クロスアンジュ イレギュラーと熾天使の輪舞   作:ヌオー来訪者

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 AC4のOvertureを聴きながら読むのがお勧め。今のナインボールは似非ネクスト状態ですから。
 それ以外でも可。無音でも可。

 今回ちょっと、ある動画を元ネタにした部分があります。


第32話 Overture

「……外れたか」

 

 リオスは上空でフェザーアークカスタムを見下ろしながら呟いた。

 

【だが、彼を救う事は出来たようだ】

 

 H-1の発言にリオスは頷く。ガンアークはフェザーアークから距離を取っている。これで少しは大丈夫だろう。

 

【しかしガンアークのパイロット、動きにキレが無いな……不調か?】

 

「分からない……けど今はそれを気にしている場合じゃない。さっさと片付けて撤収するぞ!」

 

 リオスが駆るナインボール=セラフは、戦闘態勢に入る。それに呼応するかのようにフェザーアークの周囲にはフィーンドNBやアナザーセラフ、フェザーアークが集まり、ナインボール=セラフにターゲットをロックオンした。

 

 

「アレが例の不確定要素(イレギュラー)……自分たちが排除に入ります!」

 

 教官の部下であるフェザーアークのパイロットが言うと、教官は慌てて叫んだ。

 

「いかんッ! そいつには手を出すな!!」

 

 教官の叫びは届くことなく、フェザーアークやフィーンドNB、アナザーセラフが射撃武器で一斉にナインボール=セラフに砲撃を放った。

 範囲は広く、パルスや弾丸、ミサイルの雨が、リオスのナインボール=セラフに向かって飛んでいく。

 

 これで避けられまい。……と教官の部下がほくそ笑む。エンブリヲが危険視する不確定要素とは言えど乗っているのは人の子だ。スーパーエース級の腕前でなければ避けられない弾幕の前では勝ち目などあるまい。

 あれを潰せばエンブリヲは世界を創り直す一歩を踏み出す事が出来る。

 見て居ろ、あれを潰して再世された世界であの日地球へと置いて来て再開する事無く死別した婚約者と再会するのだ。

 

 

 ナインボール=セラフは行き詰ったか、動こうとはしない。そして無数の弾丸の雨が命中し、けたたましい爆音と立ち込める爆炎がナインボール=セラフを包んだ。

 

「やったか!?」

 

 部下は勝利を確信した。あれだけの弾幕を受けて立てる兵器などあんな華奢な機体に出来る訳が無い。コロニーのガンダムみたいにガンダニュウム合金を積んでいようと無事では済まない筈だ。

 爆煙が晴れる。さぁ、その綺麗な装甲がずたずたになった所を見せて貰おうか。

 

 

 

 

 

 

 が。

 

 

「ばっ、馬鹿なッ!?」

 

 ナインボール=セラフには傷は殆ど付いていなかった。それを見た部下は驚きのあまり、血の気が引き顔が真っ青になるかのような感覚を覚えた。

 よく見るとナインボール=セラフの周囲には半透明の球体が包んでいる。それが一体何なのか、詳細は部下には分からなかったが、少なくともあれはナデシコ系統やエステバリスが標準装備しているディストーションフィールドに似たものなのだろうとは察しがついた。

 だが、データにはそんなものが搭載されているとは記されていない。しかも形状も異質だ。肩部にはデータにないバインダーが装備されており、得体の知れなさを醸し出していた。

 

 

 

【ニア・プライマル・アーマー80%減衰】

 

 ナインボール=セラフを守ったのはニア・プライマル・アーマーと呼ばれるシールドだった。本来はプライマルアーマーと呼ばれるものが搭載される予定だったようだが、疑似コジマ粒子を使用している所為で、ニアの名前が付いてしまった。

 よって扱いはディストーションフィールドやオーラバリアに毛が生えた程度のものだ。オリジナルのコジマ粒子ならば出来るPAを放出、爆発させるアサルトアーマーは搭載されていない。

 

 だが、防衛システムと出力向上だけでもリオスにとって充分だった。ある程度は被弾によるダメージを防ぐ事が出来るのだ。ただでさえ機動力がシャレにならないレベルで高い機体に恵まれた防御力を与えてくれるだけでもありがたい事だとリオスは考えていた。

 

【消滅するまで後手に回るつもりはあるまいな】

「あぁ」

 

 リオスは機体のブーストに火を入れ、操縦桿を握り締める。

 間もなく襲って来るであろうGを耐えるように歯を食いしばる、そして。

 

 

 第二波が襲って来た所で、ナインボール=セラフは―――消えた。セラフを狙っていた筈の弾丸は空を切りどこか空の彼方へと飛んでいく。空は曇天で何時雨が降るのか分からない程に曇っていた。

 

 

 

 

 消えた、という言葉には語弊があるかもしれない。セラフは尋常でない機動力を持ってこの場から大きく離れていた。流石人間が制御する事前提では出来ていないモンスターマシンだ。一度ブーストしただけでも意識が飛びかけてしまった。

 

「っく……加減は出来ないのかこいつは!?」

 

【直ぐには出来ん。搭乗者にも個体差と時間と調子による変動がある。今回は可及的速やかに殲滅する事を推奨する】

 

「チィッ!」

 

 だったら、そうさせて貰おう。些か無茶な注文だったが、その無茶な注文すらもこなしてしまう程の性能がこのナインボール=セラフにはあった。

 アナザーセラフが無人機特有の無茶な機動でナインボール=セラフに接近し、エネルギーブレードを振るう。

 

 接近武器の出力はNPAでは防げない。ナインボール=セラフは横に短距離ブーストしてそれを難なく回避。そして隙が出来た所でレフトアームでアナザーセラフを殴り飛ばした。

 ガシュン、と金属と金属が衝突する重厚な音を立て、衝突による火花を散らしながらアナザーセラフは地上に向かって墜落していく。難なく搭乗者への負担を無視しした姿勢制御で地表ぎりぎりの所で体勢を立て直すが、そうした次の瞬間、ナインボール=セラフがすぐそばまで接近していた。

 そして無情にも―――エネルギーブレードで上半身部分を突き刺される。そして掴み上げられてナインボール=セラフのバックパックから放出されたオービットが掴み上げられたアナザーセラフの周囲を取り囲みレーザーの雨を叩き込む。そして最後には―――

 両肩部バインダーからフルチャージされたアサルトキャノンをゼロ距離で発射した。

 

 

「ひぃっ!?」

 

 一方的な蹂躙に部下は短い悲鳴を上げる。まるでパイロットの負担を無視したかのような尋常でない機動力、そして一斉射撃を防いでしまうバリアのようなもの、果てはアナザーセラフを消し炭にしてしまう程の圧倒的火力。

 恐怖しない方がおかしい。

 次はお前だと言わんばかりにギロリと頭部のアイカメラが部下たちの方を向く。

 

 そして―――数機の無人機群がナインボール=セラフに向かって接近しようとした矢先、ナインボール=セラフは飛行形態へと変形した。

 咄嗟にフィーンドNBや別のアナザーセラフがパルスを放つが、一切当たらない。そしてその代わりに垂直ミサイルが放出されて、脆いフィーンドNBは叩き落とされ、ある程度の硬さと機動力を持つアナザーセラフは辛うじて回避した。

 だが、それだけで終わらない。一体のアナザーセラフに向かって凄まじい速度で接近しつつ、チェーンガンを撃ち込む。

 

 加速の乗った一撃は反動も尋常では無い。アナザーセラフは姿勢制御しか出来ず動きを封じられそのまま飛行形態の機首が装甲に突き刺さった。そして地面スレスレの所まで運ばれて、地面に叩き付けるようにして離した。

 ガシャン! と音を立ててアナザーセラフは強烈な衝撃を受け、背中のメインブースターに深刻な障害を起こす。

 

 トドメに再度接近し、人型形態へと変わったナインボール=セラフにパルスキャノンをありったけ撃ち込まれ、動力部を撃ち抜かれ爆散した。

 

 

「撤退しろ」

 

 教官が部下たちに撤退しろと告げた。

 

「し、しかし! アレを放って置けばッ」

 

 部下も怯えきっていたが、なんとしてでもナインボール=セラフを破壊せねばならないと考えてていた為に反発する。だが教官はそんな部下たちを諫めた。

 

「『女王』たちが出れば、あの機体も四の五行ってられまい。それにエンブリヲは既にソル・バルドナを殺害している。もう長居は無用だ」

 

「……了解っ」

 

 逃げたい気持ちはあった。あんな頭おかしいとしか言い様が無い兵器にフェザーアークで勝てるとは到底思えなかったのだ。

 データによるとディスコード・フェイザーすら止めたと言うではないか。そんなもの、自称調律者とその腹心の部下たちに任せれば良いだけの事。

 人間の手には―――余り過ぎる。

 

 

 

 エンブリヲ側の機体が撤退していく。

 

「待てッ!」

 

 ナーガ機が追おうとするもサラマンディーネ機は手で制した。

 

「深追いは無用です。……しかしあのナインボール=セラフ……」

 

 サラマンディーネは焔龍號のメインモニターに映るナインボール=セラフを見る。まるであの戦いぶりは悪魔か破壊神めいていた。それが、エンブリヲを殺しうる最大の切り札になろうとしている事実を改めて思い知らされる。

 神を殺すのは何時だって悪魔だ。

 

 あの規格外(イレギュラー)が齎すものは願わくは希望であって欲しいと、リオスにとっての光明であって欲しいと、サラマンディーネは願わずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

 

 気付けば、リオスは何処かに横たわっていた。

 

―――あれ、さっきまで機体に乗ってたような……

 

 間もなくして横たわっている場所がドラゴンたちの都の医務室であることに気付いた。先ほどまで乗っていたので心が中々落ち着かなかったが、暫く天井と睨めっこしていると漸く心が落ち着いた。

 

 暫くすると、医者がリオスが意識を取り戻した事に気付いて診断を受けさせられた。

 どうやら、機体操縦の際の負荷で気を失っていたらしい。それから丸一日昏睡状態だったようだ。つくづく気絶してばっかりだな、なんて自嘲気味に思いつつ、命に別状は無いものの絶対安静という事となった。

 

 医者が去り、再び真っ白な天井を睨めっこしながら、時間を無為に過ごしていると、一人来客が現れた。

 

「ちょっと良い?」

 

「……サリアか。いいけれど」

 

 サリアは、壁に掛けられていた来客用のパイプ椅子を取り、ベッドの傍に置きそれに腰掛けた。今のサリアの服装は、ペンドラゴン隊の女性隊員から借りた制服を借りていたようだった。まぁ、機体を借りているので一時的所属扱いとなっているのだろう。

 

「また気絶したのね。挙句また丸1日眠ってたし」

 

 サリアは少し呆れ気味に笑う。それにリオスは「うるせぇ」と言い返しながら不貞腐れた。別に好きで気絶はしていない。大体人間が操縦する事前提じゃないモンスターマシンのナインボール=セラフが問題であって……

 

「まぁ命には別条はないらしい。最近の医療技術の高さは恐ろしいな、骨数本逝ってんのに数日でほぼ元通りだ」

 

「アルゼナルでは考えられない程速いわね。再生医療って言うのは便利ね」

 

「……まったくだ」

 

 リオスは苦笑する。それにつられてサリアも苦笑いした。そして暫くするとサリアは神妙な顔もちになった。何事かとリオスも真剣な顔もちになる。

 

「そう言えば、報告なんだけれど―――」

 

「何だ」

 

「数日後元の世界に帰る事になったわ。それと同時に、ペンドラゴン隊とアルゼナルを合流させる方針になったそうよ」

 

 ペンドラゴン隊の戦力はEOT技術やゲシュペンストシリーズの末裔、地上最強の戦車(ガチタン)やガンアークがあるので、戦力としては申し分ないものだった。

 まぁ、アルゼナルの者達が心底から納得してくれるとはあまり期待はしていないが。こちらだってそれなりに心の整理に時間が掛っている。

 一朝一夕で納得できる者なんて居やしない。特に―――ココを失ったミランダは納得なんてしないだろう。

 

 けれども、アルゼナルが受けた損害は計り知れないものだし、数週間程度で崩壊したものを元通りに戻せるとは思えない。あのまま放って置けば一人残らず殺されているのは眼に見えていた。残酷だが今も生きているという保証すらもない。

 

「皆、無事だと良いんだが……」

 

 サリアは無言で頷いた。仲間や自分たちを慕ってくれた幼年部の少女たち。彼女らの無事を願わずして何が仲間か。

 暫くの沈黙から、サリアは口を開いた。先ほどの神妙な表情は変わらずだが少し何かが違う気がした。まるで試験結果を待つ受験生に見える。

 

「……そう言えば、リオスって。誰かと付き合っていたりしていた?」

 

「あ? ……付き合うって男女交際的な意味か?」

 

 リオスが問うとサリアは些かオーバーリアクション気味に頷いた。

 

「無い。一応は」

 

「そ……そう。用事があるから引き上げるわ。それじゃぁ」

 

 サリアはそそくさと医務室から去って行く。それにリオスは茫然とせずには居られ無かった。尚、医務室からでた直後小さくガッツポーズした事をリオスは知る由も無い。




 次回、本筋に戻って原作に於ける17話に。
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