守りたい、ただそれだけ(本編完結)   作:ディニクティス提督(旧紅椿の芽)

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はい、更新遅れました…………。
というのもこの一ヶ月、扶桑姉様レベルの不幸が起きていまして…………足の指骨折(全治一ヶ月)したりとか、テスト期間に突入したりとか、体調崩したりとかetc…………。骨折に至っては中間検査を受けて、さらに一週間通院しなければならない事になりそうで…………。
とまあ、言い訳タイムはここまでにしておきます。
では、本編をどうぞ。


第30話

さて、俺の置かれている状況でも確認しようか…………。

 

「そこまで深く考えなくてもいいだろう? ちょっと具現化してきただけなのだから」

「…………お前がそこに居る時点で色々とアウトなんだがな、ガチで」

「コアの中だけだと窮屈で仕方ないんだ。私の主なんだから暇潰しには付き合ってくれ」

「マジで堪忍してつかぁさい…………」

 

朝起きると、黒龍のコア人格である武蔵が、堂々と俺の部屋に居座っていたのだ。…………正直、事態が全く読み込めてねえんだわ。というか、なぜに武蔵がこの世界にいるんだよ。コアの中だけしかいられないんじゃねえの?

 

「…………まぁ、狂気の産物持ちの私たちの他には無理だろうがな」

「ん? なんか言ったか?」

「いや、私自身気がつけばこんな風になっていたとしか言いようがない」

 

おいぃぃぃ…………それでいいのかよ。一瞬、俺は命を預ける相棒に対してそう思ってしまった。武蔵って、メガネ装備しているからよくある委員長タイプみたいな側の人間かと思いきや、意外にもアバウトに動くやつだった。人…………じゃねえな、コア人格を見かけで判断してはいけない、俺はそう肝に命じる。

 

「…………てか、その格好なんとかなんねえの?」

 

今の状態の武蔵は何かと見てはいけない。というか、かなり危険な匂いしかしねえんだけど⁉︎ 豊満な胸部装甲をサラシだけで巻いている上に、上着なんざただ羽織っているだけ、へそなんて露出してるぞ! 全国の健全な野郎共には危険すぎる代物だぜ。どのくらい危険かといったら、制御棒を炉心から引っこ抜いた核分裂炉くらいだ。

 

「これが標準の服装だし、どうやって交換するべきなのかわからん」

「…………」

「第一、この格好でいて悪いのか? 特別問題などないだろう?」

 

武蔵って、マジでなんなんだよ。天然か、天然なんだな⁉︎ 多分女どもが見たらかなり百合百合しい空気を放つくらいにイケメンな感じなんだが、中身が少々残念な感じしかしないわ! ムサシじゃなくてタケゾウって読んだろか⁉︎

だが、それよりも問題は一夏だ。今日は仕事も何も入ってねえからのんびり寝ていたわけなんだが、この部屋に一夏はいない。今は別室の方で寝ているはずだ。しかし、もし俺よりも早く起きて俺を起こしに来たりなんてことが起きたら…………間違いなくシュラバヤ沖海戦勃発。それだけはなんとしてでも回避したいと願う俺。

 

「悠助〜、起こしに来た…………よ……………………」

 

しかし、現実とは常に無情なもんだ。回避したいとか思ってたりすると、そういう危機に直面するんだな。今回の件で俺は少し学ぶことがあった。

 

「…………だよね。悠助も男の子だもんね。それに私よりも綺麗な人だし…………邪魔してごめんね…………!」

「お、おい待て一夏!? ご、誤解するんじゃねぇぇぇぇぇっ!!」

 

まさかの半泣き状態で脱兎のごとく走っていった一夏を追いかける俺。夏休みの自宅帰省最終日。どうやら俺は全くと言っていいほど休めない日になりそうだと、この瞬間悟ったのだった。

 

「む? 何が起きたんだ?」

 

事の元凶のお前が言うんじゃねえ!

 

 

なんとかして取り押さえた一夏と気がついたら現れていた武蔵を交えて一度話をすることになった。

 

「で、その人が黒龍のコア人格、なの?」

「あ、ああ。そうだ」

 

だが、相変わらず一夏がちょっと拗ねたような口調とふくれっ面でいる。特に怖さとかはない。むしろフグみたいで可愛く思える。それでも怒っていることに変わりはないようらしく、ついつい言葉が詰まってしまう。一方の武蔵ときたらなにやら巻き貝のような物を食っている。音からしてかなり硬そうなんだが…………歯とか壊れねえのか?

 

「お前もそれ食ってないで、少しはなんか言えや」

「む、すまないな。私は黒龍のコア人格、武蔵だ。暇潰しで具現化した。よろしく頼む、悠助の嫁」

「よよよよ嫁!?」

「気がはえーよ!? 俺たちまだ結婚可能年齢に達してないからな!?」

「それよりも、よりより食わないか?」

「歯がやられそうだからやめとくわ」

「はわわわわ…………」

 

とりあえず武蔵に喋らせた瞬間、一夏が壊れた。というか、お前嫁とか言うなよ。まだ付き合っているだけの状態なんだから。そんな先のことは考えてねえよ。てか、それよりよりって言うんだ…………どっから出したんだ?

 

「拡張領域に幾つか入ってるぞ」

「…………幾つかってどのくらい?」

「そこまで沢山使ってない。コア内の私が住む部屋にある戸棚にしまってあるだけだ」

「そこも拡張領域に入るのかよ…………」

「対装甲ナイフより圧迫しないけどな」

 

何気にすごくぶっ飛んでいる拡張領域。その中にコア人格専用の部屋まで用意してあるんだから、とんでもないって言ったらとんでもないかもしれない。

 

「あのー…………」

「む? 一夏、どうかしたか?」

「はにゃっ⁉︎ な、何も言ってないよ?」

「マジで? 今確かにお前の声がしたと思うんだが…………」

「あのー、こちらなんですけど…………」

 

どうもさっきから一夏の声がするんだが、本人は何も言ってないと言っている。なんなんだろうな、これ。ポルターガイスト現象か? いや、こんな時にそんなオカルトチックな事が起こるのだろうか?

 

「ぐすっ…………ちょっとは気付いてくれてもいいじゃないですか…………」

 

今度は泣き声まで混じってる。だが、当の一夏はなんともないし、寧ろきょとんとした顔で驚きを隠せてないようだ。それに、声はリビングの入り口の方から聞こえる。ふと俺が視線をそちらに向けると

 

「って、お前かよ⁉︎ …………で、誰だっけ?」

「ひ、酷くないですか⁉︎ 気付いた途端に言うことがそれですか⁉︎」

「いや冗談。榛名、だろ」

 

一夏にそっくりの蒼龍のコア人格、榛名がいた。ただし、服装は改造巫女服にミニスカートといった感じで、武蔵ほどではないが色々ときわどい。というか、これで一般的に外へ出させるわけにもいかん。警察に補導される可能性が高いわ。

 

「えっ、えっ? な、なんで榛名がここにいるの?」

「あれ? 一夏も面識あるのか?」

「うん、蒼龍が一次移行する直前に。その時は名前は知らなかったけどね。で、榛名はどうしてここに?」

 

一夏がそう言うと榛名は少しバツの悪そうな顔をして答えた。

 

「榛名も少し暇でしたから、具現化してこちらに来ちゃいました」

 

舌をちろりと出して、テヘペロとかと効果音が付きそうなセリフをさらっと言う榛名。それと反対に俺は頭を抱える。はぁ…………どうしてうちに眠っていた機体に嵌っているコアってこうも個性的なやつしかないんだ。というか、束さんが作る物に個性的じゃないのってあったか? それを考えると、妙に納得してしまう俺がいた。

 

「榛名、お前もか…………」

「えっ? どうかしたんですか? も、もしかして榛名はいけない事をしてしまったのでしょうか…………?」

「違うよ。こうして会えた事は嬉しいとは思うんだけど…………」

「理由が私と同じだからな」

「武蔵、貴女もですか…………」

「暇だし、一人でただちゃぶ台の前に座って茶をすすっているのもつまらないし」

「榛名も、一人で紅茶を飲むのはちょっと切ないですからね…………」

 

武蔵と榛名は互いに顔を見合わせると、ため息をついた。いや待て、コアに部屋があるってことはさっき知ったが、お前らどんだけ暇なんだよ。確かに外界とは隔離されてはいるだろうが、コア同士の交流とかねえの?

 

「常時目覚めているコア人格など、私と榛名と天龍しかいないぞ。それ以外は目覚めてないか、ネットワークを絶っているかのどっちかだ」

「所謂引きこもりってやつと、寝坊助ってことじゃねえか…………」

 

まぁ、三人しかいないのなら、そりゃつまんねえわ。楽しいかもしんねえけど、見慣れた顔ぶれしか集まらんから代わり映えとかねえだろうしな。どこの戦場にいってもラマーチしかいないってのと同じか…………それはそれで勘弁願いたい。

 

「それで、二人はこれからどうするの?」

 

ふと一夏が二人に聞いた。コア人格がこうやって外に出るなんて事態、異例中の異例だろうし、束さんですら予測不可能だろうしな…………というか、あの人の場合、予測できても回避しないどころか、その事態をさらに悪化させるトラブルメーカーみたいなもんか。

 

「ふむ…………どうするかといってもな」

「特に何も考えていませんでしたからね」

 

そんな時、誰かの腹の音がなる。ちなみに俺ではない。あと、一夏でもないぞ。

 

「あ…………そ、そのっ、こ、これはですね!」

 

榛名である。顔を真っ赤にしているところ、相当恥ずかしいようだ。武蔵? さっきよりよりを食っていたから腹なんて減ってねえだろ。

 

「ふふっ。じゃ、とりあえず朝ご飯にしよっか」

「おお! 一度、人間の飯とやらを食べてみたいなと思ってたところだ」

「お前、さっきよりより五本食ってたよな?」

「でも、いいのでしょうか…………榛名が朝食を頂いても」

「いいから、いいから。みんなで食べたほうが美味しいしね」

 

一夏の提案により武蔵や榛名も含めて朝飯を食うことになった。てかコア人格って腹減るんだ…………普通どうやって補給してんだ? 武蔵のよりよりみたいに何処かに何かをしまっているのだろうか?

 

「お、今日は鯵の干物に玉子焼きか」

「冷蔵庫に残っていたのがそれくらいしかなかったしね」

「ま、どうせ明日の朝には学園に戻らなきゃいけねえからな。残っててもあれだろ」

「おお…………これが本物の飯。いつも眺めているだけだったからな」

「そうですよね。いつもいい匂いがしても、食べることなんてできませんでしたから…………あ、また鳴ってしまいました」

 

テキパキとした一夏の準備により、四人分の朝飯はテーブルの上に並べられていた。手際本当にいいよな、こいつ。並べられた飯を見て、榛名はまた腹の虫を鳴らしてる。まぁ、そうなるのも仕方ねえのかもな。

 

「じゃ、早く食べよっか?」

「せやな。それじゃ、いただきます」

「「「いただきます」」」

 

この一週間はこんな光景が当たり前だったな。だが、今日は違う。二人追加だ。

 

「む! この玉子焼き、美味い!」

「榛名の好きな味です!」

 

しかも、一夏の玉子焼きに舌鼓をうっている。そんな様子を見てか一夏もなんだか嬉しそうだ。俺としても何処か気が休める気がする空間ができている。四年前から中々感じられなかった家族としての空気ってこんなもんなんだろうな…………懐かしい空気だし。いかん、朝っぱらからしんみりした空気なる。

 

「一夏、ちょっと新聞取ってくるわ」

「あ、うん、わかった」

 

ひとまず空気を変えるために新聞を取りに出る俺。まぁ、新聞なんて読むのは俺くらいしかいないわけなんだがな。

 

(さてさて、今日は何が来てんだ?)

 

本日の朝刊一面には毎度毎度お馴染みの憲法改正だの新法案の可決がどうたらこうたらとどうでもいいような記事しかねえ。世界面を見りゃ、中東やアフリカの紛争関連とかしかねえから代わり映えもない。エンタメとかは興味ねえからどうでもいいわ。

そんないつもの新聞をポストから取り出して、家の中へ戻ろうとした時、新聞とともに来ていたチラシに目が入った。

 

(あー、そういや今日だったな)

 

そいつを見ながらダイニングの方へ向かう。毎年恒例の行事が来たからな。

 

「何見てるの?」

「ああ、今夜ある地区の夏祭りのお知らせだ」

「へぇ〜、夏祭りあるんだ〜」

「祭りってあれか? 涼風の奴が好きなあれか?」

「おそらくそうだと思います。榛名も一度行ってみたいです」

 

一夏はチラシを手にとって眺めると何処か楽しそうな顔をしてる。武蔵や榛名も話を聞いて行きたそうな顔をしてる。お、いいこと思いついた。

 

「折角だしよ、全員で行くか、夏祭り」

「え? 本当? お祭りにいけるの?」

「どうせ今日はオフの日だし、お前達も行きたいんだろ?」

「まぁ、行きたくないと言えば嘘になるが…………」

「でも、そこまでの迷惑を一夏達に掛けたくはありませんから…………」

 

コア人格としてか、どうにもあれだ、自分達が操縦者をサポートする立ち位置にいるのに、逆に何かされることが俺たちの荷になると思っているんだろう。

 

「いや、そこまで考える必要はねえ。俺たちはいつもお前達に世話なってるから、その恩返しくらいはさせてくれ」

「そうだね。榛名達にお世話になりっぱなしっていうのも、なんだかね」

「だが、それでは私達は悠助達に迷惑を…………」

「だから気にするなって言ってるだろ? 俺たちは大切な相棒だろ? 相棒同士なら、互いを大切にすんのは当たり前だぜ」

 

そう俺が言うと、二人は少し考えるような仕草をしてからこう言った。

 

「ふっ、私達の負けだ。そこまで言う操縦者はそうそういない。夏祭り、楽しみにしているぞ」

「榛名もです」

 

どうやら、納得はしてくれたようだ。というか、お前らも夏祭り行きたいんじゃねえか。素直に言ってくれればそれでいいのによ。

 

「じゃ、午後になったら少し出かけるぞ。それまでに、武蔵、榛名」

「どうした?」

「なんでしょうか?」

 

 

 

 

「普通の服に着替えてこいやオラァァァァッ!!」

 

ここで俺はずっと言いたかったことを言った。だっていいか、パーツ風に言うぞ。

 

武蔵

頭部:メガネ

胴体及び腕部:サラシ、上着

胴体下部:ミニスカート

脚部:膝上までの黒靴下

 

榛名

頭部:ヘアピン、カチューシャ

胴体及び腕部:改造巫女服

胴体下部:ミニスカート

脚部:膝下までの黒靴下

 

…………こんなん、外を歩かせられるわけねえだろ!? 俺が犯罪者扱いされて、警察に連れて行かれそうな未来しか見えねえ!! …………とは言っても、こいつら着れる服あんのか?

 

 

「まぁ、こんな形で問題ないだろう」

「い、いつもと違う服なので恥ずかしいですが…………」

 

結論、こいつら普通に着れる服あった。というか、榛名、少々聞き捨てならない事を聞いてしまったんだが? いつもそんな改造巫女服でいたのかよ…………。

とりあえず、外に出ても警察を呼ばれる必要のない服装になったので、ひとまず安心だ。パーツ風に解説すると

 

武蔵

頭部:メガネ

胴体及び腕部:ワイシャツ、ネクタイ

胴体下部及び脚部:ジーンズ

 

榛名

頭部:ヘアピン、カチューシャ

胴体及び腕部:橙色の上着、ブラウス

胴体下部:デニム生地のミニスカ

 

こんな感じである。というか、毎度この説明をしているが、果たしてこの説明でどれほどの人が理解しているのか…………それ以前に俺は誰に向かってこんな説明をしているのだろうか…………。

 

「どうした? 急に悩みこんで」

「もしかして、何か至らない点があったのでしょうか…………?」

「違う、そうじゃない。単に俺は誰に向かって説明をしていたのか…………」

「その思考は色々とダメ! 今はタブー!」

「ハッ! 俺は今何を…………」

 

一夏によって思考を切り離され、ノーマルに戻った俺。なんとか平常運転に戻れたようだ。というか、榛名と一夏の区別がつきにくいわ。唯一の違いが髪の色と服装だけって…………クローンか何かみたいだな。しかも、その唯一の違いの髪だってそんなに差もないし…………どっちか影武者としても居られるんじゃないか?最も、そんな場面などないに越したことはないんだがな。というか、あってたまるか。

 

「で、どこに出かけるつもりなの?」

「とりあえず銀行行って金作ってくる。その後はあれ買いに行くわ」

「あれとはなんだ? 気になるぞ」

「まぁ、それはお楽しみってことだ」

「そう言われたら、余計気になってしまいます…………」

 

祭りといったら一応あれが必要だろうし、前々から買っておこうかと思ってたし、資金的に余裕があるし、幾つか買ってもそこまで負担にはならないだろう。束さんからの報酬二百八十万ドルがあるしな。稼ぎすぎじゃないかって? これで四年分の貯蓄分だし、弾薬だってかかるものはかかってたから、実際はこの二倍は稼いだはず。報酬は、初期報酬に時々特別ボーナスがついたりするが、基本的にはそこから修理・整備費と弾薬費が吹き飛んでいく。そして残ったのが俺の手にくるわけだ。

てか、もう十時になるのか…………祭りは五時からだし、なるべく長く楽しんでもらいたいしな…………頃合いか。

 

「さて、ちょっと早いが出かけるか? どこか行きたいところあったら遠慮せずに言えよ?」

「うん!」

「おう!」

「わかりました!」

 

三人の元気な返事を聞いた俺らは少々時間は早いが、早いに越したことはないので出かけることとした。炎天下の空は激しく俺たちを照りつけてはいたが、それを弾きかえすかのように三人は元気だったのだ。俺? 熱でオーバーヒート寸前ですが? 中東の暑さとは違うんだ、これ。

 

 

銀行で金をおろしてきた俺たちが向かったのは

 

「え…………悠助、ここって」

 

明石和服店である。なぜか知らんが俺の住んでいる街には居酒屋、和服店、企業といろいろある。一つの市みたいな感じで機能しているのかと言われたら、どうにも答えられない。というか、俺自身が一番わかってないからな。下手な情報与えて混乱させるのは敵さんだけで十分だ。

和服店の前に来た瞬間、三人はボーッとし始めた。いや、そんなに驚くことのものなんだろうか。確かに高いが、有香子さんの持っている着物と比べたら手軽な方になるぞ。確か二百万したとかしてないとか…………どうやって手に入れたんだろうか?

 

「いらっしゃいませ! 本日もどうぞよろしくお願いします!」

「うーい、来たぜー」

「あ、紅城さん!」

 

入店した俺を迎えてくれたのはこの和服店の後継、明石智明さんだ。桃色の髪が特徴的である。何気に女性との交流関係が広い俺。

 

「あれ? 今日は鳳翔さんの着物のお色直しじゃないんですか?」

 

専ら、有香子さんの着物を持ってきて、色直しが終わったのをまた運ぶという運送業的なものが俺の仕事だったしな。基本、ここではこんな風に認知されている。

 

「今日は違う。後ろの三人、彼奴らに合う浴衣を見立ててくれ」

 

そう言って俺は一夏達を親指で指す。それを見た智明さんは納得のいったような顔をした。

 

「わっかりましたよ。由里さん! 寸法、三人入るよ!」

「はい! 今すぐ行きます!」

 

そう言って奥の方から顔を出してきたのは、メガネが特徴の真面目系委員長タイプ。智明さんの右腕的存在の大淀由里さんである。寸法をとるにあたって、今まで一ミリたりとミスをしたことがないとか。彼女が寸法をとると、着物にした時、なんとも言えないフィット感があって、快適に着られるとか。いろんな伝説を持っている。

 

「それじゃ、女性三人分、ちゃちゃっと頼むね〜」

「了解しました。では、みなさんこちらへどうぞ」

「えっ、と…………私達、だよね?」

「どうやらそうらしいな…………」

「何が始まるんでしょうか…………」

「いいから行ってこい。変な事はねえ」

 

女三人は由里さんに引き連れられて奥の方へと行った。

 

「…………で、いつ頃まで仕上げればいいんでしょうか?」

「能力的にどのくらいいけるんだ? それで判断する」

「ふっ、明石家に伝わる裁縫術を舐めないでくださいよ。一着くらい一時間で仕上げられます」

「わかった。三時までにはできるか?」

「余裕です。まっかせてください!」

 

そう言って胸を張る智明さん。実際、浴衣を含む着物を一時間で仕上げるというのはいかに化け物じみた能力なのか、その筋に詳しい人なら分かるだろう。必殺裁縫人と呼ばれるほど縫い目の精度は高く、ブレはほぼなし、強度抜群。それを一時間で仕上げる彼女を始めとする明石家は生きた現代の伝説である。それを支えてきたのは設計・現場指揮などの能力に優れてる大淀一族がいるからだ。

 

「代金は先払いでいいか?」

「構いませんよ。あ、ちなみに三着でこれくらいですね」

 

そう言って電卓に表示された金額を見せてくる智明さん。そこに表示されていた金額は俺の予想していたものよりは安かった。

 

「浴衣自体は反物も安価なものを使うんで比較的安価にはなりますが、ウチの方で仕上げるとどうしてもコストがかかってしまうんで、普通よりは幾らかは高くなってしまうんです…………」

「いや、問題ない。想定していたよりも安くて助かる…………有香子さんの着物クラスが来たらどうしようかと悩んでいたがな」

「いやいや、あれは流石に無理ですよ…………父の作ったものですし、私は浴衣とか直すのが専門ですしね」

「さよか。とりあえず、代金、これでいいか? カード使えないのはちと不便だな」

「毎度ありー。まぁ、父が電卓以外苦手ですから仕方ないですよ。カードを使えたらもっと手早く会計できるんでしょうけど」

 

そう言いながら紙幣の枚数を確認する智明さん。ちょうどの金額を支払ったから問題はないと思うんだが、やはり商人となるとこうするのが癖になるんだろうか?

 

「じゃ、三時までにはきっちりと仕上げておきますよ」

「ああ、よろしく頼——」

『はわーっ!?』

 

ふと奥から聞こえてきた悲鳴。それが榛名か一夏か、いまひとつ分からない。だがわかることはただ一つ。

 

「…………採寸、なんだよな?」

「…………ソ、ソウデスヨ、ハハハ」

 

一瞬だけ由里さんに、百合百合しいナニカを感じたのは、一時の気の迷いであると思いたい。

 

 

現在午後五時過ぎ。夏祭りはすでに始まっている。近くの神社で行われているそれは毎年毎年、多くの人が集まる。故に露店も多い。

 

「悠助、どうかな? 似合ってる?」

 

そう言ってついさっき仕立て上げてもらった浴衣を着ている一夏。淡い蒼色を基調として、その中に風のような模様が描かれている。飾り気がない、と言ってしまえばあまり良くは聞こえないが、この場合に限ってはあまり主張をしていないのが一夏らしくて似合っている。いつも影から支えてくれるこいつがいるから傭兵稼業もできているようなもんだ。なにより、蒼は一夏のパーソナルカラーだしよ。

 

「ああ、よく似合っているぞ」

「よかった、えへへ」

 

ちょっと浮かれている感じがするが、別段今日くらいはいいだろう。折角の祭りなんだし、やっぱ楽しんで行かないとな。

 

「うむ…………着物は中々歩きにくいものだな」

「榛名も、ちょっと転んでしまいそうです…………」

 

歩きにくそうに俺たちの後をついてくる二人。まぁ、慣れないと動きにくいらしいしな。一夏はすでに慣れてしまった模様。すげえ、適応能力高えわ。

ちなみに武蔵は黒を基調とし、桜の柄が入ってる、極道風の浴衣だ。どうやってそのカラーリングになったのか、色々と突っ込みたいところはあるが、今日は控えておこう。榛名の方は淡い桃色を基調とし、そこに白い牡丹のような花が描かれている。どこか子供っぽく感じる榛名には似合っていると思う。というか、武蔵が似合いすぎて困るんだが。

あ、言っておくが俺は私服な。別に浴衣を着てもいいかと思ったんだが、そうするとハンドガンを携行するのが難しい。どうしてもハンドガンとナイフを腰回りに装備してないと落ち着かへん。

 

「まぁ、そのうち慣れるだろ。とりあえず、いろいろ回ってみるか?」

「そうだな。じゃ、まずはアレから行こうか」

 

武蔵がそう言って指差す方向には焼きそばの屋台が…………って、食うことしかねえのかよ!? ま、いいんだがな。

 

「へいへい。他に焼きそば食う奴いるか?」

「うーん、食べたいけど一つは流石にね…………榛名はどう?」

「そうですね。あ! なら、二人で半分こしませんか?」

「うん、いいよ!」

「お前らは一つでいいんだな。武蔵は?」

「一つで十分だ」

「よし、わかった。おやっさん、焼きそば四つ頼むわ」

「「「!?」」」

「はいよー」

 

俺が焼きそばを注文すると皆は驚いていた? ん? どこに驚く要素がある?

 

「いや、ちょっと待って!? 私と榛名は一つで十分なんだよ!?」

「わかってるけど? 俺が二つ食うから」

「「「アッハイ」」」

「ところで、誰か紅生姜食えない人いる?」

「あ、私苦手なので一つ抜いて下さい」

「ほーい。焼きそば四つお待ちー」

「あいよ。とりあえず何処かで食うか」

 

というわけで一旦移動。人ごみの中で立ちながら食うのはなかなか辛い。丁度休憩所てきなところができていたから、そこに向かうことにした。

 

「ふぃー、とりあえず、ほれ」

「む、すまない」

「ありがとう」

「ありがとうございます」

 

座ることのできた俺は全員に必要数の焼きそばを渡す。ただ、できたてなもんだから、パックがマジで熱い。排莢された直後の空薬莢をミスって素手で触った時の気分だ。いや、あれほど熱くはないが。

 

「そんじゃ、いただきます」

「「「いただきます」」」

 

パックを開けると湯気が俺の顔を襲う。どのくらいかって? 武蔵のメガネが曇るくらい。

 

「今年も変わらねえ味だぜ」

「美味いな!」

 

俺としては毎年焼きそばは食ってるから馴染み深い味だが、武蔵にとっては新鮮なのか、かなりの勢いでがっついてる。身体が悪燃費なのかわからないが、どことなくそのエネルギーが胸部装甲に蓄えられているとしか考えられねえ。

 

「美味しいね!」

「はい!」

 

簡易テーブルの反対側では、一夏と榛名が仲良く焼きそばをつついている。その光景はどことなく仲の良い姉妹にしか見えない。端から見ればそう思えるんだろうな。なにより、そんな光景に少しほっこりしてしまう。そんなこんなしているうちに焼きそばは完食してしまった。

 

「さて、次はどこに回る?」

「次はあそこだな」

 

またしても武蔵である。しかも指差した先には、祭りでは人気の高いものであろうタコ焼き。本気で食い倒れにでもなるつもりなのだろうか?

とは内心思いつつもタコ焼きをポンと買ってしまう俺。おそらく、今日の俺はかなり出費しているに違いない。

 

「てことでタコ焼き買ってきたぜ。ほらよ、武蔵」

「感謝する」

「他に何かあるやついるか?」

「では、榛名はあれやってみたいです」

 

今度は榛名か。指差したのは水風船釣り。なんというか、榛名の子供っぽい雰囲気的にも選びそうだな。

 

「あいよ。じゃ、ちゃんと付いて来いよ」

 

ということで再び移動開始。ここから水風船の屋台までは距離がある。しかも混んできたしな…………。スリとかないからいいんだが。

しばらく歩いて屋台の前に来ると、案の定子供いるわな。

 

「ヘイらっしゃい…………って、悠助のボウズじゃねえか」

「ゲンさんじゃないか。今年はゲンさんの番かよ」

 

水風船の屋台にいたのはゲンさんだった。通常は大工やってんのに、こんなところでヤワな水風船やっていると思うと…………なんか、ギャップを感じる。あのでかい手からは想像ができないほど精密な速さで水風船を作っていく。これが職人なのだろうか。

 

「とりあえず一回分頼むぜ」

「へいへい。ところでお前さんがやるのか?」

「俺はやらねえよ。やるのは」

「はい、榛名です」

「うおっ、これまた美人さんだな…………よし、嬢ちゃん、やってみな」

 

そう言われ、榛名はゲンさんより渡された釣る道具を受け取る。最初はどう使うのかわかっていないようだったが、周りでやっている子供達の様子を見て学んだらしく

 

「榛名! 全力で釣ります!」

 

と、意気込んていた。見るからにやる気に溢れてはいるようだが…………

 

「えいっ」

 

水流に流されており、うまく輪っかにフックがひっかからず、スカした。だが、まだヒモが切れてないから続行可能。

 

「あ、あらっ?」

 

しかし、たくさん流れている水風船せいで狙っているものがうまく取れずに、再びスカす。

 

「そこです!」

「てやっ」

「う、うそー…………」

 

その後も幾度か挑戦するも、互いにぶつかるせいでうまく取れない、見事にスカす、先に取られた等々プチ不幸な事案が発生し、未だに取れてない。というか、どうやったらあんな風にスカしまくるんだろうか?

 

「榛名…………お前、下手だな」

「おねーちゃん、へたー」

「ぐはぁっ!?」

 

タコ焼きを未だに食ってる武蔵と、隣でポンポン取っていたガキンチョの正直な一言により、榛名は致命弾を受けてしまったようだ。ゲンさん? 今日の夕刊読んでるぞ…………逆さだがな。

 

「つ、次こそ取ります!」

 

そう意気込む榛名。だが、ヒモは水を吸ってヨレヨレになっている。しかも、紙製。あと一回持ちこたえられたらいい方だ。

先ほどよりも慎重に水の中へ入れていく榛名。後がないことを悟っているのか、手先がすげえぷるぷると震えてる。そして、狙いのものが来たようだ。今度は一つだけが上手いこと流れているから取りやすいかもしれん。輪っかに引っ掛けて恐る恐るといった感じで引き上げている。

 

「やったー! 取れま——」

 

ぶちっ、ぽちゃん

 

喜びも束の間。水風船が完全に水面から離れた時に限界が来てしまったのだろう。ヒモ、ぶっつりと切れた。何度も何度も挑戦した結果がこれでは少々いたたまれない。正直ところ、俺も武蔵もゲンさんも、声をかけることができなかった。近くで見てたガキンチョは速攻でこの辺りから離脱したぞ。やはり、あいつも何かを感じていたのだろうか。

 

「あうぅ〜〜…………」

 

当の榛名は今にも泣き出しそうな感じである。というか、目が少し潤んでねえか? なんとも言えない空気がその場を支配していた。

 

「…………仕方ねぇなぁ。嬢ちゃん、これ持っていきな」

 

それを見かねてか、ゲンさんは一つの水風船を取り出し、榛名に手渡した。丁度それは榛名がずっと取ろうとしていたものである。渡された榛名は目を潤ませていたが、何処かきょとんとした顔をしていたな。

 

「え…………いいの、ですか?」

「おうよ。折角の祭りだ、笑って楽しんでもらったほうが嬉しいこって!それによ…………榛名って聞いたら俺のジジイが乗ってた戦艦思い出しちまったから、な」

 

…………ゲンさんのジジイって海軍の人かよ。それがどうなって大工に…………って、海軍解体されたからな、仕方ねえのか。それに、ゲンさんには海上自衛隊とか似合わない感じだし、やっぱり大工でいいんじゃないかと思う。

水風船を手渡された榛名はそれを聞いて少し笑顔になった。早速指にゴムでてきている輪っかをかけて、ぽよんぽよんとヨーヨーみたいして遊んでいる。

 

「ありがとうございます!」

「気にすんなって、ガハハッ! ところでボウズ」

「うんにゃ? ゲンさんどうしたと?」

「いや、いつもの一夏の嬢ちゃんが見当たらねーなーって思ってさ」

 

そう言われてハッと気づく俺。確かにこっちに来てから一夏と一言も喋ってねえし、なにより榛名がいたから気づかねえ…………って、これやべえ。周りを見渡しても、あの蒼い浴衣姿を見かけない。どこに行った…………もしかして、はぐれちまったか!? 確かに俺が先頭を行っていたからな…………あかん。そうだ! ケータイで連絡を…………って、忘れてきたぁぁぁっ!? な、なら、広域通信を…………って、武蔵達が出てるから使えねぇ!? となると…………

 

「…………ゲンさん、ちょっと二人見てて。一夏、探してくる」

「お、おう」

 

武蔵達の方を一旦ゲンさんに預け、俺はさっき通ってきた道を人を掻き分けながらすすむ。どこに行ったんだよぉぉぉぉぉぉっ!? 一夏ぁぁぁぁぁっ!!

 

 

 

 

 

(うぅ〜、どこに行ったんだろ…………)

 

はぐれました。マジです。どうも悠助が先頭を行って榛名と武蔵を率いて人混みを進んでいたみたいですが、その途中、誰かとぶつかったり、人の波に流されたりして、今どの辺にいるのかよくわかりません。…………気がついたら変に緊張して敬語入ってた。

 

(どこにいるんだろ…………? 全然見えないや)

 

低い身長を目一杯伸ばして探すけど、全然見つかる気配もない。しかもなれない下駄での背伸びだからバランスもかなり悪い。それに人の流れに飲み込まれてその場にとどまることができない。そのまま流されるままにいたら、何処かよくわからないところに流れ着いちゃった。このお祭り自体初めて来たようなものだし…………場所もよくわからない。

 

(も、もしかして迷子になっちゃった…………?)

 

いやいやいやいや、高校生になって迷子とか…………ないなんて否定できない。今、正にその状態だし。そ、そうだ! ケータイ! ケータイがあるから電話して…………

 

『只今電話に出ることができません。ピーッという音の後に用件をお願いします』

 

…………。なんで!? なんでこんな時に限って、電話無し!? こうなったら、あまり使いたくないけど蒼龍で黒龍に通信を…………

 

『榛名の外出中につき連絡できません』

 

…………。うそぉぉぉぉぉぉっ!? こんな…………こんな事ってある!? ど、どうしよう…………このまま連絡取れなかったら私帰れないし…………悠助だって心配しているだろうし…………。

 

「あうぅ〜…………」

 

急に不安になり始めて涙が出てきた。いつも誰かと一緒にいたから一人でいる不安なんてなかったけど、昔のトラウマがまだ治ったわけじゃないし…………。涙がポロポロと溢れでてきて止まらない。早く来てよぉ〜…………悠助ぇ〜…………。

 

「こんなところでどうしたんだ?」

 

ふと声をかけられる。声からして男の人。でも、悠助じゃないし、初めて聞く声だからちょっと怖い。見上げると、千冬姉さんにそっくりの人がそこにいた。

 

「え、えっと…………その…………」

「ははぁん、なるほどな。お前、連れの奴とはぐれちまったんだろ?」

 

直球を突かれてびっくりする私。しかもその人は何処か納得したような顔をしてる。

そう思っていると急に手を取られた。

 

「仕方ねぇ。連れの奴のところまで連れてってやるよ」

 

その人はそう笑顔を見せて言ってきた。でもね、なんだか他人じゃないような感じがするんだよね…………それがどうしてなのかよくわからないんだけど。

 

「あの…………」

「どうした?」

「ありがとう、ございます…………」

「いいってことよ」

 

男の人はかなり親切な人みたい。他人と付き合うのが苦手な私でもこうやって落ち着いていられるんだから…………。

 

「どうだ? りんご飴でも食べないか? 知り合いがやっているんだ」

「え? いいんですか…………?」

「おう、いいぜ。俺の奢りだ」

 

そのままりんご飴の屋台まで引っ張られる私。でも、決して走るような感じじゃなくて、浴衣を着ている私が余裕を持ってついていける速度。やっぱりこの人、すごい親切だ。

 

「ヘーイ! 遅いヨー! どれだけ私をwaitingさせれば気がすむネー!」

 

りんご飴の屋台には何やら外国人かぶれの人がいた。なんかドーナツみたいな髪型をしてるし…………個性的な人だなぁ。

 

「ははっ、悪かった悪かった。それと、このお嬢さんに飴一つ頼むぜ」

「OK。すぐに用意するネ。ちょっと待っててヨ」

 

どうやら知り合いってこの人みたい。なんだかとても仲よさそうだ。それ以上に私と悠助みたいな感じがするよ。

 

「お待ちどー。これでよかった?」

「あ、は、はい! あ、ありがとうございます!」

「ふふっ、なんだか妹に似てるネ」

「妹さん、いらっしゃるんですか?」

「Yes! Youによくに似てるヨ!」

 

だとしたらこの人に似てるのかな? でも、榛名とか私みたいに大人しくはなさそう…………流石に榛名はここまではしゃぎそうにはないだろうしね。あの子、私に似てすごいおとなしいから。

 

「連れの奴とはぐれたみたいだから探してくるわ。またしばらく頼むぞー」

「What!? ちょ、それは無しネー!? また一人デスカー!?」

 

…………なんか後ろから聞こえてくる。どれだけこの人が好きなのかは伝わってくるけど、声の大きさですかなり目立ってるし、それにこの人も目立ってるから間接的に私も目立ってるんだよね…………。

 

「あいつの妹にそっくりだってな」

「ふぇっ!? あ、ま、まぁ、そうみたいです」

「あはは、あいつがそう言うのは珍しいぜ。実を言うと、俺の妹にも似てんだ」

「そ、そうなんですか?」

「ああ。お前みたいな長い黒髪が特徴。そういや、もう何年も会ってねえな…………」

 

男の人はそう言って遠くを見ていた。その人がいかにこの人にとって大切な人なのか、なんだか伝わってくる気がする。

 

「一夏ぁぁぁぁぁっ!! 何処に行ったぁぁぁぁぁっ!?」

 

そんな時、大声で私の名前を呼ぶのが聞こえた。間違いない、あの声は悠助だ。

 

「どうやら、迎えが来たみたいだな。俺はあと行くぜ」

「あ、はい。ありがとうございました」

「礼はいらねえよ。元気でな、一夏」

 

そう言ってあの人は人混みの中へと消えていってしまった。でも、なんで私の名前を知っていたんだろ…………もしかして悠助が大きい声で呼んでいたからなのかな?

 

「わ、悪りぃ、一夏! お前がいなくなったことにすぐ気がつけなくて…………」

「わ、わっ! ここでそんな平謝りしなくてていいよ! み、みんな見ちゃってるから!」

「す、すまん。だがな…………」

「気にしないで。ちょっと寂しかったけど、ちゃんと会えたしね」

 

私がそう言うと悠助は何処か安心したような顔をしてふうっとため息をついた。よく見れば額には汗が滲んでいる。うぅ…………なんだか私が謝ったほうがいい感じがするんだけど…………。

 

「ひとまずあいつらのとこに行くか。ゲンさんのところで待ってるみたいだしさ」

「ゲンさんって何か屋台やってるの?」

「水ヨーヨー」

「ぷっ、なんだか想像できないよ」

 

まぁあの恰幅のいい人だし、なんだか鉄板焼きとかそういうのをやっていそうなイメージしかわかないから、ちょっと面白いなぁって思ったんだよ。でも、なんだかんだで子供に好かれてそうだから、繁盛してそう。

 

「うん? それどうしたんだ?」

 

そう言って悠助は私が持っているりんご飴を指差してきた。どうやらいつそんなものを買ったんだろうって思っているんだと思う。

 

「はぐれちゃった時にちょっとね」

 

私はそう言う。あながち間違ってもないしね。でも、なんだろう…………ただのりんご飴なのに、何か引っかかる事がある。なんでなんだろう…………昔、りんご飴買ってもらった記憶がある。でも、誰に買ってもらったんだっけ…………思い出せないや。

 

「どうしたんだ?」

「ううん、なんでもないよ。それよりも、早く行こっ」

「へいへい。じゃ、とりあえず」

 

そう言って悠助は私の手を握った。

 

「またはぐれちまったら大変だからな」

「そうだねっ」

 

この瞬間、ちょっとだけ思い出せたかもしれない、私の欠落している記憶。顔までははっきりと出てこないけど、それでも手を握られて祭りを楽しんでいるのが見えた。その手にはりんご飴。誰に買ってもらったのか、それとも自分で買ったのかも思い出せない。でも、確かな事は、

 

誰かと一緒にいた、それだけだ。

 

 

 

 

 

「…………本当にこれでよかったんデスカ?」

「ああ。これでいい」

 

祭りが終わった後、俺と相棒は屋台の撤収に勤しんでいた。ここで売っていたりんご飴は売れに売れ、販売開始から一時間で品切れになった。こういう事は祭りでは滅多にないことらしい。

相棒の奴が怪訝そうに聞いてくる。おそらく気になっているのはあの少女、一夏の事だろう。

 

「俺だって最後に会ったのは数年前だ。あいつだってまだそこまで大きくねえし、覚えちゃいねえだろ」

 

まぁ、その最後に夏祭りに行ったんだけどな、と付け加える。あの時もあいつは一人残されてたし、見るに見かねるわ。

 

「それにお前だって気づいてんだろ? あいつの相棒、お前の妹かもしれないって」

「No!…………とは言えないネ。でも何処にそんな確信があるんデスカー?」

「お前とは長き付き合いになるからな。それくらいわかるさ」

 

そう言って俺は鉄パイプを畳み、返却場所へと持っていく。これ、借り物だしな。返却はしっかりしておかねえと。

 

「でも…………本当は覚えてて欲しかったんデスヨネ」

「…………否定できねえな」

 

実際はそうだ。何年も会えずにこうして再会できたなら誰だって嬉しいだろう。だが、それで覚えててもらえなかった時の辛さといえば、何処か切ないものがある。俺だって人間だ。木の股から生まれたわけじゃねえし、そう感じることだってある。それに…………今のあいつにはいいガーディアンがいるようだしな。そいつがいるんなら、俺の役目なんてちっぽけなものさ。

 

「…………なんか自虐的に考えてますけど、意外とやってマスガ?」

「いいじゃないか、それくらいさ。ところでそっちの片付けは終わったのか?」

「Of course! 戦果resultも上々ネ!」

 

さて片付けも終わったところだし、そろそろ移動するとするか。ここに長居してるのもあれだしな。最近は放浪者(ノーマッド)としてしか生きてねえし、そもそも帰る場所も自分で捨てたしな。…………その事にはちょっと後悔してるが。だが、俺にとっての居場所はきっとどこにもないかもしれねえ。それでも生きていくことができるんだったらそれでいい。

 

「それにしてもあいつ美人になってたな…………」

「What? 一人言デスカー?」

「気にしなくていい。ただ、守りたい奴のことを考えていただけだ。お前も人のこと言えないだろ?」

「そうデスネー。Sisterを守るのは私のjobデース。アルバレストでもHEAISでも全て受けて守り抜きマース!」

「俺も同じだ。同じ妹を守りたいもの同士、これからも頼むぜ」

「もちろんデース!」

 

大分人の気配もなくなってきたな。そろそろ移動してもいいか。

 

「じゃ行くぞ!」

「Yes!」

 

相棒は俺の手を取ると一瞬光り出したかと思いきやその姿を消し、代わりに俺の身体を六角形の非発光体が包んでいく。非発光体が幾つも重なり合わさったところから真紅の装甲が露わになっていく。最後に[ARMOR COMPLETED]の表示を確認。地面を蹴り、空へと飛び立った。紅の翼を持つ龍と俺は星の瞬く空を駆け抜けたのだった。

 

(一夏、幸せにな)

 

 

 

 

 

「くぅ〜〜〜〜っ! やっぱ夏の日にこれっていいねぇ!」

「ね、ねぇ、悠助? 流石にそれはどうかと思うんだけど…………」

「夏の日に冷たいこれはいけるな!」

「む、武蔵まで…………コア人格ってその人に似るのかな?」

「どうなんでしょうか…………? あ、追加お願いします」

 

祭りの後、結局有香子さんのとこに来ていた。無論、今日は飲む。学園に戻ったらこんなことしてるわけにはいかねえし、何故かアルコールの分解速度が異常な程速いからな。今日くらいはぐっといきたいんだ。

ちなみに武蔵も結構イケる口らしく、それなりに飲んでいる。俺はとりあえずのビール、武蔵は俺愛飲の黒霧島。霧島という単語に榛名が反応していたが、何故だろうか?

 

「はいはい、お待ちどう様です。磯辺揚げですよ、榛名さん」

「ありがとうございます!」

「お、有香子さん、俺もう一杯とツマミを何か頼んますわ」

「私はそろそろ『不沈』でも貰うかな」

「すぐに用意しますから、待っててくださいね」

「あの、なんだかすみません…………何か手伝うことありますか?」

「いえいえ、これくらい大丈夫です。一夏ちゃんも座っててね」

「そういうことだ一夏。ほら、お前も飲むといいぞ」

「ちょ、ちょっと武蔵!? 一夏に何を勧めているんですか!?」

「冗談さ、ははは」

 

結構にカオスだな、これ。まぁ、俺が言えた立場じゃないんだろうが。まぁ、でも楽しいし、面倒くせえこととか纏めて忘れられそうだし、いいか。

 

「はい、ビールとおつまみの砂肝のニンニク炒め、あとこれが不沈です」

「おっ、待ってました!」

「ありがたい」

 

とりあえず砂肝を一口いれる。このなんとも言えない歯ごたえがクセになるんだよな。それにニンニクの風味が効いてるからツマミじゃなくて一品料理みたいな感じになるんだわ。ついついビールもぐいっといっちゃうんだが、仕方ないよな。

 

「この全身に染み渡る感覚がいい! …………だが、これは少しキツイかもしれんな」

 

そういう武蔵の顔は酔いかけ寸前である。これはそろそろ引き上げ時だろうか? かれこれ二時間近く飲んで食っているわけだし。…………やべぇ、財布に不安しかねえ。

 

「武蔵は限界として、一夏、榛名、お前らは十分か?」

「私は満腹だよ」

「は、榛名もお腹いっぱいですぅ…………」

「…………お前、結構食ったのな」

 

よく見れば榛名、小皿が大量にある。おそらくあれには磯辺揚げか野菜の天ぷらが入っていたと思われる。有香子さん、料理の入れる器とか結構細かく決めているしな。てか、榛名もよく食うのね。てっきり一夏と同じで少食かと思ったがな。

 

「つ、つい、箸が進んでしまって…………」

「あらあらぁ、良い事を言ってくれるわね。よかったらデザート食べていきますか?」

「甘味かっ!?」

「うおっ!? 武蔵がデザートで復帰した!?」

「あ、でも、有香子さんの作ったデザート、食べてみたいかも」

「うふふ、じゃあ四人分すぐにお持ちしますね」

 

そう言って厨房の方に行く有香子さんだが、結構早く戻ってきた。その手に持つお盆には人数分の竹の器が載っている。あれは一体なんだろうか?

 

「はい、手作り水羊羹です」

 

俺たちの前に出された竹の器の中には水羊羹が入っていた。甘味とかあまり食わない俺からしてもこれは食べたいと思える感じだ。

 

「すごいな…………水羊羹とは」

「なんだか光り輝いて見えるよ!」

「榛名、感激です!」

 

他の面々も驚いたような表情をしている。では早速頂くとするか。匙を入れると羊羹のような重い入り方ではなくさっと軽く入る感じだ。そして口の中に入れると滑らかな舌触りと程よい甘さが一瞬にして支配する。だが飲み込むとすぐにさっと引き、また食べたいと思えるようなものだ。それに涼しげなものだから、夏の夜には向いている。

 

「あぁ〜、とても美味しいです〜」

「涼しげな喉越しが見事なものだな」

「榛名にはこの甘さが丁度いいです!」

 

どうやら全員お気に召したようで、今にも昇天しそうなほど極楽の顔をしている。…………俺、時々思うんだが、有香子さんの飯で紛争とか止められんじゃないのか? 美味いものに敵も味方もねえだろ。

気がつけば水羊羹はいつの間にかなくなっていた。やべぇ、つい夢中になって食っていたぞ。さて、会計会計。

 

「じゃ、あと会計でお願いしますわ」

「はい。では本日はこれで」

 

表示された金額は大体想像していた通りになった。うん、あれだけ飲んだり食ったりすればそうなるわな。さて財布には…………結構余裕持って払えるな。

 

「そんじゃ、これで」

「それでは、こちらがお釣りになります。これからもご贔屓に」

「はいよー、またそのうち来まっせー」

 

そう言って俺たちは店を出た。ふぅー、それにしても食ったなー。気分は最高だ。だが、明日には学園に戻らなければならないというのと、まだ夏休みが終わっていねえっていうことだ。正直やる気とか湧かなそうだ。

 

「それにしても美味かったな、榛名」

「ええ。とても美味しいお料理でした」

 

どうやらこの二人にも気に入ってもらえたようだ。よかったよかった。

 

「結構遅くなっちゃったね。帰ろっか?」

「そうだな。明日は荷物まとめたりしないといけねえし」

「あ、その前に私たちはコアに戻る事にするよ」

「そうですね。今日はとても楽しかったです」

 

武蔵と榛名は俺と一夏をそれぞれ見てそう言う。そうか、もうコアに戻るのか…………最初はとことん面倒臭がってはいたが、こうやって過ごしていているといつもと違う賑やかさがあって楽しかったな。

 

「そうか。今日は楽しかったぜ。またそのうち来いよな」

「榛名もだよ。またこうやってどこかに出かけようね」

「ああ。その日を楽しみにしているといいさ、悠助」

「一夏。今度は前もって言っておきますね」

 

言い終わると二人は手を出してきた。そういう事な。

 

「これからもよろしくな、戦友(武蔵)

「よろしく頼むぞ、戦友(悠助)

「これからもよろしくね、戦友(榛名)

「よろしくお願いします、戦友(一夏)

 

そう言い切ると、二人は淡い光に包まれはじめたかと思いきや急に強い光を放ってきた。あまりの眩しさに俺は目を閉じてしまう。スタングレネードの比じゃないほど目には刺激がビンビン来よった。目を開けるとそこに二人の姿はすでになかった。お、なんかメール来てるし。『祭り、最高だったぞ。 悠助』…………って武蔵じゃんか。ちゃんと戻れたんだ。一夏もメールタブを開いてなんかほっこりとしている。おそらく榛名から来たんだろうな。

 

「ほら、俺たちも帰ろうぜ」

「うん! あ、その前に」

 

一夏は急に俺の手を取る。全く…………甘えん坊なやつだぜ。

 

「あいよ。ほら行くぞ」

 

俺たちは月が照らす街中自宅に向かって歩いて行った。ただし、速度は一夏の転ばないような速度で。それと、この手は家に着くまで離すつもりはねえし、離してももらえないだろうよ。だが、別にいいさ。一夏の側にいる、そう感じるだけで最近の俺は落ち着いているんだから——。




悠助「…………作者、大変だったな」

まぁね…………特に骨折なんかはシャレにならないし。

一夏「そういえば、今日の機体解説ないですね。どうするんですか?」

今日なしで。機体解説については登場した機体についてだけやります。楽しみにしてた方にはすみません。

悠助「そういうことらしいな。ということだ、こんな派手に投稿が遅れた小説だが」
一夏「生温い目でよろしくお願いしますね」
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