守りたい、ただそれだけ(本編完結)   作:ディニクティス提督(旧紅椿の芽)

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第40話

窓ガラスを突き破り、中へと突入した俺は迷いなく小脇に抱えたタボールを放った。武蔵のやつに頼んで自己展開(スタンドアローン)モードで俺を屋上に運んでもらい、そこからロープを使って降下したまでだ。まぁ、そんな事はどうでもいいが。

一夏に銃口を向けていた奴は頭部に直撃し絶命した。手に持っていたアサルトライフルのトリガーには指がかかっていたようだが、引かれることはなかったようだ。だが、安心などしている余裕などない。残っている連中に向かって発砲した。サプレッサー装着型特有の軽快な音ともに男共は地面に崩れ落ちる。息をしている奴もいるが問題ないだろう。両腕は撃ち抜いたし、どうせそのうち勝手に死ぬだろ。

 

「ゆう…………すけ…………?」

 

俺の姿を見た一夏は何が起きているのかよくわかってないような顔をしていた。まぁ、そうもなるか。突然いなくなったと思いきや、ボディアーマーに身を包んで、全身に武器を満載してきたんだからな。

 

「ああ、ただいま」

 

俺はそうとだけ答えた。なんともない普通の挨拶にしかすぎないものも、その言葉は一夏にとっては違う風に感じ取られたようだ。現に目元を涙で濡らしている。

 

「悠助っ!!」

 

一夏は俺が託した拳銃を手に持ちながらだが、ボディアーマーでガチガチに固めている俺に抱きついてきた。

 

「すまねえな…………勝手に出て行ってよ。寂しい思いをさせてしまったな」

「そんなことはいいの…………! 私は、悠助が戻ってきてくれた事が嬉しかったから…………それだけで十分なの…………」

「それでも、さ。お前の側から離れないって約束したのに、お前を守れなかったことに不甲斐なさなんて感じてさ…………そんな事よりも俺が側にいるべきだってのによ」

 

腕の中で泣きじゃくる一夏の頭を撫でながら、すっとその手に持っていた拳銃を預かった。

 

「え…………?」

「もうこいつはお前に必要ねえ。こっから先は俺が守る。だから——俺から離れんじゃねえ」

 

こんな物騒なもんはこいつに合わねえ。それに、こいつは人を傷つける事に躊躇いを持っている。正常な反応だ。殺す事に躊躇いのない俺が少し異常なだけ。それに——こいつの手は汚れなくていい。汚れ仕事は俺の役目だ。

一夏は首を縦に振って肯定の意を示す。さて、こんなところにいても精神衛生上よろしくないだろうし、さっさと脱出するとするか。だが、その前にしなきゃいけねえ事がある。俺は一度一夏を離れさせ、先ほど生かしておいた敵兵の元へ向かう。様子を見る限り、まだ意識もはっきりとしているようだ。

 

「おいてめえ、死にたくなかったら俺の言う事を聞け。いいな?」

 

俺はそいつの顔面にタボールの銃口を突き付けた。

 

「ぐっ…………誰が貴様なんかに——」

 

脹脛に一発撃ちこむ。あ、サプレッサー磨り減ったな、また。まぁ、一マガジン分しか能力発揮できねえしな。

 

「俺は言う事を聞けと言ったはずだが?」

「ぐぁぁっ…………! わ、わかった…………何を言えばいい…………?」

「お、すんなりゲロるんだな。そうだな、特殊パルス波を発生させている装置の場所、この部隊の規模だ」

「特殊パルス波発生装置は隊長が仕掛けたから知らない…………突入部隊は四十、制圧部隊が二十だ…………」

「さよか。んじゃま、とりあえず」

 

さて、情報は十分に得る事ができた。なら、こいつにもう用はねえ。一度離していたタボールの銃口を再び向けた。

 

「——処分するか」

「ま、待て! さっきと話がちが——」

 

セレクターをセミオートにセットし、三発をトリガー。一発は心臓、一発は腹、もう一発は頭だ。俺の姿を見られた以上、殺すしかねえだろ。

 

「死人に口無し、ってな」

「あ、あんた…………今何をしたのかわかっているの!?」

 

処分し終えた後、鈴が俺に詰め寄ってきた。さしずめ、殺人を平然として犯したからだろう。

 

「は? 人を殺しただけだが?」

「なんでよ…………何でそんなに平然としていられるのよ!!」

 

平然と、ね…………そりゃ、今まで内戦地に飛んでは殲滅してきたからな。生身で殺しをした事もあるし。だが、今の俺にとっちゃそんな事はあまり精神に何も感じない。殺したという実感はあるが、それだけだ。

 

「忘れたのか? 俺は傭兵だ。戦場にでりゃ、殺し合いなんざ普通にある。既に俺は殺戮兵器(キルマシーン)にも等しい。それに、撃っていいのは撃たれる覚悟のあるやつだけだ。こいつはそれに殉じた、それだけだろ」

 

そう言いながら俺はこいつらの武装から使えそうなものを取り出す。こいつはM4を使ってるから、俺のタボールと弾倉が互換性ある。だが、他はな…………よりによってなんでMP5とか、AK-47なんだよ…………俺が持ってきたサブマシンガンはP90、使用弾薬は5.7×28という極めて特殊な弾薬だ。互換性などない。ましてや、AK-47は大口径の7.62mm弾だ。タボールは5.56mm、使えるはずがねえ。だが、武器は持っておくに越した事はない。

 

「ラウラ、発砲経験は?」

「一応あるが、東側の(AK-47)は使えないぞ。サブマシンガンを頼む」

「了解。ほらよ、本体と予備マグだ」

「感謝する」

 

この中で唯一正規の軍人であるラウラに奪った銃火器を渡し、こちらの戦力を拡大化する。ってか、AK-47ダメなんか。確かあれってガキでも扱える武器だよな。どっかじゃ、チンパンジーすら発砲できたとか。

 

「さてと、さっさとこっから逃げたいところだが無理なようだ。どんな命令が下されたのか知らんが、至る所から銃声が聞こえてきやがる。ルートの模索まで待っててくれ」

 

二組の方からは銃声が鳴り止まない。一応防音加工がされている壁だから聞こえてこないのだと思うが、俺にはその中に混じって断末魔が聞こえてくる。すぐさまにでも鎮圧しに行きたい気分だが、この場を離れて一夏を守れなくなる恐怖があるのと、こんな三十人以上も連れて動き回れるはずがない。それじゃ、丁のいい的にしかならん。

俺はマップを広げてルートを模索する。各教室に脱出シューターがあるが、外にも制圧ユニットが展開してやがる。出た瞬間を狙い撃ちってとこだな。いくらサプレッサーで銃声を消音化しているからといって、音が出ないというわけでもない。人の断末魔で気付かれる可能性だって無くはない。それに、出た所で無事にシェルターにたどり着けるかわからん。

 

「なんで!? IS学園は世界で一番安全な場所じゃないの!?」

 

誰かがそう言った。確かに安全保障に関しては、ここは最上級に安全なところだ。ISも配備されてりゃ、どこの国の干渉も受けん。だが、それはほんの少し前までのことだ。

 

「今じゃ違う。ここは世界で一番安全な場所(IS学園)じゃない…………世界で一番危険な場所(戦場)だ。テロリストの襲撃があった時点で、安全なんてねえんだよ」

「「「…………」」」

 

それ以降誰も喋らなくなった。大方、こんな事が起こるなんて想像していなかったようなもんだろう。ISは世界最強の軍事兵器である。その事実は変わらないが、それは稼働している時——シールドバリアが作動している時のみだ。それ以外、もしくは展開なぞしてなかったら意味は無い。操縦者を殺れば、後は何も言う事のきかない拘束具。それに、擬似コア機での話になるが、歩兵携行型対戦車火器で飽和攻撃すれば、落とせない事だって無い。結局のところ、ISがあるから強い、最強の兵器があるから襲われない、そんな甘い考えがあるからこんな事態を招いたんだろう。侵入を許した以上、国際機関である上に、国の重要な人材を育成している機関としてはずさんな警備体制だ。いまさらそんな事を嘆いたって状況は変わらんがな。

 

「シェルター直通路は四組側か…………何故一組側にも作らねえんだ。ある意味じゃ好都合かもしれんがな」

「どういう事なのよ? だって教室は全て制圧されているから敵が出てくるかもしれないのよ?」

「そんな事は誰だってわかっているだろう。だが、一組側の後方には通路がない。非常口すらもだ。避難は不可能だが、後方からの攻撃に気を取られる心配はない」

 

ラウラは俺の考えていた事をしっかりと読み取り、理解してくれたようだ。だが、これはある意味で自殺行為にも近いんだがな。遮蔽物の殆どない廊下での銃撃戦なんざ、誰だってしたくはないもんだ。

 

「そういう事だ。中央階段に差し掛かるまでは俺とラウラが先行する。各教室を制圧しながらとなるから、安全を確認次第誘導する、いいな」

 

ただ沈黙だけが流れた。つまりは肯定というわけだな。一夏も覚悟を決めたようだし、俺も仕事をしっかりやらねえとな。

 

「一夏、インカムを渡しておく。通信はこれでやる。皆の事は頼むぞ」

「わかった…………悠助も気をつけて、ね」

「ああ、了解した。行くぞ、ラウラ」

「了解」

 

クラスの方を一夏に一任した俺はラウラと共に教室の外を伺う。どうやら廊下には制圧ユニットが配置されてないようだ。一人くらいは配置しなけりゃいかんだろうが、今回ばかりはいない事が幸いだ。出た瞬間を撃たれる不安も無くなったしな。

 

「プランはあるのか?」

「単純だがスモークを充満させ、その隙にカタをつける、そういうプランしかないぞ」

「そうか…………わかった、それで行こう」

 

どうやらこのプランにラウラは賛成してくれるようだ。まぁ、正直言ってこれしか方法がない。学園のドアは全てが自動ドアだ。電源系統は生きていたから作動するが、それが返って侵入した時に存在が目立つ。否が応でも誰かが動いているという事が丸分かりだ。俺は見つかって蜂の巣になる気もねえし、敵さんだってもがき苦しみながら死にたくはねえだろ。なんなら、視界が遮られている内にあの世に送ってやるのが流儀ってやつなんじゃねえか。

というわけで、入り口の両サイドにうまく取り付いた俺ら。アイコンタクトを互いに取り、タイミングを計る。その間に俺は暗視ゴーグルを装備、っと。俺がゴーサインを出し、ラウラがドアに手を触れると圧縮空気が抜けるような音と共にドアが開いた。この瞬間にスモークグレネードのピンを抜き、教室内へと投げ入れた。

 

『スモーク!? クソッ、どこのどいつだ!?』

『畜生! 前が見えねえ!』

 

煙は派手に充満したようだな。中にいるのは…………全部で四人。速攻で仕留める。

 

「行くぞ」

「了解だ」

 

開いたドアから俺が先行する形で内部に入り、タボールを構えた、照準は頭。ためらう事なく一発一発を叩き込んでいく。断末魔を上げる事は許さん。先手必殺だ。専守防衛なんて俺には合わん。殺さなければこちらが殺られる世界で生きてきたからな。ラウラもサブマシンガンを撃ち込む。軽快な音と共に男の苦しむ声が聞こえ、そして消えていった。

次第に煙がはれていく。スモークの効果時間は約三十秒。短いように感じられるかもしれないが、戦場ではかなり長く感じられる。煙がはれ、バッテリーの食らう暗視ゴーグルを外し、電源を落とす。

 

「ラウラ、死んでるか確認を頼む」

「あぁ…………しかし、殺すというものは慣れないな」

 

ラウラはそう呟きながら男共の検死を行っていく。頭に撃ち込んだ連中は確実に仕留めたし、ラウラの相手したやつも失血多量でいずれあの世だろうな。

そう思いながら俺は別の死体を確認していく。二組の生徒だ。他にも四人いる。俺はその開ききった瞼を閉じさせ、安らかに眠ってくれるよう祈った。死なんていつ訪れるかわからないものだ。だが、それでもこいつらには明日の予定も来週の予定もあっただろう。それを奪われ、奪った人間の未来を俺が奪った…………人間っていうのは殺し合いしかしできねえのかってんだ。

 

「悠助、こいつら皆、息絶えていたぞ」

「そうか。了解した。他の制圧ユニットを警戒しなきゃいけないが、こいつらの精神衛生上よろしくねえし、一旦一組に後退、ラウラは警護を頼む」

「それはいいが…………お前はどうするんだ?」

「なんか嫌な予感がするからな…………先を見てくる。運が良ければ渚と合流も出来る。ってか、エイミーは? 教室で俺見てねえぞ」

「確か四組に行くと言っていたな」

 

なら都合がいいな。エイミーには悪いが、元米軍人の力を借りなければならないかもしれないからな。そうなればやる事は決まった。

 

「ラウラ、後は任せたぞ」

「了解。…………絶対に死ぬなよ」

「わかってるさ」

 

こんなところで死ぬわけにはいかない。これ以上、一夏に悲しい思いはさせたくはないしな。

俺は教室を出て、中央階段を目指した。このフロアに上がる為の通路はここしかない。故にここさえ抑えきれば増援はないと考えていいだろう。だが、ここをどう突破して三組と四組を制圧するべきか…………すでにサプレッサーは限界を迎えている。これ以上の消音は望めない。壁を背にし、そこから様子を見る。今の所は何もないが、ここからどう転じていくのやら…………見当も付かん。

 

(クソッタレ…………ここからどうすりゃいいんだ…………トラップにC4なんて使っちまったらフロアごと消し飛ぶ。だが、ここは何としても安全圏にしておきたいしな…………)

 

状況は最悪。壁にもたれかかり、可能な限り気配を消していた。それまでに打開策が見つかればいいいんだが…………。

 

 

 

 

 

 

「やけに静かだな」

「そうだな。他のところは処刑が終わったのか?」

「一応確認しにいってくる。しばらく頼む」

 

そう言いながら男は出て行った。(エイミー)はこの緊迫した空気の中で脱出する方法を考えていた。向こうは武器を手に取っているが、こっちはほぼ丸腰。私は一応武器があるが、ハンドガン一丁とナイフ一本のみ。隣には渚さんも簪さんもいるが、渚さんは腰に下げている高周波ブレード、簪さんは非武装だ。ISが使えない今では、その圧倒的な力に頼ることはできない。一人出て行ったところで対応なんてできはしない。忌々しいけど、私が後天的能力強化素体(リィンフォース)であっても、この状況を変えるのは難しいだろう。

 

「…………エイミー、この状況どうすんだ? このままだと俺ら確実に死ぬぞ」

「…………そんなことはわかっていますけど、打開策が見えない以上、このままですね」

「…………ついてない」

 

渚さんも同じようにこの状況を打破したいようだ。だけど、ここで下手に動いたら、誰かは死んでしまう…………元米軍だからなのか、私は民間の人が傷つくのを見たくない。それがどんなに現実を直視できていないのか、どんなに甘い事を考えているのかなんてわかってる。けどそれが軍人としてあらなければならない姿なんだと私は思う。

 

「…………こんな時、あいつがいたらな…………何もかもをぶっ壊して解決するんだろうな」

「…………悠助さん、ですか…………もしかするとそうかもしれませんね」

 

渚さんの話によれば、悠助さんは一人で紛争中の国に介入して、両陣営諸共纏めて殲滅したという悪魔の諸行をやらかした人。確かに、あの日のアリーナでの事を考えたら間違いはないのかもしれない。あれに相手されたら最後、待ち受けているのは死のみだろう。だけど、こんな状況で一番頼りになるのは悠助さんであることに間違いないだろう。

そう考えていた時だった。乾いた銃声が何発も聞こえてくる。い、一体…………

 

「ぐあぁぁぁぁっ…………!! くそっ、撃たれた!! 援護を頼む!!」

「はぁっ!? なんで撃たれんだよ!? こんな緩腐ったとこに、泥臭い奴がいるわけないだろ!!」

「そんなことはどうでもいい!! 今は援護に行くのが優先だ!!」

 

バタバタと男達は教室を出て行く。それからすぐに銃声が響き渡り始めた。でも、一体誰が攻撃しているの…………? この学園に武器を持っている人なんて、私達くらいの筈なのに。

 

「エイミー…………今ならいけるんじゃねえのか?」

 

渚さんの言葉で思考を切り替える。確かに今なら、背後から襲う事だって出来るかもしれない。たとえそれがどんなにリスクの高い事だとしても、今はそれに全てを賭けてみるしかない。

 

「行きましょう、渚さん」

「おう、わかったぜ!」

 

私はハンドガンをホルスターから抜き、渚さんは高周波ブレードを抜刀、あの襲撃者達を倒すべく廊下へと向かった。

 

 

 

 

 

誰かが廊下へと出てくるのを音で感じ取った俺は、かなり緊迫した空気の中にいた。マジでこの空気は慣れないんだよ…………足音が確実に近づいてくる。それが俺を殺すかもしれない奴のものだと考えると、タボールを握る手に余計力が入る。殺らなければこっちが殺られるだけ。今までは安い命だと考えていたが、今じゃそんな事は考えられない。否が応でも生き残る、それだけだ。だから俺は…………奴を撃った。身を少しだけ晒し、確実に仕留めるように撃ったが、俺の撃った弾は右肩を撃ち抜いただけだった。

 

「ぐあぁぁぁぁっ…………!! くそっ、撃たれた!! 援護を頼む!!」

「はぁっ!? なんで撃たれんだよ!? こんな緩腐ったとこに、泥臭い奴がいるわけないだろ!!」

「そんなことはどうでもいい!! 今は援護に行くのが優先だ!!」

 

しかも、どうやら致命傷にはなってないらしく、増援を呼ばれてしまった。四組の教室や三組の教室からアリの巣を突いたように湧いてきやがった。くそったれ…………!

 

「そこか!」

「っ!」

 

どうやら僅かに出ていた体を見つけられてしまったようだ。壁に弾が当たって跳ね返る音が幾多も聞こえてきやがる。顔の数センチ先を弾丸が通過していった。…………マジ怖いんだが、これ。タボールのマガジンにはおそらく十発程度しか残ってない。だが撃たなきゃならねえからな…………やるか!

 

「オラオラァッ!死に晒せぇぇぇぇぇっ!」

 

セレクターをフルオートにセット、予備マガジンを懐から取り出して床に置き、躊躇いなく全弾はなった。セミオートとは違う連続した反動が俺の腕を襲うが、それを押さえ込み、大まかに体を捉えてトリガーを引いた。

 

「うがっ…………! この、畜生が!」

「ぎぃっ…………! 撃て、撃ちかえせ!」

 

だが、向こうだって撃ってきていやがる。しばらく撃ちこんだら体を隠し、少しおさまったら半身を出して撃つを繰り返す。すでにマガジン二つを撃ち切り、残された三つでどれだけ持てるか、そう考えていた時だった。俺が撃っているところとは違う…………しかし、敵さんどもが撃っているところよりも奥から銃声が響いた。

 

「な、なんなんだこいつら!? この学園はぬるま湯に浸かった連中しかいないって話じゃないのかよ!?」

「おそらく大部分はそうでしょう。ですが残念でしたね、私こう見えて元米軍なんですよ」

「ついでに言っておくが、俺は傭兵だ。ぬるま湯なんかに浸かってねえ、熱湯だわ」

 

再び響く銃声。そして今の声…………もしや、あいつらか! そうと決まればやる事は決まってる。俺はタボールに新たなマガジンを装填、一気に躍り出、全弾を放った。次々と断末魔をあげて倒れ行く敵兵。頭数をどんどん減らして行き、最後の一人も地に伏せた。

死体で溢れた廊下を進み、突然の援軍で現れた二人——渚とエイミーの元に向かった。

 

「ゆ、悠助さん、戻ってきたんですね…………」

「あぁ、一夏を守るのが俺の使命だからな。それにしてもお前らよくそんな武器持ってたよな」

 

俺は渚とエイミーが持っている武器を指差す。エイミーはハンドガンとナイフ、渚は…………あれ高周波ブレードか?

 

「まぁな。何があるかわからねえし、自衛にはもってこいだろ?」

「軍にいた時は片時も離すことを許されてませんでしたからね」

「俺としてはお前のその重装備っぷりに突っ込みたいんだがな」

「何人殺すのかわからねえんだからこんだけ持ってくるだろ。まだAT4持ってきてないだけマシだと思っとけ」

 

あれはでかくて動くのに邪魔だからな。ついでに言うと重てえし。だったらスパス12持ってくるっての。

 

「で、これからどうするつもりなんですか? 脱出するにもルートが…………」

「四組側の廊下にシェルターの近くに出られる脱出シューターがある。それを使って、全員シェルターに逃がす。このプランで行くぞ」

「まぁ、それが妥当だよな。了解したぜ」

「今は非戦闘員の安全が最優先です。すぐにでもやりましょう!」

「なら、二人はシューターの展開を急げ。俺は周辺警戒する」

 

さて、通信を入れておくとするか。

 

「おい、一夏、聞こえるか?」

『悠助!? 無事なの!? 怪我とかしてない!?』

「俺は傷一つねえよ。それよりもだ、脱出ルートができた。すぐに全員引き連れて四組の方に来い。いいな?」

『わ、わかった! みんな、移動するよ!』

 

一組を見れば扉を開けて、なだれ込むようにこっちに向かってくる。あ、やべえ、死体処理してねえ。よし、適当に隅っこに押し付けてでもおくか。装備を剥ぎ取り、物言わぬ骸をあまり目のつきにくい場所へと移動させる。その間に何人もがシューターへと入り、シェルターへと避難していく。

 

「押すなよ! 一人ずつ、かつ素早く動け!」

 

シューターでの人の整理は渚がやっている。エイミーは先に降りて誘導しているようだが。廊下は詰めかける生徒で溢れかえった。いわゆるパニック状態である。こうなったら手のつけようがねえ。そんな時

 

『悠助、まずい事になった』

 

武蔵から通信が入る。自己展開による自立稼働状態であるため、展開を阻害するパルス波の影響は全くと言っていいほど受けてない。だからこそ、武蔵の言うまずい事っていうのはある程度限定されてくる。

 

「擬似コア機、か?」

『ああ、何やら円筒形の物体を取り囲むように三機、その他に四機だ。まだこっちには気づいてないようだが、それも時間の問題だろう』

「おそらくその円筒形の物体が特殊パルス波の発生源かもしれん。奴らとの距離は?」

『およそ十キロだ…………レールキャノンでも射程外だぞ…………どうするんだ?』

 

十キロか…………レールキャノンは160mmという大口径だが、飛翔体が摩擦熱で燃え尽きる可能性があるため、基本的に白兵戦から二キロ以内の砲撃戦にしか使えない。だからと言って、こんなところでDアームズやらG型ユニットを使用するのは無理だ。目立ちすぎる。こう言っていると結構手詰まり感が半端なくしているが、まだ一つ方法が残されている。

 

「インパルスライフルによる狙撃をするしかねえ。あいつの最大射程は軽く十キロを超える。これならいけるさ」

『だ、だがあれはまだ試射をしてないんだ! どれだけの威力があるのかもわからない、銃身が耐えられる保証もないんだぞ!』

「そんな事俺だってわかってる。けどな、やってみなきゃわからねえ事だってあんだろ。なら俺はその僅かな可能性に全てを賭けてやるさ——信じろ、親父が遺したもんをよ」

 

確かに実験も何もしてない兵器を使うのは気がひけるわな。俺だってそりゃそうだ。使っているうちにジャムった、銃身破裂したとかあったらマジでやばい。けど、今はそんな事を言っていられるほど余裕のない事態だ。それにな…………親父が遺してくれたものに限って、そんな事はないと思っている。いや、確信しているんだ。俺がそう言うと武蔵は暫く黙ったが

 

『…………そうだな。やってみなければわからない事もあるな。わかった、それでやってみよう』

「ああ。この状況を変えられるのは、おそらく俺たちだけだ。束さんがいつこっちに着くのかわかりゃしねえ。それまでに片付けられるだけ片付けるぞ。さぁ——」

 

 

 

 

 

——戦闘開始(オープンコンバット)だ。

 

 

 

 

 

(全く…………私の主には困ったものだな。だが悪くはない)

 

黒龍を自己展開している武蔵は内心そう思っていた。自身としては確証のあるものを扱いたい、それが兵器として感じていたものだ。それは兵士であっても同じようなものであろう。自らの命を預けるのと同じだから、万が一の時確実に自身の安全を確保できなければならない。それが兵器に託された使命である。

だが悠助は一度も使った事も、撃った事もないインパルスライフルを使えと武蔵に命じた。実験段階の兵器同然のそれを使うとういうのに、かつての戦艦であったと思っている武蔵はどのような心境でいたのだろうか。並大抵の人にはわかるはずがないものであるに違いない。そんな状態になった武蔵が使用を決めたのは、ひとえに悠助の信じろという言葉があったからだろう。彼の親が作った兵器を彼は信じた、ならば自分も信じるしかない。そう武蔵は思った。

 

「(ここまできたらやるしかない、か…………)インパルスライフル、展開」

 

武蔵は黒龍の左腰部サーベルラックを解除、代わりにインパルスライフルをそこへ展開する。サブアームが展開され、そこに長大な銃身が姿を現した。

 

「初弾エネルギー、チャンバー内へ装填完了。粒子圧縮プロセス、正常を確認…………」

 

フィン状の銃口に粒子が収束していく。それと同時に粒子を覆うようにエネルギーフィールドが形成される。

 

「圧縮率、規定値を突破…………」

 

粒子はフィールド内で暴力的に暴れ狂う。どうして銃身がその形を保っていられるのかが知りたくなるほど、粒子は禍々しい光を纏っていく。

 

攻撃対象(ターゲット)照準完了(ロックオン)

 

インパルスライフルの照準センサーと黒龍のセンサーリンクの同期を完了させ、武蔵は円筒形の物体に照準を合わせた。何もない普通の人から見れば何の変哲もない、少々怪しいとしか思わない物体であるが、武蔵には完全に見えていた。物体から周期的に放出されている波を、毒々しい色を持つパルス波を。

 

「遠慮はしない…………喰らえッ!!」

 

忌々しいものを見つめるかのような瞳をした後、武蔵はインパルスライフルのトリガーを引いた。それとともに押さえ込まれていた粒子はその枷を失い、銃口より禍々しい閃光を放った。その色は、どこまでも暴力的なアカ。攻撃色を纏った破壊の奔流は真っ直ぐ一直線に円筒形の物体を目指す。それに気がついた無人機達がフィールドを展開し、肉壁として防御しようとするが、それすらも吞み込む奔流。無機なる兵は、破壊される直前に何を思ったのだろうか。いや、何も感じないだろう。例え感じたとしても、それは人のものとは遠くかけ離れたものであることに違いない。無人機による肉壁を突破した奔流は円筒形の物体を打ち砕き、その下の地面すら抉った。あまりの高熱により地面の一部はガラス化、物体の欠片など一つも残されていなかった。

 

「片は付いたな…………」

 

排熱が終わらないライフルの銃口を下げる武蔵。その声にはひとまずの安堵が含まれていた。それと同時に通信回線を開く。

 

「悠助、目標の破壊を確認した」

 

 

 

 

 

『悠助、目標の破壊を確認した』

「了解した。すぐに俺のところに来い」

 

俺は武蔵にそう返答する。あの特殊パルス波発生装置を破壊したということは…………

 

「渚、エイミー! 機体を展開、敵機を全部ぶっ壊してこい!」

「お、おう! だが、展開ができないんじゃ——」

「もうできる! こっちでその原因潰したわ!」

「そ、そうか。よし、なら行くぜ!」

「行きます!」

 

渚は藍狂狼を、エイミーはクーガー・カスタムをそれぞれ展開する。クーガー・カスタムは、その名前にクーガーとあるが、ほぼ原型機の姿をとどめていない。改造を施した事もあるが、元の機体にかなりの設計要求してたみたいだしな。フレームの至る所にダメージを受けていたらしい。そのためフレームの修復と強化、装備の追加に強化ユニットの装着を施した結果、もはや別機体に等しくなったのだ。それでもやはりプログラムされていた[WRAITH SYSTEM]だけは封印措置を施すことしかできなかったようだが。青い追加装甲を取り付けられた機体は空へと躍りでる。暫くはあいつらに任せるとしようか。

 

「他の専用機持ちは避難の護衛を頼む。俺は武蔵が戻り次第戦闘をおっぱじめるから、指揮はラウラに任せた」

「ちょ、ちょっと待ってくださいまし! わたくし達だって戦えますわ!ここは一刻も早く敵を叩いた方が——」

「それも案の一つだが、だからといってこっちを手薄にして犠牲者を増やすわけにはいかないだろ。それに、敵は無人機とかのような連中だけじゃねえ。生身の人間だっているんだ。そいつらの命を奪う覚悟はあるのか?」

 

俺がそう言うと、セシリアをはじめとする代表候補生は黙った。まぁ、人を殺した経験なんざしてないに越したことはないんだが。正直言って、この学園はぬるま湯に浸かりすぎてると俺は思う。世界最強の軍事兵器を取り扱っている兵士の育成学校であるにも関わらず、その肝心な人間は浮かれていて命を奪い合うという事実をシールドバリアと絶対防御で覆い隠してしまっている。別に人殺しを強要しているわけではないが、それを引いても兵器を扱う覚悟がなってないのはいかんだろう。

そんな時、黒龍が俺の前に胸部装甲を解放した姿で降り立つ。さて、俺もあいつらの後を追うとするか。

 

「シェルターに逃げ込んだから安全とは言い切れねえ。警護は任せたぞ、お前ら」

 

俺が黒龍に乗り込むと胸部装甲は閉鎖され、視界はより一層クリアになる。現在展開中の武装はインパルスライフルのみ。ひとまずライフルを格納し、サーベルラックを再展開させる。

 

「悠助…………やっぱり行っちゃうの?」

 

スラスターを点火しようとした時、一夏がそう弱々しい声で言ってきた。その顔は少し不安げなものだ。右手のみ装甲を解除し、一夏の頭を優しく撫でてやった。

 

「ああ、俺が行くしかねえからな。こいつが終わったら、また一緒に出掛けようぜ。だから—」

 

——死ぬなよ。

 

そう言い残して、俺は空へと舞い上がった。レーダーには幾つかの光点が表示されている。おそらく異常な動きをしている二つを除く全てが敵機であろう。だが、奴らは何のためにここを攻めてきやがった…………狙われる理由は多々あるだろうが、そんな事は今はどうだっていい。やる事は決まってる——もうあいつを、一夏を悲しませない。だから、今ここにある危険を全て焼き尽くす。

 

「てめえら…………覚悟しやがれッ!!」

 

右手にアサルトライフル、左手にバズーカを構え、BⅡ型ユニットを装備した俺は敵陣目掛けて一直線に突撃していったのだった。

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