守りたい、ただそれだけ(本編完結) 作:ディニクティス提督(旧紅椿の芽)
俺の目前に現れた中隊規模の機体群。その中に一際目立つ機体が幾つもある。真紅に白、桃色、赤黒。どいつもこいつも同じようなフルフェイスバイザーをつけている。俺たちの機体のようなブレードアンテナのようなものにデュアルアイ。それぞれで背中のバックユニットが異なっているようだが、近接戦に偏っているように感じられる。だが、そんな事はどうだっていい。俺はこいつらを倒さなきゃならねえんだ。それで一夏さえ無事でいてくれるのなら…………。
そんな時、編隊から桃色の機体が俺の元へ飛んできた。対話でもする気があるのかと一瞬思ったが、全くと言っていいほどそんな気はないようだ。その機体はバックユニットに手を伸ばすと、バックユニットが変形し、
「てめえ、千冬だな!」
『!? なぜ分かった! 貴様ぁっ!!』
上段から振り下ろされた大剣を返す刃の要領で切り上げてくる。それを避けた俺は両手のビームライフルを交互に放つ。深紅のビームが向こうの機体を穿つかと思いきや、大剣の腹で防いでくる。刀であればビームを切る事すら可能だっただろうが、あの大剣では斬り払う事は難しいだろう。けど、確信は持てた。さっきの通信で聞こえた声は間違いなく千冬のものだった。
「俺の事を忘れているんじゃねえだろうな! あぁ、ブリュンヒルデさんよぉ!!」
「その声…………一秋兄さんか!?」
俺の事を思い出した千冬に向かって、襟元のメガランチャーを放った。ビームライフルとは比べ物にならないほどの極太ビームが突き進んでいく。流石にこれは受けきれないと判断したのか、射線上から避ける千冬だが、向こうの機体の脚部装甲表面を軽く融かした。脚部には制御スラスターを内蔵している他に、AMBACといった慣性制御システムの一部分を担っている。そこを破壊されると機動力は著しく低下するらしい。損傷は軽微なものだが、後々響いてくるに違いない。
「そうだと言ったらどうすんだ!」
左腕のミサイルランチャーを全て放った。全十八発のマイクロミサイルが高速で飛んでいくが、千冬はそれを軽々と避ける。が、
「くっ!? 近接信管だと!?」
装填していたのは近接信管ミサイルだ。着弾する直前で起爆し派手に煙幕を展開させる。この程度あいつにならどうって事はないはずだ。それは公式戦でも実際に出ている。けどな、必ずと言っていいほど、あいつは煙幕から出てくる時は
「そこかぁぁぁぁっ!」
煙幕を切り払って飛び出てくる。大剣を大振りに構え俺に切りかかってきた。すかさず俺は右手にレールバズーカを展開、一マガジン六発全てを撃ち込んだ。レールガンと同等の速度で放たれたのは対IS用榴弾。装甲にはダメージをあまり与える事はできないが、本体になら直接攻撃をする事だって可能だ。衝撃を殺す事など、いかなる機体にだって不可能だからな。
しかし、ここまで近づかれてしまってはこのフル装備形態はあまり有利ではない。寧ろ不利だ。
(ミサイルを破棄、メガランチャーとライフル、バズーカは格納。代わりにブレードライフルとトンファーブレードを頼む)
〔任せるネ!〕
ビームガンとハンドバスターソード以外を格納し、近接武装であるブレードライフル、トンファーブレードを取り出す。向こうの大剣と比べれば細身ではあるが、こちらも大剣である事に変わりはない。
爆煙の中から千冬が飛び出る。おそらく榴弾は切り捨てたんだろうな。ダメージの跡が見受けられない。…………まぁ、レーザーとかも切り捨てるような奴だからな。仕方ないと言ってしまったらそれまでなのかもしれない。
向こうの大剣と俺のブレードライフルが切り結んだ。力の差はない。つばぜり合いで互いに一歩も譲らない。
「何故だ! 何故今更になって出てきた!」
「うるせぇ! 出てくるのに遅いも早いも関係無いだろうが! そっちこそ、一夏や春十の世話をちゃんとしてきたのかよ!」
「ああ! 春十はちゃんとしてきたさ。だが、あの出来損ないだけはやる価値も無いだろう! 見捨ててもそれまでだ! お前だって、私と同じ穴のムジナだろう! 家族を見捨てた兄が!」
「てめえなんかと一緒にするんじゃねえ!」
トンファーブレードを切り上げ、腕の一本でも切り落とそうかとしたが、奴は後ろに回転しながら回避する。くそっ、やはり近接戦闘は向こうが上手か!
「チェストォォォォォッ!」
「くっ…………!」
再び交錯する大剣。トンファーブレードで正面から受け止めるが、衝撃がフレームや骨を軋ませる。あれだけの大質量を受け止めればそうもなるかもしれないが、だがそれでもこれは少し異常じゃないか? ISのパワーアシスト以上の出力じゃねえか!
「私と春十を見捨てたくせに、今更家族面するな! その報いを受けろ!」
あぁ…………確かに俺は親父やお袋と同じ、家族を見捨てたも同然なんだろうな。だが、それでも俺は一夏の事をずっと心配してきた。結局何もしてやる事はできなかったが…………だからこそ俺は、今、変わろうとしているんだよ! 何も変わろうとしない奴には、言われたくねえ!
「咎は受けるさ…………お前を倒した後でなぁっ!!」
ウィングブースターの出力を上げ、トンファーブレードを振り払う。大剣はそれで跳ねあげられ大きな隙ができるが、横薙ぎに払ったブレードライフルが腰部装甲の一部を抉り取っていく。致命傷には程遠いか…………。
「ちいっ!」
千冬は一度大きく距離をとって俺から逃げる様に動く。ちっ、加速力は向こうが上かよ…………次第に俺と千冬の距離は離れていく。ブレードライフルを畳み、ライフルモードで攻撃を加えていくが、巧みにかわされていく。もとより俺の身体能力は平凡なものだ。千冬が化け物クラスに特化しているだけ。くそっ、このままじゃ俺がジリ貧だ。ライフルのエネルギーも半分を切った。左脹脛のホルスターよりビームガンを取り出して放つ。ブレードライフルのビームよりも低出力のそれは、それなりの速さで連射されるが大したダメージを与える事はできてない。
そんな時、千冬の姿が突如として消えた。天候は晴れ…………まさか!
「裏切り者は大人しく死んでおけぇぇぇぇっ!」
太陽を背に、千冬はあの大剣を振りかぶって一気に降下してくる。此方の偏光機能が俺の反応に追いつけず、細かな姿を捉えられない。はっきりと見えた時はすでに遅かった。眩い程の白を纏わせたあの大剣が目前に迫っていたのだから。
「ぐっ…………がぁっ!?」
左側面のバイザーと装甲を切り裂かれた俺は地上に向かって落ちていく。…………幸いにも体はどこも千切れてないようだ。
(結局…………俺は何もできないんだな…………情けない兄だぜ…………)
地上に叩きつけられた衝撃と共に、俺の意識は何処か虚空を彷徨っていたのだった。
「ぎゃあぁぁぁぁっ!! や、やめてくれ! お、俺はまだ死にたくな——」
「そういうセリフは何もやらかす前に言っておくべきだったな、ハハッ!」
突き刺したビームブレードを縦に切り上げ敵の息の根を止めた渚。藍色の装甲には至る所に血が飛び散り、直刀にも血がこびりついている。さらに赤く光り輝くフレームとデュアルアイも相まってか、より一層悪魔のような佇まいをさらしていた。
「なぁ、俺をもっと楽しませてくれよォ…………」
渚はゆらりと背後を振り向く。そこには何種類もの機体が一斉に銃口を向けていた。アメリカ第二世代フリーダム・ウルフ、ドイツ第二世代シュヴァルツェア・ゲヴィッター、ギリシャ第二世代オルトロス。そして、所属不明のインディゴブルーの機体。その名をカラドボルグと言う。所属がどれも一致しない機体達ではあるが、その連携は巧みにとられている。
だが、それがかえって渚の内に潜む
「そうじゃねえと、すぐに殺しちまいそうだからよォッ!!」
そう叫ぶと同時に一斉に銃撃を受ける渚だが、左腕に装備されたショートシールドで全てをいなしていく。銃撃の雨を物ともせずに渚は突き進んでいく。それを見たオルトロスの操縦者はあまりの恐怖に耐え切れず、何を血迷ったのか接近戦を仕掛けた。
「ば、バカッ! 隊列を乱すな!」
「あ、あんな化け物にまともにぶつかれる訳ないだろ!?」
仲間が散々注意をし、オルトロスの操縦者を引き戻そうとするが、最早彼にはまともな思考をするだけの容量が残されていなかった。今まで装備していたライフルを投げ捨て、アサルトブレードを構え、渚に切りかかった。
「——甘ぇなァ」
が、そんな半狂乱状態の人間が、
「そんなんで俺に勝とうなど——」
「ひ、ひいっ——!?」
刹那、轟音が響き渡った。だが何かが盛大に爆発した訳でもない。その音源は一つ、渚が突き立てたショートシールド。その先端には凶悪な二連装パイルバンカーが装備してあった。しかもその威力はシャルロットが保有する[
「——未来永劫あり得ないんじゃねえのか?」
二本の杭は強固な複合装甲材を無視し、操縦者ごと機体を貫いた。これにより操縦者は肝臓、胃、腸を大きく損傷、また腰椎と坐骨神経を破壊され、その体にかかり過ぎた負荷により絶命。だが、彼とオルトロスにかかる不幸はこれだけに留まらなかった。
「お前っ! 何をする!?」
「仕方無えだろ! 奴を火力で封じるしかない! 近づいたら死ぬ!」
フリーダム・ウルフの操縦者が両手に四連装ロケットランチャーを展開、迷いなく渚に向かって撃ち込んだ。直線的軌道の無誘導ロケット弾は渚という狼を仕留めんとする。
「——はっ、その程度で俺を殺せるとか粋がってんじゃねえよ」
普通の人なら恐怖を感じるであろうその攻撃にも渚は全くと言っていいほど身じろぎしない。突き刺したパイルバンカーを引っこ抜き、元言わぬ鉄屑と化したオルトロスの頭部を右手を掴み、自身の前に突き出した。その直後、放たれた八発のロケット弾はオルトロスを次々と攻撃した。高威力のロケット弾はオルトロスという盾に邪魔され、本命である渚を攻撃するに至らない。盾になったそれは、全身をくまなく破壊され、最早胴体に繋がっているのは頭と右腕だけという様であった。爆煙が晴れた先、憐れな姿に変わり果てた仲間を見たウルフの操縦者は憤りを隠せなかった。
「きっ、貴様ぁっ! 死んだ仲間を盾にするなど、卑怯な!」
彼はその手に持つランチャーを投げ捨て、再びライフルによる攻撃を敢行する。最早頭の中は怒りで埋め尽くされ、残弾数を表示するインジケータにすら目をやっていない。基本的にライフルはある程度の連射ができる銃である。マシンガンのような豊富な弾数など無理だ。あっても精々四十発。それをフルオートでトリガーを引き続ければどうなるか。
暫くして、銃口からは何も吐き出されず、ただただ虚しくカラカラという音が鳴るだけだった。
撃ち放たれた弾丸も、渚がシールドで弾くか、直刀で切り落としていた為、有効打など与える事は出来ていなかった。
「そんなトロイ弾で俺が落ちるわけねぇーだろ!」
「いぎゃあぁぁぁぁぁっ! や、やめ——」
接近した渚の直刀に胴を薙ぎ払われ、上半身と下半身が切り裂かれてしまう。その瞬間、返り血を浴びる渚ではあったが、当の本人はそんな事を一切気にせず、むしろデュアルアイを凶々しく光らせ、悪魔のような表情を浮かべる。
「じょ、冗談だろ…………あんなの勝てるわけがない!」
「そんなわけあるか! 俺たちは誇り高き亡国の猛者だろ! 」
残されたゲヴィッターの操縦者は背部ユニットに装備された実弾砲と左腕の二連装機関砲を放つ。一方のカラドボルグの操縦者は、渚の放つ凶悪な雰囲気に気圧され、後方から大してダメージの与えることができないサブマシンガンをろくに狙いも定めず撃っていた。
「死んだ仲間の仇だ! こいつでっ…………!」
実弾砲は藍狂狼の頭部を狙う軌道で飛来する。放たれるAPFSDS弾には彼の、仲間を殺された恨みも篭っているように思える。
「食らうわけねぇーだろ、雑魚がぁっ!」
だが、そんな思いだけで何かが変わるわけでもない。渚は飛来してくる砲弾に頭部近接防御機関砲を撃ち込む。高速飛来してくるのはダーツ状の弾芯のみであり、誘爆などはまず不可能だ。しかし、その土手っ腹に攻撃を加えれば、破壊する事は可能である。渚はそれを意図したわけではないが、自身に飛来してくる砲弾三発を破壊した。
砲弾が飛来してくるのはかなりの恐怖がある。しかし、渚にはそんな事を感じる事は全くなかった。かわりに、フルフェイスバイザーの下で狡猾な笑みを浮かべていた。まるで、新しい獲物を見つけたかのように。
「次はテメエだな!」
直刀を構え、ゲヴィッターへと突き進む渚。その間にも二連装機関砲が放たれ、藍狂狼の装甲表面を叩いていくが、ダメージを与えられていない。ましてや、その後ろから放たれているサブマシンガン程度の弾丸など足止めすらになっていない。ゲヴィッターのパイロットは恐怖を抱いた。どの攻撃も意に介さず、突き進む狂獣。
「く、来るな! 来るなぁぁぁぁぁっ!」
先程までの威勢は何処へ行ったのか、ろくに照準を合わせずに二連装機関砲、背部実弾砲、ライフルを放つ。だが、その殆どは見当違いの方へと飛んで行き、全くと言っていいほど接近を阻害する事が出来ていない。
「こいつで逝っちまいなー!」
「や、やめ——」
渚は直刀を胸部装甲へと突き刺した。最も厚いと言われる胸部装甲を貫き、心臓を貫く。それでもすぐに心臓が止まるという事などなく、ゲヴィッターの操縦者は苦悶に満ち満ちた、声にならない声をあげ、そして両腕を力無く垂れ下げた。渚は直刀を引き抜き、亡骸を海中へ放り投げた。
「ひ、ひいっ…………!」
「テメエで最後ってわけか…………」
藍狂狼のデュアルアイに見つめられたカラドボルグの操縦者は、その圧倒的な恐怖に飲まれ、体が動かなかった。
「まぁ、俺に会ったのが運の尽きだな!」
渚はまだ乾いてない血が滴っている直刀を躊躇なく振り下ろす。がしかし、カラドボルグの操縦者は迷いなくアサルトブレードを展開、必殺の一撃を辛うじて受け止めた。
「ほぅ、なかなかやるじゃねえか、テロリストさんよォ!」
「ま、まだだ…………俺たちはここで負けてなんか——」
「まぁ、テメエらが負けるのは確定みたいだけどな!」
渚はそう言うと、80mm機関砲、胸部12.7mmガトリング砲を放った。シールドエネルギーを凄まじい勢いで削られ、シールドバリアを引き剥がす。通常のISであるならば絶対防御があるため、操縦者が死ぬ事はまずない。しかし、カラドボルグに積まれているのは擬似コア。絶対防御など存在しない。80mmという砲弾が装甲を叩き割り、12.7mmの対人用の銃弾がその命を削っていく。
「ちく…………しょ…………亡霊の…………意地…………見やがれ…………」
最後にそうとだけ言い残し、カラドボルグの操縦者は事切れた。機体の各部には無数の弾痕が残り、頭部バイザーも半分が割れていた。機体は重力には逆らえず、海中へと没した。
「これで終わりか…………次に行くぞ」
渚は次の獲物を求め、未だに銃弾が飛び交う戦場を駆け抜けた。しかし、彼は気づいていない。力尽きたカラドボルグに取り憑いた亡霊の怨念の存在に。
[ALL GOLEM SELF DESTRUCTION ATTACK MODE]
戦火の調べに未だ終演は見えない——。
一方、渚とともに行動していたエイミーは、単独で敵を倒していた。強化されたスラスターによる機動戦闘に、無人機はなす術もなく破壊されていく。
(くぅっ…………数が多い! このままじゃ、こっちが不利!)
だが、それでも数の暴力の前ではいくら強化を施されようとも、堪えてくるものがある。すでにレールバズーカの弾薬は切れ、サブマシンガンとレーザーソードで戦うしかなかった。
(それにしても何なの…………この頭にチリチリとくる違和感は!)
無人機の攻撃を躱し、お返しと言わんばかりに右腕を切り落とす。しかし、エイミーの頭には何やら不思議な違和感がつきまとっていた。まるで、脳の中に直接情報が送り込まれてくるような、不快なモノ。次第にそれも力を増していき、彼女の頭の中を支配していく。
そんな状況のなかで、無人機のなかに他とは違う形状をした機体を彼女は見つけた。自分とはまた違った青い機体を。その機体を見つけた途端、彼女はハッと意識を戻し、青き機体めがけて突き進む。それを見た青き機体はランスを構え、同じように突き進む。
「くぅっ!」
「ちぃっ!」
本来ならありえない、ランスとレーザーソードの鍔迫り合い。軽量で手数の多いレーザーソードと一点突破のランス。今この瞬間だけは違う使われ方をしていた。
「なんなんですか、貴方達は!」
エイミーは声を荒げてそう叫ぶが、目の前にいる敵機は何も答えない。逆にランスを振るい、内蔵されたマシンガンを放ち距離をとる。
(今の声…………まさか——!)
だが、本当に何も感じてないといえば嘘になる。青き機体——クロノスの操縦者、レーアは先ほど交錯した機体から聞こえた声に、聞き覚えがあった。かつて同じ施設で、同じように強化され、科学者の実験材料としか扱われなかった中、最後まで共にいた彼女の事を。
(いや、そんな筈はない…………まだあいつはあの忌々しい所にいるはずだ!)
しかし、彼女はその考えを自ら放棄した。目の前にいるのはただの敵、自分達が作る世界を狂わす存在。彼女の記憶の中にいる少女とは違う、ただ自分を惑わす
「…………お前らなどに負けるつもりなど、毛頭も無い!」
背部ブースターを全開にし、エイミーへと必殺の突きを繰り出すレーア。しかし、エイミーはそれをいとも簡単に避け、ガラ空きとなった背中にサブマシンガンを叩き込む。が、レーアもまたその不意打ちを軽々と避ける。並みの人間にはできない芸当を繰り出す彼女達の脳は、機体より送られてくる膨大な量の情報を処理するのにフル稼働していた。だが、その情報量は並大抵の人であれば脳の神経が焼き切れるほど。
「こんなところで私は…………負けるわけにはいきません!」
「…………そんな戯言を!」
振るわれるランスをレーザーソードでいなし、増加装甲で固められた蹴りをお見舞いしようとするエイミーではあったが、その動きはすぐに止められてしまった。何が起きたのかと原因をすぐに探る。すると、脚部をがっちりと押さえ込んでいるクローが目に入った。
(まずい!)
そう思ったが、時すでに遅し。代わりに自身が蹴り飛ばされ、クローから伸びるワイヤーによって、未だに解放されない。
「…………これで、終わりだ!」
三度目となる突き。エイミーは既にその軌道を見切ってはいたものの、回避することは不可能。絶対防御が存在しないクーガーには致命傷になり得る一撃。
攻撃が来るのがわかっているのに、動くことができない。エイミーはそんな自分が不甲斐なく感じていた。あの時、渚に助けられた命。その命を今度は誰かを守るために使うと考えてはいたが、それもできず今こうして死に行く寸前。サブマシンガンを使うにも距離が近い、だがレーザーソードであの一撃は受け止められない。絶望的状況であった。
〔ヤラセハ…………シナイ…………ヨ!〕
——[WRAITH SYSTEM] ONLINE
刹那、彼女の脳には先ほどまでよりも段違いに多い情報が流れ込み、幾多ものビジョンが見えた。その中から、生きて勝つ選択を選んだ彼女はシールドを斜に構え、ランスを弾いた。突進力も相まって、ランスを持つ手は大きく上に逸らされ、ガラ空きの胴を晒してしまう。そこに未だ自由な左脚の蹴りが叩き込まれた。増加装甲による重量増加で威力は増し、レーアは大きく体勢を崩された。
「ぐぅっ…………! なんなんだ、一体…………ハッ!?」
クローアンカーを引き戻し、体勢を整える彼女は、クーガーのバイザーが赤く染まり、その下にあるデュアルアイが見えたのを確認した。こんな事が起きるのは彼女の知っている中では一つしか無い。
(レイスシステムだと…………!? バカな! あれは未だ米軍で実験中のはずじゃ…………!)
自身も被験者として使われたあの忌々しいシステム。それを搭載した機体が今自分の目の前にいる。あのシステムの恐ろしさは自身が一番分かっている、だからこそ彼女は戦慄していた。自然とランスを構える手に力が入る。
「どうして…………」
エイミーもまた自身がシステムに飲まれないように意識を保つ必要があった。自身の意思とは裏腹にただ戦いに勝つ為だけの、残虐で非人道的なこのシステムを制御するには、強い精神力が求められる。故に彼女の脳の処理能力は極限に達していた。
それでも、彼女の意思が今のシステムには滲み出ていた。
「どうして、貴方達はこんな事を…………! そんなに戦争がしたいんですか!」
サブマシンガンを両手で構え、ブースターを吹かし、レーアへと突き進むエイミー。その気迫に気圧されてか、レーアはシールドを取り出し、その弾丸を防ぐだけだった。
(ちっ…………このままではこっちがやられる! だが、あのプレッシャーは——)
〔——ナラ俺ガ力ヲ貸スゼ!〕
唐突に聞こえた声。その声にレーアは戸惑うが、戦場ではそんな事を気にしている余裕など無い。だが、直後に開かれたディスプレイに表示されていたモノを見て、彼女は再び戸惑う。
——[WRAITH SYSTEM]ONLINE
あの忌々しいシステムが自分にもあった、それだけで彼女は驚きを隠せない。そして、あの敵を倒せるかもしれないという希望も。
〔レレレッ! サァ、始メヨウ!〕
「やるしか無いようだな!」
クーガーと同じようにバイザーを赤く染め、再びランスの一撃を繰り出す。その攻撃は今までよりも数段速い。
(正面からくる! 下にまわって——)
(機体下部からの奇襲を警戒しつつ、ライフルを——)
(撃たれる恐れがあるから、そのまま背後を——)
(隙を出しているように見せかけて、振り向きざまに——)
「くっ!」
「ちっ!」
エイミーが抜刀したレーザーソードとレーアの振るうランスは再び切り結んだ。相手の行動を先読みして互いの攻撃を相殺する。勝つためには生きなければならない故にシステムが見せた未来だが、それではまだ戦いは終わらない。
「何故だ…………何故貴様がそのシステムを!」
「そっちこそ、どうしてそれを…………!」
「それはこっちのセリフだ!」
レーアは左腕に装備されているクローアンカーを射出する。クローは赤熱化しており、その一撃で確実に仕留められるものである。システムが見せたビジョンには、クローに貫かれるクーガーの姿があった。
しかし、それはアンカーが空を切ることで無に帰した。同じくエイミーにも、システムがビジョンを見せており、その攻撃を予測していた。すぐさま切り結ぶのを止め、クロノスの上空へとまわる。
「これでぇぇぇぇっ!」
エイミーは追加装備されたレーザーライフルを展開、躊躇いなく緑色の光弾を放つ。何発かはクロノスに直撃し、そのうち一発が背部ブースターを撃ち抜き、もう一発が頭部バイザーの右半分をを掠めた。そのせいで顔が露出する。
「がぁぁぁぁぁっ!? く、そ…………がっ!!」
——システムエラー
——シークエンスに異常
——システム、強制停止
〔油断シタナァ…………ココマデミタイダ〕
システムの大半が集約されている頭部を損傷したことで、システムが強制的に終了してしまった。それと同時にレーアの頭には多大な負荷がかかる。終了時には幾多もの防壁によって負荷を最小限にするが、突然の停止にシステムがエラーを引き起こしたのだった。
「ぐぉぶぇっ…………がはっ…………か、かぁっ…………!?」
脳が情報を処理しきれず、吐き気と頭痛が同時に襲ってくる。意識すら朦朧としてきている。その様子をエイミーは見ていた。何より、割れたバイザーから覗く淡い青色の髪。彼女が知る中であの髪の色をしているのは一人しかいない。
「うそ…………ですよね…………?」
システムが正常終了した彼女は一目散に、もがき苦しむレーアの元に向かった。想像を絶する頭痛が襲っているのか両手で頭を押さえ込み、口からは胃液が吐き出される。エイミーは何を思ったのかバイザーを解除し、その顔を外気にさらした。
「あぁぁぁぁぁっ…………!! うぁっ、あがぁぁぁぁぁっ…………!!」
「なんでなんですか…………どうしてこんなことになっているんですか…………!」
エイミーは彼女を介抱しようとするが、もがき苦しむ彼女に何をどうしたら良いのかわからず、手が出せていなかった。そんな中、ふと視線が交錯した。
「エイ、ミー…………?」
その瞬間、レーアの意識は一瞬だけ正常になった。目の前であたふたとしている彼女の名前を呟くと、意識を手放し、全身から力が抜けていった。落下していく彼女を受け止めたエイミーはすぐさまにバイタルチェックを行う。だが、心音は感じ取られない。息もしていない。その事実を受け入れられないのか、エイミーの目尻には涙が溜まっていく。
「そんな…………嘘だって言ってくださいよ…………やっと、やっと会えたというのに…………レェェェェアァァァァァァァァァッ!!」
戦場に、少女の泣き叫ぶ声が響き渡った——。
「左舷、対空戦闘用意!」
「CIWS、AAWオート! 続いて12.7cmアクティブ・カノン、斉射!」
学園から脱出を図る天海龍であるが、突如挙動を変えた無人機による攻撃を受けていた。回避行動もせず、ただ突き進んでくる様はまるで特攻。それらは全て天海龍が誇る無数の対空兵器によって撃墜されていく。それでもブリッジのCICにいるクロエには約六百人もの命がかかっており、その顔から緊張が消えることはない。
「VLS、81番から92番、アルバレスト装填。連中に手痛いお土産を食らわせなさい!」
「了解だ。弾頭の活性化確認、ここで殲滅させてもらう!」
各所のハッチが開き、中からは夥しいほどのミサイルが吐き出される。破壊の限りをつくすそれらは次々と無人機に突き刺さっていく。それでも無人機はいくらでも増え続ける。どこにそんな力があるのか、クロエは画面を睨みつけながらそう考えていた。
「敵機、二十パーセントを撃墜したわ!」
「気は抜かないで! こっちは命を預かっているんだから!」
「強制波動装甲、稼働率十二パーセント! だんだん稼働率が上がってきているぞ!」
「取り舵、十! 速力最大を維持!」
だがいくら戦艦であるからとはいえ、防御に抜け目だってある。突破してきた攻撃は強制波動装甲に阻まれるも、負荷をかけていくことに変わりはない。
「陸奥! 日向! 絶対に奴らを蹴散らしなさい!」
「了解よ! 20.3cmアクティブ・カノン、左舷一番から四番、対空弾装填! 撃てーっ!」
「対空戦闘、40mm対空レーザー、30mmCIWS、全門開けぇっ!」
解き放たれし群を散らす個の暴力。アクティブ・カノンより放たれるレールガン級の砲弾は無人機をはたき落とし、対空兵器の弾幕は強固な防壁を構築し、無人機を確実に破壊する。旧時代の遺産である戦艦は、現世においても最強の力を有し、その姿こそ龍の名を冠するものにふさわしい。
一方、艦上では
「…………こっちは近づかせない!」
〔摩耶様と簪の本気、見せてやるぜ!〕
「やらせませんよ!」
〔一発ぶちのめしてやるのです!〕
「こっから先は死守しますわ!」
「僕だって、みんなを守りたいんだ!」
「散れ、人形どもがあっ!」
「私も本気を出すわよ、アイオワ!」
〔がってん! 出し惜しみなんてしないよ!〕
簪が連装アームカノンを撃ちつつ、ミサイルによる迎撃を行い、セシリアとラウラが長距離狙撃、真耶とシャルロットがアサルトライフルやらバズーカやらではたき落としていき、ナターシャが全身に装備したプラズマカノンやビームアサルトガンで蹴散らしていく。そして、
「やらせるかぁぁぁぁぁっ!」
「おねーさんの本気、見せてあげるわ!」
近接戦闘主体の鈴と楯無が確実に敵を仕留めていく。その一瞬、無人機のバイザーに何やら文字が浮かび上がっているのを見た鈴は戦慄した。
「冗談じゃないわよ…………こいつら、
「
ISの自爆攻撃ほど被害が大きいものはない。だが、それを彼女たちは教科書でしか知らない。むしろ、知らされない情報であるため、どれほどの被害を被るのかはわからない。だからこそ、より一層緊迫した空気が彼女たちを包んだ。
「…………一夏との約束、必ず果たすよ! みんな、気を引き締めて!」
簪の言葉に連れられ、皆が迫り来る無機質な殺意を破壊していく。まるで亡霊が生きている人間たちに怨念をぶつけるかのように迫り来る無人機はその数を減らしていく。
それでもまだ、戦火の奏でる調べは終わりを見せない——。
一人単独で行動しているアーミアは、ある機体を探していた。今回の襲撃に当たって、彼女には心当たりがあった。そう、かつて自分たちの仲間を奪っていった、堕天使の存在を。
「あの野郎…………見つけたらただじゃおかねえ! 今度こそ、俺の手で!」
ロングスマートガンを構える手により一層力が入る。アーミア自身、このためだけに生きてきたようなものだ。
しばらく飛び続けると、眼前にあの機体が姿を現した。禍々しい赤に染まった翼を持ち、特徴的なデュアルアイを紫に光らせている機体。それを見た途端、アーミアの脳裏にはあの時の記憶がフラッシュバックする。嬲り殺されていく同僚、両腕を斬り落とされた相棒、そして何も出来ずに転がる自分と、首を締め上げれている恩人。彼女にとって最も思い出したくなく、最も忘れてはいけない記憶。一瞬、精神がぐらつきそうになるが、それを恨みや憎しみで持ち直す。
向こうが背部バインダーより剣を抜き取る。それを見たアーミアは迷いなくロングスマートガンを放った。青色のビームが幾多も放たれ、視界を埋め尽くす。が、それを目の前の機体は軽々と避ける。代わりに紫のレーザーが飛来してくる。アーミアはその攻撃を回避し、左手にロングスマートガンを預け、右手に長刀を展開、目の前の敵に斬りかかった。向こうもただで切られる気などなく、抜き取った剣で切り結ぶ。
「どいつもこいつも、なぜ俺たちが作る世界を受け入れようとしない!」
「知るか! だが、貴様だけはこの俺が倒す!」
「威勢はいいみたいだねぇ! だが、その程度でこのアヴェンジャーに勝てるとでも!」
力が拮抗し、互いに一歩も譲らない。しかし、突如アヴェンジャーの背部バインダーから二つの砲身らしきものが姿を現し、電磁を帯びた砲弾を放った。アーミアはそれを軽々と躱し、ビームアサルトガンを数発放った。それを合図に二人は距離をとる。そしてまた近接武器での鍔迫り合いになった。
「忘れねえ…………あの時、スコールを、マドカを…………俺の大切な仲間を奪っていった事、忘れたとは言わせねえぞ!」
「お前…………もしかして、あの時の女郎蜘蛛か! 何一つ守ることができなかったお前に何ができると言うんだ!」
「ああ…………確かに俺は何も守れなかったさ…………だがそれでも、スティグマト! 貴様を討つ事くらいはできんだよ!」
ロングスマートガンを格納し、両手に長刀を構えたアーミアは横薙ぎに振るう。それをスティグマトと呼ばれた男は体を捻って避ける。しかし、その直後、白龍特有の多く張り出した膝の装甲が横腹に突き刺さった。
「ぐ、うっ…………腑抜け共の亡霊風情がぁっ!」
「ぐはぁっ! や、野郎、やりやがって!」
スティグマトは反撃とばかりに、アヴェンジャーの腕部に内蔵されているレーザーガンを放った。高密度のレーザーは白龍の右肩部ユニットの表面を焼き、胴体部の一部に当たる。絶対防御はまだ反応してないためそこまでフェータルダメージではないようだが、その衝撃はアーミアの顔を苦悶に歪めさせた。その僅かな隙にスティグマトはアーミアに背を向け、距離を取ろうとした。
「待てよ、テメエ!」
それを追うようにアーミアは距離を詰める。その際に、両肩のビームキャノンを取り外して手に持ち、ビームライフルとして放つ。桃色のビームがアヴェンジャーを掠めてはいくが、決定打となるダメージを与えられてはいない。
「逃げんなよ…………」
単発から連射に切り替え、スティグマトを狙うがちょこまかと動く彼をアーミアはなかなか捉えられない。
「逃げんなよ…………!」
次第に、敵を落とせない焦りと仇を取れない自分の無力さに怒りが彼女に溜まっていく。
「逃げんじゃねえよ、スティグマトォォォォォッ!!」
背部のビームキャノン四門をライフルと同時に放ち一撃で仕留めようとするも、その攻撃を後ろに回転することで回避するスティグマト。彼の手には小型のライフルが握られていた。
「なら望み通り、あの腑抜け共と同じように送ってやるさ!」
「ふざけた事をぬかしてんじゃねえッ! 貴様こそ、地獄で詫びを入れてこい!」
「ははっ、そんなことするわけないだろう!」
スティグマトの握るライフルからは腕部内蔵レーザーガンよりも威力が高いレーザーが放たれた。幾条ものレーザーがアーミアを襲う。大半のレーザーはかわしきったが、右脚部と胴体にそれぞれ一発ずつダメージを受けてしまった。
「くそっ!」
自分は段々とダメージを受け劣勢になっていくことに、アーミアは遣る瀬無い気持ちになっていた。それでも、やっと見つけた仲間の仇。それを討たない事に、前にも後ろにも進めないと感じた彼女はビームライフルで再び攻撃を再開する。
復讐の思いは、戦場でその花弁を開いていた——。
「ちっ、無人機の挙動が変わったかと思いきや、特攻仕掛けてきやがった!」
「おまけに単純な特攻兵器も混じってきたしね…………これやばいんじゃない?」
他とはまた違ったところで、悠助と束は自身の機体が持てる最大火力で幾多もの敵機を落としていた。黒龍はG型ユニットを装備し、レールキャノンを始め、オートカノン、ミサイル、ガトリングと重火器による弾幕を張り続け、敵を寄せ付けない。碧龍は数多くのガンビット、シールドビットを展開、数多のビームで確実に仕留めていく。
「ミサイルの残弾、35%…………こっちは通常弾頭しか残ってねえぞ!」
接近してきた無人機を左手に装備したバスターソードで斬り伏せる悠助。だが、幾ら高火力な機体であっても、黒龍は実弾兵器がほとんどを占めている。いずれ訪れる弾切れも時間の問題だ。
「どうせあいつらには絶対防御なんてないんだ…………飽和攻撃でシールドを剥がして!」
束もまたスナイパーライフルを折り畳み、マシンガンモードに切り替えて特攻兵器を破壊していく。ビーム兵器が主体の碧龍ではあるが、未だ敵機の数は目立って減少することはなく、この状態が続けばいずれエネルギー切れになることは明白だ。
「くそったれが!」
レールキャノンの直撃により、一機、また一機と海面へ叩きつけられていく。だが、レールキャノンの排熱が予想以上に追いついてなく、放熱装置が悲鳴をあげていることに悠助は気がついていた。
「束さん、こっちは限界に近い! そっちの方でなんとかならねえか!」
「こっちもこっちで厳しいかなぁ…………使える武装をなんでも使って乗り切って!」
「結局はそうなるのな!」
束は空いている左手にブレードピストルを展開し、さらに弾幕の密度を上げていく。一方の悠助も弾切れになったオートカノンを格納、バスターソードを右手に持ち替え、左腕に二連装機関砲を装備した。火力はさらに低下したが、彼が敵機を撃墜していく速度に衰えは感じられない。それでも、弾切れまでのリミットが伸びたわけではない。
「さて、雑魚共はさっさと退場願おうか!」
「こんな木偶の坊に束さんの夢を潰されたくはないからね!」
敵陣内で大暴れをする二人。敵機の数は残り半分まで減っていた。
戦場に龍の息吹が吹き荒れる——。
「死ねよ、出来損ないがぁっ!」
「くうっ…………!」
振るわれる大剣をブレードライフルでいなす。だけど、その威力は高くて、弾かれてしまった。
避難するみんなの護衛をしていた私だけど、その途中白い機体に襲われて…………ずっと、こうやって戦っている。誰も死ななかったからよかったけど、私が劣勢に追い込まれていることに変わりはない。そして何より、あの白い機体に乗っているのは、いつの間にか居なくなっていた春十だった。
「お前がいたから、こっちはシナリオ通りに事が運ばなかったんだ! その罪を償え!」
「そんな事知らないよ! 第一、シナリオって何!? 自分の思うようにならない事なんて、当たり前の事なのに!」
「うるさい! この僕が、僕たちが世界の中心にいるんだ! 僕のシナリオに沿って世界は動くんだよ!」
蹴りを叩き込まれそうになるけど、春十の頭上に向かって宙返りをして回避する。お返しと左腕のアームカノンを放つけど大してダメージを与えられていないみたい。
「その動きは読めていたぁっ!」
春十の機体の背中から生えている翼から、大型の砲身が姿を見せた。春十自身よりも大きいそのキャノン砲から眩いビームが放たれた。けど、私にはそんなものは当たらない。どうしてなのかわからないけど、頭の中に春十がそうしてくる光景が見えたから。体を捻って回避すると同時にブレードライフルを畳み、ライフルモードで攻撃した。
「な、なにっ!? 今の攻撃は最高のタイミングだったはず…………!」
「そんな事知らない! けど、私だって負けられないんだから!」
ライフルを撃ちながら距離を詰める私。だけど、射撃の腕はかなり悪いから掠めていくだけ。でも、私にとってそれくらいできれば上出来だと思う。私が本当に力を出せるのは近距離だから。ブレードライフルとトンファーブレードを展開し、一気に距離を詰めた。
「これでぇぇぇぇっ!」
一気に距離を詰めた私は春十に斬りかかった。確実にダメージを与えられる、そう思っていた。
けどそれは、私が高速でぶつかってきた何かに弾き飛ばされて不発に終わってしまった。
「援護するぞ、春十!」
「ああ、箒、いいサポートだ!」
弾き飛ばされた私は体勢を立て直し再び向き合う。そこには春十の纏っている機体と同じような機体をまとった箒がいた。箒の機体の背中にさっき飛んできた物体がくっつく。状況はさらに悪くなってしまった…………一人相手するだけでも大変なのに、二人もなんて…………。
「さぁ、早くあいつを殺して、僕達の世界を作ろう!」
「ああ、春十のためなら私はなんだって手伝うぞ!」
二人がそう言うと機体の表面が紫色のオーラみたいなものに包まれていった。あれがなんだかはわからないけど…………でも、今までのようにはいかないっていうことはわかる。
「榛名! 力を貸して!」
〔はい! お任せください!〕
——CODE:OVER DRIVE
榛名の言葉とともに機体の反応が格段に良くなる。私の動きを先読みして動いてくれる。
『嫌っ、レーア! レーア! 目を覚ましてくださいよ…………! レェェェェアァァァァァァァァァッ!』
そんな時、頭の中に声が聞こえてきた。この声は…………エイミー、だよね? でも、その声は誰かの名を叫んでいる。多分、冷静なエイミーがあそこまで叫んでいるのだから、それだけ大切な人なんだと思う。
「こいつでも喰らえ!」
「くうっ!」
だけど、そんな風に考えにふけっている時間なんてない。箒が振るう二振りの日本刀をブレードライフルとトンファーブレードで受け止め、そのまま蹴り飛ばし距離をとる。
「落ちこぼれが! 調子に乗るな!」
箒を蹴り飛ばした直後、春十からのあのビームが飛んでくる。それをなんとか回避したものの、体勢は大きく崩されてしまった。
「ま、だぁっ!」
すぐさま立て直し、飛んでくるビームをかわし続ける。ライフルモードで撃ちながら牽制をし続け距離を保つ。
『まだ、やられるわけにいかねぇんだよ!』
また声が…………今度は、渚君? 声からしてかなり切羽詰まった状況にいるんだって伝わってくる。
『このままじゃ、艦が!』
『もう、持ちませんわ!』
『弾薬の残りが!』
『こんなところでっ…………!』
『艦をやらせるわけには…………っ!』
『…………まだ、諦めないで!』
簪! みんな! みんなの必死な声が頭に響いてくる…………!
『ちっくしょう…………ここまでなの…………!』
『ここで負けてなんていられません!』
ファイルス先生! 山田先生も!
『ちぃっ…………こなクソォォォォォォッ!』
この声は…………オータムさん!
みんなの必死な声が私の頭の中に直接聞こえてくる…………。
そんな時、私のすぐ近くを何かが通り過ぎて落ちていった。ハイパーセンサーが見せてくれたそれは…………紅い蒼龍の姿だった。だけど、至る所が壊れていて、頭部のバイザーは半分が無くなっている。そこから顔が見えた。そして見えたその顔…………あの顔に私は見覚えがあった。
(あの人…………夏祭りで会った!)
そう、夏祭りで迷子になっていた私を助けてくれた人。どうしてここにいるのかわからないけど…………無意識のうちに私はその人の元へと飛んでいった。でも…………まだ一回しか会ったことがないのに、その前にも会ったような気がするんだ…………。
「だ、大丈夫ですか!?」
すぐ側まで移動した私はその人にそう問いかけた。この間にも攻撃は止まない。一応、ブレードビットでエネルギーフィールドを展開しているから、大丈夫だけど…………それもいつまでもつのかわからない。
「おう…………一夏、か…………俺は平気だぞ…………」
「何処がですか! それにどうして…………あなたがこんなところにいるんですか!」
私はそう叫ぶ。私のせいで関係のない人がまた傷ついてしまった…………私にとって一番それが辛いというのに…………!
「へへっ…………一夏を…………妹一人守れなくて、兄貴なんて言えないだろ…………」
『兄貴』。その単語を聞いた瞬間、私の頭は何処か失われていたものを埋めていこうとしていく。
『ねぇ——お兄ちゃん! あれ買って、あれ!』
『りんご飴か。全く…………一夏は甘えん坊だなぁ。仕方ない、二人には内緒、だぞ?』
『うん! ありがとう!
"一秋お兄ちゃん"!』
その瞬間、欠けていた記憶のピースが全てはまっていくような感覚に陥った。そうだ…………あの時、私の手を引いていたのは——
「もしかして…………一秋、お兄ちゃん、なの…………?」
千冬姉さんや春十以外にもいた、もう一人の兄妹。それが一秋お兄ちゃん。だけど、いつの間にか居なくなっていて…………私もその時に別れた記憶がない。そして、それ以前の記憶も無くしてた。けど、今になってはっきりと思い出せた。
私がそう言うと、一秋お兄ちゃんは優しそうな目をした。
「覚え…………てたん…………だ…………ごめんな…………こんな事になって…………さ……………………」
「お兄…………ちゃん…………?」
けど、そう言って、一秋お兄ちゃんは目を閉じて、力無く腕を垂れ下げてしまった。…………その光景が、私には既視感を覚えさせた。…………そうだ、臨海学校で悠助が…………その光景が重なって見えてしまった。
「お兄ちゃん! 一秋お兄ちゃんってば!」
体を揺さぶってみるけど、全くといって反応してくれない。そんな…………嘘でしょ…………やっと会えたっていうのに…………。
〔金剛お姉様!〕
〔ヘーイ、榛名…………ちょっと無茶しちゃったみたいネ…………〕
〔どうして…………どうしていつもお姉様は榛名を置いていくんですか…………! 今度こそ、一緒に居られると思っていたのに…………!〕
〔私もそう思っていたヨ…………でも、これが私のDestinyデース…………それに、大事な、可愛いSisterを守るのが私の役目ネ…………〕
〔そんな…………榛名は…………榛名は!〕
〔泣いちゃダメデース…………榛名はsmileがとてもcuteなんだから…………笑っていてほしいヨ…………先にヴァルハラで待っているネ…………武運長久を祈りマース…………〕
〔お姉様…………? お姉様! 金剛お姉様ぁぁぁぁぁっ!〕
私の隣では具現化した榛名が、夏祭りで出会ったドーナツみたいな髪型の女の人を抱いて泣いていた。話を聞いていて、どうやらその人が榛名のお姉さんみたい…………だけど、一秋お兄ちゃんと同じで、もう力が残ってない。
(みんなの命が消えていく…………)
私が感じているのはそれだけ。みんなを助けることは…………多分出来ない。それでも! 私は、みんなを守りたい! 笑って明日を迎えたい! だから!
『てめえら如きに一夏の明日を奪わせやしねえ!』
『いっちゃんやゆーくんが笑って過ごせる未来は、手を出させないよ!』
悠助と束さん。頭に響いてくる二人の想いが、私の想いをさらに強くしていく。だからこそ、誰一人として欠けることない未来を、私は欲しい! だから、みんなの命が消えていくなんてこと…………
「そんな事…………させるもんかぁぁぁぁぁっ!」
——SYSTEM CERTIFICATION
——ALL LIMITER OFF
——RISE IN INSANITY PARTICIE PRODUCTION
——CODE:OVER DRIVE
——START PROGRAM FINAL PHASE
——ALL SYSTEM ENGAGED
——RATX4-01 [OVER DRIVE FULL-BURST MODE] ACTIVATE
少女の想いは戦場を駆け巡った——。
キャラ紹介
レーア・シグルス(cv.生天目仁美)
性別:女
身長:156cm
体重:[検閲により削除]
年齢:15
容姿イメージ:スティレット(フレームアームズ・ガール)
専用機:クロノス
備考:
織斑一秋(cv.三木眞一郎)
性別:男
身長:179cm
体重:78kg
年齢:26
容姿イメージ:原作一夏を大人に成長させた感じ
専用機:RATX4-01F 紅龍