守りたい、ただそれだけ(本編完結)   作:ディニクティス提督(旧紅椿の芽)

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第34話

「ねえねえ、次はどこに行ってみる?」

「おいおい、引っ張るなっての…………」

 

ライブ終了後の一夏と楽しく学園祭を過ごしている俺。だが、周りからはあれだろうな、アイドルを護衛しているようにしか見えないだろう。現にグラサンかけているわけだしな。ちょいちょい声をかけてこようとするなんか国のお偉方的なのもいるんだが、俺がそっちを向くとビビって逃げちまうんだよな…………俺そんなに眼光やばいか? まぁ、若干いやらしい目で一夏を見ていたから殺気をちょっと放ったような気もしなくはないんだがな。

 

「そういえば悠助もお昼まだなんだよね?」

「そういやそうだったな…………てか、朝から何も口にしてねえ」

「じゃ、あそこでクレープでも食べよ? さっき榛名に買ってあげたらとても喜んでいたんだ」

 

一夏に手を引かれるがまま、クレープ屋の屋台へと連れて行かれた。確かにそろそろ昼時だよな。大して動いていたわけではないが、俺の体の燃費はM1エイブラムスと同じくらい酷え。下手するとかつての大和型戦艦並みかもしれんぞ。

 

——誰が一リットルの燃料で一メートルも進めない化物だ!! …………私も燃費は悪いから人の事を言えんが…………——

 

なんか武蔵が言っているが放っておこ。ちょっとブツブツ言いだしていて怖いんだがな…………なんで、演習番長とかそんなものが聞こえてくるんだよ。

 

「いらっしゃーい。なににするんだー?」

「じゃあ、ミックスベリーを一つ。悠助は?」

「俺か? そうだな——」

 

だが、悲しいかな。俺は甘いものがあまり得意ではない。いざとなればレーションに入ってるチョコバーでも食うが、基本的に菓子類は口にしない。だが食えるもんがな…………適当に頼むか。基本的にその気になればなんでも食えるからな。ある時はカエルをバラして食ったり、ヘビを解体して食ったりしたし、極め付けはサソリだろうな…………長期滞在任務だってことをすっぽかして、糧食をがっつり持って行かなかった結果がこれである。

 

「あー、ごめんねー。さっきのでミックスベリーは売り切れたみたい」

「そう、なんですか…………ちょっと残念」

 

結構マジで残念そうな顔をしている一夏を見てなんとかしてやりたいという思いが出てくる。惚れた女の弱みなんだろうかね。だが、好きな女が幸せでいることほど、俺にとっての幸せであるからな。無い頭ひねって考えてみるか。しかし、銃弾砲弾爆弾は各種わかるが、こういったものに疎い俺はどうしたらいいのかわからん。どうするべきなんだろうか…………。ん? 待てよ、ミックスベリーって事はイチゴ系のやつになるのか? そんでもってベリーって聞いてブルーベリーしかわからんのだが…………一発賭けに出てみるか。

 

「それじゃ、イチゴとブルーベリーを頼む」

 

俺がそう言うと売り子はどこか納得したような、含みを持った笑みを浮かべ、注文に応じてくれた。どういうことかわからないが、そういうことなんだろうよ。

 

「はい、イチゴとブルーベリーお待ちどうさま」

「おうよ。あ、これ代金な」

「あ、はい、どうも」

 

二つを受け取った俺は一旦その場を離れた。まぁ、長居していてもあんまりいいことはなさそうだしな。

 

「で、一夏、お前はどっちがいい?」

「う、うーん…………イチゴの方かな?」

「わかった、ほらよ」

「ありがとう」

 

一夏はクレープを受け取ると早速一口かじった。うおぉ…………ものすげえ甘そうなんだが…………。

 

「うん! やっぱりイチゴは美味しいね!」

 

どうやらご満悦の様子。一夏、イチゴとか好きだもんな、そりゃ喜ぶわ。

 

「ねぇ、そっちも一口食べさせて?」

「ああ、構わねえぞ」

 

俺はそう言ってブルーベリーのクレープを一夏に差し出した。それにかじりつく一夏の姿はどこか小動物のようにしか思えない。なぜか餌付けをしているような気分に襲われる。どうしてなのだろうか? だがまぁ、悪い気分ではなさそうだし、いいか。

 

「う〜〜ん! やっぱりこっちも美味しい!」

「ハハハ、そいつは良かったな。ついでにミックスベリーも食えたようじゃねえか」

 

俺がそう言うと一夏は目をパチパチとさせた。おそらく何を言っているんだろうと思っているんだろうが、自分のと俺のとを交互に見て急にハッとした顔になった。

 

「あ、ストロベリーとブルーベリー!」

「そういうことだ。どうせ小せえサイズだし、俺の分も食っていいぞ」

「えっ!? いいの!?」

「ああ…………甘いもんダメだと思うしな」

「やったー♪ あ、でも体重…………」

 

十分細身だと思うんだが? というか、一夏って本当に食わないよな…………ダイエットとかってやつか? そんなことをしなくても十分に綺麗なんだと思うんだがな。

 

「あれ? でも、それじゃ悠助の分が…………」

「いや、俺は大丈夫だ。気にしなくていいぞ」

 

お前の笑顔を見れるだけで十分だ、などと恥ずかしいセリフを口にできないが。というか、こんな人の多いところでそんなことを言えるわけがない。言ったら言ったで、周りから何やら温かな視線を受けそうだがらな。一夏、やっぱりライブの時もかなり視線を受けて緊張していたって言うし。

 

「そう? でも…………」

「いいから、気にすんな」

 

だが一夏は納得してくれないようだ。しかも向こうは向こうで何か考えているし…………何を考えているんだ?

 

「あっ、じゃあ、一口食べる?」

 

…………なんでそういう思考に至ったのかなぁぁぁぁぁっ!? 俺は非常に疑問しかわかねえぞ!? 待て待て、そもそもお前ってそういう事を言ってのけるキャラだったか? てか、おまっ、それもう既に口つけているから下手すりゃーーああいや、下手しなくても間接キス——

 

「はうっ…………!?」

 

ほら見ろ、自分で想像して悶絶してるぞ…………羞恥のあまりなのか、段々顔が赤くなってきている。いや、どんな想像にしたらそこまでの事態に発展するんだよ。…………すいません、俺も若干想像した。ダメだ、色々とダメな予感しかしない。

 

「い、いや、それは流石にまずいんじゃないのか? ほ、ほら、人目的な問題とかよ」

「そ、それもそうだね! でも…………」

「な、な! そ、そいつはまた今度の機会に——」

「ご、ごめんね…………無理矢理させようとしちゃって」

 

…………アカン、その表情はやめてくれ。こちとら拒否はしたつもりはないんだが、そう受け取られてしまったためか、若干悲しそうな顔になっている。それを見ていることは俺は辛いし、何より俺が原因だとしたらなおさらだ。

 

「あー、やっぱ一口貰っていいか?」

「え…………?」

 

俺の言葉にちょっと戸惑ったような反応を見せた一夏だが、それも束の間だった。

 

「うん! いいよ!」

 

そう言っていつもの可愛い笑顔を見せてきてくれた。やっぱり百万ドルとかの金よりもずっと輝いて見えるぜ。

 

「それじゃ、はい、あーん」

 

…………待て一夏、それはものすげえ恥ずかしい。今その状態でそれをされたら確実にあの世に逝っちまう。周りに人の気配は感じられない。何故だ…………何故なんだ。だが、それよりも目の前の事案だ。これは可及的速やかに解決せねば。人気もない…………なら、腹をくくるか!

 

「あ、あーん」

 

俺は差し出されたクレープの端っこを少々いただいた。もはや恥ずかしくて味などさっぱりわからん。だが、何故だろうか…………身体の中から何かが抜けていくような…………

 

「あ、あれ? 悠助? ど、どうしたの?」

「お、親父? お袋? もしかすると俺そっちに逝けそうだわ。ちょい待っててくれ…………」

「ストーップ! 待って待って!? それ幻覚だから! 幻! だから戻ってきてーっ!」

 

ん…………今何かを押し込まれた感じがする。なんだろうな、今のは。

 

「ハッ! 俺は今何を…………」

「良かった〜、天国に旅立たなくて…………」

 

どうやら昇天しかけていた模様。戦場でもなかなか死ぬことはなかったのに、ここで死にかけるとは…………なんか今年に入ってから死にかけてること多い感じがするわ。だが、こんな死に方なら悪くもない。まぁ、死んだら一夏が絶対大泣きすると思うから死にたくはないんだがな。だって命あっての物種だろうが。

 

「萌え死ぬとか…………昔からじゃ考えらねえな。で、一夏、ここからどうする」

「そうだなぁ、次は校舎の中を見て回ろうよ」

「了解っと」

 

クレープを食べ終えたようで、次に移動する。どうやら校舎の中が気になっているようだ。部下棟でも色々やっているようだし、楽しめるだろうな。一夏はかなり楽しんでいるようで何より。

…………だが、この時俺の耳に少しだけ爆発音が聞こえていた。常人には聞こえないほど小さなものだが、それが何を意味しているのか俺には、いや傭兵にはわかる。戦場の音だ。何が起きているのかは把握不可能。武蔵にアクセスして情報を仕入れようとしたが、武蔵がそれを拒否。一体何が起きているというんだ…………。唯一アーミアから『爆発音が聞こえても、聞こえないふりをしていろよ』と言う指示が出ている。もし敵の襲撃であるならば俺も出たいところだ。しかしな、アーミアの奴からそんな事を言われるとなると、これはあまり俺が関わっちまっていけない事なのかもしれん。だとしたら、今回ばかりは銃を収めておくか。

 

「うん? どうかしたの?」

「いや、なんでもねえよ」

 

せめて、今を最高に楽しんでいるこいつの邪魔だけはしていけないからな。

 

 

 

 

 

「ふぅ…………」

 

私——山田真耶は現在IS学園より五キロほど離れた空域にいる。学園祭での仕事はどうしたか? それは、みんなに断ってから来ましたよ。はい? じゃ、なんでここにいるのか、ですか? それは——

 

〔無駄口叩いてる暇はないのです! 敵機接近まで六十セコンドなのです!〕

 

私のパートナーが答えてくれたみたい。そう、目的はただ一つ。敵機の撃滅。…………正直言って、この機体でどこまで頑張れるかわかりませんけどね。

 

RGAT2-69 影狼

 

全てにおいて平均的な性能を誇る世代不明機。ただ、それでも並みの第三世代機には引けを取りませんよ。でも、これをいつ、誰に託されたのかはわからないんですけどね。

 

〔残り三十! 各兵装、FCSとリンクさせるのです!〕

 

私のサポートをずっとしてくれているのはこの機体の擬似人格、電ちゃん。姿を見たことはないけど、可愛い声をしているから、きっと可愛い子に違いない。

レーダーには敵機がくっきりと映っている。その数、およそ十。おそらく臨海学校の時に攻めてきた機体とほぼ同一と考えていいでしょう。だけど、学園から出てきた機体は私だけ。戦力差は非常に大きい。でも、それでも私は引くことができない。今この場を下がってしまったら、敵機は必ず学園を襲撃する。そうなったら、関係のない人たちが傷つく…………それだけは嫌です。

 

〔間も無く会敵するのです!〕

「わかりました…………影狼、山田真耶、出ます!」

 

敵機が見えた。やはりあの異形とほとんど同じ形。中には右腕がブレードに換装されている機体もある。でも、やる事は同じ。私はあらかじめ展開しておいたアサルトライフルをバースト射撃で放った。軽い反動が腕を襲うが、この子がサポートしてくれているおかげで、弾道がぶれることはない。どうやら何発かは当たっているみたいだが、向こうにもシールドが張られているのかあまり効果は見られない。それどころか、向こうからも反撃の雨がやってくる。念のためシールドを装備した私のすぐそばを高密度の熱線かレーザーが通り過ぎていった。

 

〔あのレーザーじゃ、この堅いシールドでも耐えられるかわからないのです! 回避に徹してください!〕

「嘘っ!? どれだけ高出力なんですか!?」

 

電ちゃんからシールドが役にたたないと言われ、焦る私。トリガーを引くことだけはやめないが、あまり目立った効果は見られない。このままじゃ、ジリ貧になると思った私は空いている左手にバズーカを展開する。装填されているのは対IS用成型炸薬弾、HEAISと呼ばれる特殊弾頭。当たりどころがよければ一撃で大破に持っていける切り札です。

 

「そこっ!」

 

レーザーを避けながらライフルで牽制、そしてバズーカのトリガーを引いた。無反動砲特有の手応えを感じ、砲口からは必殺の威力を伴った砲弾が一直線に飛んでいく。決して速くない弾速だが、砲弾は吸い込まれるように一機へ直撃、盛大に爆ぜた。敵機の腕や脚が飛び散るが、生体反応が無い為この際気にしない。

 

〔弾着! 確認、なのです!〕

「このまま片付けます!」

 

レーザーを躱し、特徴的なセンサーレンズに向けてライフルを放った。着弾とともに六角形が組み合わさったような物体が見える。シールドバリアが作動している証拠だ。敵機はブレードを振りかぶって、今にも振り下ろそうとしている。ロングブレードと同じ長さの刃渡りを持つ近接武装。だが、

 

「させませんよ!」

 

振りかぶった腕を蹴り飛ばした。普通のISでこんなことをしたら脚部装甲が大破することもあるが、この子はそんな事ない。寧ろ、それすらも考慮されているように、限りなく人に近い構造をしている。蹴られた敵機は大きく体勢を崩す。レーザーを放つ左腕は私に向けられているが、すでに遅い。

 

「これでっ!」

 

ガラ空きの胴体にめがけてバズーカを放った。結果など見る間もなく次の敵機を倒すべく向かう。後方で爆発音が聞こえた。おそらくさっきの機体のものだろう。

 

〔後方注意、なのです!〕

 

パートナーからの警告を受けて、私はその場から離れた。直後、ブレードが薙ぎ払われる。既にライフルを撃ち尽くし、弾倉を換えなければいけないが、そんな余裕を与えてくれるわけがないだろう。ライフルを格納し、私はそのまま右腕を突き出した。上腕部のカバーがスライドし、そこからガトリングガンが姿を現した。

 

〔フルオート、なのです!〕

 

その声とともに夥しい量の弾丸が吐き出された。頭部に向かって放たれた25mmの対IS用APFSDS弾が断続してシールドを作動させる。シールドは放たれた弾丸に耐えきることはできず消失、最も防御が低いであろう頭部を蜂の巣にしていった。センサーレンズを破壊された敵機は私を感知する術を失った。私はそのまま上昇する。すると、残った二機が私のいたところへレーザーを放った。だがそこに私はおらず、代わりに行動不能になった敵機がいるだけだった。高密度のレーザーに耐えることなどできず、推進剤に引火したのか盛大な爆発を引き起こし、残骸は海へと没した。

 

〔バズーカ、残弾三! ライフル、残り二十マグ! 右腕ガトリングガン、残弾二十パーセント!〕

 

レーザーの雨の中、マガジン交換ができず、現在使えるのはバズーカとガトリングガンだけ。射程的な問題も考えれば、バズーカだけになるだろう。だが、それでもやるしかない。

 

「当たってください!」

 

そう願いを込めてバズーカを残弾全て放った。一発はレーザーで撃ち落とされ、残りの二発は当たった。だが、爆煙の中からでてくる残骸を見る限り、完全に倒せてないと私の直感が告げてくる。

 

〔敵機、中破一! まだ残っているのです!〕

 

やはり一機残っていた。爆煙の中から飛び出てきた機体は左腕を喪失し、ブレードのみ装備している状態。だが、危険性がないわけじゃない。マガジンを交換している暇などない。ガトリングの起動にも時間がもう少し必要…………射撃兵装は完全に詰み。でも、まだ終わったわけじゃない!

私はバズーカを投げ捨て、両手を腰の辺りへと持っていく。すると腰の装甲の一部が解放され、両手にあるものが射出される。これは対装甲ナイフ。ISの装甲を食い破る、影狼の牙。それを構え、私は敵機に斬りかかった。向こうがブレードを振るってきたのを見て、左手のナイフを逆手持ちにする。甲高い音ともに互いの刃物がぶつかり合う。互いの出力が均衡しているのか、一歩も引かない。だけど、ここまで接近すれば、勝ち目はある!

 

「これでぇぇぇぇぇっ!!」

 

すかさず右腕のガトリングガンを起動、残されたありったけの弾丸を叩き込んだ。敵機はそれを脅威とみなしたのか、ブレードを構えて防御する。その隙に後方へ移動、スラスターを切りつけた。それに気づいた敵機は振り向きざまに斬りかかってくる。けど、それくらい回避できる。

シールドを構えて、ブレードを弾く。ガラ空きになった胴体——人間でいう心臓の辺りへと順手持ちしているナイフを突き刺した。

 

(浅いっ!!)

 

ナイフの刺さり方が甘いと感じた私は、その柄に向けて膝蹴りを叩き込んだ。何かが砕け散る音ともに、敵機からは光が消え失せる。おそらくコアが破壊されて動力も何もかも失ったからなのだろう。宙に浮いていることもできなくなった鉄の骸は海中へと沈んでいった。

 

〔全高脅威目標の消失を確認、なのです…………!〕

 

電ちゃんからの報告を受けて一先ずは安心した。既に弾薬はライフルと左腕のガトリングしか残されてないし、近接武装も対装甲ナイフ以外装備されてない影狼に持久戦は厳しい。できればこのまま増援が来ないことを祈りたい。

 

「なんとか終わったみたいですね…………」

〔バズーカの弾は残ってないので補給が必要なのです。後退を提案します〕

「そうですね。もう、敵機が来ないことを祈りましょう」

〔了解なので——回避! 右に回避なのです!〕

 

電ちゃんに言われるがままに回避行動をとる。すると数瞬前まで私がいたところを砲弾が通過した。なんなんですか…………まさか、増援⁉︎

 

〔あ、あの機体は…………あの時のと同型機なのです!!〕

 

見えた。確かにあの機体は臨海学校の時にも出現した機体…………カラーリングや武装こそ違うが、とてもよく似ている。確かあの時、織斑さんをはじめとする専用機持ちが撃破にあたりましたが、結局復活した紅城君が特殊武装を用いて破壊するまで何一つダメージを受けなかった。そんな機体を私が相手するなんて…………おそらく今の影狼ではまともな戦闘を行うことができるはずがない。けど、撤退する事も不可能…………手詰まりですね。

 

〔どうするのですか⁉︎ このままじゃこちらが——〕

「——やられる前に俺がぶっ壊してやるぜ‼︎ だから真耶、お前は下がってな‼︎」

 

そう電ちゃんが嘆いた時、後方から白い影が飛びててきた。あの機体は——

 

「アーミア!?」

 

私と同期で、あの時生徒の命を救ってくれた人が現れた。

 

 

 

 

 

「ふっ、真耶もやるじゃねえか。だが、あいつの始末は俺がやるしかないみたいだな、天龍」

〔その通りだ。なら、俺たちが倒してやろうじゃねえか!〕

「そういうことだ! 行くぜぇぇぇぇぇっ!!」

 

真耶の撤退を確認したのち、俺は左手に複合射撃システム、右手に近接長刀を持ち、奴——ヨトゥンに攻撃を開始した。今回の奴は以前見た青いやつとは違って、サンドブラウンカラーをしている上、武装も両腕のダブルバズーカに背部のミサイルポッドなどと射撃兵装に偏った装備をしている。迂闊に近づこうものならば、速攻で弾幕に潰されるだろう。一先ず複合射撃システムのサブマシンガンを起動させフルオートで放つ。サブマシンガン故に射程は伸びず、近距離まで接近しなければならない。レールライフルを使うという手もあったが、おそらく奴には当たらないだろう。亡国時代に手に入れたヨトゥンシリーズのデータでは武装に関係なく最高速度を出せるとのことだ。厄介極まりないものだ。

 

〔おいおい、マジでこれはやばいんじゃないのか? いくらお前でもヨトゥンを相手に取るのは——〕

「——無謀なことだってのは、俺が一番知っている」

 

銃身下部の無反動砲よりキャニスターを放つ。散弾が吐き出されヨトゥンを叩くが、赤い六角形上のエネルギーフィールドが展開され、有効打をあたえられてない。何より俺の装備で最大のダメージを与える武装は近接長刀。ストライク・ファルコン自体が近接戦闘を主とした機体だからな。

キャニスターが無理ならと今度は徹甲榴弾を装填、一マガジン六発全てを撃ち込む。ランダムに撃ちはなったそれだが、結局は回避されてしまう。キャニスターより範囲も狭く、弾速も遅かったらそうもなるか。

 

「だが、これは俺が倒すべき奴だ。亡国機業穏健派としての俺がいるのもあるが、今は違う」

 

一旦長刀を引っ込め、複合射撃システムを右手にも展開、36mm対IS用APFSDSを叩き込む。それでも奴は回避を続ける。

唐突に奴はダブルバズーカを放ってきた。あんな大口径の砲弾に当たれば大破は免れないだろうな。だが、大型砲弾故の欠点というものがある。弾速が遅いってことだ。俺はスラスターを強引に噴射し、一気にその場から回避する。ガスの放出音とともに砲弾が通過していった。

 

「ただ、あいつらが…………子供のあいつらには、今この時間を楽しんでいてほしい…………だから、それを邪魔する奴が許せねえんだよ!」

 

サブマシンガンの残弾は両方とも心許ない。ここ最近は補給せずにいたからな…………真面目に補給くらいはしとゃよかったぜ。

奴のミサイルポッドのハッチが開く。積んでいるのはあれが全てだと思うが…………積みすぎじゃねえか?

 

「天龍、あれ何発?」

〔ざっと数えて四十か…………一斉放射されなきゃなんとかなりそうだがな〕

「おいバカ、それフラグ!」

 

天龍が何気なくいったその言葉通り、奴はミサイルポッドが全てのミサイルを放ってきた。全部で四十を超えるそれらが迫ってくるのは一般人からすればかなり恐怖があるだろう。だが、こんなもので引いてる場合じゃない。残されたサブマシンガン、キャニスターを撒き、ミサイルを落としていく。だがそれにだって限界はある。

 

「クソッタレ、どんだけミサイルを隠し持ってんだ⁉︎ しかも無駄に追尾性能高いな、おい‼︎」

〔これヤバイって‼︎ マジでヤバイって‼︎ っ、アーミア! 左後方だ!〕

 

天龍が後方から迫ってくるミサイルに対して警告をしてくるが、機体が俺や天龍の反応に追いつけていない。左腕を後方へ回そうとした時だ。機体が限界を迎えていたのか、急に動かなくなってしまった。機体の状況を見れば左腕全体の回路がショートしている。チクショウ! なんでこんな時にこうなるんだ!

だが、そんなこといざ知らず、ミサイルは俺に向かって突き進んでくる。左手にの複合射撃システムか腰部のスラスターに当たったのか…………いや、どっちもか。着弾の衝撃で俺は体勢を崩す。これがもし擬似コアならミンチより酷え状態になってサメの餌になっていただろうな。この時ほど絶対防御の存在をうれしく思ったことはない。

 

「っ…………損壊報告!!」

〔左腕複合射撃システム、左腰部スラスター、損失。それに左腕自体が反応しない…………限界を迎えていやがるぜ〕

 

左はほぼ使いもんにならなねえってことかよ…………全くついてねえ。だが、さっきの奴が最後のミサイルだったのか、既にミサイルの軍団はなかった。なら、こっちにだって勝機はある。さっきの攻撃で複合射撃システムは一つが損失、一つは弾切れ。なおかつ左腕は使用不可。それでも、奴を仕留めるには長刀を一本でも使えればそれでいい。

 

〔奴はミサイルを一斉放射した反動のせいで動くことができていない! 今ならやれるぞ!〕

「言われなくてもな! 止めをぶっ刺しにいくぞ!」

 

残されたスラスターを全開で奴の上に向かって飛ぶ。やはり片肺のせいで軌道は安定しない。いつ墜落してもおかしくはない。だがそれでも飛ぶしかない。その間に俺は長刀を逆手持ちで構える。そして、奴の上に到達した、その瞬間

 

〔PIC、カット!〕

 

天龍がISの反重力制御、および姿勢制御を担当するPICを全て切った。その影響で俺はその姿勢のまま、奴に向かって落ちていく。機体の重量と落下のエネルギーは長刀の切っ先、その一点に集まっている。ヨトゥンはそれに反応してシールドを展開しようとしているが、反動のせいもあってか紫電を走らせて展開することができていない。これは願っても無い好機だ。

 

「死に晒せぇぇぇぇぇっ!!」

 

奴に向かって俺は長刀を全力で突き刺した。深々と突き刺さった長刀は奴の胴を貫き、そして爆発を引き起こした。絶対防御が機能したお陰で俺自身にダメージはないが、機体の損耗はシャレにならねえ。さっきのダメージに追加して、バイザーが半壊、右マニピュレーターが破損、装甲のいたるところに亀裂が入っている。今はかろうじてPICで浮いている状態だ。

 

〔こいつも限界だな…………ここまで大破したのは初めてじゃないか?〕

「そうかもな…………だがこいつ以上に適合した機体はないだろ? どうするんだこれから…………」

 

実際のところ悩みがこれだ。いくら最新鋭の機体でも俺たちの反応速度についてこれなかった。となるとこれを超える機体が必要だ。だが、そんな機体はそうそうないだろうな…………。

 

〔全く、こんな格好じゃ前にも後ろにも進めねえぜ…………〕

「こいつを無理やりリペアするか…………」

『その必要はないよ、おーちゃん』

 

そんな時、突然通信が繋がった。げっ、この声は

 

「た、束…………急になんなんだよ」

『もー、そんな邪険にするような顔しないでよ。とりあえず天海龍の後部甲板に降りてきてねー、停泊場所を教えるよ』

 

ギリギリ生きていた広域マップにマーカーが表示された。おそらくそこに行けばあの何か色々吹っ飛んだ戦艦(天海龍)がいるはずだ。

 

「天龍、ひとまず行こうぜ」

〔了解したぜ〕

 

フラフラになりながらも俺たちは指定座標に向けて飛んでいった。

 

 

「んー、これは派手にやったねえ。よくこんな状態で戦闘をやったものだよ」

「俺だって好き好んでこんな状態になったわけじゃねえんだがな」

 

後部甲板に着艦するなり俺はいつぞやのハンガーへと格納され、機体は駐機状態になっている。コアは奇跡的に無事、現在は摘出して俺の手の中に収まっている。しかし改めてダメージを受けたその姿を見ると、なかなかに酷えもんだ。あの獲物を狩るハヤブサの姿など一切感じられず、ただその傷ついた無残な姿をさらしているだけだった。

 

「それにしても、この左腕以外にも回路がショートしてるよ。一体どんな使い方をしたらこうなるわけさ?」

 

束の奴は不思議そうな顔をして聞いてきた。いや、どんな使い方をしたらって

 

「普通に攻撃に反応しただけだが? ただその反応についてこれなかったのかもしれねえ」

「おうふ…………多分だけど、おーちゃんの反応速度はゆーくん達のようにRATシリーズでもないとついていけないレベルだね」

「RATシリーズ…………って、なんだ?」

「あらららら…………あのねぇ、RATシリーズっていうのはこの束さんにも解析不能な、建造時期不明、世代分け不可能な高性能機のことだよ。今のところゆーくんの黒龍を始め十機程度確認してるよ」

 

RATシリーズか…………確かにビームのサーベルだの、馬鹿でかい大剣だの、あの大火力ユニットを扱うなど余りにも性能が突出している。あんな化け物クラスを扱えたらそりゃ天龍も俺も満足するだろうな。

 

「そんな機体が存在してるなら、俺も使ってみたいもんだな」

「じゃ、使ってみる?」

「は? だって十機くらいしか存在してないんだろ? そんな都合よくあるわけ——」

「二機あるよ? しかもコアがはまってないやつ」

 

俺は開いた口が塞がらなかった。いや、誰だってそうなるだろ? さっきまであれだけ希少価値が高いとか言っていた超高性能機が二機もあるなど誰が想像できるんだ。俺にはまず無理だったな。

 

〔機体か…………ちょっと気になるぜ〕

 

天龍はどうやら気になっているようだ。実際の所、俺も気になっている。それほどまでに強力なものならば誰だって気になるはずだ。

 

「んで、その機体ってのはどこにあるんだ?」

「よーし、じゃ見せるとしましょ〜。五番、六番ハンガー、展開」

 

束がそう言うと俺の後ろから何かが展開される音が聞こえてきた。音のする方を向くと、ハンガーがデッキアップされている。そこにただ静かに鎮座している機体達はかつてのストライク・ファルコンよりも白く光り輝いていた。もう一機に至っては銀色だ。そしてなりより目を引くのが頭部バイザーにあるデュアルアイと四本のブレードアンテナだ。悠助達が持っている奴らにも同じ特徴があった。だとしたらこいつらは…………

 

「おーちゃんから向かって左がRAT4-01 白龍、右がRAT4-02 銀龍だよ。ま、使えるかどうかはコア次第だけどね」

 

束がそう言って説明をしているが、俺としては真っ直ぐ白いやつの方に向かっていた。あの機体から感じる力。そして何より戦闘機のデザインを加えているような外観。そう、かつての俺が手にしたかった空の王者の魂がついている。

 

〔アーミア、俺はこいつを新しい身体にしたいぜ。こいつなら俺たちの力を最高に引き出してくれる気がするんだ〕

「やはりお前もそう思うか。なら、使ってみるとしようぜ。ほらよ!」

 

俺はコアを空いている胸部の隙間に嵌め込んだ。カチッという音がしたのち、俺の身体は光に包まれる。今までにない感じのする光だ。まるで人々の思いが詰まっているかのような、希望に満ちた光。それが俺にとってどんな事を意味しているのかなんて、わかるわけないけどな。

光が収まると俺はあの機体、白龍を纏っていた。

 

「おお〜! 無事起動したみたいだね!」

 

無事起動しない時もあるのかと突っ込みたくはなったが、やめておこう。とりあえず今は武装の確認が優先だ。俺は武装一覧をディスプレイに表示させる。すると格納武装は殆どなく、全身に固定武装があった。頭部には四門の近接防御機関砲、両肩両背部にはビームキャノン、腰にビームアサルトガン、膝部のアーマー内にはビームサーベルがある。どんだけビーム兵器を積んでいるんだと思ったが格納武装にも一つあった。ロングスマートガン。レドームと一体化しているスナイパーライフルをアサルトライフルより少し遅い速さで連射する武器だ。しかもこれもビーム兵器。なんか天龍が唖然としている顔が見えたぞ、おい。だが、そんなビーム兵器の数々よりも俺としては対装甲ナイフがあった事に喜んでいる。何より、天龍の大好物長刀もあるからな。本当にこれは俺たち専用に作られたような機体だ。

 

「ああ、そうらしいな。それにどこか気分がいい。俺はさっさとこいつの力を試してみたいところだぜ」

 

ただし、固定武装の発射方法など知らねえから天龍から教えてもらわねえと。さすがに長刀とロングスマートガンで暴れるのは厳しいところがあると俺は見ている。

 

「うんうん、その血気盛んさはおーちゃんらしいよね。——それで、突然なんだけど話聞いてくれる?」

「なんだよ、急に…………確か七月くらいに知り合ってからだからそんなに期間経ってないし、他人行儀になるのはわからなくもないが、俺にここまでの事をしたお前がそう改まるなんてよ…………」

「これは冗談抜きで言わなきゃいけないから、だから真剣に聞いてくれる?」

 

束の顔は何やら厳しい感じのものだ。それこそ作戦指揮でも取るかのような…………あ、作戦指揮で米軍のクソみてえな上官のアマを思い出した。今度会ったらM82A1でも叩き込んでやるか。

とりあえず今は束の話が大切だ。一体どんな要件なんだ?

 

「ああ、わかったが…………」

「うん、ありがと。実はね、あるパイロットとコアを強奪しようかと考えているんだ」

 

コアとパイロットを強奪、だと⁉︎ おいおい、どんなスケールのでかい話だよ、全く…………そもそもこいつって確か重度のコミュ症だろ? そんな奴が突然こんなことを言い出したんだから無理もない。

 

「コアは女権団体から凍結封印されてるし、パイロットも軍の上層部からの圧力で終身刑が決まる可能性だってある。私の作ったオリジナルコアでそんな事はさせたくない…………私が手を汚してでもね」

 

そういう束の声は恐怖で震えていた。それが凍結封印されたことによる悲しみなのか、そのパイロットが命を失うのが怖いのか、あるいはその両方なのか…………俺にはわからなかった。

 

「んで、俺はどうすればいいんだ?」

「できれば参加してほしい…………一人じゃちょっと厳しいからね」

「わかった。なら俺は参加しようじゃねえか。ついでにあと二人呼ぼうぜ。戦力は多いに越したことはないだろ?」

「そうだね…………ありがとう」

「いいってことよ。それよりも開始時刻とターゲットは何なんだ?」

 

束の作戦に俺も参加する旨を伝えると同時に俺は気になっていたことを聞いた。傭兵をしていた時、俺に来る依頼の多くは破壊ミッション。だからこそ攻撃開始時刻とターゲットを明確にしてもらわなければならない。今回は強奪だから違うかもしれないが、ターゲットの情報が必要なのは変わりない。

 

「そうだね…………おーちゃんとも関わりがあるといったらわかるかな?」

「そんなこと言われてもわからねえよ。第一俺にだって同業者は多いからな」

「うーん、じゃ仕方ないか…………あまり驚かないでよ? ミッションターゲットは、銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)搭載コアとその専属パイロットのナターシャ・ファイルスだよ」

 

それを聞いた時、俺は世界が止まってしまったかのような錯覚に陥った。




影狼


【挿絵表示】


型式番号 RGAT2-69

所属:無し
操縦者:山田真耶

現存するRATシリーズとしては最も初期の機体。性能も他と比べると特別秀でている物はないが、全般的に平均的な能力を持っているため、どんな状況でも戦闘可能である。また全ての武装が実弾兵器であるため、継続戦闘能力は高く長期戦には最適である。
本機による実稼働データを得られたかどうかは定かではないが、結果としてRAT3シリーズ以降の極めて高性能な機体が開発されたのは言うまでもない。
現在はIS学園の教員である山田真耶の乗機となっている。
なおコア人格も発現しており、彼女は[(いなづま)]と呼ばれている。

固定武装
[両腕部内蔵25mmガトリングガン]
上腕部装甲内に格納されている三銃身のガトリングガン。牽制等にも使える便利な武装であり弾数もそれなりに多く装填されている。使用弾頭は対IS用APFSDS弾である。
[対装甲ナイフ]
RATシリーズの殆どに標準搭載されている戦闘用ナイフ。腰アーマー内に格納。ロシアでも同名の兵装は開発されているが、それよりも強度は極めて高く、折れる事はまず無いと言われるほどだ。本機には二振り装備されている。

射撃武装
[アサルトライフル]
一般的な36mmライフルだが、取り回しを考慮して銃身が少し切り詰められている。その他にもマガジンが短いなどといった特徴もある。本機の主兵装である。
[バズーカ]
一般的な220mm砲弾を運用する多目的無反動砲。装填可能弾頭は多目的榴弾やHEATもあるが、対IS用成形炸薬弾ーー通称HEAISと呼ばれる対IS用弾がほとんどだ。本機の持つ最高火力武器でもある。

特殊武装
[シールド]
上腕部に存在するハードポイントに装備する防御用の武装。実弾に対しては極めて高い防御力を誇り、レーザーなどの光学兵器にもある程度耐えることは可能だ。また、シールド先端部は少々鋭利になっており、近接攻撃もできないことはない。





真耶「今回は私の愛機である、影狼でした。アーミアの白龍も出たけど、紹介はそのうちになるらしいです。では、今後もこの小説を生温い目でよろしくお願いします」
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