守りたい、ただそれだけ(本編完結) 作:ディニクティス提督(旧紅椿の芽)
第46話
あの戦いから数日の時が流れた。戦場となったIS学園は復興するまでの間、臨時休業とし生徒達はそれぞれの家に帰っている。ただ、彼らの中には戦いの恐怖で日常生活を送ることが困難なほどの戦争恐怖症を患った者もいる。彼らは優先的に精神病院へと送られたのはいいが…………実際、復帰するかどうかも怪しい。戦場は俺たち傭兵にとってなんら変わりのないものではあるが、普通に生きていれば決してめぐり合うことはない。だからこそ、刺激が強すぎた。戦場と戦闘が生み出した傷は物理的なものだけではない。心理的にも深い爪痕を残していくものだ。
また、この戦闘で学年生徒教職員を問わず、十七名の尊い命が失われてしまった。これだけはどうしようもない。失われてしまったものを、元あったように取り戻す事は不可能だ。これについてはIS学園及び国際IS委員会に損害賠償を求めている。今後の裁判次第では委員会の解体も視野にいれる事になるだろう。そうなれば、IS学園も自然と解体…………俺らは別々の道へと進む事になるやもしれん。
そんな状況に陥った元凶はどれもこれも亡国機業過激派だとアーミアは言っていたが、そのバックにある存在に俺は心底怒りが溢れ出そうになった。そういうわけで俺、アーミア、渚はそれぞれの機体を展開し、ある場所へと向かっていた。
「しっかし、まさかアレがバックにいたとはねぇ…………」
「情報自体は昔のツテで手に入れたやつだ。俺が信頼している情報屋だから心配ねえぞ」
「…………なぁ、俺ってタクシーか何かなのか?」
だがしかし、こいつら俺のDアームズに掴まって移動していやがる。確かにこいつの航続距離はどのISよりもあるだろうけどよ…………こうもタクシー扱いされると腹立ってくる。何度ロールバーを破棄しようかと考えたか。
太平洋を突っ切り、アリューシャン列島を越えた先、俺たちの目指す場所が見え始めてきた。目的地はアメリカ合衆国アラスカ州ユーコン。自然豊かな場所に、その施設は存在している。
「っと、奴らもどうやら俺たちを歓迎しているようだな」
「言っておくが殺しはするなよ。今回は比較的穏便に済ませておきたいんだからな」
ついでに言えばこんな事さっさと済ませて帰りたいところだ。だが、奴等をこの手で裁かねば、俺の気が済まねえってもんだ。既にDアームズは格納済み、二人も俺から離れそれぞれの方向へと向かっている。
そんな俺らの前に現れたのはIS学園襲撃事件で見たインディゴブルーの機体——カラドボルグだった。その肩には委員会のエンブレムが貼り付けられている…………成る程な。黒幕である証拠がバッチリと現れているじゃねえか。
『こちらに接近する機体に告ぐ。そちらは我々の領域へと侵入している。直ちに進路を変え、引き返せ』
警告が告げられるがそんなもん俺の知ったこっちゃねえ。BⅡ型ユニットに換装した俺はさらに速度を上げ突き進む。俺の両手にはバスターナックルのツメを取り外したスタンナックルが装備されている。俺の威力によって殺傷か非殺傷兵器に姿を変える。また、ツメを外した事で電撃を直接相手に叩き込む事も可能だ。
『撤退の意思無しと判断。迎撃させてもらうぞ』
その通信の後、それぞれがサブマシンガンやらアサルトライフルやらバズーカやらを撃ってくる。だが、そこに殺意など一切込められていない。殺る気のない弾だ。だからこそ
「そんなんで俺が引くわけねえだろ!」
放たれる弾を紙一重で回避していく。正直、襲撃してきた過激派の方がまだ面倒臭かったぞ。
「な、なんなんだ奴は! 化け物か!」
「化け物、ねえ。どちらかといえば狂犬って言ってくれよな」
一気に接近した一機の腹にスタンナックルを叩き込む。ナックルがぶつかると同時に青白い電撃が放たれた。反応からして擬似コアである為、絶対防御など存在していない。つまり、オリジナルコアのように電撃がカットされる事などあり得ない。その為、操縦者は気絶し、そのまま地上へと落ちていく。
「こいつっ! よくも!」
「おぉっと、俺を忘れてもらっちゃ困るぜ!」
俺の後ろから攻めてきた敵機を渚が吹き飛ばす。その手に握られているのはメイスだ。一応、非殺傷武器の部類に入るらしいが、その気になればぶっ殺す事だってできるぞ。見た目こそ完全に金属バットのような感じではあるが、中身は完全に詰まった別物。結構エグい。吹き飛ばされた奴はそのまま地面へと叩きつけられる。
「くそっ…………! たかが侵入者の分際で!」
「その侵入者に嬲られるお前らって…………一体何なんだ?」
残された一機にはアーミアが付く。そうびし、敵機に突きつけているのは対IS用のテーザー銃だ。アーミアはそれのトリガーを躊躇いなく引く。軽い炸薬の音と共にピックが放たれる。そして高電圧の電流が撃ち放たれ装甲へと突き刺さったピックとワイヤーを介して流される。操縦者がその一撃で気絶したのか、機体は制御を失い、これまた地上へと落ちていく。ついでに言えば全機生体反応有り。殺してはいないようだ。…………というか、俺ら非殺傷と言いながら、致死量レベルのダメージを与えていた事に気がつく。ま、死んでないから良しとするか。
「さて、邪魔者は片付けた。さっさと本丸を潰すぞ!」
雑魚というにもおこがましいほど弱すぎた敵機共を一瞥し、本命である施設へと向かった。ISを平和的運用という名の下、世界の防衛力を担い、あまつさえ紛争地帯で戦闘を行う事になり、偽りの平和を生み出した偽りの条約を生んだ場所であり、そしてその力を全て統括する最高機関——国際IS委員会本部。両腕にブラスターカノンを装備した俺はさらにスラスターの出力を引き上げた。
施設へと突入した俺たちを待っていたのは委員会の連中による
「賊なんかに負けていられな——」
「絶対防御持ちは黙って沈んでおけや、オラァッ!」
ロングブレードを構えて突っ込んできた打鉄にブラスターカノンを突きつける。ブラスターカノン砲身下部にはショートブレードが装備されている。それを突き刺し、ほぼゼロ距離で本命のビームカノンを放った。インパルスライフルやビームサーベルの他に黒龍の出力に耐えられるビーム兵器だ。
その威力にRATナンバーを除く全ISで最も重いとされる打鉄は吹き飛んだ。そして、絶対防御を通過したダメージは操縦者の脳を激しく揺さぶり、意識を刈り取った。
「ひゅー、なかなかヤバそうな武器使ってんなぁ」
「うるせぇ。第一、俺らには地味なの似合わねえだろって」
「そいつは間違いねえわ」
ブラスターカノンをカノンモードからマシンガンモードに切り替える。その際に砲身が変形する手間が必要なのがネックだが。変形した砲身から放たれるのは幾多もの赤黒いビーム弾。そいつが俺の両腕から放たれる。アーミアはビームアサルトガン、渚はどこからか手に入れてきた実弾のマシンガンで、次から次へと現れてくる無人防御兵器やISを落としていく。
「な、何なんだこいつらは!?」
「ひぃぃぃっ! い、命だけはやめて!」
「おうおう、命乞いかぁ?」
一人命乞いをしてきた奴がいる。別に殺すつもりでやってるわけでもねえし、絶対防御がある以上、ガチで殺す事はまず不可能だ。引け腰になって崩れている奴を、ブラスターカノンを解除した右手でその頭を鷲掴みにする。
「まぁいいぜ。今日は殺しできたわけじゃねえ。一つ、御偉方にこう言ってきやがれ」
俺は鷲掴みにした奴を地面へと投げ捨てた。砕けたバイザーからはいかにも死にたくないと言っている目が見えた。その顔を見ている俺の顔は非常にワルなツラ構えをしているだろう。俺はその女に向かって言った。
「
「ハロー、国際IS委員会の皆さーん」
ドアを蹴破り、議会室へと入った俺達はそれぞれの得物を展開、部屋の隅っこで震え上がっている野郎共に突きつけた。
「おいおい、とんだヘタレ共しかいねえじゃねえか。これが本部のツラかよ」
「渚、止しておけって。こいつらには自分の席を守る事しか興味ねえんだからよ」
隣で軽口を叩いている渚とアーミアだが、彼奴らも怒りで溢れているんだろう。渚にとって女性権利団体は敵も同然、アーミアはそもそもでこいつらが嫌い、そして俺はーーこの腐った世界体制をそのままにし、あまつさえ紛争地帯という爆弾に擬似コアという火薬をブチ込み、その擬似コアが起こしたテロを黙認し、揉み消し、親父達の存在を抹消した事への怒りで気が狂いそうだ。それに、一夏が傷ついたのもこいつらがあのクソ共の意気をこの風潮で助長したからだ。尚更腹が立ってきやがる。両腕に展開されたブラスターカノンはカノンモードで突きつけてある。いつトリガーを引いてもおかしくはない。
「な、何なんだ貴様らは!?」
「あ? 俺ら? そうだなぁ…………さしずめ、天使の管理者を食い殺しに地獄から来た龍ってところだな」
忌々しげな目でこっちを見て俺らに問うてきたロシアの代表らしき奴にそう軽く返してやった。つーか、その忌々しげな目をしたいのはこっちだっつーの。
「ふん、すぐに弁護士を呼べ。釈明は法廷で聞いてやる」
「てめえらにその権利があるとでも?」
「貴方達のような不届き者とは違って、こっちは世界を預かっているのよ。その重み、わかるかしら?」
「わからねえなぁ…………こんな腐りきった世界などどうだっていいわ」
イギリスの代表とドイツの代表は未だに現場を理解できていない。自分達に主導権があるように見えているが、実際この場でこいつらの命を預かっているのは俺らだ。渚とアーミアは言うまでもなく、俺に至っては一発でこの施設ごと
「お前ら、今は落ち着いておけ。俺には
まだやらなきゃならねえことがある」
一先ず俺はそう言って二人を落ち着かせる。下手すれば——いや、下手しなくてもすぐ人を殺しそうになるからな、こいつら。
場を預かった俺は現状ブラスターカノンを突きつけている状態の連中に問うた。
「さて、楽しい質問タイムの時間だ。お前ら回答する用意はいいな」
「ど、どういうことだ!? 我々は何も——」
「はい、質問その一。外に配備されていたカラドボルグ、あれはどこ製のものだ? そこ、答えろ」
俺はブラスターカノンの銃口をロシアの代表らしきハゲのおっさんに向けた。
「だ、誰がそんな事を知るもの——」
「——真面目に答えろよ。首飛ぶぞ」
だが回答を拒否してきたものだからつい砲身下部ショートブレードを首筋に当てていた。特別に高熱で溶断したりとかしないため冷たい刀身が当たっているわけだが、おっさんは異常な程汗をかいていた。口をカタカタと鳴らし、鼻水はダラダラと流れている。みっともないったらありゃしない。
「わ、わかった! わかったから! 正直に話す! あ、あの機体は委員会が次世代機として開発をした
「よし。委員会のお手製ということはわかった。そんで質問その二だ」
今度俺は中国の高官に視線を向けた。すると、さっきの事が頭から離れないのか、俺に恐怖の眼差しを向けてくる。それを見ている俺は謎の高揚感に襲われた。あぁ、こんなんで気分が良くなるとか、どんなシリアルキラーだ。とんでもねえサイコパスかも知れんぞ。
「お前ら亡国機業から話を持ちかけられたか? こいつには真面目に答えてもらわねえといけねえ」
「ぼ、亡国機業!? なぜ貴様がその名前を——」
「いいから答えろよ。そうじゃねえと後ろの白い奴がお前をガンマ線やら何かで焼かれた焼肉に変えるぜ?」
「うぐっ…………彼奴らからは話を持ちかけられた。世界を変える、と。だが、我々は断ったぞ! そんな事をすれば我々が築き上げた秩序が乱れてしまうからな」
「そうか。自分の席を守ろうとしたのな。この俗物めが。まぁいいだろう。で、他の奴等は? ——っと、そういやドイツの代表さんよ。あんた、女性権利団体のトップだろ? 下らねえ演説をそりゃどうも」
一旦中国の高官からは目を離し、今度はドイツの代表に目を向けた。こいつ、結構テレビとかでも有名になっているんだよな。
「そんなあんたに質問その三だ。女権の連中が現状の政策を変えたいと思っているのか?」
「そのようなわけないわ! 私達は今の世界で旨味を得ているんだから!」
「へいへい、期待通りの回答ありがとよ」
ここに至るまで誰一人とこの世界に対する不満とかはないようだ。だが、どこか様子がおかしい。アメリカとイギリスの奴はどこか心情穏やかそうではない。それに今質問をぶっかました奴らもどこかそわそわとしている。仕方ねえ…………こうなったらカマかけてみるか。
「それじゃ、こいつで最後だ。お前らの中に亡国機業へと資材を横流しした奴はいるか?」
超ど直球な質問をぶっかました。するとだ、どいつもこいつも揃って口を閉じちまいやがった。それに、互いが互いを牽制しあっているようにも見える。はぁ、やっとボロを出したか。
「よし、じゃあ今から三秒やる。その間に答えなければ撃つぞ」
ブラスターカノンの出力を臨界まで引き上げる。砲身にはエネルギーが充填され、インパルスライフルほどではないが粒子が漏れ出している。それに、何一つ装甲を持たない生身の人間に撃ち込めば瞬間的に蒸発するだろう。しなくても、ガンマ線やら何かで焼かれた焼肉になる。人の原型は留めないだろう。
「いーち」
流石に最初から口を開くわけなどないか。
「にー——」
「わ、わかった! 話す! 話すから撃つな!」
だが、それも最初だけだった。どうやらロシアの代表が自分の命欲しさに自白するようだ。というか、この場にいる男性代表はそのつもりならしい。
「あ、貴方!? ま、まさか全てを話すつもり!? 私達が築いた地位を失うわよ!?」
「そんな事はどうでもいいだろ! それに此奴には冗談などを言っているようには聞こえない! 奴は確実に我々を殺す気だ!」
「いや、正直に話せば命だけは保証してやってもいいぞ」
「皆落ち着け。全ては私から話そう」
そう言ってアメリカの代表は黙らせた。そして、俺を見て一つ息を吐いてから口を開いた。
「——ああ、確かに私達は奴に——スティグマトと呼ばれる男に機体を横流しした。奴等はこう言っていた、『世界をあるべき形に戻す』とな…………私は元々米軍の将軍だった。ISの登場にしたがい、私は将軍職からこの核兵器にも等しい物の管理委員会に送られ…………そしてうんざりしていた。戦場に出るわけでもなく、ただ適性があるからといって、それだけのことで軍の一部隊をクビにする奴もいれば、上官の命令を聞かず、逆に上官をクビにした奴もいた。そしてそれを黙認していた高官も…………私たちと同じ、この風潮で利益を得ていた者だ。軍の腐敗は何もアメリカに限ったことではない。ロシアや中国、イギリス…………各国軍でそのような事は起きている。そして罪も無い民間人までもがその被害を被っている…………かつて国民を守る立場にあった私からすれば耐え難いものだった。正直、そこにいる女権の女といるのも息が詰まりそうだった」
男は一息つくと再び口を開く。
「だからこそ、私はこの世界を変えたかった。誰もが差別を受けない、本当の自由が皆に与えられた世界、
「だが、結果は違ったと?」
「…………ああ、そうだ。彼らの口車に乗せられ、全部で十機のカラドボルグを彼らに渡したのだ。しかし結果はどうだ! 彼らはあろうことかIS学園を襲撃し、何も罪の無い生徒を殺したというではないか! 彼らには未来があったはずだ。だが、我々の判断が彼らの未来を殺したのだ! …………自責の念に駆られたよ。我々は誤った選択をした、後悔しかない。所詮、誰もが自由でいられる世界など、夢物語に過ぎなかったのだ…………」
そう言って彼は目を閉じ、顔を伏せてしまった。そこには恐らく後悔の念しかないのだろう。自分たちの選んだ選択肢が、よもやこんな事態を引き起こしてしまったのだ。俺もそうなるだろうな。だが、あいにく俺は傭兵だ。カネと依頼にのみ従って行動する人種だ。選択肢など与えられているようで与えられていない。彼に共感できる部分は少ないが…………それでも、自分の選択が一夏を傷つけてしまったとあれば後悔する。
しかし、俺はここまで来た甲斐があると思う。今まで、この世界情勢の旨味を得ていたと思える奴らが、この世界を変えようとし、あるべき姿へと戻そうとしている——それが知れただけで十分か。
「これだけの大罪を犯した我々に弁明の余地などない。今ここで殺されようとも、それは我々が招いた結果の一つなのだろう。文句は言わない。その銃口を私に向けるがいい。一思いにしてくれ…………」
「バカか…………お前達のように世界に目を向けていた奴らを俺は殺せる気がねえよ。俺は一人の少女を守りたい…………そいつはその姉に比べられ傷ついていた。だからこそ、その元凶を潰したかった。だが、その元凶とも言えるお前らがそのような考えを持っているなんて知ったら…………撃つ気は失せた」
ブラスターカノンの砲口はすでに下を向いている。渚もアーミアも俺と同様に銃口を下げている。
「告発する気も無くなった…………だが、これからあんたらには査問会があるだろうな。俺たちは別に糾弾も擁護もしない。だから一つ約束してくれ…………この世界を本当の平和へと導き、自由と平等をもたらせよ」
俺はブラスターカノンをどちらも格納、武装を解除しそのまま撤退する。殺す気はない。…………どうも変だな、俺は。以前なら躊躇いもなく殺していた。なのにこうして銃を下げたのは…………初めてかもしんねえな。よくわからねえぜ。
「…………彼奴の温情だ。下手な真似はするなよ。じゃねえと俺らがまた殺しにくるからな」
「正直、憎くて仕方ないが…………今後の動きで判断してやるよ。だから、彼奴の約束を守れ」
二人も俺の後ろへと着いてくる。まぁ、これでよかったんだろうかねえ。俺には知る由も無いが…………だが、殺さなくて良かった、今そう思っている。どうしてなのかはわからない。施設を出た俺はDアームズを再び展開する。コネクタに接続されると共に、ディスプレイには武装が幾多も表示される。
「さて、帰るとするか」
「帰りも頼むぜ」
「お前ら…………振り落としてやろうか?」
そしてしれっと普通に、当たり前のようにDアームズのロールバーに掴まる二人。マジで俺はタクシーか何かか。太平洋上でバレルロールして振り落としてやろうか?
まぁ、一先ず天海龍に帰投するか。今は確か横須賀に停泊しているっていう話だからな。
ブースターを点火し、一気に加速した。
「——で、よく殺さなかったなお前。あれで良かったのか?」
「良いも悪いもねえだろ。俺たちは傭兵だ。カネで傭われ、心に従うことなく仕事をするだけだ。今回は依頼に殺せなんてなかっただろ。俺はそれに従ったまでだ…………それに、殺さなくて良かったと思ってる自分がどこかにいるんだ」
「…………お前、本当に変わったよな。一つの戦場を本当に更地にした暴龍はどこに行ったんだ?」
渚の軽口に煩えと返して、再び制御に集中する。この大出力ブースターを制御するにはかなり精神が削られるからな。
そんな中、俺は頭の中で考え事をしていた。おれはいつこんな腑抜けたモノに変わってしまったんだろうな…………俺は傭兵、それ以上でもそれ以下でも無い。カネで動く兵士だ。その基本は結局人殺しにつながる。人を殺してカネを得る、
だが今の俺はどうだ? 相手の話に乗せられ、そして銃を下げてしまった。俺はそれが優しさで下げたのか、単に腑抜けただけなのか、わからない。俺には優しさと腑抜けの境界がわからねえ。他人のならわかるが、俺は自分という存在を守る為に戦ってきたから、少しでも気を緩めれば死ぬと思ってきた。だから殺してきた。それが俺だったはず…………恐らくこんな風に変わったのは一夏が俺のそばに来たからなのかもしれない。彼奴が来てから、俺はどこか気配りというものをするようになった。そして、彼奴の前では俺の心は気を許していた。きっとそうなんだろうな…………彼奴の優しさが俺にうつった。だから俺は…………いや、今はその考えはいいか。結論を出すには早計すぎるな。俺はまだ戦わなければならねえ、これまでも、これからもな。俺が銃を手離すのはその後だ。
「おいおい、もっとスピード出ないのかよ! 飛ばせ、飛ばせぇっ!」
「やっぱりこのスピードが堪らねえ! こっちは楽チンだぜ!」
…………俺のシリアス思考を破壊するのに、あの二人の会話は十分だった。俺は迷いなく思考操作で左右のスタビライザーを調整、バレルロールをぶっかました。
「って、うぉぉぉぉい!? バレルロールはするなぁぁぁぁぁっ!?」
「や。やめ、ちょっ!? う、海に落ちる!?」
「知るか。自力で帰ってこい」
バレルロールをした勢いで強力な遠心力が発生し、二人はロールバーから手を離してしまったようだ。まぁ、これでいいんだがな。人をタクシーのように扱った結果だ。誰が無料でタクるか。第一、お前らの機体も航続距離は十分あるだろ。そして何より、自分たちが楽したいからだと? 問答無用ではたき落としてやるわ。
「おい待て! この仕打ちってあるか!?」
「…………増槽積むことにしておこうか」
後ろから何か聞こえてきたがこの際無視しておこう。てか、プロペラントタンクが積めるんならそれを積んでおけ。じゃねえとこんなオチになるぞ。
天海龍に帰投するルートを変え、俺は自宅へと向かうルートへと変更した。俺の帰るべき場所へ…………。時刻は日本時間にして午前二時だ。自衛隊の対空レーダーに引っかからぬようアクティブステルスを起動、領空内へと突入した。まぁ、何年もの間この手を使って仕事していたしな。引っかかったことは無いぞ。まぁ、バレそうになったらなったで全力で高高度へと逃げてやるわな。それか低空でホライゾナルブーストして振り切る。そのどっちかを使えれば彼奴らは振り切れる。F-15はそこまで低空を飛行できねえからな。
そうこうしている間に自宅が見えてきた。彼奴はどうせ寝ているだろうし、静かに帰ろうか。機体を解除し、久々に玄関から入った。そう言えばこっちから帰ったのはいつぶりだろうな。ずっとマスドライバーの射出口から戻っていたしな。玄関は案の定暗くて、流石にどこも電気がついてるようではなかった。流石にもう寝ちまったか…………どこか俺の帰りを迎えて欲しかったと思う俺がいる。まぁ、いいんだけどさ。
だが、なんだかリビングの奥——台所の方から少し光が漏れて見える。消し忘れでもしたのかと思い、電気代も心配になってくるので消しに向かった。けど、それは決して消し忘れなどではなかったと、俺はこの後思うことになった。
「…………すぅ…………すぅ…………むにゃ…………」
台所にある食卓用テーブルに一夏が突っ伏せるように寝ていた。その横には晩飯だったお菜とかがラップに包まれている。そして置き手紙まで置いてあった。
『おかえり、悠助。これ読んでるってことは、私もう寝ちゃったのかも。晩ご飯は作っておいたから、レンジで温めて食べてね。今日もお疲れ様!』
…………やべ、涙出そう。この子、すげえ優しすぎるんですけど。という事は、俺の帰りを待ち続けていたってことなのか? …………すまん、さっきなんか贅沢言ってたわ。
「ありがとな、一夏」
俺は眠っている彼女にそう感謝の言葉を投げかけた。すると、それが聞こえていたのか、それとも偶然なのか微笑んでいるような表情になった。ふっ、可愛い奴め。
とりあえず飯を食うとするか。どうやら今日の晩飯は豚の生姜焼きだった模様。…………あれ? 俺確か、遅くなるから有香子さんのとこで飯食っとけって言ったはずなんだが…………もしかしてその後で飯用意して待っていたのか? そうなるとここまで待たせてしまったことに罪悪感を感じ得ずにいられない。
レンジで生姜焼きを温めている間、俺は二階からタオルケットを取ってきて一夏にかけてやった。いくら九月の下旬だからといって毛布が必要なほどそこまで冷えはしないが、まぁ、風邪引かせるわけにもいかんしな。それに、明日はこいつにとって大切な日だ。そんな日に体調を崩されてはこっちがかなわん。
そうこうしている間に飯も温まったようだ。うむ、今日の飯も美味そうだ。
「そんじゃ、いただきます」
その挨拶に返してくれる奴はもう眠っちまっているが、まぁいいか。飯を食うのは一人だが、この場には二人いる。それが嘗てとは大きく違うところだな。
「まぁ、二人きりというわけでもないがな」
「榛名達もちゃんといますよ?」
「そういやお前達もこの家の住人だもんな」
訂正、俺ん家は四人家族だった。武蔵も榛名もコア人格が具現化した姿であるが、俺の家族であることに変わりはない。テーブルには四つの椅子があるわけだが、俺は一夏の真向かいに座り、武蔵は俺の隣、榛名は一夏の隣に座っている。こんな感じで座っているとなんだがいかにも家族って感じがするな。
「しかし、今日も大変でしたね。突然アラスカまで行くんですから」
「あぁ…………聞いたときは長旅を覚悟したぞ」
「結局の所、彼奴らどうなったんだ? 太平洋に叩き落としたんだが?」
「それなんだがな…………天龍と夕立が土下座で反省してきた」
「マジか…………」
「正直何が起きていたのかわからなかったんですが…………事情を聞いてそうなるのかなと思いました」
なんかすまんな、天龍に夕立…………キレる時はお前らの操縦者に言ってくれ。俺は寧ろ被害者だからな。
こいつらと談笑している間に飯は食い終わってしまった。今日も飯が旨かった。やっぱり一夏の飯はいつ食っても美味い。そして…………なんだかお袋の飯の事を思い出してしまうんだよな。味がまるでそっくりだからなんだろうか。
「さてと、ごちそうさん、っと。片付けはこっちでやっておくからお前らもコアの方に戻って休んでおけよ」
そう言って俺は食器を片付けようとするが
「いえ、それは榛名達がやっておきます。ですから悠助さんがお休みになってください」
「明日が大事な日なんだろう? ならばお前も体調はある程度良くしておかなければならんぞ。それに私達に寝るという概念がないからな」
そう二人は言って俺を無理にでも休ませようとする。俺としては自分でやって済ませておきたいところだが、武蔵の言うことにも一理ある。仕方ねえ、こいつらに任せるとするか。
「じゃ、すまんなお前ら。先に休ませてもらうぞ」
「ちゃんと一夏も連れて行ってあげてくださいよ?」
「わかってるって」
俺は眠っている一夏を起こさないように気をつけながら抱き上げた。途中、何かぴくっと反応した為、少々焦ってしまったがまぁ、起きなかったしなんとかなるだろ。
「しかし、相変わらずすごい筋肉だな…………」
「榛名、少し憧れちゃいます…………」
「そうか? 自然とこうなったからなんとも言えねえな。そんじゃ、おやすみ」
「はい、おやすみなさい」
「あぁ、おやすみ」
二人にそう告げて二階へと上がった。俺と一夏の部屋は二階にある。というか一階がそういう小部屋ねえ。まあ、それはどうでもいいか。
一夏の部屋に入り、ベッドに一夏を寝かせた。ふぅ…………なんとか起こさずにこっちに連れてくることできたな…………。さて、俺も自室で寝るとするか。そう思って部屋を出ようとした、その時だった。
服の袖を一夏に掴まれて動けない。ファッ!? 何故に掴まるんだ!?てか、寝てるはずだろ!? もしや起きてたりとか…………というわけでもなさそうだ。寝ぼけているのか?
「…………んんっ…………ゆーすけぇ…………」
「な、なんだ?」
「…………だーいすき…………むにゃ…………」
…………この瞬間、俺のバイタルパートは完全に粉砕されてしまったのだった。ってか、不意打ちにも程があるだろうよ、一夏ぁ!? 何故にこのタイミングでそう言ってくるんだこいつは…………しかも無意識で天然で言ってるから尚更タチが悪い。この子、いろんな意味で恐ろしいわ…………。
どうやら服の袖を離してくれる様子は全くと言っていいほど見受けられない。はぁ…………仕方ね、ここで寝るか。座って寝るのも大分慣れたことだしな。それに離れた後、起きて変に泣かれたりしたら大変だからな…………尚こいつその前科あり。というわけで俺は一夏の部屋で寝ることにしたのだが…………どうも落ち着くことなどなく、その後暫くの間はやっぱり悶々とした時間を過ごしていたのだった。
それから数日後、国際IS委員会にてISの運用方再確認及び各国軍の軍用IS保有制限、女性優遇制度の改正等の会議が行われたとの事だが、それはまた別の話である。
新年明けましておめでとうございます。
なんとか投稿自体はできましたが、昨日のうちに出来なくて少々悔しい思いです。
悠助「正月からアホみたいな量の課題やってたからな…………」
一夏「今回は確かページ数300を十日でやれっていうものですよね?」
うん。けど中身濃いからまだ半分しか終わってないのが現状です。
暫くは投稿を控えて課題をやって単位を獲得する方を重視していきます。
新年早々こんなザマの作者が書いているこの小説を今年も生温い目でよろしくお願いします。
悠助「アンケートの方はまだやっているらしいぞ」
一夏「皆さん、どんどんお願いしますね」