クロスアンジュ イレギュラーと熾天使の輪舞   作:ヌオー来訪者

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 遂にPS2がお釈迦になった。悲しい(100秒マリーダ並感)
 そして某RPGのプロデューサーの件で胃が痛い。悲しい

 それは兎も角、今回ACシリーズお馴染みのアレが出ます。


第18話 黒い、セラフ

 リオスは帰還して改めて今回の戦闘による被害のすさまじさを痛感した。……と言うと、アルゼナルの半分が消滅した挙句、一部の区画が死屍累々の有様だったのだ。少女たちが血の海に沈み事切れている姿は少々心に刺さるものがあり、目を覆いたくなる惨状である。

 そんな中で、帰還後シエナと会うや否や唐突に抱き着かれた。どうも今日は女難の相でもあるようであるが、まぁあの赤いパラメイルの竜巻で相当な数がやられたので心配でもさせたようだ。その後、サリアが何とも言えない表情をしていたが―――

 

 結局、命令違反をしたサリアは投獄された。まぁ、当然の帰結ではあるのだが、少々気の毒だとも思う。あれだけ力の差を見せつけられれば、泣きたくもなろうもの。しかも特例でアンジュとヒルダは特例で残り2日は免除して釈放と来た。

 ……因みに顔埋められた事で機体を降りた直後リオスは無駄にデレデレしていた。降りた直後にそれがサリアに見られて「顔がキモイ」と容赦なく言われてしまった。南無三。

 

 そして機体から降りて暫くしない内にリオスたちライダーたちはジルに呼び出された。どうやら、休む暇は与えてくれないらしい。どうやらドラゴンの攻撃で本司令部は崩壊してしまったらしく、臨時として新しく司令部を拵えたらしい。休む時間も惜しい程に事態は切迫しているのは承知しているが、少しぐらい休みたい所だと、リオスは心の中で愚痴るのだった。

 

 

「残ったのはこれだけか……」

 

 ジルは仮設司令部に集めたライダーの数を見て大きく溜息を吐いた。前までは50人オーバーの数のライダーが居た筈なのだが、今では十数人にまで数が減らされていた。言うまでも無く大被害の元凶であるあの赤いパラメイルの仕業だ。

 次の戦いで何としてでも仕留めなければ、確実に終わる。幸い、虎の子の第一中隊は全員生存かつ復隊しているので戦いようは無いわけでも無い。ヒルダ、アンジュというエース格や、今は謹慎中ながらもサリアも居る。

 だが、希望を打ち消す程に、ミランダがまるでこの世の終わりのような表情で俯いていた。

 

「―――ミランダ?」

 

 リオスが声を掛けようとした所で、シエナに止められた。

 

「ミランダちゃん……友達の、あの青い髪娘、覚えてる? ココがあの赤いパラメイルの出す竜巻にやられて……」

「―――っ」

 

 リオスは己の耳を疑い、再度シエナに訊く事で確認を取るものの、シエナの言葉に変わりは無く、ハンマーでガツンと頭を殴られたような感覚を覚えた。

 ココが―――死んだ?

 ココガシンダ。それがまるで自分の脳裏に思い浮かんだ言葉すら異国の言葉に感じてしまう。実際にこの場には全てのメイルライダーたちが集合しているが、ココの姿は無い。その事実がリオスにまるで現実が「受け入れろ」と言わんばかりに嘲笑っているような気がした。

 

 

「シエナ、リオス、私語は慎め。指揮経験者は居るか?」

 

 ジルがリオスたちの私語を咎め、指揮を経験した者が居るかを問うた。リオス自身は全く指揮官の経験は無く、下っ端だったので黙して誰かが手を上げるのを待った。肝心のサリアは獄中。だが、手を上げる者が一人居た。

 

 ―――意外な事にヒルダだった。

 

 リオスやアンジュが来る前にでも隊長でもやっていたのだろうか?

 

「パラメイル部隊を統合。今後、再編成する。暫定隊長はヒルダ。エルシャ、ヴィヴィアン、シエナが補佐に付け」

 

 だが、ジルの指示に異を唱える者が居た。ロザリーとクリスだ。

 投獄されていた時、ロザリーたちがヒルダを詰っていた事をリオスは思い出す。投獄2日目程でロザリーたちが現れて、裏切り者と糾弾したのだ。そして彼女にトドメを刺すようにヒルダが買い取っていたゾーラの遺産が没収されたのを買い直して取り戻したのだという。裏切り者に隊長のものを使って欲しくはない、という言葉も添えて。

 事情を知らない本人たちからすれば明らかな裏切りでしかないし、母親に会いに行ったと言っても恐らくは彼女たちの気持ちは変わらないだろう。所詮は裏切りでしかないのだから。

 

「コイツ脱走犯ですよ? 脱走犯が隊長って」

「サリアで良いじゃない!」

 

 ロザリーとクリスが口々に異を唱え、ヒルダは二人に眼を背ける。まるで立場が逆転したみたいだ。以前はヒルダが二人を裏切り者と詰っていたが、今度は二人がヒルダを裏切り者と詰っている。

 

「……サリア隊長は命令違反で投獄されたよ」

 

 リオスがロザリーにサリアの行方を伝えると、ロザリーたちは驚愕の表情を見せた。やはり彼女たちの間でもサリアは命令違反をしない人間だという事で通っているらしい。

 

「文句があるならばアンタがやれば?」

 

 ヒルダはロザリーたちに向き直り、棘のある言い方で返すとロザリーは答えに窮した。

 

「しっ、司令の命令だし仕方ないし認めてやるよ」

 

 前までずっと腰巾着として動いていた人間がリーダーなんてものが出来る訳も無く、クリスに同意を求めるとクリスも慌てて同意した。……最早何も言うまい。

 

「パラメイル隊は部隊の再編制を行った後、周辺警戒に当たれ」

『イエス・マム!』

 

 全ライダーが敬礼し、其々持ち場に付くべく格納庫に向かって走って行く。そんな中で、アンジュだけ、命令に従わずにこの場に残った。どうやらタスクの事でも問うつもりらしい。だが、このタイミングで問うてもどうせ答えてはくれないだろう。ただでさえ切迫した状況だと言うのに。リオスはジルの返答を聞く前にこの場から去った。

 

 

 再編成の後で補給完了したナインボール=セラフに乗り込んだその時だった。

 突如として警報が鳴り響いた。内容は生きている小型ドラゴンがこのアルゼナル内に一匹居るとのこと。

 ドラゴンとの戦いが終わって暫くしたというのに何故、気付かなかったのだろうか? ブライト艦長ならば「何故気付かなかった!」と激怒する事間違いない。まぁ状況が相当混乱していたので仕方がないとは言えなくもないが。

 

 

 再編成された部隊はヒルダの指揮のもとで分担してアンジュとリオスは屋上に出て、逃亡したドラゴンを待ち伏せた。ドラゴンはアルゼナル周辺を飛び回っており、咄嗟に二人はアサルトライフルを構える。

 

 直ぐに仕留める。……と二人は意気込んで引き金に指を掛けたもののドラゴンは抵抗の意志を見せなかった。それを二人は不審に思った。しかも何かを訴えているかのようにぐるぐると円を描くように飛び回っている。そして歌を歌うように吠えていた。

 

―――降伏? いや、それならば着地する筈。何がしたい?

 

 よく聴くと、それは何処かアンジュたちがヴィルキスを変貌させて竜巻を発砲した歌に似ているとリオスはふと気付いた。リオスよりそれにいち早く気付いたアンジュがその歌を口ずさみ始めて、前に出た。

 前に出ても、ドラゴンは攻撃する素振りを見せない。暫く円を描くように空を舞った後で、アンジュのすぐ目の前で着陸した。リオスは、アンジュに任せてみる事にした。いざとなれば援護すればいい事だ。

 

 ドラゴンを追ってヒルダ、クリス、ロザリーが慌ててライフルを構えたが、リオスは両腕を横に広げて妨害した。

 

「リオス! 何邪魔をしてんだ、どけ!」

 

 ロザリーが邪魔をするリオスに苛立ちながら叫ぶ。それでも尚、リオスは下がらなかった。

 

「ここは……アンジュに任せてやってくれ」

「あぁ?」

 

 ヒルダは不審げに顔を顰めてリオスを睨んでいるとアンジュの歌が終わり、ドラゴンの姿が霧に包まれた。エルシャ、シエナ、ジル、ミランダ、そして緊急で釈放されたらしいサリアがその直前に現れたが、霧が発生して薄くなっていくのを見てミランダ以外全員武器を下げた。―――そう、ミランダ以外は。

 

 銃声がこの場に響いた。

 

 咄嗟にリオスは身体を動かして射線上に立ってドラゴンとアンジュの盾になった。幸い、位置が悪かったか頬を掠めただけで背後のアンジュたちに危害は及んでいない。

 

「止せ、ミランダ!」

 

 ……撃ったのはミランダだった。リオスは頬の痛みでふらつき、2、3歩下がる。

 ジルが撃ったミランダを咎めるがミランダは銃を下げる事はない。……銃を構えるミランダの顔は、怒り、憎しみに染まっていた。その顔を見た近くに居る者は戦慄した。憎悪をむき出しにしたその顔に。

 

「邪魔しないでくださいよ! 司令、リオスさん! ドラゴンは―――全部……殺すんだから!」

 

 

 修羅に染まった彼女の顔にリオスはこれまでの彼女らしからぬ行動に唖然とした。だが、彼女を動かしているものが何なのか、何となく見当はついていない訳でも無かった……

 

 

 ミランダにとってのココは小さい頃から、それもアルゼナルに来たばかりの幼年部時代からの友達だった。二人とも、物心がつく前から母親から引き離されてアルゼナルに連れて行かれたのだ。ココはまるで家族のようなものだった。血のつながった姉妹のようだと幼年部の教師はよく、そう評したものだ。

 ココは絵本が好きだった。皆が絵本から学級文庫レベルに読む本が移行してもココは未だに絵本を読み続けており、他の皆がよくそれを笑っていた。ミランダはそんなココを庇いつつ、ココの外の世界についての想像をよく聞いていた。そんなココの顔はとても楽しそうで、そんなココを見るのがミランダとしても楽しかった。

 

 アンジュが来て、命令違反を犯してしまい第二中隊に転属された後もそんな日々は変わらなかった。最初は心配したが、他の隊員たちと仲良くなってきているらしく、ココ自信も地味ながらも操縦技術を上げていて、それは杞憂に終わった。

 一杯頑張って、ドラゴンを全てやっつけたら魔法の国に連れて行って貰えると、ノーマが行ける訳が無いのに、そう、彼女は信じていた。それが彼女を動かしていたのかも知れない。そんな危なげながらも真っ直ぐに頑張るココを見守るのがミランダにとって全てでは無いが、半分を占めていたのには間違いない。

 

 そして偶然、ココだけでなく、幼年部時代の友達に会った。それはフェスタから少し前の事。自由時間が重なった事による偶然だったのだが、ココと一緒に皆で談笑しながら久々に昼ご飯を食べた。

 

 今居る部署はどんな感じ? とか、幼年部時代の思い出とか。

 

 最後の別れ際、また皆で会う約束を取り付けた。フェスタだけでは無く、他の時も。ミランダはココは特別であったが幼年部時代の同期の皆も大好きだった。ずっと友達で居られると、そう思っていた。

 だが―――その約束っが果たされる前に、あの赤いパラメイルがココやアルゼナルの半分を吹き飛ばした。ココだけでは無い。ミランダの幼年部時代の友達で別の隊に配属された人間が悉く、いや、全てあの赤いパラメイルたちが吹き飛ばしたのだ。

 

 ―――何もかもを、だ。

 

 そしてドラゴンたちが赤いパラメイルの攻撃に続くようにアルゼナルを襲い、暴れまわり追い打ちをかけるように沢山の命を奪い尽くす。約束があったのに、これからもずっと友達だと思っていた者たちが悉く消し飛んだ。

 

 ココの死を知らされた時は、最初は胸にぽっかりと穴が空いたかのような感覚で、何かを成そうという気力もわかなかった。もう、ココや皆の声を聴くことは出来ない。もう、二度と会えなくなるという事を。

 ミランダは天国や地獄なんて信じない。死んでしまえば終わりだと信じるタイプだと自分でカッコつけてそう思っていたのだけれども、今回ばかりは信じずには居られなかった。ドラゴンさえいなければこんな事にはなりはしなかった。

 そう思っている内にミランダの腹の底の憎悪が渦を巻き始めていた。それは次第に広がって行き、ドラゴンへの憎悪を募らせていく。

 それが爆発したのは―――辛うじて生きながらえながらも虫の息で戦闘後医務室に運ばれ横たえていた友人の絶え絶えの最期の言葉だった。

 

 痛い、助けて。ミランダ。

 

 繋げると、そんな言葉だった。

 助けを請う友人は片目が潰れてそれの血が溜まって血の池にになってしまっており、片耳が吹っ飛び、腕が吹き飛んでいて、最早素人目からみてまともな生活を送れない見るにも無残な姿になっていた。

 何故このような事をするのか。何故そんな事をするのか。ドラゴンたちはそんな疑問なんて耳も貸さずに人間を喰らい、引き裂く。そんな冷血なドラゴンがミランダは許せなかった。

 

 そして―――生き残りのドラゴンが現れた事を耳にしたミランダは必ずや一匹でも多くのドラゴンを倒すと決意した。相手も生き物だ。

 知ればいいのだ。大切な人と二度と会えなくなる辛さと、悲しさを。

 

 無抵抗のドラゴンを撃とうとしたミランダを動かしていたのは、そんな怒りと憎しみだった。

 

 

 

 リオスが邪魔する事でアンジュやドラゴンに危害は及ばなかった。ドラゴンの身体から白い煙が発生してから暫くすると―――霧から小さな人のシルエットが露わになり、聞き覚えのある声を放った。

 それにミランダは限界まで眼を見開き、信じられないものを見るような目をしていた。何事かとリオスは背後を向くとリオスもミランダ程ではないが驚愕の色に染まった。

 

「ここでクイズでぇす! 人間なのにドラゴンなのってだーれだ! ……あっ、ドラゴンなのに人間? あれれ……意味、分かんないよ……」

 

 このクイズを他人に出したがる癖、そしてその短い赤の髪。もう見間違う事は無い。

 ヴィヴィアンだ。ジルとアンジュ以外は信じられないような表情でヴィヴィアンを見る。

 

「お帰り、ヴィヴィアン」

 

 何故分かっていたのか知らないがアンジュがそう言うと、ヴィヴィアンはアンジュに抱き着いて泣き出した。これで大団円……という訳にも行かず、アルゼナルの医者であるマギーがジルの指示でやってきて麻酔を打ち込み、麻酔を撃ち込まれたヴィヴィアンは糸の切れた人形のように頽れた。

 

「何がどうなっているの……」

 

 呆気に取られるシエナ。シエナだけではない、リオスも、ヒルダも、ロザリーも皆呆気に取られて一連の状況を見ていた。

 ドラゴンの仲間は機体を持って居て歌を歌った。そしてドラゴンは人間に変貌した。そして以前戦闘の際に感じたドラゴンから発せられた人間に近い感覚。まさか―――

 リオスの脳裏には殆ど答えは出ていた。それはアルゼナルのライダーにとって酷な真実。彼女たちは人間を護る為に害獣対峙をしていたつもりだった。

 

―――本当の所は、俺たちは……

 

 マギーがヴィヴィアンを連れ去った後、アンジュとほぼ同じタイミングで、ドラゴンの死体を廃棄している現場まで走った。それを追うようにしてアンジュを追ってやって来たモモカや、ヒルダたちも何事かと思いながら二人を追う。

 走っている内にドラゴンの死体が掘られた大穴に放り込まれている光景が近づいてくる。

 

―――その答えは……

 

 ドラゴンの死体の処理をしていたジャスミンの後ろ姿が見える。そして傍にいた犬がリオスたちに勘付いて吠えるとジャスミンはリオスたちに気付いて「来るんじゃないよ」と警告する。だが―――そんなもので止まるほどアンジュは素直では無いし、リオスもアンジュより素直な方だが、行き着いた結論を知る為に止まりはしなかった。

 

―――俺たちがやって来た事は……!

 

 ジャスミンが慌ててガソリンをぶちまけてから火を点けたライターを放り込んだ。ガソリンのお陰で簡単にドラゴンの死体たちは燃え上がり、熱気が近くに居る者たちを襲う。

 

 リオスたちを止める術を持たぬジャスミンを尻目にリオスは燃え上がる大穴に放り込まれたドラゴンたちを見る。暫くすると、リオスの鼻に兵士としては何度も嗅いできた不愉快な臭いが突いてきた。

 

「どう……なっているの?」

「―――やっぱり……そうだったんだな」

 

 アンジュが燃え上がる炎の中をみて目を見開き、リオスは思いついた最悪の可能性が的中した事に険しい顔で燃える死骸たちを見た。先程までドラゴンしか居なかったというのに、炎の中には人間が混じっていた。そう―――ドラゴンが人間に戻っているのだ。

 後に続くようにやって来た第一中隊メンバーも、炎を見て驚愕の表情を見せていた。

 

「何……これ」

「ドラゴン……だよな? そうだよな?」

 

 エルシャは思わず後ずさりしてロザリーは目の前の状況が信じられないのか、確認するかのように誰かに答えを求める。そしてリオスは重い口をゆっくりと開いた。

 

「俺たちは戦争をやっていたんだよ……害獣狩りなんかじゃない。形は歪だけれども、本物の人間同士の戦争を……やっていたんだよ」

「嘘……」

 

 シエナが目の前の現実が重すぎたかたじろぐ。当然だ、それが普通の反応だ。知らず知らずの内に人を殺していただなんてそんな事実に耐えられる訳が無い。しかも、沢山、数えきれない数の。

 

「よくある話だろう? 化け物の正体が人間でした……なぁんて」

 

 ジルがゆっくりと歩きつつ煙草を吸いながらそう言う。リオスの眉間に更に皺が寄って来た傍ら、アンジュが吐き気を催し口元を抑え、治まった所でアンジュは己がやって来た事を振り返り自分の両手を交互に見ていた。

 

「気に入っていたんだろう? ドラゴンを殺して金を稼ぐ生活、そんな暮らしに」

「……くたばれクソ女ッ!」

 

 アンジュは怒りのままにジルを睨みつける。そんなジルの煽りに堪えかねたリオスはリオスは怒りのままに詰め寄った。

 

「アンタは知っていたのか……! ドラゴンが人間だって!」

 

 知っていながら少女たちに殺しを強制していたのか。それにジルは怯む事無く返した。

 

「あぁ。お前は何故怒る? 元軍人としてか? それとも……人間としてか?」

「そんなものはどっちもでもいいし兵士である俺は既に覚悟は出来ている! でもアンタは何も知らないガキどもに知らず知らずの内に人を殺させていたのか!?」

「否定はしないさ。だが、どう足掻いても我々ノーマがそうせざるを得ない。そうする事が我々ノーマの生きる術なのだからな」

「―――ふざけやがって」

 

 悪態をつくリオスにジルは不敵にフッと笑う。一体何がおかしいのだこの女は。リオスは沸きたつ怒りを抑え乍らも睨むが、ジルは動じる事をしない。

 

「あぁ、ふざけているだろう? この理不尽極まりない世界の構造に」

「何を―――ッ」

「では壊してみないか? このふざけた世の中を」

 

 壊す?

 リオスは戸惑い顔を顰めた。戸惑うリオスを他所にアンジュはジルに吐き捨てるように叫んだ。

 

「もうヴィルキスには乗らない、ドラゴンも殺さない。リベルタスなんて……クソ喰らえよッ!」

 

 リベルタス。初めて聞く言葉にリオスは困惑するも、ジルは「神様に飼い殺されたいならそうすれば良い」とアンジュを煽るような言葉を言いたいだけ言ってからこの場を去って行った。ジルという女がリオスには分からなくて不気味さを覚えずには居られなかった。あの女は確実に他に重要な何かを隠している。そんな気がしてならないのだ。

 

 ジルに対する疑念を抱えながら、燃えていくドラゴンに対してリオスたちは責めてのものとして黙とうを捧げた。これが何の意味も無いし、所詮自己満足でしかないのは分かっては居たが、そうせずには居られなかった。

 そんな真っ最中―――何もない場所から立体映像が突如として現れた。

 

「―――なんだこれ?」

「マナの力による映像です!」

 

 唐突として現れて驚きつつ口にしたリオスの疑問にモモカが答えていると、映像に映し出されたニュースキャスターのような女性が口を開いた。

 

『こちら、ノーマ管理委員会直属、国際救助艦隊です。ノーマの皆さんドラゴンとの戦闘、お疲れ様でした。これより皆さんの救助を開始します。全ての武器を捨てて脱出準備をしてください』

 

 それは唐突の事だった。人間がノーマに助け寄越すという事にリオスたちは驚きを禁じ得なかった。人間はノーマを見下し危険な存在とすらしているというのに。

 

「アンジュリーゼ様、助けです! 助けが来ましたよ!」

 

 モモカが喜びのあまり声を上げるが、正直言って、ヒルダやリオス、そしてアンジュにとっては信じがたい事であった。まぁやられてきた事がやられてきた事だから致し方あるまい。それにアンジュは殺されかかっても居るのだ。

 どうせ、助けてくれた所で新しい拠点に持っていかれてドラゴンとの戦いを再びやらされる事は間違いないだろう。―――それに

 

 アルゼナルの対空砲の隔壁が全てオープンして、その直後海にある艦隊からミサイルを放ってきたのだから。

 

「小娘共、来るよ!」

 

 ジャスミンの警告通りミサイルがアルゼナルに着弾し、対空砲を悉く破壊した。それを受け、全員ミサイルの爆発から逃れるように内部へと走り出した。

 

 

 リオスが逃げ込んだ先は、幼年部たちの居る教室だった。エルシャが幼年部たちを放っては置けないと言ったのが理由だ。他のメンバーは教室の外の通路で武器の準備をしている。

 

 子供たちが怯える中でエルシャが子供たちの気を落ち着かせるべくオルゴールを流していた。それでも尚、子供たちは怯えたっきりだ。まぁミサイルがひっきりなしに飛んでくる中で落ち着けというのも酷な話である。

 間違いなく本気で全員を殺しに掛っている救助艦隊に、リオスは舌打ちした。

 救助するふりして騙して悪いがと言わんばかりに無抵抗の人間をやる腹積もりだったのだろう。まるで旧UCEがやろうとした事と同じではないか。そんなリオスの心境に答えるかのようにアルゼナルの全区域のスピーカーからジルの声がした。

 

『諸君、これが人間だ。奴らはノーマを助けるつもりなど端からない。物のように我々を扱い、別の戦いに従事させるつもりだ。それを望まぬ者は投降しろ。抵抗する者はここへ来い。これよりアルゼナル司令部は人間の管理下より離脱する事を宣言する。よって―――反抗作戦をこれより開始する。作戦名は……リベルタス』

 

 リベルタス……先ほどアンジュが言っていた事だ。ジルの口ぶりからしてこうなる事は既に織り込み済みだったとでも言うのか?

 他人に知らない内に手段のコマにされる身は堪ったものでは無いが、今回ばかりはこの作戦に乗ろうとリオスは決意した。ミサイルをぶっ放すような連中に投降しても碌な事が無いのは目に見えている。

 

『志を同じくする者は武器を持ち続け、アルゼナル最下層へと終結せよ。以上だ』

 

 通信が終わり、リオスは深呼吸をした。これはかなり忙しくなりそうだ。それにナインボール=セラフの回収をせねばならない。さて、行こうとリオスが決意したその時だった―――

 

「リオスお兄様、大丈夫だよね?」

 

 幼年部の少女一人が涙声で問うた。これまでにない事態で正直言えば不安しかない。だが、それでも―――

 

「最大限の―――努力はするよ」

 

 自分に出来る最大限の努力をする。それがプロフェッショナルというもの。遠くから銃声が聞こえたので咄嗟にリオスとエルシャが手持ちのライフルを確認しながらヒルダたちの居る外へと出た。エルシャもまた、ジルのリベルタスに参加する気満々であった。

 そして現第一中隊隊長であるヒルダもこれまでにされたこともあってリベルタスに乗り気ではある。だが―――リベルタスなんかクソ喰らえと言い放ったアンジュはヒルダの近くに先ほどまでずっと居た筈なのにこの場から去っていた。

 

 

 

 既に、かなりの数の兵士がアルゼナルに降下してきていた。黒ずくめの装備をしていた兵士たちがアサルトライフルを連射する。だが、装備だけは一丁前で練度はそこまで大したものでは無く、本場の訓練をしてきたリオスには大した相手では無かった。出来るだけ急所は狙わずかつ無力化させるためにライフルを兵士に命中させて無力化した兵士からこちらより質の良い敵のアサルトライフルをもぎ取る。

 既にかなりの数のアルゼナル側の人間の死体をリオスは目にした。

 その中には武器らしきものも持って居ない既に手負いの者も居る。

 

「何て事を……!」

 

 思わず怒りの入った言葉が漏れる。気に食わなかった。彼らの行いがノーマ相手ならばどんな手段を取っても良いとでも考えているようで。

 リオスは単独で第9番格納庫に向かっていた。隊長であるヒルダから言われた事なのだが、各ライダーは自分の機体に乗って敵を迎撃しろとの事。

 自分の機体がある第9番格納庫はノーマークだったらしく、そこまでには兵士の手は及んで居なかった。

 

「来たね! 早くセラフに乗って!」

 

 整備士たちが機体を何時でも出撃できるようにスタンバっていたようで、ナインボール=セラフのエンジンは既に温まっていた。急いでコックピットに乗り込み、起動スイッチを入れる。

 

【ドラゴン以外の反応。何が起こっている?】

「人間がこちらを攻撃してんだ!」

 

 リオスは水中カタパルトに機体が移動していく間に、H-1に事のいきさつを説明する。H-1はそれになにもコメントをしなかったので彼が何を考えているのか分からなかった。だが、分からない奴の力を借りるしかないのだ。今は。

 

「生き残るぞ……H-1」

【それは生存欲か】

「そうだよ!」

 

「第一中隊所属のリオス! ナインボール=セラフで出ます!」

 

 水中カタパルトから射出され、ナインボール=セラフは水中から浮上した―――途端にリオスは驚愕し、絶句した。

 

「何じゃこりゃ!?」

 

 無数の扁平な円盤がそこらかしこにアルゼナル前を飛び回っていたのだ。その数はドラゴンの比では無い。既に出撃しているパラメイルも居たのだが、それらの対処には手を焼いているようで彼女らがアサルトライフルを乱射しても一向に数が減っていなかった。そして一機が無数の円盤が張り付いて一機の味方パラメイルをいずこへと連れ去ってしまった。

 

【警告する、上空から大型熱源反応】

 

 連れ去られゆくパラメイルを追おうとした矢先影が日差しを遮った。一体何なのかとカメラを真上に動かそうとすると真上からグレネードが落ちて来た。それを間一髪で避けてから上を見ると、巨大な飛行物体が、上空を浮かんでいた。

 

「あ、あんなものまであんのかよ!?」

 

 その大きさはパラメイルと比べて大きなナインボール=セラフの何倍もあった。それがアルゼナル上空を飛んでおり、グレネード弾を発砲してくる。そんな殺す気満々な兵器にリオスは顔を引き攣らせた。しかも、他パラメイルには一切目もくれずにナインボール=セラフだけを狙って来るのだ、おびただしい数のグレネード弾とミサイルが。

 

「嘘だろちょっと待ってよマジで!?」

 

 リオスは悲鳴を上げ乍ら、飛行形態でグレネード弾とミサイルの雨から逃げ回った。しかもこれだけでは終わらず、円盤たちも機銃を放ったり、刃を出して突進まで仕掛けて来る。ブライト艦長も認めるであろうあまりの弾幕にリオスは顔をドラえもんの如く青ざめさせた。

 

【V-Driveシステム安定 オービット解放する】

 

 そして唐突にまた訳の分からない事を言いだすH-1。もうやだこの戦場。そう思っていると、ナインボール=セラフのバックパックから何かが出て来た。そして放たれたそれはナインボール=セラフの周辺を飛び回り、レーザーを放ち近場の円盤を撃墜してから本機の周囲を衛星の如く飛び回っていた。

 何事かと思ったが、H-1の言葉を思い出す事で大体察した。

 

 先程オービットと言ったのだ。リオスは、落ち着いてオートマチックモードのオービットにセミオートモードに変えて指示を飛ばした。

 

「オービット! 円盤を撃ち落とせ!」

 

 リオスがそう命じると、オービットは勝手に動き、其々散開して円盤を叩き落としていく。後は、大型飛行兵器だ。大型兵器を倒さなければアルゼナルそのものも自分も危ないし、連れ去られた味方を助け出す事も出来ない。

 試しにチェーンガンを放つが、当たっても巨体故にさして通用していなかった。……近づいてブレードで武器が無いであろう背後からバッサリ斬るのが適切なのかも知れないが、大型飛行兵器はブースターを沢山付けているからか出力が高くて思いの外動きが速い。それでいてグレネードをマシンガンの如く降らせてくるものだから堪ったものではない。

 

 再び放たれたミサイルに機体をブーストさせて振り切るべく飛ばした。だが、ミサイルの追尾は執拗で中々振り切れない。ならば―――

「オービット! ミサイルの迎撃をしろ!」

 オービットにミサイル迎撃を命じると勝手にミサイルを撃墜してくれた。これならば勝てるか―――そう思った矢先オービットが勝手にバックパックに帰ってしまった。

 

【オービットの再充電、再使用可能まで1分】

 

 どうやらそこまで万能兵器では無いらしい。落胆しつつ、巨大飛行兵器をどうするかを考えつつミサイルやグレネードから逃げ回っていると、シエナが通信を送って来た。

 

「リオス! 大丈夫!?」

「―――シエナか」

 

 攻撃を辛うじて振り切ると、シエナの新しい機体であろう正式量産されたゲシュペンストがナインボール=セラフの近くにやって来た。―――これならば……

 

「シエナ、アレを倒すために一つ作戦があるんだが良いか?」

「え……えぇ」

 

 同意を得られた事だし、リオスは作戦をシエナに提示した。

 内容は、リオスを狙っているのを逆手に取るという簡単なものだ。ナインボール=セラフの機動力で辛うじて逃げ回れるので、隙が出来た所でメガビームライフルやスプリットミサイルでブースターを破壊。機動力を奪った所でナインボール=セラフが接近しブレードで切り刻む。

 

「それって危ないんじゃ……」

「それ以外に方法は無いし、ほっといたら多分碌な事をしないぞあんなの!」

「……了解」

 

 少々不満があるのか、シエナが渋々と返事しつつ、メガビームライフルを構えた。円盤が近寄らないようにオービットにシエナのゲシュペンストを護衛をさせる。

 作戦開始時には大型飛行兵器はグレネードとミサイルを放っていた。それを先ほどと同じようにナインボール=セラフの飛行形態で回避行動を取った。

 シエナはその間に大型飛行兵器のブースターを狙っていく。―――そして。

 

 隙を見つけて、引き金を引いた。

 

 光の弾丸は、大型飛行兵器のブースターをいともたやすく射貫き、ダメージを受けたブースターから煙を上げて大型飛行兵器はバランスを崩す。そして速度を落としていく。更に追い打ちを掛けるようにしてミサイル発射装置も狙撃して破壊してしまった。

 

―――チャンスだ!

 

 リオスは機体のアクセルを踏み、最大速度で大型飛行兵器の背後に回り込み、そこから機体の真上に人型形態に変形してから乗った。真上には武器が一切無く、乗られてしまえば反撃のしようもない。それをいいことにエネルギーブレードを両腕に展開してから滅茶苦茶に切り裂いた。内部のエンジンまで斬れたか、大型飛行兵器は爆発、炎上しナインボール=セラフは爆発に呑まれないように退避した。

 そして大型飛行兵器はあえなく海上へと墜落。そして水柱を上げて海の藻屑と消えた……

 

【巨大兵器の撃墜を確認】

「よし」

 

 H-1からの報告を受けて、リオスは一息を吐いた。だが―――それだけで終わる訳が無かった。

 

「リオス!」

「―――えっ」

 

 海上から水柱を立てて、ナインボール=セラフの背後から、人型機動兵器が姿を現したのだ。その機体は黒く、背中には巨大なブースターを背負っている。それが何なのか分かる前に腕から形成されたエネルギーブレードがリオスのナインボール=セラフに振り下ろされる……筈だった。

 横殴りに衝撃が襲った。

 ナインボール=セラフが衝撃で吹っ飛び、黒い機体が振るったエネルギーブレードがナインボール=セラフに命中する事は無かった。―――その代わりに、シエナのゲシュペンストが切り裂かれた。そして黒い機体は追い打ちを掛けるようにしてもう一振り振るおうとする。

 

 そうはさせないという気持ちこそあれど、間に合う訳が無かった。崩れた機体の体勢を立て直すのに時間を喰ってしまい、間に合わず―――無情にも……シエナのゲシュペンストは四肢を切り裂かれて―――達磨にされ海へと落ちた。

 

「シエナァァァァァァァッ!」

 

 リオスの絶叫が海の上で木霊した。

 シエナのゲシュペンストは水没したまま上がっては来ない。助けに行こうにも、黒い機体が邪魔をする上に、黒い機体を見た途端にリオスは硬直してしまう。

 

「……黒い……セラフ?」

 

 シエナのゲシュペンストをやったのはリオスのナインボール=セラフと同じ形状をしたものだった。黒い、という点以外は正にナインボール=セラフとは違いが無い。

 

「よくも……シエナをッ!」

 

 リオスは吠えながら機体をブーストさせた。オービットはとっくの昔にバックパックに帰還しており絶賛充電中だ。ならばブレードで叩き切るかパルスガンで蜂の巣にするしかないだろう。だが後者ではパワーが無い。相応の連射力があれば、別なのだが。

 

【どうやら大型飛行兵器の内部に格納された機体のようだ】

 

 H-1の解説などリオスは全然聴いて居なかった。今はこの黒いセラフもどきを破壊する事だけ、リオスの頭の中にあった。




ミランダ「死後の世界とか無いわー有り得ないわー」
バイストン・ウェル「」

今回の話を書いていて私の中で何故か霧が濃くなった。
???「復讐心は悲しみの連鎖を生むだけですよ、ヴァンさん」
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