クロスアンジュ イレギュラーと熾天使の輪舞 作:ヌオー来訪者
随分と離れた部屋に振られたものだと、リオスは思いながら、自分の部屋に入ってから壁に凭れた。男なので過ちが起こる事を考慮に入れたのだろうか。あのエマという人が決めたに違いあるまい。……真面目そうだし。―――アルゼナルに入ってから一週間程が経った。時計が見当たらないので時間の感覚を失いつつある。
何とか外に出られないものか色々と観察したが、シエナやサリアが監視しているし、物理的にも出られそうな環境は悉く潰されている。リオスに与えられた部屋も、鉄柵が付いており脱出出来そうにない。鑢で切っても、外には海が広がっている為、泳ぐことも困難。
それに、パラメイルを奪取してここから出た所でリオスの居場所は有るとは思えないし、クラウドブレイカー量産型を回収すれば宇宙に出られるわけでも無い。
―――参ったな…………
これは『詰んだ』と言っても過言では無い。自分がテンカワ・アキトやミスマル・ユリカのようにA級ジャンパーだったら話は別かも知れないと一瞬思ったが、ボソンジャンプに必要な『CC』が無いんじゃお話にならない。というかA級ジャンパー云々の時点で無いものねだりである。
溜息、がふと口から漏れ出た。
共に戦った仲間たちは元気だろうか? とふと思う。多分、捜索は打ち切って地球に帰っていると思われるのだが、帰れば唯で済むとは思えない。
平和の為に戦って来たのに、完全平和主義者に目の敵にされ、戦争を望む反コロニー過激派には寵愛されるという奇妙な状況に陥ってしまっている事だろう。
だが、それを彼らは放っておく事だろうか? 否、きっと彼らはまだ戦い続けている。戦争を起こす者と、シャアが未来を切り開くために打ち破ろうとしたメビウスの環の中で……
だが、もうこれ以上考えても仕方あるまい。新しく生まれ変わったと思って日々を動くしかないのだろう。そう思うと、心が軽くなると同時に涙が出そうになった。
元の世界がどんなに辛くても、戻りたかった。リオスはメビウスの環を越えようとしたシャアの行動を否定したエースの一人として何も出来ない悔しさに苛まれていた。
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どうしてこのような事になったのか?
アンジュは割り振られた殺風景な牢獄のような部屋の中で佇んでそんな事を考えていた。アンジュは少し前までは第一皇女で洗礼の儀を行う所だった。だが、ある日突然マナが使えなくなったのだ。それも民衆の目の前で。これまでマナは使えていた筈なのに、ある日突然。
兄のジュリオはそれを民衆の前で語り、拘束され、その中で庇ってくれた母は殺された。その挙句ノーマに好き放題されて今こんな監獄のような島に放り込まれている。
マナが使えない者は反社会的で野蛮なものだという意識が常識として刷り込まれていたアンジュにとってはこれは我慢ならない事だった。何故ノーマと同じようにこんな貧相な生活をせねばならないのか。
何時もの癖のようにタンスを開く。
タンスの中には煌びやかな衣装が沢山詰め込まれていて、後ろを振り向けば、筆頭侍女であるモモカ・荻野目が大きなベッドの手入れをしており、アンジュがこちらを見ている事に気付くと微笑んでくれる。
自分を呼ぶ声が外からする。妹のシルヴィアだ。急いで窓に駆け寄って開き、名だたる庭師によって手入れされた広い庭を見下ろすと、手を振るシルヴィアと家族の姿が。
嗚呼、これが私の送るべき日常なのだ。
そして『いつもの様に』モモカに馬を回してと言おうと仕掛けるも、現実は―――
殺風景な部屋。中身がスカスカなタンス。小さく寝心地の悪そうなベッド。窓には牢屋のように付いた鉄柵。
寒かった。寂しかった。
アンジュは壁に凭れて、助けを求めるように呟く。「寒いわ、モモカ……」と―――
アンジュはまだ、今を受け入れられずにいた。
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「例の新人二人ですが―――双方とも基礎体力、反射神経、格闘対応能力、更に戦術論の理解度。全てにおいて平均値を上回っております」
パラメイルの格納庫内でエマの報告を聞いたジルは、報告書を見ながら、不敵に笑った。
「随分と優秀じゃないか」
「ノーマの中では、ですが」
エマはジルの呟きを訂正しつつ、自分の眼鏡の位置を手で修正する。
エマという女はノーマに対する差別意識を持って居る。とは言っても、これでもまだマシな方なのだから恐ろしいものである。お互い敬礼し合い、其々別の場所に向かって歩き始める。
そして行き着いた先は―――錆びつき元の輝きを失ったパラメイル。それを暫く見てから、第9番格納庫と書かれた一部の人間しか出入りしない場所へと歩を進めた。
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アルゼナル内での憩いの場とされる食堂にて、リオスは配膳された食事を持って、何処で食べようかと辺りを見回した。周囲から奇異の視線を感じる。やはり男というものは珍しいものらしい。まるで有名人になった気分だが、個人的には親しみやすい庶民派なアイドルで有りたい所だ。
「わぁ……男の人だ。映画みたい……」という普通(?)のものも有れば、中には「棒みたいな奴付いてるのかな?」とか下手したらR-18化待ったなしな発言をかます者も居る。
そんな中で、片隅の席でご飯と睨めっこしているアンジュを見かけたのだが、どうしたものか。同じ新人同士、仲良くしようではないかと言わんばかりにアンジュの向かいの席に無遠慮に座った。どうせ許可を請うた所でノーマ如きが来るんじゃねぇよボケェと言われるのが関の山である。
「戴きます」
リオスは両手を合わせて日本式の礼をしてから食にあり着いた。……何故、日本式なのかと言うと、戦友たちに日本出身の人間が居て、実際に日本現地に降り立った事が幾度かあり、そこで色々教えてもらった訳だ。それがリオスとしてはいたく気に入っている。
因みに話によると日本にはニンジャと呼ばれる超常的存在が居るらしく、ハイパー化したオーラバトラーもビックリな異形の怪物と戦っているとか。ニホンってコワイ!
……話を戻すが、アンジュは一口も食べていないようだった。育ちの関係上安いものは食べられないのだろうか? リオス自身はこれ以上に凄まじく不味い食べ物を口にしている為、何ともないのだが、彼女は違う。話が本当ならば皇族なのだ。
それでも腹が減っては戦はできぬ。「食べなよ」と言おうとした矢先、ヒルダ、ロザリー、クリスの3人組がアンジュとリオスの居る机の空いている席に座って来た。友達にでもなりに来たのか。いや、敵意を感じる為それは無いか。それにヒルダの第一声が―――
「おやおや痛姫様。あんなに何でもできちゃうお方が好き嫌い?」
と、まぁ敵意むき出しの発言だったのだ。怖い女である。あまり関わりたいタイプではないとリオスは思ったが、このままアンジュを放っておくのも忍びなかった。ヒルダの腰巾着であるロザリーがアンジュが碌に手を付けていない皿を取り上げて、自分の皿に持っていく。
「良くないねぇ……ちゃんと食べないといざって時戦えないよォ?」
そんな事をのたまいながら、アンジュの分の食べ物を全て奪って空の皿を乱暴にアンジュに向けて放った。それをクリスがニヤニヤと笑っている。
「おいアンタ……」
だったら取り上げんなよと言おうとしたが、ロザリーたちは全く聞く耳を持って居ない。人間第一印象が肝心だと言うが、リオスから見たらロザリーへの第一印象はどうも良くなかった。嫌な奴というか意地の悪いおばはんと言うか。
ロザリーが奪った食事をスプーンで掬って口にしようとしたその時―――
「そんなもの、良く食べられますわね」
とアンジュは侮蔑を込めて吐き捨てるように言い放った。
―――あぁもうどうしてそう、火に油を注ぐような事言うかな!?
リオスは心の中で頭を掻きむしり、殺気立つこの場の雰囲気にあたふたしていた。他の席に座っている者達もこの席で一触即発になっている事に気付き、視線がこちらに集まっている。
「あらあら、痛姫様のお口には合いませんか」
それに構わず、ヒルダはご飯を食べながら厭味を言い放つ。
女同士の喧嘩というものはこういう物か。胃が痛くなるような感覚を覚えながら、どうしたものかとリオスは考え込んだ。部隊内での不和は危険だと軍属である人間には刷り込まれている。それ故にこのような状況は阻止せねばならない。憎しみのあまりフレンドリーファイアなどという愚行は避けさせねば。
「このっ……お高く止まってじゃないよ!」
その時、激昂したロザリーが立ち上がって、コップの中の水をアンジュ目掛けてぶちまけた。それをアンジュは高い反射神経を以て回避。勢いのままにロザリーの手からコップがすっぽ抜けて、ロザリーの隣の席で考え事をしていたリオスの頭に直撃した。
―――い、痛てぇ……
苦しむリオスを他所にロザリーが避けたアンジュの襟首を掴み上げる。
もう怒っていいだろうか? と、リオスは思う。喧嘩のお陰で唯でさえ味が微妙な飯が不味くなりそうだ。アンジュと一緒に食べようと火に飛び込んだ自分にも責任はあるのだが。
ヒルダとかいう口が非常に悪い奴といい、ロザリーとかクリスかという腰巾着と言い、アンジュといい、何故こうも隊内の和を露骨にまで乱すのか。体育会系ならこれが見つかれば修正ものだ。だが、ロザリーの行動をヒルダは立ち上がって止めるよう命じた。
「よしなロザリー。……痛姫様、一つ忠告しておくよ」
ロザリーは不服気に、アンジュから手を放す。
そしてヒルダはアンジュの分のデザートのプリンを取ってからアンジュに指を差した。
「ここはもうアンタの居た世界じゃないんだ。この精神病患者のように早く気が付かないと……死ぬよ?」
ヒルダのその言葉が、リオスにとって様々な意味で深く突き刺さった。ここは自分の居るべき世界では無いという事を再確認させられたような、そんな気がした。
というかさらっとこちらに喧嘩を売りやがったなこの女め。後で覚えているが良い。模擬戦で完膚なきまでに叩き潰してくれる。エースの中のエース(自称)の底力見せてくれるわ。
と、心に誓いながらリオスは完食。プリンも平らげて手を合わせた。
「ご馳走様。……ここは飯を食うところや。喧嘩したいなら外でやれや。飯が不味くなるんじゃワレ」
アンジュが付き合ってられんと言わんばかりに溜息を吐いて去っていく傍ら、リオスは何故かテレビで見るヤクザのような喋り方でそう吐き捨てるとリオスはこの場を後にした。
「あんの精神病患者めが……」
ロザリーの憤る声を背に受けながら。
―――だから俺は正常だと何度言えば……
/
「随分と派手に喧嘩していたようだけど?」
食堂を後にして空いた時間を適当に散歩する事で過ごそうとしたリオスだが、サリアに声を掛けられ引き留められた。
「あ…………アハハ……」
それを笑ってごまかそうとするも、逃げられなかった。
「アレに関与していた人全員に言える事だけど、部隊内での和を乱さないで欲しいわね。憎しみのあまりフレンドリーファイアされたら困るわ」
サリアの主張はリオスと殆ど同じものだった。リオスは敬礼で返した。
「はっ! 心得ております副隊長殿!」
「その割にはヒルダの煽りを真に受けて喧嘩していたようだけど?」
「んぐっ……!」
サリアの指摘にリオスは慌てて言い訳する為の言葉を探すが、思いつかなかった。しかしながら精神病患者だの言われたら怒らずには居られなかったのだ。……大人気ないが。
「他にも娘にも言って置くけれどね。……所で貴方、ジャスミン・モールは利用したかしら?」
「ジャスティス砲?」
「どう聞き間違えたらそうなるのよ。ジャスミン・モールよ。どうやら使った事無いみたいね」
リオスの残念な難聴っぷりにサリアは呆れつつリオスのボケを訂正して、話を続けた。
「シエナから話は聞いているわ。買い物が出来る場所があるから、案内するわ。付いて来て」
そこで借金を返済すれば良いのか。リオスはサリアの案内を受けて、ジャスミン・モールと呼ばれる市場へと足を運んだ。
リオスも大概隊内の和を乱しているような……前回でヒルダの煽りを真に受けてキレたし……
最後に、ロザリーのファンの皆様本当に申し訳ない。おばはんとか女性に失礼ですよね。次回は多分戦闘回。そろそろレイヴンたちのトラウマ(のそっくりさん)の出番も近い。
ヒルダ「戦闘システム、起動」
リオス「誰やお前」