守りたい、ただそれだけ(本編完結)   作:ディニクティス提督(旧紅椿の芽)

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第29話

「くぎゅぅ…………」

 

…………さて、状況を確認しようか? 俺の目の前では一夏が最近買ったイルカとシャチのぬいぐるみを抱いて眠っている。そこはいいんだ、そこは。けどな…………

 

(なんで、俺の布団の中にいるんだよ、こいつ!? 寝るとき別々で寝たはずだろうが!!)

 

そう、布団一枚を共有して寝ているわけだ。どうすりゃいいの、これ。俺の家だから別に誰かに見られるという心配とかは全然ねえんだが、それでもこれはいささかまずいだろう? 両腕で大事そうにぬいぐるみを抱いている姿、滅茶滅茶可愛いんだが…………誰だよ、こんな天使を生み出したのは。世間一般で言う『萌え死ぬ』とはこの事をさすのだろうか? てっきり俺は『燃え死ぬ』の方かと思い、燃え尽きる方なのかと思ってしまったがな。

 

「むにゃ…………んっっ…………」

 

…………これはダメだ。俺は耐えられる自信がねえ。付き合い始めてから早二週間。俺はこいつに勝てる気が全くしなくなっていた、色々な意味で。だが、それでもいいのかもしれないと、なにやら怪しげな俺が生み出されようとしているのも事実だ。しかし、この場を機に抜けるにはどうしたらいいのやら…………やはりあれしかねえのか。

 

(よし、寝るか!)

 

俺は一夏に背を向けるようにして再び眠ることにした。時刻はまだ三時半。起きるには少し早過ぎるしな。寝て時間を潰して何とかしてやるしかねえ。てか、寝てりゃなんか変わるだろう、きっと。切にそう願う。——はいそこ、現実逃避とか言わない。言ったらそこに一列に並べ。レールライフルの的にしてやるよ。

 

 

 

 

 

「なぁ、弾。お前どうよ、最近」

「どうって…………これだ、これ。って、そこで上格はねえだろ!!」

「ありゃぁ、今月もハズレかいな。はい、そこガラガラ」

「そういう数馬こそたまにはナンパしろよな。いやぁぁぁっ!? ダメ、ゼロガトは止めて!!」

「俺も不器用な男だからな…………苦手なんだ。これで十連勝か」

「モテ男が何を言ってやがんだ…………。ま、また負けたし」

 

場所は変わって五反田食堂の一室。そこには二人の男子が集まっていた。一人は赤みがかった茶髪をバンダナで纏めている顔立ちは平均より二つほど上の男、五反田弾。この食堂の跡取り息子であったりする。もう一人は黒髪が特徴的で、顔立ちは弾よりもさらにイケメンな男、御手洗数馬。二人は互いにギターとベースを持ち、チューニングをしていた…………筈なのだが、今はそれどころではなくテレビゲームへと夢中だ。しているゲームは[IS(インフィニット・ストラトス)/VS(ヴァースト・スカイ).NEXT GENERAITION(ネクスト ジェネレーション)]。全世界で二百万本もの売り上げを記録した人気のあるソフトだ。第二世代型までの量産機や専用機を使う事が出来る上に、武装の一部はカスタマイズして装備することが可能という、様々なプレイスタイルが出来る。コントローラーも従来の製品では対応できず、専用の物を用いる。操作は複雑であるが、慣れると非常に面白いとの評判である。

 

「というかお前、弱すぎね? テンペスタなんて使ってるのに、俺の打鉄に負けているとか…………」

「アホか⁉︎ なんでお前の打鉄はメガバズーカとジャイアントガトリングなんて物を装備してんの!? しかも格闘に大剣なんて装備させて…………勝てるわけねえだろ!!」

「じゃ、お前もセットアップしろよ…………ナイフとアサルトライフルだけのテンペスタとかきついだろ」

「いや、俺の好きな機体だから気にするな。そら、もう一回勝負だ!!」

「本当、ブレねえなお前…………」

 

数分後…………

 

「ノォォォォッ!? 今度はカスダメも入れられない!?」

「乙。しかも、バズーカで終わったしな」

「つ、次こそはぜってぇ落としてやる! 数馬! もう一戦するぞ! 次は機体を変えてやるぜ」

「かかってこい。ひねり落としてくれるわ」

 

二人は再びゲームをする。弾は今まで使っていたイタリアのテンペスタを止めて、フランスの量産機であるラファール・リヴァイヴへと乗り換えた。…………ただし武装は変わってないが。

 

「それじゃ、開幕の一撃っと」

「今度はシールド使えるから凌いでやるぜ! ところでさ、一夏って今どうしてるんだろうな?」

「シールド使いは面倒なんだよな…………。確か、IS学園に行ったんだよな? 少し不安じゃね?」

「今度こそ俺の勝ちか!? そいつはそうだよな…………虐められてないか心配だし」

「いや、負けるだろ。まぁ、そこだよな…………あいつ、気が弱いし」

「あ、ちょ、そこでチャージ技はやめ!」

「トドメのバズーカ三連射ー」

「負けたぁぁぁぁぁっ!?」

 

結局のところ、弾は数馬に勝てることはできないのであった。

 

「まだだ! まだ終わらんよ! もう一戦——」

「ちょっと、お兄! お客さん来てるよ! あ、数馬さん、いらっしゃい」

「おう、邪魔してるぜ」

 

弾がもう一戦しようと数馬に申し込んだ時、部屋のドアが思いっきり開かれた。もとい、蹴って開けられた。ドアを蹴った主は弾の妹、五反田蘭。弾と同じように赤みがかった茶髪をバンダナで纏めているのは兄妹所以のことなのか。

 

「な、なぁ、蘭よ。お前、俺と数馬との差って何?」

「性格」

「ぐほっ!!」

「さりげなくとどめさしてるな、これ」

 

蘭は意外にもサディスト的な何かを持っているのかもしれない。現に弾が気にしている事をサラリと投下して爆撃するあたり、そうなのだろう。それが兄妹の照れ隠しなのか、喧嘩するほど仲がいいというものなのかはわからない。一方の数馬への態度は兄へのそれとは違い、いたって普通だ。

 

「それで、俺に客? 誰だよ」

 

血を吐いてぶっ倒れていた弾であるが、その某台所の黒い彗星並みの生命力と回復力でリスポーンする。最早人間ではない。ある意味鋼鉄のボディだ。

 

「降りてくればわかるよ。数馬さんにも関係があるのでついてきてくださいね」

「俺もかよ」

 

蘭にそう言われた野郎二人は一階の玄関…………もとい食堂の入り口へと向かう。まだ営業時間ではないため客は全くいない。今年で八十になる祖父の五反田厳が煙草を吸いながら新聞の政治欄を読んでいる程度だ。

 

「ひっさしぶりねー、弾に蘭に数馬」

「鈴⁉︎ お前、背伸びてねえ——」

「ぶ っ 殺 す わ よ ?」

 

来ていたのは中学の親友である鈴だった。だが、弾のいらない発言で殺人予告される羽目になる。

 

「それで、来客ってのは鈴のことなのか?」

「そうだけど、そうじゃないわよ。ちょっと遅れるかもしれないけど」

「どういう事だ?」

「——鈴ー! ちょっと速いよー!」

「「「!?」」」

 

唐突に聞こえてきた声。その声に三人は聞き覚えがあった。それは弱くて、だけど優しくて努力家の、大切な親友。

 

「久しぶりだね、みんな」

 

織斑一夏、その本人だった。

 

 

 

 

 

今朝、自宅に電話がかかってきて、『弾の家に顔見せに行くわよ』と鈴に言われ、今弾の家に来ている。私が来たことでみんななんだか驚いているみたい。そんなに驚くことなのかな?

 

「一夏じゃねえか。元気にしてたか?」

「まぁ、それなりにはね。風邪もひいてないし、元気だよ」

「それにしても、お前、IS学園に行ったんだよな? ちゃんとやっているか?」

「むぅ…………なんか、一人じゃ何もできないみたいなこと言われてる」

 

弾にそんな事を言われてちょっとむっとなる。私だってちゃんと一人でやっているよ。最近はできないことも、ちょっと苦手くらいまでには良くなってきたんだから。え? それ、あんまり変わってないんじゃないかって? そ、そんなこと言わないでよー!

 

「まぁ、あんたは実際そうでしょ。だってあいつといるんだし。で、あいつはいつ頃くるのよ。連絡したんでしょ?」

「したよ。でも、『今中東で仕事中』って連絡が来てから交信なしだし…………」

「あいつ、今日も仕事なのね…………」

「あの、一夏さん、鈴さん。さっきから言っているあいつって誰ですか?」

 

蘭がそんな事を聞いてきた。うーん、どう答えたらいいのかな? やっぱり素直に答えるべきなのかな? とかと考えていたら

 

「一夏の彼氏」

 

と、鈴が勝手に暴露していたんだよ…………って、

 

「鈴!? 何を暴露してるの!?」

「いやー、だって素直に言った方がいいじゃん」

 

鈴はそう言って笑い飛ばしているけど、一方の私は凄く恥ずかしいんだから!

 

「お、俺たちのアイドルが…………」

「弾が燃え尽きたぞ!?」

「い、一夏さん!! その方はどんな人なんですか!?」

 

しかも反応は色々だし…………待って厳さん、今こっそり『祝いのタイを用意しねえと』とかなんとか言いませんでしたか!? そんなに驚いたり喜んだりすることなの!?ねぇ!?

そんな時

 

『おーい、一夏。聞こえるか?』

「どうしたの?」

 

通信が入る。私は蒼龍の後頭部アンテナ部分を展開して受信を開始した。長距離の通信にはこれが便利なんだよね。まぁ、バレちゃうと色々とまずいんだけど。

 

『言われた通り、お前のいるところまで来たんだが、降下できる場所あるか?』

「…………え?」

『いや、降下ポイントあるかって聞いてんだ』

「…………もしかして、仕事帰り?」

『おうよ。そのままB型全開できたからすぐ着いたわ』

「…………うん、わかった。とりあえず、外に出てるからそこに来てね」

 

私はそこで通信を切った。なんだろう…………最近色々と振り回されていることが増えてきているような気がする。別に悲しいこととかないからいいんだけど、大変なんだよね。

 

「あいつはなんて?」

「黒龍装備で来るみたい…………」

「…………マジなの? まぁ、あいつらしいっちゃ、あいつらしいわよね」

「…………一夏さんの彼氏って、どんな人なんでしょうか?」

 

蘭まで困惑してきている。とりあえず外に出てよう。今の時間帯ならみんな仕事に出ていてそんなに見つからないだろうし。

 

「ちょっと外に出るよ」

「どうせだし、外で待つのもいいかもな…………一夏の彼の顔をさっさと拝みてえ」

 

弾がなんだか邪な考えを持っているような気もしなくはないけど、まあいっか。そういうわけでみんな外に出て待つことにした。

 

『座標チェック完了、降下する』

「了解です。下には道路くらいしかないけど気をつけてね」

 

その通信をしてすぐに、風が舞起こる。ただし上から下に吹くような風。自然のものじゃない、人工的なもの。なにやらエンジンのような音も聞こえ始めた。鈴以外はかなり動揺してるみたい。

そして、黒い機体が地面に足をつけた。紅いデュアルアイを光らせ、ブレードアンテナと両脇の近接防御機関砲、そして重装甲が特徴的な機体。

 

「こ、これってIS…………なんだよな? ISは女にしか使えないはずだから…………もしかして、一夏ってれ——」

 

弾は何かを言おうとしたようだけど、蘭のアイアンクローを受けてすぐに黙ったみたい。何を言おうとしたんだろう? ちょっと気になるかも。

そんなこんなしているうちに黒い機体は解除されて、中の人が露わになっていた。

 

「お疲れ様、悠助」

「ただいま、一夏」

 

私は悠助に抱きついた。仕事が終わったらいつもこうやっている。無事に帰ってきてこられた事を感謝して。悠助もそれをわかってくれてるみたいで、私の頭を撫でてくれる。これが私たちの日常——。

 

 

 

 

 

「俺は紅城悠助だ。好きに呼んでくれ。あと、一夏とは一月ほど前から付き合っている」

 

黒龍を解除してついでに中に登録していた黒基調の私服へと着替え、呼ばれた先の五反田食堂とやらの中に俺はいた。

 

「まさかの男性操縦者がお相手か…………一夏、お前すげえな」

「命の恩人でもあるけどね」

「ところで、今日はどこで仕事してたのよ?」

「中東のムッカハド共和国の紛争地帯だ。また連中おっぱじめたから武力でやめさせてきたわ」

「エグいわよ、あんた…………」

 

鈴はそう言ってドン引きするような態度をとる。仕方ねえだろ、奴ら払い下げの戦車とか全IS中一番安価とまで言われているラマーチまで持ち出していやがったし。案の定、擬似コアのため束さんの餌となり、俺に屠られましたとさ。

 

『オラオラ、勝手に紛争なんておっ始めようとしてんじゃねえよ。何も目的なんてねえだろうが』

『う、うるさい! 奴らは私たちが作り上げた秩序を乱したんだ! その罰は——』

『ほう? すぐに戦争を始めようとする社会にどんな秩序があるってんだ? えぇ? どのみちてめえは死ぬんだ。恨むなら、そんな秩序に縛られたお前自身を恨むんだな』

『いや、やめ——』

 

大体こんな感じ。ブラストライフルを荒れ狂うかのように撃ちまくって戦力を潰してきたからな。さっさとあの国も内紛が終わればいいんだけどなー。ま、擬似コアを軍事運用すればぶっ壊しに行くけどな。

 

「あのー、紅城さん?」

「ん? どうした?」

 

赤みがかかった茶髪が特徴の女…………確か、蘭だったか? が俺に聞いてきた。

 

「さっき、仕事がどうとかって言っていたんですけど、それって企業とかのなんですか?」

 

やはり、か。そうくるとは思っていたわ。こんな歳で仕事をしているなど、企業に所属しているテストパイロットとかくらいしかいねえだろうしな。しかし言っていいもんなんだろうかな。確かにあいつらには言ったが、それはそれ。こっちはガチの民間人だ。あまり裏とは詳しくねえだろうし、話しても理解はできねえとは思うけどな。とりあえず一夏にアイコンタクトを取ると、『別にいいんじゃない?』と返された。なら、いいか。

 

「ちげえよ。俺、企業に属してねえし」

「じゃ、じゃあ——」

「俺、傭兵だぞ、一応」

 

俺がそう言った途端一瞬の静寂が訪れる。そして、

 

「マジかよ!? 傭兵とか超カッケェ!!」

「というと鴉や山猫みたいな?」

「一夏さん最高のボディガードですね!」

 

賞賛である。この辺は価値観の違いなんだろうな。一般人には傭兵なんざ馴染みのねえことだし、深くは知らねえだろうし、こんな反応くらいはするか。てか、鴉や山猫ってなんだ? そのまんまの意味なのか? あと蘭、その例えは間違ってはいない。俺の主任務は一夏の護衛だからな。

 

「それで、どっちから告白したんだ?」

「俺だ。夜の海でな」

「じゃ、俺からしつもーん。紅城さんって一夏のどこに惚れたんですか? あ、一夏も答えてくれよ」

「俺は全部だな。どれか一つを取り上げていうことなんざできねえよ」

「私は優しいところかな。時々厳しいけど、それは私に何かを伝えようとしているからってわかるもん」

「ここでも糖分を生産するんじゃないわよー!! 厳さん!! めっちゃくちゃ濃いお茶、オナシャス!!」

「じいちゃん! 俺も、俺も!!」

「私もー!」

「俺もお願い!」

「待ってろ小童共! 聞いてるこっちも飲みたい気分なんだ!!」

「「「「マジで!?」」」」

 

…………なんだこのカオスは。突っ込むべきところが多すぎて困る。本当大変だぜ、こいつは。というか、原因って俺ら?

 

 

カオスな状況を終えた後、俺は弾に連れられ弾の部屋へと来ていた。中には漫画やゲーム、ギターなどがあり、これが普通の高校生なのかと俺は思う。

 

「しかし、なんだか汚ねえ部屋で悪いな」

「俺の部屋とは違うからびっくりしたぞ。まずゲームがあるって時点で」

「それマジ?」

「俺の部屋にはタボールやP90、デザートイーグル、AT-4とかあるからな」

「…………やべぇ、何言ってんのかわからねえ」

 

だろうな。タボールはプルバッブ式のアサルトライフルで取り回しがいい。P90は言わずとも知られているP(パーソナル)D(ディフェンス)W(ウエポン)。デザートイーグルは自動拳銃では最大の大きさであり、威力もそれに見合っている。AT-4は使い捨ての無反動砲、ダメージなんてシャレにならんよ。

普通こんな武器が部屋の押入れに入っているなんて考えはしねえだろうな。ちなみにこれ、オータムの奴に選んでもらったやつだ。ISが使えねえ状況でも戦闘できるようにっていう優しさからだぜ。

 

「で、俺に何の用なんだ? どうも一夏には聞かれたくねえ話みてえだな」

「まぁ、そうかもしれないな…………」

 

弾はそう言ってどこか思いふけっているような顔をする。

 

「とりあえず、ありがとうな。あいつを、一夏を笑顔にしてくれて」

「そこまで礼を言われるほどのことはしてねえんだけどな」

「それでも、さ。紅城さんがいなかったら、あいつ、あんな笑顔絶対見せなかったと思うし」

「そんなに…………酷かったのか?」

 

弾は一呼吸を置いてからまた話しはじめた。

 

「ああ…………一夏、俺や数馬があった頃もかなりいじめられていたし、鈴から話を聞けばそれより前からっていうじゃねえか。そのせいか一夏、あまり笑ってくれなかったんだ。確かに俺たちの前で笑うときもあったさ。けど、それは心から笑っているというよりは——俺たちに心配をかけさせたくない、そんな感じの笑いだったんだ」

 

そうだったのか…………一夏自身からも話は聞かせてもらったが、やはり周りの人間から聞くとより一層鮮明にわかってくる。それと同時に、何もできなかった自分を責める弾の思いも、な。

 

「だからさ、一夏があんなに笑っているのを見て、俺たちは凄え嬉しかったんだ。いつも暗い顔でさ、見ているこっちも辛かったのに…………あんなに楽しそうにしているなんて。紅城さんの力があったからだ、きっと」

「確かに…………俺はあいつを放っておくことなんざできなかったからな。今こうしていて本当にあの日、助けることができてよかったって思っている」

「あの日って…………?」

「雪の降る二月ごろだっはずだ。一夏はボロボロで意識を失っていた。だから俺はあいつを家に連れて帰ったんだ」

「その日か…………あの日も一夏はいじめられていたよ。朝から靴を隠されて、教室に行けば机は乱雑に倒されていて、挙句放課後にはカッターで腕を切られたんだからな。俺たちだって黙って見ているわけにもいかねえから取り押さえてはいたんだけどよ…………たった三人じゃ何もできなかったんだ。一夏は左腕を切られ、その恐怖からか雪の降る中、学校を抜け出したんだ…………俺たちも探したけど見つからなくて…………」

「…………お前達も大変だったんだな」

「…………一夏死んでたら、俺、死ぬって決めてたし」

「縁起でもねえ!? てか、一夏殺すな!! つーか、死にかけたの俺だし」

「…………な、何があったんだよ?」

「一夏守るために、背中からブッ刺された」

「命がけで守るとか凄え! 俺らじゃ真似できないぜ…………」

 

普通はするもんじゃねえわ。実際、一夏泣かせてしまったわけだしよ…………もうあんな事する気も何も起きねえよ。

というか、俺に会う前にそんな事が起きていたとはな…………そいつら一発ぶん殴りてえ気分になったぜ。てか、一夏いじめていた奴ら全員雁首そろえて俺の前に来いやオラ。一発じゃお釣りが出るから何発かバスターナックルで拳叩き込んでやる。

 

「俺にとってたった一人の家族同然の存在だからな、それまでしてでも守る価値はあるさ」

「待って…………今、なんと?」

「たった一人の家族同然の存在、か?」

「そこだ、そこ! どういうことなの!? なに、け、結婚でもしたのかよ⁉︎ 親はなんて言ってんだ!?」

「いや、単に同居してる、というか一夏がこっちに住むと言ってきたからな」

「十分過ぎねえか!?」

 

そんなに驚くことなんだろうか…………今では最早当たり前のこととなっているからよくわからねえんだよな。やましいことなんて何一つとして犯していねえんだしさ、一応健全そのものだと俺は思うんだ。

 

「ついでに言うと、俺に親はいねえよ。四年前にポックリ死んだ」

「…………すまん、なんか踏み込んじゃいけないこと聞いてしまったな」

「気にすんなって。今更な事なんだしよ」

 

実際のところ、悲しみとかそういうもんは無い。代わりにあるのはテロ組織に使われている軍事用擬似コアへの怨み、怒りだな。復讐に取り憑かれているといってもいいかもしれん。それだけ、あの事件は俺にとって大きな影響を与えた。別に探査用に使う分にはなんとも思わないんだから、調子のいいやつだ。

 

「他に俺に聞きたいこととかあるのか?」

「いや、特にないぜ。強いて言うなら、『一夏の笑顔を守ってくれ』くらいか? 俺たちにはもうできそうにないからさ」

「そんな事言うなよ。一夏が言ってたぞ、『大切な友達だ』って。だったらお前さんもそれに応えねえと」

「それもそうだな…………なんか、元気付けられたよ」

 

弾はそう言って右手を差し出してきた。俺もそれに応えるため、同じく右手を出す。

 

「これから、一夏の幸せを守っていこうぜ」

「ああ、もちろんだぜ」

 

この瞬間、俺と弾の間には奇妙な友情が芽生えたのだった。

 

 

 

 

 

「それにしてもなかなかに個性的なメンツだったな…………あの人達、全員お前の大切な人なのか?」

「そうだよ。周りから疎まれているだけの私を受け入れてくれた優しい人だよ」

 

現在自宅。外泊届には一週間と記入してあるから、残り三日ほど猶予はある。今日会ってきた弾をはじめとする面々、なかなかに個性的なメンツだったわ。特に弾だ。なんとなく不器用な感じだが、やる事には全力でやっている奴の目だった。それに一夏の過去も少し聞けたしな…………尚更守ってやらねえといけねえと思ったぜ。

 

「確かに人を受け入れてくれる心の広さがあったな。俺が傭兵と言ってもあまりなんとも思ってなかったみたいだしよ」

 

単に知らないだけだったのかもしれないが、知っていてもおそらく受け入れてはくれたのかもな。

 

「まぁね。でも、みんな驚いてはいたよね。悠助が黒龍を展開してくるんだもん」

「仕事から直通だったから仕方ねえだろ。ムッカハド共和国、内陸の方なんだし」

「ど、どのくらい距離あるんだっけ?」

「シリアの近くとでも言えばわかるか?」

「と、遠い…………」

 

内戦の続いていたシリアの内陸側の一部が独立して国と化したところだ。実際国と言っていいのかというほど大きくはないが、アフリカの小国の例もあるんだし、国なんだろうよ。軍まで揃えていたからな。問題は政権が安定せず、国で派閥に分かれて再び紛争状態になっているところか。

 

「フルブーストでも結構に時間がかかるわな、うん」

 

と、なんだか話していたら、急に耳がごそごそと言い出しはじめた。しかもちょっと痒みまである。これはあれか、一月経ったから耳かきの時期なのか?

 

「あれ悠助? どうしたの?」

「なに、耳が痒くなってきたから耳かきでもしようかとな。はて、何処に仕舞ったんだっけかな…………って、あったわ」

 

最近使ってないから耳かき棒を何処に仕舞ったのか忘れていたが、リビングのペン立てに纏めておいたことを完全に忘れていた。さて、やるとしますか。

 

「ねえ、私が耳かきしよっか?」

 

俺が耳かきを始めようとした時、一夏からそんな提案が出された。別に俺一人でやってもいいんだが、あれはやりたいという目をしているからな…………任せるか。前にしてもらった時も、かなり気持ちよかったし。

 

「いいのか? それなら頼むぜ」

「了解、任されました、っと。じゃあ、ここに頭を乗せてね」

 

一夏はソファに座り、自分の膝を指差す。そこに頭をおけってことなんだろ。了解、了解。

 

「どうだ? 位置はこのへんぐらいでいいか?」

「大丈夫だよ。じゃ、始めるね」

 

そういうことで、耳かきタイムスタート。この丁度いい力加減で耳カスが掻き出されるもんだから、本当に気持ちいいんだよな。音響センサーを使用することもある俺にとって耳は眼の次に重要なもんだから、綺麗にしておくに越したことはねえ。

 

「ついでに耳も拭いておくね」

 

ちり紙て耳を拭いてくれる一夏。これがまたなんとも言えないほど気持ちいい。言葉にできねえや。

 

「あ、大きいのあった」

「マジか。てか、よくデカイのできるよな、俺」

「疲れていると出るんじゃないのかな?」

 

そういうもんなんだろうかな。一ヶ月くらい取ってなかったから溜まっていたとは思うんだが、そこまでデカイのってそうそうできねえんじゃねえの? 俺の体質の問題なのか?

 

「ふぅー…………ふぅー…………」

 

あぁ〜、これが一番いいんだ。息で吹き飛ばしているこれ。変にくすぐられる気分にはなるが、それでも気持ちの良いものに変わりはなく、何度でもしてもらいたい気分になる。

 

「こっちは終わったよ。反対を向いてね」

「りょーかーい」

 

俺は頭の向きを変え、反対側の耳を一夏に見えるようにする。こっちも相当溜まっているんだろうな。

 

「こっちも結構溜まっているみたいだね。ちょっとやりがいがあるかも」

 

なんだか上機嫌で耳かきをしていく一夏。そんなに耳かきをするのが楽しいんだろうか? まぁ、別にいいか。俺もいい気分にさせてもらっているんだしよ。

 

「ふぅー…………ふぅー…………」

 

やはりここは極楽のようだ。自然と今日の疲れが吹き飛んでいくような感じがする。肉体的にも精神的にも、な。

 

「はい、これで終わりだよ」

「そうか。それにしても、かなり気分良くなったわ」

「よかった」

 

一夏はそう言って笑顔を見せてきた。確かにな…………弾が言っていたように俺の前ではよく笑顔を見せている。俺はこの笑顔を消す事も、守ることもできるんだよな…………責任は重いな。だが、それでも俺は守り続けると決めた。俺に対する、俺からの依頼だ。契約期限はなし。報酬は一夏の笑顔。この上ない、最上の報酬だぜ。契約破棄できるわけがない。

 

「ねぇ、悠助」

「どうした?」

「その…………また今度、耳かきをさせてね?」

「あぁ、もちろんだ」




ラマーチ

[イメージデザイン]
頭部:グリモア(Gレコ)
胴体部:グリモア(Gレコ)
腕部:グリモア(Gレコ)
脚部:グリモア(Gレコ)

所属:ロシア軍、その他
操縦者:無し

ロシア製第二世代型量産機。操縦及び整備の簡易性、悪条件での耐久性に優れ、また最も多く量産化されているISである。その多くは擬似コアをはめられ、ロシアの同盟国へと輸出されている。
しかし、大量生産されている故かテロ組織にも多く流れ出ており、ISによるテロが頻発化している。紛争地帯では撃破された本機の残骸を見ることが可能だ。


固定武装
[腕部内蔵型機関砲]
右腕部に内蔵されている口径25mmの機関砲。モジュール化しており、必要に応じてパージすることも可能。弾倉は肘側に取り付けられる。
[対装甲ナイフ]
腰裏アーマー内に格納されているナイフ。ナイフとしては大型の部類に入り、その大きさはアサルトブレードと言っても過言ではない。

射撃武装
[アサルトライフル]
40mm弾を使用するアサルトライフル。ライフルとしては大口径であり、その破壊力は米軍の使用するアサルトライフルよりも高い。また銃身下部にはグレネードランチャーをオプション装備として取り付けられる。
[ロケットランチャー]
多目的ロケット弾を使用する。ロケット弾にはHEAIS(対IS成形炸薬弾)等もあり、本機を象徴する兵装でもある。






悠助「今回は最も量産されていて、最も多く撃破されているIS、ラマーチだ。作者がもしかすると週一更新になるかもしれないとか言っていたが、これからもよろしく頼むぜ」
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