守りたい、ただそれだけ(本編完結)   作:ディニクティス提督(旧紅椿の芽)

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いつの間にかお気に入り件数250越えてて焦りました(汗


第10話

「おほー、派手な試合やってるな、こりゃ」

「鈴、つよいなぁ。私じゃ勝てないよ」

 

一組対二組の試合が始まって、数分が経過しようとしていた。状況? 鈴が優勢に立っているに決まっているさ。そのせいなんだか知らんが、一組の一部の女子の生気が抜けているように感じるんだわ。何があった?

 

「ところでさ、なんであんなお通夜ムードが漂っていんの? なにかあったのか?」

「あ、それはね、優勝したクラスには食堂のデザートフリーパス半年分が貰えるからだよ」

「つまり、あまりにも劣勢過ぎて勝てそうにもないから無理だ、と」

「そういうこと。でも、ここのケーキは美味しいからね。欲しいのも無理ないよ」

 

いつそんなもん食ったんだという突っ込みはとりあえず置いといて、自称天才が劣勢なことに変わりはない。だって、正面から突っ切って切るか、スモークを焚いて背後から切るかだけだから、パターンが読めんだよ。しかも、スピードもそんなに出ていないからすぐに追いつけるしな。

途中、鈴は近接攻撃を止めて距離を離す。そこへ自称天才が切り込むんだが、毎回毎回それで吹き飛ばされている。

 

「なんで、あいつは鈴に向かっていくと吹き飛ばされるの?」

「おそらく衝撃砲だな」

「衝撃砲? なにそれ?」

「中国が作った第三世代兵装。空間自体に圧力をかけて砲身を形成、その余剰圧力を衝撃波として撃ち出している。いわば空気砲みたいなもんだ。ただし、チャージに時間が少しかかるらしいんだがな」

 

もっとも、基部の重量がそこそこあるから、高出力の機体であるハイパワー型にしか積めないんだがな。中国はハイパワー型に偏った設計が多い。それはオリジナルコアにも擬似コア機にも言える事。特に流れ出ている擬似コア機、リアクティブアーマーお化けの殲撃タイプは大剣を扱うためのハイパワー型だ。また、オリジナルの第二世代機、爆鎧蛇もしかり。本当ハイパワー型好きだよな、中国さんだけど。

 

「なんか、面倒な武器だね。私は使いたくないかな」

「第三世代兵装自体、イメージインターフェースとかという信頼に欠ける物だしな。やっぱり武装は実弾や実体刃に限る」

「イメージインターフェースって、脳で動かすのに近いんだっけ? じゃ、ブレードビットは?」

「AIが操作してんだろ。じゃ、違うんじゃね? セシリアのブルー・ティアーズに搭載されているビットは脳波制御だし」

 

イメージインターフェースで操作する武器は本当に実用性があるんだろうか? 戦場じゃそんな事に思考を割いていたら、その一瞬の油断で死につながる。存在自体を否定する気はないが、俺はそういう事も含めてイメージインターフェースが嫌いだ。動作に信頼性のある実弾兵器とかが一番だわ。

 

「お、鈴が切りかかったぞ。あの大剣、中々の破壊力あるんじゃねえの」

「そうかもしれないね。多分、ブレードライフルは弾かれるかな」

「その前にパワー負けするかもしんね」

 

鈴は青龍刀のような大剣を二振り構えて自称天才へと切りかかった。自称天才はロングブレードを構えるも、その圧倒的な威力の前ではただ受け止めるのが限界。大剣は振りこそ遅くはなってしまうが、その破壊力は近接武器中、最高クラスを誇る。ま、使い手の技量にもよるけどな。

 

「あ、大剣を繋げて投げた!?」

「投擲武器かよ…………相手したくねえわ」

「ブーメランみたいに戻って攻撃したよ!?」

 

ますます相手にしたくねえよ。ブーメラン系統の武器はその軌道を読めなければ、初撃を躱せてもその後を避けきれない事だってある。それこそ、背後からグサってな。中国はほんとこういう武器好きなんだよな。実用性よりも独創性だし。さんざんパクリ国家だの言われてるけど、今のところそんな事はないし。共産党のトップが変わってから国内の情勢も安定の一歩を辿っているらしいしな。って、それはいいか。

 

「あのトリッキーな攻撃を多彩に使い分ける判断力は一級ものだな。感心するわ」

「鈴は判断するのが早いからね。決断したら即行動な人柄だし。私は、そういうところに憧れみたいなものを持っていたのかな」

 

そう言って一夏はくすりと笑う。憧れね…………そんな存在がいたっていうのはいいことなのかもな。そういや、俺にそんな人いたか? …………いねえかも。あの街の人は憧れよりも、家族みたいなもんだし。

さて、鈴が派手な戦闘をしまくるもんだから、会場は熱気でムンムンしてやがる。女子でもここまでもりあがることあるんだ…………野郎に引けをとんねえな、こいつは。それだけこの試合が白熱していて、多くの興味を引いているんだろう。

 

(だが、それにしてもこの胸騒ぎは…………さっきよりも一段と強い)

 

そう、俺は胸騒ぎがしている。何かが起こる前兆なのか、それとも…………ダメだ、どうしても嫌な予感しかしねえよ。あの女郎蜘蛛は…………『今、日本の上空。あとちょい』…………って、何処だ? もし新潟とか石川だったらマジで遠いんだけど。あとは与那国とか。

 

〔警告 上空から高熱源体接近〕

 

愛機からそんな警告が流れる。まずい、そう判断した俺は上空を警戒する。その直後の事だった。

 

——禍々しい光の線が、アリーナのバリアを突き破って、降り注いだ。

 

「くっ…………危ねえ!!」

 

俺は闘蛇龍を緊急展開、左腕にシールドを装備して構える。万が一こちらへの発砲があった際、おそらくアレに耐えられるのは俺のシールドくらいか。

 

「あの光を判断できるか?」

〔荷電粒子砲の可能性大〕

 

ビーム兵器でない場合、残された光学兵器はレーザー兵器か荷電粒子砲だ。レーザー兵器は弾速こそ最速だが、威力が大して無い。荷電粒子砲は弾速はレーザー兵器と比べると劣るが、破壊力は圧倒的に高い。種類にもよるが、嘗ての戦艦の装甲の最厚部を溶融させる熱量と威力だ。アリーナのシールドバリアを貫通するのも可能だろう。

 

「一夏、無事か?」

「う、うん…………でも、何が起きたの!? 鈴は!? 鈴は大丈夫!?」

「ま、待て、落ち着け! バイタルは健在しているから無事だろうよ」

「そ、そう…………よかった」

「とにかく、お前は逃げろ。わかったな?」

「わかった…………でも、悠助はどうするの?」

「俺にはやる事がある。——すぐに片付けていくさ。シェルターへ急げ」

「うん…………悠助も無事で」

 

俺は先に一夏を逃す。守れりゃそれでいい。専用機持ちならばその意味を理解した上で戦えとか言い出す奴らもいるんだが、それはただ戦いを強制しているにしか過ぎない。戦うのは自殺願望のある奴らか、得るために命かけられる奴らだ。俺は後者だけどな。

観客席から人はどんどんと離れていく。直ぐに人はいなくなった。幸いにも扉が開放されていたから、迅速に避難できたんだろうよ。

 

「さて…………まずはお前から相手する必要があるのか?」

 

俺は先ほどまで解除していた装甲を全展開し、後ろを振り向く。そこには一機のISがいた。ただし、その姿はギリギリ人型を留めている程度。胴と一体化した頭部に異様に長く、肘から先が肥大化した腕部、脚部は逆に細いアンバランスな機体だ。コア反応は…………擬似コアか。生体反応なし、無人機か? だが、ISの無人機開発なんて完成していたか? ——考えるのは後回しだ。今やる事は、ただ一つ。

 

「派手なパーティーといこうじゃねえか!」

 

俺は右手にアサルトライフル、左手に対IS用38mmガトリングを装備し、躊躇いなく異形に放った。その発砲音は、銃声ではなく砲声。それだけ破壊力がやべえってことだ。アサルトライフルは標準的な装甲であれば損傷を与えていける。ガトリングに関しては分間3600発のレートで放たれる38mm対IS用APFSDS弾が、コア諸共粉砕していく。ま、反動もそれ相応に来るんだがな。ガトリングの五秒バースト以上をすると、腕が悲鳴をあげる事確定だ。片手なら尚更。ま、慣れちまえばその限りじゃねえけど。

その異形は俺の弾幕から離れるかのように後退する。俺は追撃する。こいつを逃したらどうなるかわからねえからな。

 

「オラオラ、尻尾振って逃げようとしてんじゃねえよ! スクラップにしてやるぜ!」

 

ブースターを点火し、一気に彼我の距離を詰める。その間もガトリングは五秒バーストを継続。ドラムマガジンがベルトリンクで接続されているからな。ハンドガトリングガンとは弾数が違うぜ。大体五、六倍くらい。アサルトライフル? 一マガジン撃ち切ったから現在格納してる。代わりに対装甲ナイフを装備中。

だが奴も大人しく弾丸を受けてくれるつもりはないようだ。その巨大な腕を俺に向け、その先端にある何かの発振器のようなものから、ビームを撃ってきやがった。

 

「うおっ! あっぶねえな、おい!」

 

ギリッギリで回避する俺。あぶねー、あれ当たったら確実に即死だわ。勘弁してくれよ、リスク高すぎて笑えねえー。

 

「こんにゃろう…………ブチ抜いてやるよ!」

 

俺はナイフを収納、空いた右手に別な武装を装備する。バズーカだ。口径220mm、どっかの榴弾砲と同じレベルの武装。バレルの短いタイプだ。使用弾種は散弾、焼夷榴弾、多目的榴弾(HEAT-MP)対IS成形炸薬弾(HEIS)等。弾薬はカートリッジに収められている。装填が自動と、カートリッジ式でのリロード高速化、信頼の置ける一品だ。

俺は対IS成形炸薬弾を装填、トリガーを引いた。無反動砲だから反動は無いに等しいが、放たれた三発の砲弾は、異形に食らいつく。異形には自身を守るように、その巨大な腕で守ろうとするが、そんなもんぶち壊してやるよ。直後、爆発が異形に襲いかかった。あの中で特殊なメタルスラグが生じ、モンローノイマン効果で高熱の徹甲弾ができている。それの威力がケタ違いなのが対IS成形炸薬弾だ。

 

(流石にこれは生きちゃいねえだろ)

 

俺はそう思う。誰だってあの爆発を見ればそう思うだろ。だが、センサーに反応はまだあるんだよな…………爆煙が晴れないからなんとも言えないが。熱感知センサーを使えと? 周りが爆発で高熱帯びてるから意味ねえよ。

 

「おいおい、マジかよ…………あれで生きているとはな」

 

爆煙が少し収まると、奴が姿を現した。両腕はモロに吹き飛び、ダメージを派手に受けている異形だが、それでも逃げれる分だけは生きていやがった。だけどな、

 

「見えてんだよ、コアの位置がぁっ!!」

 

胴体部の一部が抉れコアがむき出しになっていた。俺はそこをめがけて突き進む。バズーカを格納し、ガトリングもしまう。代わりに対装甲ナイフを両手に持ち、接敵する。擬似コアは残しちゃならねえもんだし、間接的に、親父たちが死ぬ原因を作ったものだから許せるはずがねえ、潰すだけだ。俺はコアにナイフを突き刺した。硬いものを砕く感触が直に伝わってくる。俺はそのまま力任せにコアをナイフごと引き抜く。ISにとってコアを引き抜かれるということは、心臓を引き抜かれると同義。即ち、死を意味する。異形は痙攣したかのような動きをしてから完全にその動きを止めた。

 

「あばよ、機械野郎」

 

コアの抜かれた穴にナパームを叩き込む。破片一つネジ一つ残すわけにはいかない。擬似コアも俺の手で握りつぶした。輝きを失い、鈍いカケラとなって散っていく様は、あまりにも虚しいものだ。紛い物である存在だから尚更だ。さて、残りはいるのか?

 

「残りは二機、アリーナ内部と…………シェルター付近だと!? 俺じゃ間に合わねえぞ!!」

『なら俺が行くぜ。元いたとこのもんみたいだからな、さっさと潰してくるぞ』

「了解。頼むぜ、"オータム"」

『報酬は頼むぜ!』

 

援軍のご到着か…………あっちを任せるとして、こっちもカタをつける必要があるな。

 

「強行突破だ! ぶっ壊れちまいな!」

 

俺は武装を全て格納し、バスターソードを取り出す。こいつでアリーナのシールドバリアをぶっ壊してやんよ。伊達に擬似コアをシールド越しに破壊できる武器をなめんな。

 

「イェアァァァァァッ!」

 

ブースターの加速も利用して一気にバスターソードを叩きつける。その一撃で、貫通されたせいでもろくなっていたシールドバリアは崩壊、進攻可能になった。いや、破壊力マジパネェ。まさかここまでぶっ壊せるとはな、想定外だ。

中では自称天才と鈴がさっきの異形に苦戦している。どれ、あの機体もスクラップにしてやるとするかな!

 

「追加ユニット、G型装備。弾薬、対IS用APFSDS装填」

 

俺は背部の追加ユニットを装備させる。前回は大出力ブースターユニット、B型を装備したが、今回はそっちではない。G型装備と呼ばれる、高火力ユニットだ。この装備では、背部の主要ユニットだけではなく、肩部や腕部のサブユニットも装備させられる。

俺は視線操作でG型ユニットの武装を選択する。この距離で破壊可能な装備はあれしかない。いつも対装甲ナイフが収められている付近にアームが伸び、コンテナのような形状の物体が姿を見せる。

160mmレールキャノン。

口径160mmの大口径砲だ。その初速は秒速1200mを軽く超える、キャノン系統最速兵器だ。両舷二門のレールキャノンの照準を異形に合わせる。狙うべきはコアが収められてる胴体部。一撃でブチ抜いてやんよ。ただな、自称天才が近すぎて撃とうにも撃てんのよ。ま、でも巻き込まれたんなら、それはそれで仕方ねえか。実戦じゃ何があるか知らんしな。ギリッギリで狙ったろ。

俺はレールキャノンを放つ。電磁を帯びた砲弾が虹色の閃光を引き連れて異形の胸を穿つ。その瞬間、異形は地に崩れ落ちる。ん? 自称天才? なんか偶然離れたからなんともねえわ。

 

「ビューティーフォー!」

「悠助!? 今の砲撃、あんたがやったの!?」

「おうよ!」

「どんな的確な援護砲撃よ、全く…………でも助かったわ。あのアホが突撃ばっかりするから、こっちはどれだけ神経すり減らしたのやら…………自爆兵器積んでるって可能性考えないのかしら?」

 

ま、鈴の言ってることも確かだ。実際、擬似コアにはSelf(S)Destruction(D)Module(M)Emergency(E)Destruction(D)System(S)といった自爆装置が積んである。あれで起きたテロは多い。親父たちが死んだあのテロも、こいつが引き起こしたもんだ。

 

「自称天才なだけだから、アホの塊なんじゃね? んで、あれはどこ?」

「衝撃砲で吹っ飛ばしてやったわよ。気絶してるわよ」

「ま、いいか。俺は残骸を処理するわ」

 

俺は再びナパームを砲撃で開けた穴にありったけ叩き込む。推進剤やらなにやらに引火して、残骸は燃え上がる。こんなもん、絶対織斑千冬とかには渡したくねえ。渡せるわけがねえ。最後、何をしでかすかわからねえからな。

 

「いいの? その残骸、残さないと何か言われるわよ?」

「無人機って時点で残せるわけがねえ。こんなもん、存在させちゃいけねえんだ。まだ一機残っているが、来るか?」

「いや、遠慮しておくわ。さっきの試合で派手に動いたからエネルギー残ってないのよ」

「そうか。そんじゃ、生きてたらまた会おう」

「縁起でもないこと言うな!」

 

俺は背部ユニットの追加スラスターをふかし、もう一機のいる場所を目指す。無事でいてくれよ、一夏!!

 

 

 

 

 

「てやぁっ!!」

 

私は今、いかにも悪役ですといった感じのISと戦っていた。避難した私がなんで戦っているのかって? それは…………避難したシェルターの近くにこの変なISがいたから、その砲身のようなものを向けていたから、後ろにいる皆を守らなきゃって思ったから…………。

私はブレードライフルをライフルモードで撃つが、掠めるだけで決定的なダメージを与えられない。それに、トンファーブレードで斬りかかっても、その巨大な腕が全て受け止めてしまう。

 

(せめて、簪がいてくれたら…………!!)

 

簪はさっきの試合でエネルギーを消費して、現在戦闘を行えるほど残されてはいない。だから簪も避難している。本当の意味で今、戦えるのは私だけなんだ。それに、この状況を変えられないのは私が未熟なだけだから…………他人にそんなこと言えない。

 

「くうっ!! 一撃が重い…………!!」

 

振るわれた巨大な拳をブレードライフルとトンファーブレードの刀身を交差させて防御するが、その衝撃を完全には殺せなかった。ウィングブースターのお陰で後退せずにはいるけど、こんなのじゃ埒があかない。

 

「このっ!! このっ!!」

 

ブレードライフルとトンファーブレードの代わりにハンドバスターソードを取り出し、連続して切りつける。あの機体からは生体反応が出ない。なら加減せずに戦える。片手で振るえるわりに攻撃力の高いこの武器ならと思ってみたのだけど、回避され、当たっても上手く受け流され、致命的な傷は一つも入れられてない。

 

「あっ…………!!」

 

そして、私はやってしまった。相手に攻撃を完全に回避された。勢いよく切り込んでしまったため、そのまま体勢を崩す。それを見逃してくれるほど、異形のISは優しくはなかった。

 

「きゃあっ!!」

 

その巨大な拳をまともに受けてしまった。お腹が強く押され、中に入っているものが出てきそうなほどの衝撃が伝わってくる。本当に死んでしまいそう、そういっても過言じゃない。そのまま私は地面を転がった。何度もバウンドし、体全体にダメージがたまっていく。さっきの一撃で焦点がうまく合わない。まわりがすべてぼやけてしか見えない。はっきりと見えない恐怖と焦燥感が、私の精神を確実に削っていた。

 

「ぐっ…………!!」

 

唐突に喉に感じる圧迫感。大分焦点も合ってきたから、それがなんだかわかった。あの異形のISの腕だ。私は首を掴まれて、宙釣りにされているんだ。苦しい…………息ができない! もがくにも、相手の握力の方が強くて、逃れようにも逃れられない。だんだんとつかむ力も強くなっている…………まずい、このままじゃ殺される。

 

「見つけたぜ! イィィィヤッホォォォォッ!!」

 

だけど、その苦しみもすぐに消えた。視点もさっきと違って一気に下がる。よく見ると、あの腕が千切れて私の首にくっついている。うわぁ…………こんな冷静に居られる私も私だけど、これは中々に怖い光景だよ。

それよりも、さっき銃声が聞こえた。多分、異形の腕を撃ち抜いて壊した人だと思う。

 

「大丈夫か? そこの嬢ちゃんよ」

 

私の目の前に現れたのは、どこか兵器である事を思わせるISだった。

 

 

 

 

 

「見つけたぜぇ、亡国製の対IS用ガンポート!!」

 

タンカラーのIS——クーガーに乗るパイロット——オータムはその手に76mm狙撃ライフルを装備している。狙撃ライフルとしては平均的な性能の実弾系武装だ。これであの異形のIS——ゴーレムの腕を破壊したのだ。

 

「おい、そこの嬢ちゃん!」

「な、なんですか?」

「援護してやるから撃破するの手伝ってくれ!」

「えぇぇぇぇぇっ⁉︎」

「いいから! 俺はクライアントからこいつを完全に破壊しろと言われているんだ!」

 

そう言うとオータムは狙撃ライフルを構え直す。マガジンには高威力の76×302mm弾が装填されている。

 

「で、でも——」

「頼むぜ! 俺の機体じゃ、完全には無理だ!」

 

一夏は少し悩む。だが、決断するのにそう時間はかからなかった。

 

「…………わかりましたよ。やります!」

「よっし! じゃ、援護は任せろ! 突っ込め!」

 

一夏は再びブレードライフルとトンファーブレードを構え、突撃していく。蒼龍の大出力ウィングブースターによる爆発的な加速は、ゴーレムでも捉えることができなかった。

 

「せやぁぁぁっ!!」

 

上段から叩きつけられるブレードライフル。だが、ゴーレムはその攻撃を片手でいなし、後方へと一夏ごと受け流す。

 

「これでもっ!!」

 

けれども一夏もそれだけで終わらない。振り向くと同時にトンファーブレードを振るう。その攻撃はゴーレムの背中を切りつけ、大きな傷をつけた。

 

「一回離脱しろ!」

 

オータムは一夏にそう指示を出す。一夏が離れた事を確認し、射線上にゴーレムが入ったその時、狙撃ライフルのトリガーを引いた。激しい反動とともに撃ち出された弾丸は、一夏の斬りつけた傷へと吸い込まれるように入った。そのまま胴を弾丸が貫通するのだが、ゴーレムは動くことをやめない。

 

「コアじゃなかったか…………!! なら、動きを止めるまでよ‼︎」

 

オータムは腕や脚を狙うが、少しの動きで完全に回避される。ゴーレムもただやられているわけでもなく、残された一門の荷電粒子砲からビームを放つ。その狙いはオータムだ。重量のある狙撃ライフルを構えているため、咄嗟のことに反応できてない。

 

「ちくしょう! 買い直しかよ!」

 

狙撃ライフルを捨て、回避に徹するオータム。代わりに犠牲になった狙撃ライフルは弾薬に引火し大爆発を引き起こした。オータムはアサルトライフルを取り出し、ゴーレムへ撃ちつける。その弾雨を脅威とみなしたのか、ゴーレムは残された腕で防御しようとし、動きを止める。

 

「今だ! やれ!」

「はぁぁぁっ!! こいつでぇぇぇぇぇっ!!」

 

その隙を見逃さず、一夏がブレードライフルを構えて切りかかった。その攻撃は最も破壊力のある唐竹割り。ゴーレムは頭から真っ二つに切り裂かれた。

 

「はぁっ…………はぁっ…………」

「よくやったな、お前。あとはこっちでやるから避難しろ。疲れたんだろ?」

「はい…………ありがとうございます」

 

一夏はそう言うと、蒼龍を解除し、シェルターの方へと走っていく。それを見届けた後、オータムは残骸の方へ向き直る。

 

「さて、擬似コアは…………あった」

 

残骸の中から擬似コアを取り出したオータムはそれを腰から抜いた単分子ナイフで砕いた。輝きを失ったコアの残骸は、誰も興味を示さないチリと化したのであった。

 

「バレットドラゴン、こっちは片付けた。あと帰るんだけどよ、報酬はどうなるんだ?」

『そうか。報酬はスイス銀行のお前の口座にクライアントから振り込んどいてやるよ』

「はいよー。じゃ、またいい仕事あったら紹介してくれよ?」

『へいへい』

 

オータムは通信を切ると、クーガーのブースターを点火する。

 

「さぁ、中東に帰ろう、クーガー。亡国の遺産をぶっ壊しながらさ」

 

そのつぶやきはまるで何か皮肉めいたものを言っていたが、それを感じとってくれるものは誰もいなかった。ただ海鳥達の鳴き声が虚しく胸に響いてくるだけ。それでも、今身寄りのないオータムにとっては優しいものであったのかもしれない。

 

(必ず仇をとるから…………待っててくれ、スコール、マドカ…………)

 

オータムの目は、ディスプレイに表示されている一つの写真へと向けられていた。そこには自身と、美しい金髪の女性、そして黒髪の無愛想な少女が写っていた。

 

 

 

 

 

「全機撃破、か。これでなんとかなったか…………」

 

俺は破壊した異形の残骸を海中投棄しながら、その報告を受けていた。いくら束さん特製のナパームであっても、完全に燃やす事はできない。だから、こうやって二機分の残骸を回収して処分しているんだ。残りの一機も必ず回収しないとな。

しかし、今回奴らは何のために襲撃してきたのだろうか。さしずめ、俺たちのデータのサンプリングとかをするためだったりするのだろうか。いや、でもそれなら自国の代表候補生なりなんなり使って集めることだって可能じゃないのか? 模擬戦とか申し込んじまえば、それである程度はデータを得られるわけだしよ。あー、わかんねえな。

…………まぁ、今はまだ考えなくてもいいか。どうせ、俺には後ろで考えて誰かに指示するのは苦手だ。それよりは、前線で突撃して大暴れしたほうが俺には向いている。そんな気がするぜ。

まぁ、誰一人として怪我人は出てないようだし、それでいいか。ん? あの自称天才? 保健室で寝てんじゃねえの? 気絶しただけだし。それよりも俺は一夏の方が心配だ。一応あいつも異形との戦闘をしたらしいからな。不安だわ…………。

…………。

……………………。

………………………………。

全ての残骸の海中投棄が終了した後、俺は速攻で寮の自室へと向かった。勢いよく扉を開ける俺。その中には、

 

「おかえり、悠助」

 

一夏が無事な姿でいた。その事に安心する俺。よかったぜ…………もし怪我なんてしていたら、俺は取り乱していたに違いない。それこそ、街の一つや二つ消す勢いで。

 

「ああ、ただいま」

 

俺は笑顔で迎えてくれる一夏にそう返した。…………無事でいてくれたことに感謝しながらな。どうやらオータムが協力してくれたみたいだから、あいつには感謝しないと。束さんに連絡しておこ。

 

「ねえ、そろそろ夜ご飯食べに行く?」

「そうか…………もうそんな時間か」

 

激動の日はこうしていつもの日常へと戻る。この日常がいつまでも続いてくれといいんだがな。…………だが、今日俺の擬似コアに対する怒りは限界を超えた。現在束さんが全力で生産場所を探しているらしいが、今だ見つからないらしい。が、見つかったその暁には、全てを焼き尽くしてやる。俺はそう決意した。

 

「? どうしたの? 険しい顔してるよ」

「気にすんな。ちょっと考え事していただけだ」

 

けど今は、この時だけは、こいつに不安がらせたくねえからな。そんな感情、内側にしっかりと蓋しておくとしよう。

 

「さて、そろそろ行くか。食堂も埋まっちまうかもしんねえからな」

「うん!」

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