守りたい、ただそれだけ(本編完結) 作:ディニクティス提督(旧紅椿の芽)
「やっと来たようだね、出来損ない」
…………うん、予想はしてたけど、開幕直後のこれはないんじゃないかな? 結構心抉りに来てるよね? 悲しいことに慣れてしまったものだから、だいぶ薄れてしまってるんだよね。
「何も返せない、か。そりゃ仕方ないよな、この天才の僕がいるんだからさ」
確かに春十は天才だ。私なんかと比べたら、それはそうだ。でも、人間であることには変わりはない。私は確かに非才だったよ。だけど、それを埋めるために必死に頑張ったんだよ。自分で言っても、ただの慰め程度にしかならないんだけどね。
「おい、なんか言い返してきてみたらどうなんだよ? それとも、それすらできない、落ちこぼれになったのか?」
「…………る……い………」
「なんだよ?」
「うるさい、って言ったの!!」
「こいつ…………減らず口を…………!! これから教育してやるから覚悟しておけよ!!」
向こうがロングブレードを構えるのと同時に私もまた、右手のブレードライフルを構える。この武器は銃と大剣が組み合わさったもの。銃はまだ苦手だから使わないけど、剣ならなんとかいける!
『試合開始!』
「さっさと止めにしてやるよ!! 出来損ないがぁぁっ!!」
春十はロングブレードを振りかぶって、一気に斬りかかってきた。けど、悠助とやった時のと比べると、動きがなんだか単調な気がする。
「そうはさせない!!」
私はブレードライフルを振るい、その斬撃を防ぐ。軽い。感想としてはそれかな。ま、悠助のあれは死ぬかと思ったからね。
「っ!? ま、マグレだ!! 次こそは——!!」
そう言って、繰り出される斬撃を私は切り結んで、切り払って、避けて…………と、次々とかわす。たまにダメージをもらっちゃうけど、カスリ程度だから今は気にしない。溜まってきたらやばいかもしれないけどね。
「なんでなんだよ!? 出来損ないのくせに!!」
「うるさい!! さっきから、出来損ない出来損ないって!! そっちの方が出来損ないなんじゃないの!!」
「言ったなぁ…………絶対許さないぞ!!」
そう言うと春十は私にめがけて何かを投げつけてきた。その物体は楕円形をしていて、なんだかパイナップルみたいな形をしてる。
そう考えていた次の瞬間、それが爆発して、視界が一気に遮られた。な、なんなの今のは? そして、これは…………煙?
(!! 春十は!? 春十はどこ!?)
私は春十を見失った。まずい、本能がそう訴えてくるが、情報のほとんどを視界に頼っている以上、見つかるはずがない。そして、その見つからない時間、それが1秒に満たない時間なのかもしれない。でも、それは確実に私を焦らせていた。
「きゃあっ!?」
そして、私は背後から切られた。
「束さん、向こうの機体データ、出せるか?」
「オッケー。あんなの手に入れるのなんてちょろいもんよ。待ってね、バリカタ麺が出来る前には手に入れるから」
いや、バリカタ麺って…………どんだけ早いのよ。あれ、カップ麺だと確か三十秒程度でできたんじゃなかったっけ?
「ほいきたー」
「速ぇぇぇぇっ!! バリカタ麺どころかコナオトシレベルじゃねえの!?」
「さぁねー? 博多ラーメンあまり食べないし。それよりもデータデータ」
俺は束さんが手に入れてきたデータへと目を通す。
「倉持技研製高機動近接戦闘機[白式]。武装は近接ブレード[雪片弍型]、レーダージャミング効果付きの外付けスモークグレネードが5個、実弾グレネードが5個。そして、問題が次だね」
そう言って、見せてきたものは、ある意味対ISにおいては最後の切り札になるであろうシステムの名称であった。
「まずいな…………あれが本当に再現されているのなら——」
「——間違いなく勝敗は決すると思うけど、そうとも限らないかもね」
束さんがそう言う。こんな状況でなぜあんな呑気に言っていられるのだろうか。
「
そういうことな…………それまで一夏が持つといいけどな。
(ま、悔いのないように頑張れ!!)
俺は届かないと思うが、それでも今一生懸命に頑張る一夏を応援したい、そう思ったのだった。
あれから煙が晴れるまで何回切られたんだろ…………数えてないや。
「へっ、どうだ。馬鹿みたいに見合って戦う必要なんてないんだよ。ほらほら、もうボロボロじゃないか」
確かに今の私はボロボロだね。機体の損傷率は大体30%ってところかな? 装甲も大部分が傷だらけだし、ブースターも辛うじて生きている感じ。でも、シールドエネルギーはまだ残っている。武器もちゃんとある。だから…………まだ戦える。
「まだ…………まだ終わってない!!」
「ふーん、まだやるんだ。何がお前をそこまで駆り立ててるんだ?」
「…………約束したから」
「はぁ?」
「…………大切な人と約束したから。勝つって」
「じゃあ、その約束も果たせずに無惨に負けろよな!!」
再び最大加速で斬りかかってくる春十。だけど、今の私の体力は殆どない。ブレードライフルを構えるのがやっと。
「くはっ!?」
弾かれ、飛ばされる私。その姿はおそらくあまりにも無様。それよりも、春十の斬撃が重い…………いや、私の体力が残ってないからか。
「そらそらぁっ!!」
さらにそこへ追撃してくるかのように、上から、下から、横から、正面から、斬撃が襲ってくる。私は斜に構えたブレードライフルで受け流すくらいしかできなくなっていた。反撃なんてできてない。やっぱり、私じゃ力不足なのかな…………。
シールドエネルギーの残量もあと残り僅か…………勝てる希望は殆ど残されてない。やっぱり無理だったのかな…………私には、とうてい無理なことだったのかな…………ごめんね、蒼龍…………上手く使ってあげられなくて…………。
「これで止めにしてやるよ!!」
そう言って投げつけられたさっきと同じものは、明らかな衝撃と爆風と共に私を飲み込んだ。
(どこなんだろう、ここは…………)
気が付いた時私は、何やら不思議な空間にいた。というか、ここって草原だよね。なんだろう、それよりもいつ制服に着替えたんだろう…………。
「ねえ」
ふと背後から声をかけられる。その声の方を向くと
「え…………?」
そこにいたのは
「わ、たし…………?」
私と瓜二つの姿をした誰かだった。まぁ、さすがに服装とかは違うよ。こっちは制服だけど、向こうはなんだか改造巫女服みたいな感じで、赤いスカートを身につけてるし、それに私はカチューシャもヘアピンもつけてない。でも、それ以外の姿は本当に私。
「違いますよ」
「ですよね。そんなことないですよね」
「まぁ、私はさっきから貴方とずっといるんですけどね」
「はい?」
この人と、私はさっきからずっといるって…………どういう事? そんなこと言われても、私の頭じゃ理解が追いつかないのが現実です…………でも、さっきまで私は春十と試合をやっていたはずなんだけどな。
「えーと、私の事わからないんですか?」
「…………はい、すみません」
もうこの際正直に答えたほうがいいかな。私は少し躊躇いながらだけど、そう答えた。
「でも、この姿じゃわかるものもわからないですよね。じゃ、このまま話しますよ」
私は少しがっかりするかと思ったけど、この人はそんな事は一切なく、仕方ないなー、的な感じで受けてくれた。なんだか、天然なのか、それともおおらかな人なのか、掴めない人だなぁ。
「貴方は、このまま負けて悔しくないんですか?」
…………いきなり話してきたかと思ったら、質問がこれ。でも、こういうのって正直に答えたほうが良いんだよね…………。
「それは…………悔しいです。でも、仕方ないんですよ…………私には才能なんてものはないし、頑張ったってそれが実ることもない。こんな私にこれ以上どうしたらいいんですか…………! だったらいっそのこと、負けたほうが気が楽かもしれませんね」
さっきの試合内容思い出したらそうとしか思えなくなっていた。結局、私なんて何ができるんだろうね。自分でもわかんなくなってきちゃったよ…………挙句、悠助には悪いけど負けたほうが気が楽なんて思えてきちゃったしね。
「随分と勝手なんですね…………約束を棄ててまでも」
「…………いいじゃないですか、結局、私は——」
「そうやってうじうじしている事も! 勝手に約束を違える事も! この私が! 許しませんっ!!」
その声に、私は目を覚まさせられた。
「いいですか? 貴方がうじうじしてては、何も変えることはできないんですよ? それに、何かの間違いで約束を違える事はあっても、自分から棄ててしまうのはダメだと思うんです」
この人から言われる事、それは全て正論なんだと思う。そして、その多くは、私が忘れかけていたこと。この人はその全てを思い出させてくれている。そして、私はどんどんと自分の間違いに気づかされていく。そうだよね…………こんなとこでいじけてちゃダメだし、悠助との約束、破るわけにはいかないよね。
「…………すみません、自分の間違いに気づかされました。もう逃げませんよ、全力で頑張ります!」
「はい! それじゃ、行きましょう! 私はあなたに仕えることが役目ですから」
あの人がそう言った途端、再び視界は明るくなっていった。
「っ…………っぅ、なんだったんだろう、さっきのは」
目を開けた時、視界には爆煙が広がっていた。どうせ、春十はこれで勝ったつもりなんだろうけど、まだ残っているんだよね。
装甲は一新され、より鋭角的なものへ。蒼も全てを飲み込むような深い蒼へ。そして、目の前に表示されるディスプレイにはこう表示されている。『一次移行、完了』と。つまり私は、まだやれるんだ!
「っ!! まだ生きているのかよ!?」
「悪かったね、生き残ってて。さぁ、ここから始めるよ!!」
「往生際の悪いやつめ!!」
爆煙が晴れた時、春十は驚いたような表情をしていた。私はブレードライフルのほかにトンファーブレードも構える。悠助みたいに上手くはできないけど、二刀流なら少し自信はある。
今度こそ私を倒そうと春十は再び斬りかかってくる。さっきは体力とか色々あって反撃なんてできなかったけど
「せやぁぁぁっ!!」
「何っ!?」
今なら、それくらいできる。私は振るわれてきたロングブレードにブレードライフルを思いっきりカチ当てる。すると、その衝撃なのか、春十の顔は苦悶に歪む。その隙を私は逃さない。
「もう一本あるんだよ!!」
トンファーブレードを横薙ぎに振るう。ブレードライフルよりもリーチは少し短いけど、密接しているこの状況じゃ、かえってそれが使いやすい。私はその勢いで春十を弾き飛ばす。
「ぐあっ!! くそっ、卑怯だぞ、お前!! 二刀流なんて…………!!」
春十が何か言ってるけど、この際気にしないでいよう。確か、ISでの試合は勝ったものが全てだからね。そう参考書に書いてあったはず。ルールの中に均一化をはかるものが存在しないのが、ISスポーツなんだから。卑怯も何もないんだよね。
「てやぁぁぁっ!!」
ブレードライフルを頭上より高く構えて一気に振り下ろす。春十はなんとか反応して受けようとするけど、少し遅い。
「ぐがぁっ!?」
唐竹割りの要領で一気に斬る。向こうの白い装甲は少し砕け、春十自身にもダメージはそこそこいってるはず。
「くっ…………なら、こいつで終わりにしてやるよ!! 零落白夜!!」
零落白夜——その名前に私は聞き覚えがあった。確か、千冬姉さんが大会で使っていた、ISの能力。それは全ISの中で最強の力を持っている。その能力は確か——シールドを消し去る力。シールドがなければ絶対防御が発動してエネルギーを大きく削られ、それで勝負が決まってしまう。確か、そんなもの。
「これは姉さんが使っていた剣だ!! 僕はお前と違って選ばれた人間なんだよ!! だから、この試合に勝つのは僕と決まっているんだ!!」
春十はそういうと刀——話から予想すると雪片を正面に構えて、突っ込んでくる。
「これで、終わりだ〜〜〜っ!!」
私はトンファーブレードをたたみ、ブレードライフルの切っ先を春十へ向ける。左手は伸ばした右腕に添える。もう逃げない…………誓ったんだよ、悠助とあの時の人に…………だから
「そんな勝手は!! 私が!! 許さないよ!!」
私は切っ先をを向け、そのままブースターを全開し、春十と同じく突っ込んで行った。互いに速度を緩める気はない。そして、何か硬いものを斬り裂く感触が手に伝わってきた途端、重い何かを弾くような手応えを感じた。
『勝者、織斑一夏』
「うそ、だろ…………この僕が負けるなんて…………」
無機質な音声がそう伝えた時、会場からは歓声が湧き上がった。え…………勝ったの? 私が?少し音声を拾ってみると
『織斑ちゃん、かっこいいよー!!』
『おめでとう、一夏ちゃん!!』
なんだか私、褒められているっぽい? だったら少し嬉しいかな? あまりそういう経験がなかったからなのかもしれないけど、なんだかこんな気持ちは、居て悪い感じはしないや。
「なんでなんだよ!! 出来損ないの分際で!! クズのくせにぃぃぃっ!!」
春十は私に向かってそう言ってくるけど、もうどうでもいいや。今は悠助のところに真っ直ぐ向かいたい。——勝ったよ、と伝えるためにね。
「うおぉぉぉっ!! 一夏が勝ったぞ!!」
「やったー!! いっちゃん、おめでとー!! 今夜は赤飯だね!!」
一夏が春十に勝った、その瞬間を見た俺の興奮は最高に達していた。いやー、それでも冷や汗かいたものだぜ。だって、グレネードの直撃だぜ? 普通ならあそこで落ちることだってあるのによ。多分、その辺りで一次移行したんだろうが…………そこで発動させるとか、強運の持ち主じゃないか。
「蒼龍、着陸するよ」
「おう、ちょっと行ってくるぜ。束さん、あとはヨロ」
「ほいさー! データの採取はこっちに任せてねー! 追加ユニットは五月までに仕上げるよ」
「あいよー」
俺はピットの方へと降りていった。そこには蒼龍を解除した一夏がいた。って、当たり前か。
「あ、悠助! やったよ、私勝ったんだよ!」
「ああ、見てたぞ。よくやったな! 一夏!」
どうやら、一夏も勝って嬉しいようだ。あ、そういや、これ渡そうと思っていたんだ。入学祝いとしちゃあんまり高価なもんじゃないからどうかと思っていたんだが、一夏は気に入ってくれるだろうか。
「そうだ、お前に渡したい物があったんだ。ほらよ」
俺は一つ小さな包みを渡す。
「これを、私に?」
「おう」
「開けてもいいかな?」
「もちろんだぜ」
そう言うと、一夏は包みを開け始めた。さて、気に入ってくれるかどうか。
悠助から渡された包みを、私は開けた。中身はなんだろう? 悠助だから無いけど、前はこういうのからゴミを渡された事あったなぁ…………って、そのことは今はいいや。中から出てきたのは
「カチューシャとヘアピン?」
「ああ。お前に似合う物、何かないかと探してみたんだが、いまひとつピンとこなくてな。ふと目にした時、そいつがいいんじゃないかと思ったんだわ。気に入らんかったか?」
「ううん、とても嬉しいよ。ありがとう。早速つけてみるね」
でも、このカチューシャとヘアピン、どこかで見たような気がするんだよね。どこだっけかな? とりあえずつけてみよう。まずはカチューシャをしてから、左側の髪をヘアピンで留めて、っと。そうして、金属製の壁を鏡代わりとしてみた時
(あの時の人…………!?)
そう、あの時、草原で会ったあの人にそっくり、というかそのものだった。あ、元は私と似ていたからさらに近くなっただけか。でも、まさかね。そんなはずないか。偶然じゃないかな?
——似合ッテイマスヨ、一夏——
すると、何処からかあの人の声が聞こえた。私は周りをキョロキョロと見回すが、どこにもいない。
「ん? どうかしたか?」
逆に悠助に不思議がられてしまった。
「ううん、なんでもない」
私は誤魔化すかのようにそういうと、ピットを後にした。でも、胸にかけている剣をあしらったペンダント——蒼龍の待機形態——が微かに光っていたのはいくら私でも気づいていた。それが何なのかはわからなかったけどね。
『セシリア・オルコットがクラス代表を辞退したため、紅城悠助対セシリア・オルコットの試合は中止します』
「セシリアが辞退したのか…………何が起きたんだ?」
「なんだかね、『初心者と引き分けになってしまった己の未熟さを痛感した』とかなんとか言って、辞めたっぽいよ」
「セシリアらしいね」
セシリアが辞退してしまったため、俺は試合する機会を一つ失ってしまった。ま、いいか。俺の目的はあくまで護衛なんだし。それに、一夏の成長ぶりを見れたから十分か。
『予定を変更し、紅城悠助対織斑春十の試合を始めます』
どうやら、春十との試合になったようだ。ふぅ、まぁいっちょやりますか。面倒な事になってもあれだしさ。
「ほんじゃま、ちょっちやってくるわ」
「頑張ってね、悠助」
「おうおう、あの天狗鼻を完全に折ってきちゃって!」
「ハッハー、任せな」
俺はピットの方へと行き、闘蛇龍を展開する。闘蛇龍は全身装甲型、俺の身体は一ミリたりと外に露出してねえ。ちなみに蒼龍は全身装甲と部分装甲を切り替え可能らしい。便利なやつだな、おい。
カタパルトに足を乗せると、少々金属がへこんじまった。ま、仕方ないか。過去のISの中でも最高クラスの重量らしいし。防御型の打鉄の二倍くらいあんじゃなかったっけ?
『カタパルトオンライン。いつでもどうぞー!』
束さんからの通信がはいる。さて、いっちょ暴れるとしますか!
「闘蛇龍、出るぜ!!」
漆黒の鎧を纏う俺の龍は空へと打ち上がる。蒼く澄んだ空を黒く染めるかのように、俺の機体は最高にいい空気をだしている。
目の前には白式を纏った織斑の姿がある。今回はあれが敵か。擬似コアは幾度もやりあってるから感覚はわかるが、オリジナルのものはやった事ねえからわかんねえわ。だから、いい練習台になってもらうとするか!
さあ、