クロスアンジュ イレギュラーと熾天使の輪舞   作:ヌオー来訪者

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第30話 極めて近く、限りなく遠い世界で

 辛い事があっても、マナが無くても。皆、力の限り生きている。

 

 アンジュが見たドラゴンたちの世界にはそう見えた。ドラゴンでは無い古の民とドラゴンが共存し、立場が違えど共に力を合わせて手探りながらも必死に生きている。その様子に何処か見覚えがあるような気がした。

 

 そうだ、アルゼナルに似ているのだ。

 

 異世界からの来訪者や、ドラゴンや普通のノーマやら、人間やら、元姫やら色んな人間が居て時に対立しながらも必死に、生きていた。

 

 

 帰らねばならない。モモカが待っているのだ。そしてもう、ドラゴンとは戦わない。

 

 サラマンディーネはそんなアンジュの想いを受け止めたか、特異点を通って戻るように伝えた。だがそれは今日明日でやる事ではない。特異点を開くにもやはり時間や下準備が必要らしい。それにレイヤードの謎も解明しなければならない。

 アンジュからしたらレイヤードなど知った事では無いが、ドラゴンたちの都に再三襲って来るという話を聞いたからには放って置けなかった。それに一度人質にしたリオスに借りは返さねばならない。今回は留守番にはなるが、守りが手薄になれば都が危機に晒されるというものだ。

 

 

 

「おおっ、じゃああたしも支度しなくっちゃ、皆どうなったか心配だし!」

 

 アルゼナル組とラミアとリオスが集まってその報せを聞いたヴィヴィアンは気乗りした様子でそんな事を言った。

 リオスとしても戻ってシエナたちの安否を確認したかった。下手したら自分の判断ミスで彼女を死なせてしまったかも知れないのだから。

 

「でもヴィヴィアン……貴女」

 

 アンジュは折角里帰り出来たと言うのに戻っても良いのかと問う。帰る故郷を失ったアンジュらしい問いだった。

 それにヴィヴィアンは母親の事をハッとした表情で気付き、ふと母親のラミアの方へと向く。ラミアは持って居た茶碗を皿に戻して、松葉杖に手を取り立ち上がった。あの戦闘に巻き込まれたラミアは片足を怪我してしまったのだ。

 ラミアは何も言わず背を向けて部屋の外へと向かって行く。

 

 親としては再び死地へと赴くのは良い思いはしないのだ。

 

 行かない選択肢もある。そのまま親子ともども争いとは関係の無い世界で幸せに暮らして欲しいとリオスは思いはしたのだが、結局は本人がどう思うかに掛っている。

 

 暫くするとラミアが戻って来た。

 

「さて、ここでクイズで。これは何でしょう?」

 

 成程、ヴィヴィアンのクイズ出したがりは母親譲りか。リオスとサリア、アンジュが苦笑しながら、ラミアが持ってきたものを見る。それは―――とてもサイズの小さいドラゴンたちの民族衣装(?)だった。大きさとしては一番小さいヴィヴィアンでも入らないぐらいに小さい。

 

「正解は、貴女が小さい頃着ていた服です。……大きくなったわね。この服が全然入りきらないくらい。その分、沢山の人と出会って、沢山の思い出も出来たのでしょう?」

 

 どんな思いでラミアは語っているのか。それはきっと口では語り切れない程の沢山の想いを抱えているに違いないだろう。

 ヴィヴィアンはラミアのもとへ歩み寄り、ラミアの言葉に頷く。

 

「じゃぁ、帰らなくちゃ。皆の所へ」

 

 意外だった。ヴィヴィアンは驚きのあまり「えっ」と声が出る。

 

「怪我の事なら心配ないわよ? お母さんは強いんだから」

「お母さん……」

 

 呆気に取られるヴィヴィアンにラミアは抱きしめる。それと同時に幼い頃のヴィヴィアンの服がばさりと音を立てて床に落ちた。

 

「帰って来てくれてありがとう、ミィ。貴女ともう一度会えて本当にうれしかった……もう一度、お帰りって言わせてくれると……嬉しいな」

 

 この二人の間に割って入ってとやかく言うのは野暮という物だ。それぐらい4人は弁えていて、黙って後ろのソファから見守っていた。

 

「……うん。絶対、ただいましに帰って来る」

 

 ヴィヴィアンは屈託のない笑みを見せてそう返す。残された時間は恐らく後数日ぐらいか。その間は親子で過ごして欲しいものであると、アンジュたちは思うのであった。

 

 

 

『本艦は目標地点上空まで到達』

 

 翌日、第13番部隊所属戦艦ペンドラゴンはリオス、サリア、サラマンディーネと護衛のカナメとナーガを乗せて、H-1が指定した場所までに辿り着いた。

 ペンドラゴンの真下には重く閉ざされた、パラメイルなら余裕で入れる大きさのゲートが配置されており、その解除キーはH-1が打ち込む手筈となっている。

 

 最悪の事も想定した作戦プランを有隆によって立てられているが……さてどうなる事やら。

 

 緊迫感に包まれながらも、セラフのコックピットの中で出撃許可が下りるまで待っていると、サラマンディーネから通信が入って来た。

 

「この格納庫異常に酒臭いのですが一体何があったのですか?」

「……あー」

 

 リオスは「あちゃー」と言わんばかりに頭を掻いた。昨日、ヴィヴィアンとラミアの会話を聞いたあと、親睦会的な何かを込めてペンドラゴンの格納庫にて飲み会が開かれたのだ。結果として酔いこそ醒めはしたのだが、アルコールの強烈な臭いが格納庫から抜けていなかった。

 

「すみません。我々の不手際です」

 

 サラマンディーネは別に良いと言ってくれたが、やはり顔は引き攣っており、申し訳ない事をしたような気がした。序でにサリアからも文句を言われた。

 

「この格納庫酒臭いわね……」

「お前に臭い臭い言われてもう慣れて来たわ」

 

 リオスは自嘲気味に言うと、サリアは苦笑して「ごめん」と謝ってから、リオスは疑問に思った事を口にした。

 

「何でお前も参加しようと思ったんだ?」

 

 サリアにはセラフとは直接的関係は無かった筈だ。ヴィルキスのように乗ろうと執着していた機体でも無い。

 

「それは―――ジルはセラフを『保険』と言っていた。何故そうなのか……この目で、耳で確かめたいのよ」

「保険?」

 

 リオスは怪訝な顔でサリアの言葉の意味を疑問符を浮かべていると出撃命令が下った。

 

 

 

 

「リオス・アルバート、ナインボール=セラフで出ます!」

 

 出撃命令が下りて、サラマンディーネ機と護衛機の2機、サリア機、フリッツ機そしてリオス機がカタパルトからゲート前へと投下される。そして後に続くようにジャック機と、アルス機、有隆機、ユウト機、アラタ機がペンドラゴンの護衛として出撃する。

 龍神器にAC、PTに特殊兵器と非常に壮観な図だが今はそんな光景に感動している暇は無い。

 

【コードを入力する XA-26483】

 

 H-1はコードを入力してから数秒間が空いた。外れたか? という空気がこの場に漂いかけたその時―――

 

『ゲートチェック完了、ロックを解除します』

 

 ゲート付近に配置されたのスピーカーから発せられるアナウンスと共に解放されたゲートを前にしてサラマンディーネは口を開いた。

 

「……それでは、参りましょう」

 

 

 暫くは薄暗い通路を機体に乗って移動していた。H-1の話によると、MTによる作業で造られたものな為に広い通路と化したのだと言う。

 

「MTってなんだ?」

 

 リオスが疑問符を浮かべると、フリッツが答えた。

 

「MTというのは、マッスルトレーサーの略だ。元々人型作業機械だったのが発展して今では軍事用などが数多く開発されている。ACに比べて性能や汎用性は多少陥るものの、コストパフォーマンスに優れ、レイヤード内ではACに並ぶ主流のタイプだな」

 

 流石レイヤード出身者だ。仕事柄恐らく何度か対峙しているのだろう。

 

「……所で、一つ訊いていいか?」

「なんだ」

「お前はセラフと何か関わりとか有ったのか?」

 

 リオスの問いにフリッツは黙り込んだ。それから―――

 

「管理者とその取り巻きには恨みがある。それだけだ」

 

 それ以上はフリッツは語りはしなかった。

 リオスはフリッツの態度に「なんなんだよ」と苛立つ。仕方が無いので通信を切りH-1に問うたが、『すまないがそれは私も分からない』との事で答えてはくれなかった。

 リオスは仕方なく回線をフリッツに再びつなげると再びリオスは別の疑問を口にした。

 

「じゃぁ何故、此方を撃たない。チャンスは腐る程あった筈だ」

「……ナインボールを倒すために使えるものは全て利用する事に何か異論はあるか」

「…………ない」

 

 フリッツの言う事は尤もだった。怪しい動きをしたら撃つ宣言から察せられる事ではないか。自分の察しの悪さにリオスは通信を切ってから馬鹿な事を訊いてしまったと後悔した。

 

 

 フリッツと名乗る前の男は、ミラージュ系列の企業に勤務する両親に育てられごく普通に育ってきた少年であった。それまではレイヴンなどと言った存在とは無縁であり、多少の戦闘は有りはしたが巻き込まれる事など無かった。

 両親は仕事の多忙さにあまり帰っては来ず、滅多に帰っては来ない。だから、家に居るのはフリッツと妹ぐらいであった。

 

 両親が帰って来るのは月一ぐらいで、帰って来た休日には自然区へと遠出に出たりする事があり、それがフリッツと妹にとっての楽しみであった。

 

 だが―――それは

 

 突如現れたACによって邪魔をされた挙句、両親も妹もACが放つグレネード弾の爆風に巻き込まれて焼き尽くされてしまった。

 あのACの目的は分からなかったが、妹は関係なかった筈だった。その頃のフリッツの年齢は14で、妹は12であった。明らかに裏社会に関わったりするような年齢では無かったし、妹は泣き虫で真面目なごく普通の小学生であった。

 

 何故こんな事になったのか。燃え上がる炎の中吹き飛ばされた妹だった肉片の前で少年は思った。あまりにも呆気ない死に方に茫然とせざるを得ない。

 人間と言うのは事の元凶や悪を求めたがる性質がある。それが良い事なのか悪い事なのか、それは時と場合に寄るのだが、少年も例外では無かった。

 

 燃え上がる自然区の中で見えたのは赤と黒のAC、そして肩のナインボールのエンブレム。この場に居た機動兵器はそれしか居なかったので元凶がソイツだと言うのが自ずと分かった。

 

 少年はナインボールが憎くてならなかった。だが―――ナインボールを破壊する術は今の少年には無かった。喪失感の中、少年はある事を耳にした。

 管理者は狂っているのではないか、と。あの事件を機に無数のナインボールが現れ様々な区域を攻撃するようになった。

 

 それから少年の憎しみとやるせなさの捌け口は管理者とナインボールへと向き、ナインボールを破壊する近道であるレイヴンに、少年は志した。

 当時、ナインボールの活動に対して傭兵斡旋組織であるグローバル・コーテックスは新たなレイヴンを急募していた。其れに乗って少年はレイヴン試験を受けようと決意した。その為に身体を鍛え、AC関連についての勉強をした。そしてそれに伴ってナインボールについて色々知る事となった。

 アングラの非公式の情報ではあるが、ナインボールは何度か倒された事が有るのだとか、世襲制扱いされていたナインボールのパイロットは実は人間ではないという説など(まぁこちらは今となっては無数のナインボールの存在で半ば確定している情報だが)。

 そしてその際に『フリッツ・バーン』というレイヴンの存在を知った。彼は約400年前初代ナインブレイカーかつマスター・オブ・アリーナとしてレイヴンの頂点に立った伝説の男。

 

 少年はフリッツという男を知り彼を越えようと、血の滲むような努力の果てに晴れてレイヴンとなった。そしてまだ新入りの時点でナインボールを見事撃退にまでかぎつけた。

 地形や建物を利用した卑怯極まりない戦術でダメージを与えたのだ。だが、まだ経験の浅いレイヴンとしては破格の戦果に人は呼んだ。「フリッツ・バーン」の再来と。彼もまた、ナインボールとの戦いに執着をしていた男なのだと言う。

 反管理者への感情が殆どの当時の民間人が持って居た事もあって、ナインボールと幾度となく戦闘を繰り返し、撃破にまで至った結果少年はフリッツと呼ばれるようになり、反管理者のシンボルとして扱われた。

 

 だが、そんな事はフリッツの名を襲名した少年……今となっては青年にとってどうでも良かった。ナインボールは出来る限り数を減らす。相手は機械だから悲しむという感情はないだろうし、然したる効果は無いのかも知れない。一体倒した所でパーツが欠けた程度にしか思わないのだろう。だったらナインボールを操る管理者の使命を滅茶苦茶にしてやる、そんな考えに至った。

 現状管理者は人類にとって悪として扱われていたのでそう思う事に一切の迷いは無かった……そして現在。

 反管理者のレジスタンスに参加してフリッツはナインボールを狩り続けている。破壊したナインボールの数は82体。名実と共に9殺し(ナインブレイカー)と化したフリッツの戦いは終わる事は無いだろう。管理者の使命を滅茶苦茶にするまではきっと。今は地上に出て立て直しを図っているが必ず管理者を殲滅してやるという決意を胸に、フリッツはACを駆り、ナインボールを倒し続けていた。

 

 そして今、その仲間であったセラフの謎の答えを知るべく、自分から名乗り出てペンドラゴンと同行してここに居る。

 

 

 

 暫く飛行していると、格納庫らしきものに辿り着いた。これ以降は機体に乗って進む事は出来ず、これより先に進むには人間用の通路しか無い。そこの前にはSF映画を思わせるカプセル型ロボットが立っていた。

 仕方なく降りた突入班たちは、一つだけしかない人間用の通路を前に其々武器を取り出す。

 これは罠なのか、それとも……

 

 すると、カプセル型ロボットは突如動き出した。思わず全員警戒するが、ロボットは何もせず、音声を出して来た。

 

『ヨウコソ。マスターガオ待チデス』

 

 歓迎されているのか。そしてマスターとは一体何者なのか。戸惑う突入班、そんな中ナーガは口を開いた。

 

「何なんだこの機械(カラクリ)は」

 

 思わずナーガは不審そうにロボットを見ながら思った事を口にする。正直なのは結構なのだが、彼女の言動は色々危なっかしいようにサリアとリオスには思えた。

 

『ワタシハサポートマシン、RZ―DZ(アールズィーディーズィー)デス。以後、オ見知リ置キヲ』

「あ、あぁ」

 

 しっかり返事してきた分、かなり高度なAIを突っ込んでいるのだろう。ナーガはRZ-DZの返答に戸惑う中、RZ-DZは背を向けて脚部のローラーを動かしてゆっくりと通路の奥へと動き出した。

 

『デハ、ツイテ来テ下サイ』

 

 RZ-DZの誘導に従いサラマンディーネと護衛の二人、そしてリオスとサリア、フリッツは歩き出した。暫くは迷路のような通路を歩かされた。まるで外部からの接触を断たんとするように。無数の分かれ道を右左と歩き回り、どの方向が出口だったのか、突入班たちは分からなくなってしまっていた。

 正に迷路という言葉が良く似合う道を歩き回った果てに辿り着いた電子ロックされた扉を前に、6人は緊張感に包まれた。罠か、それともマスターとやらか。

 

 RZ-DZのコード入力で扉が開かれる―――そして6人の視界に映ったものは。

 

 

 無数のサーバーらしき機械が音を立てて稼働し、奥にはモニターが付いていた。そこには白鬚白髪と如何にもな老人が映っている。

 

『成程、多人数で来たか。まぁ、警戒されるというものか』

 

 これもAIなのか。

 怪訝な顔をしつつも6人はその部屋に足を踏み入れると、老人は大袈裟な手振りで(映像の中でだが)挨拶してきた。

 

『ようこそ、セラフのオペレーター君とその仲間たち。歓迎しよう盛大に!』

「お、おう……」

 

 リオスは老人の応対に戸惑っていると、ナーガが何故かブチギレた。

 

「サラマンディーネ様を脇役扱いにするとはいい度胸だ!」

「およしなさい」

 

 持ってきた槍を構えてそんな事を言って脅すが、老人は全く怯えず、序でにサラマンディーネに咎められてナーガは渋々槍を納めた。

 ……血気盛んな事である。サリアは呆れて溜息を吐いていると、サラマンディーネは老人に問いかけた。

 

「貴方がRZ-DZの主人なのですか?」

 

 サラマンディーネが問いに対し老人は肯定した。

 

『如何にも。私がRZ-DZの製作者であり主人、そしてレイヤード計画の提唱者の一人であるソル・バルドナだ』

「それにしても画面越しとは随分な応対だな。俺たちが怖いのか? それとも俺たちを罠にはめるつもりなのか?」

 

 フリッツは画面のバルドナを睨みながら問う。当然だ。レイヤードの管理者はフリッツにとって仇敵に等しい存在だ。警戒しない訳が無い。

 だが、老人は悪びれず、怯える事無く答えた。

 

『残念だがレイヤード計画が提唱されたのは500年以上前だ。私の肉体はとっくの昔に滅んでいるよ。もう今は脳みそとAIだけで生きているようなモンだ。ぶっちゃけ慣れたけれどなぁー』

 

 若者言葉を使いまくる老人バルドナの姿に思わずフリッツとサリア、リオスの顔が引き攣った。何なのだこの老人は。

 

『で、何を知りたいんだ? H-1から頼まれたけど』

 

 マイペースな物言いにナーガの低い沸点は限界値を来しかけていたが、サラマンディーネはそれを目で制する。

 そしてリオスは口を開いた。

 

「貴方はH-1とどういう関係なんです?」

『うーん、深い関係? キャハッ』

 

 ぶりっ子系女子高生を老人バルドナはわざとらしく演じ、流石に腹が立ったフリッツとリオス、サリアは無言で持ってきた銃を引き抜いてバルドナが映るモニターに銃口を向けた。

 

『ちょっ、タイムタイム! 修理に幾ら時間が掛ると思うの!? 真面目に答えるから許してよマジで!』

 

 バルドナは慌てて真面目な態度になり、3人はバルドナに苛立ちを覚えながら銃を収めた。

 

『あー、マジレスしちゃうとね? H-1は拾ったのよ。セラフの身体ごと。それでセラフの希望通りにちょちょいと弄ってそれっきりよ』

「何故弄ったんです?」

 

 リオスは問うとバルドナ首を傾げた。

 

『あれ? H-1から聞かなかった? 人間を知りたかったって』

「……あ」

 

 リオスはてっきり忘れていたH-1の発言を思い出して、合点が行った。

 

『まぁ、自我に目覚めるAIなんて貴重だしねぇ。ちょっとお手伝いをね』

「その癪に障る喋り方どうにかならんのか?」

 

 フリッツはバルドナの軽い言動に耐えかねて問うがバルドナは首を横に振った。

 

『もう500年間これだからもう筋金入りで』

「…………」

 

 暫くこの男のふざけた言動に付き合わなければならないのかとフリッツは軽く頭痛を覚えた。

 

『んでんで、序でに同タイプに対するアドバンテージにとV-Driveを積んどいたのよ。その所為で一部DNAパターンでNTの人間にしか動かせなくなっちゃったけれど。ぶっちゃけると、レオナちゃんと今のオペレーターのリオスは結構遠い親戚なのよ割とマジで』

「……は?」

 

 リオスは呆気に取られる。レオナとリオスが離れた親戚とは思いもしなかったのだ。レオナとの面識があるサリアも驚きのあまりフリーズしたパソコンの如く動きをピタリと止める。

 

『それで丁度良かったのよ。喩えレオナが居なくなってもV-Driveで平行世界から召喚しちゃえばOKだし、特定DNAパターン持ちでNTは貴重だからね』

「へ、平行世界だぁ!?」

 

 リオスは驚きのあまり声を上げた。じゃぁこの世界は自分の世界ではないのか。

 

『そよそよ。まぁ今ン所殆ど相違点は無いしあの調子だとこの世界と同じ末路を辿るだろうけれどねー』

 

 リオスは希望を見つけた途端に叩き落とされたような感覚を覚えた。相違点が無い世界にて召喚されたのかH-1によって自分は。リオスはE2の爆発に巻き込まれ危うく死ぬ寸前だったのだ。ある意味助かったのかも知れないが、若干H-1を呪った。

 知りたくも無い事を知らされれば嫌にもなると言うもの。

 

 リオスは希望と絶望の板挟みに遭い俯いていると、ふと、サリアは口を開いた。

 

「……それより、NTに限定されているってどういう事? そもそもNTって何なんです?」

『いい質問だッ! 君なんて名前だね?』

 

 リオスとはまるで違う対応にリオスは先ほどの感覚は何だったのかと言わんばかりに呆気に取られた。サリアも同様だ。

 

「……サリアですが」

『OKOK、サリアちゃん! チミの質問に1から10までお答えしよう!』

 

 腹立つ老人である。あからさまに相手によって態度をコロコロ変えて来る。苛立ちの余り、リオスとフリッツはアーマーマグナムとハンドガンでそこら辺の機械を破壊してやろうかと思ったが、取りやめた。流石に貴重な情報源を自分の手でふいには出来ない。

 

『NTとはニュータイプの略であのジオン・ズム・ダイクンとその思想ジオニズムによって出現が予言された、宇宙に適応進化した新人類の概念! 有名なのでアムロ・レイがその一人と言われているね。だが実際の定義は曖昧で人によってNTの性質は変わって来る。死者の魂を引き寄せる力や人の心を実体化させるようなものも有れば、魂の受け皿そのものになってしまう例も存在する。ただ共通とするのは高い認識力を持ち戦場では圧倒的な戦果を上げたりする可能性がある事だねぇ』

「リオスが……それなんですか?」

『そそ。戦闘センスは中々だったでしょ?』

 

 サリアは訝しげにリオスに視線をやるそして―――理解が出来ないかのように首を傾げた。

 

『あ、ぶっちゃけNTは大体特別扱いされるの嫌ってるからあんまり意識しないようにねー』

 

 バルドナは釘を刺すが、サリアは意識せずには居られなかった。リオスという男が分からなくなってくる。NTという単語、それだけで。得体の知れない何かに思えて来る。

 

『まぁNTじゃないといけない理由はV-Driveの主成分がサイコフレームなのよね』

 

 サイコフレーム。リオスはその単語に反応せずには居られなかった。それは確かアムロが搭乗していたνガンダムに組み込まれたサイコミュの一種だ。組み込まれた機体自体のレスポンスを飛躍的に向上させる力を持って居るパーツである。

 行けると感じたのはそれとの相性が良かったからなのか。

 

『H-1の報告曰く既に二回程発動しているみたいだけれど、一遍赤く発光しなかったかい? あれ、サイコフレームの光なのよ。V-Driveは空間転移や純粋なリミッター解除が出来る訳で、2度目の発動は時空転移能力のちょっとした応用よ。空間そのものを一時的に遮断させて壁を作ったワケ』

「だから収斂時空砲を止める事が……」

 

 サラマンディーネは納得が行ったかのような顔をし、ナーガはリオスを軽く睨んだ。当然か。NTという得体の知れない何かで収斂時空砲を止める化け物が目の前に居るのだ。警戒しない訳が無い。

 リオスは、警戒を受けつつもバルドナに質問を投げかけた。

 

「では、エンブリヲが黒いセラフやナインボールを投入してきたんですが、レイヤードと何か関係があるんですか?」

 

『あ、それはもうレイヤード計画の提唱者が吾輩とエンブリヲ、あとシキなんですわ。それでね、エンブリヲの野郎が管理者システムを作ったのよ。アイツ天才でさぁ。きぃいむっかつくぅ!』

 

 嫉妬心を露わにしてハンカチを噛むバルドナ。彼のペースに慣れて来たかもう既に誰も動揺もしなくなり、何も思わなくなっていた。だが、フリッツは違った。

 フリッツにとっては倒すべき敵が増えたような物なのだから。

 

『んで管理者コンピューターに製作者権限使って侵入改ざんして人間潰しよ! あぁもうあのスカした面がむっかつくぅ! アイツ遊び半分でやってるぜもう!』

 

 随分と迷惑な事をするものだ。リオスはエンブリヲをグーで顔が原型が留めない程度に殴りたい気持ちに駆られた。その様子が実に滑稽だが笑えた話では無い。エンブリヲの危険性が露わになったのだ。

 6人とも表情が険しくなったその時である―――

 

 

 警報(アラート)がこの部屋に鳴り響いた。一体何がと混乱する面々。微かにだが爆音が聞こえて来た。……戦闘か? バルドナは外部の状況を伝えた。

 

『地上にエンブリヲの奴だ。こりゃセラフとか吾輩を潰しに来たかねぇ……RZ-DZ、出口まで客を案内したれ!』

『合点承知』

 

 RZ-DZはバルドナの命令を受けて案内を始める。そんな中でバルドナはリオスだけを呼び止めた。

 

『おまいさんは残っとれ。ちと話の続きがある。それにセラフの改修をしてっから』

「……え」

 

 先に行くと去りゆく5人を見送り、部屋に残ったのはリオスとバルドナのみとなった。そして―――バルドナは口を開いた。

 

『もう出てきてもええんやで。エンブリヲのクソ野郎』

 

 リオスは咄嗟に背後を向くとそこには―――エンブリヲが何もない場所から現れた。そう、何もない場所から。




 RZ-DZ……言うまでも無く某映画のアイツがモデルです。
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