―――
「勝手な事を言う!」
サリアは吠えて、銃でアンジュのナイフを弾き飛ばすと、負けじとアンジュはサリアに掴み掛り、海へと入って行く。両者とも不満をぶつけ合い、殴り合いが始まった。
水に浸かったのでアンジュの持って居る銃はもう使い物に成らない。
「あーもういい加減にしろ!」
泥仕合になる事は間違いないと思ったリオスは二人のもとに走り出した。今回はどっちの味方もしないと決めた。武器を使った以上喧嘩両成敗だ。
だがまぁ結局リオス如きではアンジュとサリアという凶悪な連中を止められる訳では無く―――
モモカが呼んだシエナをはじめとした仲間たちによって漸く二人は取り押さえられた。最終的に誰が報告したのか、ジルたち上層部に知られてアンジュとサリアは勿論、リオスまで反省文を長々と書かされる事を課せられる事となる。
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翌日。アンジュが風邪を引き、アンジュ抜きで第一中隊の訓練を受ける事となった。
結果は滞り無く訓練は進行。多少リオスとヒルダの間に確執はあったものの、見境が無いわけでは無かったので、恐らくアンジュがこの隊の規律が荒れる原因だったのだろう。アンジュがやって来る以前の規律に戻りつつあり、アンジュが戻って来てもこの状態を維持したいものだとサリアは思いつつ、サリアはリオスを通路で見かけたので声を掛けた。アンジュは言う相手が居ないのでべつに良いとして後は親しい人間が多少居るリオスだけが懸念事項であった。
「リオス、少し良いかしら?」
「ン? あぁ、サリア隊長か」
非常にすっとぼけたような表情。それ故にサリアからしたらリオスが余計に不審に見えて仕方が無かった。
「あの事なんだけれど―――言っていないわね?」
「言ってませんがな……」
言っていたら本気で射殺してやろうかとサリアは思ったのだが、どうやら言っていないようだった。
「これからもあの件は内密にして頂戴」
念押しするように言うと、少しリオスは考える素振りをみせてから口を開いた。
「一つ、頼みがある」
「……何」
相手は男だ。どうせ私を手籠めにでもするつもりだろう。
……とまぁ内容によっては銃で眉間を撃ち貫いてやろうかとサリアは再び思ったものの、返って来た答えは意外なものだった。
「あの買おうとしてるあの刀。買ったら偶にで良いから貸してくれ頼む!」
「…………は?」
拍子抜けだった。サリアはポカンとした後、力なく「偶にで良いならば別に構わない」と言った事で手打ちとなった。拍子抜けだ。本当に。サリアはほっと安堵した。あれで済むならばお安い御用である。まぁ少しそういう対象に男にはされていないという事実に女としてのプライドが若干傷付かなかった訳では無い。
その後、サリアはヴィルキスの様子を見に行っていた。
隊長としての仕事だけでなく、リベルタスの準備もしなくてはならないのが辛い所。リベルタスの要となるのがヴィルキスなので時々見に来なければならないし、何よりあの機体は―――
「メイ、ご苦労様。ヴィルキスはどう?」
格納庫でメイがヴィルキスの整備をしている所を見つけて、声を掛けるとメイは顔を上げて笑顔で答えた。
「アンジュが使うと直ぐにボロボロになって大変」
大事な機体を乱雑に使うとは。益々アンジュをヴィルキスから降ろしてやりたくなったがメイが言葉を続けた。
「まぁ、仕方ないかな。稼ぎも手柄も危険も独り占めしてるんだから」
「……危険も?」
サリアは最後の単語に引っ掛かりを覚えてメイに問う。
「うーん、整備していると分かるんだ……ライダーの気持ちがね。……もう誰も死なせない。ドラゴンの攻撃も危険も全部一人で受ける。なーんてね」
「……考えすぎでしょ」
アンジュのこれまでの行動からしてそれは有り得ないと考えたサリアは首を横に振って否定する。だがメイの話は続いた。
「でも、アンジュがヴィルキスに乗り始めてから誰も死んでいないよ私たちの部隊」
メイにそう言われたサリアは急いで自室に戻り、メイが言っている事が本当か確かめるべく自分の日誌のログを見直した。確かに、アンジュがヴィルキスに乗ってから死者は出ていない。ハンマーでガツンと殴られたような感覚を覚えた。実際に誰かに殴られたのでは無いが、そんな感覚を覚えたのだ。
「―――いや、リオスも居るし違うでしょう……」
正直リオスをダシにしたくは無かったが、そうせずには居られなかった。だが、実際アンジュはリオス以上の撃墜数を叩き出している。セラフが弱体化しているとは言え、アンジュがリオス以上に活躍しているその事実は覆せない。
答えに詰まったその時―――アラートが鳴り響いた。
/
今回の出撃ではアンジュ抜きの出撃となった。アンジュの風邪は予想以上にひどく、無理を押して出撃しようとしたアンジュをモモカが止めたのだと言う。全く主人思いのいいメイドさんだとリオスは感嘆した。
陣形を組んで向かった先は久々の地上で、下は森林となっており緑に染まっていた。ドラゴンとは海上での戦闘ばかりだったのでこの状況は珍しいと言えよう。
「ドアが開くぞ!」
隊長であるサリアの警告通り、ドラゴンがゲートから出現する。その中には一際大きなドラゴンがそこから現れて、大きな地響きを立てながら森林地帯に着地した。その大きさは下手な山より大きい。
「でかっ」
リオスは思わず声を上げる。これまでに戦って来たドラゴンの中では一番大きなタイプだ。しかも形状は始めて見るものだった。過去に遭遇した事のない新たなタイプのドラゴンの事を、アルゼナル内では『初物』と呼んでいるという。
念の為にあの勤勉なサリアにヒルダが確認を行うとサリアは首を横に振って「見た事がない」と答えた。
コイツのデータを持ち帰るだけでも収入は莫大なものになるらしく、ロザリーやクリスの眼は輝いていた。まぁアンジュの横取りを喰らった最大の被害者なので喜びも倍増なのだろう。
サリアは飽くまで慎重だった。増援を呼ぼうとすると、ヒルダがそれを止めた。
「んな事したらあたし達の取り分が減るじゃねえか! ゾーラが隊長だった時はんな事はしなかっただろうさ」
分かっていた。ゾーラ程の手腕が己には無い事をサリアは。勝手に先行していくヒルダたちに歯噛みしながらヒルダとクリス、ロザリーの機体の後ろ姿を見ていた。
そしてある程度近づき、3機は武器を構える。外殻は重装甲だったが、腹部は弱いと見たヒルダたちはアサルトライフルを発砲しようとしたその時だった。
初物のドラゴンを中心に魔法陣のようなものが現れた。
「ヒルダ! もどれぇ!」
嫌な予感を感じたか、ヴィヴィアンが叫ぶ。
それと同時にヒルダ機たちが蠅が叩き落とされるかのように墜落していった。
一体何が起こっているのか、遠くで見ていたサリアには分からなかったが、オペレーターが状況を語ってくれた。
『新型ドラゴンの周辺に高重力反応!』
重力だと?
サリアは慌てて機体を後退させようとするも、魔法陣が広がって行き他の機体も重力に引かれて落ちていく。拙いと思ったサリアは僚機に人型形態を取る事で防御態勢を取らせた。全力で離脱しようと抵抗するも機体は重力に引かれて墜落していく。そして墜落した後、ある事に気付いた。
リオスのナインボール=セラフが近くに居ない事に―――そして少し遅れるようにしてオペレーターが叫んだ。
『所属不明機確認! リオス機と交戦しています!』
/
僚機が重力により叩き落とされる中、リオスのナインボール=セラフは隊列のしんがりを務めていたのとH-1のナビゲーションもあって辛うじて難を免れた。だが、突如として別方向からエネルギー弾が飛んできた。
咄嗟に反応したリオスは回避するも、撃ってきた方向に居たのは白い人型機動兵器。―――それは見た事のない機体、所謂アンノウンだった。
別部隊からの増援かと思ったが様子がおかしい。識別信号も味方では無い。そして形状がパラメイルの規格とは明らかに違い、どちらかと言えばナインボール=セラフに近いものだった。
白いアンノウンは喩えるなら天使のようだった。ご丁寧にも頭部にリングのようなものも付いている。告死天使だとでも言いたいのか。右手には洗濯ばさみのような形状をしたライフルと思しきものを持っている。あれだけが武器とは思えないが……
形状からしてこちら側と同じ可変機だろう。
「ドラゴンがアイツに攻撃しない……どうなっている?」
リオスは不審に思いながら、ドラゴンの近くで浮かんでいる白いアンノウンを睨んでいるとオペレーターからあの機体がアルゼナルのものでは無い事を告げられ、ジルは「可能ならば捕獲しろ」とリオスに命じて来た。人間の兵器が何故ドラゴンの味方をしているのか知りたかったが為に逃げるという選択はしないし、アンノウンが立ちふさがっている為に重力にやられている彼女たちに助太刀も出来ないのだ。
ナインボール=セラフの両腕を突き出して構えを取った。
「お前は一体何者だ?」
だが、アンノウンのパイロットは通信を遮断しているようで黙して、ライフルの銃口からエネルギーブレードを形成させて、こちらに突進してきた。
「チィ!」
慌てたリオスはナインボール=セラフの腕部エネルギーブレードを形成させてそれを受け止める。出力面ではほぼ互角。機動力もナインボール=セラフの方が若干上だが小回りはアンノウンの方に軍配が上がっていた。
ナインボール=セラフがアンノウンを蹴り飛ばして、距離を取ってナインボール=セラフがパルスガンを発砲するが、それを細やかな動きで全て躱す。非常に丁寧な操縦に顔を顰めた。
―――こいつまさか、人間が乗っている……!?
リオスは何となくだがそんな気がした。しかも、機体の装甲越しから感じる気配が初めて出遭った気がしない、どこか懐かしい感覚を発している。
「誰だ、お前は―――」
倒すべき敵なのか、それとも―――
初代ACEの特攻戦艦は大嫌い。何度衝突して爆散した事か……