守りたい、ただそれだけ(本編完結)   作:ディニクティス提督(旧紅椿の芽)

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今更ですが、(仮題)を取り外しました。


第47話

翌朝、なんとか一夏の拘束…………じゃねえな、袖掴みから逃れ、今夜の為に電話をかけていた。

 

「——それじゃ、一応今晩貸切という形で。はい、了解でーす」

 

現在朝の五時、起きているかどうか不安になったが、通じたから良かった。電話を入れる余裕がここ最近なかったからな。それに、向こうもどうやら俺と同じように考えていたようだ。

 

(にしてもな…………)

 

俺はふと後ろを振り返った。そこには非常に安らかな顔を浮かべて眠っている一夏の姿が…………いや、別に野郎の煩悩を刺激するようなそんなやばい格好なんかはしてないんだが、どうもないろいろ保護欲を駆り立てられそうだ。いかんいかん、脳内を整理、今日の予定だけを考えることにしよう。

 

〔相変わらず一夏に対して耐性ないな、お前…………〕

「仕方ねえだろ…………寧ろこれで耐えられる奴の方が俺はすげえと思う」

〔…………言われればそうだな〕

 

武蔵のツッコミを俺はそう返した。仕方ねえだろ、この無防備な姿を見せられて俺はどうしろというんだ…………まさかアレか!? 俺に野獣(ビースト)になれとでもいうのか!?なったらなったで牢獄にぶち込まれる予感しかしねえけど。それにな、相手のことも尊重してやらねえと色々とまずいだろ。警察沙汰になりかねん。

 

「…………んんっ…………」

 

…………ダメだ、精神的によろしくない。一夏が寝返りを打って声を漏らしてしまった、それだけのはずなのに十分と言っていいほど色っぽかった。やべ、鼻血出そうだ…………保て、保てよ俺の精神。バイタルパートの崩壊まであと一歩だぞ。そこを破壊されてしまえば、俺は後戻りできなくなってしまうかもしれん。

 

(武蔵! ヘルプミー! 俺これだけは耐えられそうにない!)

〔だったら、普通に退室すればいい話だろう…………それにだ〕

 

武蔵はそうため息をついてから俺にこう言った。

 

〔バイタルの変動を確認。鼻血出てるぞ〕

(あ…………マジだ)

 

 

「うあぁ…………」

 

鼻血を抑えるためにリビングへと向かい、とりあえず詰め物をして止血中の俺。とにかく無様な姿である。ソファにもたれかかってティッシュがトラウツボの鼻みたいにぴょーんと出ているんだ。アホくさい事。

 

「しっかし、やばかったなぁ…………」

〔何をどうやったら鼻血が出るまで興奮するのやら…………〕

「仕方ねえだろ。あれは野郎の生理現象みたいなものだ。なるのが普通。どこかの第四真祖もそんな事言ってたぞ」

〔お前…………それって私のライブラリにあった文庫本だよな。お前がそれに興味を示すとは…………〕

「暇だったからサブカルチャーに手を染める事だってある。で、止血なったか?」

〔後三分は待ってろ〕

 

未だ止まる気配のない俺の血。どこまでサラサラな血なんだよ。食生活が悪かった頃は明らかに血栓とか動脈硬化とか引き起こしそうな感じだったのによ…………一夏のメシになってからは健康になってきたというわけか。寿命は少しは伸びたってことだな。

尚、俺がその手の本に手を染めたのは単なる暇つぶしだからな。というか、どうしてそんなものが戦闘兵器である黒龍のライブラリにインストールされていたのか、俺にはわからないし、親父達がぶち込んだ可能性だってある。

 

「ふわぁぁ…………悠助、おは——って、どうしたのそれ!?」

「おぉ…………一夏か、気にするな。すぐに治る」

「いやいや! そういう事じゃなくて! どうして鼻血なんて出たの!?」

「いろいろあるんだよ、野郎にはさ…………」

〔出血箇所の凝血を確認。止血完了だ〕

 

武蔵からの報告を受けて鼻に詰めていたティッシュを取り出し、ゴミ箱に捨てた。いや、やべえな俺の血。かなり黒くなっていやがる。これは放送なんてさせられないもんだわ。

 

「ふぅ、やっと止まったぜ」

「ほ、本当になんともない? け、怪我とかしたわけじゃないよね?」

「そうじゃねえから気にするな。ほら、寝癖ついてるから直してこい」

「はーい」

 

一夏にそう言ったら、洗面所の方に行って寝癖を直しに行った。なんでなんだろうな、あのアホ毛。一夏が動くたびに左右にぴょこぴょこ動いんてんだよ。どうなったらああなるのやら…………本当に謎だ。

 

〔あ、悠助。朝飯だがこちらで用意させてもらったぞ〕

「マジで?と言うと、俺が寝るために二階へ上がった後か?」

〔その頃だな。私と榛名で作ったのだが、一夏と比べると劣ってしまうかもしれんな〕

 

いやいや、武蔵、普通に考えてみろ。飯炊きが出来るISコアなど聞いた事がないわ。それができる時点でお前らは既に特殊。何お前ら、野外でも炊事ができるようにそんな特殊な訓練でも受けてきたのか?

 

「ちなみにメニューは?」

〔榛名の提案で生うどんと、後は私のライブラリにあった玉子の巻焼き、それと摩耶が教えてくれた——〕

 

朝飯のメニューを言っていた武蔵だが、なぜか言葉を詰まらせた。どうしたんだ? 品名でも忘れたか?

 

「どうした?」

〔…………肉無しうずら無しの八宝菜だ〕

「いや、言葉詰まる理由がわからねえ。それの何がやばかったんだ?」

〔い、いや、捉え方によっては食事の前に聞くものではないぞ!〕

「い い か ら 言 え」

〔わ、わかった…………中華料理で『ローチンコ』というらしいぞ〕

「おうふ…………マトモな名前つけろよ…………」

 

明らかにそれは色々とアウトだな。おそらく摩耶の奴も『言わせんな、クソガッ!』とか言ってそうだ。というか、どうしてそんな名前になったのか、命名者に小一時間問い詰めてやりたい。初見じゃどんなゲテモノ料理が来るのか想像できんぞ。

 

「あ、武蔵は飯を出さねえのか?」

〔…………私の場合、朝から食うものじゃないからな〕

「例えば?」

〔三百グラムの握り飯〕

「あ…………うん、それ仕事前に作ってくれ」

 

武蔵のメシは戦闘糧食か。しかも、超極限状況下での奴だし。やっぱ戦艦としての記憶があるんだろうな。っと、朝飯の話をしていたら一夏が戻ってきたようだ。

 

「ごめんね、ちょっと遅くなっちゃった。これからご飯の準備するね」

「あ、どうやらその必要はないみたいだ。武蔵と榛名が飯を用意しているらしいぞ」

「え? それ本当!?」

 

一夏は相当驚いたようだ。だよな…………ISコアが飯炊きするなんて誰にも想像できんわ。

まぁ百聞は一見にしかずという事で台所のテーブルにと向かった。もう先に武蔵と榛名は来ており、テーブルの上に飯の用意をしている。ちょうど出来立てのような感じで、どの飯からも湯気が立っている。しかも、どれもこれも身体に優しそうな飯だ。

 

「うわぁ、凄いね」

「ちょっと張り切りすぎちゃったみたいです」

「まぁ、料理をした事などかつての記憶の中で以外ないからな」

「それでもこの出来はすげえな。よし、早速いただくか」

 

そういうわけで全員がそれぞれの席に着く。大体席順も決まってきたな。ここまでくると本当の家族みたいな感じだ。まぁ、本当に家族なんだけどさ。

 

「そんじゃ、いただきます」

「「「いただきます」」」

 

俺はまず先に件の肉無しうずら無しの八宝菜(ローチンコ)に手を出した。ネーミングセンスはアレだが、見た目は普通の飯だ。それに、肉がない分胃への負担も低そうだしな。一つまみ皿に取り、口に運んだ。ほぅ、薄めの塩味か。これは美味いな。それにだ、完全に野菜だけというわけでなくイカも入っていて、いい味してるぞこれ。品名さえよければ普通に美味い飯なんだけどな。

 

「あ、これ美味しい! なんて言うの?」

 

どうやら一夏も八宝菜モドキに手を出したようで、その品名を気にしているようだ。だがしかし、俺も武蔵も榛名も、その名前を答える事ができない。というか、このピュアな此奴に教える気力など全くない! 誤魔化せ! 必死で誤魔化せ!

 

「そ、それはですね、は、八宝菜なのですけど、ほ、ほら、朝からお肉はちょっと厳しいと思いまして…………」

「あ、そうだね。確かにそれは厳しいかも」

 

なんとか榛名の説明で落ち着く。いやぁ、ナイスフォローだ榛名。

そんな一コマを後にし、俺はうどんへと手を伸ばした。どうやらシンプルなぶっかけうどんのようで、具は小口ネギ程度だ。だが、だからこそ美味かった。コシのあるうどんが薄口のタレとダシの香りとともに喉を通過していくのは快感すら覚える。薄口という事は関西風か。悪くないもんだな。

 

「このうどん美味しい!」

「そのうどんは私が打ったものだ。大分疲れたぞ」

 

武蔵の才能ってすげえ。うどん打ちできるのかよ。俺にはまず無理な芸当だ。だって、そもそも俺に料理なんて…………料理なんて…………あれ? 待てよ、確か何回かは作った事あるわ。お袋から教えてもらった飯が何かあったはずなんだが…………思い出せん。

ま、今はいいか。次は玉子の巻焼きでもいただこう。見た感じは普通の玉子焼きだが、よく見ると細切りの人参や牛蒡、挽肉が入っているのが見える。なるほどな、和風のオムレツ的なものか。タレとかないようだからそのままでいいらしい。試しに一口食ってみると、タレ無しでも結構味がしたわ。うめえうめえ。

 

「榛名、今度料理教えてね。私も色々作りたくなっちゃった」

「榛名でよろしければ、いくらでもどうぞ!」

 

一夏は榛名から料理を教えてもらう事にしたようだ。という事は、これから飯のレパートリーが増えていくという事か。嬉しい事に違いねえ。

こんな感じでまったりとした朝飯の時間は過ぎていくのだった。

 

 

時は過ぎて、現在俺は駅前へと来ている。かれこれ十分ほど待っている。誰をなんて想像するに難くないだろ? 一夏を待っているわけだ。前回はなんだか遅くて起こりそうになったが、それは準備に時間がかかるからという事であり、女としてはそれが普通らしい。だからまあ仕方ないというとそれまでなんだわな。だが、それでもやはり待ちぼうけというのは辛い。何より暇だ。

 

「ご、ごめんね。待たせちゃった…………よね?」

 

そうやって空を仰いで待っていたら、一夏が来たようだ。

 

「いや、そんなには待って——」

 

そして一夏に言葉をかけようとしたが、それはできなかった。いや、だってよ、めちゃめちゃ可愛すぎるんですけど⁉︎ いや、もう余計な言葉いらんわ。蒼系統の服にそれよりさらに濃い蒼のスカート、膝上までの黒靴下に革靴、髪はいつも通りにおろしており、唇にはほんのりとリップクリームでも塗ってんのか? な、なんなのこれ⁉︎

 

「どうしたの?」

「い、いや、なんでもない…………それよりも、その服似合ってるな」

「あ、ありがとう…………」

 

あぁぁぁぁぁっ! それはあかん! その恥ずかしそうに視線を俺から逸らして、頬をほんのりと紅く染めるな! や、やべえ直視できねえ…………なんなんだ、この生き物は。可愛すぎる…………。

 

「可愛いな…………」

「ふぇっ!? か、かわっ…………!?」

 

どうも声に出てしまったらしいな…………聞いた一夏はなんだか急に慌てだした。あたふたとしてる。だが、その様子すら可愛く見えてしまうんだから、最早此奴は半分兵器に等しい力を有してるのではないかと思ってしまう。

 

「現実に帰ってこい」

「はにゃっ!?」

 

少々一夏が別の世界へとトリップ仕掛けていたので、一発デコピンをして意識をこちらへと引き戻した。かなり威力は弱めておいたからそこまで痛くはなかったようだ。

 

「うぅ〜…………だって面と向かって言われたら誰だって恥ずかしいし、嬉しいよ」

「どっちなんだよ、最後…………まぁいい。それじゃ行くとするか」

 

俺は一夏の手を取った。突然の事に一夏は驚いてはいたようだが、すぐに笑顔になった。しかしなぁ…………此奴の笑顔ってのはかなり輝いているもんだな。小さい太陽クラスか?

俺が一夏の手を引いているわけだが、実の所、俺自身どこへ行ったらいいのか皆目見当がつかない。元が戦場育ちな上に、そういう文化に疎いからマジでどうしたらいいのかわからん。

 

「なぁ、一夏」

「どうしたの?」

「ここまで歩いていうのもなんだが…………お前、どっか行きたいところとかあるか?」

 

こうなったら一夏に支援を頼むしかない。当てもなく動いた事に一夏は苦笑いしか出ない。わ、悪かったな、こんな現代文化に疎い奴でよ。

 

「そうだね…………私も特に無いから、目に付いたところに入るってのはどうかな?」

「ま、それが確実かもしれんな」

 

というわけで、どうやら興味を持った所へと入る事になった。おそらく一夏には色々と行きたいところがあると思うんだが、俺にそういうのは全くと言っていいほどねえからな…………困ったな。

 

「ねぇ、あそこに行ってみようよ!」

「お、おい、急に引っ張るなって」

 

そう言って俺の腕を急に引っ張っていく一夏。なんかこんな事、前にもあったよな…………あの時は五月になろうとしてた頃だったな。懐かしいぜ。

元気な一夏に引っ張られて連れてこられた所は、やはりとは思ったが、女が好みそうな服屋だった。まぁ、男物は少ないだろうし、俺はそういうのはあまり買わんしな。それに、俺としては一夏の可愛い姿が見られればそれで十分だ。

 

「あ、この服いいかも」

 

入店するなり、一夏は気にめしたものを見つけたようだ。赤みの強いパーカーにその下に着るオレンジ色の服との組み合わせだ。一夏はそれを手に取るなり、まじまじと見つめ、品定めをし始めた。どうやら相当気に入ったみたいだ。

 

「その服、相当気に入ったようだな」

「うん。でも、ちょっと試着してくるね」

「おう、ごゆっくりとー」

 

一夏はそう言って試着室へと行った。見ていてとても楽しそうだ。この間は散々辛い目にあったからな…………戦闘で疲れ果てた心を少しでも癒せればいいと思ってたから、連れてきて正解だったな。しかしだな…………

 

(この視線だけはどうにかならないのかねぇ…………)

 

俺がいるのは女性物の売り場だ。必然的に目立ってしまい、視線が俺に集中砲火してきやがる。これだけはいつまでたっても慣れないものだ。戦場育ちなせいで、視線が向く、つまり銃口を向けられていると錯覚してしまい、腰に装備しているデザートイーグルを抜きそうになる。

 

「ね、ねぇ、悠助?」

「ん? どうした?」

「さっきの着てみたんだけど、自分じゃイマイチピンとこなくて…………どう? 似合ってるかな?」

 

そう言って一夏はさっき手にした服を着た姿を俺に見せてきた。ちょっと自信ないのか、手をもじもじと弄んで下を向いちまっているが…………うん、言える事はただ一つだけだな。

 

「ああ、似合ってるぞ」

 

それしか言葉が出てこなかった。いや、だってあまりにも似合いすぎて他に言葉が浮かばなかった。余計な言葉で着飾るのは好きじゃねえしな。それにあれだ、此奴に似合わない服は戦闘装備以外ないからな。

 

「そ、そうかな…………?」

「俺が嘘言った事あるか?」

「そうだね、悠助は嘘ついた事ないもんね。わかった、ちょっと買ってくるね」

 

一夏は相当気に入っていたようで、これまた浮かれたような足取りでレジへと向かっていった。…………それにしても、一夏が日に日に美人になってきているぞ。そろそろ輸血パックの用意しておかないと次出血した時、明らかに血の量が足りなくて貧血になるぞ、マジで。

 

〔ナノマシンでも打ち込んで傷の修復でもするか?〕

(…………流石にそこまで必要じゃねえとは思うぞ)

 

 

一先ず服屋での買い物を終え、俺たちは店外へと出た。だいぶ時間が経ったのか休日と相まって人が相当増えてきた。どいつも此奴も、平和ってものをそのあたりに当たり前に存在しているように思える顔をしているな。別にそう思うのは自由なんだが、俺たちからすればそれは間違いであると教えてやりたいものだ。

 

「悠助、どうかした? 顔、ちょっと険しいよ?」

「あぁ、すまんな。ちょっと周りの人々見てるとよ、平和の価値がわからなくなってきてさ…………戦場で命を散らしてまで手に入れた平和がこんな安っぽいものでいいのかって思ったりしたんだわ」

「そう、なんだ…………でも、その通りかもしれないね。学園が襲われたときだって、あそこが絶対襲われないって思っていたから、どこか平和なところだなって思ってたしね」

「絶対なんてこの世界にねえ。だけどな、その絶対に近いところを維持し続けるのが俺たちの様な兵士の役目だ」

 

実際には俺傭兵だけどな、とそこに付け加えた。平和ってのは生きてれば必ず与えられるものなんかじゃねえ。誰かが犠牲になって、そして初めてその犠牲の上に成り立つものだ。言わば先人達の遺産の様なもんだ。それを当たり前の様に感じてはならない。維持していくのは俺たちの世代の役目だからな。

まぁ、今はそんなシリアス思考をする必要なんてサラサラないんだがな。せっかくの休日なわけだし、精一杯楽しんでおきたい。尚且つ、一夏にも存分に羽を伸ばしてもらいたい。

 

「ま、でも今はそんな事考えても仕方ねえ。それよりも、今を存分に楽しむか!」

「うん! じゃ、あっちの方を行ってみよ!」

 

そう言って一夏は俺の手をぐいぐいと引っ張っていく。人も混んできた様だから俺は一夏の手を握る力を少しだけ、ほんの少しだけ強くした。こんなところで逸れたら見つけるのは大変そうだ。何より、迷子になった一夏が泣き出しそうだし。

そんな時、一夏が不意に止まった。止まった先はアクセサリーショップ。その通りに面したショーウィンドウに飾られているアクセサリーが気になっている模様。

 

「気になるのか?」

「う、うん。でも、ちょっと高いから手を出せないや」

「どれどれ…………って、それなりにするのな」

 

一夏が気になっているのは蒼い石が嵌められているブローチだ。本当に一夏は蒼が好きなんだな。

とはいえ、その値段は確かに一夏の小遣い程度では買えないだろう。軽く万を超えている。学食で飯食ったりなんざりしてたら、そりゃ小遣いもそれなりには減るだろ。

 

「気に入ったんだけど…………仕方ない。今回は諦めるよ」

 

そう言って一夏は次の場所へと向かおうとするが、途中チラチラと視線をさっきのブローチへと向けている。やめろぉ…………その物欲しげそうにしている子猫の様な目をするなぁ…………。だが、これは俺にとっても好機だった。なにせ一夏の欲しいものが見つかったからな。ここはひとつ、下手な芝居でも打つか。

 

「うおっ…………」

「ゆ、悠助?」

「す、すまん一夏…………急に腹がやばくなってきた…………お前先行ってていいから、終わったらこっちから連絡する、だからすまん!」

 

急に腹が痛くなったふりをして一目散に公衆便所へと向かう俺。普通やばい人間ならこれくらいの速度が出ても問題ねえだろ。というわけで一度公衆便所へと入る。

 

「武蔵、蒼龍の座標は?」

〔中央の広場、そこから移動してない模様〕

「あの店との距離は?」

〔かなり離れているから見つけるのは不可能だろう。それよりも、よくこんなことをやる気なったものだな〕

「まぁ、今日が今日だからな。ゴタゴタありすぎて用意できなかった俺も悪いわけだし、これくらいはしても仕方ないだろ」

 

さて、じゃあ行くとしますか。俺はさも何事もなかったかの様に公衆便所から出て、先ほどのアクセサリーショップへと向かった。

 

「いらっしゃ〜い」

 

…………店内に入った瞬間、何かどこかで傭兵してそうな無精髭の男が宝石磨いていたんだが。マジびっくりした。彼奴、あの浅黒い肌は中東生まれみたいだぞ。

 

「おいおい、そんな怪訝そうな顔をしなさんな。俺のところにある奴は俺が直接採掘しにいったものが殆どだ。代用ダイヤなんぞもないぞ」

「マジでか。じゃ、表にある蒼い石の嵌ったブローチをくれ」

「おぉ、マカライトのブローチを欲しがるか。あれは火山の火口付近で偶然取れたものだ。それなりに稀少価値は高いぜ? 嵌めている石自体は小さいがお前さんの貯金程度では買える代物じゃないぞ?」

「心配いらん。これがある」

 

俺は財布からブラックカードを取り出した。俺の財布にある最終兵器。口座に振り込まれている二百万ドルあれば余裕で五万円程度買えるわ。

 

「おっほー! ブラックカードとはたまげた! よし、今から持ってきてやるから少し待っていな!」

 

ブラックカードを見た途端、これは一本取られたといった反応をした奴は表に行ってブローチを取ってきた。改めて見ると嵌められている石——マカライトが放つ蒼い輝きが周りの銀色のフレームに反射し、見る人を魅了する何かを持ち合わせている。

 

「マカライトは稀少な鉱石だが、実際極限環境にはどこにでも存在しているものだ。そんな場所にあるこの鉱石は、意外や意外、どの素材とも結合する性質を持っている。そこからついたこの石のには、全てを受け入れる優しさなんて石言葉的なものが付いているんだぜ」

 

全てを受け入れる優しさ、か…………まるで一夏にぴったりだ。

 

「ほらよ。ラッピングまで綺麗に仕上げた。此奴のお代はいらねえぜ。所謂顧客サービスってやつだ」

「いいのか?」

「おう。支払いも済んだところだし、お前さんは早いとこ彼女に渡してきな。見てたぜ、お前の彼女がそれを欲しい目で見てたのをよ」

「見てたのか…………まぁいいか。とりあえず、ありがとな」

「あいよ! これからもセクメーアショップをよろしくな!」

 

そんな気前のいい店員を尻目に、俺は店を出た。にしても、あの顔でアクセサリーを売っているとは、どこか違和感を感じられずにはいられない。あからさまにあれは傭兵かヤーさんの顔だろ。

まぁ、それはどうでもいいか。俺の手にはきっちりとラッピングされたブローチがある。俺はそれを拡張領域内に入れた。カバンの類は持たねえからな。拡張領域に物を入れておけば手ぶらでもなんとかなる。

 

「武蔵、厳重保管な」

〔了解した。私の部屋で問題ないか?〕

「むしろそうしてくれるとありがてえ。他の所は武器で埋め尽くされているからな」

 

武蔵に頼み、奴が持っているコア人格専用の部屋に保管してもらった。あそこなら保管している武器がぶつかって壊れる恐れはねえしな。

さて、それじゃ一夏の元に戻るとしますか。俺は少し急ぎ足で一夏が待っている所へと向かった。

 

 

 

 

 

「悠助、大丈夫かな…………?」

 

悠助が急にお腹を痛めたみたいで、(一夏)は現在一人でその帰りを待っていた。中央広場には結構人が集まり始めて、かなり混雑し始めた。中には腕を絡めて歩いているカップルの姿も…………う、うわぁ…………見てるこっちが恥ずかしいよ。でも、私だって悠助にそういう事をしてみたいと思ったりしているんだよね。すぐにじゃなくてもいい、いつかそんな日が来るといいなぁ、なんて。

人が増えてきて、なんだか辛くなってきたからベンチに座ることにした。やっぱりこんなに人がたくさんいるところにいるのはあんまり得意じゃないや。

 

(それにしても…………悠助、今日が何の日なのか覚えているのかな…………?)

 

ふとそんな事を思ってしまった。今日は九月二十七日、私の誕生日。私にとってとても特別な日なんだけど、皆忘れちゃっているのかな…………。そうだったらなんだか悲しいな…………。まぁ、それどころじゃない事があったから仕方ないんだけどね。でも、悠助からも何も言われなかったのが一番悲しい、かな…………それに、いつも一緒にいる榛名も何も言ってくれなかったし。

 

「はぁ…………」

 

そんな事を思ったら不意に溜息が漏れてしまった。なんだか私だけ除け者にされているような気がして…………そんな事を思っちゃいけないってわかっているのに。

そんな時、

 

「あれ〜? 君今一人?」

「ねーねー、カノジョッ。今ヒマ?」

 

…………絶対に絡みたくないチャラい男の人たちに絡まれちゃった。これが所謂ナンパっていうものなのかな…………。なんだか怖いよ…………。

 

「い、いえ…………人を待っているので…………」

 

そう言って断ろうとしたけど…………

 

「えー? こんな可愛い子を待たせているやつなんて放っておいてさ、俺たちと遊ぼうよー」

「そーそー。絶対俺たちといる方が楽しいって!」

 

余計に絡まれちゃった…………この調子だと引き下がってはくれなさそう。もう嫌だ、この人達…………。

そして、男の人の一人が私の腕を掴んできた。突然の事に驚いて腕を振り抜いちゃった。その時、振り抜いた手に何かが当たった感じがした。

 

「痛えなぁ…………此奴! 俺たちが下手に出てるからっていい気になって!」

 

どうやら、腕を掴んできた人の顔に当たったようだ。そのせいで私に怒りを露わにした。

 

「そ、そんなつもりは——」

「うるせえ! お前は黙って俺たちについて来ればいいんだよ!」

 

必死に弁明しようとしたけど、全く聞く耳を持ってもらえず、もう一人が私の腕を再び掴んできた。さっきよりも力強く、尚且つ乱暴に掴んできたから、かなり痛い…………そのまま無理やり立たされた。振りほどこうにも、力の差があり過ぎて全く逃げられそうにない。どうしよう…………怖い、怖いよ…………助けて…………悠助…………!

 

「おい」

「ああ? なんだよテメエ!」

 

そんな時、聞き慣れた声が聞こえた。間違いない…………この声は!

 

「悠助!」

「てめえら、何俺の彼女に手を出してんだ?」

「はぁ? 此奴がこの子の彼かよ。断然俺らの方がイケてね?」

「そうだよな! こんな平凡なやつよりさ、俺たちの方が何倍もいいだろ?」

「…………話になんねえな。ほら一夏、行くぞ」

「う、うん…………」

 

そう言って悠助は私の手を取って、そのまま歩き出した。どうやら突然の事に、男の人は手を離してくれたみたいで、難なく抜けることができた。

 

「くっ! この野郎! 後からノコノコと出てきた癖に!」

 

だけど、その男の人は逆上して悠助に向かって殴りかかってきた。

 

「悠助! あぶな——」

 

あぶない、って言おうとしたけど…………

 

「ふっ…………正当防衛、成立だなっ!」

 

背後から攻撃されたっていうのにいとも簡単にその拳を受け止めていた。そして、そのがら空きになったお腹に左手の籠手が叩き込まれた。ナイフシースが装備されているその籠手はとてもデコボコした形をしていて、そのまま殴られたら確実に気絶しそうなほどだと思う。だけど、殴られたと同時にその人は何かに痺れたような動きをしてからその場に崩れ落ちた。え、え? な、何が起きたの⁉︎

 

「ひ、ひぃっ!!」

「人の女に手を出しておいてタダで済むと思ってねえだろうなぁ? 判決、私刑!」

「わぁぁぁぁっ!! 悪かった! 俺が悪かったって! だから、腕はそっちにまがら——」

「ほい、逆関節外し!」

「うっ、ぎゃあぁぁぁぁぁっ!!」

 

今度は悠助が男の人の腕を掴んで思いっきり捻り上げていた。そして、なんだか小気味の良い音が聞こえたと思ったら今度はその男の人が断末魔を上げていた。

 

「命までは取らねえ。だからよぉ、さっさと俺の眼の前から去れ!」

「すっ、すいませんでしたぁぁぁぁぁっ!!」

 

腕の関節を外された方が気絶した方を引きずりながら何処かへと行っちゃった。

 

「ふぅ…………済まなかったな、一夏」

 

事が片付いてひと段落ついたところて、突然悠助が謝ってきた。

 

「え…………どうして悠助が謝るの?」

「いや…………俺がお前の側を離れなかったら、あんな目には合わなかったはずだろうしよ」

「でも、それは仕方ない事でしょ? 悠助だってやむを得ない状況だったんだし」

 

いつもそうだ…………悠助はそうやっていつもいつも自分の所為だなんて決めつけちゃうんだ…………そしてそれが、何も出来ずに自分の所為にして抱え込んでしまっていた私と重なって見えちゃう。

悠助にだって悪気はなかったわけだし、何よりそんな生理的な事まで押し殺さなくてもいいことなんだから。

 

「そ、そいつはそうだが…………」

「それにね…………悠助が私を助けてくれた時、まるで白馬の王子様みたいな感じに見えたんだよ。とってもかっこよかった!」

「…………どっちかと言ったら白馬の王子様より、黒龍の兵士じゃね俺?」

「そうかもね。でも、私からしたらどっちもかっこいいと思うよ」

 

確かに悠助は私にとって王子様みたいなものかもしれない。けど、もしかするとその反対に、王子様に倒されちゃう龍なのかもしれない。王子様は奪われたものを取り返しにいくのに対して、龍は一度手に入れたものは決して手離さないって、何かの本に書いてあった気がする。それに龍は力の象徴。全てにおいて強い悠助にはうってつけの称号みたいだね。

 

「そうか。だが、そう言われると少し恥ずかしいな…………悪い気はしないんだがな」

 

悠助は少し恥ずかしそうにそっぽを向いて頬をポリポリと掻き始めた。普段は決して見せないこんな顔。このレアな顔を見れたんだから、さっきの件はなかった事にしてもいいかも。普段じゃ硬い顔しかしてないからね。

 

「じゃ、早く次行ってみよっ! 時間だって限られているんだしね」

「へいへい、了解したぜ」

 

私は悠助の手を引いて次の場所へと向かった。とは言っても、どこを見ようかなんて全く考えていなかったんだけどね。でも、こんななんでもないような普通の生活がもっと伸びたらいいのにな、なんて思っちゃったりしてる。それが一分でも、一秒でもいい。ずっと、悠助と一緒にいたい。それが今の私の願いなんだから——。

 

 

 

 

 

 

さて、一夏とのデートを終え、俺たちはある場所へと向かっていた。と言っても、俺の地区にあるものなんだけどな。

 

「悠助? 家にはまだ帰らないの?」

「まぁ、あと一つ用事が残っているからな」

 

そこまで向かう途中、一夏に何度か質問されたが、それとなくはぐらかして俺は答えずにいた。まぁ、一夏にバレたら計画丸潰れみたいなものだしな。

何分か歩くと目的の場所へと着いた。

 

「ねぇ、ここって…………」

「ああ、いつも世話になっている場所だな」

 

俺たちが向かっていたのは、時々夜間仕事で俺が離れる時に一夏が世話になっている居酒屋鳳翔である。

 

『悠助、そっちは今どこよ?』

『あー、今正面に来た』

 

ちょうどその時、個人用秘匿回線で鈴から通信が入る。この瞬間のためにわざわざ中国から帰ってきたやつだ。

 

『わかったわ。こっちの用意は何時でも大丈夫よ』

『了解した。それじゃ、突入まであと十セコンドとする。カウントスタート』

 

そう言って回線を切った。なおこの会話は一夏には全く聞こえていない。まぁ、脳内で喋っているようなもんだ。マルチタスクができないとすることができない技でもあるけどな。

網膜投影ディスプレイにカウンターが表示された。制限時間は既に八秒を切っている。まぁ、この近距離だし、なんとかなるだろ。

 

「それじゃ、入るとしますかねぇ」

 

残り時間六秒。

 

「そうだね」

「んじゃ、お前から先に入れや。一応、レディファーストってあるだろ?」

 

残り時間四秒。

 

「別にそういう事気にしなくてもいいのに。でも、悠助がそういうなら、お言葉に甘えて」

 

残り時間二秒。

そして、一夏が入り口のドアに手をかけた瞬間、カウントはゼロになった。さて、全ての準備が整った。

 

「おじゃましま——」

 

中に入った一夏を待ち構えていたのはクラッカーの炸裂音。突然の事に一夏は何が起きたのか全く理解できておらず、ただただその場に立ち尽くしていた。

 

「「「一夏! 誕生日おめでとう!」」」

 

そう、今日は一夏の誕生日だ。一夏にサプライズを仕掛けるため、ここまで何一つとして一夏におめでとうなんて言わなかったのは少々辛かったがな。だが今この場には有香子さんと鈴をはじめとする一夏のダチ共が集まっている。それに後でゲンさん達町内会のメンバーも来るみたいなこと言ってたし、相当な大所帯になるな今夜。

一方、サプライズを仕掛けられた一夏はというと

 

「え…………み、みんな覚えててくれたの?」

 

突然の事に頭が回っていない模様。というか、何か拍子の抜けた声でそんな事を言っている。

 

「何を言っているんだ。お前の誕生日、忘れるわけなんてねえだろ」

「その通りよ。あんたの誕生日ほど特別な日なんてないんだから」

「み、みんなぁ…………」

 

そう一夏は涙声で言った。って、ガチ泣きしてねえか⁉︎ お、俺やっぱりこの選択肢はダメだったか⁉︎

 

「い、一夏!? どうして泣いてるの!?」

「どこか痛むんですの!?」

「もしや、我々の手法にミスが——」

「ち、違うの! こうして、みんなからお祝いしてもらって、嬉しくてつい…………」

 

どうやら感極まった結果、泣いてしまったという事だ。そ、そんなに嬉しかったのか? まぁ、確かに去年は二人でここで飯食って祝っていただけだったしな。やっぱり、ダチから祝って貰うって嬉しいものなんだろうかねえ。俺からしてみれば、戦場に立ってから血と硝煙が立ち込める場所に立って過ごしてきたわけだし。それに、ダチなんて今までほとんどいなかったしな。

 

「ほら、泣いてんじゃねえよ。折角の誕生日なんだ、笑って過ごせや」

 

俺は一夏の涙をハンカチで拭ってやる。全く、本当此奴は泣き虫だよな。

 

「う、うん! みんな、ありがとう!」

 

泣き笑いの表情でそういう一夏は本当に幸せそうだった。ま、そりゃいい事だ。本当の意味での幸せの中で笑う一夏は、俺にとって女神にも等しい存在だ。

 

「さ、早く食べましょ。用意してもらった料理が冷めちゃうわよ」

「そうだね。じゃ、食べよっ」

「それじゃまずお前ら、グラスを手に持て」

 

俺がそう言うと全員がそれぞれに注がれたグラスを手に取る。大半がソフトドリンクだが、俺だけいつもの焼酎だ。それは別にどうでもいいか。

 

「とりあえず、一夏、なんか一言頼む」

「うん。その、なんて言うんだろ、嬉しすぎて何を言ったらいいのかわからなくなっちゃった。でも、こうやってみんなにお祝いしてもらってとても嬉しいよ。みんな、ありがとう!」

「ようし、そいじゃ祝杯を挙げろ! 乾杯!」

「「「乾杯!」」」

 

グラスが当たって音を立てる。さて、会の幕は開けたな。そんじゃ、俺は少し裏の方にでも行くとしますかね。

 

「有香子さん、厨房借りてもいいかい?」

「もちろんですよ。食材は好きに使っていいですからね」

「恩にきるよ」

 

有香子さんの許可を取って俺は厨房へと入った。まぁ、俺も一応だが料理はできる。まぁ、作れるものがマジで限られているから、ロクなもの作れないんだが。そんな俺でも幾つかはまともなもんを作れる。というかこの二年近く一夏が飯を作っていたからまともにしてないんだが…………まぁ、なんとかなるだろ。勘はまだ鈍ってない。食材は…………全部あるな。とりあえず三十分以内には仕上げてやるか。

さぁ、調理開始(オープン・コンバット)

…………。

……………………。

………………………………。

ふぅ、なんとか仕上がった。後は向こうに持っていくだけだな。てか、大分盛り上がってきてんな。一夏の笑い声も聞こえるし、これを企画して本当に良かった。

 

「あ、悠助。何処に行ってたの? もう、かなり盛り上がっちゃったよ?」

「ははっ、悪い悪い。ちょっとこれを仕上げていたもんでな」

 

そう言って俺は一夏の前に皿を出した。

 

「え…………これって——」

「お前、これ好きだったろ?」

 

俺が作っていたのは一夏の大好物であるオムライスだ。まぁ、店とかで出されるものより出来は悪いだろうが、味だけは保証する。なにせ、お袋のレシピだからな。

 

「って、それあんたが作ったの⁉︎」

「ああ、そうだが?」

「標準スキル高すぎるわよ…………」

 

鈴は俺の料理の出来を見て相当驚いている模様。実際、俺だって驚いている。正直、まともに料理した事のない俺がここまでのものを作れたとは…………なんかの加護でもあったのか?

 

「悠助って、やっぱりなんでもできちゃうんだね」

「人並みにが前に付くけどな。冷める前に食っちまえよ」

「うん。じゃあ、いただきます」

 

そう言って一夏は俺のお手製オムライスを口に運んだ。

 

「うん! とっても美味しいよ!」

「そいつは良かった。それとだ」

 

俺は拡張領域にしまっていたものを取り出す。ラッピングにも傷はついてないな。やはり、コア人格の部屋にしまっておいてもらって良かった。

 

「此奴は俺からの誕生日プレゼントだ。気に入ってくれると嬉しいがな」

「そ、そんなにもらっていいの⁉︎」

「おう。気にすることはねえ、受け取ってくれや」

「あ、ありがとう。中身、何なんだろう…………?」

 

俺から小包を受け取った一夏はなにやら恐る恐るといった感じでラッピングを開けていく。いや、別に開けたら起爆するブービートラップ何てもんは仕掛けてねえから。それに、ビックリ箱でもねえし。

開けていった先にあったのは白い箱。その箱の蓋を一夏なそっと開けた。

 

「ゆ、悠助。このブローチって…………」

「今日出かけた時、お前、それ欲しそうに見てたろ? 折角だしさ、お前に似合うと思って買ったんだ」

「そうなんだ…………ありがとう! 大事にするね!」

 

そう言って返してくる一夏の笑顔は、その箱の中に納められているブローチのマカライト石よりもずっと輝いて見えた。

 

「い、今ので私の絶対防御は貫通されましたわ…………」

「ぼ、僕もそうかもしれないよ…………破壊力強いって…………」

「…………轟沈判定」

「な、なぜだ…………この胸焼け感はどうして起こるのだ…………」

「…………だいぶ耐性がついてきたかと思ったけど、これは無理よ…………」

 

やはり一夏の笑顔の前では誰もが耐えることができなかったようだ。かくいう俺も大破直前、というよりバイタルパート粉砕。天に召されるかと思ったわ。その光景を有香子さんはなにやら微笑ましい顔で見てるしよ。やっぱ今日も平和だわ。

 

「嬢ちゃん! 誕生日おめでとう!」

「俺らからも少し祝いの品を送らせてくれや!」

 

大分遅れてだが、ゲンさんたちが集まってやってきた。突然の事に此処に来た事のない鈴達は驚いている。まぁ、おっさん共がぞろぞろとやってくるんだからな。てか、ゲンさん髭剃ってるし。妙にすっきりしてて違和感しかないわ。

 

「一応、刺身の盛り合わせとか持ってきたで」

「勘助さん、いつもありがとうございます」

「気にせんでええよ。ワシらからの心ばかしのお祝いでい」

「せやで! 今日は嬢ちゃんが主役なんだからこれくらい当たり前や!」

「それに、加賀美さんがとんでもないものよういしてきたからのぉ…………」

「え? 加賀美さん、なにを持ってきたんですか?」

 

なにやらガヤガヤと騒がしい中、物々しい雰囲気を持つ加賀美さんがその中から現れてきた。なお、八九三の仕事みたいな顔つきしてるが、真っ当な仕事の専務である。本当、人って外見だけじゃわかんねえよな。というか、そんな物々しい雰囲気の加賀美さんに簡単に近寄っていく一夏が凄いわ。皆の娘と言われてるだけあるわ。

 

「大したものではないのだが、見てみるかい?」

「はい! すごく気になります!」

「そうかい。はい、これ」

「これって…………けけけ、けっ、結婚式場⁉︎」

「ブフゥッ!? 何てもの用意してるんですか、加賀美さん!?」

「まぁ、私からすれば大したものではないから、お金とかは気にしないでくれ」

「突っ込む点違うわ! というか、気が早いわ!」

「はわわわわわっ! け、結婚なんて、は、早いですよぉ〜!」

 

加賀美さんは俺の見当違いな方に突っ込んできた。一夏は一夏で顔を真っ赤にしてる。

 

「てか、誰と一夏が結婚するんだよ⁉︎」

 

俺がそう言うと、加賀美さんはなにを言っているんだという顔をした。

 

「誰って、お前だろ?」

「ファッ!?お、俺か!?」

 

そしてその次に放たれた言葉で俺は俺で思考回路が完全にショートした。ま、ま、マジかいなぁぁぁぁぁっ!? お、俺が一夏と、けけけけ結婚すんの!? い、いや、別に嫌なわけはない。むしろ俺の方から願いたいくらいだ。だがしかし、少々気が早すぎやしませんかねえ、加賀美さん。というかあなたの仕事ってなに?

 

「ちょっとこれは…………」

「は、恥ずかしいね…………」

 

二人で見つめ合って互いに顔を赤くする俺ら。もうなんか誕生会で済まないレベルになってきたな。

そんな騒ぎが夜の十時くらいまで続いていたのだった。

…………。

……………………。

………………………………。

「そんじゃ、また今度ねー」

「またいつの日かお会いしましょう」

「…………また、そのうち」

「たまには連絡取り合おうね」

「いつかはこちらにも来てくれ」

「ああ、またそのうちだな。今度来た時はさらに派手なもてなししてやるよ」

「そうだね。今度は私達がそっちに行くよ。その時は案内お願いね」

 

会の終了後、鈴達を始めとする海外の代表候補生は一度大使館の方へと行き、その後帰国するとの事だ。学園が一時閉鎖となった今、今までのように毎日会うのは難しいだろう。だからこそ別れ際も何か哀愁の空気が漂っている。仕方ねえか、半年くらいの短い間にいろんなことがあったからな。元はと言えば一夏が酷い目に遭わないように護衛するために入学して、そして今じゃ此奴と付き合っている。運命というものは不思議なものだ。それに、此奴らとも多くの思い出を作ってきた。別れを惜しまないわけがない。それでも大手を振りながら笑顔でそれぞれの帰路に着いたあいつらを俺たちは見送っていた。次第にその影もだんだん小さくなって見えなくなっていく。この辺碌な電灯ねえしな。

 

「さて、俺たちも帰るか」

「そうだね。もう夜も遅いし」

 

時刻は既に十一時を回ろうとしていた。だいぶ盛り上がっていたんだな。ラウラが突然始めた王様ゲームにシャルロットがツッコミ入れたり、鈴とセシリアと簪はまた俺たちの事でちょっかいを仕掛けてきたり、ゲンさん達はゲンさん達で一発芸をしてきたりと大盛り上がりだった。それに、一夏も楽しそうにしていたからな。場所を貸してくれた有香子さんには頭が上がらねえぜ。

帰り道、一夏はいつものように俺の手を握ってきた。触れたら壊れそうで、それでいて芯のある強さを感じる手だ。

 

「ねえ悠助」

「どうしたんだ?」

 

そんな時、一夏が不意に俺に聞いてきた。何か問題でもあったのか?

 

「ほら、今日加賀美さんから結婚式場のプレゼント貰っちゃったでしょ?」

「あぁ…………マジで気の早すぎるブライダルプランか」

 

どうやら加賀美さんから渡されたブライダルプランの奴が気になっている模様。まぁ、いくらいつでもいいと言われたって、俺らにとっては明らかに早すぎんだよな。

 

「うん。それでね、これからの私がどうしていきたいのかって、考えたんだ」

「というと?」

 

俺がそう聞き返すと一夏は少し深呼吸をきてから言葉を紡いだ。

 

「私、ずっと、これからずっと悠助と一緒にいたいんだ。どんなに辛いことも、二人なら越えていけそうだから…………だから——むぐっ!?」

 

俺はその先を言おうとする一夏の口に人差し指を当てて、その先を言わせないようにさせた。

 

「全く…………少し気が早すぎるぜ。俺もお前とずっといたいさ。だけどな、そこから先の言葉は俺の口から言わせてくれ。今すぐにとは言えないが…………まぁ、成人式までには言えるようにしておくさ。それまでは待っていてくれるか?」

「ぷはぁっ…………も、もう。悠助ったら強引なんだから…………でも、私もちょっと考えが早すぎたかも。悠助の口からその言葉を聞けるまで待っているからね。約束だよ?」

「ああ、約束するさ」

 

月光に照らされた一夏の顔は非常に美しかった。月下美人というのはこの事を言うのだろうか? それにしても、今日で大人への階段を数段吹っ飛ばして上りそうになったわ。流石に俺に結婚するかどうかなんてものを決める勇気はまだ無い。けど、いつかは必ず答えを出してやらねえとな。あいつが俺を望んでいるのであれば尚更、か。




えー、それではアンケート結果の方を発表させていただきます。

結果として、次回も一夏の容姿は榛名となりました。

悠助「今回と変わりねえじゃねえか」

まぁ、読者の皆様が望んでいるんだから。それに、TS一夏に手を出したのも榛名のイラストを見たのが発端だし。

悠助「まぁ、いいか。大分完結の方にも近づいてきたようだが、それまでの間生温かい目で宜しくお願いするぜ」

もしかすると、またアンケートをするかもしれないので、その時は宜しくお願いします。
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