守りたい、ただそれだけ(本編完結) 作:ディニクティス提督(旧紅椿の芽)
「イィィィヤッホォォォォッ!!」
「ギャアァァァッ!! う、腕が、腕がぁぁぁぁぁっ!!」
「いいねぇ、その断末魔。痺れるねぇ、もっと聞かせろよな‼︎」
「あ、ちょ、やめ——」
「あばよー、名も無き構成員」
…………何やってんだろ、あいつ。めちゃくちゃテンション上がってんじゃねえかよ。てか、ロングブレードで両腕切り飛ばした後に36mm弾を叩き込んでるし…………どんだけエグいんだよ、オータム。
ちなみに俺たちは現在、ヨーロッパのある国のはずれに来ている。人気はない。あるのは樹木か野生動物くらいか。なんでそんなところに来ているのかって? …………オータムの依頼で来てんだよ。どうも、前にいた亡国機業の過激派を潰すことが目的だからな、その拠点的なところでも見つけたんだろ。お陰であいつのテンションは上がりっぱなしだ。現在、ロシア製の擬似コアIS、ラマーチを二機撃破中。擬似コア自体、アホみたいに流れ出ているからどのくらいあるのかも知らねえ。何よりラマーチはとにかく安い。そして操作が簡単な上に、どんな環境でもぶっ壊れる気配がねえ機体。ずんぐりむっくりとした機体は内戦地でもよく見かけた。
「死ねぇぇぇぇぇっ!!」
「うるせぇな…………ストレス溜めさせんな」
背後から急襲してきたラマーチの頭部にめがけて、レールライフルを放った。このレールライフル、射撃武器最高クラスの威力を持つ76mm狙撃ライフルよりも強え破壊力を持っている。さっきのラマーチ乗りは頭部が吹き飛んだ状態で、その場に転がった。…………これ、耐性ない奴が見たら泣くわ、確実に。
「おいオータムあと何機いるんだ?」
「俺が知るわけねえだろ。それよりもそのレールライフル、とんでもねえ威力を持ってるな。米軍が試験的に入れたがるわけだぜ」
レールライフルは米軍で現在試験的に運用されている。狙撃ライフルよりも銃身が短けえから取り回しはかなり良い。ただし、電力チャージに一定のインターバルが必要な上、単発射撃しかできないから、俺のレールキャノンの様に連射することなどはできねえ。それを含めても、実用性としては高いから正規採用される可能性もある。
「バレルが開放型じゃなきゃ、銃身で殴れる気もするんだがな」
「それ、銃の使い方じゃねえだろ——人の後ろから来るんじゃねえ!」
オータムは左腕のシースよりナイフを抜刀、後方から攻めてきたラマーチへと投げつけた。うおっ、投げナイフの技能、相変わらず高えな。心臓に一発で命中させやがったぞ。
「楽に逝かせてやるぜ。すぐに終わらせる」
「あぁっ、あ、あぁっ、あ、あ、あ、あっあっ、あっ、あぎゃぁぁぁ——」
痛みにもがき、動き続ける敵に俺はビームサーベルを抜刀、その頭に突き刺す。桃色の刀身が敵に刺さっていく度に、肉の焦げる匂いがしてきやがる。熱量兵器エグいわ。すぐに楽にさせてやれるかと思ったが、逆に苦しむ羽目になったようだな。まぁ、どうせ死ぬんだ。俺には関係のねえことだわな。
「…………なにそれ、ラ○トセ○バー?」
「意外と近いもんだな、それ。まぁ、炭化した焼肉くらいは作れるぞ?」
「ガンマ線やらなんやらで焼かれた肉は御免だぜ」
「それはそうと、付近に熱源反応無し。敵機の殲滅を確認したぞ。これからどうする?」
「拠点は俺一人でやっておくわ。お前は帰っておけよ、愛しの姫君を置いてきてんだろ」
「うるせぇ! しかもこっぱずかしいわ!」
オータムに茶化され、ムキになる俺。以前じゃ自分でも考えられねえ行動をよく取っていると思う。こんな風に感情をむき出しにしてやることなんてそんなになかったしな。
さて、今はそんなことを考えられる余裕なんてねえ。まだ一夏の奴は寝ているとは思うが、それでも今日は早く帰らなければならない。朝から予定がぎっしり詰まっているしな。
「そんじゃ、俺は帰るぜ。早よ帰らねえと外出の約束に遅れる」
「誰と行くんだ?」
「む? 愚問じゃね? 一夏だぞ」
「惚気やがって!」
「お前が言い出したんだろうが…………」
俺はB型ユニットを装備、そのまま上空へと躍りでる。機体が黒龍へと変わった今でも、従来の追加装備が使えるのは嬉しいことだ。…………なんか、一つ余分に追加されてはいるんだが、使う機会がねえんだよ。なんなんだよ、BⅡ型ユニットって…………B型の後継装備なのか?
ひとまずそんな思考は放っておき、俺はブースターを点火、日本の方へと向かった。さて、向こうに着いたら朝の七時くらいになっているんだろうなぁ…………それを考えるとつい腹が減ってくる。一夏は起きているだろうし、予定まで時間もちょっとはあるな。
帰投途中、バードストライクを引き起こしそうになったが、なんとか自宅の方へと帰ってこれた。夏休みの期間へと入ったから、少し里帰り的なもんをしているだけだ。勿論、一夏もこっちに帰ってきている。しかし、夜中に欧州方面へ来いとオータムに言われた上に、そっからとんぼ返りで戻ってきたんだから、体がちとしんどい事になっているわな。
「ただいまー、今帰ったぞー」
「おかえりなさい。朝ごはんの準備はできているから、早く食べよ」
「そうだな。帰ってすぐだが、飯にするわ」
俺が帰った時、すでに飯の準備ができていた。一夏が一人で全部してくれたのだ。本当、家事スキルの高いやつだ。お陰で家事のほとんどができねえ俺がいても、大抵の事は終わっているような状態ができている。
さて、今日の朝飯だが、鯵の干物に玉子焼き、ほうれん草のお浸しとバランスが取れている。ちなみに一夏は鯵が好きらしい。
「それじゃ、頂きます」
「頂きまーす」
とりあえず玉子焼きを一口食う。うむ、やっぱりこの味がいいな。甘すぎず、かと言って塩分っ気はそこまで強くもなく、優しい味だ。なんつうか、お袋の作っていた玉子焼きみてえな味なんだよな…………懐かしい上に昔慣れ親しんだ味だ、俺の舌に合わないはずがない。
「それにしても朝から仕事だったの?」
「正確には夜中の十一時からな。欧州の方まで飛んでいったわ」
「欧州って…………結構遠いね」
「最短ルートで行ったからいいものの、中東以外は久しぶりだったな」
アフリカの内戦国とか、中東の紛争地帯はよく行くことになるが、欧州圏での仕事なんてそんなに来ねえし。越境鉄道脱線事故という名の列車テロの処理に向かった時くらいか?
「途中でバードストライクを引き起こしそうになったしよ…………なんで、あんなガンの群れに会わなきゃならんのだ」
「バードストライク?」
「航空機がエンジンに鳥を吸い込んでエンジンがぶっ壊れるやつ。B型ユニットに吸気口がついてるからそこに吸われかけたやつおったのよ」
「…………なんか、鳥も悠助もついてないね」
「それを言うなよ…………」
まぁ、実際運のないことだから仕方ない。てかオータムのやつ、ちゃんと報酬払ってくれんだろうな? じゃねえとマジで困るんだが…………レールライフルの飛翔体、めちゃくちゃ高いんだぞ。今回は束さんからの支払いじゃねえんだからよ、忘れて欲しくねえんだよな。
さて、そんなこんな考えているうちに飯は食い終わっちまった。今日の飯も美味かったわ。いやー、本当一夏の飯は美味い。俺、こいつと付き合って良かったと、心から思う。
「ごっそさん」
「お粗末様でした。それじゃ、何時頃でかけよっか? 今八時をちょっと過ぎたくらいだから、九時くらい?」
「そのくらいでいいだろ。すまねえな、後片付け任せちまってよ」
「いいよいいよ、これくらい。悠助もお仕事で疲れてるだろうし、少し休んでてよ」
…………なにこの良妻。本当、嫁に欲しいわ。しかしだな、家事のできない俺がなんとなく申し訳なくなってくる。任せっぱなしってのもなんだかな、辛いんよ。なんか、前の時と同じような思いをさせているんじゃないのかって、思ったりしてな。
しかし、あいつが休んでていいと言っている以上、任せてもいいのかもしれない。まぁ、そのうちだ、そのうち手伝えるようになったら、頑張ってみるとするか。
「鍵は閉めたな?」
「もちろんだよ」
「そんじゃ、行くとするか」
「うん!」
ということで、一夏と出かける事になった。今日の行き先は水族館だ。どうも人気のあるところらしくてな、一夏が行ってみたいとか言い出したから、行くかという事になったんだ。てか、俺も久しぶりに行くようなもんだ。最後に行ったのは…………親父たちが死ぬ一年くらい前か。懐かしいもんだ、本当に。確か、そこだったかな?
「そういや、一夏って水族館行ったことないんだっけか?」
「千冬姉さん、そういうところに連れて行ってくれたことないから。それに…………小学一年生より前の記憶、ぼやけていて思い出せないし」
「そうなのか? 小一より前の記憶、無えの?」
「うん。といっても、あまりいい記憶じゃないと思うけどね。そういう悠助は?」
「あるぜ。まぁ、最後に行ったのは親父たちが死ぬ一年くらい前だ」
「…………なんだか、あまりいい思い出なかったね」
「俺たち、似たようなもんだな…………」
何処か悲しい思い出があるって所がな、と俺は付け加える。俺たちには悲しい思い出ってがなにかかにかある。俺は親父たち死んでっし、一夏に至ってはその殆どが虐待などの恐怖だ。それはきっと消えることはねえだろうな。けどな
「けどよ、今日は楽しんで、暗い事は忘れようぜ」
親父たちの死は忘れられねえけど、一夏の記憶にあるそれらはきっと消せるはずなんだよな。さっき言っていることと矛盾してるかもしれんが、それができるのは人間だけなもんだろ。
「うん、そうだね。それが一番だよ」
そう言って頷く一夏の顔は、今日の太陽の眩しさに負けないほど、輝いていた気がする。
「け、結構距離あったな」
「下調べ不足だっかな…………?」
なんとか水族館の方にはついた。けどな…………電車に乗って駅を十五もハシゴしなきゃならんとは想像できなかったわ。てか、俺の住んでるとこ、内陸だったの忘れてたぜ…………。
それはそうとして、夏休みのシーズンとあってか結構に客が並んでいる。凄えな、この行列。何時間待ちだ、おい。
「と、とりあえず並ぼうよ、ね?」
「そうだな。チケットも買わなあかんやろし」
もっとも、券売所までもが行列で埋まっているんだがな。時間かかりそうだ。
「しかし、暑いな…………既に汗かいてるんだが」
「涼しい服着てきて良かった…………」
俺の服装は黒の半袖シャツにジーパンだ。半ズボンとか持ってねえし。
一夏の服装は白と蒼を基調としたワンピース。やっぱ、白と蒼は一夏に似合う色だ。てか、めっちゃ可愛い。…………センスのねえ俺がどんどん泣けてくるぜ。
十五分後…………。
「高校生二名で頼む」
「高校生二名様ですね、かしこまりました。チケットはこちらになります。それでは、ゆっくりとどうぞ」
無事チケットを購入した俺たちはゲートの行列に並んだ。大分、列も短くなってきたからそうそう時間はかからんだろうな。
「お客様、もしやカップルでしょうか?」
並んだ途端、蒼髪が特徴的な係員にそう聞かれる俺ら。そして安定の赤面化する一夏。こういうところがやっぱり可愛いんだよな。
「そ、そうだが」
「でしたら、こちらの通路にお並びください。只今、十周年イベント中でしてカップルの方には優先的に入場していただいているんです」
…………どんなイベントなのか知らんが、なんかラッキーだな。
「そうなのか。そんじゃ、そっちに並ぼうか」
「そうだね。せっかくだもんね」
「わかりました、ではこちらへどうぞ」
係員に案内され、別ルートで入場する俺ら。今日はなんかついているな、本当に。
「それでは、楽しんできてくださいね」
俺たちはその係員にチケットを見せ、入場した。入ると涼しい空気が日光で熱せられた体を冷やしていく。気持ち良いわ、これ。
「じゃ、順路通りに見ていくか」
「最初は、あの大水槽かな?」
大水槽の前に行く俺ら。一夏は吸い付くように見ている。そこには無数の魚達が悠々と泳いでいた。全部は言えねえが、少しくらいならわかるな。
「わぁ〜、凄いね! あの大きな魚、なんていうんだろう?」
一夏が指差したのはサメだ。まぁ、そんなに見る機会のねえ魚だから知らんかもしれんが、あいつを俺は知っている。
「イタチザメ、だな」
イタチザメ。俺はこいつの名前を親父に教えてもらったんだったな。親父、釣りとか好きだったもんな…………。
そんな風に考えていると、俺の目の前に、イタチザメが寄ってきた。なんだ、こいつ。俺をエサだとでも思ってんのか? 丁寧に口をパクパクさせやがって。
「ねぇ、悠助。もしかして、そのサメ、悠助に挨拶でもしてるんじゃないかな?」
「そんなわけあるかよ。そんな五年も前のことを覚えているわけねえだろ」
「もしかすると、の話だよ」
一夏はそう言う。そう言われてみるとそんな風に見えてくる。単なる偶然なのか、それとも…………いや、それはねえだろうな。そんな人間じみたこと、サメがするのかよ。
「それにしても、こんなにたくさんいるんだ。ちょっとびっくりしちゃった」
「一夏、前見てみ」
「何——って、ひゃぁっ!?」
俺の方を向いて話していた一夏が視線を水槽側に向けると、何やら人の顔のような物がそこにあった。言わずとも、エイの腹である。
「はわわわ…………」
「あっはっは、やっぱり驚いたか。そいつはエイだ。お前に挨拶でもしにきたんだろ」
「も、もぅ! 驚かせないでよ」
…………ガキの頃、俺もビビった記憶がある。だが、ちょっと愛嬌のあるやつだがら憎めんな。
「それじゃ、次のところに行こうよ」
「おうよ。次は、深海ゾーンか」
「深海? 海の底の事?」
「水深二百メートルより深いところのことだ」
そう言って次に向かったのは深海ゾーン。深海魚とかの標本とかが展示されている。てか、よくチョウチンアンコウなんてもんの標本を集められたこと。その他にも、いろいろいるな。フウセンウナギなんて初めて見たぞ。
「うわぁ…………なんだが不気味な感じの魚だね」
「深海魚なんてそんなもんだろうよ。てか、ダイオウイカの標本とかでけえな。よく展示する気になったもんだ」
展示ケースがデカイのなんのって。横幅三メートルはあるんじゃねえの? 驚きを隠せんわ。
「あれ? 深海終わっちゃったね」
「みたいだな。次は、北の海エリアのようだぜ」
北の海エリアにはなにやら大小様々な水槽がある。そのうちの一つに、一夏は目を奪われていた。
「わぁ〜、可愛い〜」
クリオネ。流氷の天使とか色々言われている、貝の仲間だ。正確にはハダカカメガイというらしい。
一夏がクリオネに釘付けにされている中、クリオネへの餌やりの時間となった。餌が水槽へと投下され、クリオネの前に落ちた瞬間、頭部らしき部分が八つに分かれ餌を飲み込んだ。美しい容貌とは別の、悪魔のような食い方だ。ちなみにその部位はバッカルコーンと言うらしい。
「…………なんだかイメージが一瞬にして瓦解した気がする」
「クリオネの餌食いはエグいって話があるからな」
どうやら一夏の中でのクリオネのイメージは完全に変わってしまったようだ。まぁ、誰だってそうなるわな。
「次は南の海エリアだね。早く行こっ」
「おいおい、そんなに急がなくても、逃げねえだろって」
俺は一夏に手を引かれながら南の海エリアへと向かった。そこも大小様々な水槽があるが、北の海エリアよりもその数は多い。種類も多いだろうしな。
「綺麗な魚だね」
「変な面構えしている奴らもいるけどな。なんだあの切り立った顔は」
「これ、チンアナゴって言うんだって。砂の中から生えているみたいだよ」
「草みてえに言うなよ」
なかなかに多様な種類がいるな。サンゴも多いしよ。こいつは本当にきた価値があると思えるわ。…………だがな、ウツボとか派手すぎね? なんだよトラウツボって。あれ、クマノミとかよりも派手じゃねえか。
「どれ、お次は何処だ?」
「海獣エリアかな」
ということで、海獣エリアへと向かった。そして、真っ先に一夏の目に飛び込んできたのは
「あ、アザラシだ!」
半舷上陸的な感じで岩の上に乗っかっているアザラシだった。どうもなんだか気だるそうな感じがするな。だが、見ていて和むような気がする。
「あぁ〜、可愛いなぁ〜」
寝っ転がっているアザラシとは反対に、まるで子供のようにはしゃぐ一夏。見ていてとても和む。視線と俺の頬も緩んでしまう。
「ペンギンもいるんだ!」
今度はペンギンに目がいってしまったようだ。本当、楽しいんだな。あんなにはしゃぐ一夏は久しぶりに見たかもしんねえな。一夏が寄るとペンギン達もそれにつられて寄ってくる。どうやらその様子が可愛くて仕方ないのか、一夏はさらにはしゃいでる。
一方の俺はというと、軽い睡魔と闘っていた。実際ほとんど寝てねえから眠気がな。だが、ここで寝るまいと、根性で目を覚まさせる。しかし、気をぬくとまた眠気が…………といった風に意味のないゼロサムゲームが続いていた。
「ねぇ、悠助、次はイルカを見に行こうよ!」
「はいはい、わかったわかった。とりあえず落ち着け、な?」
「はーい」
俺は一夏に引っ張られ、イルカ水槽の方へとむかった。この水槽にはイルカ以外にもシャチもいるらしい。って、シャチがイルカを食わねえか不安になったんだが…………確かシャチって、海の殺し屋の異名があるだろ、おい。
「ね、ねぇ、悠助。あれってどういう事なの…………イルカって仲間の意識強いんだよね?」
「ああ…………だが、あれは明らかに仲間割れだな」
俺たちが水槽の中を見ると、一頭のイルカが他の二頭のイルカに小突かれていた。その一頭は他から逃げるように動いている。なんだあれは…………イルカは仲間意識が強くて、あんな行動はとらねえって話を聞いたんだが…………。
「ちょっと! 何してるの!? やめてあげてよ!!」
『水槽を叩かないでください』と書いてあるにもかかわらず、一夏は水槽のアクリルを叩いて二頭に訴えかけるが、全く聞こえてない様子。まぁ、そうでしょうな。
そんな時、黒い影が俺らの上を通り過ぎた。間違いねえ。あれはシャチだ。シャチは小突かれているイルカと他の二頭の間に割って入った。シャチが入ってきたことで二頭は小突きまわすことをやめて、普通に泳ぎ始めた。シャチはその一頭のそばから離れようとはせず、まるで庇うかのように泳いでいる。どういうことなんだ?
「また、あったのか…………しかし、悠の奴がいて助かったな」
突然そんな声が俺たちの後ろから聞こえてきた。そこには一人の飼育員がいた。
「悠? 悠って、シャチの事ですか?」
「そうだ。あいつがいるからナツの奴もこうして何とか助けてもらってる感じだな」
「しかし、一体どういうことなんだ。イルカ同士があんな事をするのか?」
俺が飼育員に聞くと、少し曇りがちで答えてくれた。
「普通はしないさ。けどな、ここにいる三頭のイルカはそうじゃない。一番大きいオスのイルカがハル、その次に大きいのがメスのフユだ。そして、さっき小突かれていたの一番小さいメスがナツ。こいつらはここで生まれた奴らさ」
「親はどうしたんだ? ここには見当たらないが…………」
「親は他の水族館に移動されたよ。他の水族館との交流との意味合いでな。それからしばらく経ったある日だ、ハルとフユがナツを小突きまわすようになっていたんだ。普通じゃありえない行動だ。俺たちも止めるように努力したが、効果はなし。打つ手はないかと考えていた矢先だ。以前彼らの親を送った所から一頭のオスのシャチが運ばれてきたんだ。そいつの名前は悠。親を病気で失っている不幸な奴だ。悠が水槽に入ってからも、ナツを小突きまわすのは止まらなかった。けど、そんなある日だ。いつものようにナツを小突きまわしていたハルとフユとの間に悠が割って入ったんだ。俺たちは悠の奴が弱ったナツを襲うんじゃないかと危惧したさ。だが結果は違った。悠はナツを庇うように泳ぎ始めたんだ。あとは今の通りさ」
飼育員は水槽の方へと目をやっている。俺たちもそれにつられて水槽へと視線を向けた。そこには仲睦まじく寄り添っているかのように泳いでいるシャチとイルカの姿があった。イルカの方はどこかシャチに懐っこく接していて、シャチもまたそれを普通に受け入れるようにイルカの背中に胸鰭をのせている。
「いつもあんな感じさ。種類こそ違うけど、あの二頭の間にはそれ以上の関係があるのかもしれない。だから俺たちは彼らを引き離すようなことは考えない。あれが彼らの幸せなら尚更だ」
そう言う飼育員の顔はどこか笑っているようにも見えた。種を超えた関係か…………いいものだな。
「なんだかあの二頭、私達に似ているね」
「そうかもな。俺たちによく似ているぜ」
さっきからシャチとイルカの関係を聞いていたら何かに似ているなと思ったが、俺と一夏の関係みたいなもんじゃねえか。通りでなんとなく親近感が湧くはずだ。おまけに名前も俺らから一文字とったようなもんだしな。
「そうなのか? 君達、名前は?」
「俺は紅城悠助だ」
「私は織斑一夏です」
「悠助君に一夏ちゃんか…………あいつらの名前の文字が入っているもんな。そうだ。せっかくだし、餌やりしていかないか? あいつらも喜ぶだろうしな」
飼育員は突然そんな事を言い出す。
「いや、そういうのって勝手にして大丈夫なのか?」
「心配いらないさ。俺がここの館長だからな」
訂正。この人、飼育員じゃなかった。館長だった。俺たち、とんでもない人とエンカウントしたのか? 一夏も驚いているし。
「館長権限でなんとかなる。さ、着いてきな」
俺たちは館長に言われるがまま、その後をついていくことにした。
しばらくすると飼育プールのところへと出た。これだけ広ければシャチでも自由に泳げるか。
「おーい、悠、ナツ!」
館長がそう言うと、いつの間にかシャチの悠とイルカのナツがいた。どっちも遊んでもらいたいのか、忙しく鳴いている。てか、悠ってシャチの割に少し小さいな。それでもイルカよりは大きいがな。
「ほら、これだ。やってみな」
俺は館長からバケツを受け取る。中には五匹ほど大ぶりのアジが入っている。俺はそのうちの一匹を手に取り、シャチの口元へと持っていった。するとすぐにアジは飲み込まれてしまった。早ぇ、食うの早ぇよ。しかも、もっとくれ的な感じの仕草してるし。仕方ねえな、どんどんやるよ。
「お前も守りたい奴がいるのか…………大事にしてやれよ」
届かないかもしれねえが、俺はふとそう言いたくなった。同じく守りたい奴がいるからな。おそらく同じ思いなんだろうさ、こいつも。悠は俺の言葉を理解したのか、頷くような仕草をして軽く鳴く。随分と人間味のあるやつだぜ。
一方の一夏はイルカのナツと戯れていた。一夏も楽しそうだし、ナツの方もなんだか嬉しそうだ。そんな様子を見ていると自然と笑みがこぼれてしまう。悠の奴もそれをじーっと眺めている。
「さて、他の客さんにバレちまうからな。そろそろ終わりだぞ」
「わかった。じゃあな、悠。これからもナツを守れよ」
「またねー。二頭とも仲良くねー」
俺たちがそう別れの言葉を告げると、二頭はそれぞれの胸鰭を振って返してきた。本当、人間よりも人間味のあるやつらだせ。
「いろいろと時間を取らせてしまったな」
「いや、こっちこそ貴重な体験をすることができたぜ」
「あの、お名前聞いてもいいですか?」
「俺? 俺は有澤龍之介、ただの水族館館長だ。ゆっくりと楽しんで行ってくれよ」
その後、館長と別れた俺たちは他のところを見て回った。タッチ水槽で一夏がヒトデを触ったり、アシカのショーを見たりと、結構楽しんだ。
そして現在売店。
「それ買うのか?」
今一夏が手にしているのはイルカのぬいぐるみ。…………ただ、そこそこにでかい。抱き枕としても使えそうなレベルだ。
「まぁね。あのイルカ、可愛かったし、なんだか私にとても似てたからね」
まぁ、それは言えてるな。境遇からなにやらまで本当にそっくりだったし。今頃悠と楽しく泳いでんだろうな、あいつのことだからしっかりと守ってそうだ。
だがな、イルカだけってのもなんかあれじゃね?
「だったら、こいつも買ってやらねえとな。イルカの隣に並べてやれ」
俺もまたイルカと同じサイズのシャチのぬいぐるみを手に取る。正直、こういう類のものを買うのには少し抵抗があるが、一夏の物になるしいいか。
「そうだね。イルカだけじゃ、守ってくれる側がいないもんね」
「そういうこった。いなきゃ少し寂しいんじゃねえの?」
「そうかもしれないね」
俺たちはイルカとシャチのぬいぐるみを買い、水族館を出た。中々に楽しいところだったな。…………親父との思い出も少し出てきたけど、懐かしい感じがした。あと、一番はイルカとシャチの話か。あれを聞いて俺は守る事をさらに意識させられたような気がする。それに、同じ思いを持つ仲間も見つけられたしな。
「悠助」
「なんだ?」
「手、繋いで?」
「ああ、了解した」
俺は一夏と手を繋ぐ。女子特有のやわらかく、華奢な手だ。だからこそ俺はこいつを守らなきゃならねえんだ。そして、側にいる。それが俺にできる最大の事だな。交際している以上、俺はこいつを捨てることなんてできやしねえ。いや、交際してなくてもできねえな。何を言ってるんだか、俺は。
「悠助、今日は楽しかったね」
「そうだな。久々に楽しんだかもな。いい思い出になりそうか?」
「うん!」
一夏はそう言って今日一番の笑顔を見せてくれた。これを見るだけで俺の疲れは吹き飛ぶ。本当、俺、幸せもんじゃねえか。だから、この笑顔が永遠に続くよう、俺は守るさ。
帰路につく俺たちを、夏の夕日が優しく照らしていた。
「ところであの十周年イベントって、何の十周年だったんだろ?」
「無難にオープンとかじゃねえの? もしくはあの館長の結婚記念日とか」
「ヘェェェックショイ! あ"ー…………誰か噂でもしてんのか?」
「それはないと思うよ。それよりも、オープン十周年記念イベントお疲れ様。大盛況だったね」
「ああ、そうだな。それに、いいカップル見つけたぜ。ウチのシャチとイルカみたいな感じの」
「あ、やっぱり。"龍之介"も見つけていたんだ」
「そう言うと"ルリア"、お前もなのか?」
「彼らの入場案内したの、私だよ?」
「そうだったのか。まぁ、今日はゆっくりしようじゃねえか。記念日なんだしよ」
「そうだね。じゃ、水族館のオープン十周年記念と」
「俺たちの結婚十周年を祝って」
「「乾杯」」
ストライク・ファルコン
[イメージデザイン]
頭部:不知火弐型フェイズ3
胴体部:武御雷
腕部:不知火弐型フェイズ3
脚部:武御雷
所属:無し(元米軍)
操縦者:オータム(アーミア・カリウス)
アメリカ・プロミネンス社で開発されていた第二・五世代機。第三世代機の開発が福音計画で固定され、米軍はその随伴機として本機を採用した。機体色には白を使用している。これは福音が銀白色の装甲をしているものと同じで、太陽光を受けそれを反射させ、敵に視覚的ダメージを与えるためのものと言われているが、効果のほどは定かではない。
試験運用を控えた機体は六月に試験一号機がカリフォルニア基地に搬入されていたが、夜間何者かに強奪され、行方が分からなくなってしまった。しかし、コアまで取られたわけではなく、被害も軽微であったため、米国は計画を続行。現在まで四機が試験運用を行なっている。
なお、欧州や中東にて本機を目撃したとの情報もある。
固定武装
[単分子ナイフ]
高純度希少金属を使用し、微細な振動による破壊を可能とした兵装。両腕のシース内に収められている。
射撃武装
[複合射撃システム]
36mmサブマシンガンと84mm多目的無反動砲を融合させた兵装。火力と取り回しの良さをうまく両立させている。
[レールライフル]
米軍が試験運用をしている兵装。クーガーの所持するものと同じである。
近接武装
[TYPE-44 近接長刀]
日本の打鉄などが持つ近接長刀を参考に、空中における高機動近接格闘戦を想定した兵装。単分子ナイフと同じく高純度希少金属が使われており、切断力、耐久性共に優れている。重心がグリップ付近にあり、切り返しの早さが特徴。また、グリップガードにも刀刃が施されており、長刀の間合いでなくても、殴る等でダメージを与えることができる。
オータム「というわけで、俺現在の乗機、ストライク・ファルコンだ。作者の奴、『ガンプラ以外ではコスト的に作れん』とか言い出したからな。期待してた人本当に済まねえ。まぁ、これからも生温い目でよろしく頼むぜ」