クロスアンジュ イレギュラーと熾天使の輪舞   作:ヌオー来訪者

4 / 35
 走り出す、高性能(はまだです)


第3話 駆け抜ける、爽快感

 リオスは大きな不安に駆られていた。それは何故かと言うと、パイロットスーツだ。

 

 ここに居る人は女性しか居ない。しかも女性が着るパイロットスーツが露出は多いわ、スカートだわと明らかに男であるリオスが着ればシュールな事この上無いだろう。リオスはシエナに連れられながら、顔を引き攣らせ視線が忙しなく様々な方向へと向く。誰か助けてくれませんかね? と救いを誰かに請うように。

 

 だが、救いは無かった。

 

 暫く歩くと、更衣室に連れて行かれた。更衣室は一室しか存在せず、まさかアンジュ同じ場所で着替えるのかと思ったのだが、どうやら順番制を取るらしい。

 先に入ったのはアンジュとサリア。リオスとシエナはアンジュが着替え終わるまで入り口で待つ事となった。それまで手持無沙汰だった為に、リオスは天井とぼんやりと見つめていた。

 

 リオスにはここがまるで牢獄のように見えた。

 

 ジルがリオスに告げた通達で半ば脱走をする事を諦めつつあるのが現状である。

「ここで兵士として戦って貰う」

 小学生と一緒に授業を受ける直前、そう言われたのだ。リオスには拒否権は無かった。逆らうと死ぬのではないかとい恐れを、リオスは抱えていたのだ。

 その面では何の臆面も無く抵抗出来るアンジュの勇気(蛮勇とも言う)が羨ましくもあった。……見習いたくはないのだが。

 

 更衣室からアンジュの喚き声が聴こえる。もうここまで来ると表彰ものだ。本当に頑固で反骨精神の溢れる奴である。同僚のガンダムパイロットたち以上に。アンジュの喚きを聞いていて苦笑いしていると、シエナが話しかけて来た。

 

「ねぇ。リオスさんって何処から来たの?」

 

 声を掛けられてリオスはシエナの顔を見ると、シエナは少し興味津々な表情であった。どう答えたものか。少しリオスは悩んでから答えた。

 

「ノーマもマナを持つ者の区別が無い所、かな?」

 

 そう言うと、シエナは驚いたように「そうなの?」と問う。それにリオス苦笑いしながら「半分冗談だよ」と返した。シエナはがっくりと項垂れて「やっぱり無いんだそんな世界」と言った。

 

 マナを持つ者で溢れるこの世界には戦争なんてないと言われていると授業でリオスは聞いた。だがノーマと呼ばれるマナを持たぬ者は迫害され、社会的かつ物理的に抹殺されたり、ここで兵士として暮す事を強制される。

 同じだ、とリオスは思う。

 差別も戦争も無いと偉そうに言って置きながらノーマという人間を非人間として扱を迫害している。所詮メンタリティはリオスたちの居た世界と変わりはしないのだ。スペースノイドを化け物として扱い、コロニーに毒ガスをばら撒いたティターンズという組織や、ギガノス軍や旧ジオンのザビ家の提唱した選民思想。そして腐りきったUCEの官僚による保身。

 

 何処行こうと人は変わらない。シャアがやろうとした事も認めたくもなる。……けれど、自分たちは否定したのだ。シャアのやろうとしたことを。地球に居る人類をノミとして粛清する事を否定したのだ。それをエゴだと断じて。

 今更曲げる訳にも行かないだろう、人の英知を信じた事を。それがシャアを否定した者たちの背負うべき宿命なのだから。

 

「どうしたの? リオスさん」

 

 難しい顔をしていたリオスの顔をシエナは覗き込んだ。我に返ったリオスは「何でも無い」と返してポツリと呟いた。

 

「重いよなぁ……」、と。

 

 そのつぶやきは誰にも聞かれる事も無く、通路の中へと消えていく。シエナは何を思ったのか、リオスの前に出た。

 

「女性ばっかりで色々辛い事が有るかもしれないけど、悩みが有ったら遠慮なく言ってね。出来る事なら力になるから」

 

 そう、満面の笑顔でシエナは言った。

 リオスの悩みが解決された訳では無いのだが、それでも少し気が楽になった。

 

「有難う」

 

 リオスが礼を言ったその時、アンジュが文句を言う声が更衣室のドア越しから聞こえて来た。アンジュの声は時間が経つほどに激しくなっていった。サリアも何か言っているようだったが、声が小さくて聞き取れない。何時まで続くのだろうか。そんな事を思い始めたその時―――

 

 バンッ! と大きな音を立てて、扉が開いた。扉を開けたのはサリアだ。そして彼女は眼にも止まらぬ動きでアンジュを外へと追い出し、サリアはアンジュを追い出す形で更衣室の扉を乱暴に閉めた。

 

「えっ、ちょっ、おまっ!?」

 

 リオスは困惑した。別に締めだした事で困惑していたのではない。追い出されたアンジュの恰好に困惑していたのだ。

 日焼け一つしてない白い肌がむき出しとなっており、手で胸を隠している。無論、上だけでなく、下も白く細い脚がむき出しとなっている。要するに、一糸纏わぬ姿であったのだ。これに困惑しない方が可笑しい。

 

 まさか新兵は全裸で特訓するというのか。

 

 リオスは咄嗟に顔をアンジュから逸らし、さり気なくアンジュの行動を見守る。シエナはそんなリオスの眼を塞ぎ、

 

「どどどどどどうしたのアンジュさん!?」

 

 凄く焦った表情でアンジュに問うた。だが、アンジュはシエナの質問に構う事無く、締め出された扉を乱暴に叩いて中に入れろと懇願する。

 自業自得とは言え流石に気の毒になってきた。リオスは彼女に少々同情を禁じ得なかった。

 

 

 結局、先ほどのアンジュの全裸騒動はサリアなりのお仕置きだったようだ。それにリオスは安堵の溜息を吐きながら、アンジュと入れ替わりにシエナと更衣室に入った。

 シエナはビニールに梱包されたスーツをリオスに手渡す。

 

「これ、貴方の。特注品だそうだからツケておく、との事らしいわ……」

「ツケ? 何のさ」

 

 リオスはシエナの言葉の意味が良くわからず首を傾げると、シエナが説明してくれた。

 

「ここに男の人が居ない事は知ってるわよね。だから替えというかお下がりが無いのよ。アンジュさんはお下がりを貰えたけど貴方は違う。だから新規に作るしかなかったのよ」

 

 つまり、制服は上に借金して買ったという事になっている訳だ。だがしかし、この牢獄のような空間でお金が手に入るものなのだろうか? というか、マナのお陰でこの世界に貨幣は流通していない筈なのだが。その疑問もシエナが答えてくれた。

 

「ここでは戦闘や座学の成績、実績に応じて貰える『キャッシュ』というものがあるの。キャッシュで欲しいもの買って生活するんだけれど……まぁこれは実践すれば分かりやすいかな」

 

 シエナの説明にリオスは大体を把握した。

 どうやら、このアルゼナルではリオスたちが居た世界と似たような形式のようだ。戦って給料貰って、借金を返済しろ。という事らしい。

 袋から折り畳まれたスーツを取り出して、どんなものなのか広げてみると、女性のものとは違って露出の無い黒いスーツだった。オートバイに乗る際に着るライディングウェアを思わせる……というかまんまであった。臀部には尻尾のようなコードが付いており、それが何となく気になった。

 

「あのー」

「何?」

 

 リオスはおずおずと手を上げた。それにどうしたとシエナはきょとんとした表情でどうしたのかと問うとリオスは答えた。

 

「そこに居られたら着替える事が出来んです」

「あっ…………」

 

 シエナはしまったと言わんばかりに、たどたどしい動きで慌てて外へと出て行って扉を乱暴に締めた。リオスは彼女の動きが面白くて笑いそうになったが、あまり待たせるのもどうかと思ったので、スーツに着替える事にした。

 

 因みに、尋問時に身長や体重を量られた為かスーツのサイズはぴったりであった。

 

 

「まずは飛ぶ感覚を覚えてもらうわ」

 

 シエナの指示に従って、アンジュとリオスはパラメイルのシュミレーターの中に入った。パラメイルとはサリア曰く、「私たちノーマの棺桶」と言った。そんなにネガティブな表現しなくても良いんじゃないかとリオスは思うが、言い得て妙でもある。パラメイルの特性的な意味で。

 パラメイルなる兵器に乗った事は一度も無かったが、中身は非常に精密に出来ているように感じられた。先ほどまで殺風景な倉庫のような場所だったというのに、シュミレーターが表示した映像は非常に精密な外の景色を形成している。

 このテのものには慣れていた為、リオスは比較的落ち着いた様子でシートに跨った。まるでバイクに乗ったような感覚、プロトタイプのクラウドブレイカーシリーズのシュミレーターに乗った時と同じ感覚だった。

 

 グリップを握ってみる……

 

 何だか行けそうな気がした。グリップを握る手が強くなる。腰部についたケーブルを機体に繋げて、出撃準備の為の準備に入る。―――そして、

 

「ミッション07、スタート!」

 

 シエナの合図と共にシュミレーター上の機体が動き出した。パラメイルは可変機で、戦闘機型と人型形態が存在する。尚、戦闘機形態はキャノピーらしきものが無く、事実上コックピットはむき出しである。この点では確かに棺桶レベルで危険だ。しかもシートベルトが無いと来た。こんな兵器でドラゴンと戦おうと言うのか。

 ミッション07は機体の簡単な操作や、初歩的な対Gを試すものだという。所謂初心者向けのものである。

 

「っ……! っくぅ……ッ!」

 

 動き出した瞬間、リオスの身体にGが襲った。リオスは久々のGで一瞬怯むも、直ぐに身体が適応する。こんなものに怯んではクラウドブレイカー系列のパイロットなんて勤まらない。あの機体は非常に高い反射神経と対G能力と体力を求められるのだ。牢獄に放り込まれた間も、体力だけは維持しようと筋トレはしっかりとやっている。

 

「やって……やるさ!」

 

 リオスは自分に言い聞かせるように叫んでから、前方を見た。身体が完全に慣れてしまうと、さして怖いものでも無かった。他の新兵の娘は悲鳴を上げているのだが、アンジュ機とリオス機は鳥の様に、空を舞う。アンジュが何故直ぐに適応してしまっているのか分からなかったが、今そんな事を考えている程、リオスに心の余裕は無かった。

 駆け抜ける爽快感が、何となくではあるが懐かしくてその爽快感に酔いしれていた。

 

「な……何なのあの二人」

 

 見ていたサリアが唖然とした表情で、急降下&急上昇や旋回をやってのけるアンジュとリオスを見る。他二人の新兵は悲鳴ばかり上げており全然操縦できていないというのに、この二人はいともたやすく乗りこなしていたのだから……

 

 

 アンジュとリオスがシュミレーターで圧倒的操縦技術を見せつけた日の夜。

 ジルは執務室にて一人でリオスについての報告書に目を通していた。そして二基の大型ブースターを装備した紅い機動兵器のデータと、そして第一中隊の者ではない明らかに旧い資料だ。顔写真は何処となくリオスを思わせるような雰囲気を持って居た。

 煙草を吸い切ると、資料を引き出しに仕舞ってから外へと出る。

 

 少し外を歩き長い通路へと入り、暫く歩くと出口へと至った。その出口の先にはおびただしい数の石碑が立ち並んでおり、一つ一つに名前が刻まれていた。

 このアルゼナルでは仕事柄死人は非常に多く出る。ドラゴンに食い殺されたり、事故で無くなったりと死因は様々。生き残った者は己の金で墓を立て、弔ってやるのがここでのルールとなっている。死んだ者の人生を背負い、忘れないようにするという意味合いが込められている。そして、死んだ者は初めて本当の名前を取り戻すのだ。

 

 

 ジルが歩いた先は一つの小さな墓標。

 そこには『Leona Gilberta』と刻まれておりそれをジルが懐かしむようにその墓を見下ろしていた……

 




 クラウド系乗りは反射神経は滅茶苦茶高い。じゃなければ、敵との鬼ごっこの際建物に突っ込んじゃいますからね。クラブレ系はスピード狂な機体群ですから。

 本作でに於ける初代ACEの世界観は、量産型クラウドブレイカーが少数のエース級に配備されていたり、元祖クラウドブレイカー系列を生産した『叢‐MURAKUMO‐』の舞台である都市、オリヴァーポートが存在(元祖クラブレも勿論存在)しています。

 もしかしたらアーマード大統領も居るかもしれない。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。