クロスアンジュ イレギュラーと熾天使の輪舞 作:ヌオー来訪者
きのこ先生回
フェスタ。正式名称『マーメイド・フェスタ』は人間がノーマに許した年に一度の休日である。雰囲気としては夏祭りと学園祭を足して2で割ったような感じである。だが、ちょっと特殊な所があり、水着を着る事が義務とされているのである。
リオスは水着など持って居なかった為、アロハシャツと半ズボン、サングラスに麦藁帽という周囲から見れば浮きまくっている服装でフェスタに臨む事になった。
まぁ歩いてみれば色々あるものだ。海は勿論、賭博としての豚レースや、溶ける水着のパン喰い競争だの。しかし、同性の居ない女性だらけの空間なだけあってリオスの精神的体力を摩耗させるには充分過ぎる環境だった。目の保養にはなるが少々疲れる、というか。
その上、一部女性陣の野獣の眼光が鋭くてリオスはビビるにビビった。
「まぁアンタは唯一の男だからね。仕方ないわよ」
サリアにはそう言われたがまぁ、彼女の言う通り仕方がないのかも知れないとリオスは納得した。ここでは男の存在は漫画や映画でしか基本的に見ないのだから。
「そこだ行けーッ! とんこつインパクトォーッ!」
「やったれぇ! ブタナビスタ!」
で、リオスが最初に参加したのは競豚だった。
ロザリーも参加していたのだが、ここ最近彼女の態度が軟化して来たとリオスは思う。普通に話すようにもなったし、アンジュにやった事はアレだが、悪人という訳では無かった。どちらかと言えば不良というかスケバンというか。言い回しが時々昭和の香りがするのは多分気のせいだろう。
リオスは賭けたのはブタナビスタ。ロザリーが賭けたのはとんこつインパクトなる何処かで聞いた事があるようなないような微妙な名前の豚だった。
「嘘だこんな事ォー!」
「なにしてんだとんこつインパクトォーッ!」
だが結果は、惨敗。名前は良かろうと所詮名前負けのただの豚だった。
リオスは少額を賭けただけなのでさして被害総額は少なかったが、ロザリーはかなりの金額を賭けていたらしく、ショックの余り暫く亡霊のような表情で「ほっといてくれ」とフェスタ会場の片隅で黄昏ていた。
ここ最近、ロザリーたちがヒルダと一緒に居ないようだった。あのヒルダも堪えているのか。それとも―――だが、そんな事を気にした所でどうにもならないので、リオスは次のアトラクションに向かった。
次に向かったのは映画館だ。そこにはヴィヴィアンとシエナが居たのだが、上映されている映画はB級戦争映画だった。ガタイのいい大男がひょろい男の足を片手で掴んで逆さまに吊るしている。下は断崖絶壁で離されたらきっと即死だという緊迫したシーンにリオスとヴィヴィアン、シエナは息を呑んだ。
『最後に殺すと約束したな』
『そうだ、大佐助けてくれ』
『あ れ は 嘘 だ』
『ウワーッ!』
大男は足を掴んで逆さ吊りにした男の命乞いに耳を傾けず手を離してひょろい男は断崖絶壁の底の見えぬ闇の中に消えていった。一応、この大男は主人公なのだが随分とやる事は凄まじいものである。娘を助ける為にやっているとは言え過激すぎて笑いが込み上げてくる。流石B級映画。何処かがぶっ飛んでいる気がしてならない。
もう既にヴィヴィアンは落下する男の悲鳴を聞いて爆笑していた。
ヴィヴィアン曰くフェスタの目玉は屋台の食べ物であるそうだ。たこ焼きにいか焼き等と言ったB級グルメが沢山あり、いつものメンバーで食べて回ったりと非常に楽しいものだった。
「……ねぇ、リオス」
「あ?」
リオスがたい焼きを頭から齧っていると後ろからシエナに呼ばれた。振り向いた時の顔が妙に間抜け面だったのでシエナは苦笑した
「1930(19時30分)に花火大会があるんだけど、一緒に見ない?」
「構わんが……唐突だな。どうしたよ」
「ううん。別に。たこ焼き前で待ってるから」
首を横に振り背を向けて何処かへと歩き去っていく。そんな光景にリオスを背後からストーキングしていた物好きの連中が凄まじい形相でリオスを見ていたのは内緒である。リオスは大きく溜息を吐きながら、一旦自室で休憩でもしようかと考えた。やはり女性しかいない空間では人一倍体力を消耗する。目のやり場にも困るので正直言って自室に引きこもって筋トレしているほうがまだ良い気がする。
リオスはふらふらとしながら、日蔭で風通しがよく一番居心地で良いであろう発着場に向かった。
―――それがリオスにとって大きな転機になる事を知る由も無く。
「よう……精神病患者クン」
「ヒルダ、お前何をする気だ」
発着場に辿り着いた途端、リオスは銃を突き付けられた。突きつけた者はフェスタで碌に姿を見せなかったヒルダだった。一応丁寧にも水着を着ている。何故、この場所に居るのか。そして、何故自分に銃を突きつけるのか。その答えは同じくヒルダに銃を突きつけられているモモカが答えた。
「この方が脱走するから船を飛ばせと―――」
「何っ」
リオスは咄嗟にヒルダを睨んだ。この女、腰巾着に裏切られたのが相当堪えたのか。よくもまぁこんな事を考えたものである。
「黙らせるために殺すのか?」
「いや、お前には人質になって貰うよ。この侍女サマとそれなりに親しいようだし」
総てを察したものの時すでに遅し。自分を人質にする事でモモカへ協力させようと言うのか。
―――馬鹿にして……!
全力でヒルダの顔をグーで殴りたい衝動に駆られるが、殴ろうとした所で打ち抜かれるのがオチなので怒りと衝動を無理矢理抑え込んだ。
「モモカ!」
ヒルダとリオスが睨み合っていると、また別の声がした。アンジュだ。アンジュは武器や道具を沢山詰め込んだカートを押している。先ほどみた映画に似た光景で思わず笑いが込み上げて来る。サリアの言う女コマンドーというのは強ち間違っていないように思われる。
だがそこは重要では無い。そんなカートの上には金色の髪のアンジュと同い年ぐらいの高級そうな服を着た(恐らく王族だろう)少女が手足を縛られ乗せられていた。最早この時点で大体察する事が出来る。
―――こいつも脱走する気かよ……!
しかしアンジュには脱走する理由が見当たらなかった。確かにリオスと一緒に第一中隊に参加したばかりの時は孤立していた上に帰りたい帰りたいと連呼していたが、今の所は仲間も出来た上に、現状大儲けしているため帰る理由が見当たらなかった。
それでも家に帰らなければならな理由があるのだろうか? アンジュに限らずヒルダにも外の世界に居場所はないと言うのに。
両者が銃を向け合うがヒルダはふと、アンジュに一つ提案をした。―――利害の一致という事で手を組まないか、と……アンジュは一度拒否したのだが、ヒルダ曰く、輸送機にはアレスティングギアというもので固定されている。それを無理に外そうならば警報が鳴り、忽ちバレてしまうとのこと。無理に飛べば機体損傷。それの解除がアンジュに出来るかと問うと、アンジュは言葉に詰まらせた。
ヒルダは自分には出来ると自信満々に言った。その為に何年もずっと準備をしてきたのだと。
自分の能力を貸す代わりに協力しろ。という交換条件にアンジュは呑んだ。
一体彼女の何がそうさせる? 彼女を動かしているのは一体何なのか。リオスには気になる所だが、きっとヒルダは答えないだろう。けれど何となくだが―――過去を求めているように思えた。何故そんな事が思いついたのか分からないけれど、何となくそう思ったのだ。
「少しでも怪しい動きを見せたらこの精神病患者クンの命は無いと思いなよ」
「そっちはどうなっても知らないわ」
即答でアンジュの口から「どうでもいい」に近い事を言われリオスはショックを受けて項垂れた。アンジュの口の悪さにはもう慣れたとは思っていたのだがまだまだ未熟らしい。
結局リオスは少女共々輸送機のコンテナ置き場の中で縛られて放置された。それを他所にアンジュはリオスの事など助ける気が無いようで着々と作業を進めていく。
僅かに見える外の景色は陽が沈みかけているのか茜色に染まっていた。あぁこのままではシエナとの約束を果たせないではないか。
どうやらアンジュたちの目論見は、花火音にまぎれて脱出するという魂胆のようである。貨物室の中でリオスは途方に暮れていると、輸送機が動き出した。あぁ、これでもう駄目だ。シエナとの約束は果たせない。
その上脱走すれば1週間の謹慎かつ全資産財産の没収の憂き目に遭う。心の底から全力でアンジュとヒルダを恨んだ。自分までまきこまないで頂きたい。
固定装置が解放されてゆっくりと動き出す輸送機に向かってヒルダが飛び乗ろうとする。だが、輸送機はアンジュのモモカへの指示でヒルダを待たず加速していく。
「おい何のつもりだ待てよ!」
叫びながら全力疾走で滑走路を移動する輸送機を追うヒルダをアンジュは見下ろすように見ながら口を開いた。
「下着の恨み。忘れてないわよ。あの時ヴィルキスに詰め込んだ下着の所為で機体が墜落。大変な目に遭ったんだから」
そこで明かされる衝撃の真実。どうやらあのアンジュ行方不明事件の元凶はヒルダだったらしい。
―――あの女碌な事しねーな!
リオスの中でのヒルダの株が更に下落する。女性の負の部分をありったけ見せつけられたような気がして女性不信になりそうだ。
「何をそんな昔の話を!」
「それだけじゃないわ。背後からのフレンドリーファイア。腰巾着使って嫌がらせをしかける。そしてリオスの服装のセンスが無い」
「「最後のそれ関係ないだろ!」」
思わずリオスとヒルダは同時にツッコミを入れた。それと同時にリオスが凹んだ事は言うまでもない。
「取り敢えず、アンタは信用出来ない。お友達と仲良くする事ね」
「ざけんじゃねぇ!」
ヒルダは最後の力を振り絞って後部ハッチに跳び移った。並の執念で出来たものでは無い。本当に彼女の何がそうさせるのだ。
「ふざけんなよ……この為に何年も、何年も待ったんだよ!」
「クリスマスプレゼントをか!?」
堰を切るようにしてヒルダは本音を叫びながら後部ハッチを這い上がる。そんな彼女の台詞に何故か反射的にあんな空気を台無しにしかねない単語が思いつき口から出ていた。
「いや、話しの流れからして違うでしょ……」
アンジュが呆れ交じりに突っ込み、ヒルダは言葉を続けた。
「生き残る為にはゾーラの玩具にもされたし、面倒な奴らともつるんださ! 何だってやって来たんだよッ!」
ヒルダは鬼気迫る気迫を出しながら、這い上がって行く。まるで彼女の人生を体現するかのようにじりじりと。遠目からでもリオスは彼女の気迫に気圧された。
「ずっとずっと待って来たんだこの日を……! 帰るんだよ、家に、ママの所にさ!」
母親。実際にアルゼナルのノーマたちは親から無理矢理切り離された者ばかりなのだと言う。ヒルダもまた、その人間の一人だったという事か。
人間としては気に食わない所もあるが、リオスの心の中で何かがストンと落ちたような気がした。これまでの行動に少々納得がいったというべきか。少し苦手であるのには変わらないけれども。
辛うじて這い上がり切ろうと立ち上がるが、バランスを崩して落ちかける。それにアンジュは何を思ったのか、手を掴んで彼女を助けて貨物室に引き込むのだった。
その直後、後部ハッチが完全に閉鎖されてしまった。もう戻る事など叶わないようだ。シエナには申し訳ない事をした。それに自分には帰る場所などどこにもない。リオスは諦めに満ちた表情で溜息を吐いた。
「俺は降ろさないのな」
「人質は二人居る方が効果的って言うでしょう?」
悪びれずそういうアンジュにもう怒りも込み上がらない。―――せめて、
「理由だけは教えてくれないか?」
リオスはそう、アンジュに頼んだもののアンジュは「考えて置くわ」とだけしか言わなかった……
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事の発端はモモカのマナによる通信を通じて聞いた妹、シルヴィアの自分の助けを呼ぶ声だった。
アンジュには妹に負い目を持って居た。
嘗て馬の遠乗りに出かけた際、自分のミスでシルヴィアを落馬させてしまい、足をに大怪我を負わせてしまい、彼女の自由を奪ってしまった。それに対する贖罪は勿論、姉が妹を守るという姉としてのプライド。そして責任もあった。
私がシルヴィアを守らなければならないのだと。
それで友人でアルゼナルを所掌しているローゼンブルム王国の王族の一人であり、友人であったミスティの訪問と、ミスティが乗って来た輸送機の存在を利用してアンジュは脱走を試みたのだ。
道中、ヒルダやリオスというイレギュラーを抱え込む事になってしまったが結果オーライだ。このままミスルギ皇国に向かい、シルヴィアを守りに行かねばならない。その為には手段は決して択ばない。
まぁ流石に大きな被害を被っているリオスには少々申し訳ないとは思ってはいるが。……本当に少々だが。
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フェスタの競技を終え、総合点数で優勝したのはクリスだった。
クリスの獅子奮迅の活躍ぶりはヴィヴィアンはこう評した『蝶のように舞い、蝶のように刺す』と。蝶じゃなくて蜂ではないかとサリアたちは突っ込みかけたが、どうせ言っても無駄なので諦めた。
「ヒルダと3人で美味しいもの食べよう」
「お前っ良い奴だよ……!」
賞金として莫大な金額を手に入れたクリスが使い道をロザリーに話し、ロザリーは感極まってうれし泣きし、サリアはクリスの活躍ぶりに来年のフェスタに活かそうと次回に向けて作戦を考えていた。
そんな中で花火が上がった。ヴィヴィアンが「たーまやー」と何時もの呑気な様子で叫び、それにつられて他の連中も叫ぶ。そんな賑わっている状況下、シエナは既に閉店したたこ焼き屋の前でリオスを待っていた。
あの花火が終わり、フェスタが幕を閉じるまで……
事情を知ったのはそれからしばらくしての事である。
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「俺、どーしたら良いんだ……」
リオスは周囲には何もない道端で一人途方に暮れていた。アンジュの人質であるミスティを助ける為に現れるであろう憲兵にアルゼナルへ戻して貰うという考えも過ったのだが、強制送還だけでは明らかに済まないだろう。元々ノーマは女性にしか発生しないのでリオスは完全にイレギュラーたる存在だ。捕まれば人体実験されて殺される可能性も高いので、それは止めた。
仕方がないので、ミスティを放置して(どうせ救出してくれる人がいるだろうから)アンジュたちと一緒に外に出たのだが、アンジュも少々負い目を持って居たのか、ジャケットやジーンズなどの入った箱をアルゼナルからの発信前に貨物室内に持ち運んでくれていたのを渡してくれた。彼女なりの借りの返し方なのだろうか。
着替えた後、護身用にハンドガンとマガジン、アサルトナイフをジャケットの下に潜ませて、リオスはあても無く歩いた。アンジュは祖国のミスルギ皇国へモモカと。ヒルダは自分の故郷へと其々歩を進めており既に彼女たちの姿は見えない。
都市部に居たら追い回されるのは間違いないだろうから、リオスはヒルダと同じ田舎の方向に向かってゆっくりと歩き出した。
「おーれーはさっすらいのー尻切れトンボ~」
何も持たない自分を勇気づけるべくリオスは即興で考えた歌詞を下手糞なメロディで歌うが虚しいだけで直ぐに止めて、黙って歩を進めた。最悪、山奥で自給自足のサバイバル生活を送って死ぬというのも悪くはないのかも知れないと思いながら……
一頻り歩いた後、腹が減った。
野戦は学校で習っていたので、ある程度のサバイバル生活には慣れている。サバイバルの鉄則としては得体の知れない植物には手を出さない事。取り敢えずきのこには手を出さない方が良いだろう。きのこの専門家ではないので下手に手を出して毒きのこを食べてしまえばこの先生きのこれない。
昼は近くにあった川で魚を粗方捕まえて、それをアサルトナイフで捌いてから焼いて食べた。サバイバルの腕はまだ衰えていないようで、少し自信がついた気がした。きっと自分はこの先生きのこれるのだと。
夕方、一つの町に辿り着いたのだが警官がノーマの女の子を母親から取り上げる現場をリオスは目撃した。警官は多く、見ている人も沢山居るせいで乱入して少女を助ける事が出来ず、影で事の顛末を見ているしか出来なかった。
母親が自分の娘を呼び、警官に連れて行かれる女の子が泣きだす。警官は女の子を無理矢理パトカーにまるで物を扱うように放り込み何処かへと連れて行ってしまった。
そして頽れて泣きじゃくる母親に友人と思しき女性たちが口々に言い放った。
「大丈夫。もう一度産めばいいんですよ。今度は怪物じゃなくて人間をね。元気出して」
そう、皆笑顔でまるで悪意のない様子で言い放った。その様子に気味の悪さを覚えずには居られない。彼女たちは親子というものを何だと思っているのだろうか。泣きじゃくる母親を遠目からみていたリオスは思わずには居られない。これまで送って来た時間は変えようもないと言うのに。
―――何なんだこれは。
ふと、建物の壁に貼られたポスターが目に入った。
【目指せ、ノーマ撲滅。この街を怪物、ノーマの手から守ろう!】
それを見た瞬間、気分が悪くなってリオスはこの街から逃げるように走り去った。
翌日、追手に捕まったら溜まったものではないので早朝にて起床して行く当ても無く出発。道中、マナを使わずサバイバル生活を行う代わりの者の男とばったり出会い、昼飯に男と一緒に鹿肉を焼いて食べた。
久しぶりに野郎を見た気がする。男と話した雑談は非常にいい具合に無遠慮で楽しいものだった。あの昨日の気味の悪い光景を少しの間頭の外に置いておけるぐらいには。しかし、そう思えたのは最初だけだった。結局話の途中で、リオスは再び意気消沈した。彼もまた、雑談の中でノーマを化け物と扱うような話をしたのだから。
「マナ使えないのは有り得ないな。使わない俺たちとは違うよ。あいつらは化け物だ。マナのシステムを触れただけでぶち壊すとか人間のやる事じゃないよ。俺たちはわざと外れているだけさ。早く全滅して貰いたいものだ。お前もそう思うだろう?」
嫌になって話を無理矢理切り上げて男と別れ、リオスは再出発した。本当に山奥で一人暮らした方が良い気がしてならない。
歩いていると林檎の森を見かけた。鹿肉をあまり食べられなかった故に腹が減っていたので傷が入って売れなさそうなものを一つむしってアサルトナイフで皮むきをして食した。思いの外それが美味しくてもう一つ欲しかったが、我慢した。
ふと、空を見上げると雲に覆われグレーに染まっていた。
ポツリ、ポツリ、と雫が落ちる。そろそろ雨宿りするべき場所を探さねばずぶ濡れになってしまうと危惧したリオスは何処か屋根が無いか探して走り出した。
林檎の森の中を走っていると、紅い髪の少女がふらふらと幽鬼の如く歩いている姿が見えた。それが誰なのかリオスには直ぐに分かった。―――ヒルダだ。
別れた時には非常に元気そうな顔で、アンジュに「命だけは大事にしろよ」と言って尾○豊よろしく盗んだバイクで走り出して行ったのだが、今の顔はどうだ。まるで何もかもに絶望し切った人の顔をしているではないか。まるで死んだように生きている人間だ。
流石にヒルダが苦手な人間筆頭であるリオスでも彼女を放っておく事は出来ず―――
「おい、ヒル……ダ?」
ヒルダに声を掛けようとリオスは彼女のもとへと駆け寄ろうとすると、空飛ぶ奇妙なパトカーらしきものが2台ヒルダの近くまでやってきて止まった。そこから降りて来たのは数人の警官たち。彼らはヒルダのもとに駆け寄ると即座に先頭の警官がヒルダを殴り飛ばした。
ヒルダは成すすべも無く、吹っ飛び他の警官たちが取り囲んで彼女を足蹴りする。
―――これが警察のやる事か?
まるで無抵抗のヒルダを一方的に蹴り、警棒で殴りつける。
「おい止せ!」
リオスは思わず声を上げた。男たちの視線がこちらに向く。
「アンタら一体何を―――」
「あぁ、化け物対峙さ。コイツはノーマでな」
「これはいくらなんでもやり過ぎです! こんな一方的な―――」
反発するリオスに警官はあたかも当然の事をしているのだと言うように口を開いた。
「化け物を狩るのに手段なんて要るか?」
「―――ッ」
また化け物だ。そんなにノーマが危険な存在だと言いたいのか。エマ監察官と言い、母親の友人と思しき者たちと言い、サバイバル男と言い―――
「ギャンギャン喚くなよ。これは化け物狩りだよ化け物狩り。存在するだけで害悪なんだから何したって別にいいだろう? おっ、もしかしてコイツお前の女か? 運が悪かったなぁコイツ化け物なんだぜ。お別れに最後にヤッとくか? 身体は悪くないしな。その代りそれに俺たちも混ぜて貰うがどうよ?」
警官たちは警官らしからぬ事を言い、この場にいる警官らは皆笑い出した。言い方からしてジョークのようだが随分な事だ。リオスの腹のにある熱湯が煮え立ってくる。そしてそれが沸騰して爆発するのは時間の問題だった。これまで溜まって来た鬱憤と言うべきか。初めてこの外の世界に来てノーマという虐げられる側の気持ちが分かった気がした。
「違うよ。正直俺はコイツが嫌いだし、下品だし、口悪いし友達には絶対になりたくないタイプだから。けれどさ―――
―――それ以上にお前らが大嫌いだ」
気付けばリオスは警官に跳び蹴りをかましていた。
嘗て、元の世界に居た時の仲間であるガンダムパイロットのヒイロ・ユイは言った。「感情のままに行動するのは正しい人間の生き方だ」とそして「全てが狂っているのならば俺は自分を信じて戦う」とも。
彼は他と比べて非常に変わった人間だ。それはリオスも承知の上だったが、彼を見習って今はそうさせて貰う事にする。
「チィッ!」
警官は咄嗟にマナの光の檻でリオスを拘束する。だがその檻はリオスが触れただけで消滅してしまった。
「ノーマ!? 男のノーマだと言うのか!?」
警官は信じられないような表情でリオスを見る。一般にはノーマは女にしか発生しないという事で通っている。それ故にリオスの存在は特異でしかなかった。
声質は明らかに男だし、顔もあまりハンサムとは言えないがそれなりに中のやや上、上の下ぐらいには整った男らしい顔をしている。それ故に紛れもない男に警官は驚愕した。
「だらぁ!」
リオスは吠えながら、驚愕して怯んでいる警官を次々と殴り飛ばす。嘗ての仲間であるレイズナーのパイロットであるエイジみたいにトンファーを以て置けば良かったかも知れない。あれさえあれば必殺技であるトンファーキックが出来るというもの。
「ふう……」
決着は1分も経たないままついた。
これで粗方片付いたと、自分の手をはたく。相手の虚をつく事が出来たので思いの外全滅は容易だった。リオスは倒れたヒルダに手を差し出した。
「……立てるか?」
「っ、後ろッ!」
ヒルダの警告通り警官がリオスの背後から飛び掛かっていた。まだ気絶していない警官が居たのか。リオスは咄嗟に振り向いてカウンターパンチを叩き込もうとした矢先で突如として警官は糸の切れた人形のように頽れた。
警官を倒したのはリオスと同じか少し年下かぐらいのローブを纏いフードを被った青年だった。どうやら当身で警官を倒したらしい。
呆気にに取られるリオスを他所に青年はリオスに話しかけて来た。
「貴方がリオスさん、ですね?」
「何故俺の名前を―――」
「話しは後で。俺について来て下さい。早く!」
罠にしては手が込み過ぎている。しかも己の名前を知っているのは何故なのだろうか。一瞬、ガンアークの関係者かと思いついたが、彼の言う通り長居は出来ないようでサイレンの音がここに近づいてきている。
リオスはボロボロになったヒルダを背負って青年について行く事にした。
―――虎穴に入らずんば虎子を得ずという奴だ。
彼が一体何者なのか分からないが、いざとなればハンドガンなどの武器があるのだから……
暫く自然の中をリオスと青年は走り回っていた。サイレンの音はもうとっくに聞こえなくなっており、何とか逃げられたようだ。雨もすっかり止んでしまっていた。
人っ子ひとりいない森の中で、青年は緑色の布でカモフラージュされた巨大な何かの前に青年は立ち、それを剥ぐと現れたのは真紅の戦闘機が姿を見せた。
タスクが「ちょっと待っていて」と言ってから機体に乗り込み変形させる。
そして変形させた姿にヒルダを背負ったリオスは眼を見張った。姿を見せたのは嘗ての愛機―――量産型クラウドブレイカーそのものだったのだから。だが、外見は改修されたか変わっており、森の中に隠せるように背の高さを落とすためのとカモフラージュ用の可変機構を加えられていたようだ。
腕に持って居る武器は様変わりしておりミサイルポッドは消失。腕部にあるのはガトリングガンとエネルギーブレードのみとなっている。その為、レフトアームには余裕が出来ていた。
この機体は言うなれば量産型クラウドブレイカー改というべきか。
どうして自分の愛機だと分かったのかと言うと、ロンド・ベル隊を象徴するエンブレムが機体について居たからだ。ロンド・ベルでクラウドブレイカー乗りは自分以外一人とて存在しない。
「俺のクラウドブレイカーがどうしてここに……つか随分変わったな」
「確かに君の機体のようだね」
青年は安心したように、機体から降りて言う。この男は何を知っているのだろうか? リオスは背負っていたヒルダを降ろして、青年に詰め寄った。
知らない人間に自分の事を知られているというのは気分の良いものじゃない。特に、こういう自分がイレギュラー扱いされる世界でだ。
「お前は一体何者なんだ? 俺の何を知っている?」
リオスの敵対心全開の詰め寄り方に、青年は少し怯みながら答えた。
「俺の名前はタスク。ジルに言われて君たちをアルゼナルに帰すために迎えに来た」
「……え」
思わぬ助け舟。リオスはポカンとした表情で詰め寄るのをやめて一定の距離を置いてから、量産型クラウドブレイカー改に指をさしながら質問した。
「……じゃぁあれどこで見つけた? あの機体はパスワード制なんだが」
「それは……」
タスクは言いづらそうに頭を掻きながら一つ間を置いてから答えた。
「大破して海に漂流しているのを見つけて……改修したんだ。そしてこの機体を起動させられたのは……俺がハッキングしたんだ」
「おいこら」
文句の一つ二つ言いかけたのだが、助けてくれたという事実を思い出し、警戒しまくって詰め寄った己を反省した。先ほどやっていた事は恫喝に等しい行為だ。無断ではあるが改修も感謝こそすれど怒ることでは決してない。
リオスは己の短慮さを恥じた。
「……ごめん。助けてくれたのに疑って恫喝紛いの事をして」
「勝手に弄ったのは事実だし、こちらこそごめん。君の愛機だったんだろう?」
「まぁ、そだな。コイツでずっと俺は戦ってたよ」
リオスは姿の変わった己の苦楽を共にした愛機を見上げた。こんな所で自分の相棒と再会する事になるなんて夢にも思わなかったし、大破した状態でよくもまぁ改修出来たものだ。曲がりなりにも直してくれたタスクに怒鳴るのはおかしい話である。
「あれ、お前の機体なのか」
ヒルダはボロボロの身体を引きずりながら、リオスの隣に立ちヒルダは言った。リオスは頷いて肯定する。嘗ての愛機との再会に涙を禁じ得ないが、タスクの報告がそれを許さなかった。
「君たちと同じくアルゼナルを脱走したアンジュとモモカがミスルギ皇国皇宮に向かって捕まった」
タスクの言葉に、二人は息を呑んだ。ヒルダの身に何が起こったのか知らないが、ヒルダは悔しげな表情をしていた。まぁ、アンジュとヒルダがやろうとした事は飛んで火にいる夏の虫のようなものだからこうなるのは仕方あるまい。
「アンジュとモモカも助けるんだな?」
リオスが問うと、タスクは「勿論」と頷いてから続けた。
「捕まえた連中は彼女の公開処刑を行う事で王族の権威を取り戻し家の復興をやろうとしている。その際に彼女を救出する」
/
リオスたちは戦闘機形態の量産型クラウドブレイカー改にタスクが取り付けたカーゴに乗せられた。どうやら機体はオート操作のようで、カーゴの中にはタスクも居る。
今3人が向かっている先は公開処刑会場で、少し離れた所で隙を見て閃光弾を放ってその隙に戦闘機形態の量産型クラウドブレイカー改の俊敏性を活かしてアンジュを救出するのだと言う。
その間にタスクがアンジュの状況をある程度話してくれた。
アンジュを捕まえたのはアンジュの兄であるジュリオと妹のシルヴィアなのだという。アンジュはノーマで有る事をミスルギ皇国の皇帝である父親は隠していたのだが、それに不満を持って居たアンジュの兄である皇太子は洗礼の儀と呼ばれる儀式を利用してアンジュがノーマで有る事を全国民に暴露。アンジュを庇った母親を死に追いやり、父親を殺害、アンジュをアルゼナルに追放する事でクーデターを成功させて、ジュリオは新しい皇帝へとのし上がった。
そしてジュリオは傷ついた皇室の権威をアンジュを公開処刑する事で回復させようと考えているようである。
「それが家族にやる事か……」
それを聴いた途端リオスは絶句し、そしてジュリオの行いに憤慨した。それが家族にやる事か。それが人間のやる事か。
「そういうもんさ。家族ってモンは所詮」
憤慨するリオスの隣でヒルダがそう、諦めに満ちた表情で言った事でヒルダの身に起こった事は大凡見当がついた。彼女は恐らく母親に拒絶されたのだろう。そうでなければ去り際活き活きしていた顔が今のように死人のような顔になる訳が無い。
リオスには兄弟は居なかった。一人っ子で兄弟姉妹の事は良く知らないが、兄に相当する知り合いや敵はそれなりに居た。彼らを見て来たリオスにとっては少なくともジュリオがやろうとしている事は間違っているのは確かに思えるのだ。
所定位置に辿り着くと、リオスとタスクが交代交代で見張りを行った。話によると本日の夜にアンジュの処刑を行うとのこと。太陽は既に沈みかけており、脱走から2日目の夜が、満月の下で今、始まろうとしていた……
「リオス。君は機体の操縦を頼めるかな」
「タスク、お前は?」
「俺はアンジュを助けてから再度乗って脱出する。俺をレフトアームに乗せて欲しい。戦闘機形態でも一応動かす事は出来るから」
リオスとタスクがカーゴ内で作戦会議をしていると、ヒルダが口を挟んできた。
「あたしはどうすれば良い?」
「待っててほしい。暴れたら傷口開いてしまうから」
ヒルダは警官にタコ殴りにされて怪我をしていた。タスクが応急処置を取ってくれたが、暫くはあまり派手に動く事は出来ないだろう。
タスクがそう言い、自分の状態を一番よく知っているヒルダは押し黙った。
「じゃぁ纏めるぞ。俺がクラウドブレイカーの操縦をやってお前は飛行機でもアームは出せる様だからアームに乗って待機。お前の合図で俺が閃光弾ぶっ放した直後、会場まで機体を飛ばして所定位置についたらお前は飛び降りてアンジュとモモカを救出。手に乗せて撤退した後、ヒルダの居るカーゴを回収してこのままエスケープ」
「うん。それで行こう。じゃぁ、ポジションに付こうか」
タスクの合図を皮切りにリオスはコックピットに、タスクはアームの上に乗って武器の準備をした。カーゴはここで切り離してヒルダは留守番をして貰う。
「懐かしい……この感触。行ける!」
操縦桿を握った途端、嘗ての出来事が走馬灯のように脳裏に再生される。リオスは脳内で操縦シュミレーションをしつつ、カメラで遠くの処刑会場を見る。そしてタスクもアームの上で望遠鏡を使って眺めていた。
処刑会場は予想以上に賑わっていた。様子からして全国中継でカメラも回っているようだ。集音器を使わずとも、歓声が聞こえて来る。妹のシルヴィアが手を縛り付けて布一枚にしてつるし上げてさらし者にしたアンジュを鞭で殴るたびにギャラリーから歓声と嗤い声が沸き上がった。
戦争が無くてもこのザマでは到底平和とは口が裂けても言えない。少なくとも、完全平和を掲げたリリーナ・ピースクラフトならこの世界を否定する。リオス自身の気持ちで言うならばこの世界は間違いなく歪んでいる。こんな事、許されて良い筈が無い。
「タスク……まだか!」
「済まない……まだタイミングじゃない! もう少し待ってくれ!」
リオスはタスクを急かすが、タスクは首を横に振る。確かに冷静さを欠いてしまえばこの作戦は忽ち失敗してしまうのは目に見えていた。リオスは歯噛みしながら、処刑会場の様子を見続けた。
ギャラリーの元アンジュの友人だったらしい少女がアンジュに生卵を投げつけ、アンジュは自分を騙したとか被害者面で言って「吊るせ」とコールを送り始めた。その時、国民の心は一つになった。まるで伝染するかのようにして「吊るせ」とコールを送る。その様子にリオスは恐怖した。
何が文明的な社会だ。メンタリティがマナが無い世界の中世以下ではないか。何がノーマは野蛮人だ。今まで出会って来た化け物扱いされてきたノーマの方がよほど人間らしかった。
空気が読めないのが玉に瑕だが誰であろうと分け隔てなく接するヴィヴィアン。生真面目でありながら変な趣味をしているけれどアンジュと殴り合って(多分)和解したサリア。どんな手を使ってでも母親に会う為に頑張ったヒルダ。他にも沢山のノーマと出遭ったが、皆少なくとも「吊るせ」とコールを送る連中よりはずっと人間臭い奴らばかりだった。
「これがっ……こんなのがっ! 人間のする事かァッ!」
シャアを否定した身としてもこんな世界を見せられては世界に絶望して壊したくもなる。思わずモニターを殴ってしまう。もうガトリングガンであの国民たちを薙ぎ払ってしまいたかった。そんなリオスの心情を察したか、タスクが咎めた。
「リオス、彼らを、民間人を撃ったら駄目だよ」
「―――っ、分かってる……分かっているけれどっ」
リオスは気分の悪さを覚え歯ぎしりしながら、タスクのゴーサインを待ち続けた。従ってはならない衝動を抑え乍ら。念の為に間違えて撃ってしまわない為に、武器にはロックを掛けた。
そして、アンジュが処刑台に連れて行かれようとしたその時―――
「―――歌声?」
リオスは集音機が拾った音に顔を顰めた。タスクもその音を拾ったようである。歌っている主はカメラを見ずとも分かる。―――アンジュだ。
それは―――綺麗な歌声だった。生きる時代が、世界が違えばきっと彼女はいい歌手にでもなれていたに違いない。
歌を気にしている内に、彼らへの殺意は和らいでいた。
「アンジュ、綺麗な歌だね……」
タスクがそんな事を呟いているのが通信機を介して聴こえてくる。そんなタスクのつぶやきにリオスは心の底から同意しながら、確認するように、そして茶化すように声を掛けた。
「歌にかまけて仕事がお留守になっていないだろうな? ゴーサイン出すのはお前だぞ」
「分かってるよ。必ず彼女を助け出す。助け出して見せる」
アンジュは自ら処刑台に歌いながら歩いて行く。まるでその様はミュージカルだ。
「これは……永遠語り」
ジュリオが驚愕の表情でアンジュが歌っている歌の名前らしいものを口にした。そしてシルヴィアが怒りのままにアンジュの歌に憤慨する。
「それはお母様の歌よ! ノーマの分際で汚さないで!」
近衛兵がアンジュを黙らせようと、絞首刑台にの縄をアンジュの首に強引に付けて即座に作動させた。アンジュの身体が重力に従って落ち、首が縄に締められてしまう。だが―――
「リオス、今だっ!」
「了解!」
タスクからゴーサインが出た。リオスは量産型クラウドブレイカー改に搭載させた大型閃光弾を会場上空に爆発させるようにして放つ。
目論み通り、上手い具合閃光弾が破裂して、ギャラリーや近衛兵たちの眼が眩み、怯む。もうその時には量産型クラウドブレイカー改は動き出していた。
所定位置にまで辿り着くと、タスクはアームから飛び降りると同時にナイフを投げて縄を断ち、そのままアンジュをキャッチ―――失敗した。まぁ二人とも死にはしていなかったがしかし……
落下後タスクはアンジュの股間に顔をうずめていた。
「何やっとんじゃアイツゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!!???」
余りにも凄まじいラッキースケベぶりにリオスは思わずコックピット内で絶叫した。
何だこれは。先ほどまでシリアスで自分が道を踏み外しかけたりして悩んだりしていた自分が馬鹿みたいだ。
勿論、あの強気なアンジュからの制裁はあった。蹴りが炸裂し、タスクはまるで漫画の如く数メートル吹っ飛んで処刑台の骨組みに頭をぶつけて気絶。
「…………あ、あがが……」
あまりにもグダグダな作戦運びにリオスは言葉を失い口をあんぐりとさせた。これは不味い。
リオスは慌ててコックピットから飛び降りて、アンジュを捕えようとする近衛兵2人に空中でハンドガンを発砲した。
「リオス!?」
「よう、姫殿、お迎えに上がりやした」
着地して砕けて挨拶するリオスに呆れながら、アンジュは腕を手錠で縛られた状態で近衛兵にドロップキックをかました。近衛兵には銃剣があるのによくもまぁ恐れず飛び掛かれるものである。
「アンジュリーゼ様!」
モモカがマナで構築された手錠を付けられた状態でアンジュに走りよる。ノーマの特性を利用してアンジュは手錠目掛けて上段回し蹴りで叩き壊し、モモカが返すようにマナの力で金属の大きな手錠を解除させた。
リオスが近衛兵をハンドガンで撃ち倒す中、モモカがマナの力で近衛兵たちの反撃を防ぐ。
リオスは咄嗟に戦闘機形態の量産型クラウドブレイカー改に乗り込み、アームでアンジュらに差し伸べた。アンジュと気絶したタスクを抱えたモモカがアームに乗った瞬間、リオスは量産型クラウドブレイカー改のブースターを吹かせた。
「おのれ……アンジュリーゼェ!」
忌々しげに、去りゆくアンジュを睨むが、加速中にてアンジュは上から見下ろしながら吐き捨てるような捨て台詞を口にした。
「感謝しますわお兄様。私の正体を暴いてくれて。有難うシルヴィア。薄汚い人間の本性を見せてくれて。さようなら、腐った国の家畜共!」
侮蔑の籠ったその言葉がジュリオの気に障ったか、近衛兵に追えと命じるもアンジュが投げたタスクの手裏剣が頬を掠めて恐怖と痛みのあまりに泣き出した。
情けない男だ。とリオスは泣きだすジュリオを見ながら思いながら機体をブーストさせて処刑会場から脱してヒルダの居るカーゴのもとへと飛んで行った。
結果としてアンジュの救出に成功し、ヒルダの居るカーゴも回収してアンジュたち3人をカーゴに乗せてそれを再度牽引してアルゼナル目指して機体を飛ばした。
色々言いたい事は有ったが、アンジュが無事に済んだ事は非常に喜ばしい事である。……代わりにタスクが犠牲になったのだが。
まぁ、それは兎も角後はアルゼナルに帰るだけである。
これで全てが終わるとは到底思えなかったが、今はここで安心して休む事にしよう。リオスはそう思いながら、機体をオート飛行にしてコックピットシートに凭れて一息つくのだった。
一番四苦八苦したかも知れぬ……アンジュの連れ戻しがジルがリオスにさせてもらえるとは到底思えないし、それでもリオスにはアレな外の世界を見て貰わなければいけないし……
推敲はしたのですが今回長い上に修正しまくったので変になっている所があるかもしれません(;´・ω・)
・量産型クラウドブレイカー改
リオスが搭乗していた量産型クラウドブレイカーをタスクが改修したものとなっている。カモフラージュの為にパラメイルの技術を利用し、脚を折り畳み、上半身を変形させる事で背を低くさせたカモフラージュ用の戦闘機型形態に移行する事が可能となっている。今回アンジュ救出作戦で使用したのはその形態。一応、この状態でもアームを動かす事は可能。
人型形態は原作ゲームの量産型クラウドブレイカーとほぼ同じ。装備品は幾つかオミットされており、レフトアームに余裕が出来た為アンジュやタスクを手に乗せる事が出来た。
可変機構と軽量化の所為で元のものより装甲が脆くなっているが、旋回性能が上昇している。