守りたい、ただそれだけ(本編完結)   作:ディニクティス提督(旧紅椿の芽)

22 / 56
第22話

「海だぁっ!!」

 

誰かがそう言った。現在臨海学校開催地である太平洋側のとある海岸へと向かっているバスの車内。学園から約三時間、海が見えていた。七月の照りつけるような日光に照らされたそれは、澄み渡る蒼に輝いていた。

 

「悠助! 海だよ、海! 綺麗だね〜」

 

俺の横では一夏が物凄くはしゃいでいた。まぁ、海をこうやって眺めることができるときなんてそうそうないし、はしゃぐのも無理ないか。そういう俺はどうなんだって聞かれると困る。中東の内戦区に飛ぶ際、必ず日本海やインド洋を通過するから海なんて見慣れているもんだし、下手したら海の上に浮かぶ骸を眺めなければならない時だってあった。だからそんなに過剰に反応することはない。

 

「そうだな。お前も泳ぐんだろ?」

「浮き輪は使うけどね。悠助、一緒に遊ぼうよ」

「わかった、わかった。とりあえず今は落ち着いておけ」

 

一夏のテンションは非常に高かった。こんなのそうそう見れないぜ。というか笑顔が眩しすぎる。太陽光よりも眩しいんじゃないのか?

 

「そろそろ目的地に着く。各員席に座っていろ」

 

織斑千冬がそう言って指揮をとる。こういうのはできんのに戦闘事にはいい指揮出せねえんだよな。それに避難誘導も手に余る教え子の手綱を握ることもできてねえし。なんでできないのだろうか。普通、指揮官ってのはそれくらいできんじゃねえの? まぁ、傭兵の俺にゃ関係ねえけど。

それから数分して目的地に着いた。海の眺めの良い立地に建っている旅館がそうらしい。なかなかにいいところだな。

 

「ここがお世話になる旅館、花月荘だ。従業員の仕事を増やさないように注意しろ、いいな?」

 

織斑千冬の話を終え、俺たちは旅館の中へと入る。って、忘れてた。

 

「山田先生、すみません。俺の部屋ってどうなるんです?」

「あ、紅城君には伝えてませんでしたね。着いてきてください」

 

山田先生に連れられて来た部屋の扉に貼ってあった紙を見て俺は驚いた。いや、だって『教員室』と貼られていたら誰だって驚くだろうよ。

 

「紅城君にはこの部屋を使ってもらいます。私と同室となりますが、大丈夫でしょう」

「いやいや、どこが大丈夫なんですか」

 

全くもって大丈夫じゃないだろ? 特に俺が苦しいわ。一夏なら同室だから慣れているんだが、そうじゃない山田先生が同室となると俺の精神上よろしくないだろ。

 

「大丈夫ですよ。さっそく中に入りましょうか」

 

山田先生が扉を開けると、そこには

 

「あ、悠助。悠助もここなんだ」

「ね? 大丈夫でしょう?」

 

一夏がいた。すでに荷物を運び入れたようで、窓側にある椅子に座ってくつろいでいた。

 

「すみません。織斑先生が織斑さんの事を考えないで部屋割りをしていたもので…………一応私の部屋に組み入れたのですが、流石に私だけでは力不足と思って、紅城君に応援を頼んだわけです」

 

山田先生はそう言って頭を下げてきた。いやいや、十分力あると思うんだが? というか、一夏の事を考えてのことだったのか…………やはりこの人は誰かの事を第一に考えて動ける人なんだと俺は思った。

 

「山田先生、大丈夫ですよ。それなら仕方ありませんからね」

「そう言ってもらえると嬉しいです。では先生は仕事があるので。二人とも今日は楽しんできてくださいね」

 

山田先生はそう言うと部屋を後にした。どこまでも生徒想いの強い人だ、全く。

 

「さて一夏、俺は海に行こうと思うんだがどうする?」

「もちろん行くよ。準備していくから先に行ってて」

「りょーかい」

 

俺は持ってきた荷物の中からサングラスと海パンを取り出し、更衣室の方へと向かった。

 

 

「あちぃな…………」

 

海パンへと着替えた俺はサングラスをかけて砂浜へ出ていた。いや暑いわ…………中東よりはマシかと思っていたが、今年の夏はやけに暑い。日光もかなり照りつけているしな…………サングラスかけておいてよかったぜ。

 

「悠助〜、お待たせ〜」

 

そう言ってこっちに向かってくるのは一夏。手には浮き輪を持っており、泳ぐ気は満々なようだ。だがな…………その水着は何かとまずい気がするんだわ。面積の小さい、所謂ビキニと呼ばれるタイプの水着なんだが、それによって一夏の雰囲気がなんとなく…………言い方は悪いが色気ムンムンな感じがするんだわ。あかんあかん、いらん煩悩を殺さねえと。

 

「どう? 似合ってるかな?」

 

そう言ってちょっと上目遣いをしてくる一夏。俺の方が身長でけえから自然とそうなるんだろうが、それは反則なんじゃねえかとたまに思う。困る、何かと困る。

 

「ああ、似合ってるぜ」

 

まぁ、似合っていることは確かだからな。一夏には白や蒼のような涼しげな色が似合っているような気がする。てか、なんでも似合うような気がしてきた。

 

「どうする? もう海の方に行っちゃう?」

「まぁ、暑いしな。行くとするか」

 

気温も暑いものだから海の中に入って冷やそう。一夏は浮き輪を装備し先に海へと入った。それに続いて俺も入る。後は一夏の浮き輪についている紐を掴んで、と。

 

「ちょっと沖の方へ行ってみるか? 引っ張っていくぜ」

「うん。じゃ、お願い」

「了解した」

 

泳ぐのはそれなりに得意だからな。できるだけ一夏に水がかから内容に静かに、かつ強く泳いでいく。流石にサメとかそういうのの心配はないが、塩水が目に入るとガチで痛いからな。水っ気を持っていかれるぜ。

 

「わぁ〜、綺麗だね〜」

 

ある程度沖に出た俺は一夏の浮き輪に掴まり休息をとる。浜から大体二百メートルは離れたか?海底までは約二十メートル、潜水するのはギリギリってところだな。まぁ、潜らんけど。

それにしても静かな海だ。波の音と海鳥の鳴き声がより一層のどかな感じにさせてくれる。久しく感じていなかったな、そういや。銃声、爆音、断末魔…………並大抵の人なら失神可能な音を聞き慣れている俺にとって、こういうのは新鮮に感じられるぜ。

 

「そろそろ戻るか?」

「そうだね。いい気分にもなったし」

「そうか」

 

俺は再び一夏を牽引していく。浜に戻るまでそんなに時間はかからなかった。てか、水温いな。やっぱ今年の夏は異様に暑いんじゃねえの?

 

「うーい、浜に到着」

「ははは、悠助って泳ぐの速いんだね」

「そうか? 俺としては普通な気がするんだがな」

「悠助の基準ってどのくらい——わひゃあっ!?」

「一夏!?」

 

浜に着いて談笑している時だった。突然の大波が一夏を襲った。想定外のことに俺も驚いたわ。

 

「い、一夏、大丈夫か?」

「うぅ〜、ちょっと目が痛いかも…………」

「とりあえず一回上がるぞ」

 

俺は一夏の手を引いて浜へ上陸する。

 

「何があったのよ、あんたら…………」

「鈴、すまんがタオルを貸してくれ。一夏が波をもろに被った」

「ハイハイ、わかったわよ。ほら一夏、こっち向きなさい」

 

丁度木陰でくつろいでいた鈴を見つけタオルを借りることにした。というか、鈴が一夏の顔を拭き始めた。なんだこりゃ、鈴が一夏の母親みたいに見えてきたぜ。

 

「はい、これで大丈夫よ」

「ありがとう、鈴。ふぅー、痛かった」

「海水はマジでしみるからな」

「というかあんたらのせいでただでさえ暑いのにさらに気温が上がったわよ…………」

「どういう意味だ?」

「わからないんかい…………」

 

鈴になんだか呆れられてしまった。どういうことだよ全く…………意味がわからねえぜ。

 

「あら、お二人共、こちらにいらしたのですか」

「気温が高い理由がわかったよ…………」

「…………あと、甘い香りが」

「む? どうしたシャルロット、簪? 気温はさっきとも変わらず、甘い香りなどせんぞ」

 

そんなこんなしているうちになんだかいつものメンツが揃い始めた。というか、なんでこんなに揃うんだろうな。

 

「この面々も相変わらずのようですね」

「まぁ、そうそう変わるもんでもねえだろ」

「それもそうよね。変わったら怖いけど」

「…………一夏、後でグラビア撮影を」

「しないからね!? 絶対しないよ!!」

「売れると思ったんだけどね」

「日本の夏とはなんとも楽しいものだな」

 

その後昼飯の時間までこうやって駄弁って時間を潰していたのだった。

 

 

 

 

 

夜。悠助がお風呂へと行った後、私と山田先生は割り当てられた部屋にいた。

 

「山田先生はこんな時間まで仕事ですか?」

「そうですね。でももう少しで終わりますから、心配しなくて大丈夫です」

 

とはいうものの、なんだかね、書類が多いように思えるんだよ。多分、千冬姉さんが山田先生にこういう類の仕事を押し付けているからなんだと思う。千冬姉さん、こういうの苦手だし…………そう考えてしまったら、身内が迷惑をかけていてなんだか申し訳ない気持ちになってしまった。

とりあえず、お茶でも準備しておこ。

 

「やっと終わりました」

「お疲れ様です。お茶でもどうぞ」

「あら、ありがとうございます」

 

仕事が終わって背伸びをしている山田先生に私はお茶を差し出す。山田先生はそれを受け取って軽くすすった。よっぽど疲れていたんだろうなぁ…………。

 

「肩でも揉みましょうか? なんだか凝っているようですよ?」

「そこまでじゃないですよ…………と言ってしまえば嘘になりそうですね。すみませんが、お願いしてもいいですか?」

「もちろん、いいですよ」

 

言い出したのは私だからね。断っちゃったらダメでしょ? さっそく私は山田先生の肩を揉むことにした。

 

「織斑さん、中々力あるんですね。あ、少し下の方をお願いします」

「悠助と比べたらそこまで強くありませんよ。この辺ですか?」

「その辺ですね。あぁ〜、気持ちいいです」

 

山田先生の肩を揉み始めて数分、口からは気の抜けたような声が出ていた。ど、どれだけ疲れが溜まっていたんですか? 明らかに過剰労働じゃないんですか? そう不安に思ってしまう私がいた。

 

「そういえば、織斑さんって紅城君とよく一緒にいますよね。二人ってとても仲がいいですよね」

「ふぇっ!? い、いきなり何を言うんですか、山田先生!!」

「ちょっと気になっただけですよ〜。さっきも紅城君の事、口から出ていましたよ?」

 

顔が熱くなっていくのがわかる。どうして私ってこう弄られる運命にあるんだろう?

 

「そ、そうですか?」

「はい。あ、今度は首の付け根近くをお願いします」

「わかりました」

 

平常を装ってはいるけど、突然悠助とのことを言われたら心臓が急に強く鼓動を打ち始めちゃったよ…………。

 

「あ、もしかして織斑さん、紅城君の事が好きなんですか?」

「はにゃあぁぁぁっ!?」

 

山田先生が唐突に言った言葉により、私の脳は完全にショートした。い、いきなりそんな事を言われちゃったら誰だって驚きますよ…………というか、爆弾にもほどがありますって。

 

「あ、あの、大丈夫ですか?」

「だ、大丈夫ですぅ…………」

 

なんとか復帰した私は再び肩を揉む。は、はぁ、びっくりしたぁ…………山田先生ってそういう事言う人なんですね。私はちょっと山田先生への理解を改めることにした。

 

「織斑さんって可愛い反応するんですね。なんだか弄り甲斐があります」

「山田先生!?」

「冗談です。これ以上はするつもりもありませんから」

 

いや、これ以上されたら確実に私が壊れそうなきがするんですが…………。なんだろう、いつかの簪を思い出した。あの時は本気でいじめられるかと思った…………あ、昔の事思い出しちゃいそう。いけないいけない、忘れよ。

 

「織斑さん」

「はい?」

「私は織斑さんの味方ですからね」

 

その言葉はなんとも温もりに溢れたものだったか、私にとってはとても心強い言葉だった。それからしばらく私は山田先生の肩を揉み続けていたのだった。

 

 

 

 

 

「はぁ〜、露天風呂とか最高だな、こりゃ」

 

俺は一人露天風呂を堪能していた。いやー、それにしても広いもんだな、この風呂。ここまで広い風呂は入った事ねえや。月明かりに照らされ、辺りからは虫の鳴き声が聞こえてくる。極楽湯ってのはこういうことを言うんじゃないのか?

 

(それにしても、なんなんだこの胸騒ぎは…………)

 

そんな風に気分を良くしている中、俺は胸騒ぎがしてやまなかった。以前もあったが、今回はそれよりもずっとどこか引っかかるもんだ。何が起きるんだ? 多分、前回よりもやばいことが起こるのかもしれん。それで一夏が傷つくことだってあるかもしれねえ。そんなことは俺が許せん。だが、俺の手だけで守りきれるのか、と問われたらなんとも答えにくい。もしそんな状況に発展するのだとしたら

 

「命、捨てなんねえのかもしんねえな…………」

 

そう呟いた。その呟きは風と漣の音にかき消されていった。

 

 

 

 

 

「どうやらまだ目覚めないようですね…………」

「そうみてえだな。どいつもこいつも引っ込みやがって」

 

とある空間の中、二人の女性が会話をしていた。一人は一夏によく似た姿をしており、改造された巫女服のようなものを着ている。もう一人は黒の短髪に眼帯、頭には謎の突起物を装備し、帯刀している。

 

「仕方ありません。彼女たちがまだ目覚める時ではないと思っているだけですから」

「発現したのが一番早いお前に言われると妙に納得するな…………」

「けれども、彼女だけはまだ目覚める気配すら見せていませんね…………」

「仕方ねえんじゃねえの? だってあいつ、相当な頑固者だったはずだぜ? 目覚めるにはかなりの時間が必要か、もしくは起爆剤が必要だ」

 

そう短髪の女性が目を向けた先には、何かを隠しているような、そんな雰囲気を漂わせている空間が存在していた。

 

「確か、起源にして頂天…………でしたっけ?」

「ああ。その気になれば世界の頂点にすら立てるさ、きっと」

「そうかもしれません…………」

 

二人が目を向けたその先には、ある文字が振られていた。だが、それはおおよそ文字というものではなく、何かの記号のようなものであった。かろうじて一部は読み取れるも、それが何を意味しているのかは全くもってわからない。

 

「いずれ会えるだろう、俺たちの頂天に立つ、最強を具現化した奴がさ」

 

短髪の女性がそう言うと、二人は何処かへと消えてしまった。彼女たちがどこへ向かったのか、知るものは誰一人としていない。

 

 

 

 

 

「よし、やっと完成だ…………長い道のりだった、諸君。ファイルス中尉、調子はどうだ?」

『最高よ。まだちょっとワガママなところもあるけど』

「ですが、その期間に見合うものを開発することはできたと思います」

『その通りね。早くこの子とあの空を飛び回りたいわ』

「よし、後は明日の稼働試験に成功することだけを祈ろうではないか」

「そうですね。では、今日のところは解散としましょう。中尉、一旦機体を解除して下さい」

『了解よ——って、解除不能!? ちょ、な、何よこれ!?』

「ーーーーが動いているだと!? ファイルス中尉は何かの操作をしたか!?」

『な、何もしてないわ!! そ、それよりも私の制御を受け付けないの!!』

「班長!! こちらからの停止信号コードを受け付けません!! ーーーーは完全に何者かに乗っ取られています!!」

『エラーが表示されているわ! 避けて! この子がそっちに突っ込む!!』

「ヒエェェェッ!!」

「クソッ!! 何が起きているんだ…………軍に要請を!! 奴の暴走を止めなければ、重大な被害が出てもおかしくはないんだからな!!」

「了解しました!!」

 

数十分後、アメリカ軍オアフ島真珠湾基地所属第十三特務機動隊は擬似コア搭載型IS[クーガー]八機を引き連れ追撃を行ったが、大破二機、中破一機、小破五機の被害甚大により撤退を余儀なくされたのだった。彼らが語るに、『銀色の翼から光の矢が放たれた。そう思った瞬間には海面に叩きつけられていた』とのことだ。

追撃を逃れた機体は操縦者、ナターシャ・ファイルス中尉を乗せたまま制御下を離れ、西へと向かっていた。そのルート上には、日本が存在していた。

 

 

 

 

 

「よしじゃあ、くーちゃん、お願い」

「了解しました、束様。機関出力最大、出航します」

 

とある南太平洋上の島。そこから一隻の船が出ていた。だが、それは現代において見ることの少なくなった艦種の一つであった。その艦の操舵を任されているクロエは針路を北へと向けていた。

 

「物資の積み込みは完了していますよね? あれの積み込みは覚えていますが」

「だいじょーぶ、全部格納庫に仕舞ってあるよ。じゃ、後は任せたねー」

 

束はそう言うと椅子にもたれかかり眠った。実に百八十五時間四十七分振りの睡眠である。

 

「任されました。針路そのまま、各兵装、第二種警戒態勢を取りなさい」

 

クロエのその一言により艦のあちこちに装備されている兵装が待機(スリープ)から起動(アクティブ)へと移り変わる。

名も明かされぬ艦は七十ノットの速さで日本のある海岸を目指す。その航跡は月明かりに照らされていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。