クロスアンジュ イレギュラーと熾天使の輪舞 作:ヌオー来訪者
投獄されて一週間が経つと、リオスに釈放の通達が訪れた。
紺色ツインテールの少し露出が多くはないかと言いたいぐらいの服装の少女が開けてくれたのだ。そして第一声が―――
「臭っ」
……という容赦無き一言と口と鼻を抑えるアクションであった。仕方なかろう。一週間も風呂に入っていなけれぼこうもなる。
尚、余談だが、潜水艦乗りは上陸後タクシーから乗車拒否喰らう程の異臭を放つと言う。まぁ、仕事柄外に中々出られないし、空気の入れ替えも出来ないから仕方がないのだが。
若い女の子に言われるのは非常に辛いものがある。よく娘に「臭い」と言われるお父さんもこのような気持ちなのだろうか?
精神的大ダメージを受けたリオスはへこんだ表情で外に出た。
―――どうせ俺なんか…………
周囲から奇異と興味の視線を受けながらサリアに案内を受け、リオスは真っ先に着替えを与えられ、シャワーを浴びる事になった。1週間投獄された所為で頭はフケだらけで凄まじく不愉快だった為、これは有り難い話であった。それにどうやら殺される様子でも無いようだ。
与えられた着替えは露出の多い女性用の服装では無く、何処か取り急ぎで造った感の溢れる制服だった。まぁ、文句は言えない。仕事柄水は貴重なもので、節約として一般人より早く洗い切って急いで服に袖を通し着替えを終えて外に出ると、待っていたサリアはポカンとした表情で出迎えた。
「は……早い」
「仕事柄そうなるんですよ。宇宙じゃ水は貴重ですし」
「は、はぁ……」
サリアは半ば信じられないように受け答えをしながら、リオスに気付かれないようにさり気なく匂いを嗅いでみる。―――が、先ほどのような異臭は一切せず、シャンプーの匂いが漂っていた。男は風呂が女性に比べて速いという知識こそあったが、本当にそうだとは思わなかった為、一体どんな魔法を使ったのかと半信半疑でリオスを睨んでいた……
/
この後、リオスは取り調べに何時も居たジルと呼ばれる女性のもとへと連れられて、何処か教室らしき場所まで連れて行かれた。席に付いた時にはもう授業は始まっており、少し慌てて教壇の上で教鞭を執っている女性教師の声に耳を傾けつつ、周囲を見回した。
見る限り、全員が小学生低学年くらいの歳の少女ばかりだった。まるで小学生時代を思い起こさせるような教室と生徒にリオスは更なる居心地の悪さに苛まれるが、隣には救いがあった。リオスより少し背の低い長い金髪の少女が座っていたのだ。
それに救いと、少しばかり親近感を覚えたが、これ以上よそ見していれば話を聞きのがしたり、後ろで授業参観に来た親の如く見張っているジルと眼鏡を掛けた神経質そうな女性監察官『エマ・ブロンソン』に見つかって怪しまれかねないので、女性教師の話に耳を傾ける事に集中した。
授業は少女もリオスも幾つかのコマを連続して受け、小学生が受けそうなものばかりであったが。終始少女は不満気で話を聞いているようには見えなかった。
そして、5コマ目の授業を受けるべく席に着いた。
Dimensional
Rift
Attuned
Gargantuan
Organic
Neototypes
和訳すると、『時空を越えてやって来る巨大敵性生物』となる。通称ドラゴンと呼ばれるそれは、女性教師が見せるモニターに表示された映像に出て来るものの外見が西洋のファンタジーに出て来る龍にそっくりで、女性教師の解説によると空間にゲートを形成して現れるのだという。それをパラメイルと呼ばれる機動兵器群を用いて迎撃し、人々を防衛し、人類を守る事だけが、ここアルゼナルに居るノーマと呼ばれる人種の存在意義で、生きる意味であるのだという。因みにここに来た者は総じて名前を奪われており、リオスもまた、例外では無く、『アルバート』の姓をはく奪されている。
……で、ドラゴン等という存在はリオスは聞いた事が無かった。そんなものが居るのならば、戦争中に何処かで見かける筈なのだが……それにUCEならばたとえ上層部が救いようのないレベルにまで腐敗していようとも、地球内の事なので一応何かしらの形で対処は取る筈だ。
この事から、リオスはここが地球では無いのではという仮説を立てた。
理由としては、異世界や異星人の存在はポセイダルやドレイク軍との戦いから信じているという事。そして、自分の知る一般知識が悉く否定されているという事だ。
バイストン・ウェルという異世界の可能性もリオスの脳裏にあったが、ショウ・ザマたちの話とかあちらには聖戦士やオーラマシンやオーラバトラーが腐るほど居る為にパラメイルというものに頼る必要が無いということを考えたが故に、除外した。
「ノーマはドラゴンを殺す兵器としてのみ、この世界を生きる事を許されています。この事を忘れずに、しっかり戦いに励みましょう」
最後に女性教師がそうし切ると、「イエス・マム」と軍人顔負けの返事をまだ幼い少女は迷いなく返事した。それに、文化の違い故か気分の悪さを覚えながら、リオスも遅れながら「イエス・マム」と言った……のだが、隣にいる少女は不機嫌そうな顔で返事の一つもしていなかった。
このままでは修正待ったなしではないかとリオスは一抹の不安に駆られるが、ジルたちはそのような事をしなかった。
「分かったか、アンジュ、リオス」
「はっ」
ジルが問うと、リオスは座ったまま仕事柄の事もあって敬礼。一方でアンジュと呼ばれた少女は不満を爆発させた。
「もうすぐ、ミスルギ皇国から解放命令が……っ、届くはずです」
……が、最後の所で言葉を詰まらせて自信なさげに表情を曇らせた。リオスはミスルギ皇国という名前は聞いた事が無かったが、どうやら様子からして貴族か何かなのだろう。纏う雰囲気に見覚えのようなものを感じたので納得は出来なくもない。
ジルは喚くアンジュの言葉を受け流しフッと不敵に笑って返してから、エマに顔を向けた。
「監察官。アンジュとリオスの教育課程を修了。本日付で第一中隊へと配属する」
「だっ、第一中隊ッ!?」
エマが驚いた顔を見せる。
リオスはその様子に軽く冷や汗を流した。あぁ、嫌な予感がする、と。
「ゾーラには通達済みだ。行くぞアンジュ。リオスも付いて来い」
「はっ」
しかし、命令に逆らえない。リオスは立ち上がり、敬礼していると、ジルはアンジュの手を引っ張って歩き出した。
「は、離してください!」
アンジュの喚き声を聞かされながら…………
「へぇ、アレが噂の皇女殿下と男のノーマかァ……」
その様子を遠くから望遠鏡で覗き見していた金髪の女が居た。その女は獲物を見つけた肉食動物のような目でニタリとほほ笑みつつ目から望遠鏡を離し、紅い強いウェーブの掛った髪をツインテールに纏めた、頬を赤く染めて蕩けた顔をした少女を抱きながら、二人の去った後を舐めるように眺めていた……
/
リオスたちが連れられた先は無骨な雰囲気の訓練室だった。周囲には十数機程の機械が置いてある。どうやらシュミレーターのようだ。さて、そんな場所に来た訳だが、そこには10人の少女と女性が待っていた。その中にはリオスをシャワー室に案内したサリアも居た。
「司令官に敬礼!」
金髪の何処となく妖艶な雰囲気を纏う隊長らしき女性がそう言うと、隊長の後ろに居る残り9人も敬礼した。どうやら彼女らが第一中隊のようだ。
「あとは任せたよ。ゾーラ」
「イエス・マム!」
隊長らしき女性、ゾーラが命じたジルに敬礼するとジルは背を向けて去ってしまい、アンジュとリオス合わせて12人となった。
これなら一つ、補欠が出るがサッカーチームが出来そうだ。まぁ、しないだろうけれど。
「ようこそ。死の第一中隊へ。隊長のゾーラだ。副長、紹介してやれ」
ゾーラがアンジュとリオスに歩み寄って、アンジュの尻をいやらしい手つきで触ってリオスの背中は乱暴に叩いてから押し出した。アンジュは「ひっ」と声を上げ、一方でリオスは背筋に悪寒が奔るのを感じた。
―――こ……この女、なんとなくだけど怖いぞ!
普通の人より第六感が鋭いと(リオスの中で)定評のあるリオスは、ゾーラをそう評した。魔性の女とかいう肩書が良く似合いそうだ。一瞬己の貞操の危険を感じた。授業で聞いた話だがここには女しか居ない為珍獣のような扱いなのだから猶更である。
副長と呼ばれたサリアはリオスとアンジュの方へと向いて自己紹介を始めた。
「イエス・マム。第一中隊副長のサリアよ」
彼女とは既に面識があるし、改めて特徴を述べるのも手抜き臭いので飛ばすが代わりにリオスから見た彼女への印象を述べる事にする。
彼女はどうも優等生気質な地味な印象を受ける。……と言うのは、周囲に居る者たちが纏う雰囲気が個性溢れすぎているというのが理由だ。ラー・カイラム隊の母体であるロンド・ベルに所属していた仲間たちが濃過ぎて感覚麻痺を起しているというのも否定できないが。
サリアは自分の名前を名乗ると、一番近くに居た小柄でピンク掛った赤く短い髪に短めのお下げをしていて、棒付きキャンディーを咥えている少女に手を差し出した。
「こちらは突撃兵のヴィヴィアンと……」
「やっほ」
ヴィヴィアンと呼ばれた少女はおどけた様子で敬礼をする。一番背が低いし、飴を咥えているので直ぐに覚えられそうな娘にリオスには見えた。
「ヒルダ」
ヒルダというドムに乗ってそうな名前を呼ばれたウェーブの掛った真紅の長い髪をツインテールに纏めた少女、ヒルダは意味ありげにフッと妖艶に笑う。若干小馬鹿にされたように感じられたのだが気のせいだろうかとリオスもアンジュも思わずには居られなかった。
ヒルダはどうもゾーラと似た雰囲気を持った、要するに『怖い女』にカテゴライズされるタイプだとリオスは評した。
「シエナ」
「宜しくね」
紫色の長い髪をポニーテールに纏めた少女が笑顔で返した。纏い付く雰囲気はサリアに近いものを感じる。笑顔が良く似合う人だなとリオスは思う。だが油断は出来ない。実は多重人格者とか凶暴キャラとか後でカミングアウトされるイベントが有るかもしれない。
「軽砲兵のロザリーと……」
サリアの手が、短い茶髪で左目下にほくろを持った、言っては悪いがどうもおばさんに見えなくもない少女に向けられる。ロザリーが何かコメントをしようと、口を開こうとした矢先、アンジュが口を開いた。
「これ……これ全部ノーマなのですか?」
それは何処か、軽蔑と怯えの意が籠った声色だった。そして『この人たち』ではなく『これ』まるで物か人間じゃない何かを見ているような様子である。
ノーマという存在が軽視されている世界なのは理解していたが、マナなるものを使えない人だらけの中で生きて来たリオスからすれば理解の出来ない言葉だった。
何か言ってやろうかと一瞬思ったが、ここで迂闊に騒擾させると何が起こるか分かったものではないので黙ったままにした。それに周囲が殺気立っており、何か言える雰囲気でも無かった。そしてヒルダとロザリーが一番早く口を開いた。
「ハッ! アタシたちノーマは物扱いか……!」
「このアマ……!」
ヒルダに続き、ロザリーが声を上げ、拳を握りしめる。これは喧嘩になりそうな予感である。そろそろ止めた方が賢明かもしれないと思ったリオスがどうしようと考えた時、ヴィヴィアがアンジュに手を差し伸べた。
「そうだよ! 皆アンジュと一緒のノーマ。仲良くしよね!」
そして火に油を注ぐような発言である。厭味と煽りとしては効果抜群であろう言葉だが、発言した本人は至って満面の笑顔で、どうやら空気が読めていなかっただけのようである。
アンジュは屈辱に歪んだ顔でそれを否定した。
「違いますッ! 私はミスルギ皇国第一皇女、アンジュリーゼ・斑鳩・ミスルギ! 断じてノーマ等ではございません!」
―――アン、何……? あんかけ炒飯か?
長い名前である。リオスはノーマ云々よりその長い名前が気になって仕方が無かった。
「でも使えないんでしょ、マナ」
きょとんとした顔で言い返すヴィヴィアンだが、それでもアンジュは「マナの光が届かないだけ」だとか「祖国に帰れば必ず使えるようになるだとか」言い返し続ける。
そんなにノーマなのが気に入らないのだろうか。寧ろマナが使える人間の方が可笑しいとリオスは思うのだが、自分が間違っているのだろうか?
アンジュの言い訳劇が続くと、それをアンジュの後ろで見ていたゾーラがそれが滑稽で面白かったのか、大声で豪快に笑いだした。何事かと、この場に居るアンジュ以外の第一中隊メンバーがゾーラの方を向く。
「ったく司令め、随分ととんでもないものを回して来たぞ……状況認識も出来ていない不良品じゃないか……」
人間、第一印象が大事だとよく言われるが、第一中隊からのアンジュへの第一印象は最悪なものだった。ロザリーと隣にいた鬼太郎のように片目が隠れた白髪の少女が「不良品」だとかと罵り、「不良品はお前だ」と言い返しかけたその時、ヒルダが思いっきりアンジュの足を踏みつけた。
「身の程を弁えな……痛姫」
思いっきり低い声でアンジュに威圧するように言い、踏んでいる足をねじり込む。流石にアンジュがアレな人間でも見かねたリオスはヒルダの前に出た。
「ちょっと、その辺にしなよ? ホラ、部隊の仲間同士が争うのは連携に良くないし」
若干おどおどしながらリオスは仲裁に入る。すると、ヒルダの視線がリオスに映る。……そして―――
「へぇ……痛姫の肩を持つのかい。姫様の威厳が怖いのかい? 軟弱坊主。いや、噂じゃ精神病患者だっけか」
「あんだとゴルルァ?」
ヒートアップしていたヒルダに煽られてリオスは巻き舌気味に声を発し、そしてキレた。大人気も無く。これまで慎重にやろうと考えていたこれまでの行動を完全に台無しにするかのように。
「誰が精神病じゃコノヤロー! 俺は正常だよォ!」
掴み掛ったり殴るのは流石に抵抗があったのでメンチを切って、怒鳴る。ヒルダが挑発的に微笑み、いざ尋常に勝負と言った所で、二人の間にウェーブの掛ったピンクの長い髪の柔和そうな女性が割って入った。
「まぁまぁ皆さん。そのくらいで」
「あぁ? 止めるなよエルシャ」
割って入って来た女性、エルシャにヒルダが色々と文句を言いだす。アンジュはまた何か文句を言いだし、リオスは顔を引き攣らせやり場のない怒りをため込んで額にミミズでも這っているのではないかというぐらいに青筋を立てている。正に混戦状態になりかけ、殺伐としたこのコミュニティにゾーラが!
「サリア。こいつら預けるよ。色々と教えてやれ」
そうサリアに指示しながら、リオスとアンジュに肩を寄せて妖しい笑みを浮かべながら言い放った。
「皆、期待の新人共と仲良くなァ? 同じノーマ同士」
それが随分と屈辱だったのか、アンジュの表情がどんどん屈辱に歪んでいき、「あとで覚えて居ろ」と言わんばかりの殺気の籠った表情でゾーラを睨みつける。だが、ゾーラはそれを気にも留めずに、二人から離れて部下に指示を飛ばした。
「エルシャ! ロザリー! クリス! 一緒に来い。遠距離砲撃戦のパターンを試す!」
鬼太郎な髪型をした白髪少女はクリスという名前のようだ。呼ばれた3人は敬礼し「はい」と返す。
「サリア! ヒルダ! ヴィヴィアン! シエナ! お前たちは新人教育! しっかりやれ!」
支持を受けた4人も敬礼し「はい」と返事すると、ゾーラは大きな声で合図をした。
「全員、掛れっ!」
ゾーラの合図を受けてアンジュ以外全員が敬礼して「イエス・マム」と返し、アンジュ、リオス、サリア、シエナ以外は散り散りになってそれぞれの持ち場へと走って行った。
「リオスさん。こっちです」
「こっちよ、アンジュ」
シエナの誘導に従ってついて行こうとしたのだが、アンジュはサリアの指示に駄々をこねているのがシエナとリオスの目に映る。
「何人たりとも皇女である私に命令する事などできません!」
まだ言うか。リオスは若干うんざりしたようにアンジュを見た。従っておけよと言いたいのだが、元皇族では一般人と感性が違うのかも知れない。外宇宙のよそ者がごちゃごちゃ言っても駄目だろうかと諦め気味にリオスは思っていたら、サリアは眼にも止まらぬ速さでアンジュの動きを抑え込み、首元に制服に装備されたナイフを突きつけた。
「あっ……」
思わず、口の開いたリオスの喉から微かに声が漏れだす。
リオスが慌てたように、事の顛末を見守るが、流石に命の危険を感じたアンジュは頬に冷や汗を流しつつ、怯えた表情でサリアの指示に従うようになったのを見てリオスは安堵するのだった……
カミーユ(?)「僕は……正常だよ」
フランクリン(?)「や め な い か っ!」
因みにヒロインは執筆開始時点で既に決定していますが誰なのかは内緒でございます。
アンジュは敵を多く作る性格だけれど、出来た友情は大体固いのでリオスより質の高いものとなっております。逆にリオスはアンジュより友人が多くてもアンジュよりかは結束が脆弱。ここら辺は後で浮き彫りになります。
今の二人の関係は兎と亀のようなものですね。
マルチエンディング形式を取る予定。