クロスアンジュ イレギュラーと熾天使の輪舞   作:ヌオー来訪者

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 ここら辺から本番。


第20話 ロスト・ワールド

 生暖かくこそばゆい感触を感じる。何か犬にでも顔を舐められているような、そんな感じだ。リオスは暗闇の中で先ほどまで起こった出来事を思い返す。

 意識がある、という事は生きている。という事か? それにしても何かが頬をチロチロ舐めてきてくすぐったい。リオスは眠気を押さえつけて乱暴に目を開くとそこには―――

 

 

 小型ドラゴンが顔を覗かせていた。

 

「…………えっ、うわああああああああああああああああああっ!?」

 

 これで驚かない訳が無い。反射的にリオスは引き下がり悲鳴を上げる。だが、小型ドラゴンは何もしてこなかった。悲鳴を上げている内にリオスはある可能性に行き着いた。

 

 

「って、お前もしかして……ヴィヴィアン?」

 

 ドラゴンはこくりと頷いてから肯定するように小さく鳴いた。

 

「何だよ驚かせるなよ……」

 

 リオスは安堵で溜息を吐いてから、既に開かれていたナインボール=セラフのコックピットから顔を出した。すると、外の光景が妙だとリオスは勘付いた。

 妙だ。自分たちは先ほどまで海上で戦闘をしていた筈だ。まさか、あのまま死亡して自分はバイストン・ウェルに居るのではないかと思いかけたが、機体まで残っているものなのかと疑問に思う。

 もし、死んだなら死因である竜巻で自分より先に機体が消し飛んでいる筈だ。

 

 今居る場所は陸上だった。それも市街地の中。だがそれは最早廃墟に等しい状態だった。かなり時間が経っているのか緑がビルにも道路にも見境なく生い茂っており、モニュメントと言うには余りにも歪であった。

 

―――ここは一体?

 

「目を覚ましたんだね」

 

 青年の声がして、声の方を向くとタスクが銃をもってこちらへやって来た。

 

「タスクか。ここは一体?」

「俺も分からない。こんな廃墟と化した場所なんて見た事が無いが……」

 

 タスクも知らないらしく、リオスは試しにコックピットに再度潜り込みアルゼナルに通信を送ってみる。だが、返答は無く、スピーカーから出て来る音声はノイズのみ。ヒルダやロザリーなどにも連絡を入れようとするも、やはり無反応。

 再度飛んでみようにもH-1曰く駆動系が幾つか破損していると言っており、彼の言う通りピクリとも動きはしなかった。……これは面倒な事になった。

 

「……俺も機体の通信機を確かめるよ。アンジュも駄目だったみたいだけれど」

 

 タスクの発言にリオスはコックピットから再び顔を出した。

 

「アンジュも居るのか?」

「あぁ、アンジュも既に目を覚ましている。サリアも居るけれど、まだ目を覚ましていない。見た所怪我は無いし、機体がダメージを負っている以外は多分大丈夫だとは思うけれど……」

「そっか」

 

 どうやら、指揮艦に突っ込んだ者全員がここに居るらしい。問題のサリアは近くの建物に凭れて寝かされていた。

 全員が無事(?)である事にリオスは安堵しつつ、通信はまるで使えないという事で諦めて、他のセンサーも確かめてみるが全く以て機能しなかった。

 

「リオス! アンジュ!」

 

 暫くすると、近くで墜落していたタスクが乗った量産型クラウドブレイカー改の開いたコックピットから声がした。アンジュのヴィルキスは自機から少し離れた場所に墜落していたが、そこからアンジュが出てきて、リオスもナインボール=セラフから飛び降りてタスクのもとへと駆け寄った。

 

「……GPSが反応した。―――Japanのトウキョウと書いてある」

「何処よソレ」

 

 タスクとアンジュが不可解げに量産型クラウドブレイカー改のモニターを見ていると、リオスは顔を青ざめさせた。

 

―――ジャパン、だと?

 

 ジャパン。地球では極東に位置しラー・カイラム隊では勇やショウたちがそこの出身だった筈だ。

 だが、先程まで居た世界は日本などと言う地名は存在していなかった。今居る場所が日本だというのであれば何処かに通信が繋がる筈。……だが、日本にここまで酷い廃墟はあっただろうか? 比較的日本は戦火に包まれずに済んだと聞くのだが。

 

「タスク、ちょっと代ってくれ」

「あ、あぁ」

 

 リオスは確認すべく、タスクとコックピットを代わり通信コードを知る限りのものを打ち込んでみる。だが―――

 

「無反応、か……」

 

 タスクの落胆の声が全てだった。モニターにはエラー表示が成されており、全くの反応ゼロ。リオスは肩を落とした。

 

「リオス、アンタやけにこの機体について知っているようだけれど……何なの?」

 

 アンジュが問うと、リオスは頭を掻きながら答えた。

 

「UCEのロンド・ベル、ラー・カイラム隊所属のリオス・アルバート軍曹。それが俺のアルゼナルへ入る前の肩書だ。その時コイツに乗っていた」

「……え? ちょっと良くわからない。分かるように説明しなさい? この機体はタスクのものじゃないの?」

 

 アンジュはリオスの言葉の訳が分からず、怪訝な表情で分かるように説明しろとリオスに求める。リオスは返答に困り少しの間考え込んでいると、タスクが口を開いた。

 

「この機体は間違いなくリオスのものだ。何かしらの拍子で離されてしまったみたいだけれど、この機体自体アルゼナルでは造られたものでは無いし、技術系統的にエンブリヲの手によるものでは無い。奴は無人機を基本的に扱うからね。俺はリオスから切り離された機体を借りて活動していたんだ」

 

「……そう言えばアンタ漂流して来たって言ってたわね。序でに色々訳の分からない事を言っていたし。所でそのUCEってのは何なの?」

 

 アンジュが一つ納得した所でリオスやタスクにマシンガンの如く質問をぶつけて来る。それにリオスは少々疲れ乍らも一つずつ説明した……のだがやはりアンジュやタスクには突飛すぎるもので納得の一つもしていなかった。

 ティターンズだのOZだの連合宇宙軍だの言っても予備知識が無い人間に言ってもちんぷんかんぷんでしか無いのは目に見えた結果である。

 

「ここは俺の知る限りでは極東と呼ばれる国だ。ジャパン。現地の人間は日本と呼んでいる」

「ここが貴方の故郷だとでも言うの?」

 

 アンジュの問いにリオスは首を横に振った。

 

「俺はもう少し遠い。オリヴァーポートと呼ばれる実験都市出身だ。そこでクラウドシリーズが生まれ、俺はコイツのパイロットになってロンド・ベルに異動となった」

 

 正直納得しているとはお世辞にも言えないアンジュとタスクの表情。まぁ仕方がないだろう。まるで違う世界の話をされれば困惑もする。あっちではそれに加え『頭イカレてるんじゃないか』って顔をされたが。一つ間を置いてからリオスは口を開いた。

 

「多分、俺はお前らからすれば宇宙人か何かだ。アルゼナルなんてものも、ミスルギ皇国なんてものも無かったし、パラメイルなどと呼ばれる兵器も存在していなかった。戦争も世界中で日常茶飯事に行われるような世界に俺はいた」

「じゃぁ、わたし達、別の惑星にでも来たと言うの?」

 

 アンジュは驚愕の表情で、まるで信じられないものを見るかのように廃墟を見回す。そんな彼女にトドメを刺すようで悪いとは思ったものの、状況を受け入れてもらわねばかなり厳しい状況下にある事を知って貰わねば困る。だが、タスクがリオスより先に口を開いた。

 

「そうなってもおかしくはないと思う。ヴィルキスならば」

 

 タスクの発言に二人は顔を顰めた。確かにヴィルキスは摩訶不思議な現象を起こしまくっていた。ボロ機体から生まれ変わるように新品のような機体へと生まれ変わったり、ハイパー化したZガンダムめいた動きをしたり。

 ヴィルキスに乗っていたアンジュとヴィルキスの戦いを近くで見ていたリオスはタスクの話の続きに耳を傾けた。

 

「あの時、奴……黒いパラメイルが放った竜巻めいた光。あれからアンジュを守る為にヴィルキスが何かしたのかも。ヴィルキスは特別な機体。何を起こしたって不思議じゃない」

 

 ボソンジャンプめいた事をヴィルキスがやったとでも言うのか? あの黒いパラメイルのようにか? ナインボール=セラフも大概だったが、ヴィルキスも相当得体の知れない機体のようである。

 

「特別……か」

 

 アンジュが眠っているサリアに一瞬目を向けた後、アンジュは量産型クラウドブレイカー改から飛び降りてタスクに向き直った。

 

「ねぇ、ヴィルキス。直せるかしら?」

「一応、飛べるようになるぐらいには。アンジュは何処へ行こうとしているんだい?」

「……偵察よ。何かあるかも知れないし」

 

 そう言うや否や、リオスも量産型クラウドブレイカー改から飛び降りてアンジュの近くまで歩くと、タスクの方を向き

 

「俺も行くわ。土地勘は無いけれど。知っているものもあるだろうし。序でに俺のナインボール=セラフも直してくれタスク」

「俺は便利屋か!?」

「まぁまぁ落ち着け……冗談だから」

 

 あまりにも良いように扱われている気がしてならないと思ったタスクは悲鳴を上げる。それが流石に気の毒に思えたので冗談という事にした。彼もヴィルキスで一杯一杯であろうから。それを証拠にヴィルキスは中破しており、左腕が消し飛んでいる。修理には骨が折れそうだった。

 

「善処するよ。仮にも俺はヴィルキスの騎士だしヴィルキスが直った後でいいのならば」

「……すまん」

「良いよ。君には機体を借りているし、手伝って貰ったからね」

 

 タスクがそう言うと、手持ちのライフルをアンジュに投げ渡した。もう一丁もリオスに渡す。全く以て至れり尽くせりである。意外と義理堅いヒルダを見習って後で借りは必ず返そうとリオスは思った。

 具体的にどうしようとはあまり考えては居ないが。

 

「……また逃げるつもりアンジュ?」

 

 その時、サリアが目を覚ましてアンジュにハンドガンを向けた。何てタイミングの悪い事か。どうやらヴィヴィアンがリオスにやった事と同じような事をやったらしく、彼女に悪気は無いのは分かっているが余計な事をするものだとリオスは内心毒づいた。

 

「通信が何処にもつながらない非常事態なんですよ。必ず戻るからサリアたいち……じゃなかったサリアは休んでいろ」

「……どういう事?」

「ここは俺の住んでいた場所だ。説明はタスクから聞いてくれ」

 

 サリアは怪訝な表情でリオスとタスク、アンジュを交互に見ているとタスクの絶叫が木霊した。

 

「なんでこうも俺に面倒事を押し付けるかなぁ!?」

 

 一連の会話を聞いていたタスクは頭を抱えて再び悲鳴染みた叫びを上げる。……何処ぞの鬼畜博士ではないが本当に申し訳ない。とリオスは思わずには居られなかった。

 

「ごめん! 後で借り返すから! いやマジで!」

 

 リオスとアンジュは逃げるようにドラゴンのヴィヴィアンの背中に乗って、この場から飛び去った。

 

 

「まったくあの男とじゃじゃ馬は面倒を俺に押し付けて……」

 

 タスクは頭を抱えて毒づきながら、サリアにどう説明しようか考えつつ、量産型クラウドブレイカー改のコックピットを降りてヴィルキス修理の作業を始めた。

 

 

「フッジッサーン!」

「唐突に叫ぶな五月蠅い!」

 

 暫く飛んでいると、日本の代表的な山が少々遠方ながらも顔を見せた。何度か見た事があるのだが、今の静かすぎる状況に若干堪えたリオスは閉塞感を吐き出すために。フッジッサーン! と態とらしくハイテンションで叫んでしまった。アンジュがそんなリオスがウザく感じたか、怒鳴って止めさせる。だが、ヴィヴィアンに感染してリオスの物まねのつもりか吠えた。

 

「あれは日本を代表する山とされる富士山だ。しかし……」

 

 リオスは背後に広がる街を見た。街は緑に包まれ、崩壊してからかなり経つであろう状態だった。何か大きな戦争でもあったのだろうか?

 それにしても5㎞以上飛んだのにも関わらず人っ子一人も居なかった。あるのは廃墟と静寂と、自然だけ。本当にここは日本なのかという疑問はあの富士山の存在で答えは出ている。

 

「俺が居ない間に何かあったのか? 俺が居た時はこんなんじゃなかった。こんなに緑は広がっちゃいなかった……」

 

 アンジュが「私に聞かれても困る」と困惑した表情で言いながら周囲を見回す。目を凝らしても見えるものは緑に侵食されたビルや道路、半壊した建物か山ばかり。

 リオスの瞳に映るものも同じでまるで自分の惑星に帰った気がしなかった。まるでこれは自分が浦島太郎にでもなったかのような感覚だ。

 

「……あれは。ヴィヴィアン、あっちに向かって」

 

 アンジュがふと、何かを見つけたか指をさした。その先は巨大な湖と化した場所。その中心に大破して半分に圧し折れた塔らしきものが聳え立っている。ヴィヴィアンは指示通りにアンジュの指さした方へと飛んでいくと、アンジュは驚愕の表情を浮かべた。

 

「あれは……暁ノ御柱?」

「知っているのか?」

 

 リオスが問うとアンジュは頷いた。

 

「ミスルギ皇国内にある塔よ。ミスルギ皇国の象徴のような存在なのに……どうしてここに、そして壊れているの?」

「……俺に聞かれても」

 

 リオスはふと、H-1が提示したゲシュペンストのデータの存在を思い出した。リオスの地球とアンジュたちの地球になにかしら関係があるというのか? 暁ノ御柱の状態は崩壊して大分時間が経っているようだった、何十年も、それ以上もずっと放置したような。

 嘗てある国で原子力発電所が放射能漏れした大惨事がリオスの地球の旧世紀に存在していた。危険区域として暫く放置されてから放置された都市部などに緑が生い茂るようになったが、まさにそれに近い状態だ。

 

 この国に一体何が起こったのだろうか?

 

 リオスはタスクとサリアへの報告事項を頭の中で整理しながら、ヴィヴィアンに指示を送った。行先は―――ヨコスカ軍事基地がある筈の場所だった。極東へ飛んだ際によく戦艦が停泊していた事でよく記憶に残っている。

 幸い、基地そのものはあったのだが、施設はやはり壊れたまま放置されていたか相当ボロついていた。お陰でシャッターを開くにも一苦労である。

 基地の施設内には人らしきナニカが転がっていた。肉は一切無く、骨がボロボロの服を着ている、というのが的確な有様だ。アンジュとリオスは顔を顰めながら施設を出て別の場所へと歩いて行った。あの死体は死亡して相当経っていた。本当に一体何が起こったのだと言うのだ。

 

「なんなのよ一体ここは?」

「……横須賀の軍事基地だ。極東における数少ない拠点とされている」

 

 基地内部はあまり植物の侵食は無かったが、悉く施設の機能は停止されており、戦闘機やメタルアーマー、MSが虚しく格納庫に放置されていた。そしてこの格納庫内にも骨と化した死体が幾つか転がっていたが見るだけでも精神が参ってしまいそうだったので、死体には目をくれずに、試しにリオスが身近にあったMS、細部が違うがジェガンに似た機体に乗り込み色々動かしてみるものの―――

 

「動く?」

「……駄目だ。OSは兎も角経年劣化でフレームにガタが行ってて碌に動きはしない。無理に動かしたら確実にぶっ壊れて俺がガラクタに押し潰されて死ぬ」

 

 リオスはそう言うとコックピットから降りて大きく溜息を吐いた。そんな中、アンジュは格納庫内の機体を見回して関心したような顔をした。

 

「パラメイルよりずっと大きいわねここの機体たち……」

「コイツらはモビルスーツって奴だ。パラメイルとは違って圧倒的に気密がしっかりしていて水中でも宇宙でも戦える。この緑色のゴーグルアイの機体はジェガンって機種……だと思う」

「はっきりしないわね。しかし宇宙でも戦えるなんて……私たちの居た場所よりずっと技術力は高かったみたいね」

「……戦う技術だけは、な」

 

 リオスは自虐的にそう呟いてから、他に動く機体があるか確かめた。一部保存状態は良かったものが有り、多少整備すれば動かせるものがあった。だが、アンジュはパラメイル以外は門外漢だったし、リオス自身もMS整備に自信は無かったので報告だけに留めた。

 

「使えないわね」

「喧しいわ。文句言うならお前が乗れ」

「無理だから言っているのよ」

 

 文句を垂れるアンジュにリオスはしょうも無い喧嘩を始めるが、二人とも途中で嫌になったか二人とも溜息を吐いた。ここで喧嘩した所で意味は無い。近くにあった工具を弄っているヴィヴィアンを危ないから弄るなと咎めてから、2人と一匹は外へと出た。

 軍港に配置されていたイージス艦の停泊場に向かったが、どれも苔や海の植物が侵食しており、内部が凄まじい程に磯臭さと人間の腐臭を混ぜ合わせたような異臭を放っていた。

 

「なにこれっ」

 

 アンジュは開口一番にそう言い、リオスもまた、あまりの異臭に己の鼻を摘まんだ。艦の入り口でこれだから内部にはもう入る気にはなれない。もうどうせ経年劣化や錆でシステムもガタガタであろう。それに入ったらきっと鼻がひん曲がってしまう事間違いなかった。

 

 

 タスクのもとへと戻ると、彼は即席のキャンプを造ってヴィルキス修理の作業をしていた。そんな彼にリオスはタスクに珈琲一杯でも奢ってやりたかったが、肝心の自動販売機は錆だらけだし中身はとっくの昔に腐っているであろう。ヴィヴィアンはそんな自動販売機を揺さぶって中身の缶が沢山出てきて、1缶を拾う。

 

「多分腐ってるだろうから呑むなよ」

 

 一応釘は刺しておいてから、リオスはタスクのもとへ向かい、偵察の報告をした。暁ノ御柱の事、横須賀基地の状態を。話した後、タスクは少し考え込む仕草をしてから口を開いた。

 

「君が居ない間に数百年の時間が経ったとか……はは、そんなまさかね」

「笑いごとじゃない。こちらとしては浦島太郎なんだぞ」

 

 リオスは苦笑するタスクに苛立ち、八つ当たり気味に怒りをぶつけてしまう。タスクは直ぐに謝罪し、リオスも自分が阿呆な事をしたと思って謝罪し返してから、タスクはリオスの報告を総括した。

 

「要するに君でもよく分からない状態……か。俺も実際にジェガンとか使えるパーツがあるかどうか気になるから基地を見てみたいけれどヴィヴィアンは―――」

 

 タスクはヴィヴィアンに視線を送ると、飛び回って疲れたらしくふらふらしていた。まぁ何十キロも飛んだとなれば疲れるのも無理はないだろう。

 今日の偵察はここまでか。リオスはそう思いながら、ふと気づいた事をタスクに問うた。

 

「サリア隊長は?」

「サリアはゲシュペンストのコックピットの中。事情は話したけれどいまいち信じてくれなくてジルに連絡を取ろうとしているけれど……」

 

 結果は察しろ、という事か。それ以上の事はタスクは言わなかった。リオスは追加説明でも行うかと考えて、サリアのもとへとトボトボと歩いた。

 

 

 

「……応答なし、か」

 

 サリアは大きく溜息を吐いた。通信はこの場に居る面子以外には全然繋がらなかった。故障かと思い、メイから教わった簡単なメンテナンス方法を思い出しながら点検したものの、内部の故障、特に通信機そのものに異常は見当たらなかった。

 居場所も、使命をも奪われた挙句にリベルタスまで奪うのか。

 

 最早精神的支えと呼べるものは悉く失って宙ぶらりんな状態であった。

 

「サリア隊長?」

「隊長じゃないわよまったく……」

 

 リオスが顔を覗かせて来て誤った呼び方をしてきたのでサリアは訂正しつつ、コックピットから外へと出てから、横たわっているゲシュペンストに腰掛けた。リオスも少し距離を開け、サリアの横に腰掛けた。

 

「……タスクの言っていた事、本当なの?」

「多分な。見た所俺が居た世界だ。……前はこんな事になってはいなかったのに」」

 

 彼もまた、居場所を失ったという事か。帰った筈の家がいつの間にか荒れて居たり壊れていたら参るというものだ。

 

「ここが……貴方が言っていた」

「別の国だけど……まぁ、俺の国も駄目だろうなこれは」

 

 サリアはぼんやりと自然に侵食されたこの都市を見渡す。リオスは訂正するが、サリアの耳には入らなかった。もうそんな事はどうだっていい。要するにここはリオスも誰も知らない場所なのだろうから。

 

「こんなのじゃ……使命もリベルタスもあったものじゃないわね……」

 

 戻るべき場所もなければ倒すべき者も存在しない。何か自分の心が空っぽになったような感覚さえも覚える。悲願である自由は得たが、そこには何もない。褒めてくれる人も居ない。あぁ、そうか。

 サリアは今更ながら自分のやって来た事への原動力が思いついた。ジルに、褒めて欲しかったからだ。使命感とか、そう言ったものは二の次で、誰かに認めて欲しかっただけなのだ。使命も何もかも失ったからこそ気付けたのかも知れない。

 こんな所で自分の本質に気付くとは己の愚かさに笑いすら込みあがって来る。

 

―――私は馬鹿だ。本当に大馬鹿だ。

 

 サリアは、曇った空を見上げて湧き上がる涙を抑え込もうとするも、止まる訳が無い。ヴィルキスを失った今、リベルタスは失敗してしまうだろう。詳細は知らないがヴィルキスはリベルタスの完遂に大きな意味を持つ。

 だが、リオスやタスク、ヴィヴィアンとアンジュ以外誰も居ない、荒廃した見知らぬ世界に飛ばされてしまった上にヴィルキスもナインボール=セラフも破損しているようではもう望みは殆ど無い。

 

 灰色の、雲。

 

 だが、今の自分の感情を天候で例えようならば土砂降りだ。そんな土砂降りの雨の中を財布や鞄を無くして傘や合羽も無くとぼとぼと歩いているような感覚。だが行先は、無い。本来ならば家に帰ろうとしている筈なのだが、肝心の家もどこにあるのか分からない。

 

「サリア? ……っ!」

 

 怪訝な表情でリオスは空を見上げているサリアを見ていると、何処からか音楽が聴こえて来た。この童謡には聞き覚えがあった。夕焼け小焼けだ。そして機械の駆動音も聴こえる。アンジュとタスクも何かが近づいてきている事に気付いたらしく、リオスはサリアの手を引いて無理矢理ゲシュペンストの影に隠れて、アンジュとタスクはヴィルキスの影に念のために隠れた。

 そしてヴィヴィアンはそんな切迫した状況下で呑気に眠っていた。ヴィヴィアンを隠すべきであるとは思ったが、もう間に合わない。しばらくすると、音楽だけでは無くスピーカーを通したような声も聞こえて来た。

 

『こちら首都防衛機構です。生存者の方はいらっしゃいますか? 生存者はいらっしゃいますか? 首都シェルターは現在も稼働中。避難民の皆さまも収容しております。生存者の皆さまは中央公園までお越しください』

 

 やって来たのは大人のひざの丈にも満たない大きさの赤い小さな4脚のロボットだった。あのロボットがスピーカーで音声を再生しているようだ。先ほどあのロボットは生存者と言っていたが、生きている人が居るとでも言うのだろうか?

 タスクも、アンジュも、リオスも、サリアも同じ気持ちだった。何か情報が欲しかったのだ。どうしてこのような惨状になったのか、生きている人が居るのであれば問うて見たかったのだ。それ故に、其々念のために銃を持って4人は赤い4脚ロボットを追って走り出した。

 ……因みにヴィヴィアンは揺すっても起きなかったので留守番である。




 時系列をアルゼナル時代とした番外編として、後々色々書いて行こうと思います。ゾーラ隊長時代や、ゲシュペンストと正式採用争いしたツインアイでブレードアンテナが付いたアイツの話や、『勇気』を知り勇者王と化したH-1(ハスラー・ワン)とか。
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