守りたい、ただそれだけ(本編完結) 作:ディニクティス提督(旧紅椿の芽)
「な、なんなの…………この光は…………」
特攻兵器どもを撃破していた俺と束さんは、ある光景を目にしていた。淡い蒼の光が俺たちを——いや、学園の島全体を超え、その付近の海域すら光が埋め尽くしていく。よく見ると光っているのは粒子だ。
〔な、なんなんだこれは…………力が溢れ出てくるぞ!〕
武蔵がそう言うように、俺の体も今までの疲れなど何処かへと消えていったかのように、全身に力が湧いてくる。
——私は、みんなと笑って明日を迎えたい!——
この声は…………一夏か!
「束さん!」
「ゆーくんも聞こえた? でも、どうして…………」
「そんな細かい事は後回しだ! それよりも一夏が呼んでいる。俺たちも!」
「そうはしたいけど…………でも、あいつらが!」
確かにそうだ。今俺たちがここを抜けてしまえば特攻兵器どもが到達してしまう。そうなればどれほどの被害が出るのか見当もつかん。可能な限り被害を減らしたいところだが…………一夏はみんなと笑って明日を迎えたいと言っているからな。全て潰さなきゃそりゃ無理だ。しかし、俺は弾切れ寸前、束さんだってエネルギーがどれだけ持つのか不明だ。
だが、まぁ奇跡といえば奇跡か? 幸いにも、Dアームズにはアクティブ・カノンと大型ミサイルサイロが残っている。アクティブ・カノンは言わずも、ミサイルサイロに装填されているのは対地爆撃用のハルバードが主だが、その他にもう一種弾頭がある。あれを使えばなんとかなるやもしれん。
俺はDアームズを展開させ装備する。
「ゆ、ゆーくん? それって、弾切れなんじゃ…………」
「これから弾切れになる。とんでもねえ弾が残っているからな!」
束さんが何かと言う前に全ミサイルサイロを開放、全部で八発の大型ミサイルが放たれた。俺の前方を薙ぎはらうかのように扇状に広がって放たれたそれらは今までのどのミサイルよりも速く飛翔していく。そしてその中に搭載されている弾頭は火薬なんかじゃねえ。それよりももっとタチの悪いやつだ。
「殲滅完了、ってな」
起爆と同時に生み出されるのは火球ではなく、紫色の禍々しい光。ただの爆発による光ではなく、あれ自体がとんでもねえ破壊力を持っている。
「なに…………これ…………マイクロブラックホール、なの…………?」
「細かい事を考えるのは後回しだ。俺はさっさと向かわせてもらうぜ!」
「あ、待ってよ、ゆーくん!」
俺は単純に推力だけなら馬鹿みたいに高いB型ユニットを装備、三基の大型ブースターに点火、一夏の元へと向かった。
「待ってろよ、一夏!」
「この光は一体…………」
天海龍のモニターより、学園から舞い散る蒼き光を目にしたクロエはそう言葉を漏らした。淡く輝く光が次第に自分たちの元へと動き始めている。普通の人であるならばその光に怯え、目を瞑ってしまうかもしれない。だが、放たれた光にはそのようなものは一切感じられず、むしろ優しさを伴っていた。
「…………! 特攻兵器の進攻速度が遅くなっている…………!?」
「なんですって⁉︎ 陸奥! それは本当!?」
「…………間違いないわ。日向もそう観測しているでしょ?」
「ああ…………そうなるな。だが、これは好機だ。この隙に海域を離脱するのを具申する」
「そうね…………日向、対空警戒を厳として。陸奥、操艦のバックアップを」
「了解よ」
「任せろ」
「それと、速吸は逐次上空の護衛機に補給をしておいて」
『わかりました! 速吸にお任せ下さい!』
各所に連絡を終えたクロエは席に座り一息つく。そして、帽子を被り直し、はっきりとこう言った。
「全艦、最大戦速! 現海域の離脱を最優先! 横須賀へ進路をとりなさい!」
その声と共にこの艦の重力子エンジンは激しく鼓動を打ち始めたのだった。
同じく艦上でも
「この、さっさと落ちなさい!」
ナターシャは既に満身創痍であった。エネルギーが枯渇寸前、機体にダメージが蓄積しており、かなりの負担がかかっている。それでいてパーツの欠損が無いのが奇跡だ。
「そろそろまずいわね…………」
エネルギーが切れかかっていることを示す警告音がけたたましく鳴り響く。だが、銀龍に搭載された火器の全てがビーム兵器かプラズマ兵器だ。エネルギーを消費せずに戦闘行動を続けるのは無理な話だ。
そんな絶望に立たされていた矢先のことだった。突如、蒼き光が彼女を包んでいく。その事に驚き、両手に持っていたフィンライフルのグリップを離してしまった。
「なんなの、この光…………」
〔…………一夏だ〕
彼女の疑問に相棒であるアイオワがボソッと答えた。
「織斑さん…………? それってどういうことなの?」
〔確信は無いけど…………でも、一夏の優しさが溢れているよ。それだけじゃなくて、力もなんだが湧いてきた。——仕上げとしようよ、ナタル〕
「…………そうね。こんなことをしていても、何も変わらないし、変わっても虚しいだけよ、争いなんて」
——CODE:OVER DRIVE
限界負荷機動を起動したナターシャはさらに別のシステムもアイオワに起動させた。フィンライフルという特異な形状した武装を持つ彼女達にしか出来ない芸当。
プラズマカノンが自身の前に展開され、格納していたウイングバインダーがその羽根を広げる。同時にビームアサルトガン、フィンライフルを前に突き出す。
「プラズマ・ビーム収束砲形態、移行完了」
〔全エネルギーライン、正常。いつでもいけるよ〕
銀龍のウイングバインダーからは眩い銀色の粒子が撒き散らされ、さながら第二の太陽であるかのようにその輝きを増していく。各砲口にはエネルギーが集約し始め、球状の塊を形成する。
「さぁ、これで終わりよ!」
〔全砲門、フルバースト!〕
フィンライフルのトリガーを両方同時に引くと、集約されていたエネルギーは全て一直線上に突き進み、一条の巨大なビームとなった。無数の特攻兵器を飲み込みながら突き進むそれは雲を穿ち、空に一筋の光を生み出した。
集約していたエネルギーを全て放出し終えた銀龍は既に限界を超え、戦闘行動を継続するのは不可能であった。だが、ナターシャもアイオワも悔いなどしていない。
「後は任せたわよ…………真耶」
そう呟くと彼女は天海龍の飛行甲板へと降り立っていったのだった。
ナターシャが戦線を離れ補給に向かったが、まだ専用機持ち達は戦闘を続行していた。矢が尽き刀が折れようと、それが何かを守りたいという意思を揺るがすものにならない。だが、ものはいずれ疲弊していく。意思だけでは、思いだけでは、何も変えられない。そんな状況にRATシリーズ以外の専用機を纏う少女達は歯痒さを感じられずにはいられなかった。
「くそぅっ…………!」
その中でも特に顕著なのが鈴だ。主兵装である衝撃砲を両方とも失い、青龍刀も片方が損失。武装の大半を失い戦力の殆どを削がれた彼女は最早壊滅状態と言っても過言では無い。
「けど、武器がなくても、あんたらなんかに負けてらんないのよ!」
鈴は回し蹴りを無人機に叩き込み、大きく吹き飛ばす。戦う意思は失せていない。だが先ほどの交戦で、残されていた青龍刀も刃こぼれが目立ち始め、あと一回切り結べればいい方という状態に陥っていた。
「…………こんなんじゃ、一夏に怒られるかもしれないわね」
無茶しすぎだって、と彼女はつぶやく。
「けど、それでも守らなきゃいけないでしょ…………あたしは凰鈴音、一夏の親友ならそれくらいは!」
しかし彼女はそんな状況とは裏腹に軽く笑った。それと時同じくして彼女の周りに蒼き光が集まり始める。
「な、なによこれ…………」
もう一泡吹かせてやるぞと意気込んでいた彼女はその事に勢いを削がれて驚いてしまう。そして光が集まり彼女の全身を覆い尽くしたところで、一際眩い光が放たれた。光が晴れるとそこには甲龍の姿はなく、また別のマゼンタの機体がいた。
「何がどうなっているのよ…………!? 甲龍は! あたしの甲龍はどうなったのよ!?」
〔やっと目覚められた…………〕
「誰!?」
突如として聞こえた声に鈴はまたまた驚きを隠せなかった。しかし付近にいるのは自分だけであり、ましてやこの場にいる誰の声でもなかった。そんな彼女の目前にディスプレイが表示される。そこには少しバツの悪そうに頭をかくツインテールの少女の顔が映されていた。
〔あー、ごめん。まだこっちに慣れてないから、急に話しかけちゃったみたいね〕
「いや、まずあんた誰!?」
〔私は瑞鶴。鈴の機体のコア人格ってところかな〕
単純なことしか考えられない鈴の頭は既にこんがらがっていた。突然機体の姿が変わったと思いきや コア人格が現れたりなど普通は考えられない状況が鈴を襲っていた。
〔まぁ、細かいことはあとで話すよ。とりあえず今は——〕
「——彼奴らを潰すってわけね。オッケー、やってやろうじゃないの」
鈴はそう言うと拡張領域よりある武装を取り出した。
——レーザーエッジブレイド。
銀龍に装備されているビームエッジブレイドの下位互換ではあるが、代わりに二本装備されている。また柄同士をつなげ、広範囲の攻撃が可能となる。つまり、鈴の持つ青龍刀と同じ運用ができるのだ。
両手にそれを一振りずつ装備した鈴は早速柄同士をつなげ、頭上でまるでバトンを回すかのように取り扱う。
「さぁ、もう一踏ん張りといきましょうか!」
鈴はそう不敵に笑い、敵陣へと突っ込んでいったのであった。
——RAT/F3-01 甲龍改二、起動完了。
鈴のような変化は他にも起きていた。
「ガトリングは弾切れ、アクアクリスタルは八割損失、かぁ…………」
半ば折れかかっているランスで無人機を押さえつける楯無。だが、呟きで漏らした武装の損失の他にシールドエネルギーをほとんど残っておらず、壊滅的な状態に立たされていた。今残されているランスでさえ半壊しているというのに、これ以上武装を失えば、他の専用機と比べて装甲の薄いミステリアス・レイディでは致命傷になりかねない。
「けど、こんなところで諦めていられない!」
ランスを無理やり押し上げ、無人機を弾き飛ばす。無人機の自爆プロセスには敵機に組みつくという動作が必要だ。それを知ってか知らないかは定かではないが、楯無は無人機との距離を大きく取る。
「私は生徒会長、生徒達の長! ならば、その生徒達を守るのが私の役目なのよ!」
そう、他の誰でもない自分に向かって言い聞かせた。そうやって自分を鼓舞するのは大切なことではあるが、今の状況を省みれば只の虚勢を張っているだけにしか見えない。
だが、そんな楯無の思いに応えるかのように無数の蒼き光を放つ粒子が彼女を覆い始める。自分に何が起きているのか、状況を飲み込めないでいると、いつの間にか光は消え、自身の右手に先程までとは違うランスが握られていた。
〔ぱんぱかぱーん! やっと、目覚められたわ〜〕
そんな困惑を一発で吹き飛ばすような間延びした声で、楯無の思考は現実へと引き戻される。目の前にはディスプレイが表示され、金髪の女性が映し出されていた。
「あ、貴女は…………」
〔うーん、コア人格っていうところかしら〜。名前は愛宕よ、うふふ〕
緊迫した状況下、そんな状況にあっても愛宕は自分のペースを崩そうとしない。寧ろ、楯無が彼女のペースに飲み込まれてしまいそうなほどであった。
そのようなことを先ほどの無人機が黙って見ているわけでもなく、再び
〔敵機を確認! 攻撃開始するわよ!〕
「言われなくても!」
だが、急に雰囲気を変えた愛宕に促され、楯無はランスを突き出した。
——レーザーガトリングランス。
四門の高出力レーザーガトリングを備え、今までのガトリングランスを遥かに超える攻撃力を有した武器。その武器のトリガーに楯無の指がかかった。刹那、水色のレーザーが幾多も放たれ、無人機の腕、頭、胴、足を穿っていく。それでも無人機は突き進むことをやめない。だが、既に無人機は破壊される運命を決めつけられていた。
「これで終わりよっ!」
〔喰らいなさい!〕
レーザーガトリングはあくまで牽制程度。突き出されたランスに無人機は突き刺さった。機能中枢を破壊され、システムの制御が不可能となった鉄屑はそこで力尽きた。楯無はランスを振るい、そのスクラップを海へ投げ捨てた。
〔それじゃあ、妹達のところに行かないといけないわね〜〕
「え? 貴女にも、妹いるの?」
〔そうよ〜。貴女の妹のコア人格なの〕
「それなら早く言ってくれなきゃ! 私も簪ちゃんの元に向かうわ!」
〔了解よ〜。それじゃ、ヨーソロー〕
楯無は愛宕にも
——RAT/F3-02 霧龍、起動完了。
「残弾無し…………ここまでかもね」
両手に握っていたアサルトライフルを投げ捨て代わりにアサルトブレードを装備するシャルロット。切り札のパイルバンカーは全て撃ち切り、頼りの銃火器も先ほどのアサルトライフルが最後であった。残されているアサルトブレードも対IS戦では有効な武装であるが、些か不安が残ってしまう。
「ふぅっ…………こんな状況を絶望っていうのかな。ま、僕だってただやられてやるわけにはいかないけどね!」
迫ってきた無人機はその両手でシャルロットの頭を掴もうとしている。だが、左の掌はブレードで受け止められ、右手に至ってはマニピュレーターを二本切り飛ばされる。しかし、右手にはまだ三本の指が残されている。その一本一本が鋭利なクローとして機能しており、ラファールの装甲程度であれば破壊可能だ。ましてや、連戦により装甲が損耗しているシャルロットの機体であれば尚更だ。
「ぐうっ…………パワー負け、しちゃうか…………」
力がぶつかり合うブレードとクロー。ダメージを受け、パワーアシストが切れかかっており、次第に無人機が押し込んでくる。ブレードの刀身は不吉な音を立てながらも、攻撃を全て受け止めている。だが、それも長くは持たない。
「でも、これならっ…………!」
シャルロットは一か八か、無人機を蹴り飛ばした。大きく体勢を崩す無人機、その間に距離を取るシャルロット。そんな時、どこからともなく溢れてきた蒼き光が、シャルロットの機体を脚部から別なものへと変えていく。そんな光景に彼女は思わず目を奪われてしまった。しかし、戦闘中によそ見をするというのは自殺行為に等しい。その隙を無人機は逃さず、両腕を広げシャルロットに組み着いた。自爆プログラムが起動し、頭部センサーレンズが点滅を開始した。
〔固定武装、装填済みです。攻撃します!〕
その時だった。突然腰からレールガンとレーザーカノンが展開され、無人機の腕を肩口から吹き飛ばした。シャルロットはその間に距離を取り、無人機の爆発範囲から逃れることができた。
〔すみません…………タイミングが悪くて危険な目に合わせてしまって…………〕
「いや、それよりも貴女は誰!?」
〔あ、コア人格、神通です…………よろしくお願いします〕
コア人格と名乗る少女が突然ディスプレイに現れて驚きを隠せなかったシャルロット。だが、それよりも残っている無人機の脅威が彼女の意識を思考から戦場へと呼び戻した。
「うーん…………まだ慣れてないけど、よろしくね、神通」
〔はい…………では、残りも片付けるとしましょう〕
シャルロットはそう言うと両腰に装備されていた武装を手に取った。
——レーザーライフル・ショーティ。
近距離での取り回しを重視したレーザーライフルであり、ハンドガンと同様の扱いをする事が可能だ。連射力としてはサブマシンガンほどあり、牽制としても主武装としても運用できる。
「そうだね…………さぁ、覚悟してもらうよ。今の僕は強敵だからね?」
シャルロットはそう微笑むと、無人機に向かって攻撃を仕掛けていったのだった。
——RAT/F2-03 疾風龍、起動完了。
「まだ、ですわ…………この程度で私は落とされませんことよ!」
艦上で狙撃をしていたセシリアであったが、ビットの操作中に動かないという弱点が災いして無人機が放つ荷電粒子砲を避けられず、ビットのキャリアーをしている
「残エネルギー、エンプティ…………ここまでですか…………」
しかし、運命というものは時に残酷である。残された最後の射撃兵装もエネルギー切れによる残弾切れで使用不可能。残っているものといえば、彼女が最も苦手とする近接格闘戦用のショートブレード。一応左手に装備するが、握る手には力など入らず、ブレードの刃先が小刻みに震えている。そんな彼女の元に、また一機、特攻兵器が向かっていた。ライフルがあればすぐに撃墜しているだろうが、今はリスクの伴う近接戦しかできない。
「私はまだ…………役目を果たせていませんわ…………ですから、ここで尽きることはできませんの!」
その時、彼女の右手には蒼き光を放つ粒子が集まっていく。一際大きな輝きを放つと、そこには彼女が今まで構えていたライフルを遥かに凌駕する長大なライフルが握られていた。
〔一撃で黙らせてやりますわ!〕
「誰かは存じませんが…………それには賛成ですわ!」
セシリアはそのライフルの照準を無人機に合わせ、躊躇いなくトリガーを引いた。淡い蒼の輝きを持つレーザーが突き進み、無人機に当たる。四肢を飛び散らしてコアを破壊された無人機。残る部品は海中へと降り注いだ。
ライフルを握る手を起点とし、セシリアの機体も次第に変化していく。どこかブルー・ティアーズの名残を残す機体が組みあがっていった。
〔自己紹介が遅れてしまいました。私、コア人格の熊野ですわ〕
「こ、コア人格⁉︎」
〔そうですわ。一先ず細かい説明は後にさせていただきます。今は——〕
「敵機の殲滅が優先、ですわね。わかりましたわ、一緒に参りましょう、熊野さん」
〔承りましてよ。推参しますわ!〕
ディスプレイでそう返事をするコア人格の熊野。その姿を見て、セシリア再びライフルを構え直した。
——ロング・レーザーライフル。
狙撃線に特化した、一撃必殺の威力を持つ武器。白龍のロング・スマートガンの下位互換ではあるが、それと同様にセンサーレドームを備えており、精密射撃が可能だ。
「さぁ、派手に参りますわよ!」
そう宣誓すると、彼女は直ぐに無人機をまた一機撃破したのであった。
——RAT/F3-04 雫龍、起動完了。
「レールカノンは砲身が焼け付いてる、か…………」
拡張領域内に保管している砲弾すべてを撃ち切ったラウラはそう誰にでもなく呟いた。緊急時である為、火力増強プランの強襲制圧パッケージへの換装などできず、唯一の射撃兵装であるレールカノンのみで砲撃戦をしていた。その結果、予備弾は底をつき、砲身のレール自体が焼け付いてしまうという事態を引き起こしていた。こうなると残されている武装はワイヤーブレードとプラズマブレードだけ。どちらも一癖ある武器だ。
「本国に帰ったら、技術班共に射撃兵装追加を言っておかなければな…………」
この時ばかり、ラウラは自国の
「まぁ、そんな事も言ってられん。この場は引くわけにいかない…………それが、今の私に出来る精一杯の事だ…………情けないな」
ラウラは自分の拳を強く握る。生徒の専用機持ちの中で数えるほどしかいない軍人であり、IS運用の特殊部隊隊長である。そんな自分が一番何もできていないのではないのか、彼女はそう考えていた。それと同様に自分が情けないと思っていた。
そんな時、彼女の機体の装甲を淡い蒼の光を放つ粒子が覆っていく。しかし、それも僅かな時間のことであり、粒子が消えていったところから、今までのシュヴアルツェア・レーゲンは違った黒い装甲が姿を現していく。彼女はその事にあまり驚いてはいないようだったが、代わりに軽くフッと笑った。
「そうか…………今度こそは守れ、そう言っているのか、お前は」
〔そうよ。…………これでまた私は、私達は戦える〕
「そうらしいな。そう言えばお前、名はなんて言うんだ?」
〔私はビスマルクよ。覚えていなさい〕
「とことん自国に救われているような気分になる…………さて、任務だ。やるぞ」
ラウラはそう言うと、右腕に直結されている長大な武器を構えた。
——メガ・レールカノン。
実弾とレーザーの撃ち分けが可能なカノンである。メガ・レールカノンはさらにその砲身を展開させ、元よりも遥かに長大な姿へと変貌する。これにより従来のレールカノンを超える弾速と運動エネルギーを得られるのだ。
「こいつでも喰らえ!」
〔逃がさないわよ!〕
ラウラが放った音速を超越した砲弾は戦場を一直線に突き進んでいったのだった。
——RAT/F3-05 雨龍、起動完了。
「…………みんなの機体が変化している…………!?」
蒼い光が辺りを覆い始め、各々の機体が変化していく姿をみた簪は驚きを隠せなかった。蒼い粒子が全てをクリエイトしていく様はまるで魔法のように見えたことだろう。
〔よそ見なんてしているんじゃねえ! 前を見て撃ち続けろ!〕
「…………わかった…………! でも、力を貸して…………!」
〔おう! この摩耶様に任せな!〕
——CODE:OVER DRIVE
装甲表面のパネルラインをなぞるように緋色の光が走る。その直後、スラスターやダクトより緋色の粒子が解き放たれた。
「…………落ちろ、蚊蜻蛉!」
連装アームカノンより放たれる無数のビーム弾は先ほどまでよりも威力と連射力を増し、無数の無人機と特攻兵器をはたき落としていく。空には幾多もの爆発が起こり、爆煙が空を埋め尽くした。
その様子を隣で見ていた真耶はその光景に驚くが、両腕のカバーを解放し内蔵されているガトリングによる対空射撃を継続していた。
「残弾、心許ないですね…………」
ガトリングの残弾はほとんど残ってなかった。さらに言えばバズーカの砲弾は全て使い切り、主兵装のアサルトライフルのマガジンも一つとして残っていなかった。故に残されたガトリングによる攻撃を続けていたわけだが、威力が低いため弾薬を多く消費してしまうのは仕方のないことであった。
「でも、生徒の皆さんの命がかかっているのならば…………そんな状況なんて、はねのけてみせます!」
〔了解したのです! 武装ロック解除、エネルギーパッケージに装填! このまま押し切るのです!〕
——CODE:OVER DRIVE
影狼からは緑の粒子が放出される。それはRATナンバーの機体に託された最後の切り札である限界負荷機動が発動したことを示す証拠。
「え、エネルギーパッケージ!?」
〔現在アサルトライフルはレーザーライフルとして使用可能です! さぁ、行きましょう!〕
「は、はい!」
真耶は電に促されるまま、アサルトライフルのトリガーを引いた。そこからは緑のレーザーが何発も連発されていく。実弾と比べて明らかに速いレーザーは特攻兵器を確実に捉え、また一つ派手に散った。
『敵機の損失、八割を超過! あと少しです、気を引き締めて!』
その時、クロエから各機に伝達される戦況。あれほどたくさんいた無人機と特攻兵器はその姿をほとんど消しており、本当にあと少しという状況だった。また、天海龍自体も日本本土までそう遠くない距離まで近づいていた。ここまでくればほとんど安全に等しい。だが、誰一人として各々が手にしている得物にかける指は緩んだりしていない、確実に安全が保障されるその瞬間まで——。
銃撃、剣撃、肉弾戦…………
そんな時、俺たちの周りに蒼い光が漂い始める。
「なんだ…………この気分の悪い光は…………!」
奴はそう言って毒づきながら、残されたバインダーから抜き取った大剣で俺に斬りかかってくる。だが、その動きは俺にも読めていた。それにこの光…………俺の心を包んでいきやがる。なんなんだ…………なんなんだよ、これは!
「させるわけねえだろ!」
俺は直刀を装備、大剣を防ぐ。激しい音と共に、細身の直刀からは少々不安な音が聞こえた。しかし、こいつはそう易々と折れるわけがねえ。それにだ、まだこいつも俺も、そんな折れるほどサビちゃいねえんだよ!
「くそっ…………! 何故だ! お前のような奴が何故!」
「そいつが何に対する疑問なのかは知らねえけどよ…………俺だって負けるわけにはいかねえんだ!」
そう叫ぶと段々と直刀を構える腕に力がこもっていく。すると、次第に奴の大剣は押され始め、奴は俺の攻撃をずらさせた。その時に直刀は奴の左腕にあったレーザーガンを切り飛ばす。
「もらったぞ!」
「やらせるか!」
しかし、奴はそれを利用して俺の背後に回り込んできた。間一髪のところで避けたが、背部のビームキャノンを半分失ってしまう。いや、大出力ブースターポッドに直撃しなかっただけマシか。
「こいつでも喰らいやがれ!」
半ばヤケクソであるが、ビームアサルトガンを残弾など気にせずに放った。小型のビーム弾が奴へと迫っていく。
「この程度…………!」
奴は全てをかわそうとしていくが、バインダーを片方失ったせいか機動があまりよろしくない。そう思っているうちに、何発かが脚を穿ち、腕を穿ち、フルフェイスバイザーを砕き、残されたバインダーを破壊する。機体のほとんどを破壊された奴は浮いているのも困難なようで、地上へと落下していく。俺は直刀とライフルを格納、代わりにロングスマートガンを装備して奴を追った。
木の枝々を折りながら地上に叩きつけられたスティグマトの姿は無残なものだった。だが、今の俺に慈悲なんてものは存在していない。こいつがいたから、スコールは、マドカは…………!
「っ!」
ロングスマートガンの銃口はスティグマトの頭を捉えて離さない。いや、俺がずらそうとしていないだけだな。そして、トリガーを引こうとした時だった。
『なぁ、もう終わりにしてもいいんじゃないのか?』
『そうね。もう私達は十分よ。だから…………貴女がその手を汚す必要はないわ』
あの二人の声が…………スコールとマドカの声が頭の中に響いてくる。無論二人がこんなところにいるわけなどない。だが、二人は確かにここにいるような形で話してきた。それも、もう休んでもいい、と…………俺としては二人が声をかけてきたということに驚きを隠せなかったのと、何処か懐かしく思ったのと…………復讐しても二人が帰ってくることなどないという虚しさが同時に押し寄せてきたのだった。そんな迷いがあってか、トリガーから指がわずかに離れてしまった。
「バカがぁ——」
スティグマトはそれを狙って残されたビームガンとリニアカノンで攻撃しようとしてきたようだが、溢れ出る殺気を感じた俺は迷いなく、今度こそ迷いなくトリガーを引いていた。最初に右手、次にバインダー、最後に奴の頭だ。ロングスマートガンの暴力的な一撃で撃ち込まれた部位は消滅していた。操縦者を失った機体は落下を始め、海中へと没する。
(やっぱり俺は…………スコール、マドカ、その気持ちは俺だって嬉しい。素直に従ってもいいと思っている。けど…………俺はまだ
「——戦うさ…………だから、見ててくれ」
半ば中破に近い機体を制御し、俺は一時天海龍へと帰投した。とりあえず、仇は取ったぞ…………。
ビームライフルと機関砲、追加してリニアカノンが全弾尽きちまった
「いくら装甲が硬いからと言っても、これだけ爆風に晒されていりゃ、劣化くらいはするだろ…………!」
〔シールドエネルギー自体はまだ消費していないから、大丈夫っぽい!〕
夕立の奴はそう言うが、今の俺としては少々精神衛生上よろしくない。単機でやっている分、負担も大分かかってきた。
「そろそろ俺もやばい、か…………!」
ビームブレードを無人機の頭に突き刺し、そのまま縦に振り下ろす。高熱の刀身が無人機をバターよろしく切り裂いていく。擬似コアなど簡単に砕ける。振り切ったと同時に爆風から逃れるため大きく距離を取った。
しかし、これだけやっても特攻兵器の数は減ることはない。そんな中、俺とは違う方向から、何やら途轍もなくでかいビームが空を薙ぎ払い、特攻兵器を爆発させていくのが見えた。…………何あれ? しかも、友軍機のコードがノーマルの専用機型式番号からRATナンバーへと書き換えられていく。こいつは…………
「俺達も負けてられねえようだな…………なぁ、夕立!」
〔そうっぽい! 渚、最高のパーティーの幕引きとしよっ!〕
「あぁ…………望むところだ!」
——CODE:OVER DRIVE
——EXTERMINATION SYSTEM STAND BY
いつものシステムが起動すると同時に、また別なシステムが起動する。それと同時に藍狂狼の露出しているフレームの色がいつもの禍々しいアカから濃い藍色へと変化していく。そのフレームからは藍色の粒子が解き放たれ、俺の身体に溜まっていた疲労が全て消え去っていく。しかも、システムに精神が飲み込まれていかない、通常の俺が存在している…………全く、俺の相棒は最高だな。
「さぁ、ぶちかますぞ、夕立!」
〔全力でいくっぽい!〕
一段と巨大化したビームブレードを振るい、俺は無人機の群れに突っ込んでいったのだった。
「な、なんなんだよ、その姿は!」
目の前で春十が何かを言っている。まぁ、今の蒼龍は姿が少し変わっているみたいだからね。ディスプレイにはウイングブースターの装甲が開いて、多くのプレート状のパーツが解放、そこから膨大な量の粒子が放出されている様子が表示されている。まるで天使みたい。けど、そんな事は
「お前に言う必要なんてない…………」
「貴様っ! 春十にその態度はなんなんだ!」
「うるさい!」
箒がなにか私に文句を言ってきたので、怒りの感情を露わにしてしまった。
「お前達のような、他人を傷つけるだけで人を見下すばかりの人なんかには文句を言われたくない!」
私は誰かを傷つけてまで人の上に立ちたいなんて思っていない。流石に、試合とかそう言うのは仕方ないと思っているけど、普通に生きていてその中で誰かを貶めるなんて事はしたくない…………私がそれをされる事が嫌いだから、自分が嫌な事は相手も嫌だから…………。それに、悠助も人を傷つけてはいるけど、悠助には自分もそうされる覚悟がある。その覚悟を持つ勇気に惹かれたのかも。
でも、目の前にいる二人にはそんな事も考えていない。自分の気に入らないものは全て消せばいい、中心にいる自分たちが至高の存在なんて事を考えている。…………それが、どうしてなのか私には酷く嫌に思えたんだ。
「お前ぇ…………僕に逆らうという事が何を意味しているのか、もう一回教えてやるよ! 箒、やるよ!」
「ああ、任せろ!」
私が逆らった事が頭にきたのか、春十は大剣を構えて私に切りかかってくる。箒も別な方向から私を攻撃するつもりでいるようだ。
「…………い…………ちか…………お前…………」
私の後ろにいる一秋お兄ちゃんが目を覚ましてくれたみたい。よかった…………お兄ちゃんが生きてた。けど、まだ安心なんてできない。あの二人がお兄ちゃんを攻撃しないなんて保証はどこにもない。
「一秋お兄ちゃん、今度は私がお兄ちゃんを守るから!」
ブレードライフルの刀身を展開すると、刀身には蒼い粒子がまとわりつき始め、いつの時かのビームバスターソードのような形になっていた。だけど今回は取り回しを良くしたいのか、刀身の長さは変わりない。
〔金剛お姉様もまだ意識はあります…………今度こそ、榛名が守ってみせます!〕
「そうだね…………さぁ、行くよ、榛名!」
〔榛名、全力で参ります!〕
ブレードビットでエネルギーフィールドを一秋お兄ちゃんの周りに展開し安全を確保、私はウイングブースターを点火し、向かってくる二人を迎撃する。
「こいつで落ちろぉぉぉぉぉぉっ!」
「そうはいくもんか!」
振るわれた箒の日本刀をブレードライフルで両方とも受け止める。こっちの力が上がっているのか、向こうが大して力がないのかわからないけど、私の方が少し押している。
「そうだ…………全ては貴様が、貴様が春十を苦しめていたんだ! 貴様がいなければ、こんな裏に手を出したりなどしていない!」
「そんな事、自分で選んだ事なんでしょ! そうやって失敗した事を人になすりつけて自分を正当化するのは春十に似て天才だね!」
交差していたブレードライフルを振るい、日本刀を弾き飛ばす。箒はそれで距離を取ったみたいだけど、私には息つく暇などない。
「出来損ないは、大人しく死んでいろ!」
振るわれた大剣をトンファーブレードで受け流し、そのまま春十を蹴り飛ばした。こんなに長い間戦っていた事なんてないから、大分息が上がってきている。だけど、それで諦めるなんて、私にはできない!
「させないよ!」
蹴り飛ばした春十を追撃しようとしたが、それはできなかった。箒が一秋お兄ちゃんに向かって攻撃しようとしていたから…………ふざけないで!
「どうして傷ついている人を攻撃するの!?」
「ふん、何もできないのにそこにいるのが悪いのだ! 戦う事のできない落伍者は死んでおけばいい!」
「そんな勝手は、私が、許さないよ! 人として恥ずかしくないの!?」
「少なくとも貴様よりはなぁっ!」
箒は一秋お兄ちゃんに向かって手首のあたりからレーザーを撃ってきた。ブレードビットのエネルギーフィールドがなんとか防いでくれているけど、それもいつまでもつかわからない。
「ふざけないで!」
「ぐうっ…………きさ、まぁっ!」
ブレードライフルを薙ぎ払い、箒を吹き飛ばした。私も渾身の力を込めて振るったからかなり力が入っていたと思う。箒はかなり大きく吹き飛ばされた。
「そこの男から先に送ってやるよ!」
だけど春十も照準を合わせてしまっている。そして、ビーム砲が展開され放たれてしまった。おそらく今のエネルギーフィールドではあれを防ぎきる事はできない。なら、私が盾になるしかない!
「くうっ…………!」
ブレードライフルに取り付けられている小型のシールドでビームを受け止めた。一応小さいエネルギーフィールドを展開する事ができるけど、その威力まで消し去る事はできない。
「いいザマだな!」
動けないでいる私を箒が斬りつけに来た。トンファーブレードでこちらも受け止めたはいいけど、力が上手く入っていかない…………! 次第に私がどんどん押され始めていく。
「にげろ…………いち…………か…………おれは…………どうだって…………いい…………」
「嫌だ! 私は絶対に一秋お兄ちゃんを守るから! 誰かに守られて誰かを失うくらいなら、私は傷ついてでも守って一緒に生き残りたい!」
「一夏…………すまないな…………こんな情けない兄で…………」
私が押されていく姿を見てか、一秋お兄ちゃんはそう弱々しく言った。
「そんな事ないよ! 一秋お兄ちゃんは私の事を覚えていてくれた! それだけで私は十分だから…………!」
「…………すまない…………!」
「さぁ、そのまま死んでしまえよ!」
そんな時、春十があの大剣を振り下ろしてきた。ブレードライフルで受け止めようとするが、この大きい大剣では動きが間に合わない。だからと言って他に武器を使おうにも展開までにラグが生じる。でも、後ろには一秋お兄ちゃんがいるから避けるわけにはいかない!…………私が受け止めるしかない。
(ごめん、一秋お兄ちゃん…………私、お兄ちゃんを守れなかった…………ごめんね…………!)
あの一撃なら絶対防御も通り越して本体にダメージがくる。思わず私は目を閉じてしまった。
「させっと思ってんのか、このクソ野郎共がぁぁぁぁぁっ!」
そんな時、声が聞こえた。使ってる言葉は汚いし、口調も大分粗暴だけど…………でも、その奥に優しさが見える、そんな声——。そして、金属同士がぶつかり合って鳴り響くような甲高い音が響いた。恐る恐る目を開けて見ると、大きく体勢を崩されて吹き飛ばされてる春十と箒の姿と
「悪りぃ、大分待たせちまったな。後は俺に任せろ、一夏」
禍々しいアカの粒子を撒き散らしながら、その肩にバスターソードを担いだ悠助が私の前に現れた。