クロスアンジュ イレギュラーと熾天使の輪舞 作:ヌオー来訪者
元ラー・カイラム隊所属―――リオス・アルバート軍曹―――
アンジュ達の地球(偽りの地球と呼ぶのは少し抵抗があった)への突入作戦は明日の0600(午前6時の事。真ん中に『:』を入れると分かりやすいかも)。
ミスルギ皇国の地下最深部にアウラが封印されて電池として扱われているのでそれを救出しに向かわなければならない。アウラの民からすれば一種の神様がエンブリヲに良いように扱われているのである意味、図らずもエンブリヲを守っていたアルゼナル陣営が恨まれても仕方あるまい。無論、だからと言ってこちらもかなりの数を殺されているので納得できる訳では無いのだが、もう殺し合う理由は無いだろう。
かの海に没したマイヨ・プラートの如く復讐鬼に成る程、俺もアンジュも据わった意識は持ってはいなかったのもある。それにあちらさんがが公式に戦う気が無いと言うのならばもうこれで終わりにするしかないと言うのがアンジュとサリアと俺の考えだった(ヴィヴィアンは何かしら禍根がある訳じゃないようだし、タスクは交戦していた訳じゃないから除外する)。
それに俺はエンブリヲに思うところがある。
近似値とは言えどほぼ鏡写しの世界を滅ぼされたのは気分の良いモノじゃない。それに自分の本来の世界にもエンブリヲの因子が存在しているとなると猶更だ。それにバルドナとの約束もある。
俺にとってはエンブリヲの暴挙を看過出来ない。彼のやろうとしている事はきっと、タスクや皆を殺す事なのだから。
我の強すぎるアンジュとは規律に固められた組織に生きていた俺とでは色々相容れないがその点ではアンジュの気持ちと同意見だ。
今後どうするかは分からないが今は利害の一致としてアルゼナル陣営と共に戦って行きたいと思う。アルゼナルの皆が納得できるかどうかは分からないが。
タスクは言った。
絶対的に正しい事なんて誰にも分からない。大切なのはどうするべきかや、何が正しいのかと思うのかでは無く『どうしたいか』なんだと。
その言葉を聞いた時俺は少しばかり考えた。
故に―――俺は、まずは足がかりを得る為にアウラ救出作戦に乗る事を択んだ。
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「凄まじいな……これは」
リオスはリフトの上に載ってスタンバイしているナインボール=セラフの機内のモニターに映るドラゴンや機動兵器の集まりに感嘆の声を上げた。
「ドラゴンのフルコースなり~……」
ヴィヴィアンもまたポカンとした顔でドラゴンと機動兵器たち……を見ているようだ。どうやら、ドラゴンたちは世界を繋ぐ門を開くのに重要な役回りを持つらしい。機動兵器はその護衛……らしい。
機動兵器の群れは闇鍋の如くカオスと化しておりMSやらPTやらACやらMAやらとさながら動く機動兵器美術館だ。
「まさに壮観って奴だね……」
タスクもまた感想を漏らす。
今のタスクはクラウドブレイカーに乗っていたが、かなり弄られ半ば別物と化していた。強いて言うならばクラウドブレイカーMk-Ⅱと呼ぶべきか。
因みにこの機体にはヴィヴィアンも同乗している。
サリアのゲシュペンストMK-Ⅹも勿論居る。
フリッツが駆る新たなAC『アナイアレイター
間もなくしてサラマンディーネの指揮下の元、新生ロンド・ベルとドラゴンたちはマナ地球の突入準備へと入った。
ナインボール=セラフもリフトオフし、続いてヴィルキス、クラウドブレイカーMk-Ⅱ、ゲシュペンストMK-Ⅹもリフトオフする。アナイアレイターFは
そして指定位置に向かって飛行する中で、ヴィヴィアンがふと口を開いた。
「ねぇねぇ、ドラゴンさんたちが勝ったら戦いって終わるんだっけ?」
「ん? あぁ、多分ね」
タスクは少し戸惑いながら答えた。実際問題これだけで事が済むとは思えない。ドラゴンとアルゼナルの確執がそう簡単に終わるとは思えなかったのだ。長い、時間を要するだろう。人間はそう簡単に出来ていない。頭では許していても、本能的なナニカが許していない事もある。
だが、それを除けば戦う理由も無くなったようなものだ……タスクの知る限りでは。
滅んだ方の地球の宇宙……つまりコロニーはノータッチな辺り、新しい戦乱が待っている可能性も無くは無いだから―――タスクの口から出た言葉に『多分』が付いてしまった。
「そしたら、どうする?」
「えっ」
戦いが終わったら。
そのような事が脳裏に浮かんだ事は仲間が居なくなってから考えなくなった。アンジュと出遭う前に勝ち目のない状況下逃げていたから猶更だ。
「あたしはね、アルゼナルの皆をご招待するんだ。あたしんちに。皆は?」
タスクは少し考え込んでから、少し楽し気な顔で語り始めた。
「俺は海辺の綺麗な街で小さな喫茶店を開くんだ……アンジュと二人で。店の名前は天使の喫茶店アンジュ。人気メニューは海蛇のスープ」
店名に似合わず随分とワイルドなメニューだなオイ!?
リオスとサリアは思わずずっこけた。せめて紅茶とかスコーンとかそう言う洒落たものじゃないのかと小一時間問い詰めてやりたかったが、タスクが暮らして来た環境上仕方のない事なのかもしれない。
何なら色々後でアドバイスでもしようか、なんてリオスは考えたのだが―――
「戦いが終わったら……か」
終わる訳が無い。リオスの戦いは、ラー・カイラム隊の戦いは終わる筈がない。
この世界はリオスの居るべき世界じゃない。本当に居るべき世界はきっと、シャアを倒した先の世界。そこで大量虐殺者としての汚名を着せられた人間として生き延びる為の戦いを続けなければならない。
リオスがアンニュイな気分に陥っている間にタスクの妄想は暴走し始めていた。
「二階が自宅で、子供は4人……」
「そこまで想像すんのかいッ!?」
リオスのアンニュイな気持ちは吹っ飛んで、タスクの暴走にツッコミを入れた。そして―――
「ヴィヴィアン、コックピットから摘まみ出していいわよ」
「合点承知の助!」
アンジュの物騒な許可でタスクは我に返り血相を変えて慌て始めた。
「あ、いや、ほら……穏やかな日々が続けば良いなって。ただ、それだけさ」
それがタスクの夢だった。何時殺されるか分からない絶望の中で食いつないでいるそんな日々から解放されるのであれば、どんなに良い事か。
「じゃぁサリアは?」
ヴィヴィアンの質問の矛先を変える。するとサリアは面食らったような顔を見せた。
「えっ……私は……」
リオスから聞かされたアキハバラやら嘗ての地球の都市を渡り歩いてみたいという思いが強かった。服屋を一時的に漁ったのだが非常に魅力的なものが多くて目移りしそうだった。しかも店番は居ないので実質ただだ。
「……私は少しあの街を回ってみたいわ」
「旧アキハバラか」
「えぇ」
リオスが言ったアキハバラというものに訳が分からずアンジュとタスク、ヴィヴィアンはポカンとする。まぁ彼女らは知らないで良い世界かもしれない。
特にタスクはアキハバラはどこぞの自称狂気のマッドサイエンティストになりかねない。
あのタスクが白衣来て奇怪な笑い方をしたらアンジュが引く事間違いなしだ。
「まぁ、あの廃墟色々あったろ? そこ回りたいんだってさ」
「へぇ……よくわかんないけれど、リオスは?」
リオスのフォローにヴィヴィアンは要領を得ない顔で矛先をリオスへと変える。矛先向けられたリオスは再びアンニュイになった。
「俺は―――分かってるだろうけれど、帰るよ。自分の世界に」
そう言うとヴィヴィアンが楽し気な顔で返した。
「じゃぁ、いつかその世界にあたしたち遊びに行くね! サリアもタスクもアンジュも一緒に」
「……おいおい、まじかよ」
その提案にリオスは顔を引き攣らせる。
H-1曰くアンジュの居たマナ地球と大破壊後の地球の境界線は薄いが、リオスの地球との境界線は分厚くそう簡単に超える事は出来ないらしい。故にV-Driveの消耗も激しくそう簡単に超える事は出来ない。
転移技術もドラゴン依存でのこの世界では最早永遠の別れと等しいだろう。
だから、ヴィヴィアンの希望はきっと……叶わない。
リオスはある程度当たり障りのない話をしてから、通信を切る。
【帰りたくないのか?】
H-1は問うた。それにリオスは苦笑いしながら答える。
「半々、かな。この世界はノーマやら大破壊やらで碌でも無かったけれど、大事なモンも出来た。タスクやシエナみたいな友達も出来てしまったものだからな……そう簡単に繋がりを断ち切れるものじゃないだろう?」
【そう言う物なのか?】
「愛着と繋がり、かな。メモリにでも刻んどけ」
【いいだろう】
リオスはふぅ、と溜息を吐いて暫くオート操作の状態でシートに座ってぼんやりとしていると通信が入って来た。プライベート回線……サリアからだ。
「どうした」
「帰るんだ……リオス」
「シャアを否定した事へのケリをつけたいから。俺の嘗ての上司で色々悩んでいた人を、俺たちは否定して殺しちまったから」
「……シャアって人、尊敬してたんだ」
「まぁな」
リオスが答えるとサリアは暫く沈黙した。一体何事かと思ったが暫くして再び話を再開した。
「ねぇ、一緒に連れて行ってくれる?
「はぁ?」
リオスはサリアの発言に目を丸くした。意味は分からない訳では無い。だがそれは―――
【一応コックピットに詰め込めば不可能では無い】
H-1はそう言うも、重要なのはそう言う乗れる乗れないの問題では無い。
「わたしきっと、居場所無いと思うから……もし、アルゼナルの皆が生きて居なかったら、帰る場所は何処にも無いから。……それに命令を無視したのよ、2度も派手に虎の子のヴィルキスに手を出した。帰れる筈無いじゃない」
ヴィルキスの強奪、更には非常事態状況下で命令無視によるアンジュへの意図的なフレンドリーファイア。アンジュ自身は恨んでいないようだが、上層部が許すとは思えない。規律のきつい軍隊ならば独房で済むとは思えない。更に彼女が敬愛していた上司であるジルに対する不信感も会話から見て取れる。
アンジュはなんやかんやで、ヴィルキスに乗れる貴重な存在かつ能力を買われていたので処罰は割と少なかったりするのだが、そのアドバンテージが無いサリアは―――
だからペンドラゴン隊やリオスという居場所を作ろうとしていたのだろうか。ゲシュペンストMK-Ⅹのテスターを務める事で。
もうそれにサリアの好意に気付いて良い筈だ。これまでの言動からして。ある意味今の状況下縋りつく対象が欲しいだけなのかもしれないが、中には純粋に恋する少女だった顔もあった。
別に全く何とも思わない訳では無い。
異性に好意を持たれるのは嬉しい限りだし、リオスとしてもサリアはとてもかわいい部類に入るので嬉しさは倍増である。
けれども、それはきっとジルやヴィヴィアンと二度と会えなくなる可能性が高い事を意味していた。それをサリアは耐えられるのか。アルゼナルには友もそれなりに居る筈だ。それにサリアは……耐えられるのか。
連れ帰る事など簡単だ。だが異界に放り込まれた寂しさをリオスが一番よく知っていた。親しい人間が居ない、そんな寂しさを。
意外と脆い一面のあるサリアが耐えられる保証は無い。
「俺は拒否しない。けど、その言葉の意味、ちゃんと、じっくりと考えてみてくれ」
統一地球歴045年という最後の逃げ場は作っておく。サリアが考えたうえでそれでも良いと言うのならもう構わない。だが、後先考えずに動いて大きな後悔をするよりはずっとマシではあろう。
「別にお前が嫌いだとかそう言う意味じゃない。寧ろ……好きだし。だから考えてみて欲しいと思った。自分の言った事に責任を持てるか」
少し攻めた言葉を言ってみる。するとサリアは暫く沈黙した後、「あぅ」と妙な声を上げた。
「どした?」
「ううん、私も……リオスが…………好き」
尻すぼみな物言いだったが、リオスに与えたインパクトは凄まじいものだった。
ちょっと血を吐きそうになる。素面で言われたらきっと本気で血を吐きかねない。平静を無理矢理保たせながら問いかける。
「……後悔するなよ。リスクはデカいぞこの恋愛」
「考えろ、って言いたいの?」
「あぁ。勢いに任せて後悔するのは一番胸くそ悪い」
「そこは真面目なんだ」
「ヴィルキスの為に何年も頑張ったお前ほどじゃない。俺はクソいい加減で色々テキトーだぞ? メカマンのアストナージさんにどやされまくってんだから」
冗談交じりに言うリオスにサリアはクスリと笑って―――
「好き」
「これ以上言ったら罰金な。俺を萌え殺す気か」
少しサリアは不満気な顔をする。そんなサリアが可愛らしく見えるのは―――惚れた弱みとでも言うべきか。
この時のサリアは少し舞い上がっていた。
素直に恋愛感情をぶつけられる相手が出来たのだから。『特別』と思ってくれる相手が出来たのだから。ある意味ジルとは別に縋る相手が出来たと言うネガティブな捉え方が出来るのだが、今のサリアにはそうやって捉える事は出来なかった。
まぁ、リオスは少し複雑そうな顔をしていたのだが。
ある意味では考えなしと言われても否定は出来なかった。リオスを択べばヴィヴィアンたちとの別離を意味していたし、ヴィヴィアンたちを択べば悲恋を意味している。
今はそれを考えない。触れない。
でもきっと、リオスはその事を望まない。『考えて欲しい』それがリオスの望みだとしても今のサリアにはそれが出来ずに居た。だが、それに対し更なる追い打ちを掛けるように過酷な現実が待っている事を、サリアは知る由も無かった……
他者から存在を真っ向から認められて若干調子に乗るサリア。
リオスが好意を示さなければサリアは居場所無くて潰れていたかもしれないし、それを示せば後で来る離別というバックファイアもある。一種のその場しのぎの療法。それが吉と出るか凶と出るか……
:アナイアレイター
フリッツ(偽名)が駆るAC。
オリジナルのフリッツ・バーンが駆るアナイアレイターの
アセンブルは中量二脚のバランスの良い組み合わせとなっており、装備はHiレーザーライフル、レーザーブレード。肩部には垂直ミサイル、Eグレネードとオリジナルのものとほぼ同一。
機体性能は以前乗っていたものより機動性は上がり、EN効率が上昇し滞空時間も長くなっている。