クロスアンジュ イレギュラーと熾天使の輪舞 作:ヌオー来訪者
リオスがサリアに案内された先はジャスミン・モール。比較的簡素な造りの市場だった。店主曰く下着からバスターランチャーまで何でも揃うとの事で、その言葉に偽りなく日用品だのパラメイル用の兵装や、娯楽としての本、お洒落用の服も売っていた。
リオスが一番目に焼き付いたものは、武器のコーナーだ。何処かで見た事のあるような武器が盛りだくさんで、エルガイムの代名詞であるバスターランチャーらしきものや、ファーストガンダムと呼ばれる嘗てアムロ・レイが搭乗したガンダムのメインウェポンであるビームライフルっぽいものとか色々陳列されていた。
他には明らかに人の苗字をそのまま付けたようなハイレーザーライフルや3連パルスライフル……グレネード、ハンドレールガンだの対エネルギーシールドだの種類は様々。
他にも、武器にしては洒落過ぎていないかと思えるような武器も配備されていた。
パラメイルはノーマの棺桶。己の死に場所であるが故に、自分の好みにカスタマイズする事が許されている。生存率を上げる強力な武器や分厚い装甲。他には自己主張する為のエンブレムなどと言ったアクセサリーも売られている。
ここでの買い物がノーマに許された数少ない自由なのだと言う。
リオスは目を輝かせて陳列された兵器群に見とれていると、背後から能天気な声が聴こえて来た。
「うぉーっあったらしいの入ってるーっ!」
ヴィヴィアンだった。どうやら武器でも買いに来たようだ。店主のジャスミンと話しており、ヴィヴィアンは自分が指をさした武器の値段を問う。
結果は……1800万キャッシュ。
ヴィヴィアンが狙ったものは投擲武器としても斬撃武器としても申し分の無いもののようで、硬度も見た目だけでしか分からないが相当固そうだ。
ヴィヴィアンはその値段を聞くと、何やら考え出してから意を決したように、また今度来るという事を言ってからリオスのもとに歩み寄った。
「さぁ、ここでクイズだぁ! あの武器の名前は何だ!?」
ヴィヴィアンが指さした先は、先ほど指定していたものとは違い、金色の柄と握り、そして蒼く透明な刀身の日本刀型の近接ブレードだった。鞘も付いており、サムライ気分を味わえる事間違いなしだ。
「……ハラキリブレード?」
恐る恐るリオスが答えるとヴィヴィアンは「ブッブー外れ!」と返した。
「正解は、サムライブレードの月光丸でした! 切れ味はトップクラスで衝撃波を飛ばしたり出来る優れものなのだ!」
「おうマジか」
「カッコいいよねー」
「うむ」
リオスとヴィヴィアンは感心したように月光丸を見上げる。綺麗な武器だった。金色の柄と半透明の蒼い刃という色合いの組み合わせが上手い具合にマッチしている。
―――やべぇ、これ欲しい。
とか思っていると、ヴィヴィアンがジャスミンから値段を聞いてきたらしく、月光丸の値段を口にした。
「アレ、3800万キャッシュだって」
「ウェッ!?」
「ヒェッ!?」
その時、リオスとサリアは驚きの余り跳びあがった。ヴィヴィアンが買おうとしたものの約二倍。こんなもん買える気がしない。サリアはリオスの横でなにやら難しい顔で月光丸を見上げていた。
「あれ? サリアも月光丸狙ってたり?」
「……そ、そんなわけないでしょう!? こんな非現実的過ぎる買い物なんてする訳が無いわ!」
ヴィヴィアンの問いを必死にサリアは否定する。明らかに不自然である。
図星かこれは。大体察した二人はお互い顔を見合わせてニタリと笑った。何故かいつの間にか仲良くなってしまっている二人である。類は友を呼ぶと言うのか。まぁ適正試験や訓練でよく雑談していたのもあるが。
「やっぱ我慢してアレにしようかなー。これ一本で近中レンジは補えちゃうし」
「かっけぇ……浪漫だよな、あのブレード。カッコいいよなー憧れちゃうぜ」
ささやかながらの以前の仕返しである。リオスは忘れていなかった。釈放時に臭いと容赦なく言った事を。あれでどれだけ傷付いた事か。……カッコいいとか言った感想は半分本気だが。
サリアは月光丸を見上げる二人の横で顔をドラえもんの如く青ざめさせて、冷や汗を滝のように流していた。
―――計画通り。
高すぎるから誰も買わないと胡坐でもかいていたのだろうが……リオスはほくそ笑んだ。我ながら性格の悪い男である。
「冗談ですよ副長殿。流石に新兵が狙える代物じゃないですから」
「ジョーダンだよー」
流石に遊びすぎるのも問題なので冗談である事を明かすとサリアは胸を撫で下ろすや否や、ホルスターからナイフを抜刀した。―――いかん、やり過ぎたか。
リオスとヴィヴィアンは冷や汗を頬に流す。
「からかったわね……貴方たち」
やり過ぎた。このままでは殺されるのではないかという緊張感に包まれたその時、アラートが鳴り響いた。―――ドラゴンだ。
恐怖心と後悔と罪悪感で一杯だったリオスとヴィヴィアンの顔が一気に引き締まる。これがリオスやアンジュ新兵組にとっては初陣となるだろう。ゾーラはアンジュたちを実戦に投入する気満々だ。
恐らくこの初陣の評価で色々決まるであろうから、新兵は命令の範囲内で出来る限りの己の力をアピールしなければならない。
怒りに燃えていたサリアも元に戻って、「あとで覚えていろと言わんばかりに睨めつけてからリオスとヴィヴィアンと共にパラメイル格納庫へと走った。
冗談の通じない相手に冗談を用いたリオスとヴィヴィアンに間違いなく非があり、リオスはあとで謝ろうと決意した。
/
「だから―――貴方は一番後列左端の奴に……」
サリアはアンジュたち新兵に指示を飛ばし、其々に専用の与えられた機体を言い渡す。与えられた機体。それは通称『ノーメイク』と呼ばれる機体『グレイブ』。
武装は対ドラゴン用アサルトライフルと、凍結バレットと呼ばれるものだ。
これだけでも性能面では充分らしく、凍結バレットの威力はガレオン級と呼ばれる大型ドラゴンに強大なダメージを与える事が出来るのだと言う。
ゾーラの指示で全員が機体へと乗り込み、其々起動シークエンスに入った。
「ルーキーども、初陣だ! お前たちは最後列から援護。隊列を乱さず、落ち着いて状況に対処しろ。落ち着いて訓練通りにやれば死なずに済む」
「「「イエス・マム!」」」
ゾーラの言葉に、アンジュ以外の新兵は返事をする。新兵であるココと、ミランダはやや緊張気味だ。かくいうリオスも二人程ではないにせよ緊張していた。シュミレーターでドラゴンと戦ってはいたのだが、かなり手ごわいように感じられたのだ。実戦ならば更に手こずる事であろう。
極力表に出さないように努めていたのだが……
「オイオイ……訓練ではアレだけの好成績叩きだしてんのに緊張しているのかい?」
ゾーラにはそれが筒抜けだったようでリオスはばつが悪い表情を見せて返した。
「まったく男を見せろ。後方支援だけだ、無茶しなければ死にはしないさ」
「はっ」
リオスはモニターに映っているゾーラに向けて敬礼する。素行に色々と問題があるが、腕は確かだ。まぁ、流石にまだ12歳という若さのココやミランダにセクハラしていたのは流石に引いたが。苦手ではあるが頼れる上官だ。
『全機、発進準備完了。誘導員は発進デッキより退避。進路クリア、発進どうぞ』
要領はラー・カイラムに居た頃と大して変りはしない。リオスは操縦桿のグリップを握りしめ、集中した。
「ゾーラ隊、出撃!」
ゾーラを筆頭に次々とパラメイルが発進していく。そしてリオスとアンジュ機に順番が回り―――
「ゾーラ隊リオス機、グレイブで出ます!」
「…………」
3、2、1、Ready
リオスのグレイブとアンジュのグレイブがリフトから離れて、ブースターから光を放ち、ハッチから空へと勢いよく飛び立った。
『リオス機、アンジュ機リフト・オフ。コンプリート!』
ふと、リオスはUCEの兵士になったばかりの頃を思い出した。あの頃はルクレツィア・ノイン教官に厳しい教導を受けていた。そしてよく怒られもした。
ノイン教官が居なければきっと今の自分は居ない。自信を以てそう言えるだろう。
「モノホンのパラメイルはどうだい? 振り落とされるんじゃないよ!」
「「は、はぃ~!」」
「はっ!」
ゾーラの喝にココとミランダは震え気味に返事し、リオスは景気づけに勢いよく返事をした。物事は大体勢いがあればなんとかなるものだ。尻込みしていれ大体最後に後悔するのだ。
何もせずに後悔するより、やって後悔してやる。
その想いが、リオスの身体を突き動かしていた。
「よし、各機戦闘態勢……フォーメーションを組めッ!」
戦闘区域に入る直前、ゾーラは指示を飛ばし、部下たちが一斉に返事をして陣形を組んでいく。これも演習を思い出せば上手くやれる筈だ。リオス機は慎重に自分のポジションに入って行くが、近くで飛んでいたアンジュ機は持ち場に着こうとする様子が見受けられなかった。
「どうした、位置に着かないのか?」
リオスはアンジュ機に回線を繋げて、声を掛けるがアンジュは一切リオスの声に反応しない。アンジュの意識はまるで他所に行っているようだ。…………まさか。
嫌な予感がした。そしてあっさりとその嫌な予感は的中してしまった。
アンジュ機は大きく隊列から離れて、我が部隊から全く違う方向へと飛んでいったのだ。それが何を意味するか―――『脱走』だ。
脱走行為、敵前逃亡はUCEの軍隊でも厳しく罰せられる。UCEより圧倒的に閉鎖的状況であるアルゼナルでは最早何も言うまい。リオスは血相を変えて声を荒げた。
「おい止せアンジュ! 死ぬ気かお前は!」
「私はアンジュリーゼ・斑鳩・ミスルギ! 私は私の居るべき世界に、ミスルギ皇国に帰りますッ!」
「何馬鹿な事言っている! 俺たちの機体の推進剤は戦闘一回分しか無いんだ! それがどういう事か……分かっているだろう!」
「それでも私は……! あの場所から去れるのであれば……!」
リオスは必死に戻るように声を掛けるが、アンジュの耳には届かない。頑固な奴め。サリアは舌打ちしつつ己の機体をアンジュ機を追うように方向転換した。
アンジュについて行くようにココ機が、離脱する。このままでは危険だ。孤立すればもしドラゴンと出くわした場合簡単に……
「あの二人、止めに行ってきます!」
リオスは、サリアと共に二人を追うべく離脱しようとする。それに便乗してミランダもココを止めるべく機体を飛ばそうとする―――が。
「ミランダさんとリオスさんも行ったら駄目! これ以上陣形が崩れたら全滅するわ! ここは……サリアさんに任せましょう……」
シエナに咎められて、ミランダ機とリオス機は踏みとどまった。そしてミランダは押し殺すように呟いた。
「ココ……どうしてこんな……」
/
サリアはアンジュに銃口を向けていた。命令違反は重罪。敵前逃亡した者は銃殺という決まりがある。それを行使せねばならないのだ。
アンジュは向けられた銃口を気にする事なく機体を飛ばす。
―――撃つしかないようだ。
サリアの引き金を引く指に力を込めようとした矢先だった。アンジュとは別の少女の声が木霊した。……ココの声だ!
背後を見ると、ココ機が全速力でアンジュ機を追って来て、ついにはアンジュ機の隣にまで至った。
「アンジュリーゼ様! 私も連れて行って下さい! 私も、魔法の国に!」
ココの瞳は希望に満ち溢れていた。彼女は絵本やファンタジーものを好む性格の娘で、何かしらで外の世界の事を知ったのだろう。大方アンジュかリオスか。
何という事だ。とサリアの苛立ちは募って行く。
このまま燃料切れで墜落してから捜索するのも有りか。サリアがそう考えていると―――何か嫌な予感がした。何となく、ではあるのだが。嫌な予感が。
何だろうか、この底知れぬ不安は。危険だ、と第六感が叫ぶ。その感覚は1秒毎にどんどん強まって行く。
「拙いッ!」
募る不安を抑えられなくなったサリアは急いで機体を人型形態へと変形し、ココ機を『押した』。
「キャァッ!?」
乱暴に押された事で、ココ機はバランスを崩して海に向かって落ちていく。
そして先ほどまでココ機が飛んでいた場所には閃光が奔った。閃光は危うくぎりぎり水面上で体勢を立て直したココ機の近くに落ちる。
―――門が……開く。
閃光が来た場所を辿ると、そこには大きな裂け目が発生していた。そこから大きな首が獰猛な牙をむき出しにして、血の様に赤く睨まれた者を怖気づかせる眼を開いて『奴』は現れた。
「ドラゴン……!」
ドラゴン。アルゼナルに居る者の倒すべき敵が門からその姿を見せた。
/
現れたドラゴンはスクーナー級26、ガレオン級1体だった。
しかしガレオン級のサイズはハイパー化したオーラバトラーより圧倒的に巨大な物だった。雄叫び一つでリオスの背筋を凍てつかせる。
「なんてプレッシャーだよ……」
リオスが小さくぼやいていると、ゾーラから通達が来た。
「ゾーラだ。総員、聴け! 新兵教育は中止。先ずはカトンボ共を殲滅し、航空優勢を確保する。全機駆逐形態、陣形は空間方陣! シエナ機とサリア機はルーキー共のフォローに回れ!」
ゾーラの指示に従い、離脱機以外の機体は戦闘機形態から人型形態に映る。そしてリオス機とシエナ機、ミランダ機はサリア機のもとへと機体を進めた。
だが、ここで都合よくいかないのが世の定めだとでも言いたいのか。小型のスクーナー級のドラゴン数体の牙はアンジュの方向に行っていた。
「拙い……!」
リオスは焦って、再度戦闘機形態に変わり、機体の速度を上げてアンジュ機を助け出そうと飛ぶ。
「ひいぃッ!?」
小型ドラゴンがアンジュを食い殺そうと鋭く獰猛な牙を剥きだしにして襲い掛かる所、リオス機はアンジュ機とドラゴンの間に割って入って、人型に変形。ドラゴンの開いた大口にライトアームに持ったアサルトライフルの引き金を引いた。
弾丸が、ドラゴンの身体の中に入って行くが、ドラゴンも負けじとアサルトライフルをライトアームごとかみ砕く。
「まだだッ!」
リオスは吠えながら、レフトアームの拳を全力で何度も銃弾を受けて瀕死になったドラゴンを殴りつけて墜落させた。
「はぁっ……はぁっ……」
ライトアームを失った挙句、攻撃手段もみすみす失う事に成ろうとは。リオスの顔に焦りが出る。背後にはアンジュ機はもう居ない。何処かへ逃げてしまったのか。
ココ機はミランダ機とシエナ機に保護されていた。
一方で一体力技でドラゴンを倒したリオス機には情け容赦ない追撃として背後から小型ドラゴンが襲い掛かった。
「クソッ!」
何とかコックピットを喰われる事は阻止したが、レフトレッグを噛み切られてしまう。反射的に拳を叩き込もうとした瞬間、長い尻尾で殴り飛ばされて、機体が軽く吹っ飛んだ。戦闘機形態だったら忽ち外に放り出されているレベルの衝撃だ。
レフトレッグをかみ砕いたドラゴンが今度こそと再度襲い掛かったその時―――ドラゴンは真っ二つに叩き切られ、二分割となったドラゴンは海に落ちて紺色を紅に染めた。
「機体は大丈夫……じゃないみたいね」
ライトアームを失ったリオス機の近くにドラゴンを先程アサルトブレードで真っ二つに叩き斬ったサリア機が現れて、状況確認をする。近辺には小型が9体程だ。凍結バレットは健在。残弾は未使用な為に余裕は十分にある……3発だけだが。
凍結バレットで数を減らすしかあるまい。と言っても凍結バレットは3発しか使えないので、外すわけにはいかない。狙いを定める。
サリア機が一応、リオスたちを守るべくドラゴンに応戦してくれているのだが、如何せん数が多くてさばき切れていない。シエナ機は二人の新兵を守るのに精一杯。
やるしかあるまい。
リオスは意を決して凍結バレットを装填させて、近くにいるドラゴンに狙いを定める。そして―――一撃。
命中し、一体が海中に落ちて海を凍らせる。リオスは凍った海を見下ろしながら凍結バレットの威力に思わず舌を巻いた。大型に使えないのが勿体ないが仕方あるまい。
再度装填して、サリア機の背後を取って襲い掛かるドラゴンに発砲した。―――これも命中。
「チィッ……!」
使うタイミングを見極めなければ。無駄に撃てば総てが終わる。だが―――
「危険よリオス! 私と交代して!」
シエナの介入により、リオスとシエナの立ち位置を後退。これ以上の戦闘を避ける事が出来たのだが、見ている事しか出来ない自分にリオスは苛立たずには居られなかった。
そして戦闘終了後。リオスは自分の他に味方数機中破し、ガレオン級を逃してしまった挙句に、ゾーラが戦死してしまったという報告を聞かされる事となる……
月光丸を欲するサリア。果たしてサリアは月光丸を手に入れる事が出来るのか?
原作よりサリアの仕事量が増えているのは気にしてはいけない。
なんやかんやで生存者が出ましたが本作は色々安心できない展開も放り込んでいますのでご注意下さい。まず、一回ですべての危機が終わるとは思わない事。これは気に留めておいてください。
次回『熾天使、出撃』