守りたい、ただそれだけ(本編完結)   作:ディニクティス提督(旧紅椿の芽)

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第1話

「ふぅ、クソッタレなもんだぜ…………」

「や、やめて…………い、命だけは」

「ダ〜メだ、てめえはこれから死ぬんだ。おとなしくしてろよな!」

「た、助けて! だれ——」

 

響き渡る断末魔。それが俺の心へと染み込んでいく事はない。そりゃ、俺だって好き好んで殺しをしてるわけじゃねえ。戦争快楽者というわけではないが、どうもコンバットハイになりやすいらしい。まぁ、傭兵という立場にいる上じゃ仕方ねえんだけどな。ただ、今の傭兵稼業は昔とは派手に変わった。全身が装甲に覆われている。俺の身体の端から端までだ。それに俺の使う武器もデケエ。アサルトライフルだが、30口径36mmだ。銃身だけで一メートルだぜ。

 

こいつの名前はインフィニット・ストラトス、通称IS。

 

その戦闘能力は過去のどの兵器も凌駕し、軍事力のパワーバランスを崩壊させた張本人だ。十年前に突然現れ、世界のバカな高官どもはその力に酔いしれた。だが、そんな高性能な兵器にも欠点がある。何故か女にしか使えない、反応しないという点だ。搭乗者を選ぶという時点で兵器としては成り立たない。おまけに、その機能中枢であるコアの製造は開発者にしかできない。よって、その機体数は467。そこから増える事はない。

それでも、あまりある戦闘能力に心を奪われた奴らは、量産化しようと、あるものを五年前に開発した。擬似コアだ。こいつは、一応男にも使えるらしいが、今のところ女しか使ってねえ。量産化の安定ラインにのったそいつらは、年間生産数は六百を超え、現在稼働しているだけでも約三千機。オリジナルと違って、絶対防御とコアネットワークが存在しない事を除いても高い戦闘能力は世界の軍事家を唸らせた。

しかし、非合法ルートで彼方此方に流失している事も事実だ。だから、ある依頼人から俺に破壊依頼が舞い込んでくるわけだ。

ちなみに今の戦闘だけで四機は撃破した。俺は擬似コアを完全に砕いた事を確認すると、その場から一気に離脱した。

帰路に着いている道中、通信がはいる。どうやら、依頼人からのようだ。

 

「はいは〜い」

『どう? 依頼はこなしてくれたかな?』

「当たり前だ。報酬と弾薬の補給は頼むぞ」

『いつもの講座に振り込んでおくし、弾はガレージに送っとくよー』

「了解した、()さんよ」

 

そう、俺の依頼人は今の世界を生み出した元凶であり、ISの開発者である、篠ノ之束だ。

そして、俺は世界でも稀少なオリジナルコアの機体に乗る、男の搭乗者、紅城悠助だ。

俺はスラスターを全開にする。数十分後、俺の拠点である日本のある町へと着いた。…………さて、自宅へ帰るとしますか。それにしても

 

「雪、か。中東は降るはずねえか」

 

今晩は少し冷えるかもしれねえ。…………コンビニでも行ってくるか。

 

 

 

 

 

 

(うぅ…………寒いなぁ)

 

雪が降っているんだから仕方ないとは思うんだけど、それでも今日は特に冷えるかも。私は身を縮めて冷えないようにする。けど、全然暖かくならない。…………それもそうか。私、上着着てないんだった…………それに、裸足で逃げてきたようなものだから、足元は霜焼けになり始めている。服? 制服しか着れる物は無いから、それ着ているけど、ボロボロだしね…………。

しんしんと降り積もる雪を見ながら、私は近くの電信柱に寄りかかって座った。はぁ…………私ってなんなんだろうね。

 

『お前さぁ、姉ちゃんと兄貴はあんなにできてるのに、何でできないわけ?』

『お前も同じ血を引いているんなら、できて当然じゃないのか?』

『本当、見てるだけでイライラしてくるんだよ、この出来損ないが』

 

それにあれが出てからというものの…………

 

『何、あなたそんなに千冬様の顔に泥を塗りたいわけ?』

『千冬様の妹なら、それくらいできて当然なんじゃないの?』

『うわぁ、こんな出来損ないを持つなんて…………千冬様もお兄さんも可哀相ね』

 

だからって努力しなかったわけじゃない。何度も何度も努力してきた。私が周りから責められるのは私が何もできないから…………だから、必死になって近づこうとした。

 

『ほう、春十はいつも通り100点か。それに比べてお前は99点…………少し努力が足りないな』

 

だけど、それすら打ち砕かれ、心も体も限界に近くなっていった。どうせ、私はいつまでたっても千冬姉さんの付属品、そうとしか認識されてないんだから…………私を私として認識してくれたのは、両手で数えられるくらい。

 

『ほら、泣いてんじゃないわよ。しっかりしなさい!』

『そうだぜ。お前はお前だけの存在なんだから』

『俺達がずっと味方でいるからな!』

『おうおう、そんな顔すんじゃねえ。ほら、満足するまで食え!』

 

思い出してきたらなんだか涙が溢れてきた。なんでだろう、悲しくもなんともないのに…………でも、あの人達の心はとても暖かかった。私にはもったいないくらいの温もりをくれた。

 

『っち…………まだ生きてたのかよ』

『目障りなんだよ、織斑の面汚し』

『いっそ、殺しちまおうぜ』

 

だから私は、あの人達に被害が出ないように一人で全てを抱え込んだ。結果として誰も傷ついてはいないけど、私の傷は日に日に増えていった。切り傷、打撲、火傷…………私の体には幾多もの傷が残っている。でも、あの人達を守ったという事を考えたら、少しは軽くなった。

そして今日、私は腕を切られた。幸いにも軽い切り傷ですみそうだったけど、そろそろ限界を迎えようとしていた。いつの間にか私は学校を抜け出し、ここまできていたというわけだ。切り傷のところにも雪がつもり始めているが、そこだけ赤く染まっている。…………やっぱり私っていちゃいけない存在なのかな…………?

 

『いっちゃん…………いっちゃんは特別な存在だから誰かと比べちゃだめだよ? いっちゃんは、いっちゃんなんだからね』

 

そんな時、私を私として認めてくれた、最初の人の言葉と声を思い出した。…………暖かいなぁ、私もう、疲れちゃったかも。でも、せめてこれだけは言っておきたいな。

 

「束さん…………私は、一夏は大丈夫です」

 

なんだか眠くなってきちゃった。少しだけ寝ようかな…………? それ…じゃ、おや…す…み……………………。

 

 

 

 

 

「ありがとうございましたー」

 

コンビニで適当に缶コーヒーと弁当を買った俺は自宅への帰路についていた。最近はずっとコンビニでメシを済ませてるようなもんだな。というのも、親が死んじまってよ、擬似コア搭載型ISによるテロでさ。今でもぶっ壊してやりたい衝動にかられる時があって、その時は戦闘狂になっちまう。まぁ、そのことは置いといて、とりあえずメシの確保に成功した俺は、自宅へと歩みを進めていた。

そんな時だった。

 

「うん? なんだありゃ?」

 

丁度俺から見えるとこにある電柱の陰から何かが見える。それが何なのかはよくわからないが、俺はいつもの勘でCQCをとれる体勢をしながら近づいた。

 

「な、何があったんだ…………?」

 

だが、そんなCQCをする必要のある人間なんてそうそう平和ボケした日本にいる訳もねえし、心配するだけ無駄だった。代わりと言ってはなんだが、それよりも面倒なことになった。

今、俺の目の前には一人の少女がいる。制服を着ているのを見ると学生であるようだ。だが、その服装は酷いものだった。彼方此方が切り裂かれ、衣服としての機能は殆ど失われており、足元も何もない上、肌が白くなっているところから体温が著しく低下しているように見える。また左腕に裂傷が一つ。雪が軽く積もっているところを見ると、長い間ここにいたようだ。

一応念の為、首に指を当て脈を取る。もしなかったら、そん時は警察まで持ってくしかねえ。最も、俺が怪しまれるだろうがな。

だが、そんな考えは杞憂に終わった。微かだが脈はあった。そうとわかれば後は何をするかなんてすぐに決まる。俺は何かの布切れを取り出し、それを左腕の傷に当て、常備品のメディカルキットから簡易包帯を取り出す。鎮痛剤が含まれているフィルムテープだ。それを傷口に巻きつけ、布切れと共に固定する。後は俺がきていた上着を羽織らせてから背負って、っと。

彼女を背負った俺は再び帰路につくのだった。…………それにしても、可愛い顔立ちしてるな。

 

 

 

 

 

(あれ…………ここどこだろう? 私、あの電信柱のところにいたはずなんだけど…………)

 

私が目を覚ました時、そこはさっきまでいたはずの場所とは違っていた。なにより、暖かい。家の中にいるみたいに…………。そして、左腕の傷に包帯みたいなものが巻かれている。私をここまで連れてきてくれた人がしてくれたんだろう。

暫くして誰かがきた。多分、ここの家の人かな。だったらお礼を言わなきゃ。

 

「よぉ、目ぇさましたみてえだな。外は寒かっただろ? ほら、飲みな。缶コーヒーしかねえけど」

「ぁありがとう、ございます…………」

 

その人から私は缶コーヒーを渡された。しかも糖分控えめの。プルタブを開けて、一口飲む。はぁ…………体の芯からあったまる感じがするよ。

 

「それにしても、なんでこんな雪降ってる中、上着も着ずに外に出ていたんだ? 散歩か?」

 

そんな時にかけられた一言。おそらく悪気はないんだろうけど、それでもその一言は私の心に暗い陰を落とした。

 

「……………………」

 

私は空になったコーヒーの缶をうじうじといじっているしかできなかった。

 

 

 

 

 

(え? 何? 俺、地雷でも踏み抜いた!?)

 

俺は内心絶賛大焦りだ。まぁ、軽い気持ちで聞いてしまった事で恥ずかしがっているということも可能性としてはあるんだろうけどさ、明らかにこの様子は違うよな? なんだか顔色も暗くなってるし…………完全に地雷を踏み抜いたわ。

 

「あ、いや、少し気になっただけだ。こんな寒い中、外にいるってことはあまり考えないしさ」

 

嘘だ。依頼は時にロシアの極寒地域にまで及ぶし、長い時で一週間はそこにいるハメになる。といっても、日本じゃ関係ない話だな。精々、雪が好きだからとか、そんな理由とかありそうだけど。

 

「…………色々、あったんです」

 

彼女はか細い声だが、ちゃんと反応はしてくれた。色々か…………何かあったんだろうな。

 

「そうか…………まぁ、ゆっくりしてくといい。しばらく雪は止みそうにないしな」

 

外を見ると雪の降り方はさっきよりも多くなっていた。数時間は止みそうにない。ふと目をやると、彼女は膝を抱え込んで、縮まってソファに座っていた。その顔はどうにも晴れない。はぁ…………美女が勿体ねぇな、こりゃ。

 

「まぁ、何があったか深くは聞かねえ。でも、あまり抱え込んだりするなよ? たまにはさらけ出して、スッキリするのも必要だぜ?」

 

なんとなくそう言った。今の俺にはこのくらいの言葉しかかけられそうにないな。はぁ…………頼りになんねえやつだわ、俺。

 

 

 

 

 

「まぁ、何があったか深くは聞かねえ。でも、あまり抱え込んだりするなよ? たまにはさらけ出して、スッキリするのも必要だぜ?」

 

少し昔のことを考えていた私にかけられた言葉は、私の心に響いてきた。さらけ出してスッキリするかぁ…………私には無理かも。そもそも、そんな事をして許される場所、私にはないし。毎日をただなんの意味もなく過ごしているだけ。あの人達には迷惑をかけたくないから、さらけ出すなんて無理。…………結局、居場所なんてないんだね。

雪の降り方が少しおさまってきたみたい。今は、五時半か…………そろそろ帰らないと、千冬姉さんに怒られる。

 

「…………それじゃ、私は帰りますね。今日はありがとうございました」

「礼はいいさ。何かあったら、また来てもいいからさ」

「そ、そんな…………それじゃ、迷惑を——」

「気にするな、俺は気にしない。相談くらいには乗ってやるさ」

 

…………この人は私の味方でいてくれるのかな。まぁ、自分が悲劇のヒロインとかそんなことは思ったことないけど…………心の拠り所があると思うと、少しは気が楽になりそう。それに、こんなこと言ってくれる人、久しぶりだったから…………。

 

「…………名前、教えてもらってもいいですか?」

 

名前を覚えておきたい。今度あった時に、なにかお礼ができると思うから。

 

 

 

 

 

名前、ねぇ。名乗るほどのものじゃないけど、罰はねえか。

 

「俺は紅城悠助、ただの青年だ」

 

傭兵って事だけは伏せておかねえと。戦争アレルギーな日本人にゃ、戦争で生活している傭兵なんざ敵も同然だろうしよ。

 

「お前は?」

「私、ですか?」

「お前以外の誰がいる?」

「ですよね。私は——」

 

「——ここにいたのか」

 

突然扉が開いた。って、不法侵入もいいところじゃねえか。出てきたのはウルフテールの女性、間違いねえ。

 

「あんた、織斑千冬か?」

「ああ、そうだ。私の妹が世話になったようだな」

「いや、そこまでの事はしてねえんだが」

「まぁいい。とにかく感謝しています。ほら行くぞ」

 

そう言って織斑千冬に手を引かれて出ていく彼女。大丈夫なのか? どう見たってあいつ警戒しまくっていたぞ。

しかし、

 

「名前、聞きそびれたわ…………」

 

その事に少しだけ後悔するのだった。…………メシでも食ってよ。

 

 

 

 

 

「お前というやつは、他人まで迷惑をかけて…………お前は今晩外にいろ。いいな?」

 

家に返された後、私はその家から追い出された。上着も何も着させてもらえずに。雪がしんしんとふるなか、私は膝を抱え込んで縮まって、家の塀に寄りかかっていた。もうこうしてないと、やっていられない。傷はまだ痛むし、それに吹いてくる風が突き刺してくるように寒い。

 

(束さん、鈴、弾、数馬、紅城さん…………誰でもいいから、助けて…………!)

 

そう思うけど、そんな言葉誰にも届きはしない。私はもう、世界から心を閉ざした。

ただ吹き抜ける風の音しか耳に入らなくなっていた。

 

 

 

 

 

あれから二週間後。

俺がいつも通りに愛機のメンテナンスを地下格納庫でしている時だった。

 

『ゆ、ゆーくん! た、大変な事になったよ〜!!』

 

束さんからの通信が愛機を通して送られてきた。その表情にはかなりの焦りが出ている。いつもとは違う、俺はそう直感で思った。

 

「…………何が起きたんだ?」

『いっちゃんが…………』

 

いっちゃん?

 

『いっちゃんが誘拐されたんだよ!!』

 

何? 誘拐された?

 

「俺にどうしろというんだ?」

『決まってるでしょ! 助けてあげて‼』

「救出依頼か…………難しい事を注文してくるんだな、お前も」

 

救出依頼か。対象を傷つけると悪いから、近接武装を持って行く必要があるな。

 

『そんなのんきな事言ってる場合じゃないって!!』

「はいはい。それじゃ、今回の報酬は後回し。とりあえず、怪しいと思われる場所のデータと対象の写真をくれ」

『今そっちのライブラリに送ったから!! …………今動けない私の代わりにお願いするね』

「了解っと」

 

通信を切り、メンテナンスプログラムを終了させる。どうせ異常なんてねえだろうよ。何度も死線をくぐり抜けてきた相棒だ、金よりも信じられる。

 

「仕事に行くぞ、相棒!」

 

俺は地下格納庫の射出用マスドライバーで、上空へと躍り出た。時刻は夜九時。誰も見てねえだろう。

 

(さて、座標は…………ドイツ、ミュンヘン郊外か。追加ユニットを使うしかねえや)

 

ドイツまでの距離はそこそこある。俺は追加ユニットを装備した。大型のウイングと大出力のブースター三基が組み合わさった長距離移動用装備だ。又の名をB型ユニットという。

俺はブースターを点火させた。爆発的な加速が俺を襲うが、こんなものすでに慣れた。

さて、移動している間に対象の写真を確認しますか。

 

(えー、画像ライブラリは…………ここだ。それで対象の顔は…………へ?)

 

俺はその写真を見た時に驚いた。その写真に写っていたのは、二週間前、俺が家に連れていった、あの少女だったのだから。

 

「ブースター、最大出力!!」

 

俺は彼女がいるであろう場所にいち早く向かうため、ブースターの出力を限界ギリギリまで引き上げた。

 

(何もないといいんだがな…………)

 

ただ、不穏な思考が頭を埋めていた。頼むから、無事でいてくれよ!

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