守りたい、ただそれだけ(本編完結) 作:ディニクティス提督(旧紅椿の芽)
アラスカのユーコンに設置された議会場はかなり広い。空港が隣接しており、ターミナルには各国の代表を載せた専用機が着陸している。その他、お抱えの私兵部隊が付近を警備しており、テロ対策としては万全の体制である。しかしながら、そうであってもテロの対象としては狙われやすい。今やISは世界のどの分野でも活躍する最高の道具であり相棒だ。それらを一括して統括するのが国際IS委員会というわけだ。つまり、上手くいけばISの出回っている世界を牛耳る事も可能である。テロリストからすれば、それは相当なお宝だろう。かつて世界の抑止力ともなっていたISを自分たちが管理できるんだからな。とはいえ、ここで扱えるのはオリジナルから自己進化のみを除外した改良型擬似コアであり、従来の擬似コアとオリジナルは扱えない。だが管理外というわけで、従来型擬似コアがテロに使われる事もある。飽和攻撃で撃破することが可能であるとはいえ、過去の兵器以上の能力を引き出していることに変わりは無い。だからこそ、俺たちのような平和維持軍が必要となるわけだ。この世界はようやく平和へと向かおうとしている。その世界にテロなどという異分子はいらない。俺の行動が家族を守ることにつながることを信じて、俺は戦うしかない。
「こちら
『こちらD2、周辺に敵影なし』
『こちらはD3、異常は見当たらねえ』
『D4、狙撃範囲内に敵を発見できず』
現在会場の周辺を警戒しているわけだが、奴らは一向に姿を現そうとしない。このまま戦闘もなく無事に終わってくれたらいいが、そんな甘い話なんざねえよな。今までもそうだった。護衛任務となると毎回毎回奴さんどもが攻めてきやがる。その度に俺は奴らを殺した。ある時は撃ち、ある時は斬り、ある時は潰し、ある時は焼き払った。もう、殺した数は三桁を優に超えているだろうな。そう、俺を狙ってやってくるように…………まぁ、俺が出ないときでもやってくることはあるんだが。それでも俺の時に限って高確率でやってくるんだから、まるでかつての戦場で殺してきた奴らに呪われてんじゃねえのかと本気で思う。
『サーペントチーム、異常は確認していません』
『同じくヴァイパーチーム、異常なし。このまま何もないといいな』
「そうだな。そいつは全くをもって同感だ」
別の方角で警戒に当たっているエイミーの第二小隊(コールサインはサーペント)、レーアの第三小隊(コールサインはヴァイパー)も異常なしときた。もうここまで来たら何もなしで問題ねえだろ?
『——っ!? D4、高速で接近してくる機影を確認! 識別不明!』
…………だが、事が決して全て綺麗に片付けられることなどない。むしろその反対、面倒ごとっていうやつはいつでもやってきやがる。
「D1了解。各機、第二種警戒態勢! D4、数は?」
『機影は全部で十、スキャン結果まであと少し——出ました! 亡国機業製対IS用ガンポート型無人IS[ゴーレム]! 繰り返す、ゴーレムと確認!』
『ゴーレムだと!? なんで今更そんな機体が!?』
『いくら旧式でもあの火力は馬鹿にならねえぞ!』
『尚、全機爆装している模様! 奴ら、ここに特攻を仕掛けるつもりよ!』
…………俺の人生史上、やばい戦場になったんじゃねえの? なんでゴーレムが来るんだ! ただでさえ荷電粒子砲などの高火力兵装を積んでんのに爆装しやがって…………動く弾薬庫とかわりねえじゃねえか!
「騒いでる暇などねえぞ! サーペントチーム、ヴァイパーチーム! 状況を報告!」
『こちらサーペントチーム! 地上部隊の侵攻を確認! 現在応戦中! バックアップチームの援護をします!』
『ヴァイパーチーム、こちらは敵の侵攻を確認せず!』
「了解だ! ヴァイパーチームから二人、こっちに回してくれ! 俺たちの抜けた穴をカバー頼む!」
『ヴァイパーチーム了解!』
ゴーレムの登場と同時に地上部隊か…………どっちがメインかは知らんが、やることに変わりはねえ。——ああ、そうだ。初めて戦場に立ったときから俺がやってきたことは全て同じだ。
「ドラゴンチーム、奴らを殲滅するぞ! 各機、俺に続け!」
『『『了解!』』』
俺は両手にブラスターカノンを装備、そのままBⅡ型ユニットを最大出力でぶっ飛ばす。猛スピードで空を駆け抜ける俺の機体はゴーレムとの接敵距離まで四桁を切ろうとしている。それと同時に両腕のブラスターカノンをマシンガンモードに設定、エネルギーの充填を急ぐ。
次第にゴーレムの様子も何処と無くわかってきた。今まで通り頭部と胴体が繋がったようなボディに細い脚部、それとは反対に肥大化している腕部。間違いない。あれは今まで見てきたゴーレムだ。ただ違うところがあるといえば、両腕にハープーンクラスのミサイルを合計四発、肩部に爆薬コンテナと思わしきブツをつけていやがる。正直、あんなもん撃たれたら俺らは速攻御陀仏。近接攻撃はまずやってやれる気がしねえわ。下手したら信管ぶっ叩いて起爆、そうでなくても組みつかれて自爆。いくら絶対防御があろうと、不安要素以外無い。
「D4は狙撃にてコアを破壊しろ。残りは俺らで叩く!」
ブラスターカノンを両方とも正面に向け、躊躇いなくトリガーを引いた。単砲身の機関砲のようなものだが、そこから放たれるビーム弾のレートは分間三千発。ガトリングガンと同等だ。それでいて威力もそれなりにあるため、並のシールドバリアなら突き破ることが可能だ。
だが、今回のゴーレム共はそのビーム弾をシールドバリアで弾いていく。爆装しているが故、それらのブツを守る為にシールドを強化しているのだろう。だが、特攻を仕掛ける前に攻撃してきたやつを優先的に排除するというプログラムは変わっていないようで、攻撃を仕掛けた俺を最優先ターゲットと認定したようだ。その証拠に、奴ら自慢の砲身にエネルギーを溜めていやがる。
「さぁ、てめえらの相手はこの俺だ!」
俺をターゲットにした奴らは、移動し続ける俺を生真面目に追いかけてくる。こいうところはお利口さんなんだがな。まるで遊んでもらっている犬っころだ。だが、その実態は爆撃機も真っ青な拠点攻撃仕様。故に破壊するときも距離を取らないとならない。誘爆なんてさせられないからな。
俺の後ろから幾多ものビームが飛んでくる。しかし、相変わらずの機械的なパターンのお陰で、弾道は簡単に見切る事ができる。BⅡ型ユニットのブースターポッドを反転させ、無理やり姿勢を反転させた俺はブラスターカノンをカノンモードに切り替えた。
「あばよ、スクラップ野郎。地獄でリサイクルされな」
トリガーを躊躇いなく引いた。放たれたのは禍々しいほどの紅い光を放つ光球。それはゴーレムの頭と胴を吹き飛ばし、搭載していた爆薬コンテナにも引火、盛大に爆ぜた。ふぅ、まずは一機。
その時、俺の背後をピンク色のビームが通過していった。そして聞こえる爆発音。
「おいおい、今の援護はやばかったぞ、D4」
『でも、当たらなかったから減給は無しでしよ?』
「そいつは違いねえな」
D4の奴による狙撃援護だった。まぁ、あいつの場合一キロ離れた先にあるターゲットすら中心を撃ち抜くという神業的な事を平然とやってのけるからな。流石、かつて東アフリカ解放戦線でサジタリウスと呼ばれていただけあるわ。
だが今のは正直びびったわ。シールドバリア作用スレスレだったし。的確なのはいいが、ギリギリすぎんのよな彼奴。
『ハッハー! 雑魚は大人しく沈んでな!』
近くではD3がレーザーソードを両手持ちしてゴーレムの両腕を肩から綺麗に切り落とし、蹴り飛ばしてシールド内のミサイルを叩き込んでいた。というかあのミサイル、突き刺さってから起爆だから内部から破裂すんだよな。どうなるかって? 文字通り、木っ端微塵。彼奴は元ラマーチ乗りの南米戦線育ちだからな。近接戦闘において彼奴に並び立つ奴はそういないだろう。
『機械如きが! 俺達兵士を舐めるんじゃねえ!』
海斗の奴、またコンバットハイになってねえか? 彼奴は戦場に出ると性格が盛大に変わるからな。レーザーカノンで胴体に風穴を開け、そこにマルチランチャーから放たれる幾多もの60mmグレネードがゴーレムの機能中枢を焼き払っていく。しかもシールドバリアの解除を確認してからライフルでハープーンと爆薬コンテナを撃ち抜いて起爆させている。お陰でこれまた木っ端微塵。彼奴は一体海自でどんな訓練を受けてきたのか、小一時間問い詰めたいところだな。最も、こっちに配属されてからは俺が全部隊の訓練を担当したんだが。
『って、隊長! 後方注意!』
と、なんかD3が言ってきた。なんだ、そんなことか。
「——ああ、とっくの前に気づいてんだ、よっ!」
後ろから自爆を仕掛けてきたゴーレムの胴体にブラスターカノンのショートブレードを突き刺した。そしてそのままマシンガンモードに切り替えゼロ距離でトリガーを引いた。ゼロ距離であれば旧来型擬似コアの特徴である絶対防御無しにより、幾多もの光弾がゴーレムの背中より排出される。ゴーレムはその単眼レンズから光を無くし、両腕をダラリと下げた。はい、もう一機処理完了っと。
『隊長…………あんた一番エグいわ。というか容赦ねえ…………』
「容赦なんてしてみろ、いつか自分の背中をそいつに刺されちまうだろうが。最も、こいつらにそんな芸当ができたらの話だがな」
視界に映るゴーレム二機に両脚部マイクロミサイルのロックをかける。弾頭は最早全世界に普及している対IS用成形炸薬弾——通称HEAISだ。対IS用大型誘導弾アルバレストには劣ってしまうが、それよりはかなり安価なので使い勝手はいい。
ロックが完了し、ミサイルのハッチが開く。両方合わせて十二ヶ所のランチャーが起動、そこから狙った獲物を逃すことはない猟犬が放たれた。複雑な軌道をそれぞれが描き、ゴーレムの不意をついた弾頭が爆薬コンテナへと食らいついた。積まれている爆薬はTNTやC4などとは比較にならない爆発を引き起こし、汚ねえ花火を空に描く。もう一機もハープーンに着弾し、同じように昼間の花火へと早変わりした。
「残存機は?」
『もう残ってないわよ。隊長が喰らい潰した二機が最後。キルスコアはD2からD4同じく二機。隊長だけ四機』
『あーらら、やっぱり隊長が大喰らいじゃないですかー』
『まぁ、大飯食らいの隊長だからな!』
「おい、談笑もそこまでだ。作戦の進行状況は?」
『地上部隊の制圧も完了したようよ』
「了解した」
こっちは粗方片付いたか。俺は一度エイミーとレーアへと通信を繋いだ。
「サーペントチーム、状況報告しろ」
『こちらサーペントリーダー。敵地上部隊の制圧は完了、敵の数が少なかったのでこちらの被害は軽微です』
「そうか…………ヴァイパーチームは?」
『ヴァイパーリーダー、此方は異常なし。新たなる高脅威目標を確認できず』
おかしい…………お偉方共を一気に人質とできるこんな絶好の餌を前にして総力で攻めてこねえのか? それとも、此方が警備につくことがバレていた? …………いや、それはねえか。だとしたら、なんでこんな二分と経たずに潰されるようなお粗末な連中しかいねえんだ!? 今までの連中は多少なりと策を講じ、俺たちの敵となってきた。ゴーレムシリーズにもこれよりも高度なプログラムが組まれていた。なのに、どうして単純な特攻プログラムで攻めてきたのか。そして、人質を取るに重要な地上部隊の数が少なかったのか…………もしや、これは陽動だったりしねえよな?
「なぁ、お前ら…………なんか変だと思わねえか?」
『どこかですか? 別に変わった事など…………』
「地上部隊の数が少ないってことだ。隠密行動でやるんならわかるが、俺たちが警戒している以上、少数での突破などできないとわかっているはずだ。だからこそ今まで大部隊で突っ込んできただろうが」
『た、確かにそうだな…………だが、それが単に情報が回っていないだけとも考えられるぞ』
「レーアの言うことも一つあるが、それなら増援部隊が来るはずだ。無人機の他に有人機も何機かいただろ? なら俺が聞きたい。有人機と増援部隊はどこへ行った?」
俺がそう言うとエイミーとレーアは驚きを隠せないでいた。だが俺の言っていることはあくまでも仮説。もしかすると今回の会議は大して重要なものではなく、次の機会に戦力を整えているとも考えられる。
『だ、第二波が来るということですか!?』
「あくまで仮説の域を出ないが、警戒をしておくに越したことはない。各小隊へと通達、警戒を厳とせよ」
『ヴァイパーチーム、了解!』
『サーペントチーム、了解!』
「ドラゴンチーム各機、所定の位置に戻れ」
『『『了解!』』』
俺は一先ず警戒強化の命令を下す。会議の終了まであと一時間。それまでの間、何も攻めてこなけりゃ俺の仮説は単なる杞憂に終わる。できればそうであることを祈りたいが…………そう思うとブラスターカノンを握る手に汗が流れる。
その時だった。
『紅城少佐! 少佐に緊急通信です!』
突然、天海龍の方からクロエによる通信が入った。というか、緊急通信だと!?
「送信先は!?」
『場所は…………IS学園! RATX4-01を介して送信されています!』
「RATX4-01…………蒼龍か! 早く繋げ!」
蒼龍の型式番号が聞こえた瞬間、俺は嫌な汗が流れた。もしや、一夏の身に何かあったのだろうか…………というか、悠夏もイオナもそこにいるじゃねえか!
『悠助! あ、今は紅城少佐だったね…………ちょっとまずいことになった! 現在学園に無人機が複数攻めてきていて…………まだ攻撃がされてないからいいけど、このままだとまずいの!』
「話を聞いているだけで十分やばい状況ってのはわかった。で、一つ聞きたい。有人機はいるか?」
『その軍団の先頭に生体反応を確認したよ! 多分、それが無人機を引き連れている!』
「了解した。だが、俺はまだ任務が完了してねえ。故に動けねえんだ…………」
なっさけねえ話だが、首をつながれた結果自由に動くことはできなくなってしまった。傭兵時代であれば直ぐさま爆装して突っ込んでいくようなイボイノシシだったが、今そんなことをすれば隊の連中にも迷惑をかけちまう。背負うものが増えた結果だ。
『紅城少佐、貴官に新たな命令を下す。よぉーく耳をかっぽじって聞いておけ』
その時、アーミアから新たなる命令が下された。どんな命令を下す気だ? 俺としては彼奴らの元に行って守ってやりたい。そうしなければ、父親としても、兵士としても失格だ!
『現時刻を以て、紅城少佐を第一小隊隊長から解任、別の任務へと当たってもらうべく、IS学園へと向かってもらう。以降の指示は第二小隊のローチェ大尉に仰げ。以上!』
だが、アーミアによって下された指令は、俺に課せられている辞令を早めることだった。
『さあ、早く行ってやれよ
「ああ、了解したぜ…………! アーミア! こいつは恩にきる!」
『総員! 紅城少佐に敬礼!』
「お前ら…………すまん、後は任せた! 行くぞ、武蔵!」
〔ああ! 任せろ!〕
BⅡ型ユニットの接続プラグにB型ユニットをさらに接続させる。あまりしたことはないが、これなら学園島まで直ぐに着く。道中、何機か落とせるかもしれん。俺は全ブースターを解放、推進剤を全てそこへつぎ込む。やらせはしねえ…………誰一人として仲間を、家族を失うわけにはいかねえんだ!
「RATX4-00 黒龍、紅城悠助、出る!」
最大出力状態で解放されたエネルギーば俺の身体を一気に飛ばしていく。身体中があまりの負荷に軋みを上げるが、この際関係ない。この程度の痛みで彼奴らを無事に救えるのなら尚更だ。それが、軍人としての…………いや、かつての傭兵としての俺ができることであるなら、なんだってやってやるさ。守りたい思いが尽きぬ限り。
生徒達に少し自習にすると伝えた
「榛名、目標との距離は?」
〔おそらく十キロというところでしょうか? ですが、進軍速度が速いので油断はできません〕
「そう、ありがとう。ところでさ、あの先頭にいる有人機の人は降伏してくれると思う?」
〔無理、かもしれません…………〕
「やっぱりね…………うん、それだけわかれば十分だよ」
相手が降伏する意思がないかもしれないということがわかっただけでも十分。私はブレードライフルとトンファーブレードの刀身を展開、いつでも戦闘行動ができるように構えていた。装甲は全身装甲状態、ウイングブースターもアイドリング状態、此方から攻め入ることもできるけど…………基本は専守防衛。先に手を出してしまったら、彼らと同じになってしまう。だからこそ向こうが仕掛けてきたら直ぐに行動できるようにするしかできない。
そんな時、向こうにも変化があった。有人機が先陣を切るような陣形から、無人機が先を行くような陣形へと変わった。その直後の事だった。その先頭へと出てきた無人機が私へと切り掛かってきた。無人機の中で唯一格闘戦が可能なタイプだ。その振るわれた斬撃をブレードライフルで受け止める。
「くうっ…………! 負けてなんかられない!」
出力が高い機体故、一撃離脱戦を得意とする蒼龍には分が悪い。一旦距離を取って攻撃しようとしたが、今度はもう一機の無人機からビームが放たれた。それをすんでのところでかわす。
「01から08まではついてこい。09、10、奴の足止めをしておけ」
「ちょっ…………! 待ちなさい!」
二機の無人機に翻弄されている中、有人機は多数の無人機を引き連れてアリーナの方へと向かって行ってしまった…………まずいよ、非常にまずいよ!
〔一度、イオナに連絡を入れます! 生徒の避難を優先で構いませんね!?〕
「榛名、そっちはお願い! 私は無人機を叩き落とすから!」
榛名にイオナへの連絡を頼み、私は再び無人機と対峙した。
「私だって守らなきゃいけないの…………世界最強とかそういうことじゃない。私は、生徒達の先生なんだから! 彼らを守るのは私の仕事だから! 負けてなんかられないの!」
「っ…………了解」
「イオナ、どうかしたの?」
突然自習となった私達は歩行訓練を終え、機体を格納庫へと戻している時だった。イオナが小声で何かを呟いた。その顔はとても真剣そうなもの。一体どうしたんだろう…………?
「一夏から連絡、直ぐに教室に戻るように、だって」
「すぐに? 確かに授業時間は終わるけど…………」
「いいから早くして…………取り返しのつかないことになる前に」
「ど、どういう事なの、イオナ?」
そう私がイオナに質問した時だった。
——激しい衝撃が私達を襲った。
突然の事に誰もが何もできず地面へと投げ出された。
「な、何が起きた——」
状況を確認するために辺りを見たら、そこはもう…………地獄のような状況だった。私たちが今まで訓練をしていたところは土があまりの高熱で溶けてガラス状になっていて、所々まだ燃えている。幸い観客席に被害が及んでいないみたい。そしてその中に幾つかの人型の姿が見えた。そこから推測される事は——
「——テロリストの襲撃!?」
それしかありえない。昨今の世界では女性権利団体というテロ組織が世界に混迷を引き起こしている。彼らの目的が何かはわからないけど、危ない集団だってのは私だってわかる。そして、そいつらはISを使ってテロをしている事だって。
「うおっ!? な、なんなんだよあれ!?」
「と、とにかくまずい! に、逃げろぉぉぉぉっ!」
突然攻めてきた事に男子達は驚いて逃げ惑っている。あんなに散々大口叩いていたのに…………こんな時には何もできないなんて…………って、今はそんな事を言ってる場合じゃない! 人の形から逸脱した形状の機体——無人機はその逃げ惑っている男子達に向かって左腕を上げた。そこにあるのは砲口のようなもの。おそらく次にその無人機がする事は決まっている。
(まずい! あのままにしていたら…………!)
そう思った私は目の前に駐機状態になっているデバステーターに乗り込み、緊急起動をさせていた。
「ちょっと!? 悠夏!? 何をする——」
「危ないから下がっていて!」
那月達に警告を出し、そのままデバステーターのブースターを一気に噴かせた。その直後、無人機はその構えていた腕からビームを放ってきた。コースは男子達に向かって当たるものだったけど、
「させない!」
咄嗟にシールドを構えた私が割り込んだ事で当たる事はなかった。シールドのみ武装のロックがかかっていなかったのが幸いってところかな…………あと、皆は逃げれたようだし。けど、そんな無事の報告の代償は少なからずともあった。まず、この場に私とイオナ、那月と春海が残されてしまった。それに、さっきシールドで防いだのはいいけど、ビームの威力が大きかったのか、シールドエネルギーはほとんど残されていない上、防いだシールドは大破、構えていた左腕の装甲もヒビが入って、一部は吹き飛んでいる。高性能機というが、ここでは訓練機故、性能は相当抑えられているみたい。
「悠夏! 大丈夫!?」
「来ないで! きっと皆の事を狙っている…………早くこの場から逃げて!」
那月が私の元へと駆け寄ってくるけど、私はそれを制止した。だって、真っ先にためらいなく撃ってきた連中が、これから攻撃を仕掛けてこない事なんてありえない。そうなったら、誰かが囮になるしかない。シールドエネルギーは心許ないけど、時間稼ぎくらいなら…………。
「ふん…………我々に楯突くものがここにもいたか。全機、攻撃を開始しろ!」
そう思っていたのも束の間。どうやらあの一機だけ違う機体には人が乗っているようだ。その人が無人機に攻撃の命令を出した。そして、一斉に向けられるビーム砲。この瞬間、私の心は恐怖に支配されていた。今まで感じた事のない、何かに心臓を鷲掴みにされるような圧迫感。私がどれだけ平和な世界にいたのかって事が改めて実感させられる。
「逃げて! 悠夏!」
那月か春海か、どっちかはわからないけど、誰かがそう叫んでいる。でも、今の私は恐怖に身体を縛り付けられ、逃げようにも身体を動かす事が出来ない。恐怖が身体を拘束していた。
砲口にエネルギーが溜まっていくのが酷く遅く見える。人が死ぬ間際って、世界が遅く見えるんだっけ…………? もしそうなら、私、親不孝になっちゃうね…………。
(ああ…………短い人生だったなぁ…………)
そんな風に心のどこかで諦めている私がいた。けど、
(嫌だ…………死にたくない…………まだ、死にたくないよ…………)
まだ生きたいと思っている私もいる。何もしたい事を出来ていないし、父さんのような人にもなれていない。だから、まだ生きて、生きて、生きて、そして夢を叶えるんだ。
だけど、そんな願いは誰にも届く事などなく、無情にも無人機からビームが放たれてしまった。私へと一直線に向かってくる光弾。かなり速いものだと思うけど、今の私にはそれも酷く遅く見えた。
(父さん…………母さん…………イオナ…………皆、ごめん…………!)
「強制波動装甲、展開」
しかし、いつまで経っても私には痛みがやって来ない。それどころか、何かがビームを遮っている音が聞こえた。不思議に思った私が目を開けると、そこには
「悠夏、大丈夫?」
母さんの蒼龍よりもずっと蒼き鋼色の装甲を纏い、背中からは一対の羽、そして私を覆うように六角形のエネルギーフィールドを張り巡らしている機体がいた。振り向いて私に顔を見せる。頭部には鋼色のブレードアンテナ、胸部と肩部にクリスタルレンズがある。そして、その機体に乗っているのは…………
「イオナ…………?」
蒼銀の髪に碧眼が特徴的な私の姉のような存在であるイオナだった。でも、なんでイオナがあんな機体を…………だってもし専用機なら待機形態のアクセサリを持っている筈なのに…………。
「うん、私。緊急事態だったからこうするしかなかった」
「イオナ、どういうことなの!? あなたは一体…………!?」
私がそう訊くとイオナは目を逸らして、黙り込んでしまった。
私は一体誰…………? 私はどこからきたの…………? 私はどこへ向かうの…………? 悠夏から投げかけられた質問が
——悠夏を頼むぞ——
その時、思考領域の片隅にあった悠助の言葉が思い出される。こんな時、悠助ならどうしている? こんな時、一夏はどうしている? おそらく、二人とも正直に話す。二人は嘘がつけないから。けど、私は、自分がコアの意識である事をずっと悠夏に黙っていた…………嘘をついて誤魔化していた。その事が私に罪悪感というものを意識させる。
——素直に話すと楽になれるよ——
前に一夏に言われたことの意味、今なら分かる気がする。私は罪悪感に苛まれている。それは嘘をついていたから。だから、今全てを話せば、楽になれるのかもしれない。
「悠夏、ずっと貴方には黙っていたけど…………私は貴方の姉じゃない」
「え…………それって、どういう——」
「私は十六年間、貴方の事を守ってきていた。それが私に託された、ただ一つの"お願い"」
「イオナ…………あなたは一体——」
「私は深蒼龍のコア人格、CN401。イオナと名付けて貰った、この世界で半分実在している虚影」
攻撃を確認、強制波動装甲作動率四十八パーセント。
私は今の自分に話せる事を全て話した。すると、どこか思考領域を占めていたものが軽くなっていったような気がする。これが、胸のつかえが取れたということなのだろうか?
だが反対に悠夏の顔には驚きがもろに表れていた。そう思われても仕方ない。長年側にいた人が、実はコア人格だったなんて誰も想像できない。そうなれば自然と私を避けてしまうかもしれない。今までと同じ生活などできないかもしれない。
朝寝坊する悠夏を叩き起こす事、一緒にテレビを見る事、学校で勉強する事、互いの髪を梳かし合う事、一緒にココアを飲む事、一緒に寝る事…………その全てができなくなってしまうかもしれない。でも、私はそれでもいい。悠夏を守る、それが私が私自身に出したただ一つの命令。私じゃない機体に乗っているのは少し癪にさわるけど、守れるのならそれでいい。
「だから、悠夏は下がっていて。ここから先は私が引き受ける」
イオナから聞かされた突然のカミングアウト。その事で
ただ一つだけ、私が引っかかってものがある。イオナが私に下がってって、一人で十分って言った事。私を守るってのが誰かからの命令みたいだから、それは仕方ないとは思うんだけど…………私には納得できなかった。それじゃ、イオナだけが傷ついちゃうのに…………もしかするとイオナが消えてしまうかもしれないのに…………。
「ふざけないでよ…………」
私は自然と言葉が出ていた。破損したデバステーターを解除し、立ち上がった私はイオナに向き合っていた。
「ふざけていない。それが私の命令——」
「命令なんて関係ないよ! イオナはイオナ! 私を守るためだけの道具じゃない! 一緒に過ごしてきたでしょ…………私にはそれがもっと続いて欲しいの! だから!」
私は一度深呼吸をして言葉を紡いだ。
「私も戦う。イオナだけに辛い思いはさせないよ。だって、私達家族でしょ?」
そうだ、たとえイオナが人間じゃなくたってイオナはイオナ。私の家族だ。だったら、その家族一人だけに辛い思いをさせたくない。辛い思いも一緒に背負って越えてこそ、本当の家族でしょ?
「…………悠夏は一度決めると頑固。でも、一つだけ聞かせて。あなたの目的は?」
イオナはそう言ってきた。目的なんて…………言わなくてもわかっていると思うのに。
「みんなを守りたい。そして、また笑って過ごすんだ!」
私がそう言うとイオナは少し笑ったような気がした。
「了解。なら悠夏、私の手を取って」
そう言ってイオナは私に手を出してきた。私は言われるがままにその手を取った。すると如何だろうか。私がどんどん光に包まれていく。
「こ、これは——!?」
「——これで私は、やっと本当の力を出せる」
イオナの呟きが聞こえたと思ったら、私の視界はかなりクリアな状態になっていた。両手は鋼鉄の掌に覆われ、全身が装甲で埋め尽くされていた。そして、ディスプレイにはこう表示されていた。
——RATX5-01 深蒼龍、起動完了。
「深蒼龍…………」
ふと声に出てしまった。深蒼龍、それがこの機体の名前。母さんの蒼に父さんの黒が混じったような色合いを持つこの機体にはもってこいの名前だと思う。って、そんな事を考えている場合じゃない! 武器は!? 武器は何が使えるの!?
〔落ち着いて、悠夏。武装の一覧なら既に表示している。今使えるのはブラスターソードとビームブレード、あとはアームカノンとフィンビットとシールドの小型
イオナがディスプレイとして表示され、私にそう教えてくれた。って、イオナ!? そこにいたの!?
〔コア人格はこうやって操縦者に教える事もできる。それよりも早くしないと危ない〕
「わかってるよ! 行くよ、イオナ!」
〔がってん!〕
私は右手に構えたブラスターソードを無人機へと向けた。長大な銃身の下にそれと同じ長さの蒼く輝く刀身がある。私は迷う事なくそのトリガーを引いた。その瞬間、見た目に合わないほど小さい反動と、蒼く光輝くビームが放たれた。それは一直線に進み無人機の片腕を吹き飛ばした。す、凄い…………これが、RATナンバーと呼ばれる機体の力…………学園の参考書でも何度か出てきた。今から二十年前、ここが襲撃された時、幾つものRATナンバーの機体がこの学園を守ったって…………。
〔惚けている場合じゃない。まだアレは倒しきれていない〕
イオナからそう警告されるとともに、さっき腕を吹き飛ばした機体と、それ以外の機体から攻撃が飛んでくる。だけど、それらは私に当たる前に何かに遮られる。それでいて、シールドエネルギーの減少は見られない。
〔強制波動装甲、作動率六十九パーセント。エネルギーが蓄積されてきているから回避して。蓄積されすぎると強制波動装甲は消失する、気を付けて〕
「わ、わかった!」
だよね…………ダメージを絶対受けないなんて美味しい話なんてないよね…………でも、今はそんな事を気にしていられない。飛んでくるビームをひたすら避けていく。そして、再び無人機へとビームを放った。
「防御を最優先としろ、攻撃はその後で構わん!」
だが、向こうの有人機と思われる機体からの指揮で無人機へは何か浮かんでいるユニットを展開し、ビームはそこに張られたフィールドで無効化されてしまった。けど、まだ負けたわけじゃない!
「てやぁぁぁぁっ!」
ブラスターソードの名の通り、銃身下部のブレードで片腕を吹き飛ばした無人機へと斬りかかった。何か硬いものを切り裂く感触が手に伝わってくる。胴体を切り裂かれた機体はその場に崩れ落ちた。よし、まず一機!
〔油断しない〕
「しないよ!」
イオナから油断しないでって言われた。って、油断も何もしてないよ! そんな事していられるような状況じゃないんだし。
「そこっ!」
無人機からの攻撃を避けつつ、ビームを撃つ。ビームのエネルギーは機体から生成されているようで、弾切れという事態にはならないらしい。ただ、連射だけできないのが欠点。それでも、それを補って余りある威力だ。
無人機のビームを紙一重でかわした私は、そいつの胴に数発撃ち込んだ。そして響き渡る爆音。それと同時に私の視界は遮られてしまった。まずい、そう私の直感が訴えてくる。その時だった。
「くうっ…………!」
無人機が二機、私に向かって斬りかかってきた。辛うじてブラスターソードで受け止めたけど、向こうの方が力が強いのか、それとも私の力が無いだけなのか、次第に押し込まれてきてしまった。みんなの避難は終わっているようだから良かったけど、これがもしそうでなかったら…………そう考えるとぞっとする。
「04、05はそのままやつを押さえ込んでおけ。それ以外は私についてこい!」
しかし、指揮官と思わしき人からの命令が無人機に出された。彼らの進行方向…………その先には避難したみんながいる! おそらくまだアリーナからは出ていない!
(私は、誰も守れないの…………?)
力を持っている自分が押さえ込まれ、何もできていないことにイライラが募っていく。早く行ってみんなを助けたいのに、それもできないなんて…………それじゃ、力が無いのと同じじゃない!
(助けてよ…………父さん!)
自然とそう願ってしまう弱い自分がいた。そんな事、叶わない事だって自分が一番分かって——
「俺の娘に…………」
「私の娘に…………」
「「手を出すなぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」」
その、怒号にも似たような声が聞こえたと思ったら、目の前にいた二機は突如舞い降りた黒い影と蒼い影に蹴り飛ばされ、地面を転がった。蒼い影の正体は母さんの蒼龍というのはわかるけど、もう一つ私の眼目の前に現れた黒い影…………それは、黒き鋼の装甲を纏い、紅く輝く双眸と同じく紅く輝くブレードアンテナが特徴的で、見る人が見れば全てを奪い去っていく悪魔のようにも見える。けど、本当は誰かを守りたいという意思が突き動かしている、守護の龍。横姿しか見えないけど、その意思の強さは纏っている雰囲気から伝わってくる。本当に威厳溢れる姿だ。
「悠夏! 大丈夫!?」
「う、うん…………大丈夫、だよ…………でも、あの機体って…………」
母さんが心配して駆け寄ってきたけど、私には目の前の黒い機体が気になって仕方なかった。だって、あの機体はーー
「——よォ、雑兵共。よくも俺の娘に手を出しやがったな…………全員、覚悟しておけよ。俺は今、最高にキレちまってんだからなぁ…………手加減なんざしねえぞ!」
——RATX4-00 黒龍。
RATナンバーの祖とも言われる機体であり、現行最強とも謳われている国連軍の宝刀。そして、その操縦者は——
「さぁ、
——紅城悠助。世界初の男性操縦者にして、ブリュンヒルデである母さんをはるかに上回る力を持った本当の意味での世界最強の操縦者。そして、私にとって頼りになりすぎる、自慢の父さんだ。
機体紹介
深蒼龍
【挿絵表示】
型式番号 RATX5-01
所属:なし
操縦者:紅城悠夏
RATナンバー最終ナンバーの機体。X5とついているように、単純な性能では全てのRATナンバー機体群で最も秀でている。しかし、突飛した性能に丁度良く適合するコアが無く、また操縦者も性能に振り回されるという事から、建造より十年近く放置されていた。その後、オリジナルコアCN401が適合する事が判明したが、CN401のコア出力に耐えられない恐れがあるとして、篠ノ之束、織斑一秋の両名による大規模改装が行われた。RATナンバーとしては異例の事である。改装後はフレームの強化及びエネルギーコンデンサー多数搭載によりCN401搭載でも安定運用が可能となった。
本機には蒼龍の意匠を汲む武装が多数搭載されており、全体として近接戦闘において真価を発揮する。だが、長距離射撃を視野に入れており、蒼龍では使われなかったブラスターソードが標準装備されている。また、単機で追加装備も使う事無く強制波動装甲を展開可能な機体である。これにより、攻防の両面を両立したと言える。
本機のコア、CN401は擬似人格を有している。コア人格が具現化している際には紅城悠助により『イオナ』と名付けられた。
固定武装
[アームカノン]
両腕部に搭載された単装ビーム砲。連射力に秀でているが、反面威力は低く、牽制に用いられる。
[フィンビット]
背部バインダーに搭載されているビット兵器。フィン状のそれらは使用時に展開し、ビーム砲、防御フィールド発生装置、????となる。思考操作が殆どだが、思考領域を持つコア人格が操作する事も可能。
[強制波動装甲]
本機を含め、黒龍のDアームズ、天海龍にしか装備されていない防御装備。六角形のバリアが組み合ったようなものが展開される。その防御能力は極めて高く、いかなる攻撃を通す事はない。しかし、使用する度にエネルギーを蓄積していく。これには作動率というものがあり、この値が百パーセントになるとエネルギー放出の為、一定時間使用できなくなるという諸刃の装備でもある。
格納武装
[ブラスターソード]
本来は蒼龍・高機動モジュール装備時に搭載される筈の武装であったが、操縦者である一夏が近接戦闘を中心に行った為、使用される機会は殆どなかった。深蒼龍では近接戦のほか射撃戦も視野に入れている為、再装備される事になった。また、フィンビットと併せて????のキー装備でもある。
[ビームブレード]
ビームブレードと名を打ってはいるが、通常時は単なる物理ブレードである。刀身に用いられているのはブレードライフルやブラスターソードに用いられている素材と同じで、驚異的な切断力を持つ。また、グリップにあるスイッチを入れることで刀身に粒子ビームを纏わせる事も可能だ。
[シールド]
標準的な物理シールドではあるが、その裏に四発の小型MGF弾頭ミサイルを搭載。本機の切り札とも言える武装だ。MGFとはMultiple Gravity Fieldの略称であり、重力子を用いた多方向重力空間形成兵器である。
尚、本機にはもう一つ隠された能力があるようだが、此処では伏せておく。
悠助「って、機体紹介の終わり方が今までと違うな」
まー、あと一つあるけど、今回はまだ出してないし、紹介したらネタバレなりそうだからね。
一夏「作者さんはネタバレ嫌いですからね」
悠助「仕方ないと言ったら仕方ないか。で、黒龍建造どうなった?」
あー…………やっと塗料届くから待って。三月までは出せるかも。
悠助「それまで完結しているだろ、おい。まぁ、こんな作者が書いている作品だが、もう暫く生温い目でよろしく頼む」