守りたい、ただそれだけ(本編完結)   作:ディニクティス提督(旧紅椿の芽)

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第45話

無事横須賀港へと辿り着いた天海龍。強制波動装甲により傷らしい傷を負う事なく、また乗り込んだ約六百人近いIS学園の生徒も目立った怪我をせず、現在本土の施設へと降りている。

 

「一先ずこれで私達の作戦は完了です」

 

その様子をモニターで確認していたクロエはそう呟き、自身の座る椅子に深く座った。それと同時に詰まっていた息を吐き出す。張り詰めていた緊迫感から解き放たれた反動からか、彼女の顔には安堵の表情が浮かんでいる。

 

「お疲れ様。はい、コーヒーよ。少し砂糖を入れさてもらったわ。疲れた頭にはこれが一番よ」

「ありがとう、陸奥」

 

陸奥はそんな彼女にコーヒーの差し入れをした。戦艦の指揮を取っていた彼女の脳にはかなりの負担がかかっていた。それと同時に体内のブドウ糖も多く消費されている。それを考慮してか陸奥はコーヒーに少し砂糖を入れていた。クロエはコーヒーを受け取り、一口飲んだ。普段ブラックコーヒーしか飲まない彼女ではあるが、僅かな糖分が疲れ果てた脳を癒していく、張り詰めていた心も自然とほぐれていった。

 

「今の私に糖分は嬉しいです。陸奥、貴女は本当に人の心を読むのが上手いですね」

「そうでもないわよ。戦艦としてリンクしている間のみ私は貴女の事を知る事ができる、ISが操縦者の状態を見て保護機能を使うのと同じ事。人の心を読むというより、バイタルから判断したまでなの」

「それでも、です。やはりISはただの道具じゃない…………意志を持った一つの存在。貴女達と巡り会えて、私は嬉しいです」

 

クロエは少し顔を赤くしてそう言う。彼女からしてもやはり恥ずかしい事この上ないのだろう。影で言う事は誰にだってできる事だが、面と向かって言うとなれば緊張してしまうもの。

だが、それは陸奥も同じである。見た目クロエより年上に見えるが、やはりそう面と向かって言われると少し恥ずかしい思いをしてしまうようだ。

 

「あら…………あらあらぁ♪ もう、嬉しい事を言ってくれるわね」

 

そう言うと陸奥はクロエを抱きしめた。

 

「陸奥…………?」

「私も、いや私達も貴女に出会えてよかったわ。今度こそ、ちゃんと暴れられたもの。知っているでしょ? 昔の私は世界のビッグセブンなんて呼ばれていたけど、実際に戦った事はない、最期も港で爆沈…………兵器として一番虚しい終わりだったわ。でも、今は違う。新たな艦体(身体)が手に入って、そして戦う事が出来た——それだけで、ただの兵器の私は十分よ」

 

陸奥はそう優しげな顔をしながらそう言った。嘗ての記憶を思い出し、そして今の幸せを噛み締める。クロエはそんな彼女が放った言葉にこう返した。

 

「陸奥、貴女はただの兵器じゃない。そう感情を持っている。それはもう私達、人間と同じ…………だから、自分の事をただの兵器だなんて言わないでください」

 

クロエはそう言うと陸奥を抱き返した。彼女にとって陸奥という存在はどのように映っているのだろうか。それは彼女にしか知りえない事ではあるが、今の様子を見るに家族であるように思えるだろう。

 

「そうね…………やっぱり、貴女が艦長でよかったわ」

「私こそ、貴女達の艦長になれてよかったです」

 

二人は暫く抱き合ったままでいた。艦橋にいるのは二人だけ。微笑ましいその光景に水を差すような者は誰もこない。

 

「そう言えば、日向と速吸はどうしているのですか?」

「見てみる? じゃモニターに映すわ」

 

陸奥はそう言うと艦長席に備え付けられているモニターの操作権を自身に移(オーバーライド)し、日向と速吸の様子を映し出した。

 

『これが"ひゅうが"か…………いいな、これは。これぞ、航空戦艦の花形と言えるべきものだな』

『ふうぅ…………むにゃむにゃ…………もう積み込めないですぅ…………むにゃむにゃ…………』

 

日向は天海龍の舳先に立ち、横須賀港から見えるDDH-181ひゅうがを眺め、何やら感慨ものに耽っている。また速吸はオリジナルコアの中に存在しているコア人格達が持っている部屋の中、抱き枕を抱いて眠っている。そんな自由な彼らの姿が映されていた。

 

「随分とフリーダムなんですね」

「速吸は積荷の固定をした後、生徒達のケアにも回っていたし、日向にとってひゅうがは娘みたいなものだから仕方ないわ」

 

陸奥はどこか妹達を面倒見るような顔をしてそう言った。しかし、モニターの端に映っている場所に目を向けると辛そうな表情をした。

 

「それよりも、なんとかならないの…………?」

「一命を取り留めてはいるって言っても、脳細胞にダメージを受けてしまっていては、いくら設備のいいここでも難しいです…………」

 

そこにはメディカルルームで眠る捕虜(レーア)とその傍らを離れようとはしないエイミーの姿が映されていた。

 

 

 

 

 

天海龍内メディカルルーム。

そこでは一人の女が眠っていた。名はレーア・シグルス。嘗て亡国機業過激派に所属していた操縦者である。その傍らでは交戦していたエイミーがずっと彼女の手を握っていた。

 

「レーア…………目を覚ましてください…………!」

 

彼女は涙を流しながら何度もそう言っていた。しかし、そんな事をしてもレーアの意識が戻る事はない。死んでいるかのように彼女は何一つ動きを見せなかった。

エイミーと交戦した事により、レーアの機体——クロノスに積まれていた[WRAITH SYSTEM]が機体に蓄積されたダメージにより正常なプロセスを踏まずに強制終了され、その反動で脳細胞にダメージを負ったのだ。脳細胞にダメージを負ってしまえば最悪二度と意識を取り戻すことなどない。いくら彼女達が後天的能力強化素体(リィンフォース)であっても、脳の強化などはされていない。

 

「やっと…………やっと会えたんですよ…………! なのにこんな終わり方なんて…………あんまりじゃないですか…………!」

 

エイミーがそう叫んでも、二人きりのメディカルルームに虚しく響き渡るだけだった。やっとの思いで再会を果たせたのはいいが、このような出会い方では二人も浮かばれない。エイミーの瞳からこぼれ落ちた涙は、レーアの頬を濡らす。そんな時だった。どこからともなく溢れ出てきた蒼い粒子が二人の周りを包み始める。明らかに異常な事態ではあるのに、エイミーはその様子に気付いてはいない。

 

 

(ここは…………どこなんだ?)

 

(レーア)はよくわからないところへと来ていた。どこなんだここは…………まるで庭園のようなこの場所。

 

「そうか…………私は死んだ、のか…………」

 

最後に至った結論がそれだ。仕方ない。システムが強制終了した瞬間、頭の中をかき混ぜられるような痛みに襲われた。それだけの事があったんだ。ショック死くらいしてしまうだろう。…………ふっ、なんとも言えない死に方だな。だが、私のしてきた事を考えれば妥当なのかもしれない。散々人を殺してきてしまった私だ。神が天罰を下していてもおかしくはない。それに当たるほどの事はしてきたからな。今更、戦闘兵器として生み出された私が何を言っているのか…………哀れなものだ。結局、バケモノ()は人のように死ぬ事を許されてないというわけか…………。

 

「しかし、あいつが…………エイミーが生きていたとはな…………」

 

そんな中でも、エイミーの事が頭から離れられない。元から私には戦うことしか興味がなかった。そうでもしなければ生きていく事は叶わないスラムで生きてきたからな。そのせいなのか、軍に無理やり編入された時も周りとは馴染めず、孤高の存在になっていた。誰も近づかないし、誰にも近づかない、そんな日々が私の日常だった…………あいつに話しかけられるまでは。

 

『電磁波、ちょっと痛いですよ…………気をつけてくださいね』

 

編入された私達に強化という名の人体実験が行われる日が来た。その第一の被験者となったのがエイミーだった。電磁波を頭に浴びせ続けられ、悲鳴をあげる彼女を見ても最初は私はなんとも思わなかった。そうなるのが私達の運命だと、どこか諦めていたのかもしれない。だが、私の番になる直前、彼女は私を心配するような事を言ってきたのだ。…………その後の事は暫く覚えていない。ただ、強化を受けていく度に一人、また一人と減っていった。そうして、気がつけば私とエイミーを含め十数人しか残っていなかった。そんな状況になっても、エイミーは私に幾度となく声をかけてきた。私は彼女に聞いたんだ。

 

『…………何故お前は私につきまとう? 私以外にも話す相手はいるだろう?』

 

そうしたら、あいつは

 

『あなたも私の家族のような人ですから』

 

そうあっけからんもなく言ってきたんだ。それからというもの、私は彼女といることが多くなっていった。そして、生き残った仲間とも打ち解けてきた。以前とは違う日常が手に入ったんだ。…………だが、それも長くは続かなかった。強化を施していく度合いが次第に酷いものとなっていった。受けた仲間の中には狂ったような笑いを上げて死んでいく奴もいた。それが怖かったんだろうな…………私はエイミーを含めた仲間と脱走する計画を立てていた。できればエイミーも連れて逃げたかったが、

 

『私達はここに残ります。だから、あなた達は逃げて、必ず生きてくださいね』

 

彼女や一部の仲間はあの忌々しい施設に残る事を選んだんだ、私達を逃がすために。否が応でも連れて行こうかと思ったが、彼女の思いを尊重してやれと仲間に言われ、渋々諦めた。

そして決行の当日、私達は脱走した。警備の薄い夜ならと思ってはいたのだが…………甘かった。予想以上に警備が固く、仲間の何人かは撃たれて死んだ。他にも捕まっていったのもいる。どれだけ走ったのだろうか、気がつけば仲間など残っておらず、私一人だけだった。私の行動で仲間を失った…………そして、彼女を置き去りにしてしまった。一人彷徨い続けた私が次に気がついた時、既に亡国の手下になっていた、という事だ。碌でもない生き方をしてきた私だ、救われる事などない。…………だが、それでも、まだ私に救いがあるというのなら——

 

(もう一度、エイミーに会いたい…………そして、謝りたい)

 

そう思った。死んだ身の私が何を言っているんだろうか…………。

 

「じゃあ、行こっ?」

 

そんな時だった。私の眼の前に誰かが現れる。ただ、全身を装甲で覆っているのか、誰なのかわからない。ただわかるのは、蒼と白の装甲を纏い、背中から翼を生やし、蒼いツノとメタリックグリーンのデュアルアイが特徴的だったことだけだ。そいつは私に向かって手を伸ばしてきた。恐らく手を取れという事なのだろうが…………私は手を伸ばす勇気がなかった。

 

「いや…………私には無理だ」

「どうして? 会いたいんでしょ?」

「…………私は彼女を置き去りにしてしまったんだ。そんな奴がそいつに会いたいだなんて——」

 

笑えるだろう? と言おうとしたが、奴は私の言葉を遮って言ってきた。

 

「それじゃ、尚更だね。ちゃんと会って、ちゃんと謝って仲直りしなきゃダメだよ。会いたい人に会えないのは辛い事だから、ね?」

 

彼女の言う事にも一理ある。気がつけば私はその手に手を伸ばしていた。無意識だったが…………やはり会いたいんだろう。そして、彼女の言う通りに謝って仲直りしなければならないな。

 

「ああ…………すまない。私を連れて行ってくれるか?」

「勿論だよ。さあ、行こっ」

 

奴が私の手を引くと眩い光に包まれていった。あまりの眩しさに目をつむってしまったが、どこか優しくて暖かい感じがした。そこで私の意識は途切れた。

 

 

レーアと偶然にも戦場で会う事が出来た。でも、(エイミー)の放った攻撃が偶然にも彼女を傷つけ、そして苦しめさせてしまった。意図した事ではないが、それでもレーアを…………私にとっては家族同然だった彼女を傷つけてしまった事に対する罪悪感に押しつぶされそうだった。けど、謝まろうにも彼女は意識を失っている。罪悪感と彼女を失ってしまう事に対する不安で胸が一杯になり、涙が溢れてきた。

 

「目を覚ましてくださいよ…………レーア!」

 

何度も彼女の名前を呼ぶも意識を取り戻す事なんてない。そのはずだった。

 

「…………う、ぅっ…………」

 

レーアが突然唸るような声を上げた。それと同時に閉じていた目を開け、私が握っていた手も握り返してきた。

 

「…………エイミー、か?」

 

そして、声をちゃんと発して私の名前を呼び、ベッドから起き上がってきた。その光景に私は驚く。だって、脳細胞にダメージを受けたとなれば意識が戻るなんて可能性が低いから…………。

その時私はどんな表情をしていたのだろう。何やらレーアはバツの悪そうに頬を掻く。

 

「レーア…………!」

「その、なんだ…………私は——」

 

レーアが何か言葉を言う前に私は彼女を抱きしめた。

 

「何も言わなくていいです…………こうやって生きて出会えたんですから。それだけで十分です…………」

 

何をどう言って謝ろうか、先になんて言おうか考えていたが、そんなものが全部頭の中から消えていった。まずはこうやって抱きしめて、レーアの存在がある事を確かめたかった。

 

「そうだな…………私も、それだけで十分だ…………」

 

レーアも私の事を抱き返してきた。お互いの温もりを直に感じれる。そして、今度こそ私達は一緒にいられる…………そう考えただけで嬉しい気持ちになってきた。

 

 

 

 

 

「やっとカタがついたか…………」

 

天海龍の甲板上に着艦した()は、愛機を解除、その身を海風に晒していた。機体の残弾は全て尽き、エネルギーもカツカツだったから、交戦空域のすぐ近くに天海龍がいて助かった。もしなかったら俺は今頃海へドボンだ。

 

〔渚、結構疲れたっぽい?〕

「まぁ、そこそこだな…………だが、守らなきゃなんねえ奴を戦場に晒してしまったのが精神的にきてるかもしんねえ」

 

この戦艦の直掩に簪や刀奈が出ていたからか、俺はそっちに気が回っていた。システム発動後はそうでもなかったが…………それでも、安否が気になって仕方なかった。一刻も早くこんなクソッタレな場所を消して、平和な時間へと戻したかった。結果的になんとかそう終わったからいいが…………やはり巻き込んでしまった事が心残りだ。ここに立つのは俺ら傭兵や軍人だけで十分だ。

 

〔それは仕方ないっぽい。この世界で最強の力を持っているのはISだから、必然的にそうなってしまうっぽい〕

「そいつはそうなんだがな…………」

 

夕立が言うことも尤もだ。世界の防衛力・戦力の中核を担っているのはISであり、それを操縦するのは女だ。今後戦争になれば女が前線に送り込まれるのは目に見えてわかる。俺はそんなところへ二人を送り込むような真似はしたくない。

 

「だからと言ってそれは強制するようなもんじゃねえだろ? 俺は二人を戦場なんかに送り込みたくなんかねえ…………大切な人なら尚更、だろ?」

 

戦場っていうのは否が応でも大切なものを全て奪い去っていく場所だ。死ぬ時は一瞬で死ぬ、生きる時は地獄のような中を這いつくばって生きていく。恐らく彼女達がいくら強くても、理不尽な暴力の前では無に帰す。そんなことは俺が認めたくない。

 

「渚…………」

 

そんな時、俺の背後から声がした。いや声は一つだが、気配は二つするな。俺が振り向くとそこには案の定、簪と刀奈がいた。二人ともISスーツのままだ。まぁ、俺も戦闘装備のままなんだがな。

 

「簪に刀奈か…………どうしたんだ?」

「…………渚の事が心配になったから、ずっと探してた」

「全く…………なんで一人で敵陣のど真ん中に突っ込んでいくのかしらねぇ」

「そ、それは…………すまん」

 

どうやら俺を心配していたらしい。まぁ、あのテロリスト共の占拠が終わった途端、敵陣のど真ん中で大暴れしたしな。致死量の弾幕を突っ切ったし、一対多の近接密集戦をやらかしたしなぁ…………そりゃ、心配もされるか。

 

「だが、あれが俺のやり方だから今更変えることは出来ねえよ。それよりもお前ら、怪我とかねえか?」

「…………私は大丈夫。ずっと対空攻撃しかしてないから。私よりお姉ちゃんの方がやばい」

「いやいや、私も怪我一つないわよ。渚こそ怪我とかしてないの?」

「俺も怪我なんてしてねえぞ?」

 

そう言って互いを見てたら、急になんだか可笑しくなってきた。こんな風にバカみたいに騒いで、バカみたいに笑って、さ。それが俺にとってやっと帰るべき場所に帰ってこれた証なのかもな。

 

「やっぱ俺、お前らの事が好きだ」

 

そう言って二人の肩を抱き寄せた。二人は俺にとって大切な人達だ。どちらかが欠けていても意味がない。二人揃って、初めて俺の心が満たされるんだ。

俺が急にそうしたことで二人は驚いているようだが、すぐに眩しいくらいの笑顔を見せてくれた。

 

「何を今更なこと言ってるの。私もあなたの事が大好きよ」

「…………私も、渚と一緒じゃなきゃ嫌だからね」

「ははっ、俺には勿体ねえくらいのいい女達だ。大好きだぜ、簪、刀奈」

 

そう言って俺たちはずっと抱き合ったままでいた。俺の腕には二人の命が直に伝わってきている。俺の手の中に入った以上、何が何でも守り抜いてみせるさ。それが俺に託せられた親父達からの命令なのかもしれねえ。

 

〔あらぁ、仲睦まじいわねぇ〜。摩耶、私達もハグしましょ〜〕

〔げげっ、あ、愛宕姉…………それだけは勘弁して。マジ恥ずかしい…………夕立、助けて…………〕

〔私にもそれだけは無理っぽい〕

 

普通だったらうるさく感じるコア人格達の会話も今となってはどこか微笑ましく思えてくる。そんな俺たちの間で笑いが絶えることはなかった。

 

 

 

 

 

「ふぅー、だいぶ疲れたわ」

「…………一人で十機以上叩き落としていてどうしてそんなに疲れが見えてないんですか?」

「いやいや、精神的にはきてるわよ。もう、特攻兵器は怖くて暫く勘弁」

 

なんかバカみたいにでかい戦艦(天海龍)のブリーフィングルームにて、()は少し寛いでいた。初めての戦場での戦闘。何もかもが制限されていない、命のやり取りをやる場所。その中でも無機的に襲ってくる無人機は異彩を放っていた。こうやって軽口を叩いているけど。今でも組みつかれて自爆されていたらと考えると震えが止まらない。それはきっとセシリアにも言えることだろう。

 

「こんなことを言うのもなんだか変だけど、みんなお疲れ」

「ああ。我々の働きもあってか誰一人怪我などしてないようだ」

 

次にブリーフィングルームに入ってきたのはシャルロットとラウラだ。ラウラから誰一人怪我人がいないと聞かされて私はどこかほっとした。一夏との約束もあるしね。

 

「そういえばシャルロット、アンタ自爆直前の無人機に組みつかれたって聞いたわよ」

「あはは…………あれは本当に焦ったね。でも、今こうやって無事にいられるんだから結果オーライでしょ?」

「それもそうだな。結果よければ全て良し」

「皆さんがタフすぎてついていけませんわ…………」

 

一人異常に疲れているセシリアを見てクスクスと笑ってしまう私達。それを見たセシリアは急に顔を赤くしてしまった。

 

「ちょっと! なんですの一体!?」

「いやぁ、セシリアってヘタレなんだって思ってさ」

「ヘタレじゃありませんわ!」

 

そう言って反抗してくる英国貴族。まぁ、それだけ疲れている理由はわかるわよ。狙撃なんて一番神経をすり減らすものだし、それに加えてビットを大量に操作していたんだから、脳が疲れはてているんでしょう、きっと。

 

「皆さん、ここにいましたか」

「全員お揃いのようね」

「あ、山田先生にファイルス先生」

 

今度ブリーフィングルームに来たのは山田先生とファイルス先生だった。でもどうしてかしらねえ…………なんで二人からは疲れなんてものが見えないのよ。そういえば、ファイルス先生って確か米軍のエースで山田先生が元日本代表候補だったはず…………それを考えたら疲れが見えてないことにも納得がいく。

 

「どうしたんですか?」

「いえ、皆さんが無事かどうかを確認しに来ただけです」

「他の生徒の方には私達以外の教員が出向いているわ。…………まぁ、半分PTSDになりかけているのとかいたけど、暫くすればなんとかなると思うわ」

 

PTSD——心的外傷後ストレス障害だったはず。私にはそれがどれほど酷いのかなんて話でしか聞いたことがないから、なんとも言えないけど…………結構大変なことになっているって事はわかる。ラウラが言うに二組では何人か殺されたみたいな事を聞いたし、悠助も敵を殺していたから、そんな惨状を見てしまえばなるのも仕方ない。寧ろそうなっていない私が怖いんだけど。

 

「それと、皆さん。初めての実戦、お疲れ様でした。しっかりと休んで下さいね」

「この艦、風呂とかあるみたいだから自由に使っていいわよ。その代わり、何か異常が出たら私達に伝える事。いいわね?」

「「「「はーい」」」」

 

どうやらそれだけ伝えたかったようで、二人はすぐに出ていった。ブリーフィングルームにはいつもの面々…………じゃないか。簪と一夏、そして悠助を抜いた四人だけが残った。簪は楯無さんと一緒に格納庫の方に向かったようだけど、未だ一夏や悠助からの連絡は何一つない。

 

「それにしてもあの二人…………大丈夫かな」

「連絡がないと不安しかないな…………」

「全くをもってそうですわね…………」

 

どうやら三人も気になったようで、次々と声を出している。私も不安にはなっている。いくらあいつが強いからって、何も起きていないなんてこと、ここまで連絡がなかったら想像できない。けど、

 

「まぁ、気長に待つしかないでしょ」

「り、鈴さんは心配ではないんですの!?」

「いーや、ものすごく心配。でもさ、思ってたところで何も変わらないし、あんまり意味ないじゃん? だったら待つしかないって。それに、一夏の側にいるのは、全てをぶっ壊す黒い龍よ。寧ろ安心しそうよ」

 

私がそう言い切ると、全員が納得したような表情をする。まぁ、あの二人なら必ず戻ってくるでしょ。だから、私達はあの二人が戻ってくる場所を作ってあげなくちゃね。それが親友ってものじゃないかしら? だから、早く帰ってきなさいよ、あんたら(一夏と悠助)

 

 

 

 

 

ブースターを吹かせて飛び続けること十分、(悠助)の視界には見慣れた機体が目に飛び込んできた。蒼い装甲に蒼のブレードアンテナ、そして背中から生えるウィングブースター。間違いない、一夏だ。

俺はさらに速度を上げていく。やっとだ…………やっとあいつが安心して暮らせるようになる。嫌なやっかみも何もかも崩した。だが、俺のやってきたことはただの偽善だろうな。一夏の為にとかと言いながら、本当は俺のエゴを振りまいていただけなんだ。どこかでそう僻む俺がいる。

 

「ゆーくん!」

 

そんな時、俺の後方から声が聞こえた。振り向けばそこには碧龍を纏っている束さんがいた。だが、大分機体が損傷している。あれだけ強固なRATナンバーがここまでやられていると、もしかすると一夏も…………と思ってしまう。

 

「束さんか。そっちは派手にやられたみたいだな」

「まー、腐っても世界最強だったし。でも、これだけで済んだからマシかなー」

 

束さんは俺に合流し、共に一夏の元へと向かう。ブースターの出力は既に限界に近い。だが、それだけ一分でも一秒でも早くあいつの元に帰ってやりたかったんだ。

 

「悠助っ!」

 

一夏は俺の存在を確認すると声を上げて俺を呼んだ。俺もそれに応えるかのようにすぐさまあいつの元に向かった。

 

「一夏っ! 怪我とかしてねえか?」

「私は大丈夫。だけど…………」

 

一夏はそう言い淀む。無理も無い、か…………一夏の両腕の中には中破している紅い蒼龍を纏った一秋の姿がある。バイタル自体は安定しているようだが、一刻も早い治療が必要だ。

 

「ちょ、ゆーくん速いって——って、かずくん!? なんでこんなところに!?」

 

そんな時俺から少し遅れて束さんが到着した。どうやら一秋とは知り合いなようだ。しかし、束さんでも一秋がISを使えていることなど知らなかったようで、どうしてここにいるのかわからないようだ。

 

「た、束さん? 一秋お兄ちゃんを知っているんですか?」

「うん。まぁ、昔周りから異端の目で見られていた私をフツーの目で見てくれてたし…………何より初恋の人だから」

 

驚愕しかしなかった。いやいや待て待て、俺そんな事一つと聞いてねえぞ。一夏だってなんだかぽかーんとした表情してるしよ。

 

「とにかく、かずくんは私が一度天海龍に連れて行くから。じゃ、また!」

 

そう言って束さんは一秋を抱きかかえて天海龍がいるであろう海域へと飛んでいった。そんな状況のトランスフォームについていけなかった俺らは二人その場に残された。波の音以外何も聞こえない。いつもなら煩く騒いでいる海鳥の声がするはずだが、戦闘でそれもあちこちに散っていったのだろう。

 

「一秋お兄ちゃん大丈夫かな…………」

「あいつなら大丈夫だろ。束さんが付いてんだし、なんとかなるさ」

「…………そうだね」

 

そう言う一夏の顔はどこか安堵しているような表情だ。余程心配していたんだろうな…………いい妹に恵まれてんじゃねえか、一秋。

 

「さて、と。俺たちも帰るか」

「うん…………でも、その前に聞いてほしい事があるの」

「今此処でか?」

「うん…………あまり人には聞かれたく無いからね」

 

一体何を言うつもりなんだ? 確かに人気は何一つとしてないが…………そんなにやばい事なのか? 当の本人の表情は至って真剣。互いにフルフェイスバイザーを解除しているからわかる。まぁ、寄り道していくのも悪くは無いな。

 

「わかった。で、話って?」

「その、ね…………悠助、春十達を倒したんでしょ? きっとそれって私がしなきゃいけない事だったのかもしれないんだ」

 

一夏の口から出てきた言葉に驚きを隠せなかった。まさか此奴がこんな事を考えていたとは…………確かにあの自称天才達は揃いも揃って一夏を虐めてきやがった。一夏はそれ相応の恨みを持っていてもおかしくはなかった。それを考えれば、そんな考えをしていてもおかしくは無いか。

 

「でも、私には…………いくら憎いからっていって殺す事なんてできないよ…………ううん、私自身殺す事が…………人を傷つける事に抵抗持っていたの」

 

…………やっぱりそうだったか。此奴は人を傷つける事に人一倍恐怖を抱いている。それが自分の手を汚したく無いのか、それとも此奴の優しさ故の事なのか。おそらく後者であると俺は思うが。

 

「それに、私はみんなと一緒に楽しく笑って生きていたらいいかなって思っていたから…………だったら誰かを傷つけて上に立つよりは、自分が傷ついてでもみんなといた方がいいかなって」

 

一夏はそう笑って言うが、その笑顔はどこか儚げなものに見える。触れたらすぐに壊れてしまいそうだ。此奴の優しさは無限大すぎる。誰かを傷つける事はできない、だから自分が傷つく。そんな自己犠牲の感情が今の一夏を生み出している。

 

「それと…………ほら、臨海学校の時、悠助墜とされたでしょ?」

「ああ、そんな事もあったな」

「その時なんだけどね…………ほら、人って大切な人をとか物を傷つけられたら、怒っちゃうでしょ?」

「まぁ、俺ならそうなるな。度合いによってだが、お前を傷つけられたら、傷つけた相手を殺しにかかるだろうよ」

「そうだよね…………でも、あの時、私にはどうしてなのかわからないんだけど…………怒りとか憎しみが出てこなかったんだよ…………」

「怒りや憎しみが出てこなかった…………だと?」

「うん…………私が怒ると何をするか自分でもわからないから…………だから、そうなるのを自分で抑えていたのかもしれない…………それに、あの時は悠助を喪うのが怖かったから…………」

 

怒りで突き動かされる自分が怖い。だから自分で怒りや憎しみといった感情を抑えている…………どれだけ自分を傷つければ気がすむんだ此奴は…………! 怒りや憎しみを出さなければ、それは自分の防衛本能を全てカットしていると同じじゃねえか!

そう、言葉を何度も詰まらせながら話す一夏の目からは何か光るものが流れ落ちた。涙だ。それは自分の心が傷ついて流れ出るものなのか、それとも何も出来なかった自分への遣る瀬無さなのか…………俺に解る由はない。

 

「ごめんね…………こんな暗い話を聞かせちゃって…………あ、あれ…………? なんでだろ…………涙が出てきちゃった…………」

 

そう、一夏は笑って言う。普通ならとても綺麗に写る笑顔なんだろうが、今の俺には見るに耐えなかった…………。どうしてなんだ…………どうして、そこまで自分を犠牲にする事ができるんだ!

俺は胸部装甲を解除、一夏を俺の腕の中に抱きしめた。

 

「ゆう、すけ…………?」

「お前は…………お前はどうしてそんなに自分を傷つけられんだ…………どうしてなんだ⁉︎ お前が優しいって事は知ってる! そして他人を傷つける事が人一倍できないって事も…………だけどな、だから自分が傷つくってどういう事なんだよ! 自分が傷つけば誰も傷つく事はない…………お前はそう言ったよな? アホか! お前が傷つくから傷つく人だって沢山いるんだよ! 俺なんかそうだからな! お前が傷つけられた時、俺は怒ると同時に相手を叩き潰す、そして憎んで相手を赦す事はない…………それはな、自分の手の中にあるものを守る為の自己防衛本能なんだぞ…………お前は、自分の身が大切じゃねえのか⁉︎ そんなお前を見ているこっちが辛いんだ…………だから頼む、自分が傷つくしかないとか言わないでくれ…………」

 

自分を犠牲にしたって、結局は自分を想っている誰かが結局傷つく。別に自己満足で止めているんじゃねえと言うつもりはねえ。けど、それでも此奴にはやっぱり言わなきゃならなかったんだ…………自分をそこまで追い込むな、って。

 

「それにな、全てを一人で抱え込もうとするんじゃねえよ…………そんなんじゃ、いつかお前の心は押しつぶされて壊れちまうぞ。辛いんなら辛いって言えよ…………バカ野郎が」

「ゆう、すけ…………? もしかして、泣いてるの…………?」

「はぁ…………? 俺は泣いてなんか——」

 

一夏に言われて俺はハッと気づく。俺の左眼から何か流れ落ちている事に。どうしてなんだ…………あの日から俺は涙なんてもの、枯れ果てた筈なのに。

俺がそう考えていると、一夏が指で俺の目元を拭った。

 

「悠助だって辛い思いしてきたんでしょ…………? しかも、ずっと…………一人で抱えてきたんでしょ? それじゃ、私の事も言えないよ…………」

「そ、そいつはそうだがな…………」

「ここは相子にしよ? だって私達、似た者同士だからね」

「…………はぁ、お前がそう言うんなら仕方ねえか」

 

ただ、俺が何と言おうと此奴には敵わねえ。此奴の優しさ、そいつが俺の復讐心すらをも包んでいく。おそらく俺はそれにも惹かれたんだろうな。…………だが、誰にでも優しいというのは常に自分が傷つく。だから俺は、俺が守ってやらなきゃならねえんだ…………もう、傷つけさせたくない。今度こそ、心から笑って過ごせる世界で、本当の幸せを知ってほしい。茨の道には戻る必要はないんだから。俺はより一層強く一夏を抱きしめた。もう、此奴を俺の側から離したくねえ…………俺も側から離れたくねえ。

 

「今度こそ、ずっと一緒にいよ?」

「当たり前だろ、これからもずっと一緒さ」

 

俺が抱き締めると一夏も俺を抱き返してきた。俺も一夏も笑いながら涙を流す。悲しいからじゃねえ。嬉しいからなんだ。ずっと大切な人と一緒に居られる、それがどんなに幸せな事なのか…………ずっと、俺が求めていたものが手に入ったのかもしれない。俺が親父とお袋を喪ってから、家族ともいうものが欲しかった。街に行けば有香子さんやゲンさんを始めとする面々が俺の家族代わりとなっているが、自宅に戻ると俺だけの孤独な空間しかなかった。不思議と悲しみはなかった。だが、代わりにあったのは復讐心だけ。そんな日々を俺は約一年半前まで過ごしていた。しかしそれも、一夏との出会いで終わった。あいつの境遇は俺と似ているようで違う。だが、あいつと俺には共に孤独が存在していた。そしていつしか彼女は俺の心の空白領域を支配していった。そうだ、俺は彼女に惹かれていたんだ。最初は幸せを知って欲しかった…………けどそいつは、俺にも当てはまっていた。一夏と共に過ごすうちに、これが本当の家族のように思えてきたんだ。そして俺はいつしか彼女を俺の家族にしたくなっていった…………それが俺のエゴである事は十分承知だ。だがそれで一夏が幸せになれるんだったら…………俺はエゴでも何でもしてやるさ。それが俺にできる唯一の事だ。

 

「だから、俺はお前を守るさ。国だろうが何だろうが関係ない。俺はお前個人を守りたいんだ」

「なら私は悠助の帰ってくる場所を守るよ。帰ってくる場所が無かったら悠助、悲しいでしょ?」

「ははっ、そうに違いねえ。お前のいない場所なんて、俺の帰る場所じゃねえからな」

「私も、悠助のいない所なんて想像できないからね」

 

お互いの目を見つめあってそう言った。俺の目に映る琥珀色に近い彼女の双眸。そこには触れてしまえば崩れる儚さもあれば、何か意志を固めた力強さもある。…………以前と変わったな。ほんの少し前までは自分を否定してばっかだった此奴が、自分のしたい事を見つけて、そしてそれを肯定している。自分に自信が持てたんだろうな。そう思ったら不意に笑みが漏れた。

 

「そうだな。とりあえず、今は此処が俺の帰る場所って事か」

「そうだよ。だから——」

 

不意に一夏は俺に頬に唇をつけてきた。ほんの軽い挨拶のようなそれではあったが、一夏の愛情みたいなものを感じる。

 

「おかえり、悠助」

 

そう言ってくる彼女の顔は本当に美しかった。やっぱり、俺には勿体ねえ位にいい女だよ、お前は。

 

「ああ、ただいま、一夏」

 

今度は俺が一夏の唇を奪う番だ。だが、どうやら一夏も俺の唇を奪うつもりだったようだ。だが、そこまで長い時間をするつもりはない。まだ俺たちのいる所は戦場だ。俺たちが帰るべき場所ではない。

一度一夏を手放し、俺は彼女へと手を差し出した。

 

「さぁ、帰ろう。俺たちの日常——俺たちの家へ」

「うんっ!」

 

差し出した手を一夏はしっかりと握る。二度と手放したりはしない。今度こそ、ずっと側にいてやる。もう、俺は此奴なしで生きていけないかもしれないからな。

俺がブースターを点火すると同時に、一夏もウィングブースターを点火する。速度は同じだ。前なら俺が抱き抱えていたが、今はもう俺の隣に立っている。そして俺と同じく歩みを進めている…………もしかすると、もう此奴は守られるだけじゃねえのかもしんねえな。

 

〔そうだな。お前と私がこうやって力を合わせて戦場を渡り歩いてきたように、これからの人生をあいつと共に歩んでいくんだ。そこには様々な困難があるだろう。それらを二人で支えあっていかなければならないぞ〕

〔でも、二人だけでは乗り越えられない困難もあります。そんな時はいつも私達がいます。遠慮せずに頼ってくださいね〕

 

ディスプレイには武蔵と榛名が映し出された。全く、どれだけ主人想いな奴らなんだ。嘗て束さんはRATナンバー達を『未来を守る為に未来へ羽ばたく翼を閉ざし、兵器であることを選んだ』と言った。だが、此奴らは確実に未来へ羽ばたこうとしている。自由の為に抵抗を続けた(RATナンバー)達も、少しずつではあるが歩みを進めている。

 

「そいつは心強いな。お前らがいるだけで十分困難を越えていけるさ」

「榛名達には沢山助けられたからね。私達からも何かお礼させて、ね?」

〔いいのか? なら——〕

〔榛名達は一夏の家族になりたいです!〕

〔…………それ、私の台詞なんだが〕

「俺たちの家族にか? 何を今更言ってるんだ」

「もう私達家族みたいなものでしょ?」

 

榛名は一夏の言葉に呆気を取られ、武蔵はそう言うと思っていたとばかりにドヤ顔している。だが、そんな顔も次の瞬間には笑顔に変わっていた。

 

〔全く…………一夏や悠助さんは優しすぎます。ですが、私はそんな二人が好きです〕

〔私もそうだ。お前達、特に一夏の優しさは全てを包み込むようなものだった。兵器としての私達には勿体ないくらいだったぞ〕

「恥ずかしい事を言ってくれるじゃねえか。まぁ、俺らもお前達の事、家族だと思ってるからな」

「何かあったらすぐに言ってね。私達に出来る事ならなんでもするから」

 

そんな笑顔に俺たちも笑顔で返してやる。俺らは最高の相棒を…………いや、戦友を得たんだな。全く…………恥ずかしい事をこうも簡単に言いやがって。だが、言われて気分の悪いものではないな。それに、家族がまた増えた。これからは俺の家も少し賑やかになるだろう。静か過ぎるよりはまだマシか。武蔵と榛名はそう言い切るとディスプレイを消す。だが、俺の視線操作スロットの上に[CN148 CONNECT ONLINE]と[CN151 CONNECT ONLINE]というものが表示されている。おそらくそれぞれのコアナンバーなんだろう。だが、ディスプレイが消えても接続中とは…………ずっと繋がっていたいんだろうか。

 

「悠助」

「どうした?」

「大好きっ、だよ」

「ふっ…………そいつは俺も同じだ。俺もお前の事が大好きだ」

 

俺は握る一夏の手をより強く握る。黒龍のマニピュレーター越しではあるが、それでも華奢な手である事に変わりはない。それほど強くもなく、かと言って弱くもない力で握る。すると、俺の手も同じように握り返してきてくれた。俺よりは力はないが、それでも暖かさを感じる。

俺が視線を向けると、それに反応して笑顔を見せてくれる。俺はこの笑顔を失わせたくない…………消させるわけにはいかない。いくら、世界の風潮が変わろうとも、此奴には一生『織斑千冬の妹』という称号がつきまとう。それを妬む者、それを利用しようとする者…………一夏はそんな奴らからこれからも狙われるかもしれん。だから、俺は守り続ける。それが、今の俺だけにできる事ならば尚更だ。俺は何処まで行こうと傭兵だ。戦う事しかできない、戦場とテロが生み出した狂犬だ。カネで心を買われるようなやつだ。だが、そんな俺でも変わらない想いはある。

 

 

 

 

 

——守りたい、ただそれだけ。

 

 

 

 




オマケ的な何か


番外『聖夜の夜に』※後にガチ書きします





[悠助・一夏の場合]



「おう、今帰ったぞ」
「おかえり、悠助」

普通に帰宅した(悠助)だが、俺の前の前にはとんでもねえやつがいた。いや、一夏である事に変わりはないんだ…………だが、その服装に問題がありすぎる。今日は十二月二十四日、クリスマスだ。その為か、サンタの格好をした一夏がいた。まぁ、一先ずパーツ風に説明するぞ。

頭部:サンタの帽子
胴体部:サンタの服装(ワンピースみたいな感じのやつ)
脚部:膝上までの黒靴下、なんかモコモコしたスリッパ

ぶっちゃけ、めちゃくちゃ可愛い。破壊力がおかしい。そこに若干恥ずかしそうにもじもじと手を弄んでいるんだ。可愛く無い訳がない。そのせいで既に俺のバイタルエリアは全損だ。大破だ、大破。

「い、一夏? お前、その格好…………」
「ん? これ? これね、実は束さんに貰ってね。今日はクリスマスだから、私がサンタになったらいいんじゃないのかって」

束さん、最高の仕事です。お陰で鼻血が出そうでいかんのだが。というか、胸…………半分くらい見えてるんだけど。い、いかん…………少しムラッとしてしまった。

「だから…………いつも頑張ってる悠助に、私をプレゼントするね」

だが…………その台詞はアカン。マジでアカンわな。それってつまり、アレを俺に捧げるって事だろ!? それだけは今の歳では無理だ! 俺にそんな勇気ねえ!
しかし、俺の目の前には上目遣いで、頬をほんのり赤くした彼女がいる。あまり、此奴の希望には添えられないが、今日は精一杯愛でてやろ。

「はいはい。じゃ、今日は精一杯可愛がってやるよ。ただし、アレはやらないからな?」
「むぅ…………まぁ、私でも流石にアレをする気にはならないよ」
「あ、一夏! 料理の用意ができましたよ!」
「こっちも準備は万端だ! 悠助も来たなら、早く始めよう!」

どうやら榛名と武蔵も手伝っているようだ。二人も手伝っているという事は…………今夜は相当派手に騒ぎそうだな。ふぅ、これじゃ用意したプレゼントはかなり夜遅くに枕元に置くしかねえわ。

「ほら、早く行こっ」
「了解、了解」

俺は一夏に引っ張られリビングへと向かった。いつもなら必要最低限のものしかないリビングも、ツリーや飾り付けがされていて華やかなものになっている上に、テーブルには数々の料理が載っている。これだけ作ったり飾るんだったら、相当時間かかったろうに。

「悠助、これ持て」
「お、シャンパンか。雰囲気出るねえ」
「まぁ、私達は炭酸だけどね」
「アルコールはちょっとダメですから」
「ははっ、そいつは仕方ねえわ。それじゃ」
「「「「メリークリスマス!」」」」





[渚・簪・楯無の場合]



「ちょ、ちょっと待てお前ら!?」

()は最高のピンチに遭遇していた。いつものように依頼をこなして簪と楯無の家に戻った時だ。部屋に行くなり俺は壁際にと追い詰められる。なんでかって? だってそりゃ…………

「あら? いいじゃない、今日は折角のクリスマスなのよ?」
「…………だから、渚へのプレゼントは私達」
「意味がわからん⁉︎ どういう思考でそこに行き着いた⁉︎」

バニーガールとサンタを混ぜ合わせたかのような際どい衣装で俺の帰りを待っていやがった。そんな二人に俺は次第に迫られ、部屋の隅へと追いやられてしまった。…………ウサギに追い込まれる狂狼ってなんだ?

「どうって…………こういう事よ?」
「のわっ!?」

楯無は壁に追いやった俺に胸を押し付けてきた。彼女の豊満な胸部装甲が押し付けられる。やめてくれ…………煩悩を殺せん。

「…………お姉ちゃんばっかずるい。私も」
「か、簪まで!?」

楯無のそれを見て対抗心を燃やしたのか、簪までもが俺に胸部装甲を押し付けてきた。楯無よりは無いが、それでも俺の煩悩は活性化してくる。や、やめろ…………じゃねえと、狼が目覚める。

「「ねぇ、私達を食べて。狼さん」」

ムラッ

上目遣いでそう言ってくる二人。しかも視線に胸部装甲の谷間が見えるようにしてきやがる。俺の煩悩は最高に活性化した。ならばやる事は一つ。
——この夜、俺は野獣(ビースト)へと変わった。





[アーミアの場合]



「シングルでーす、シングルでーす、俺さーみしー。今日も〜俺は〜戦場ライフ! フゥゥゥッ! シングルでーす、シングルでーす、俺むーなしー。若い〜連中〜皆リア充! くたばれっ!」

戦場でそう歌いながら仕事をしているアーミアの姿があったとか。

(((その気持ち、わかるわ…………)))

尚、共感する傭兵達も多くいたとか。

〔これだから、いつまで経っても彼氏できねえんだろ…………〕

天龍もそんなアーミアを見て呆れかえっていた。

「だぁぁぁぁっ! なんで俺には男が一人も寄ってこねえんだよ! 確かに俺はガサツで男勝りだけどさぁっ! 俺だって、俺だって…………リア充になりてえんだよぉぉぉぉぉぉっ!」

——クリスマスの夜は時に人を壊す事もある。






投稿開始から約十ヶ月。ようやくこの作品にも一区切りがつけられました。ここに至るまでデータが吹き飛んだり、指折ったり、クラゲに刺されたりと様々なことがありました(クラゲはあんまり関係ないな…………)。ですが、こうして書くことができたのは、この作品を読んでくださる皆様のお陰です。ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

悠助「という事は完結か?」
一夏「そうなるとなんだか寂しいですね…………」

ん? 誰が完結だなんて言った?

一夏「え…………だって、もう別れの挨拶みたいな感じでしたし…………」

違うわ。まだ後日談書いてねえもん。それを書ききるまで、この作品はまだ続くぞ。(あと、このサムい後書きも)

一夏「ふぇっ!? ま、まだ続くんですか!?」
悠助「前言ってたもんな…………まだ暫く続くって」

という事で、これから本当の本編完結に向けて書き進めていきたいと思います。ここまで読んでくださった皆様、本当にありがとうございます。

悠助「これからも生温い目でよろしく頼む」





-追記-
そのうちですが、アンケートを活動報告でします。そちらもよろしくお願いします。
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