守りたい、ただそれだけ(本編完結)   作:ディニクティス提督(旧紅椿の芽)

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第15話

「うわぁー、いっぱい人が来てるね」

「そりゃ、海外からのお客どもが詰めかけているからな。これくらい集まってもおかしくはねえだろ」

 

そんなこんなで迎えたキャノンボール・ファスト当日。俺たちは民間の運営するアリーナへと来ていた。ここは以前とあるアイドルがコンサートを開いたことで有名だが、その時アリーナが広すぎて客が余裕で収まり切った伝説がある。収容人数二万人オーバー。こんなもの作って何の意味があるんだ、全く。

だが、今回はそんな風にはいかねえ。IS学園のキャノンボール・ファストは世界からとても注目されており、一つの公開行事としての意味合いも兼ねている。そのため、とてつもない人数が集まるのだ。アリーナはほぼ満席に近いし、テレビ中継すらされているからな。どんだけ人気あるんだよ。ちなみに一般の観客は料金払って見るそうだ。学園の運営金を得るという目的もあるのかもしれん。

 

「なんだか緊張しそう。こんなに大勢の人に見られることなんてそんなになかったし」

「普通はないからな? 逆にあったらあったで何をしたんだと俺は問い詰めたいぞ」

「そうだよねー。というか、悠助に問い詰めらるとか、なんだか嫌な予感しかしないよ…………」

「尋問より拷問の方が得意だからな」

「鬼だ!?」

 

あのなー、俺は尋問なんてしたことないんだよ。戦場で命乞いされたって無視して潰すし。それに、肉体言語の方が面倒がいらなくて楽だしな。ん? 人権考えろって? 戦場じゃそんなもんただのアホの子のセリフとしか受け取られるぞ。あそこは人権なんてあるようでないしな。

 

「お、訓練機のレースが終わったようだぞ」

「そうみたい。私達も準備しに行こっか?」

「その方がいいだろうな」

 

訓練機のレースが終わったようなので、俺たちはピットの方へと向かうことにした。それにしてもたった一月ほどであそこまでの高機動運動をできるようになるんだな。まぁ、打鉄とかだから制限がかかっているって可能性もあるけどさ。それでもここまでのいいレースができるのはそうそうないんじゃないか?

ピットにたどり着いた俺たちは早速機体を展開することにした。一夏は機動性向上化モジュールユニット装備の蒼龍を、俺はB型ユニット装備の闘蛇龍を。

 

「あれ? そのユニットって…………あの時の?」

「覚えているのか?」

「うん。確か、誘拐されてから日本に帰るまで使っていたやつだよね?」

「ああ、そうだ。ちょっと改造をしてはいるけどな」

 

懐かしいな。もう一年半近くなるのか。あの時はかなり神経を使って日本まで連れ帰ったんだっけな。まぁ、あの時酷使しすぎてブースターの一部が焼けつきかけていたことに気づいたのが四日前。その後束さんに修理と強化を頼んだわけだ。

 

「改造? あんまり変わったようには見えないけど?」

「ああ、武装が追加されてんだ。それは試合の楽しみにしておけ」

「ぶー、教えてくれたっていいじゃん」

「だから、楽しみにしておけって言ったんだろうが」

 

こんなやり取りをしているうちに

 

『それでは、一年生専用機持ちによるレースを行います。選手の皆さんは入場してください』

 

そんなアナウンスが流れた。俺たちは速やかに動き、アリーナの中へと出た。その広さは学園のものとは比べ物にならない。断然こっちの方が数段もでけえぜ。

 

「うおっ…………なによ、その無骨なブースターに華やかな強化装備は。あたしの甲龍の追加パッケージが霞んで見えるわよ」

 

俺たちの後に入ってきたのは鈴だった。そして俺たちの装備を見て一気に意気消沈する。いや待て、お前のも十分すごいからな。横に向けられている衝撃砲に肩部のスパイク、背部の強化スラスター。どう見てもキャノンボール・ファスト仕様だ。

 

「あら、皆さん早いことでして。今日は存分にわたくしとブルー・ティアーズの奏でるワルツで踊っていただきますわ」

 

次に来たのはセシリア。愛機のブルー・ティアーズはその姿を大きく変えていた。肩部の付近に漂っていたユニットが消え、特徴であるビットが腰回りに砲口カバーをされて取り付けられていた。これでビットに回すエネルギーを機動力に触れるというわけだな。ちなみにこの追加パッケージは強襲用機動性向上化モジュール[ストライク・ガンナー]と言うそうだ。イギリス政府のホームページに掲載中。

 

「…………思う存分スピード出してやる。私が最速であることを証明するために」

 

簪は緋龍への特に追加パッケージは無いためなのか、ほぼ素の状態での参加の事。ただし、出力系をビームキャノンにはあまり振らずにスラスターへと振ったとか。というか、ただでさえ速すぎる緋龍にこれ以上速度特化のパッケージなんてあってたまるか。

 

「む? 中々強化された機体たちが多いな。だが、私とて一軍人。ただでは負けはせん。それよりも勝ってやるぞ!」

 

最高に意気込んでいるのは一夏の良き親友ラウラ。専用機であるドイツ第三世代機シュヴァルツェア・レーゲンを纏っている。以前模擬戦した時とはフォルムが大きく変わっており、右肩には大型リヴォルヴァーカノン、左腕にはダブルバレルマシンガンが装備され、背部や脚部には増設スラスターが見てとれる。ラウラ曰く、レーゲン用の追加パッケージ初期草案の試作品を装備したとか。確か、拠点強襲制圧用パッケージとかなんとか。…………威圧感パネエ。

 

「疾風の名は伊達じゃないってこと、僕が証明してみせるよ」

 

続いて、件の男子デュノアだ。あいつはラファール・リヴァイヴを使っているが、かなり改造してあるようだ。リヴァイヴ系統には追加パッケージがあまり存在していないため、増設スラスターで頑張るようだ。だが、やはり裏があんじゃねえの? なんか、自称天才と同室らしいんだが。まぁ、いいか。

 

「それじゃ、みんな頑張ろっ!」

 

最後に一夏が締めた。相変わらずモジュールユニットはかなりのインパクトを与えてくるなー。それにここにいるどの機体よりもゴツいし。下手すれば闘蛇龍と同じくらいの重量かもしんねえな、あれは。

各々が決意を秘め、後はスタートを待つだけかと思いきや

 

「おい! この僕を忘れるな!」

 

…………面倒な奴が来たわ。自称天才は白式にマシンガンを追加としてもたせている以外何もしていないようだ。まぁ、ブースター強化とかはしているんだろうけどよ。

 

『選手は所定の位置についてください』

 

アナウンスが流れ、俺たちは所定の位置についた。丁度スターターブロックのようなものが設置されており、初期加速を存分に発揮できるようだ。

さて、全員がついてしばらくすると、カウントが始まる。まだ、大丈夫だ。十秒もあるぜ。さて、武装を展開しておくか。牽制程度で済ませりゃいいんだから、ハンドガトリングガンでいいか。ただし、両手持ち。

残り三秒。そろそろだな。俺はB型ユニットのウイングを展開させる。折りたたまれていたから気づかなかったようだが、こいつ以外と空間占拠するんだよね。

残り二秒。ブースターの出力を少しずつ引き上げていく。それと同時に闘蛇龍自身のバックブースターも引き上げていく。こいつで強制的にブレーキをかけているんだ。後が楽しみだぜ。

残り一秒。ブースターの出力は臨界。武装を構え、前傾姿勢をとる。スターターブロックに乗っけている足に力を入れ、蹴り出せるようにしておく。

そして、カウントがゼロになった瞬間、

 

「ハハハァァァァァァッ!!」

 

スターターブロックを蹴り出すと同時に、バックブースターを切る。その瞬間、俺の体は強烈なGに見舞われた。うおっ、相変わらずだがとんでもねえ反動だぜ…………。

 

『は、速すぎますわ!!』

『な、なんなのアレは!?』

 

通信越しでなにやら色々と聞こえてくるな。どうせ、俺の機体が鈍足とか思っていたんだろうよ。だがな、こいつは長距離移動用の追加ユニット。それなりには出せるんだよ。

 

『悠助、お先〜』

『…………抜かせてもらうよ』

 

そんな通信が入った直後、俺の横を通り過ぎる機影が二つ。間違いない、蒼龍と緋龍だ。ってか、速えぇぇぇぇぇっ!! もう追いついてきたのかよ!! だが、俺もただで抜かせんぞ!!

というわけで、俺は追加ユニット側に装備されてる武装を起動させる。上部コンテナが開き、中からは三つの砲身が姿を見せる。こいつは25mmガトリングだ。砲身が短いから弾道は安定しないが、ばら撒くにはもってこいだぜ。

 

「オラオラオラァッ!! こいつで道を開けやがれぇぇぇぇぇっ!!」

「ぴゃあぁぁぁっ!!」

「…………ぐっ!!」

 

案の定、ガトリングの恐怖を味わった二人は回避し速度を落とす。その間、俺はブースターをふかして抜いていく。というかさ、俺もなんだけど

 

『逃がしませんわよ!!』

『待てぇぇぇぇぇっ!! 優勝は私のもんよ!!』

 

若干二名程から狙われてんのよね…………それもレーザーと大剣で。しかも速度上げてきてるから引き離そうにも引き離せん。仕方ねえ、武装その二を使うか。

 

「こっちだって捕まりたくねえよ!!」

 

俺は追加ユニットの後方コンテナより浮遊機雷をばら撒いた。当たれば大爆発決定の代物だ。束さんお手製だし。

 

「って、これ機雷だぞ!! 避けろ!!」

 

ラウラが警告を出すために皆に言うがすでに遅し。

 

「「「「いやぁぁぁぁぁぁぁっ!!」」」」

 

ほとんどが機雷に引っかかった。うわー、爆発えげつねえ。後ろが眩しくて見れなくなったぞ。どんだけ爆薬を詰め込んであるんだ、あれ。

おおっと、カーブに入ったぜ。三基のブースターの内可動する二基を操作して、旋回していく。推力任せの強制的な進路変更に近いけどな。力技で曲げてんだし。

 

「ははっ、あいつらバカだなぁ。なんであんなものも避けられないのだろうね」

 

俺の後ろにはいつの間にか自称天才がついて来ていた。白式自体が近接仕様の高機動機だから速いっちゃ速いんだろうが、お前、最後尾で機雷を食らわなかっただけだろ?

 

「じゃ、これ避けてみーや」

「は? ——うわぁぁぁっ!!」

 

ということで、ハンドガトリングガンを後方に乱射する。そういや前にも撃ちこんだことあったな、こいつ。なつかしーなー、また全弾叩き込んでやるか。

 

「や、やっと追いついた…………!!」

「…………落としてやりましょうか!!」

 

自称天才をいたぶっていると、後方から粒子ビームがかすめていった。よく見りゃ、一夏と簪がブラスターソードとビームガンで牽制してきている。というかさ、ブラスターソードってあれ一応近接武器だよな? なのになんでビームキャノンクラスのビームを撃てんの? なに、チートなの?

 

「当たるかよ!!」

 

そう思い、軽くバレルロールで避けるが、その間に二機は通り過ぎて行ってしまった。それに何より

 

「…………置き土産」

 

簪の奴がミサイルをシャワーで撃ってきやがった。ちくしょう! こうなったらあれだな。

 

「人間CIWS!」

 

ガトリングを上に向け、ミサイルを撃墜する事にした。はぁ…………久々にCIWSの気分になったぜ…………二度となりたくねえけど。現時点、俺暫定三位。

 

 

 

 

 

「残り三周!!」

「…………負けないよ!!」

 

私と簪とでの一騎打ちのようになった。というのも、さっきまで独走していた悠助を二人で協力して突破したからね。しかし、あの機雷はひどかったよ…………爆風だけで吹き飛んじゃったし。

一応妨害行為もありだけど、私と簪の間ではそんなことはほとんど起きてない。というのも

 

「機体がぶれるっ!!」

「…………軌道が安定しない!」

 

機体制御の方に集中してしまうから。殺人的な加速を可能にした今の蒼龍では、本当に機体制御が難しくなっている。各部にスラスターを追加され、両肩にバインダーのつけられた推力の塊みたいなものじゃ、安定とかも関係ないしね。簪も簪でかなり速い緋龍のスラスターを魔改造したらしいから、不安定みたいだし…………事故を起こしたりしなきゃいいんだけど。

 

「負けるもんかよ!」

「追いつくの速っ!!」

「…………ミサイル品切れ」

 

いつの間にか悠助に追いつかれていた。しかも追加装備のコンテナが開いた状態で…………あ、あれって確かガトリングが入ってるんだよね…………?

 

「大人しく食らっておけや、オラァッ!!」

「ひぃぃぃっ!? 当たりたくなんてないよっ!!」

 

私はバインダーにあるビームマシンガンを悠助に向かって放った。後ろにしか撃てないものだけど、こういう時には役に立つ。

 

「ついでにハンドミサイルも貰って——」

 

後ろで鳴り響く爆音。…………ごめん、悠助。でも、今日はどうしても勝ちたいから!

 

「…………あれって、後で大丈夫?」

「…………多分、大丈夫だと思うよ」

 

うん、大丈夫だと思う…………前の黒悠助になっていなかったら。あの時は本当にびっくりしたからね。言葉にするのも恐ろしいよ…………外道すぎて。

 

「そこの出来損ない! 僕に道をあけろよ!」

 

うわー、一番厄介なのが来ちゃったよ…………面倒臭いし。というか、いい加減出来損ない出来損ない呼ぶのやめてくれないかな。

 

「誰が譲るもんか!」

 

私はビームマシンガンとブレードライフル・トライバレットを春十に向けて放った。ブレードライフル・トライバレットは今までのブレードライフルの銃身が三つに増えたもの。普通のブレードライフルでもライフルとバルカンが付いていたんだけど、これはそのバルカンを三つに増やした感じ。しかも、連射と照射を切り替えられるものだしね…………どれだけ高性能な武器を束さんは作ったんだろう?

 

「うわっ! 卑怯だぞ! 飛び道具を使うなんて!」

「そんな事を言うんだったら、みんなに言ったらどう!! お前以外、みんな銃を使ってるからね!!」

 

今の春十に残されてるのは雪片だけ。持っていたマシンガンも使い切ったようだ。だけど、それだけで勝てるほど甘くはない。

というか銃を使うだけて卑怯とか…………そうやって他人を卑怯者呼ばわりすることだけは天才みたいだ。残り一周。ここに全てをかけて見せる!

 

 

 

 

 

一夏からのビームの雨を受け、ハンドミサイルを目の前で起爆させられた俺は四位にまで落ち、後続組に飲まれつつあった。というか、リヴォルヴァーカノンやらレーザー、衝撃に銃弾といろんなものが飛び交っているんだが…………。

 

「今度こそ落ちてもらうよ!」

「というか、いい加減に抜かせなさい!!」

「誰がそんなことさせるかよ!!」

 

再び後方にむけてガトリングを乱射。もうかまっていられるか!! 纏めて吹っ飛ばしてやるわ!!

ということで、ガトリングを片方引っ込めて、何時ぞやの220mmバズーカを取り出す。弾頭は榴散弾でいいか。俺はそれの砲口を後ろに向けてトリガーを引いた。

 

「なんで後ろに向けてバズーカを撃てるのだ!?」

「て、鉄球が飛んできた!?」

「やる事が常識外ですわ!!」

「くぅっ…………此の鉄球、当たると地味に痛いわよ!!」

 

ついでにあと二発放っておこう。この隙に一気に差をつけてやるぜ!! 俺はブースターを再点火させる。圧倒的な加速力だ。周りの景色が一気に流れていくぜ。気がつけば残り一周。俺の目の前には自称天才。だが、なにやら一夏にいちゃもんをつけているようだ。…………フェアじゃねーな。よし、そういうのはお仕置き(物理)をしてやんないとな。そういうわけだから、追加装備の武装その三を使うぜ。両翼にマウントされている対IS用ミサイルだ。しかも高機動戦闘用の高速仕様。しかも俺という発射台の加速すらあるからな。驚異的な速さになると思うぜ。

 

「両翼部ミサイル、R1、L1、発射」

 

俺は自称天才にロックをかけ、ミサイルを放った。物凄いスピードで自称天才に向かっていったミサイルはどちらも外れることなく直撃し、

 

「ぎゃあっ!!」

 

自称天才は落伍するのだった。てか、着弾まで一秒かからねえってなんだよ、おい。音速超えてんじゃねえの?

さて、目の前には難敵である一夏と簪。しかも現在進行形でビームの雨を降らせていやがるぜ。さっきは油断したけどな…………

 

「俺を倒す覚悟でいるんなら、この倍は持ってきやがれ!!」

 

とことん回避しまくって、彼我の距離を詰めて行く。ゴールまであと少しだ。このまま突っ込んでいってやるぜ!

 

 

 

 

 

「もう追いついてきた!?」

「…………いくら何でも速すぎ!!」

 

ゴールまであと少しなのに、もう悠助が追いついてきた。この勢いだといつ抜かされてもおかしくないよ…………でも、負けたくはない! 私はこのレースで勝ちたい!

私は膝裏のユニットをスキー板のように装備する。すると、そこからまたスラスターが顔を覗かせた。これならいける、私はそう確信した。特に根拠なんてないんだけれど、ね。私はスラスターを全開で噴射した。機体制御もいいや! ただ、誰よりも速く、誰よりも先へ進めれば、今はそれでいいから…………

 

「は、速ぇぇぇぇっ!!」

「…………並列して飛んでいたのはなんだったんだろう?」

 

後ろにいる二人が何かを言っているがこの際気にしない。目の前にはゴールがあるから。そして、私がゲートを抜けた直後、ブザーがなった——。

 

 

 

 

 

「それでは表彰式を行います。各部一位から三位の方は登壇してください」

 

俺らのレースは終わった。ということで現在表彰式ってわけだ。一位から三位の方は登壇って、俺もじゃねえか。ちなみに一位は一夏だ。ぶっちぎりでゴールしたしな。最後あそこでモジュールユニットのスキー板を使われてなかったら、俺抜いてたんだけどな…………。でもまぁいいか。

 

「専用機持ち一年の部一位、織斑一夏。よく頑張ったね」

「ありがとうございます!」

 

表彰で一夏は賞状を授与された。その顔はとても嬉しそうだ。ま、勝負に負けたが、これを見れたからいいとするかな。

 

「第二位、更識簪」

「…………ありがとうございます」

 

二位が簪だ。どうも、キャノンの砲身が俺よりも先にゴールしてたようで、そういう判定になったんだわ。なんか腑に落ちないんだがな、キャノンも一応機体の一部だし仕方ねえかと諦めた。そうでなければ俺が勝っていたらしいんだがな。

 

「第三位、紅城悠助」

「ありがとうございます」

 

まぁ、結果として俺が三位となったんだわ。まぁ、それはそれでいいとするか。

てか、周りからの喝采が凄えな、本当に。やっぱり男で入賞したからなのか? まぁ、若干三名程俺と一夏に恨みを込めた視線を送っているんだがな。てか、その三名のうち一名、仮にも教師なんだからやめておけ。それで生徒の模範になれんのかよ。

 

「それでは、入賞者にもう一度大きな拍手を」

 

その瞬間、会場からは盛大な拍手が鳴り響いた。というか、会場にいる連中の殆どが立って拍手している。そこまで熱狂したのかよ。

 

「おめでと、一夏」

「…………おめでとう」

 

だが、俺は一夏に一番の称賛を贈りたいね。皆今日に向けて頑張ってきたとは思うが、こいつの頑張りも凄いもんだったからな。弱音もほとんどあげなかったし、毎日練習していたもんな。…………最初、制御ミスって地面にダイブしたけど。

 

「みんな、ありがとう!」

 

今日のその笑顔は、いつもより一段と輝いて見えたのは確かなはずだ。それは、太陽よりも眩しくて輝かしいものだった。

 

「これにて、キャノンボール・ファストを終わりにします。皆さんご苦労様でした」

 

こうして俺たちのレースは幕を閉じた。

 

 

「はぁ…………疲れたなぁ」

「まぁまぁ、一位なったからいいじゃねえか。優勝祝いに食堂でなんか奢ってやるよ」

 

現在帰り道。あのアリーナからは徒歩での帰りだ。行くときは送迎バス出たのによ。まぁ、今日だけは門限ないみたいだし、その辺は大丈夫なんだがな。それにしても夜だから道暗いな。

 

「本当⁉︎ じゃ、またパフェ食べてもいいの!?」

「ああ、勿論だ。なんでもいいぜ」

 

まぁ、なんとかモノレールのところまで着いたから問題ねえか。とりあえず、次の奴を待つとしますか。

…………。

……………………。

………………………………。

次の便が来たから乗ったのはいいんだ。それにあと少しで学園の方に着くし。だけどな

 

「すぅ…………すぅ…………」

 

一夏、寝ているんだわ。それも俺の肩に寄りかかって。しかもめっちゃ気持ちよさそうに寝ているもんだから、起こすのも気が引けんだよな。だが、このままにしておくわけにもいかねえし。

 

『間も無くIS学園前に到着します』

 

うおぉ…………まずいな。一体どうしたらいいんだよ。起こすのは気がひける、かといって置き去りはアウト。だとしたらやるしかないのか…………最後の手段を。

俺は一夏を背負い、手荷物なんかは後ろでホールドする事にする。正直言ってこれは中々に恥ずかしいぞ。やられている側は寝ているから何も感じてねえんだけど、寝息とかが首とかにあたんのよね。理性とかいろんなものがぶっ飛びそうであかんわな、これは。学園に入ると数人の生徒から見られるしよ…………どないすりゃいいねん。

 

「…………なにやってんのあんたらは」

「鈴か。丁度いい、荷物持って」

「はいはい、わかりましたよ。で、どうしてこんな状況に?」

「帰りに一夏が寝た」

「あ、察し」

 

とりあえず鈴がいたから手荷物を持ってもらった。ふぅ、これで幾分かは安定して背負えるわ。

 

「それにしても、一夏の寝顔っていいわね…………ここまでいい顔は一年半前までほとんど見なかったわよ」

「そうなのか?」

「そうよ。だって中国から転校してきたとき、私よりいじめられていたの。中学でも教科書盗まれたり、暴力とかも毎日のように受けてたし」

「…………そうだったのか」

「ええ。だから、今はあんたが守ってやんなさい。この寝顔みたいに平和なひと時を」

 

鈴はそう言う。それはまるで自分にできなかったことを、俺に任せようとしているかのように思えた。

 

「わかってる。どっちにせよ、それが俺の役目だ」

 

分かりきっていたはずのことだ。俺は一夏の護衛、それ以上でもそれ以下でもない。守りたい、ただそれだけの思いで今の俺は動いている。たとえそれが、俺の命を落とす結果となったとしても、そこに一夏がいりゃ後悔はねえ。守り切れるのであれば、それでいいからな。

 

「ふーん。ま、どうでもいいけど、さっさと付き合っちゃいなさい。見てるこっちは砂糖ばっか吐いてるのよ」

「…………なんのことだ?」

「はぁぁぁ…………とんだ鈍感よ」

 

 

自室についた俺は一夏をベッドに寝かせた。後のことは鈴に頼んである。まぁ、女だから色々と面倒もあるしな。ここはいっちょ女同士でやってもらったほうがいいと思ってな。野郎がやった瞬間、犯罪で捕まってムショ送りだ。

 

「終わったわよ」

「すまねえな。お礼といっちゃなんだが、飯奢ったる」

「いいわよ、別に。でも、気をつけておきなさいよ」

「何をだ?」

「一夏のこと。あの子、なんだか他のクラスの人から疎まれているみたいよ」

「何故なんだ? あいつ、そんなことしたか?」

「多分、単なる逆恨みみたいなものでしょうね。例えばあんたの近くにいるから、とか」

「そんなもので、なのか?」

「知らないわよ。でも、頭の片隅には入れておいて。それじゃ、またね〜」

 

鈴はそう言って自室の方へと向かっていった。できれば何事もないといいんだがな。

自室に入ると一夏が眠っていた。その顔はさきほどとおなじく、とても気持ちよさそうな笑顔。だが、もしこれが消えてしまうようなことになれば、俺は…………俺はどうなるんだろうな。

 

「なぁ、教えてくれ闘蛇龍…………俺はどうするべきなんだ…………」

 

その問いに相棒が答えてくれることはなかった。何も起きない事を祈るしかない。

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