守りたい、ただそれだけ(本編完結) 作:ディニクティス提督(旧紅椿の芽)
臨海学校二日目。本日はISの非限定空間使用の訓練が行われる。訓練機にも拡張パッケージと呼ばれる機能があり、パッケージ換装を行うことで多岐にわたる仕様へ変更することが可能だ。代表的なのは打鉄の砲撃戦仕様パッケージや防御特化パッケージ、軍用で見ていけばアメリカのクーガーが使用する狙撃戦パッケージや近接戦用パッケージ、電子戦用パッケージ。他にもいろいろあるが、数え切れんからな。メーカーさんがどんどん規格にあったパッケージを開発しているしよ。ちなみに本日使用するのは打鉄とラファール・リヴァイヴのパッケージだ。打鉄は高機動パッケージ、リヴァイヴはクアッド・ファランクスと呼ばれる拠点防衛用パッケージ。って、なんというもんを持ち出しているんだよ。クアッド・ファランクスって25mm七連装ガトリングガンを四門搭載した気の狂ってる兵器だろ。とは思っているが、30mmや60mmのガトリングを使ってる俺がいた事を完全に忘れてた。
というのが一般生徒達が行う実習内容だ。俺たち専用機持ちはそこから離れた岩壁に覆われているエリアでの実習だ。ちなみに指揮は織斑千冬。不安しか残らねえ。
「さて、それでは実稼働試験を行う。各員、支給されたパッケージへと換装せよ」
と、号令をかけられ作業に移るのかと思いきや、鈴が挙手をし発言した。
「先生、篠ノ之は専用機持ちではないはずですが…………」
そう、モップの奴がここにいるわけだ。全くもってわけがわからん。専用機持ちしか集められてないはずなのにこいつがいる。
「それについてだが——」
「イィィィィィヤッホォォォォッ!!」
織斑千冬が何か言おうとした瞬間、聞きなれた声の叫び…………それもめっちゃくちゃハイテンションな叫びが響き渡った。こ、この声って、もしや
「はろはろー、みんなのアイドル、篠ノ之束、ただいま参上!」
「「た、束さん!?」」
そう、ありとあらゆるところで問題を引き起こしかねない、世界の生み出した歩く災厄製造機、そして世界の平和と宇宙への希望を持つ、俺最大の依頼主、篠ノ之束だった。
「とりあえず、いっちゃぁぁぁぁん!!」
「わぷっ!!」
「会いたかったよぉ〜、また大きくなったんじゃない? 束さんはとっても嬉しいよ〜」
「ちょ、束さん、一夏が窒息しかけてるぜ…………」
「およ?」
「きゅう〜…………し、死んじゃいますって…………」
「あはは、ごめんね〜。束さん、ついテンション上がっちゃってた、テヘペロ」
いや、ついで済むのかよ。というか胸に顔を埋められて窒息とか…………なんか悲しいな。鈴や簪は自分の胸を見てテンション下がっとるし…………なんなんこれ?
「し、篠ノ之束って…………あの天才科学者よね?」
「そ、そうですが…………なんというか」
「こう…………なんと言ったらいいか」
「形容しがたいな…………」
「ぶっ飛んでるだけ、じゃなくて?」
「「「「簪がハキハキと喋ったぁ!?」」」」
こっちもこっちでなんだかカオスなことになっているなー。というか、簪ってハキハキと喋れたんだ。声がちっちゃくなかなか聞き取りにくくて大変だからまともに喋ってほしいと俺は思う。てか、喋れ。
「…………姉さん、頼んでおいたものは?」
そんなカオスの中にモップの奴は束さんに話しかけた。すると周りの空気が一段階冷えたような気がする。何が起きてるのか、そんな事はどうでもいいだろう。単に束さんの纏う空気が変わっただけだからな。あれは…………拒否する感じのやつだったかな?
「箒ちゃん、私が約束破ったことあるかな? ほら、これだよ〜」
そう言って束さんはモップに向けて何かを投げた。それは日光に反射して紅く輝いている。だが、RATナンバーの特徴であるカケラではない。とすると、新型機か?
「これは…………」
「展開装甲有用性実証試験機。正確には展開装甲装備型高機動近接格闘第四世代機。その名も紅椿」
展開装甲ってなんだ? まずそこから疑問が湧いてくる。束さんもまたなんかやばいものをこさえたんじゃないだろうな? というか絶対してそうだな。
「これが私の専用機…………」
「データは最新のものをインストールしてるから問題ないよ」
「ありがとうございます、姉さん」
モップは感謝の言葉を述べてはいるが、そこに誠意というものは存在していないように思える。束さんもなんとなく突き放すような感じでいるようだ。
「お、織斑先生!! た、大変です!!」
そんな中、山田先生が大焦りでこちらへと走ってきた。その手にはなんらかの端末が握られており、何かまずい情報でもきたのだろう。
それと同時に昨日から続く胸騒ぎが一段と大きくなった。今までとは比較にならない、それこそ重大な問題が発生する可能性がある。
「山田先生、どうかしましたか?」
「こ、これを見てください!!」
「特務任務…………現時刻より対策を進められたし…………」
「じ、実は昨夜オアフ島で起動実験中の機体が…………」
「…………山田先生、生徒たちに聞こえるぞ」
俺がかろうじて聞き取ることができたのはそこまでだ。後はハンドシグナルに手話を織り交ぜた方法で情報のやり取りをしている。流石にこれは理解することができん。俺の不安はより一層強まるのだった。
「了解した。山田先生は生徒達に屋内待機を指示、専用機持ちは私の後についてこい」
織斑千冬に連れられ、俺たちは大広間に機材を運び込んだ臨時作戦室へと向かった。
臨時作戦室へと着いた俺たちは既にISスーツへと着替えており、すぐにでも作戦行動が可能な状態にあった。というか、俺だけ異様に目立つな。他がノーマルなスーツに対し、俺はガチの戦闘装備。違和感しかねえよ。ヘッドギアも装備済みだし。
「状況を説明する。昨夜、オアフ島真珠湾基地で起動実験にあったアメリカ・イスラエル共同開発の試作IS、[
状況は最悪と言っても過言じゃねえな。ISの暴走。そうそう滅多にあることじゃないが、ないわけじゃない。制御不能に陥ることだって多々ある。このの世界に完全制御が可能な兵器なんぞ存在していないさ。挙句、使用コアはオリジナルだろう。擬似コアと違って希少な存在。破壊する事は本当の意味での最終手段だ。
「正確な機体情報の開示を求めます。対象の情報がなければ作戦展開も不可能でしょう」
「そうだな。しかし、決して口外するな。二カ国間の最重要機密であることに間違いはない。口外すれば査問委員会からの監視が最低でも二年はつくだろう」
「覚悟の上ですわ」
セシリアが陣頭に立ってそういう。そこにあるのは貴族の義務、ノブレスオブリージュというものだろう。だがな、こんな緊急事態に査問委員会がどうのこうの言っていられる場合かよ。てか、この対処に俺らが当たるのだっておかしい。普通国際IS委員会がその任に当たるはずだろ? 確かに機密って事もあるだろうが、それよりもこの事故によって人命が失われることの方が重大な問題だ。お抱えの私兵部隊がいるんだからよ、こういう時こそ有効に活用するべきだろうよ。
まぁ、今そんなことを言っても状況が変わるわけでもねえ。展開されたディスプレイには福音の詳細な情報が公開される。
「広域殲滅戦用IS…………オールレンジ攻撃が可能ですわね。その範囲はビット兵器の何倍も広いですから、火力制圧は不可能です」
「全三十六門の特殊エネルギー砲…………厄介にもほとがあるわよ。この正面火力のせいでで追加の衝撃砲も柔な玩具にしか見えないわ」
「この火力じゃリヴァイヴのシールドでも防ぎようがないね…………防御特化パッケージがあるけど、それでギリギリなんとかって感じかな」
「…………それよりも、このマルチスラスターが厄介。速力じゃ緋龍と同等、機動性は上…………ついていくのが精一杯かもしれない」
「第一に格闘性能が未知数だ。下手に接近してやられたらそれこそ一巻の終わりだろう」
代表候補生達はデータを見ながら最適な戦略を練っていくも、どれもこれも確実性が低く、二次災害を引き起こす可能性があった。
正直、俺もこの作戦は失敗する可能性が高いと思っている。全員が無事で帰還することができるなど不可能だ。誰かは怪我をするだろうよ。
「偵察は行えないのですか?」
「無理だ。奴は現在時速2450キロの超音速で飛行中だ。接敵できるチャンスは一度だけだろう」
「なら僕の出番だね」
そう言ってきたのは自称天才。確かに奴の持っている白式には対IS戦闘において最強の装備、零落白夜が装備されている。だがな、下手すりゃ操縦者が乗っている可能性があるしな…………零落白夜はエネルギーを無に帰す、絶対防御を貫通可能で操縦者を殺すことだって可能だ。できれば人命が失われない結果で終わりたい。そこに俺の命は含まれてないが。
「零落白夜による一撃必殺、これなら問題ないだろう」
「だが、移動はどうするつもりだ? この中で奴の速度に追いつける者は簪しかいないが…………」
「その点なら心配ないよ。箒に渡された紅椿のデータを見た。あれに使われている展開装甲を速度強化に回せば奴の速度を超えられるさ」
「最大速度は?」
「3000キロだね」
織斑千冬はなにやら考え込むような素振りをする。だが、俺としてはこの作戦には穴しかねえ。一撃必殺と言っているが、それは裏を返すと一撃で決められなかった場合を考慮していないということだろう。
「わかった。この作戦は織斑、篠ノ之両名による強襲作戦とする」
は? 何考えてんだこいつは? 確かにぶっ潰すことだけを考えればこの上ない作戦だろうが、その穴を最大限埋めなければ、単なるバカの思いつきにしかすぎねえぞ。それをわかっているんだろうか。
「その作戦はストップだね〜」
どこか間延びした口調で束さんが臨時作戦室に乱入してきた。いや、どこから来たんだこの人は。
「何故だ、束?」
「あのねー、射撃支援もなしに突っ込むなんて相当気が狂っているよ。近接戦闘機に援護もなしに突っ込ませるのは自殺行為にも等しいね」
「背後から強襲すれば問題ないでしょう?」
「そうやって高を括って死ぬことになっても知らないよ?」
死ぬ、か。俺にとっては身近なものだったからな、それがどんなものなのかわかりはせん。死んだことねえしな。
「ではどうするべきだ?」
「継続戦闘能力が高い闘蛇龍、蒼龍、緋龍の投入だね。どの機体も高機動戦闘可能だし」
「だそうだが? いけるか?」
「問題ねえ。やるだけだ」
「…………同じく」
「や、やれます」
「ならば三名の追加による強襲作戦とする。三十分後には作戦行動が可能な状態にいろ」
「「「「「了解」」」」」
こうして、福音迎撃作戦は発令されたのだった。だが、俺は見逃していない。蒼龍の投入が決まった瞬間、自称天才とモップの口角がわずかにだがつり上がったのが見えた。それが何を意味していたのか、俺にはわからなかった。俺の胸騒ぎはさらに強くなるのだった。
作戦開始五分前。
俺たちは砂浜に出て出撃態勢を取っていた。全ISの展開は終了、いつでも出れる状態だ。
その中で一番目立つのは真紅の装甲が輝く紅椿だろう。さらに装甲の隙間からは濃い桃色のフレームが見えている。おそらくあれが展開装甲なのだろう。俺もよくわからんが。
一方の俺だが、B型ユニットを装備している。高機動戦闘向けではないが、戦場にいち早く飛ぶにはこいつが持ってこいだ。それに、こいつには利点もある。
「一夏、ユニットのロールバーを展開する。それに掴まれ」
僚機を一機までなら運搬することが可能だ。まぁ、使い道なんてそんなになかったし、あまり使われない機能だったから埋もれていたが、こんなところで役に立つとはな。
「うん、わかった」
ロールバーに蒼龍のマニピュレーターが接触する。これで運搬の用意は大丈夫だろう。簪はブースターをアイドリングにしている。緋龍の速度なら追いつくことだって無理ない。てか、あんな高速機動でミサイルやらビームを撒かれたらたまったもんじゃねえ。
『そろそろ作戦開始時刻だ。各員、気を引き締めろ』
緊張が一気に高まる。だけどよ、俺はいつもの通りにやりゃなんとかなるだろ。戦場慣れしてるし。
『作戦開始‼︎』
その言葉を皮切りに自称天才とモップが先行していく。だが、奴らの速度が異常に速すぎる。4000キロ近くは出ているんじゃないのか? そうなると、追いつくのは派手に遅くなる。こっちは最高速度で2300キロが限界なのによ。
「…………あのバカ達!」
「仕方ねえ! 出るぞお前ら!」
「了解!」
俺たちもそれに続くかのように発進する。しかし、なかなか追いつかねえな…………どんだけ速ぇんだよ。
次第に三つの機影が見えてきた。一つは白、一つは赤、一つは銀。おそらく会敵したのはいいが一撃目をミスったのだろう。あ、自称天才とモップが被弾した。
「どれ、俺たちも始めるとするか。簪! ミサイルとキャノンを撃て! 牽制仕掛けろ!」
「…………了解!」
俺たちも迎撃にあたる。まずは簪による牽制だ。あいにくこんな状況下では俺の重火器は殆ど牽制にも何にもならん。B型ユニットも装備を殆ど外しているからな、緋龍による牽制が適切だと判断したまでだ。
福音はそれらを全て避けきるとこちらへと向かってきた。うまく釣れたようだな。
「一夏、前衛はお前に任せる! 簪は遊撃、俺が援護する!」
「了解!」
一夏は福音へとまっすぐ向かう。福音はその機動性を使い距離を取ろうとする。その様子から格闘武器の類はない。奴が使えるのは広域殲滅戦用の特殊兵装だけということだ。だが、距離を取ってもその背後からは簪がビームガンを使って牽制している。福音はそちらの方へと気を取られてしまった。その一瞬を一夏は見逃さない。
「貰ったぁぁぁぁぁっ!!」
展開していたブレードライフルを振り下ろす。が、しかし、
「ちょ、な、何するの!?」
「うるさい!! あれは僕がやるんだ!!」
自称天才が突然福音へと斬りかかり、一夏のタイミングがずれてしまう。それでも背部のマルチスラスターの一部を破壊している。おそらく当たっていればマルチスラスターを片方もぎ取るくらいはできただろう。一方、なんの合図もなく切りかかった自称天才の攻撃は当たることはなかった。って、ダメじゃんかよ。
そんな中、センサーに生体反応が表示された。生体反応は全部で六つ…………って、俺たちは五人しかいないはずだが…………もしかして残り一つは福音か!? よく見りゃ全身装甲タイプじゃなく、人の腕のようなものが露出している。まずいぞ、これは!!
「おい、福音には人が乗っているぞ!! 各員、攻撃する際には注意しろ!!」
「そ、それ本当!?」
「…………最悪の事態」
俺がそう言うと簪と一夏は攻撃の手を一旦止め離脱する。自称天才とモップは当たらない攻撃を何度も繰り返しており、ただエネルギーの浪費にしかなっていない。てか、モップの奴、あの機体を扱いきれてなくね?
さて、問題はどうするかだ。あの機動での戦闘をこれを含め二度している。強制的に動かされていると考えると、身体にはすでに相当な負担がかかっているだろう。それこそ、下手すりゃ命にだって関わる。使える兵装としては二つ、腕部マルチランチャーにあるが、当たるかどうか…………この際、運試といくか。
「何か方法はないの!? 早くしないと中の人が!!」
「あるがな…………当たる補償も何もない。それでもやってみるか?」
「不可能じゃなければやる価値はあるよ!!」
「…………希望があるだけマシ」
やる気みたいだな。だとしたらやるしかないか。
「じゃあ、やるか。簪は奴を俺の近くまで誘導。一夏はその後、福音の首にあるパネルを開いてグリップを引いてくれ。その間、なんとか俺が固定する」
「…………あいつらは?」
「蹴飛ばせ」
「…………任された」
簪はそう言うとブースターを全開にし、福音目掛けて飛んでいく。その道中、完全に二名を跳ね飛ばしていたが…………突進力パネエ。簪は福音に向かってアームマシンキャノンを放つ。低威力のビームが幾多も放たれるが、福音はそれを交わしながら簪へと迫る。そして彼女の進行方向には俺がいる。俺はマルチランチャーの中身を切り替えていた。
——アレストワイヤー。
拘束、牽引、吊、固定…………多岐にわたる用途をこなせる便利な武装だ。その先端には強力な電磁石が付いており、並大抵のことじゃまず外れることはない。ワイヤーの剛性もイージス艦を引っ張ることが可能なほど強固だ。
「…………悠助! うまく引っかかったみたい!」
「そのまま突っ込んでこい!! 後はこっちでなんとかする!!」
福音との距離はもうほとんどない。簪が俺の頭上を通り過ぎた瞬間、
「ワイヤー射出!!」
両腕からレールガン並の速度で放たれたアレストワイヤーが福音へと取り付いた。その衝撃に引っ張られ、逆立ちのような体勢になるがこの際関係ない。
ワイヤーが取り付いたことで福音の速度は低下するが、それでも圧倒的な出力でもがこうとしている。ワイヤーが軋む音を立てるが、この程度で断裂するほどヤワじゃねえ。
「じたばたと暴れんじゃねえよ!! これでも食らいやがれ、オラァッ!!」
両腕に一門ずつ残されたマルチランチャーからトリモチ、硬化ベークライト、凝固ゲルを込めたグレネードを放つ。福音の銀色の装甲に白や赤、紫の物体が取り付いていく。しかも関節にはまったそれらは固まり始め、身体の動きを奪っていく。
そんな中、無事にそれらを逃れたマルチスラスターが形状を変化させ、砲口をのぞかせる。そういや、こいつ攻撃も何もしてこなかったな…………。
「させないよ!!」
一夏はビームサーベルを短刀状態で抜き放ち、マルチスラスターを両方とも切り落とす。すげえ熱量だな、ありゃ。装甲の一部が溶けているぜ。
「これでぇっ!!」
そして、首の所にあるパネルを開いてその中にある小さなグリップを引いた。その瞬間、福音の装甲のラインをなぞるかのように光が走る。直後、福音は量子へと還元され操縦者が姿を現した。って、空中じゃやべえ‼︎
「…………セーフ」
と思ったが杞憂にすんだ。簪が受け止めてくれたからな。現在の高度は三百メートル。落ちたら最後サメの餌だぜ。
「でも、どうして突然福音が解除されたの?」
「ああ、あるシステムを思い出してな」
「あるシステム?」
「
現在、ほとんどの機体に強制剥離システムは搭載されている。緊急時の対応にこいつがあるとないとでは大きく違うからな。ただ、起動モジュールが首の付け根や、額のバイザーなどどこにセットされているかは機種による。それに、モジュール自体小さいから目に止まらんのよ。今回すぐに見つけられたのは奇跡だぜ。あと、アメリカ仕様で首の付け根にあったことか。
「とりあえず、帰投するか」
「そうだね——っ!?」
「貴様ぁっ!!」
帰投しようとした瞬間だった。モップの奴が一夏に切りかかってきた。
「簪! 先にそいつを連れて旅館へ戻れ!」
「…………け、けど」
「そいつの容態がどうなのかわからんのだぞ!! はよ行け!!」
先に傷病者を抱えている簪を帰投させる。こんな状態で戦闘なんざ起こしたら、二次災害が起きてもおかしくねえ。
というか、何のつもりなんだ、こいつは!!
「何のつもりなの、篠ノ之さん!!」
「貴様さえいなければ、春十は負けることなどなかった!! 貴様がいたから春十は!! だから、ここで死ねぇっ!!」
「きゃあっ!?」
ビームサーベルを弾き飛ばされ、蹴りを叩き込まれ、体勢を大きく崩す一夏。武装は何も持っておらず、丸腰もいいところだ。直ぐに援護に行かなければ!!
「こいつでぇっ!!」
俺が接近する前に、モップの奴は背部から二基のビットを飛ばす。それらはまるでカニのハサミのように展開し、一夏の両腕を掴んで固定した。モップは両手に刀を構え突っ込んでいく。あのままでは、一夏がやべえ!!
「させるかよ!!」
「ぎゃあっ!?」
俺はバスターソードを展開、フルスイングして叩きつける。その衝撃でモップの奴は海面まで一気に落ちていった。
「ゆ、悠助…………」
「待ってろ、今助ける!」
俺は空いてる手にアサルトライフルを装備、ビットを的確に撃ち抜く。ビットによる拘束を逃れ自由になって一安心する一夏。だが
「死ねよ、出来損ないがぁぁぁぁぁっ‼︎」
俺の後ろから自称天才がロングブレードを構えて突っ込んできていた。一夏はそれに気が付いているのだが、
「や、やめて…………こ、こないで…………」
記憶の錯乱でも起こしているのだろうか。状況判断ができていない。おまけに俺もさっき福音を強制的に押さえつけていた反動からか、身体がまともに言うことをきかん。なら、仕方ねえ。
「一夏ぁっ!!」
「な、なに——きゃあっ!?」
俺は一夏を渾身の力で突き飛ばした。その直後だった。
「あ"あ"あ"あ"ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
俺の腹をブレードが貫いたのは。
「ゆう、すけ…………?」
俺の目の前には呆然としている一夏。
「ちっ…………邪魔が入ったか」
後方からは何やら撤退の様子を取る自称天才。
「ごぶっ!!」
喉の奥から血が逆流してくるものだから、口から吐いてしまう。腹を見りゃそこそこの刺し傷ができていた。これ、背中から貫通してるよな…………ははっ、笑えねえぜ。
「悠助っ!!」
一夏が我を取り戻したようだ。全く…………何をあたふためいていやがるんだ…………。
「悠助! しっかりして!! ねぇ!?」
「悪りぃな…………ちと、ヘマしちまったみてえだぜ…………」
こればっかりは俺のミスだからな…………だらしねえ奴だ、俺も。
「ごめんね…………彼処で私が過去なんか思い出しちゃったから…………私が迷惑をかけちゃったからこんな事に…………」
「なーに言ってやがる…………この世に迷惑をかけずに生きていられる人間なんているかっつの…………そりゃ、お前は気弱で引っ込み思案で、たまにドジったり、面倒なやつだったけどよ…………お前はすげえ奴だ。誰よりも努力する力、そいつはお前だけが持つ特別なもんさ…………それに、お前はもう一人じゃねえ…………頼れる仲間がたくさんできただろう? そいつらと一緒に頑張って、努力して、幸せってモンを掴み取れよ…………」
「悠助っ…………」
おいおい、泣いてんじゃねえよ…………可愛い顔が台無しじゃねえか。なんとか動かせる右手の装甲を解除、指でその涙を拭ってやる。
「え…………」
「泣くなバカ…………お前は泣いてるより、笑顔でいてくれた方がいい…………本当の幸せの中で笑うお前を見てて俺は嬉しかったぜ…………お前に会えてよかっ…………た…………」
「悠助…………? 悠助っ!! ねぇ!? 目を覚ましてよ!! 私を置いていかないで!! ねぇ…ば……し…………け……………………」
一夏が叫ぶ声を聞きながら、俺の意識はどこかへ沈んでいくかのように薄れていった。どこに行くつくかはわからない。だが、一夏を守れた…………それだけで俺は十分なのかもな。守りたい、ただそれだけの思いだったしよ…………。
——アイツノ盾ニナレタ…………私ハソレデ十分サ…………——
どこからか聞こえた声は俺の心に染み入ることはなかった。
一夏…………幸せにな。それと…………ありがとう…………俺に、戦い以外の喜びを教えてくれて…………。
俺の意識は暗い底へと落ちたのだった。
「悠助! 悠助! 返事してよ! ねぇ! 目を覚ましてってば!!」
突然の事に私は慌てていた。いや、そんなんじゃ言い表せない。だって…………悠助が…………悠助が…………目を開けてくれないんだもん。私を一人置いて行っちゃうの…………? そんなの嫌だよぉ…………一人にしないでよぉ…………。涙が止まらない。力無く悠助の腕は垂れ下がり、お腹からは血が流れ出ていた。黒を基調とした装甲を赤く染め、蒼龍の白い装甲すら赤くしている。私は悠助が海に落ちないように支えているけど、重すぎて支えきれていない。高度がどんどん下に下がっている。
「クソッ! 間に合わなかったか!!」
そんな時、誰かが悠助の身体を一緒に支えてくれた。この声って
「もしかしてオータムさんですか!?」
「ああ! 妙な胸騒ぎがするからこっちに来てみたものの、まさかこんな事になっているとは…………間に合わなかった」
「そ、そんな…………それじゃ悠助は…………」
私の頭の中に一つの嫌な言葉が流れる。どうしても否定したい事実だけど、この状態を見てしまったら嫌でも否定できなくなっちゃう…………そう思っただけで、とても気持ち悪くなったし、涙が再び溢れ出そうになった。
「いや、まだこいつは生きてる! ダメージを受けてるのは内臓、肝臓と大腸の一部だ。すぐに治療すりゃ治るぞ!!」
それを聞いた私は躊躇いなくあるところへと通信を繋げた。
「束さん! すぐに活性化治療と手術の準備をしてください!」
『い、いっちゃん? な、何があった——』
「いいから早く!!」
『い、イエス・マム!!』
束さんならなんとかしてくれる、私はそう思っていた。だって束さんが前に言っていた、束さんに不可能はないって…………私はその言葉に希望を託した。
「急げ! 出血が酷すぎる! この状態じゃどれくらい持つかわからねえぞ!」
「急ぎましょう‼︎ 悠助をお願いします‼︎」
「俺に任せな!」
目の前を飛ぶ白い機体を追いかけ、旅館を目指す。悠助…………あと少しだから頑張って!!