クロスアンジュ イレギュラーと熾天使の輪舞 作:ヌオー来訪者
それは、侵してはならない「領域」
その意志が、全てを変える。
誰もが、生きる為に戦っている。
何故こうもAC系列のキャッチコピーは厨二心をくすぐるものばかりなのか。ACEも初代の「背負えるか、エースの宿命」が中々フロムらしいと言うかなんと言うか。
どうしてこうなった。
リオスたちは目の前で繰り広げられている光景を見てそう思わずにはいられなかった。祭りから翌日の事、サラ曰く『多くの
「「チャージ3回! フリーエントリー、ノーオプションバトル!」」
二人の間にクレーター状のフィールドが設けられており、そこで対峙したアンジュとサラマンディーネがよく分からない専門用語を叫んでから、其々脇にある台の上で甲虫型のマシンを手にそれを前方にスライドさせた。
「「チャージ・イン!」」
そう叫びながら両者はほぼ同タイミングで手元の甲虫型マシンを前方のクレーター状のフィールドへと向けて放った。
……この場所、『競技場』なる所はどうやら昔のデータをもとにサラマンディーネが筆頭として修復した場所で、色々抜け落ちた部分などがあるからか色々変な所が散見された。特に今やっているホビーを用いた戦いは場所にそぐわない気がしたのだけれども、これ以上気にしたら負けな気がしたのでリオスは考えるのをやめた。
さて、何故こんな事になったのかと言うとそれは朝の話である。ヴィヴィアンは実家へと母親と共に一時的に帰って行くのをリオスたちが見送った矢先である。サラマンディーネはこの競技場にアンジュたち4人を連れて行きずっと己に対して喧嘩腰でいるアンジュに対して共闘を申し込んだのだ。
無論、アンジュはそれを跳ね除けるが、それを見越してサラマンディーネはアンジュに対して勝負を申し込んできたのだ。アンジュが勝てば自由を与え、サラマンディーネが勝てばアンジュはサラマンディーネの所有物になる、という条件を付けくわえて。
こんなスポーツにリベルタスの要を失うか否かを決められるのかとサリアは不満たらたらであったが、元の世界に戻る方法があちら側が持っているという事もあり、仕方なくリオスたちは呑んだ。アルスも色々思うところがあるらしく解せぬと言わんばかりの顔で二人の勝負を見ていた。
「おい」
リオスは後ろから肩を叩かれて振り向くとそこには釣竿とバケツを持った有隆が立っていた。
「……釣りに行かんか?」
唐突に何を言いだすのだこの男は。リオスは一瞬呆気に取られて、直ぐに我に返りそんな事などやっている暇は無いと突っぱねる。それにリオス自身釣りなどやった事が無いのだ。邪魔になるだけだろう……だが。
「突然隊長がそんな事をやるには何か訳があると思うんです。それにサラマンディーネさんが何か変な事をしようとするならばこちらが逐次報告しますから、一緒に行って来て下さい」
アルスにそんな事を言われ、タスクも―――
「アンジュの応援は俺やサリアがしているから。リオスは行って来ても良いよ」
と言うものだから、仕方なくリオスは彼の釣りに付き合う事にした。
/
連れて行かれた先は若干遠くにある海岸であった。そこまで少々距離があるものだから、迅雷、またの名を総隊長マシーン改と呼ばれる半人半タンクの機体に乗せられて移動した。まさか車道の上を戦車(というには語弊があるが)に乗って釣りに行く日など来るとは思いもしなかったので、リオスは困惑気味にキャタピラの音を聴きながら辿り着くまでずっと唖然としていた。
「お前、釣りはやった事はあるか?」
機体から降りて、堤防の行き止まりの所まで進んだ所で有隆に問われるとリオスは首を横に振った。すると有隆はリオスに基礎的なものを懇切丁寧に教えてくれたのでそこまで困る事は無かった。
二人は糸に括り付けた釣り針を投げ、堤防に座ってぼんやりと待った。
リオスがイメージしていた釣りと言うのは漁みたいなものだったのでこんなにのんびりしたものなのかと軽く驚きながら、穏やかな波が堤防を打ち付ける音を聴く。そして、暫く時間が経った所でリオスは口を開いた。
「―――何故、俺をここに?」
「昨日、祭りの終わりの時……あの時死んだような目をしていたんでな」
死んだ目をしている。そんな事言われた経験はあまり無かったので驚き、自分が朝顔を洗う時に見た鏡写しの自分を見る。その時に映った自分は男前だったなぁとナルシスト極まりない、強がりにしか思えない感想を抱いた。……違う、そうじゃない。
昨日自分は憎しみは乗り越えられると言われて引っ掛かりを覚えて沈んでいた。恐らくその時の事を有隆は言っているのだろう。
「人に絶望したか?」
殆ど直球だった。リオスはそれに面食らい、目を丸くして返答に窮する。考えた結果―――分からなかった。自分は希望を持っているままなのか、それとも諦めてしまったのか。迷っている内に有隆は質問を変えた。
「では、質問を変えようか。この世界を見て君はどう思った。500年以上経った未来を見て」
「それは―――」
絶望したか否か。その事についてよりはずっと答えやすい質問であった。リオスはあまり時間を掛けずに返答の内容を頭の中で纏めてから言葉にした。
「知った時には色々、嫌になりました。……ある意味人生を放り出してまで戦った結果、デルマイユ派がまた勢いを取り戻した挙句その果て何度も地球圏クラスの戦争を繰り広げて世界が滅ぼされたって聞かされたら自分たちが否定したシャア・アズナブルのやろうとした事は正しかったのではないか……っ!?」
そう言っていると、ある事を思い出した。よくよく考えたらこの事は公式では知らされていないのではないかと。リオスは口を噤んだ。だが―――
「もうその事は十数年後にネオ・ジオンの生き残りが自白した。もう既に我々は事の真相については承知している」
そう言ってくれたものだからリオスはホッと胸を撫で下ろしてから続けた。
「人は変われない。喩え一つの元凶を潰しても新しい元凶が際限なく湧いて来て、外宇宙からの敵が来ても性懲りも無く内乱を起こすんですから……ある意味絶望したに近いかも知れないですね。けれどもシャアのやろうとした事が正しいとも思えないし納得がいかない。何処かで人の可能性を信じ続けているようなものだからもう訳が分からなくて宙ぶらりんで―――」
そう言った矢先背後から第三の声が挟んできた。
「では、私と共に来ないかね?」
何事かと、リオスと有隆が背後を向くと紳士服を身に纏った金髪ロングの男、エンブリヲが立っていた。咄嗟に二人は釣竿を海に落ちてしまう事も厭わず地面に放り、有隆は銃を引き抜き、武器を持たぬリオスは何時でも殴れるように身構えながら口を開いた。
「よくもまぁ、俺たちの地球を潰してくれたな……」
「遅かれ早かれ人類は終わっていたよ。私は時計の針を少し速めに進めたに過ぎない」
悪びれる事無くそう言い放つエンブリヲにリオスは顔を険しくさせた。
「何をふざけた事を!」
「これは事実だよ。私は幾つか新たなものを発見し、様々な戦争の兵器に繋がるであろうものを作った。だが戦争に使ったのは愚かしい人間たちだ。そしてそれを使ったが故に私が直接手を下す以前に既に地球上の人口は半数以上失われていた。あのままUCEか反UCEが焦って兵器転用したドラグニウムかE2を使用して滅ぶのは目に見えたものだ」
「……E2だと」
リオスは息を呑んだ。あんな危険なものをまた作ったとでも言うのか。
E2、それはリオスたちの戦いで大きな存在であった物質だ。あらゆるエネルギーに反応して爆発的に増幅させる物質という危険極まりないものをUCEの構成組織の一つであるOZは兵器に転用して宇宙移民への弾圧を計画していたのだ。
数機存在していて多数の組織が争奪戦を繰り広げられていた。残り2機程になった際にシャアはUCEの官僚や上層部の腐敗ぶりに絶望しネオ・ジオン軍を率いて反乱を開始。それらを強奪。リリーナが計画した宇宙難民の地球への移送船団計画を利用して無人船団とすり替えてその中にE2を一つ隠して、地球に降下させ、爆発で地球を寒冷化させようとした。結果、ラー・カイラム隊は事前に察知してそれらを阻止したものの地球圏全てに対しての生中継であったことやOZの情報操作もあって晴れてリオス含めたラー・カイラム隊は大量虐殺者扱いされてしまった。その直後身の潔白を証明する事を捨てて残り1基持って逃走したネオ・ジオンを追撃。辛うじてシャアを撃破してE2も破壊して全てが終わった筈だ。
「UCEは新たに造ったのだよ。新しいE2を。最初は外宇宙からの脅威から地球を防衛するために造った。だが、結局は戦争に投入されてね……愚かしいとは思わないかね? シャア・アズナブルの成そうとした事は正しかったのだよ。最終的にはドラグニウムを掛けた戦争までもやって母星を汚染する。本当に救いようのないものだ。人間というものは」
「黙れよ! 文明にトドメを刺した人間が言う事か!」
リオスは吠えるも、それは虚しく波の音に消えていく。そしてエンブリヲはにやりと妖しく微笑えんでから追い打ちを掛けるように言った。
「私は世界を作り変えようと考えている。過ちを繰り返さぬ正しき人類の居る平和な世界をね。世界が変わりゆく姿を共に見届けないかね? 旧世代の歴史の目撃者の一人として。我が友人として君を迎えよう。今、世界を変える為に実験をこれから行うつもりだ、見たまえ」
エンブリヲが指さした先には曇天がドラゴンたちの都市の方を覆い巨大な竜巻が渦巻いていた。有隆はそれを見て血相を変える。
「……リオス、奴に耳を貸すな」
リオスは有隆にそう言われながら重々しい動きでエンブリヲへと視線を戻そうとしたその時―――エンブリヲの姿はもう既に無かった。一体どんな手品を使ったのやらとリオスが慌てて周囲を見回すも彼の影も残っていなかった。
「奴の口車に乗せられて我々と共に帰還した仲間の一部が奴らの方へと行った。……この地球の惨状に見かねて絶望したのだろうな。こうしてお前と一対一で話をしたのはそれが理由だ」
有隆の言葉にリオスは俯いて、歯噛みする。エンブリヲに付いて行った者達は世界を、人を変える事が出来ると信じたのだろうか。それが絶望に抗う為の『光』として。
長考に耽りながら迅雷のコックピットに有隆と同乗すると、有隆は迅雷を通常ブーストを越える速度を持つ能力、オーバードブーストを使って竜巻が荒れ狂う現場へと急行させた。その間リオスはぼんやりと、流れゆく景色と荒れ狂う竜巻を見ながら、自分はどうすれば良いのか、正しいのかを考えていた。
現場に辿り着くと、竜巻は様々な人間を呑み込みながら様々な場所を荒らしまわっていたのがはっきりと見えた。瓦礫などが竜巻の風に乗って飛んで行き、逃げ惑う人々を襲うのが見える。
これが、世界を変える。そう言う事なのだろうか?
納得が行かず、リオスが顔を顰めていると、ズームしたカメラに瓦礫に埋もれた人間の姿が映り、二人は仰天して目を見開いた。だが、この光景は瓦礫に埋もれている……という表現には語弊があるかも知れない。下敷きになったとか云う生易しいものでは無い。……一体化しているのだ。
竜巻に呑まれた人間が、瓦礫等といったものに。まるでコンクリートに固められたかのように。コンクリートの塊から手と足だけが出ている。他には顔と手だけが出ていて、そのまま息絶える人間の姿もあった。きっと一体化した場所はとっくに潰れてしまっているだろう。……もう恐らくは助からない。
「……何だこれは」
有隆が驚愕のあまり、言葉にしていると、オープンチャンネルでタスクの声が入って来た。
「……エンブリヲだ。エンブリヲは空間や時間を自由に操る事が出来る。俺の父さんも、仲間も。あの竜巻の所為で石の中に埋められて死んだ……! あの竜巻の力で!」
どうやらアンジュと話しているらしい。その声は、通信機越しにでもタスクの怒りと悲しみと無念さが伝わって来て、リオスは居たたまれない気持ちになった。
ふと上方を映したモニター画面を見ると、アンジュの中破したヴィルキスと、量産型クラウドブレイカー、サリアのゲシュペンスト、サラマンディーネが駆る赤いパラメイル『焔龍號』とアルスのガンアークが曇天の下を、竜巻へと向かって飛んで行っているのが見える。
だが5機の向かう先に突如として更なる上空から放たれたパルスやグレネード、機銃などが混ざった弾幕と共に現れた黒いナインボール3機と黒いセラフ1機、見た事の無い機動兵器群やUCE製と思しき機体数機が同じ高度や真下に降り立って邪魔をさせないと立ちはだかる。実験とやらの邪魔をさせないつもりか。有隆はそれを目にして険しい顔で竜巻を睨みながら呟いた。
「人は救いようもない愚かなものなのかも知れん。だが、私は、それを口実に文明を滅ぼすような馬鹿を許しはしないし賛同もするつもりも無い……今懸命に生きる者を裁く権利も有りはせん」
有隆のその声と表情には迷いは無かった。そして追い打ちを掛けるようにしてモニターにヴィヴィアンの姿を映っている事にリオスは気付いた。
ヴィヴィアンの傍には瓦礫の下敷きになっている母親のラミアの姿があった。ラミアを助けようと、迫りくる竜巻をも恐れず瓦礫をを持ち上げようと必死にもがいている。だが、その瓦礫はヴィヴィアンよりずっと大きくて人の手では持ち上げる事など叶わないであろうものだった。それを見たリオスは顔を顰めた。
これが世界を変えるという事か。漸く会えた母子の命を奪ってまで、やる事なのか。文明を滅ぼしただけに飽き足らずあの母子やここに生きる者たちの幸せまで奪う気か。そう思うと胸糞が悪くなった。
「―――ふざけるなよあの金髪めが」
リオスは忌々しげに苛立ちと怒りを込めてそう呟くと、有隆に向き直って問うた。
「俺の機体―――セラフは何処にあるんです?」
簡単に答えてはくれないかとリオスは若干ダメ元で問うたのだが、すんなりと有隆がその場所をマップ表示で教えてくれた。
「あのラミアとヴィヴィアンなる母子は私に任せて貰おう。我が迅雷は鈍重に見えて案外早いのでな。竜巻如きに遅れは取りはせんよ」
どうやら有隆も下敷きにされたラミアに気づいていたらしく、リオスが抱えていた懸念事項はクリアされた。場所を知ったリオスは迅雷から飛び降りてガレージに向かって全力疾走する。それを見送らず有隆は迅雷をヴィヴィアンのもとへとオーバードブーストで急いで向かった。
この騒ぎを聞きつけてアルス以外の味方も来てくれるだろう。それまでに被害を最小限に食い止めなければならないのだ。
―――腹を括らねばな……
有隆は移動しながら戦闘開始した黒い機体たちととアンジュたちを見ながら、思う。アグレッサーに並ぶ脅威かもしれない存在と戦う事。そして―――
黒い機体と同行している嘗て共に戦った仲間と機体を撃つ事を。
/
ガレージはかなり大慌てな状態で、邪魔すれば間違いなく殴り殺されるであろう空気であった。だがそれには今のリオスは怯まず、そして構わずにナインボール=セラフに向かって走り寄ってから命令を飛ばしているチーフと思しきドラゴン羽と尻尾の生えた女性スタッフに問う。
「こいつ、動けますか!?」
スタッフはリオスの登場に驚きぎょっとするも、直ぐに気を取り直してリオスを睨みつけた。当然だ。皆こちらに対して歓迎の姿勢で居てくれる訳が無い。サラマンディーネとその周囲が特別なだけなのだ。普通の反応ならば憎悪したって誰も文句は言わないし言えやしないのだ。
「整備は動く程度には終わったよ。外部の損傷はヴィルキス程じゃ無かったしね……けれどあんたはこれに乗ってどうする? 混乱に乗じて逃げるのかい? それとも連中の側につくのかい?」
敵意を込めた視線とともに投げかけられる質問がリオスの心に突き刺さる。
まぁ、信用されなくて当たり前だろう。戦争、戦争と殺し合いばかりした上に世界を滅ぼす片棒を担いだ組織に居る旧世代の人間だ。その上同胞までも殺している。疑われもするし、憎まれても仕方ないのだ。
「違う。俺は……確かにあんた達ドラゴンと敵対してたさ。けれど、今戦うべき敵があんた達じゃないって事は馬鹿な時代に生きた馬鹿な俺でも分かるよ。今の俺がやるべき事は、やりたい事は、コイツに乗ってあいつらを潰し止める事。そしてこの都市とそこに住む人たちを守ることなんだっ!」
「……それを信用しろとでも? 同胞を殺した人間を?」
「信じてくれっ! 頼む!」
リオスは頭を勢いよく深々と下げた。周囲に人の気配が集まって来る。タコ殴りにされても文句は言えないだろう。リオスは歯を食いしばり、殴られる覚悟したのだが―――いつまでたっても、衝撃は来なかった。
暫く待っていると、話しかけた女性スタッフが溜息を吐いてから口を開いた。
「……アンタの気持ちは分かったよ。それにこの状況だ。アンタに機体を乗せさせる事が一番適切なのかも知れないだろうね」
リオスは顔を恐る恐る上げると、女性スタッフは若干不服そうな表情を見せていた。当然の反応だ。どのように詰られてももう既に覚悟は出来ている。
「この中にはアンタに身内、家族を殺された奴も居るんだ。上からの命令とは言えコイツの整備させられるのは悔しかっただろうよ」
リオスは周囲に集まって来た整備士を見回すとその中に泣きじゃくっている女性が居た。きっとその娘の知る誰かが俺によって殺されたのだ。リオスの視線がチーフへと戻るとチーフは話を続けた。
「あの泣いている娘の父親は、アンタの機体にエネルギーブレードで叩き切られて殺されて、その挙句の果てに心臓を抉られたんだ……! 明日はあの娘の親父さんの誕生日だった。本当ならば家族全員で祝う予定だったんだ……あのセラフにはその悔しさや悲しさ、虚しさ、怒りが載っている。それを蔑ろにして奴らのもとへ付くようなら、アタシは―――アタシたちはアンタを一生、いや、永遠に許さない。死んでも喩え何度も生まれ変わっても恨み呪い続けるよ。―――乗りな。都市を……あたし達の故郷を守ると胸を張って言えるのであれば。でなければ、ここからいなくなりな……ッ!」
その問いはそう簡単に答えて良いものでは無かった。それだけの想いと悲しみとままならない無力な己への怒りがチーフに込められていたのだ。その想いにリオスは一瞬たじろいだが、逃げたりするつもりはもうない。
「俺は―――行きます。これまで俺が手に掛けて来た者達に誓って」
「……じゃぁ、代わりにあの娘に一発お前を殴らせろ。それでお前の出撃ぐらいは許してやる」
リオスは断る事無く頷き、泣きじゃくっていた娘はリオスに歩み寄った後勢いよく―――顔を平手打ちした。当たった瞬間、まるで魂と身体が引きはがされるかのような感覚だった。その威力は上司の修正なんかよりずっと痛かった。ドラゴンだから……というだけじゃない。きっとやりきれなさが詰まっている。その平手打ちはこれまで受けて来たものよりずっと、痛かった。
「……貴方を殺してもきっとお父さんは戻ってこない。貴方を八つ裂きにしても足りない位殺したい気持ちで一杯だったのは……この機体に乗っても絶対に忘れないで」
泣きじゃくっていた少女の眼の奥には確かな意思が宿っていた。吹っ切れた、という訳では無いし、リオスを許しているという様子でも無い。けれどリオスの心には強く、深く、引き抜く事が出来ない程に突き刺さっていた。
「ごめん。謝って済む事じゃないのは分かっているけれど―――俺を、信じてくれて―――有難う」
リオスがそう言って深々と謝罪と感謝の意込めて頭を下げると、チーフが飛行形態でスタンバイされたセラフへと顎をしゃくると、リオスは走り出して―――セラフのコックピットに飛び乗った。
「……久しぶりだな。H-1。お前に聞きたい事は腐るほどあるが、今は力を貸してもらうぞ」
機体を起動させつつ、H-1に語り掛けるが、H-1はリオスの言葉に何も答えずに各システムを黙々と起動させていく。今はそれでいい、だが、何時か必ずすべてを話して貰う。
機体がエレベーターに持ち上げられて、地上まで上がって行くとそう遠くない位置でアンジュたちがエンブリヲの軍勢と戦っているのが見えた。
―――必ず守ってみせる。
そう、特に言う意味も無いのだが己の決意を込めてリオスは叫んだ。
「リオス・アルバート。ナインボール=セラフ…………行きますッ!」
色々迂闊な事をしたと。反省と後悔はしっかりしました。冒頭のアンジュとサラがやりあった戦いが一体何なのか分からない方は『カブトボーグ』で検索してください。アニメ版が色々イカレていておすすめです。
最後の所はドラゴン側の主張を入れました。形は変われども人間ですからね。彼女たちは。
鰤がリオスを勧誘したのは、世界を変えられなかったニュータイプが変わりゆく世界を見届けるというのは非常に面白いものでしょうから。それはもう、「天才であるこの私がNTを越えたんだ」という意味合いを込めて。まぁぶっちゃけ彼はNTを見下しています。
他は戦力になると思ったのでしょうか。NTとか念動力者とか貴重ですし、アグレッサーから生き残っているという実績と実力がありますので……まぁ多分用済みになったら旧世代の産物としてポイ捨てされるでしょうけれど。
尚、リオスの転移の原因は鰤ではないです。