守りたい、ただそれだけ(本編完結)   作:ディニクティス提督(旧紅椿の芽)

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第14話

「指定ポイントクリア、コース誤差一・七。通過速度、巡航時の二・五倍。なんなんだこの化け物じみた速度は…………」

『は、速すぎる!! 目が慣れないよ!!』

「ポイントは残り六だ。気を引き締めて行け。終わったら晩飯の後、デザート奢ってやる」

『わかった! 頑張る!』

 

現在第四アリーナにて蒼龍の実験を行っている。というのもだ、つい先ほど蒼龍の機動性向上化モジュールユニットが届いたからな。実際にそれを取り付けて指定ポイントを通過するクリアリングをして、速度測定と誤差測定をしているところだ。それにしても異常な速度だ。通常のニ・五倍程の速度を叩き出していやがるぜ。多分、速度特化の緋龍ですら追いつくことは難しいだろう。ん? 闘蛇龍? 追いつけるわけねえだろ、B型ユニット装備してもそこまでふっとんだ速度を出すことはできねえ。精々F-22ラプターと同じか、それより遅いくらいだ。

 

「にしても、これ初期設計通りに開発したんだよ。多分その時点でこの速度でしょ? …………ゆーくんの両親は本当に何を作りたかったの?」

「知るか。だが、親父たちの考えていることは親父たちにしかわからんてことしかわからんよ。——誤差が広がっているぞ。修正しろ!」

『は、はいっ!』

「…………なかなかにスパルタだね。それについていってるいっちゃんもいっちゃんだけど」

 

束さんが何かを言っているが知ったこっちゃねえ。俺はただ勝たせてやりたいからその後押しをしてやってるだけだ。

 

『く、クリアリング、終わったよ〜〜』

「よし、一回ピットに戻ってこい。調整を行うぞ」

「ほいきたー、出番だね」

 

一夏を一度ピットへと戻す。クリアリングでの平均誤差は一・七二。これがゼロに近ければ二重リングの真ん中を通過していることとなるし、一を越えれば内リングと外リングの間、二を越えたらクリアリング失敗だ。一夏の場合、今日が初めての高機動運動だから誤差が大きいのは仕方ないが、それでも二を超えていない。よくあの速度に振り回されなかったことだぜ。

蒼龍がピットに戻ると、一夏は駐機状態で機体を解除する。

 

「はぁぁぁ…………殺人的な加速度だったよ…………」

「お疲れさん。ほれ、これ飲んどけ」

「ありがと…………」

 

俺は一夏にスポーツドリンクを投げ渡す。疲れるからな、高機動運動って。集中力やら精神力やら色々と削られるし、神経をすり減らすからな。

俺はふと蒼龍を見やる。この機動性向上化モジュールユニットの追加で大きく変わったのは肩部、腕部、腰部、膝部、そしてブースターだ。まず、肩部からいこう。大型のウイングバインダーが搭載されていて、この基部の接続にタンクが取り付けられている。またその基部にビームマシンガンが搭載されているとか。次に腕部。なにやら大型のコネクタが追加されている程度で収まっているが、今回トンファーブレードの使用は不可能らしい。代わりにブラスターソードとブレードライフル・トライバレットなるものが装備されたらしいがな。続いて腰部。ビームサーベルのグリップが全て拡張領域内へ入れられ、大型スラスターが増設されている。次に膝部だ。ここにスラスターが一基、膝裏にも一基搭載され、スキー板のように展開されるようだ。その先端にはクローが付いており、ビームサーベルを形成できるとか。最後にブースターだ。増設スラスター二基というシンプルな改装だが、追加スラスターは全てこれと同型だ。速度がふっとんてんのも頷ける。そして、このモジュールユニット追加でシルエットも大きく変わり、滑らかでスマートなフォルムはなりを潜め、今じゃとんでもなくゴツい機体に変わっちまったよ。マジで。元がさっぱりわかんねえんだもん。とても同じ蒼龍には見えん。

 

「ねぇ、いっちゃん、今の所蒼龍で不便なところとかある?」

「え、えーと、それは今の状態ですか?」

「ううん、元の状態で」

「だったら、腰の所のビームサーベルですね。よく引っかかるんですよ、トンファーブレードの鞘とかブレードライフルの折りたたんだ刀身とかに」

「じゃ、とりあえず横のは格納しておくよ。後ろの方はそこにコネクタがあるから無理だね」

「そうですか…………ありがとうございます」

 

どうやら蒼龍に少しの改造を加えたようだ。ビームサーベルの位置とか言っていたが、俺にはさっぱりわからん問題だな。ナイフはコンパクトだしシース内に収まっている上、バスターソードは拡張領域内へ引っ込んでるしな。戦闘時に支障とかきたしたことないし。

あ、闘蛇龍もちょっと改装されたぞ。両脚部にマイクロミサイルが各三発ずつ搭載されたわ。ミサイルは量子変換してあるから弾切れは問題ねえが、弾薬費がな…………ミサイルだから高くつくんだよ。

 

「さて、調整するところも終わったし、束さんは帰るとするよ〜」

「そっすか。そんじゃ、道中気をつけて」

「束さん、またね〜」

「ゆーくんもいっちゃんも元気でね〜」

 

そう言って束さんは姿をくらます。あー、あの人ステルス迷彩でもつけたな絶対。心配する必要も何もないなこれは。どうせあの人のことだ、何があっても無事で帰るだろうさ。

 

「さて、もう一回クリアリングするぞ、スタンバイしておけ」

「はーい」

 

その後も一夏の高機動訓練を行い、今日のアリーナの閉館時間を迎えた。

 

 

「う〜ん、幸せ〜」

 

晩飯の後、約束通りデザートを奢ってやった。まさかのパフェを奢る羽目になるとは思ってはいなかったが、学生用に手頃な値段になっていたから良かった。もしこれが一般価格だったら財布が悲鳴をあげるかもしれん。報酬で稼いでいるだろって? 小銭化されるのとブラックカード送りの二つに分けられているから使いにくいんだよ。このカード使えないっぽいし。

ちなみに奢ったのはいちごパフェ。一夏の目が物凄く輝いて見えていたのは気のせいではなかったはず。一夏はすごく幸せそうな表情でパフェを食べている。やば、超和むわ。周りにいる何人かも和んでいるし。俺のオアシスやべーな。

 

「…………一夏、すごく幸せそう」

「あ、簪。悠助に奢ってもらったんだ〜、えへへ」

「…………良かったねー」

「俺は燃え尽きそうなんだがな…………」

 

簪がやってきた。様子からして飯は終えたようだ。

 

「なんだか糖分二割増しで多いと思ったらあんたらかい」

「道理で塩分が欲しくなるはずですわ」

 

鈴、セシリアも集まり、結果的に専用機持ちが集まることとなった。それにしてもこんな風に同時のタイミングで集まることってあるんだな。いや、あるのかもしれないけど単に少ないだけか。

 

「それにしても、一夏の幸せそうな表情、久しぶりに見たわ。これ和むのよねぇ〜」

「あ、それはわかりますわ。なんというか保護欲をそそられるというか…………」

「…………守りたい、この笑顔byニカニカタグ」

 

同志がいた! このオアシスの素晴らしさをわかってくれる人がいたぜ! あと簪、お前ニカニカ動画なんて見てたのかよ。俺もたまに見るんだがな、あのコメント軍団は本当に訓練されているとしか言えん。というか、そのタグはやめなさい。何かといけない予感しかしない。

 

「みんなしてどうかしたの?」

 

そう言って一夏は小首を傾げる。あかん、あかん! その行動はやめて! あとその純粋な瞳を向けるのも勘弁して! もう何かと俺の中で大変なことになってる! 具体的には核分裂炉の核分裂反応が肥大化し、制御棒も降りずに、炉心融解が始まるような状態。正直、一夏には何度も殺されかけたわ。なんなんだよあれは、反則すぎるくらい可愛すぎんだろうが…………。

 

「い、いや、なんでもねえよ」

「そう? それならいいけど」

「あー、ダメ、あたしは致命傷を受けたわ」

「わたくしもなんだか狙撃されてしまいましたわ…………」

「…………大破!」

「み、みんなして何があったの!?」

「自分の胸に聞いてみなさーい」

 

俺を除く他は大破してしまったようだ。あー、乙です。俺は耐性ついているから小破程度で止まっているが、これ以上のことをされたら、理性が持たんぞ。

 

「おい、一夏。ちょっとこっち向け」

「何——」

「頰にクリームついてんぞ、ほら」

 

一夏の頰にクリームが付いていたので紙ナプキンで拭き取ってやる。やっぱりこういうところ抜けているんだから。やっぱり天然なんだろうか。ま、そういうところも含めて一夏なんだがな。

 

「あ、ありがと…………」

 

俺が拭き取ってやると、一夏は顔をいちごのように赤くしてしまった。ん? 俺なんかやらかした?

 

「セシリアッ!! ブラックコーヒーよ!! 濃度最大で!!」

「どうやらわたくしはここまでのようですわ…………」

「…………轟沈」

「な、何があったお前ら!!」

「あんたに言われたくないわ!! さっさと付き合っちまえ、鈍感野郎!!」

 

だーかーらー、俺が付き合って一夏が不幸になったらどないすんねん! それでダメだったら大惨事もいいところだわ。ふと一夏を見やると、さっきよりも顔を赤くしていた。突然そんなこと言われて、困惑してんのか。そうだよなー、普通戸惑ってしょうがねえもんな。

 

「…………はぁ、簪、あんたの言う通りよ、これ」

「…………仕方のない人たちですわね」

「…………ここまでテンプレだから大丈夫」

 

お前らは何を言いたいんだおい。事によってはまた私刑にすんぞ。

 

「ごちそう様でしたー☆」

 

だがそんな空気も、にかーと笑って食後の挨拶をする一夏の前では何処かへと消え去ってしまったのであった。だめ、その笑顔反則…………。

 

 

 

 

 

「学園長、資料お持ちしました」

「うん、ご苦労様」

 

ある深夜の学園長室にて、楯無は学園長へある資料を持ってきていた。

 

「それにしても今回のは少し厳しかったんじゃないかな? まさか、一般人の経歴を洗えなんてね」

「多少は時間かかりましたが、希望に添えられるような情報は集めたと思っています。それに、更識グループの情報力を侮っては困りますから」

 

その資料とはある一般人の情報。楯無はこの情報を集めていたのだ。

 

「では、こちらをどうぞ」

「早速見せてもらうよ。まずは"織斑一夏"からだね」

 

そして、その一般人の一人は一夏。学園長は早速目を通すことにした。しかし、資料を読み進めていくうちに、その顔に曇りが出始めていた。

 

「小学生の頃から虐待やイジメ…………中学に入ってからは暴力を受けていたなんて…………今の彼女からは考えられないね」

「ええ。成績も平均より上回っているのですが、『織斑千冬の妹』というだけで教師からの体罰等もあったようです。また、周辺住民からの風当たりも悪く、タチの悪い嫌がらせにあっていたとの事です」

「具体的には?」

「あまりにも酷すぎて言えませんよ…………」

 

一夏の受けてきた数々の暴力。それは二人の心に大きな衝撃を与えることになった。それもそのはずだろう。ただ、織斑千冬の妹というだけで幼い頃からいじめられ、暴力を受けてきたのだから、心が痛まないはずがない。最も、その張本人たちはなんとも思ってはいないだろうが。

 

「一年半前を境に情報の一部が途絶えてしまっていますが、家の諜報員曰く『数段もいい生活ができていた』そうですよ」

「それは良かったことだね。だが、こっちもこっちで問題ありすぎだよ…………」

 

学園長はもう一つの資料へと手を伸ばした。その資料データは一夏のものと比べると遥かに少ない。

 

「"紅城悠助"…………四年前に両親を失い、それから今年までの情報は無し、と」

「はい。その死因ですが、その付近であった擬似コアISによる自爆テロらしいです」

「…………防げなかったのかい?」

「…………残念ながら、別の任に当たっていたので不可能でした」

「彼もまた嫌な運命に生まれたのか…………」

 

学園長は資料を机の上に置くと、天井を見上げる。自身が請け負っている学園にこれほど暗い過去を持つ人間が二人もいたのだ。辛い思いをしないはずがない。楯無もまた、苦い顔をしている。調べているうちにだんだんと心が痛んだに違いない。自分とほとんど年の変わらない人がこんなに傷だらけの人生を送ってきていたんだから。

 

「…………もしかすると、私達は彼らを幸せにしてあげなければならないのかもしれないね。学園長として、一人の大人としての責任だ」

「…………私も生徒達の長です。その生徒が傷付いているのなら助けるのが、私の仕事だと思っています」

 

彼らはそう心から思った。人の上に立つ彼らだからこそ思うことができたことなのかもしれない。だが、その根底にある想いは、人が誰もが思っている事なのだろう。

 

「ところで、その写真はなんだい?」

「これ、ですか? 私もよく見てないのでわかりません。ご覧になりますか?」

「勿論」

 

そう言って二人はある写真を見る。すると、二人の表情は先ほどのような硬いものではなく、自然とした柔らかい笑みを浮かべていた。

 

「なんだか、楽しそうだねぇ」

「そうですね。それに、なんだか初々しい感じがします」

「あの時は、彼女なんていないって言ってたのに、これじゃカップル同然だよ」

「学園長…………私、砂糖吐きそうです」

 

二人が見た写真。そこには、街中で仲良くデート(?)をしている悠助と一夏の姿がバッチリと納められていた。

 

 

 

 

 

「おい、お前何の用だ?」

「あぁ、俺の事か? ちょっと散歩してただけだよ」

 

俺は今、以前クーガーを強奪した米軍基地に来ている。噂によればここにはとある試作ISが搬入されているらしいからな。このコアが選ぶと思ってきたんだ。

 

「それにしても、今日の警備は厳重だなぁ。なんかあったの、警備員さんよ」

「ああ…………ここだけの話なんだが、ここに配備されてるISが一機強奪されたらしいんだよ」

 

あー、それ俺だわ。あの時はやばかったなー、なんせ十人近くから発砲されて、必死の思いでクーガーを強奪したからな。ついでに保管されていた武器もちょっと。

 

「それは大変だな」

「どんな奴か顔を拝ませてもらいたいものだぜ」

「は? もう見てんじゃねえの?」

「はぁ? お前、何を言って——」

 

俺はとりあえずその警備員の口に睡眠薬を吸わせたガーゼを当てる。ちょっと強力なやつを用意したから速攻で効果が出始めるぜ。ほら、もう眠ってるしよ。

 

「そいじゃ、返却してまた貰っていきますか」

 

俺はクーガーを展開する。不調だったブースターも問題ねえし、ちょっとくらい暴れてやっても問題ねえだろ?

俺は光学迷彩を起動、試作ISが格納されているであろうハンガーへと向かった。

 

 

程なくして試作ISを見つけることはできた。ん? クーガーはどうしたかって? コアを引っこ抜いて、元あった場所に返却してきたさ。ちょっとレンタル料も置いてきてな。

そして見つけた試作ISなんだが、これまた凄いフォルムをしてやがるぜ。

目を引く頭部のセンサーマスト、腕は何かが収まってそうなブロックモジュール、脚部はつま先が二本に分かれ爪のようになっている。太腿の付け根付近にブースターポッドが接続されている、その機体は新品である為か無駄に輝いていた。というか、カラーリングが白だから眩しいだけだ。

 

——コイツダ、俺ガ求メテイタノハ——

「そうかそうか。それじゃ、いただくとしようぜ」

 

俺はその空いている胸部にコアをはめ込んだ。すると俺はいつしかその機体を体に纏っている。はえーな、機体登録とか諸々。こいつの名前は…………ストライク・ファルコンか。直訳して攻撃するハヤブサってところか。いいセンスしてんじゃねえか。さて、トンズラするとしようか——

 

「おい! 試作機が動いているぞ!」

「搭乗しているやつは速やかに降りろ! 今ならまだ刑は軽くできるぞ!」

 

やべっ、兵士共が集まってきやがった。あー、速やかにおわして逃げたかったんだけどなー。まぁ、仕方ねえ。軽く脅しくらいかけていくとするか。それにさ、やっと手に入れた機体を降りるわけねえだろって。

 

(武装は…………っと、こいつ使ってみるか)

 

俺はある武装を取り出す。そいつは日本の刀に似ているようだが、普通の近接ブレードとはどこか違う雰囲気を持っている。

TYPE-44 近接長刀。

重心がグリップの近くにあり、切り返しの速さへとつながっているようだ。あと、グリップガードのところにまで刃がついていやがる。相当やべえ武装だな、これは。俺は近接長刀を右手に呼び出し軽く構えた。

 

——コイツダ、コレダ。俺様ガ求メテイタノハヨォ。刀トカ最高ダ——

「ふっ、お前に十分似合ってるぜえ。さぁ、行くぞ。てめぇら、どきやがれぇっ!!」

 

俺は腰のブースターを点火する。圧倒的な加速速度は、空のハンター、ハヤブサのようだ。寄ってきた兵士共は皆頭を低くして回避したようだが…………誰も死んでねえよな? これで人を殺すのは気がひけるからな。

気がつけば、東海岸を抜け大西洋へと飛び出ていた。海は濁りなく蒼く輝いている。俺とは正反対だ。濁りしかねえし、錆び付いている。

 

——ソンナコトネエ。オ前ハマダ廃レテイネエ——

「…………それは慰めか? 随分人臭えもんだぜ」

——世界水準超エテイルカラナ——

「そうかよ」

 

ISの世界水準ってなんだ? とか思ったりするんだが、こいつはかなり人に近い感情を持っているようだぜ。強ちスコールの言っていたことも間違いじゃないのかもな。というか、完全に当たっていやがるし。

 

「それじゃ、一つ長い空の旅といこうじゃねえか」

 

俺は光学迷彩を起動させ、ブースターを再点火させた。海を駆け抜けるハヤブサは、ただ一条の白い軌跡を空へと残すのだった。

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