守りたい、ただそれだけ(本編完結) 作:ディニクティス提督(旧紅椿の芽)
今日からは六月だ。大分気温も高くなってきたし、いつまでも冬服の制服でいたら汗かいちまうぜ。ということで昨日のうちに渡された夏服を着るとしよう。まぁ、半袖になって拳銃のホルスターが腰の横にきた程度か。特に大きな変わりようはないな。
「ねぇ、もうそろそろ行く?」
「そうだな。時間も丁度いいし、行くとするか」
一夏も夏服へと着替えてはいるんだがな。何時ぞやのパーツ風にいうとだ
頭部:ヘアピン、カチューシャ
胴体及び腕部:制服(夏服)
胴体下部:制服ミニスカート(夏服)
脚部:膝下の黒靴下、革靴
こんな感じだな。やっぱり野郎とかと違って服を選ぶ自由が大きいのが女の利点だな。まぁ、俺は着られりゃなんでもいいんだがな…………おいそこ、女装でもいいのかとか言った奴、正直手を挙げなさい。そして、想像してみろ、核兵器レベルでおぞましいぞ。俺は確実に嘔吐物出す自信あるわ。
まぁ、一夏が可愛くなったからいいか。なんだか妙に上機嫌だし。この間のキャノンボール・ファストで優勝したからか? あの時の賞状は机の上に飾ってあるが。って、時間やべえ。遅刻だけは勘弁だぜ。
…………。
……………………。
結論から言えば遅刻はしてねえよ。普通に時間通りに着いたしな。それにしても、空はあんだけ青いのによ、俺の心の中は若干曇ってるわ。
「はぁ…………」
「どうしたの? ため息なんかついちゃって」
「なんでもねえよー」
というのもだ、この間鈴に言われたことがどうしても気になって仕方ない。一夏の事を疎ましく思っている奴らがいるということだ。こちらに危害を加えてきた時どうしたらいいか…………もし何も制限がない戦場なら洗いざらい探し出してぶっ潰すんだがな…………ここは制限まみれの学校。おまけに下手に殺人なんてできたもんじゃねえ。やったらやったで俺退学。それでは一夏の護衛もできなくなってしまう。それだけは避けなければならない。
「むぅ…………ちょっとは私を頼ってもいいのに」
「今回のはお前に相談できねえ事情だからな。もし今度なんかあったら、そんときは頼むわ」
「わかったよ。でも、こんなに悩むなんて悠助らしくないね」
「…………それは俺がいつも適当に考えているとでも言いたいのか?」
一夏に軽くジト目で視線を送る。すると一夏は若干引きつったような顔をした。
「い、いや、そんなことないよ? ただ、いつもにしては決断が鈍いなー、なんて思ったり」
あぁ、そういうことか。確かにいつもよりは悩んでいるし、どうするべきか決断もできてはいない。はぁ、本当にどうするかなんだよな。
と、色々考え込んでいるうちに予鈴がなる。ふぅ、今日も怠い朝のSHRか…………今日は重要事項なんかあったっけ?
「さて、今月末に行われる学年別トーナメントについて少し変更点がある。よく聞いておけ。本来ならばシングルマッチで行うものだが、今回は様々な事を踏まえてタッグマッチということになった。ペアの申し込みは今週末までだ。申し込まなかったものは当日抽選でペアが決まるぞ。各員忘れるなよ」
おぉぅ、完全に忘れていた。今月の末には学年別トーナメントが行われるんじゃねえかよ。しかもタッグマッチに変更か…………一体どうしたもんかな。いや、ペアは一夏だといいんだが。俺の機体が全領域対応機の射撃寄りだから、近接寄りの一夏だと連携とか取りやすそうなんだよな。まぁ、戦場じゃワンマンアーミーで動いていたし、稼いだ者勝ちの傭兵に連携もクソもあったもんじゃねえ。同業者のオータムとだって俺は組める自信がねえぞ。
「連絡は以上だ。次の授業の準備をしておくように」
そう言って織斑千冬は退室していった。山田先生は少々やつれ気味だ。何を一体どこまでしたらそうなるんだろうか。面倒な仕事を押し付けられたとか?
だがそれより面倒なのがあるぜ。デュノアの事だ。この間のレースで確信したことなんだが、俺が機雷を撒き散らしてそれに引っかかったろ? あの時聞こえた悲鳴が野郎とかがあげる悲鳴のそれとは程遠く、やけに高かったんだわ。それに、技能の高さも問題だ。自称天才は未だぎこちない動きをたまにするんだが、あいつは何もない。俺のように長くから乗っていたようなそんな感じがするんだわ。なんらかのセンスがある可能性も否定できんが、それでも乗り慣れている感がする。そう考えていくと、やはり女なんじゃねえかという結論に行き着くんだわ。だが決定的な証拠がつかめていねえ。何か尻尾を掴めりゃいけるんだが…………そう簡単には無理か。
「今日は随分考え事が多いですわね。一夏さんは何かお知りで?」
「ううん、何も。聞こうとしても悠助が教えてくれないし。それよりもトーナメントのペア、セシリアはどうするの?」
「わたくしは鈴さんと組むつもりですわ。わたくしは中距離射撃、鈴さんは近接格闘ですから」
「そうだよね〜。私も近接寄りだけど、誰と組もうかな?」
俺の近くでそんな会話が聞こえてくるんだが、思考の海に沈んでいる俺には全くもって聞こえてこなかった。
「…………一夏さんは悠助さんと組みたいのでしょう?」
セシリアが耳元でそんなことをつぶやいた瞬間、私は顔が急に熱くなっていくのを感じた。
「せっ、セシリア!? い、いきなり何を——」
「あらあら、その様子では図星でしたようですね」
「〜〜〜〜!!」
た、確かにそうだよ。悠助は強いし頼りになるから、ペアを組んだら絶対勝てると思うんだよ。でも…………それ以上に悠助の事が気になって仕方がない。どうしたんだろ、私…………前までこんな気持ちになることなんてなかったのに…………。
「…………ねぇ、セシリア」
「なんですの?」
「…………特定の人を考える時、心臓の鼓動が速くなったり、顔が熱くなったりするのって何ていうのか知ってる?」
私は自身が今一番に悩んでいることをセシリアに聞いた。まだ授業までは時間はあるし、別にいいよね? その事を聞いたセシリアはなにやら含みのある笑みを浮かべた。
「一夏さん、それは人に教えてもらうものではありませんの」
「そ、そうなの?」
「ええ。人に教えてもらってもいいのでしょうが、それでは価値がありませんわ。自分で見つけることに意味があるのですよ」
そういうセシリアは、なんだかとても大人びて見えた。自分で見つけるのか…………私にはそれがわかる日が来るのかな? 今でも悠助の事を考えるとなんだかドキドキしてくる。特に前出かけた時、手を繋いでもらったこととか。私の事を褒めてくれたこととか…………数えたらきりがないや。この感情は一体…………?
「一夏さん?」
「ふぇっ!? な、なに!?」
「ふふっ、もうすぐ授業の時間ですわよ」
よく見ると時計は授業開始の一分前を指していた。やばっ、教科書とか全然準備してなかった! 私はその一分間で授業の準備を終わらせた。結果としてセーフだったからいいの、かな?
さて、現在放課後、第二アリーナだ。現在ここにいるのは俺と一夏、それとラウラ。というか、未だにタッグを決められていない奴らだけだ。
「一夏の近接戦闘も捨てがたいが、今の装備では射撃支援が可能な奴がいいんだ」
「俺は射撃寄りの全領域対応だからな…………強いて言うなら、近接戦闘できるやつが欲しい」
「私は、援護してくれる人がいれば誰でもいいかな」
「「「…………決まらない」」」
こんな感じで、微妙に欲しい人材が違うんだよ。ラウラは前回の強襲制圧装備を解除し、元のレーゲンに戻っているしな。右肩にはレールカノン、全六箇所にあるワイヤーブレード、両腕のプラズマブレード、あとは隠し球とかいってたな。ベーシックな装備というが、どう見ても砲撃主体だろうが。あ、一夏も元の装備に戻っているぞ。そのせいで、新武器二つが封印されたがな。
「ねぇ、確か紅城君だよね?」
そうこう話し合っているとき、後ろから声をかけられた。この中性的な声は間違いない。
「デュノアか。何の用だ?」
「何か話し合っているときに話しかけてごめん。よかったら僕と模擬戦してくれないかな? その機体と戦ってみたいんだ」
「まぁ、別にいいんだが…………いいか? やってきても」
「私は構わん。戦いぶりを見せてもらおう」
「私達は邪魔にならないように端っこで見てるね」
デュノアから模擬戦の申し込みが来た。二人からの許可も出たし、思う存分やってやろうか。考えを切り替える機会にもなるだろうしよ。
「それじゃ、始めるとするか」
「いつでもどうぞ!」
「ならよぉ…………行くぜ!」
俺は両手に対装甲ナイフを持ち、一気に接近してやる。あの機体は第二世代機、第三世代機の装甲にすらダメージを与えることが可能なこの武装でダメージを与えてやろうかと右手に持つナイフを突き出す。
「甘いよ!」
だが向こうもそれを察してなのか左腕のシールドを斜めに突き出し防御してこようとする。リヴァイヴ系統のシールドはかなり頑丈と聞いている。大抵の攻撃は防げるとかなんとか。だがな
「シールドは吹き飛ばすに限る!」
俺は対装甲ナイフを瞬時に格納、代わりにバスターソードを取り出して下から切り上げる。
「うわぁっ!!」
その衝撃でデュノアは吹き飛ばされ、シールドも纏めて吹き飛ぶ。やりすぎた感があるが、模擬戦なんだから仕方ねえ。ってか、シールドを の裏にパイルバンカーが仕込んである。…………あれだけは食らいたくねえわ。絶対、内臓がいかれる。
まぁ、迫撃くらいは仕掛けてもいいだろ? ということで両手には安定のアサルトライフルを取り出す。向こうもサブマシンガンを取り出して、互いに撃ち合う。
「まさか、僕と同じ高速切替を使ってくるとはね!」
「てめえこそ、とんでもねえ武器仕込んでんじゃねえかよ!」
「そっちほとではないけどね!」
互いに円を描くように回避しながら撃ち合う。連続して撃ち合うものなんだが、中々当たらねえんだわ。射線軸上からすぐ外れるもんだから、照準がずれる。だが、このままじゃ埒があかねえ。仕方ねえが、アレを使うか。
「両脚部ミサイル、全門発射」
脚部の三連装マイクロミサイルだ。一見するとハンドグレネードをラックしているようにも見えるが、これはマイクロミサイルだ。手で持たないから使い勝手もいい。ハンドミサイルランチャーはあれだ、この間誘爆したからお亡くなりなったわ。買い足さねえとな、こりゃ。
「み、ミサイル!?」
デュノアはミサイルに気付き迎撃しようとするのだが、それでもあまり落とせてない模様。結果として、落とせたのはたった二発。残りの四発は、綺麗に吸い込まれるかのようにデュノアへて直撃した。小さいながらも爆発力はそこそこあるぜ。さて、アサルトライフルも弾切れだし、弾倉交換するかな。ふと視界の端に一夏が見えた。蒼龍を纏っているから安心だ。というか、こっちに向かって手を振って、応援でもしてるのか? なんだかほっこりするなぁ。てか、一夏可愛い。つい見惚れてしまった。
「油断は禁物だよ!」
そう言ってデュノアが爆煙の中から飛び出てくる。その手にはアサルトライフルが握られており、銃口はこちらを向いている。俺は反射的にアサルトライフルのトリガーを引いた。だが、聞こえてきたのはアサルトライフルの軽快な発砲音ではなく、重厚な発砲音。そして、視界に入るのはパワーバレルのついたアサルトライフルのような何か…………こいつは確か!
「げえっ!? 対ISライフル!? 俺間違って呼び出したか!?」
対ISライフル。文字通りISに対抗するためのライフルだ。本来なら擬似コアを破壊するためのもんだが、どうやら手違いで出してしまった模様。こいつの破壊力はシールドを貫通してダメージを与えることが可能であり、第二世代機程度なら破壊可能…………って、リヴァイヴって第二世代機じゃねえか!!
「お、おい、デュノア? だ、大丈夫か?」
「う、うん。大丈夫だよ」
壁際まで吹き飛ばされたデュノアはとりあえず意識を持っていた。ふー、セーフセーフ。これであの世送りにしてたら俺は死ぬにも死にきれんぞ。
まぁ、ダメージチェックしておくとしよう。胸部装甲に着弾したらしく、見事に砕けている。そして、その破片でも引っかかったのか、ISスーツも破けてしまっており、下には何かの矯正器具らしきものと皮膚が…………って、は? 俺なんて言った? 何らかの矯正器具…………?
「ハッ!!」
デュノアもデュノアで気付いたようだ。そして、胸を隠すような動作をする。ま、まさか、ガチで…………。
「な、なぁ、念のために保健室行くか? 怪我してないか気になるしよ」
「そ、そうだね。行ってみるとするよ」
とりあえず保健室へと連れて行こう。これならなんとかばれないだろうし、何か誤魔化す手もあるだろう。それに、もしそうでなかった場合も一応の検査で通じるさ。まぁ、そうでない場合など限りなく低いんだがな。
「む? どこかに行くのか?」
「ああ、デュノアを保健室にな。さっきの模擬戦で事故が起きてよ、念のため検査さ」
「それなら私も行こう。ここに残ってもあまりすることないからな」
「あ、それなら私も」
「デュノア、いいか?」
「ぼ、僕は別にいいよ」
ということで、デュノアの許可も出たことで、四人で保健室へ向かうことにした。
「怪我はないんだがな…………」
「え、そ、そんな…………」
「これは…………」
「あうぅぅぅ…………」
保健室に行き、とりあえず仕切りつきベッドを借りた俺たちはデュノアにISスーツを脱いでもらい、確認する。野郎のお前がいていいのかって? デュノアのやつが言ってきたんだから仕方ねえだろ。まぁ、俺だって十五の男だ。少しは桃色の桃源郷に興味はある。
それでだ、結果から言おう。
デュノア、女だったわ。
いや、だってよ胸部にコルセットつけてるしさ、それに自分でそれをとるしよ…………そこからは、はい言えません。俺は反射的に後ろを向き、一夏は手で目を隠し、ラウラだけがまじまじと見つめている。って、お前は何をしてんだコラ。
「え、えっと…………これでいいのかな?」
「とりあえず、服を着てくれ。俺には目の毒だ」
まずは制服を着てもらおう。じゃなければ何が起きても対応しきれんぞ。例えばここに女子の群れが突っ込んでくるとかな。そんなことになったら対応不可能だぞ。
「これでいいかな?」
デュノアが制服を着たようなので尋問、もとい質問を始めよう。事によっては生徒会長や束さんにも頼まなければならん。
「それで、質問してくがいいな?」
「うん。なんでもいいよ」
「まず最初にだ、なんで男のフリをしていた? 趣味か?」
「ち、違うよ⁉︎ 男装の趣味なんてないよ⁉︎ ただ、家からの命令で…………」
「家? というと、デュノア社か?」
「そうだよ…………僕の父さんがそこの社長をしてるんだ」
だが、どこで男装がデュノア社と結びつくのだろうか? 俺にはその辺がよくわからねえ。
「何故、会社からそんな命令が?」
「簡単だよ。男性操縦者は嫌でも目立つからね。広告塔としての役目もあるんだ。それに」
「それに?」
「運が良ければ、各国代表候補生の機体データを盗めるだろうって。…………僕はスパイも同然なんだ」
成る程な。経営不振が続いているというデュノア社。たしかリヴァイヴ以降の新型機の発表は全然聞いてないもんな。つまり、第三世代機の開発に追われている。挙句ヨーロッパ諸国は統合防衛整備計画なんてもんを立ち上げて、それのフラッグモデルを選定中と聞いた。今の所、ドイツとイギリスだけのようだがな。
「でも、命令したのはお父さんなんだよね? なんでそんな酷いことを子供に言えるのかな…………」
一夏は自然と口からそんな言葉が出ていた。まぁ、俺だって木の股から生まれたわけじゃねえから親のことだって少しくらいはわかる。それに一夏も…………親どころか家族に捨てられたからな。痛みを感じているんだろうよ。ラウラは無言を貫いて聞いているが。
「だって僕は…………父さんの愛人の子だから…………」
デュノアの口からはそんな言葉が力なく出ていた。詳しく聞いていくと、親父さんがデュノアの母親と元は結婚する予定だったが、その後政略結婚やらで今の女と結婚させられた。それでも諦めきれなかった親父さんはデュノアの母親と結婚し、その間に生まれたのがデュノア。それから母親とひっそり暮らしていたらしいが、その母親が病死。親父さんに引き取られたのはいいが、その相手に疎まれていたらしい。親父さんは何も言わず、今回の件に至るまでとなった。
話を聞き終えた後、俺はとても胸糞悪い話に聞こえてきた。だって考えてみろよ、普通はそういうのを子供にしないだろうし、自分の子なんだから愛したりはするんじゃねえのか? 俺の親だって、死ぬまではそうやっていた。それが当たり前のはずなんだよ。多分一夏も同じように怒りたいんだろうけど、どこに矛先を向けたらいいのかわからないでいる。そりゃそうさ、俺だって同じだ。
「なんだか話したらすっきりしたよ。みんな、ありがとう」
そういうデュノアの顔はとても儚くて、今にも散りそうなものだった。
「…………お前はどうするつもりだ?」
ここまで無言でいたラウラが突然喋り出した。その表情は真剣そのもの。
「…………みんなにばれちゃったからね。多分、強制送還されて投獄、極刑にかけられるだろうね」
「違う。お前に課せられるであろう刑罰など聞いておらん。私は、お前自身がどうしたいのか聞いているんだ」
ラウラはデュノアに詰め寄ってそう聞いていた。
「僕自身なんて…………そんな、大した権限もないし…………」
「この学園の特記事項を忘れてるのか? ここはどこにも属さない中立地帯な上、干渉も受け付けん。それが企業であろうと、国であろうともな」
ラウラはとても真剣な眼差しでデュノアを見つめながらそう言った。成る程な、特記事項がある限り、生徒は干渉も何も受けんからな。まぁ、あの例外だけを除くとそうなるか。
「そんなのただの建前だよ! どうせ僕には、自由なんてないんだから!!」
だがデュノアは喚き散らすようにそう言った。どうも俺はその言い方に腹立つな。自由なんてもんは与えられるんじゃねえ、自分で生み出すもんだぞ。ラウラもラウラで考えている。すると、ちょっと手話で話してきた。何々、『弾を全て抜いた拳銃を貸してくれ』だと? んな面倒な…………だが、用意くらいはしてやるさ。丁度弾倉外してるしな。
俺はホルスターから拳銃を取り出し、ラウラへと差し出す。すると、目線で礼をしてから受け取った。律儀だねえ。
「ゆ、悠助? それにラウラまで…………何をするつもりなの?」
「あ、あの、ボーデヴィッヒさん? その銃は…………」
「お前には失望したからな。下手に動かれて情報を流されるよりはここで死んでもらうほかない」
ラウラはスライドを引き、ハンマーを引き起こす。そして、その銃口はデュノアの頭。
「…………殺すなら、早くしてよ」
デュノアも殺されることで償えるならなどと思い始めている。
「了解した」
ラウラがトリガーを引いた瞬間、撃鉄が下される音だけが静かに響いた。
「え…………」
「現時刻を持って、シャルル・デュノアをスパイ容疑で射殺した。私の目の前には一人の少女しかいないはずだ」
ラウラはそうあっけからんもなく言った。あと、拳銃はもう受け取ったわ。そしてその言葉が意味しているのは
「男装をしていたお前は死に、今目の前には本来のお前がいる。普通の少女だ、いても何も問題はないだろう」
ありありだろうけどな。あとで生徒会長に頼んで入学手続書とかの偽造でも頼んでくるか。このくらいやってのけそうだし。
「…………そ、それじゃ、僕はここにいても…………いいの?」
その言葉を聞いたデュノアは少し不安そうに聞いてくる。だがラウラは自信気に言い切った。
「ああ。勿論だ」
その後、デュノアがラウラに抱きつき、ラウラもまたデュノアを優しく撫でていたのはお決まりの事態だな。
「さて、面倒ごとは乗り切ったし。改めて自己紹介でもしてもらうか」
「うん。僕の本当の名前はシャルロット・デュノア。騙しててごめんね」
「気にすんなや。俺は紅城悠助だ。よろしくな」
「私は織斑一夏だよ。織斑じゃ紛らわしいから、一夏ってよんでね」
「私はラウラ・ボーデヴィッヒだ。先ほどは銃を向けてすまなかったな」
一通り自己紹介は終えた。ラウラは先ほどの事をしっかりと謝罪している。やはり軍人とは律儀なんだな。傭兵はゴロツキ野郎どもしかいねえから、マナーもへったくれもあったもんじゃねえよ。
「いいよいいよ、気にしないで。それよりも僕の事はしばらくデュノアって呼んでもらえるかな?」
「何故だ?」
「だって、まだ僕が女の子だって事三人しか知らないでしょ? 名前を呼んだら変に思われるって」
「だったら偽名の方を——」
「あれ? たしかシャルルは撃たれて死んじゃったんじゃなかったっけ?」
「それはそうだったな」
デュノアとラウラの間での会話はとても賑やかで楽しそうだ。それに、憑き物が取れたようでなんだか生き生きしているように見えるな。
「なんだか、二人ともすぐ仲良くなれそうだね」
「そうだな。あとは何も起きなきゃいいんだけどよ…………」
そう思った矢先のことだった。保健室に常備されている薬品がカタカタと揺れ始めた。それも、次第に大きく揺れ出している。
「な、何!?」
「地震か?」
そしてその直後のことだった。保健室の引き戸が前に倒れた。は? 俺は一体どんな光景を見たんだ? 引き戸って前に倒れるものだったっけか? そして俺たちの目の前に現れたのは
「紅城君! 私と組んで!」
「デュノア君! 私とやろう!」
俺とデュノアと組みたがる女子共だった。その手には申し込み用紙が持たれている。てか、全員突き出してくるな! 軽いホラーもんじゃねえかよ! 見ろよ! 一夏とデュノアはびびってんじゃねえか‼︎
だが、ラウラは依然としてなにもアクションを起こさない。けれど、少しだけ口の端が上がった。あの笑みは何かを考えているな。飛びっきりの策を。
「デュノアは私と組む。異論は認めんぞ!!」
うん、飛びっきりの策だな。諦めた女子の矛先が俺にしか向かねえし、自分たちは後逃げること可能だからな。って、俺を餌にしただけじゃねえかよ!!
「あー、なら仕方ないかな」
「金髪と銀髪はいい絵になるわね」
「「「紅城君! 私と組みましょう!」」」
さぁ、どうやって切り抜ける。このまま脱走って手もあるが、それじゃただの先延ばしだ。ここで解決して、安寧をもたらさなければ。ふと、俺は横を見る。どうもチラチラと視線を感じるんだよな。そんで横を見ると、一夏が横目で俺をチラチラ見ていた。そういやいたじゃねえか、俺が一番組みたいと思っていた奴がすぐ近くによ。
「すまんな。俺は一夏と組むと決めていたんだ。諦めてくれ」
俺は一夏をこちらに寄せ、いかにもそうであるかのように見せる。というか、このまま組んでもいいんだけどな。てか、その申し込み用紙寄越せ。今すぐに俺と一夏の名前を書いてやる。
「何よそれ! 織斑さん、今すぐ変わって!」
「そうよ! イカサマよ!」
「今すぐに紅城君から離れなさい!」
何人かは諦めて帰って行ったんだが、数人ほど残っていやがる。それにそいつらから返ってきたのは一夏に対する文句だった。は? こいつら何言ってんだ? 俺が決めたことなんだぜ? 変えれるわけねえだろ?
「専用機持ちだからって、いい気になって! この『落ちこぼれ』!」
「どうせ千冬姉様のコネで入ったんでしょ! 織斑の『恥さらし』!」
「なんでアンタが紅城君にくっついてるのよ! 『出来損ない』!」
挙句、誹謗中傷まで飛ばしてきやがった。ストレスがマッハで溜まっていくのがわかる。今の俺なら多分、こいつらを殺すことだって可能かもしれん。だが、一夏の居る手前でそれはできねえ。
一方の一夏は耳を手で塞ぎ、目を閉じてしゃがみこんでしまった。体も震えている。まずい…………完全に過去の事を思い出しているのかもしれん。クソッ! 何もしてやれねえ俺が無力じゃねえかよ!
「ねぇ、どうせ消えてくれないんだから殺しちゃおっか?」
一人が手にカッターを持ち出してきやがった。よし、こうなったら知ったこっちゃねえ! セクハラだろうがなんだろうが訴えてみろや!
「させっと思ってんの?」
俺は躊躇いなく、そいつの眉間に左手の籠手による打撃を叩き込んだ。
私は聞こえてくる誹謗中傷から耳を塞ぎ、世界から心を閉ざした。やっと何も感じなくなってきたと思ったのに…………それでも昔の事を思い出しちゃう。
小学校でいつも比べられ続けていたこと。私は学校で褒められたことなんて一回もない。それに、ずっといじめられていたから。筆箱や教科書、ある時は靴も…………私物はゴミ箱に捨てられるか、どこかに消えていた。商店街でも罵声を浴びたり、石を投げつけられたことだってあった。私にとっての居場所はこの頃からなくなっていた。
中学になってからは、小学校の時にされていたことにプラスして暴力も受けるようになった。全身を殴られ、蹴られ、そして斬られて、焼かれた。逃げたいとも思ったし、死にたいとも思った。誰も助けてくれない、誰も見てくれない。何をやっても千冬姉さん達に届かない私には『落ちこぼれ』『恥さらし』『出来損ない』の烙印が押された。毎日のように浴びせられ続けていたなぁ…………。
そして今もまた、いろいろ言われている。それが引き金となってか、私は今までの事を思い出して、頭の中がぐちゃぐちゃになってしまう。やだ…………嫌だよ…………なんで、私だけ…………。いつもそうだった。私の自由は奪われ、取り返すことすらできなかった。今もそうだ。私だって悠助と組んでいいはずなんだよ。なのに、なんでそれすらも否定されなきゃいけないの⁉︎
「ねぇ、どうせ消えてくれないんだから殺しちゃおっか?」
そんな時聞こえた言葉。その言葉に私は恐怖した。だって、あの時、腕を切られた時にかけられた言葉とほとんど同じだったから。
『なんだよ、まだ生きてたのかよ』
『さっさと死んでくださいー。空気が汚れますー』
『どうせだから殺しちゃおっか』
そのことを思い出した私の体は震えだす。あの時の殺される恐怖が今でも鮮明に思い出される。腕を切られる痛みすら思い出してしまって、怪我もしてないのに痛みを感じ始める。嫌だ…………嫌だ…………嫌だ…………嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。
「おい、大丈夫か?」
その時投げかけられた言葉、私はこの時やっと目を開いた。
粗方面倒な奴らを始末した後、しゃがみこんでいる一夏に話しかけた。
「おい、大丈夫か?」
話しかけると今まで閉じていたであろう目を開いた。話は聞いてもらえるみたいだな。
「ゆう…………すけ…………?」
「ああ、俺だ。わかるか?」
「う…………うん…………」
とりあえず俺の声は届いている模様。だが、これほどまでに酷いとは…………もはやPTSD——心的外傷後ストレス障害なんじゃないかと思ってしまうレベルだ。とにかくしゃがませっぱなしもなんだ、ベッドにでも座らせよう。
「立てるか?」
「大丈夫…………」
そう言うと、一夏は力なくだが立ち上がり、ベッドに座った。それでもなお、顔は俯いたままだ。いつものような元気良さは全くない。まるで、初めて会った時に戻ったみたいな気がするな。
「ラウラ、デュノア、一夏をしばらく頼む」
「どうするの…………このままにして置けないよ」
「すぐに戻ってくる。待っててくれ」
俺は保健室を後にし、始末したものを廊下へと出すと、一目散にある場所めがけて走った。向かう先は生徒会室。楯無のいるところだ。
「あら、紅城君じゃない。どうしたの、そんなに急いで」
「生徒会長か!? 丁度いい、保健室まで来てくれ!! すぐにだ!!」
「あら、連れ込んでヤル気なの——」
「今ならショットガンのサービスだ!!」
「わかった、すぐに行くわ」
廊下でうまいことすれ違ったため楯無をひっ捕まえることには成功した。生徒会長には事の顛末を話してあいつらを回収してもらうとしよう。さて、俺はと…………自販機でコーヒーでも買ってくか。
「…………何があったの、これ」
「せ、生徒会長!? どうしてここに!?」
「あ、俺が呼んだ」
後から追いついたが、割と話の本題に入る前で良かった。話がややこしくなってからだと色々と面倒だ。
「それなら、悠助がCQCで気絶させた者たちだ」
「あなた何をしたの!?」
「こいつらが一夏に危害を加えようとしたからな潰しただけだ。そういうことだから始末頼む。それにデュノアも用事あるんだろ、ラウラに付き添ってもらえ」
「はいはい、わかりましたわよ。とりあえず二人とも運ぶの手伝ってね」
「了解した」
「あ、はい」
楯無に面倒ごとを任せた俺は、一夏と向き合うように座った。今は俺と一夏しかいねえからな。少しは気が楽になってくれるといいんだが。
「一夏、すまんかったな。大変な目に遭わせちまってよ」
もう俺は素直に謝るしかなかった。俺の言ったことが原因なんだからな…………今思えばあそこであんなことを言わなきゃ良かったと思ってるぜ。
「そ…………そんなことない、よ。私がダメだから…………こんな私だから…………言われても仕方ないんだって…………」
だが返って悪循環になってしまったようだ。どうやら、自分がダメなせいだからと思っているようだ。別にそんなことねえのにさ…………なんでこう何でもかんでも自分がダメって思うんだろうな。そう言われ続けてきたから仕方のないことなのかもしれないが…………俺はその鎖を壊してやりたいぜ。
「一夏」
俺は一夏の手を取って話しかけた。俺にできるのは精々この程度。身体は守れても、心までは守ることのできねえ、ただの傭兵だ。護衛なんて柄じゃねえのかもしんねえな。でも、せめて今だけは、こいつの心を温めてやりてえんだ。
「俺はさ、あいつらの言ってること、全部間違いだと思ってんだ。お前だって努力してんだ。それは他の人と比べたらお前の方が優れている証拠なんだぜ。他人がとやかく言おうと、俺はお前の事を否定しねえ。何があっても受け入れるさ」
俺がかけられる言葉はこれが限界。何もセンスもねえ言葉の羅列だ。だが、俺の本心からの思いだ。無駄に着飾る必要もねえ。すると一夏は
「…………ねぇ、悠助。私ってさ、悠助の近くにいてもいいのかな?」
そんな事を言ってきた。何を今更言ってくるんだよ。
「何を言ってやがる。あの時のこと忘れてないだろうな? 放っておけないってよ」
「…………そういえばそうだったね」
「ああ、だからお前を離したりはしないさ」
「悠助っ!」
一夏はいきなり俺に抱きついてきた。そして俺の胸筋しかない胸に顔を埋めた。
「…………もう嫌なの…………ひっぐ…………誰かと比べられるの…………ぐずっ…………助けて…………」
しゃくりあげているところを見ると泣いているようだ。そんな一夏の頭を撫でてやることしか今の俺にはできそうになかった。それにしても誰かと比べられるのが嫌か…………しかし、人は誰かと比べられ生きているから、それは仕方のないことだ。だが、俺は助けてやりたいよ。それでこんなに苦しんでんだから、尚更だぜ。
俺は泣き止むまで一夏の頭を撫で続けていた。
…………。
……………………。
「ごめん…………いきなり泣いちゃったりして」
「気にすんなって。こうしてりゃ問題ねえしよ」
一夏が相当に泣いたもんで胸のところが涙で濡れちまった。ちょっと野郎がやると危険すぎるので、中に着込んでいた防弾ベストを取り出して制服の上から着ることにした。これなら泣きつかれた跡も見えないしな。
その一夏だが、俺の買ってきたコーヒーをちびちびと飲んでいる。まだ表情に曇りは残っているが、大分いつもの様子に戻りつつある。そのことに俺は少しの安心をした。
「でも…………本当に私でいいの?」
おそらく先ほどのペアの事だろう。あれだけ言われたからもしかすると変更するかもしれないとか思ってんじゃないだろうな?
「お前だから頼んだんだ。嫌だったか?」
「う、ううん!! 別にそんな事思ってないよ?」
「おう。それじゃ頼むぜ、相棒」
「こっちこそ、よろしくね」
どうやら一夏もコーヒーを飲み終えたようだし、向かうとしますか。職員室によ。
「さて行こうぜ、ペアの申請によ」
「うん!」
曇りもだいぶ消えてきた。笑顔にもいつもの明るさが戻ってきていた。それだけで俺は、心が落ち着くのだった。
「では、申し込み用紙は私が預かっておきますね」
「ありがとうございます」
申し込み用紙を出しにきたわけだが、やっぱり山田先生が一番信頼できるわ。来た時もひたすら仕事してたし、仕事熱心というか真面目というか最も模範的な教師だと思うんだよね。一番模範的な教師だと思わねえのは織斑千冬だが。若干身内贔屓しすぎだろ、まったく。
「これくらい大丈夫ですよ。ところで、織斑さんはなんだか目が赤いですけど大丈夫ですか?」
「はい。大丈夫です。心配しないでください」
「そうですか。でも何かあったら相談してくださいね。頼りないかもしれませんけど、先生はいつでも力になりますからね!」
そういってにっこり笑う山田先生。いや、あなたほど頼りになりそうな教師がいないんですが…………現にうちの担任がアレだし。
「では、失礼します」
「失礼します」
とりあえず職員室を後にする。時間も時間だし、寮に戻るか。外に出ると既に日は沈みかけており、夕暮れというよりは黄昏に近い空になっていた。
「うわぁ…………星が綺麗だね」
一夏がそういうものだから俺も空を見上げた。そこには一面の星空が広がっていた。今まで空をこうやってみる機会なんてなかったから、星がここまで輝くなんて思っていなかった。
「ああ、そうだな」
俺たちはその後も時々空を見て星を眺めているのだった。
その夜。
「そんじゃ寝るぞ」
「うん、お休み」
俺は電気を消し布団に入って寝ようとした。そうなんだがな、何かが動いている音がするんだよ。一夏が寝返りをうっているんじゃないかなと思うんだがな。
だが、そんな予想は木っ端微塵に砕け散ったわ。俺の布団に何かが入ってくるのを感じる。な、なんなんだよ一体…………。横目でちらっと見てみると
「一夏…………」
「ごめん…………今日はこうさせて…………夢に出そうで怖いから」
成る程な。トラウマが夢に出るかもしれなくて怖いのか。仕方ないもんな。前話し聞いた時も相当辛そうな顔して話してたし…………俺が代わりに報復でもしてやろうか。
「え…………」
「手を繋いだ方が安心するだろ?」
「うん…………!」
まぁ、こんな時くらいよしとするか。俺は思う、もう絶対泣かせたくない。泣かせるとしても、それは不幸以外の時だけだ、と。
柔らかな月明かりが窓から差し込み、俺たちを優しく照らしていた。
あ、あの一夏のトラウマ掘り起こした奴らだがな、楯無が言うには
『え? あの子達? 自室謹慎一週間とトーナメントの参加権限を剥奪したわよ。これくらいでいいでしょ?』
途轍もなく十分すぎる刑を下していた。流石、生徒の長だぜ…………。
悠助「そういや、作者。確か今、闘蛇龍と蒼龍を立体化しようとしてるんだって?」
まぁね。ほら、俺絵心ないし。
一夏「でも、高校で美術を選択してたよね?」
…………えー、現在ガンプラで建造中です。蒼龍の方は仮組み終わっているので、次話の時に公開します。
一夏「あ、逃避した」
悠助「まぁ、こんな作者だから期待しないで待っててくれよな」