クロスアンジュ イレギュラーと熾天使の輪舞 作:ヌオー来訪者
初代ACE劇中でちょくちょく挟まれたノインたちの回想録のように脳内変換して戴ければ、幸いです。
所で、序盤のリオスたちのいがみ合いってアンチ・ヘイトに入りますかね? 結果的に半和解状態に持ち込まれちゃいましたが。
ヒルダも悪い娘じゃないんですよ。……一応は。まぁ不良ですが。
故郷が裏切った、というより私の世界を見る目が変わったのかも知れない。ある小説の主人公が「自分が変われば世界が変わる」というセリフがあったがまさにこの事。まぁ、実際に裏切られたのも事実だけれども。……そう、妹にね。
私は、妹のシルヴィアの助けを求める声をモモカのマナによる通信を介して聞いて、妹を助ける為に、アルゼナルを脱走した。
昔、シルヴィアと馬で遠乗りに出かけて落馬させて足を駄目にさせてしまったという事への贖罪、そして姉が妹を守らなければという責任感もあった。けれど、いざ戻ろうとした際にばったり出会った嘗ての親友と思っていた者には怯えられ、通報しないでくれと頼んでも通報され、挙句の果てに辿り着いたと思ったら―――
あの助けを呼ぶ声は芝居。私を処刑する為のジュリオとシルヴィアの罠だった。
シルヴィアが駆け寄り、私もシルヴィアを抱きしめようと駆け寄った所でシルヴィアがナイフを向けて来た時にはまるで世界が止まったかのように感じた。シルヴィアが明確な殺意を以て私にナイフを向けて来るなんて想像もしていなかったのだから。
シルヴィアは私を詰った。
私の姉でも何でもない。化け物、と。そして、どうした産まれて来たのだ? と。お前さえ存在しなければ父も母も死なずに皆幸せだった。そして自分の足も動かなくならずに済んだのだと。―――母を返せ、化け物、大嫌い。
明確な拒絶をシルヴィアは私に示した。
彼女は泣いていた。本気で、全てはお前の所為でこうなったのだと訴えるように。
自分は一体何のために脱走行為を働き、危険を冒してまでここに来たのか。分からなくなった。茫然のあまり「しっかり」と言うモモカの声もまるで異国の言葉、暗号のように聞こえた。
そして―――気が付けば私は捕えられていた。
翌日の夜、公開処刑を行う為に布一枚にされ処刑台に送られた。
そして前置きの余興としてシルヴィアが鞭で私を叩き、見ている民衆を嗤い、歓声を上げるのだ。まるで最高のエンターテイメントのように。
そうだ、彼らにとってショーでしかないのだ。ジュリオの思惑なんて知らない。ただ面白いサーカスなのだ。
そして前置きの余興の中でジュリオの口から事実を聞かされた。ジュリオが父を処刑して自分は皇帝にのし上がった事を。そしてモモカがアルゼナルにやって来れたのは、ジュリオの企みによるもの。全てはこの時の為に。
それだけには留まらず、公開処刑を見に来た嘗ての友人たちが詰る。よくも騙してくれたな、と。お前の存在そのものが忌まわしいのだ。だから死ね、と。
―――ふざけるな。
悪いのは全てノーマ。この世の全ての悪い事はノーマの所為。それを臆面も無く言い放つ元友人に大人たちは同調し、この場に居る者たちの意志は一つになった。その様はまるで滑稽だった。思考放棄した家畜の豚かロボットのようだ。
そしてこの後に「吊るせ」というコールは実に幼稚で滑稽で―――
これで世界への見切りがついたというもの。
差別や偏見、そして罪。それを無視して受け入れてくれたのはアルゼナルに居た者たちとモモカ、リオス、そしてタスクだけだ。もういい。この腐った世界に一つも未練も無くなった。
「さっさと殺せよ」
「早く帰りたいんだけど」
平和と正義を愛する国だと他国はミスルギ皇国を評した事があったが、まったくの出鱈目だ。今彼らの発言事を耳にすれば嫌という程に分かる。最早あの国民たちは豚だ。いや、豚は料理出来る分ずっとマシだし少し可愛いのでそれ以下だ。
あんな連中に私は殺されはしない。屍も晒してもやらない。殺れるものならば殺ってみるがいい。
そうだ。私は――――――誰かに頼まれなくたって、生きてやる。
/
「お邪魔するぜー」
一仕事を終えたおっさんの如く、リオスはよっこらせとカーゴの中に入って来た。入れ替わりにヒルダがレーダーの見張りをやると言う事で、ヒルダはカーゴ内から去った。そしてリオスは気絶しているタスクを見てから溜息を吐いた。
「おーい大丈夫かータスクやーい?」
ヴィヴィアン風に声を掛けてもタスクは起き上がらない。何故か、幸せそうな表情をしているがこれはあの股間に顔を突っ込むという暴挙をやらかしたからか。このラッキースケベめが。アンジュに文字通り叩き起こされて、アンジュはタスクの襟首掴んで揺さぶった。
「あぁ怪我人を揺するなって……」
「またやったわね! どうして股間に顔を埋める必要がある訳? 意地なの癖なの病気なのぉッ!?」
咎めるリオスを無視してアンジュはタスクのこめかみに拳を押し付ける。日本風に言うならば梅干しという奴か。あぁ、これは見てるだけでも痛そうだ。
と言うか、またとはどういう事なのか。タスクという男とは知り合いだったのだろうか?
「どういう関係よお前ら」
揺すられるのが止まったタスクは少し照れた顔で明後日の方向を向きながら答えた。
「ただならぬ……関係かな」
「はぁ!?」
アンジュが否定の意を示したかのような反応をするが、モモカが納得の行った表情で手を叩いた。
「やはりそうでしたか! そうでなければ命懸けで助け出したりしませんよね! あぁ男勝りのアンジュ様にも漸く春が……このモモカ筆頭侍女としてこんなに嬉しい事はございませんっ」
「タスク……お前は……そういう奴だったんだな」
モモカは天然のボケで某白い悪魔じみた事を言い、リオスは養殖のボケでおちょくるとアンジュは顔を真っ赤にして怒り出してタスクをぶん殴った。……あぁ図星なんだなぁとリオスとモモカは思った。
この恥ずかしがりやさん☆
「所で何でアンタらがあんな場所に居たの? というかあの紅いパラメイルは一体……」
「ジルから連絡が来たんだ。それとこの機体は借り物……かな? あの紅い髪の娘今ここに居ないし丁度良い。幾つか話すよ」
アンジュの疑問にタスクは一から答え始めた。
ジルの命令を受けて、リオスとアンジュを連れ戻すためにやって来た事。そして、ヒルダを連れたのは偶然という事。ヒルダには自分がアルゼナルからの脱走者を連れ戻す機関の
「それにこれ、大事なものだろう?」
タスクはエメラルドに光る指輪をアンジュに差し出す。傍から見れば意味深な光景にしか見えないがまぁ、気にしてはいけない。
「所でタスク、アンタは何者?」
アンジュの問いにタスクは一瞬答えに詰まるが、意を決したようにしてアンジュとリオスの顔を見て、そしてヒルダが居ない事を確認してから答えた。
「俺は―――ヴィルキスの、騎士」
どういう事なのだろうか。タスクがどうに騎士には見えず、リオスにはレジスタンスによく居そうな奴にしか見えなかった。騎士というのはこう、剣と鎧を持って居るような感じの印象だったのだが。
「君を、アンジュを守る騎士だよ。詳しい事はジルに訊くと良い」
答えは持越し、という事か。まぁヒルダが量産型クラウドブレイカー改のコックピットに居るとは言え、警戒しない訳にも行くまい。どうやらタスクはヒルダに対して何やら警戒している様子だ。何か大事な問題なのかもしれない。
「一つ、俺も質問しても良いかい? ……アンジュの髪、綺麗な金色だよね」
「そっ、それがどうかしたわけ?」
次にタスクが放った言葉はのろけじみた言葉だった。タスクの言っている「只ならぬ関係」という事は強ち嘘ではないようだ。アンジュは仄かに頬を赤く染め乍ら自分の金色の髪を弄る。
リオスとモモカは少し、邪魔にならないように二人から離れ乍ら盗み聞きしてみたのだが―――
「下も金色なんd」
「死ねこの変態騎士!」
続いたタスクの言葉がただのセクハラだった。羞恥のあまり激昂したアンジュはタスクに殴りかかり。
「何か腹立つなぁ! 俺も殴らせろぉーッ!」
悪乗りしたリオスもタスクに飛び掛かった。こっちはある意味そんなセクハラ発言をさらっと言ってのけるタスクへのただの嫉妬である。
「ったくアイツら何やってんだ?」
そんなバトルが起こっている事を知らないヒルダは呆れた顔でタスクフルボッコで揺れるコックピット内で大きく溜息を吐いた。
/
さて、この後の事後報告だが、
タスクと別れた後、リオスたちは拘束。反省房、所謂牢屋に叩き込まれた。当然か、脱走したのだからこれぐらいの報いは当然だ。
ヒルダの借りは返すという言葉の意味が分かったのは拘束期間がアンジュよりやや短かった事だ。アンジュたちは7日なのだが、リオスは5日で済んだ。サリア曰くヒルダが釈明してくれたとのことだった。資金資産没収の憂き目に遭ったが、ナインボール=セラフだけは没収されなかった。
シエナには約束を守れなかった事について謝ったのだが、「別に構わないよ」と言ってくれた。それでもまぁ、残念そうな顔もちでかなり悪い事をしたとリオスは思わずには居られなかった。
「期限よ。出なさい」
「……了解」
サリアに開け放たれた扉を潜り、リオスは5日以来のの娑婆の空気を吸う事が出来た。アンジュが別の反省房でリオスを恨めし気に見ているが、巻き込んだ原因が何を恨めし気にしようと無駄だ。
横目でアンジュと同質のヒルダを見ると「フッ」と不敵に笑っていた。やっぱりこの女は苦手である。……借りを返してくれたのは有り難いのだが。
「あとで話しが有るわ。1400にて墓場近くの花畑まで来なさい」
話とは何なのだろうか? だがそんな事はどうでもいい。外の新鮮な空気が欲しい。反省房の空気は淀んでいて苦手である。
リオスは溜息を吐いて、早く外の空気を吸いたいと思っていた矢先―――
「臭っ! その前に早くシャワーを浴びてきなさい! これは命令よっ」
「言われなくても行きますがな!」
鼻をつまんで臭いを追い出すようなそぶりを見せていて嫌悪感丸出しのサリアに、文句を言われた。そう言えばここに来た最初の頃も「臭い」と言っていたか。結構酷いがそんなことも懐かしく思えるほどに、長い7日間だったと、リオスは思うのだった。
/
久々の外の空気と風呂上りという事もあって、外の空気は非常に爽快だった。よくよく考えれば約1週間風呂に入っていなかった事を思い出して、「長かったなぁ」と思わずつぶやく。
幼年部の少女たちが特訓としてランニングをしているのを見ながら、リオスは指定の場所に向かうと、そこには既にサリアが居た。
「来たわね……少し、手伝いなさい」
「……何を」
「お供え物よ」
そういうや否や、サリアはしゃがんで足元にある花を摘みはじめた。成程そういう事か。お供え物で合点が行ったリオスもつられて花を摘む。リオスが3本目を摘んだ所でサリアは口を開いた。
「―――貴方たちが居なかった間に奴が現れたわ」
「……奴?」
「ガンアークよ」
ガンアーク。その言葉でリオスは眼を見開いた。高性能機で有る筈のナインボール=セラフでも苦戦した相手が、エースクラスと不在で何を招くか分からないリオスでは無く、一気に顔を顰めた。
「すみません……」
「いえ、全部アンジュが巻き込んだ所為よ。その後逃亡したとは言え、貴方は悪くない」
全部アンジュが。そこの語調が強い気がした。それにリオスは不審に思うも、サリアは話を続ける。
「辛うじて増援を呼んだ事で迎撃に成功したけれど……奴は恐ろしい性能を持って居る。ノーメイクのグレイブ程度では太刀打ちできるものでは無いわ。セラフにアレについて聞いてみたけれどまだ沈黙しているままよ」
「……そうでしょうな」
こちらと互角の技量と、相応の性能を持つ機体だ。キャリアが浅いライダーと尖りの無い性能のグレイブでは太刀打ちする事は難しいだろう。そしてH-1は相手がリオスでも黙る事が多いので、それ以外の人間相手は言わずもがなである。
サリアは流れ作業のように花を摘み、リオスもそれを見習って真似をしてみるも、歪な形で千切れてしまった。リオスはそれを捨てて、新しいものを摘む。
「それと、ゲシュペンストの量産が決定されたわ」
「アレか……」
ゲシュペンストタイプ・PM。サリアがテスターを務めていた機体だ。
サリア曰く、ゲシュペンストは鈍いが悪くない機体だと評した。火力は申し分ないし装甲の頑丈さと拡張性の高さもある。あれが量産されたのならば大分ドラゴンとの戦いも楽になるであろう。メガ・ビームライフルにスラッシュリッパーの採用は大きい。
そしてテスターを行った報酬で莫大な資金を手に入れて月光丸も手に入れたそうだ。
グレイブは墓、ゲシュペンストは幽霊。縁起が悪いのは気のせいだろうか。まぁそれは兎も角だ。
「……取引、まだ生きてますかね」
「言うと思った。もう少し待ちなさい」
そんな空気を緩くする間を置いてからサリアは一通り摘むと立ち上がり「もうこれで良いでしょう」と言った。リオスも立ち上がった。
やはり、サリアの方が摘むのが上手いようで圧倒的にサリアの方が効率良く多くの花を摘めていた。リオスは小さい頃は花を摘まず家で友人たちとゲームをしていた所為か効率が非常に悪くそれの半分くらいでしかなかった。
「……下手糞ね」
「ほっとけ。花なんて摘んだ事無いんだからさ」
サリアは半笑いで言うと、リオスは不貞腐れて明後日の方向にぷいっと向いた。女性がやるから意味があるのであってそれを男がそれをやると気持ち悪いだけで、それが少々サリアには可笑しくみえた。
「あーっ、サリアお姉さまとリオスお兄様だー」
ふと、幼い少女の声がした。2人が声がした方を向くと幼年部の少女10人程とその教員。先ほどまでランニングしていた娘たちだった。リオス自身あまり気にしていなかったがちょっとした有名人になっていた。まぁ、アルゼナル唯一の男性だから嫌でも目立つという事なのか。あの特異な機体を駆っているのもある。
有名にならない訳が無い。
「サリアお姉さまとリオスお兄様に、けいれいっ!」
【けいれいっ!】
少女たちの敬礼を受けて、リオスとサリアも敬礼で返した。ロリコンではないが心が洗われるようだ。あの碌でも無いミスルギ皇国の処刑場と国民を見せられた挙句、反省房に叩き込まれたのだから。心も荒みもする。
「やっぱりサリアお姉さま綺麗でカッコいい……!」
「リオスお兄様も大人でカッコいいよね~」
―――俺が大人、か。
気付けば自分は大人になっていた。子供の頃がずっと続くのだと幼い頃は思っていたのだが、もう気付けば大人になっていて、社会の荒波の中に放り出されていた。
自分が果たして大人と呼べる人種で本当にあるのだろうかと問われれば、それは首を横に振ってNOと答えよう。大人だったらヒルダたちと喧嘩なんてせずに受け流していたし、ミスルギ皇国の国民に殺意なんて覚えもしなかった。
自分にとってヒーローたる存在であったアムロ・レイやシャア・アズナブルを越えるなんて夢のまた夢だ。―――けれども、こうやって子供たちに憧れられている責任がある。子供たちに見られて恥ずかしくないように行動しなければならない。それが大人の責任と言う奴である。
「わたし、ゼッタイ第一中隊に入る! そしてサリアお姉さまみたいになる」
「リオスお兄様みたいに赤い流星って呼ばれるようになる!」
思い思いの言葉を口にしながら幼年部の娘たちは去って行く。赤い流星という呼び名はここで初めて聞いたが、いつの間にか誰かに畏怖される存在になったようだ。何の因果か、シャアとアムロの異名を足して2で割ったような異名であることに苦笑を禁じ得ない。まだ彼らに遠く及ばないと言うのに。けれど嬉しいものは嬉しかった。
「隊長どの尊敬されてますな」
「貴方こそ」
「俺はレアキャラ補正だ。お前はフツーに尊敬されてるでしょ」
「レアキャラって何よソレ……それに私もまだ、ジル司令程では無いわ」
「謙遜しなすってぇ」
「時代劇の三下っぽいわよその喋り方」
しかしながら自分たちも随分打ち解けたものである。そんな事を思いながら軽口を叩き合いつつ、墓場に向かった。道中でこの世界に流れ着いてから半年程が経過していた事をふと、思い出した……
/
墓場まで歩くと、既に先客がいた。メイだ。
メイの眼前にある墓は【Zhao Fei-Ling】と刻まれていた。言うまでも無く女性の墓であろう。
「これ、お姉さんに」
「毎年有難う、サリア」
どうやらこの墓はメイの姉のようだ。リオスは広がる無数の墓を見渡し溜息を吐いた。何時かあの幼年部の娘たちも、この墓たちの仲間入りするのだろうか?
まだ、大人にならない内に。まだ、沢山やり残した事があるまま。そう思うと、少々辛かった。
残った花は少し離れた位置に置かれた【Leona Gilberta】と刻まれた墓に供えられた。
「レオナさん……」
メイが思い出したようにレオナという女性の墓を見下ろす。リオスは訳が分からず、サリアに問うとサリアは懐かしむように答えた。
「この墓の主はナインボール=セラフの前任者。彼女は――――――このアルゼナルに流れ着いた住所不定かつナインボール=セラフに乗った状態で漂流して来たのよ。元レイヴンと……彼女はそう名乗っていたわ。レイヴン、この言葉を貴方は知らないかしら?」
「レイヴン? 聞いた事は無いです。けれど、俺と……同じように流れてきたのか」
レイヴンという単語はリオスには初耳だった。レイヴンとはワタリガラスを意味する単語だ。何故ワタリガラスなのか? リオスはH-1に後で訊こうかと考えながら彼女の墓に供えられた白い花を意味も無くぼんやりと見ていた。
本作では第一中隊の人員が多いので原作とは異なり後方に回されていません。まぁそれがどうしたな話ですが。
そしてシャアの
最後にレイヴンとはACシリーズが分からない人は傭兵の通称と思って頂ければ簡単かと。
次回、I(いかん)S(そいつには)T(手を)D(出すな)回