守りたい、ただそれだけ(本編完結)   作:ディニクティス提督(旧紅椿の芽)

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第31話

夏休みが明けた。約一ヶ月ぶりに入る教室は何処か新鮮味がある。だが、その教室の中では

 

「あ"ーっ! お願い! 宿題手伝って!」

「無理無理! こっちだってレポート終わってないのに…………」

「誰だ! 読書感想文なんて考えた奴は!?」

 

夏休みを謳歌しすぎて課題が終わらず、地獄を見ている奴らがちらほらといる。下手すれば俺もああなっていたのだろうか…………完徹二日で終わらせたからなんとかなったが、読書感想文なんてどういう風に書けばいいのか全く分からなかったぞ。選んだ本の問題もあるかもしれないが…………『ソラを見た兎』なんて俺に合わねえよ。

 

「なんだか見慣れた光景だなぁ。私、この時だけはいじめられなかったし…………」

「あ、うん…………とりあえず、悲しい事を連想するんじゃねえ。初日から気が滅入るぞ」

「そうなんだけどね…………やっぱりどうしても離れないから」

 

どうやらこの光景を見て一夏は過去を思い出してしまったようだ。今こそ何も起きてないからいいものの、ふとしたことで過去の事がフラッシュバックして来るのは未だに治らない。一種のトラウマ、PTSD——心的外傷後ストレス障害になりかけているのかもしれん。俺はそれを綺麗さっぱり消してやりたいと思うんだが、それは不可能だ。できるのはただ守り、側にいるだけ。

 

「でも気にしなくていいよ。私の中では悲しい記憶じゃないからね。ちょっとした思い出にでもなっているのかな?」

「そう言われてもな…………」

 

頬をかき、一夏から視線をそらす。一夏はそれで納得しているようだが、俺が今ひとつ腑に落ちないんだわ。

 

「ほら、そろそろ山田先生が来るから、ね? 明るくいこうよ」

 

笑顔を振りまいてそう言ってくる俺のオアシス。これだけで相当な元気をもらえるというものだ。俺にとって金よりも価値のあるこの笑顔は、絶対に消させはしないぞ。たとえ火の中水の中紛争地帯テロ勃発地域であってもな。

 

「それじゃ、SHR始めますよ〜」

 

子犬のような印象のある山田先生が教室に入ってくると皆席に座る。ちなみに現担任である。代わりに織斑千冬が副担任をしているらしい。あと、自称天才とモップはどうなったか俺は知らん。強制追試になったというのまでは知っているんだが、その後の足取りとかさっぱりわからねえんだよな。まぁ、別にどうだっていいんだが。

 

「では皆さんに大事な連絡です。九月中旬に学園祭が執り行われることになっています。それに向けての準備を各クラスで進める事と、生徒会から来ています。企画の提出は今週末までに私まで持ってきてくださいね」

 

さて、IS学園の一大イベント、学園祭の時期になったようだ。といっても、そもそも学園祭とはなんなのか全く知らない俺がいるわけなんだがな。夏祭りみたいな感じではないような気がするのは確かだが…………あー、ダメだ、思いつかねえ。

 

「それでは皆さん、夏休みの課題提出と今日のテストを頑張ってくださいね!」

「「「えぇぇぇぇぇっ!?」」」

 

山田先生は特大の爆弾を投下していくと教室を後にした。いや待て、テスト!? んな話聞いてねえよ!? …………アカン、真面目に勉強してないから無理だ。気が滅入る。それよりも周りの絶望度合いとかシャレになんないんだが…………今ならその気持ちすげえわかるわ。

 

「え…………テスト、あるの?」

「みたいだな…………萎える」

「と、とりあえず頑張ろうね!」

「せ、せやな。やりきったるぞ」

「「「糖分濃度が増してる!? セシリアッ! ブラックコーヒー、プリーズ!!」」」

「皆さんの分もちゃんと用意しておりますわよ」

「「「手際いい!?」」」

「ですが、テストを無事乗り切った方にのみ差し上げますわ」

「「「死んでも乗り切るぞ!」」」

 

カオスだが、それでいて一体感のある一組なのであった。というかセシリアの調達速度やべえな。

 

 

というわけで現在午後の最終授業である。テストは基本教科のみで終わったからそこまでの時間はかかってない。ちなみに乗り切った連中のうち七名がブラックコーヒーを摂取中だ。全く…………何がそんなに甘ったるいんだ。わけがわからないぜ…………。

よし、話を戻そう。でまぁ、その授業だが、特にすることもないようで、学園祭でやるクラスの出し物についての話し合いになっている。

 

「では、この中から選びたいと思います」

 

そう言ってクラスの意見をまとめているのは臨時クラス代表の鷹月静寐、クラスの中で比較的まともな人間である…………筈なんだ。現にこうやって残された原案から希望をとって絞ろうとしている。だが問題はそこじゃない。

 

『紅城悠助とホストクラブ』

『紅城悠助とツイスター』

『紅城悠助とポッキーゲーム』

『紅城悠助と登るオトナの階段』

 

なんで上がってる奴がどれもこれも俺絡みなんだよ!? しかも特に最後の奴! むちゃくちゃイケナイ臭しかしねえんだけど!?何を考えてるんだこいつらは!?

 

「おいちょっと待てコラァァァァァッ!! なんで俺が必然的に絡んでいるんだ!!」

「い、いやぁ、センパイからの圧力とか、ね?」

「そ、そうなんだよ。みんな飢えてるというか…………」

「紅城悠助は我々の共有財産である!」

「おい最後の奴、手をあげろ」

 

躊躇いなくデザートイーグルを抜き、構える俺。前半二つはまだ理解できる。だが、俺はいつからそんな扱いになった? 俺は一夏以外の誰のものにもなる気はねえ。というか一夏だって俺のものだ。

 

「「「す、すみませんでした!!」」」

 

それが効いたのか軒並み机の上で俺に向かって土下座を始める一組の面々。これだけ見れば中々にカオスである。

 

「それでは全部廃案でいいですね?」

「「「イエスマム!!」」」

「となると、また振り出しですか…………」

「む? 喫茶店などはどうだ? 経費の回収としては向いているだろ?」

 

一度全てを更にしたところに出てきたのはとりあえず今までの中で最もまともな意見だ。発案者はラウラ。どうやらこの手の文化にも常識人としての知識はあるようだ。

 

「それいいかもね! それにちょっとコスプレとかしてみるとみんな来るかも」

「喫茶店にはメイド服で十分だろう。あるツテで全員分取り寄せてやるぞ」

「それでは茶器も必要ですわね。仕方ありませんわ、自宅から届けさせましょう」

「「「ヨーロッパの代表候補生って何かぶっ飛んでいる!?」」」

 

実際何かかにかはぶっ飛んでいるだろう。というかラウラ、そのツテが恐ろしく怖いんだが…………って、

 

「おいラウラ、俺はメイド服じゃねえだろうな…………? なったら放送禁止レベルの物ができるぞ」

「心配するな。紳士用もあるそうだ。なんでもクラリッサが『はぁれむ喫茶、つくっちゃお☆』という喫茶店営業ゲームを買ったらしくてな。大分はまっているそうだ」

「うわぁ…………なんだかその人間違った知識とか持っていそうだね」

 

ラウラの言うことに一夏は少々ドン引きしているようだ。というかクラリッサってラウラの副官でいいのか? 何故そんなギャルゲーをしてんだよ。そもそも俺その手のゲームなんてした事ねえから何を言っているのかわからねえけどな。

 

「では、メイド喫茶でいいですか?」

「「「いいとも!」」」

 

こうして結構あっさりとクラスの出し物は決まったのであった。というかこんなましな思考が出来るんだったら最初っからそうすればいいのによ…………なんでみんな俺をダシに使いたがるかな…………。

 

「で、喫茶店としてはどういう営業ラインナップだ?」

「普通に紅茶とかコーヒーとかを中心しよう。後はデザートとか軽食類だね。休憩場としての意味合いもあるからできるだけ椅子とテーブルは多く取らないと」

 

シャルロットはそう言いながら教室の端から端までを眺めて考える。もしや、あの頭の中では既に構想が固まってきているのだろうな。なんか手帳を取り出して大まかな配置とかも書き始めてるし…………あいつすげえ…………。

 

「じゃ、料理のできる人は厨房担当に回す事にしましょう。ところでできる人ってどれくらいいるのかな?」

「勿論、このわたくしが——」

「「「それはダメ! 全面規制!!」」」

「あんまりですわ!?」

 

鷹月の発言に反応するセシリアであったが、あえなく轟沈。それもそのはず。改善されているとはいえ、料理でダークマターやら地球外物質を生産するという凄惨な光景をガチでやらかしたからな…………なんでサンドウイッチ作って劣化ウランみたいな放射性物質反応が検出されんだよ。これの処分の際に簪の緋龍のビームブラスターで焼き払ったのは今でも覚えている。

 

「…………セシリア以外でできる人、挙手して」

 

再び鷹月が言うとそれなりの人数が挙がった。その中に一夏やシャルロットも含まれている。まぁ、一夏は言わずとも、シャルロットも心配はないだろう。少なくともセシリアよりは不安がなくて済む。

 

「じゃ、とりあえず原案はある程度纏まったよ。織斑さん、提出お願いしてもいいかな? 私、図書委員の仕事があって…………」

「うん、いいよ。私は特に何もないから」

「ごめんね」

「気にしなくていいよ」

 

一夏は鷹月から原案の書かれたプリントを受け取る。そうなると俺がついていかなきゃいけねえのか? 一応不安だし行くとするか。ん? 通信? このコールは…………あいつか?

 

「? 悠助? どうしたの、後頭部アンテナなんか展開して」

「知り合いから通信が入ってきた。ちょっと独り言っぽくなるがいいか?」

「バレたら大問題だろうがな」

「傭兵に国際法も関係ねえよ」

 

思考操作で回線を開く。

 

『よぉ、元気にしてるか、紅城』

「ああ、この通りピンピンしてやがるぜ。お前から急にかけてくるとはびっくりしたぞ。今何やってんだ? さっき榴弾が炸裂する音が聞こえたが」

『いやぁ、中東のど真ん中で紛争中。政府側と反政府側の抗争がやばくてさ。あ、俺は反政府側な。流石に女性中心の政治運営は腹立つからよ。ちょっと徹甲榴弾をプレゼントしてやったわ』

「本当に変わんねえなお前…………で、戦況は?」

『現在は両陣営の戦力が均衡してて長期戦になる可能性が高い。だが、向こうが擬似コア機を投入してきたら危ねえだろうな』

 

中東で活動中の同業者からの通信だった。どうやら暇らしいな。てか、どんだけ政府にムカついてる奴ら多いんだ。あいつは昔から女尊男卑が大っ嫌いの差別大っ嫌いな奴だから、そこで暴れてても仕方ねえか。

 

『うっ、やばっ。政府側がなんかMBT持ち出してきやがった。悪りい、少し暴れてくる。じゃ、またそのうちな。——第二小隊、LAWを叩き込みに行くぞ!』

「おー、元気でなー」

 

相変わらずの狂犬…………いや狂狼っぷりだこと。てか何? あいつ今大隊でも仕切っているのか?

 

「…………どんな会話してるの?」

「仕事絡みだから仕方ないだろ。俺たちの間じゃ良くあることだ」

「そうなんだ。じゃ、私これ出してくるね」

「俺も行ったほうがいいか?」

「先生に出してくるだけだから大丈夫だよ」

 

そう言って足早に出て行く。ってかよく見りゃ全員いねえ…………もしや終わったのか? 通信中に?

 

「…………俺、今日ついてねえんじゃねえのか?」

 

そんな呟やきが自然と漏れてしまう俺だった。

 

 

 

 

 

なんだろう…………悠助のボヤキが聞こえた気がするけど。

 

「織斑さん、どうかしましたか?」

「いえ、なんでもないです。ところで学園祭の出し物はこんな形になりました」

 

私は今職員室にきている。まぁ

山田先生に学園祭の出し物の原案を書いた紙を持ってきただけなんだけどね。

 

「メイド喫茶、ですか。なんだか楽しそうですね。私も参加してみたいです」

「あ、クラス全員参加みたいですよ。山田先生もほら、ここに接客担当って書いてあります」

 

実際ドジりやすい山田先生を含めるか含めないかで結構迷ったけど、楽しんだもの勝ちということで含めることにした。ただしオーダーを取るとかのドジっても被害が極めて少ないところにしてある。私だってドジるときあるのに厨房と接客担当だよ…………自信無いよ。というか、私とシャルロットが一番大変なんだけど…………なんでシフトで二つも仕事をしなきゃいけないんだろ…………断らなかった私も悪いんだけど。でも、やってみたいって思いはあるし、嫌じゃないよ。

 

「あ、本当です。では、こちらの方は先生の方で預かって置きますね」

「わかりました。失礼します」

 

山田先生に原案を預け職員室を後にする。さて、これからどうしようかな。悠助にはなんだか悪いことしちゃったような感じがするし、訓練に誘ってこようかな。そう思って一旦教室の方に向かった。その途中だった。

 

「わぷっ!?」

 

誰かに内履きの踵を踏まれて顔から廊下に転んでしまった。しかもとっさのことに反応できなくて鼻を思いっきり打ち付けて擦ってしまった。あまりにも痛くて涙が出てくる。痛いよ…………というか、なんなの…………新手のいじめ? こういうのは小学校からあったけど、全くと言っていいほど慣れることなんてないからね…………むしろ、トラウマを誘発しちゃいそう。

 

「え、あ、その…………」

 

誰がしたのだろうかと思い背後を振り向くと、私の脱げた内履きの踵を踏んで何故か戸惑って固まっている、何処か簪に似た人がいた。

 

 

「…………一夏、大丈夫?」

「いっち〜、はい絆創膏〜」

「だ、大丈夫だよ…………のほほんさん、ありがとう」

「えへへ〜、どうしたしましてなのだ〜」

 

あの直後丁度現れた簪とのほほんさん(本名布仏本音)によって回収され、今生徒会室の方に連れてこられた私。あの状況を目の当たりにしてしまった簪はかなり慌てていたようだ。どのくらい慌てていたかって? うーん、何を血迷ったのかシールドクローを取り出して、私の内履きの踵を踏んでいた人を脅迫してたくらい。ちなみ踏まれた内履きだけど、甲の部分のゴム帯が切れかかっていて買い換えたほうがいい状態。加えて鼻と膝を少し擦りむいたせいでヒリヒリする。制服に血がつかなかったのが幸いだよ。

 

「…………で、なんで一夏をいじめたの、お姉ちゃん。まぁ、一夏は可愛いから、ちょっといじめてみたくなる気持ちはわかるけど、それは妄想の範疇にとどめておくべきだよ」

「違うわよ!? いや、確かにちょっと驚かせてみようかなー、と思ってやったけど…………でも、いじめようなんて思ってないわよ!! 本当だから、マジだから、信じて簪ちゃん!!」

「…………虚さん、判断は?」

 

…………今日の簪はなんだか怖い。現に件の簪に似た人に向かってビームガンを突きつけているし…………これ、どういう状況?

 

「簪様、躊躇いなくそのトリガーを引いてどうぞ」

「…………了解しました」

「虚ちゃん!? 簪ちゃん!? 私って死ぬこと確定なの!?」

「えっ、違うんですか?」

「…………一夏泣かせたら、問答無用で極刑」

「今日の簪ちゃん、なんだか理不尽だわ…………」

「…………とりあえず、お姉ちゃんは一夏の替えの内履き買ってきて、自腹でね」

「はーい——っ!?」

「…………返事は?」

「い、イエスマム!」

 

そう言って簪似の人は生徒会室を後にしていった。な、なんなんだろう、これ?

 

「すみません、お嬢様がご迷惑をお掛けしてしまって…………」

 

するとメガネをかけているリボンの色からして三年生の人が私に頭を下げてきた。え、え、これどういう状況?

 

「い、いえ、気にしないでください」

 

とは言うけど、実際結構ぐっさりきたんだよね…………階段で足を引っ掛けられて怪我したことあるし、内履きは新しくしてもその度に盗まれて学校であまり履いたことないし…………なんだかトラウマの部分部分を掘り起こされている感じ。

 

「そうですか…………そう言えば自己紹介がまだでした。私は楯無様の従者、布仏虚と申します」

 

ん? 布仏? もしかして…………

 

「本音のお姉さんですか?」

「はい。本音は私の妹です」

 

…………言っちゃ悪いと思うけど、全然似てない。あまりにも似てなさすぎてびっくりした。ここまで似てない姉妹って…………あ、私と千冬姉さん。実際アレを姉とは思いたくはないんだけど…………生まれながらの才能持ちとそうでない凡人じゃ、こんな感じなのかな。唯一この二人と違うのは、妹が姉にいじめられてた事。あ…………封じていたのがいろいろ出てきちゃった…………。

 

「ぜえっ、ぜえっ…………こ、購買から買ってきたわよ…………」

 

派手に息を切らしながら内履きの入った袋を持っている簪似の人が戻ってきた。…………端からみたらただの変態です。明らかに内履きを見て興奮してる変態です。大事な事なので二回言わせてもらいました。

 

「…………酸素、強制的に吸わせて」

「了解なのだ〜」

「あ、ちょ、無理矢理はやめてー!」

 

なんか変態さんがのほほんさんに酸素を無理矢理吸わされている。ここ、本当に生徒会の部屋なんだよね?

 

 

「とにかく、さっきはごめんなさい。事故だけど、怪我させてしまったことについて謝るわ」

 

酸素強制吸入よりしばらくしてまともな空気がやっと流れ始めた。これ、悠助がみたらなんて突っ込むんだろう…………気になる。ちなみに今、壊れた内履きを脱いで新しいのに履き替えている最中である。どうでもいいことだけどね。でも、壊れたのどうしよ…………ゴミ箱無さそうだし。部屋に持って帰るしかないみたい。

 

「自己紹介してなかったわね。私は更識楯無、生徒会長よ。よろしくね、織斑一夏ちゃん。私の事は楯無でいいわよ」

「よ、よろしくお願いします。私も一夏で十分です」

「で、早速だけど生徒会に入らない?」

 

とまあ変態——じゃなかった、楯無さんにそう誘われる。うーん、そう言えば私部活とか入ってなかった…………理由? 運動とかあまり得意じゃないし、かといって音楽とかもあまり得意じゃないしね。簪もいるから入ってもいいかな?

 

「別にいいですけど…………」

「良かったぁぁぁぁぁっ!! これで学園祭に出し物が出来る!」

「えっ?」

「いやー、今年は生徒会にある要望が来ていてね、それが三人のグループでライブをして欲しいって言うのよ…………でも、乗り気なのは私と簪ちゃんだけで…………」

「…………本音や虚さんはちょっと遠慮している」

「え? どうしてなの?」

 

のほほんさんはともかく、虚さんはなんだか何でもできそうな雰囲気あるけど…………。

 

「…………音痴なんです」

「…………ああ、はい」

 

物凄く恥ずかしそうに言う虚さん。そこまでのことじゃないと思うんだけどなぁ…………私みたいに何でもダメな人だっているわけだし。

 

「で、簪ちゃんが一夏ちゃんの歌声が綺麗だって言うからスカウトしたのよ」

「…………簪」

「…………口滑った、後悔はない」

「このままだと何も出来ずに終わっちゃうから、ここは一つ協力して!」

 

楯無さんはそう言うと手を合わせて頭を下げてきた。正直、私も迷っている。別に手伝うのはいいんだよ…………でも、歌でしょ? あまり上手く歌えないけど大丈夫なのかな?

 

「い、一応やれるだけやってみます」

「本当!?」

「ぴゃっ!?」

 

急に手を取られてびっくりする私。というか楯無さん、物凄く目が爛々と輝いてないですか? とても怖いんですけど…………。

 

「あ、ごめんなさい…………ちょっと昂ぶっちゃって。でも、本当に参加してくれるの?」

「ほ、本当ですよ」

「よかった。じゃ、今日は解散でいいわ。練習とかは明日からやるわよ!」

「…………おー」

「お、おー」

「お〜」

「…………だいぶカオスになりましたね、お嬢様」

「それは言わないで…………」

 

と、色々ありそうな生徒会に入った私。会長に怪我させられたりしちゃったけど、別に悪い人じゃなさそうだし、メンバーも個性豊か——というより、個性が立ちすぎている人しかいない——だし、なんだか楽しくやれそう。こうして私の生徒会参加が決まったのであった。

その後解散して寮の自室に戻ったら、案の定悠助がいた。

 

「おう、おかえり。随分と遅かったな」

「まぁね。生徒会に入ったりしたしね」

「あ、お前も入ったのか——って、その傷と内履きどうした!?」

 

…………あー、やっぱり気付いちゃったよ。しかも悠助いつもと違ってかなりあたふたとしているし。取り乱しすぎじゃないかな?

 

「なに!? 誰かにいじめられてたたのか!? おいおい、俺が目を離した隙に何が起きたんだ!?」

「お、落ち着いて。ちょっと生徒会長に悪戯されちゃって…………」

「何⁉︎ 楯無の奴か!? あの野郎…………副会長の俺が直々に成敗したるわ!!」

 

そう言って部屋を飛び出していった悠助。なんだか悠助も慌ただしそうだね。なんだかしばらく帰ってこなさそうだし、先にシャワーでも浴びてようかな。そう思ってシャワーを浴びたのはいいけど…………

 

(うー…………やっぱり染みるよぉ…………)

 

シャンプーが鼻の傷口に染みて痛い。これ、当面の問題だね。それにしても悠助も生徒会に入ってたんだ。それも副会長だなんて…………え?

 

「悠助って副会長なの!?」

 

 

 

 

 

「ちょっと待ってちょっと待って!! 悠助君!! これにはマリアナ海溝より深い理由が——」

「知るか!! 水たまりより浅いだろうが!!」

「酷い!? って、それよりも訳を聞いて——」

「聞く耳持たん!! ураааааа!」

「なんでこうなるのよぉぉぉぉぉぉっ!?」

 

生徒会室より謎の銃声と悲鳴が響き渡ったらしいが、誰もこの事実に気づいていない。たとえ気づいていても無視した。一部では都市伝説として語り継がれるが、それはまた別の話である。

 

 

 

 

 

「ふぅ、粗方は片付いたな」

 

中東。世界きっての内戦紛争多発地帯。今日もまた政府側と反政府側の抗争が一悶着あった。死者? 多すぎて数えきれねえよ。民間人も死んでやがる。こんな悲しい戦争を生み出す権化は全て思想の食い違いだ。だが、この戦闘の発端となる思想はあまりにもふざけきっているものだ。

中東の多くはイスラム教を信仰している。神は確か…………アッラーだったか? まぁ、その辺はどうでもいい。だが、この地に踏み込んだ人間は新たな神を持ち出してきた。いや、あれは神と言える存在か? 要するに、ISとともに持ち込まれた女尊男卑という思考が信仰の礎を掻き乱し、政府が男達を虐げるようになった。この日は反政府側の優勢に終わったが、夜襲があるとも限らねえ。だから俺はこうして起きているしかない。生憎、傭兵は身体が資本な代わりに無駄に頑丈に出来ているからな。

 

(だが、俺が女尊男卑の象徴にくっついちまっているのはいささか皮肉なんだろうな)

 

ISが悪いように言っているかと思うが、そうじゃねえ。俺だってISドライバーだ。世間じゃまだ公開されてないオリジナルコアドライバー。お陰で仕事も稼げている。擬似コアなんてものが出回っているらしいが、彼奴は全部ぶっ壊したいとか言ってたな。まぁ、殲滅戦になった時、最強の力を発揮するのは彼奴だ。俺の戦闘スタイルとは少し違う。頼るシステムの違いだけだがな。

 

RGAT3-80 藍狂狼

 

それが俺の相棒の名前だ。名前の通り俺の機体は藍色——というよりは群青色の装甲が特徴、後は全身装甲タイプというくらいか? こいつのおかげでシールドエネルギーの減少は最小限に抑えている。こいつとも長い付き合いになってきたな。いつ出会ったか、何処で建造されたかは一切不明だ。謎の多いやつだぜ。

そんな風に思いふけっている時だった。

 

〔なんか敵が来てるっぽい!〕

 

愛機からそう警告がだされる。ちっ、こんな夜まで来やがるか…………。

 

「敵は?」

〔擬似コアのラマーチが五機っぽい!〕

「奴らもそろそろ本気になってきたってわけか…………やるぞ、こっちにはできる限り被害を出さないようにな」

〔わかってるっぽい!〕

 

愛機の受け答えはいつもこうだ。わかっているのかわかってないのかわからねえ答え方。だが、口調でわかる。何より反応が違うぜ。

 

「二分でカタをつけるぞ。あれをやる、いけるか?」

〔大丈夫っぽい!〕

 

 

 

 

 

——EXTERMINATION SYSTEM Stand By——

 

 

 

 

 

 

その無機質なボイスとともに機体に変化が現れた。肩と腕の装甲がスライドして禍々しいアカのフレームが露出し、薄緑のバイザーの下に隠されていたこれまた禍々しいアカに染まったデュアルアイと頭頂部センサーが姿を見せる。只ならぬオーラが付近一帯を支配していた。

 

〔さぁ、素敵なパーティー始めましょう?〕

「あぁ、こいつを楽しみにしていたんだぁぁぁぁぁっ!!」

 

群青の機体はアカの閃光を引き連れて戦場を駆け抜ける。その手に持つ直刀と、両腕から発せられるレーザーブレード、胸部のマシンキャノンと有線ミサイルが、敵の命を確実に刈り取っていく。その後に残されているのは、ただの死体。返り血を浴びようと敵を排除(Extermination)するのはその姿は、僅かに目を覚ましていた味方からも畏怖される存在であった。あれが昼間自分達を支えていてくれた機体なのか。疑問に思う者は決して少なくはなかった。後に偶然この光景を見た一人の少年兵はこう言っている。

 

——まるで荒れ狂う青い狼のようだ、と。

 

翌朝、中東のとある小国の政府は紛争敗北を認め、反政府側の勝利と終わったと世界は報道した。だがそこにあの群青の狂狼という存在があった事を誰一人として知ることはないだろう。




悠助「今回はやけに早いな」

課題せずに仕上げたからな。突貫工事最高。

一夏「何をしてるんですか…………」

まーまー、気にすんなって。では、こんな作者が書いている作品ですが、これからも生温い目でよろしくお願いします。
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