守りたい、ただそれだけ(本編完結)   作:ディニクティス提督(旧紅椿の芽)

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第51話

正直、(悠助)には自信がねえ…………何の自信かって? 決まってんだろ…………溢れ出てきて止まる事を知らねえ、この破壊衝動をだ。此奴は、一夏に…………そして、俺たちの大切な一人娘の悠夏にまで、手を出しやがった。あぁ…………ダメだ、抑える事などできん。

 

「なぁ、武蔵…………俺の言いたい事わかるよなぁ…………?」

 

俺はそう、相方に問いかけた。

 

〔ああ、勿論わかっているさ…………丁度、私も大切な仲間を失いかけたからな…………〕

 

どうやら、此奴も俺と同じく破壊衝動に目覚めかけているようだ。

 

「なら、話は決まったな…………」

 

俺は両腕に構えているブラスターカノンをマシンガンモードに切り替えた。残弾はさっき一夏と交戦していたゴーレムを叩き落とした時に消費したからあまり残っちゃいねえ。でもな、それでも人の大切なもんに手を出されとあれば、そんな事は大した事じゃねえ。それよりも、目の前の害悪共を塵一つ残さず始末してやらねえといけねえな。

 

「〔奴らを、ぶっ潰す!〕」

 

アイドリングしておいたブースターを一気に点火した。爆発的な加速が俺を襲うが、それももう少しで終わる。アラスカからこっちに無理やり吹っ飛ばしてきた結果、B型、BⅡ型共々推進剤が底をつきかけている。精々、四十秒持てばいい方だ。それでも、俺には十分過ぎる時間だ。

手始めに目の前に突っ立っていた機体に向かってブラスターカノンを放った。残されたビームが幾多も放たれ、ゴーレムを穿つ。だが、奴らは何かビット兵器らしき物を展開、そこに防御フィールドを展開してきやがった。これにより俺の射撃攻撃は意味をなさなくなってしまう。けどな!

 

「雑魚はすっこんでいやがれや、オラァッ!」

 

ブラスターカノンはショートブレードが付いてんだよ! そいつのフィールドにショートブレードを突き立てた。どうやら近接防御能力など無く、紙でも突き破るかのようにフィールドを突破、胸部にショートブレードは突き刺さった。直後、機体は痙攣でも引き起こしたかのように震え、そして物言わぬ鉄屑へと変化した。先ずは一機。

 

「イェアァァァァッ!」

 

次は俺の背後から襲いかかってきたやつだ。左腕のブラスターカノンには未だゴーレムがモズの早贄状態でくっついてやがる。すかさず右腕のブラスターカノンを突き出し、そのまま至近距離でカノンモードに切り替え、強力なビーム弾を撃ち込んだ。至近距離で威力が高かったせいか、ゴーレムはその場に四肢だけを残して消失した。相変わらずえぐいな、これ。

だが、そうのんきな事を言ってられない。さっきの射撃で残弾数、もとい残エネルギー量はさらに低下。この武装のみでの継戦は不可能にも近い。それでもな、やらなきゃならねえんだ。

 

〔左右方向注意! 挟み討ちか!〕

 

そんな時、武蔵から警告がなされる。両方からの攻撃かよ…………無理だ。この距離で武装交換するのは自殺行為だ。しかし、交換しなければこのでかいブラスターカノンは唯の邪魔な武器にしかならん。普通の人間ならここで諦めるだろうが、俺はそんな事はなかった。

 

「せやぁぁぁっ!」

 

何故なら、背中を預けられる嫁がいるからな。一夏は展開したブレードライフルでゴーレムを頭から真っ二つに切り裂いた。おおう、二十年経っても切れ味が落ちねえ素材って何なんだ? っと、俺もそんな事言ってられねえ。引っこ抜いた左腕のブラスターカノンをゴーレムへと叩きつける。元が大質量兵器みたいなものだ、この程度じゃ壊れんよ。最も、ゴーレムの頭は完全に粉砕されたがな。

 

「ふぅ、今のは助かったぜ、一夏」

「悠助こそ、さっき同時に二機落としたくせに。それよりも、有人機を急いで! あれを止められれば無人機も止まるから!」

「おうよ! 任せておけ!」

 

一度ゴーレム共を一夏に任せ、俺は有人機を追った。しかし、一夏も変わったもんだよな…………昔は誰も傷つけられないような奴だったのに、今はこんな風に指揮を出している。というか、俺が指揮されてどうすんだ全く。まぁ、いいか。とにかく、俺は俺のすべき事をするだけだ。

そんな俺の前に現れた有人機。何処かで見た事のあるインディゴブルーのカラーリングに、特徴的なブレードアンテナ、両肩のスパイク…………間違いねえ、あの機体は——!

 

「カラドボルグ…………!」

 

俺らと因縁深い、堕ちた聖剣がゴーレムを配下に従え、そこに存在していた。

 

 

 

 

 

(悠夏)は悔しさが込み上げていた。さっきは助けてと言っていたのに、今じゃ何もできない自分が腹立たしくて…………そんな自分が嫌だった。

 

——ここで待っていてね。すぐに片付けてくるから——

 

そう母さんに言われたけど、私としては力になりたかった。私はずっと誰かに守られて生きてきた。父さん、母さん、そしてイオナ…………私はそんな人達に恩を返したい、そう思ってきた。でも、現実はどうなの? 力を持っているにもかかわらず何もできずに、父さんと母さんがやっている事を端から見ている事しかできない。それに、母さんは私をここから遠ざけるために言ったと思う言葉も、暗に戦力外と言われているような気がしてやまない。…………ほんと、私って最低だ…………っ!

 

(これじゃ、唯のお荷物じゃない…………!)

 

そう思う度に自分がどんどん嫌になっていく。何のために私はここに来たのか、それすらもあやふやになってくる。

 

〔悠夏、前、危ない〕

 

イオナからそう警告されてきた。私に迫ってくる一機の無人機。私はブラスターソードを格納、代わりにビームブレードを展開する。ビームブレードと名を打っているけど、取り出した時は蒼く輝く刀身しか見えなかった。そして、無人機のブレードと切り結んだ。激しく火花を散らしながら拮抗する力。

 

「——ねぇ、イオナ」

〔どうしたの? 何処か痛い?〕

 

グリップにあるスイッチを私は押した。すると、刀身に蒼き輝きを放つ粒子がまとわりつき、ビームの刀身が形成された。その熱量のせいなのか、無人機のブレードへと食い込んでいく。

 

「——そうだね。少し痛い、かな」

〔でも、フィジカルデータに異常は無い。どこが痛いの?〕

「心、かな…………自分に何ができるのか、それがわからなくなってきちゃって…………」

 

無人機のブレードの半分ほどまでビームブレードは食い込んできた。いつ溶断できるか、それも時間の問題だ。

 

「そんなお荷物な自分が嫌になっちゃったんだ…………父さんや母さんに顔向けできないよ」

 

そして、ブレードを両断し無人機の本体をも切り裂いた。斜めに胴を切られた無人機はそのままズルリと崩れ落ち、それから動く事は決してなかった。

無人機を撃破した事は嬉しい事。だけど、そんな私の心は曇っていた。力を手にしてもこれしかできないなんて…………

 

〔悠夏、あなたは勘違いしている〕

「え…………?」

 

そんな時イオナにそう言われた。私が、勘違いをしている…………? それってどういう事?

 

〔あなたは自分が力を持っていながら何もできてないと思っている。確かに私達ISは強力。現行兵器には遅れをとらない。でも、それは物理的なものにしか過ぎない。本当の強さは心にある、そう一夏が言っていた。悠夏があの時行動しなかったら、みんな死んでいた。あの時、行動できたのは、あなたの心が強かったから。あなたはお荷物じゃない。だから、自信を持って〕

 

イオナはいつもの無愛想な顔でそう言ってきた。そう言われたらなんだか、あんな風に僻んでいたさっきまでの自分が恥ずかしくなってきた。いつも一緒にいたイオナから言われたら尚更だ。

 

「ありがと、イオナ。なんだか元気でたよ」

〔気にしないで。私は悠夏の機体、悠夏をサポートするのが仕事だから〕

 

そう当たり前のように言うイオナが今だけはどこか羨ましく思えた。そんな時だった。

 

〔——! センサーに反応、ディスプレイに表示する〕

 

突然イオナがディスプレイを表示してきた。レーダーが捉えた機体がマーカーとして多数表示されている。だが、私たちのいるアリーナ内ではなく、その外からだった。となると…………

 

「これって、増援!?」

〔おそらく。生体反応がないから無人機〕

 

最悪の事態になりつつあった。だって、父さんと母さんは今ここにいる無人機を相手にしていて動けそうにない。表示されているマーカーは全部で八機。これ以上は流石の父さんでも相手できないと思う。ど、どうすれば!

 

〔落ち着いて悠夏。大丈夫、あなたならできる〕

「わ、私!? む、無理だよ、あんな数!ただでさえ一機相手するのが限界なのに…………!」

〔私の切り札を使う。先ずは上昇して〕

 

イオナは時々無茶な事を言ってくる。でも、その指示に従う私も私だ。言われるがままに私はそのまま上昇していく。アリーナに張られているシールドは侵入された時に破損していたようで、気がつけばアリーナの上空にいた。その先には黒点のような何かが見える。おそらくあれが、無人機。

 

「で、でも、どうするの!? 本当に私一人じゃ無理だって!」

〔少し待って。——システムシークエンス、スタート〕

 

イオナが呟いた瞬間、機体に変化が現れた。というか、変化していく様子がディスプレイに映し出されている。脹脛の装甲カバーが解放され、スラスターが顔を出す。背部のブースターユニットの一部が展開し、パネルのようなものが姿を見せる。そして、両肩と胸のクリスタルユニットが深蒼の輝きを解き放っていく。それと同時に、機体のメーターが普通ならあり得ない数値を叩き出していく。これは一体…………

 

——システムコード、認証。

——各コンデンサー、接続完了。

——全リミッター、解除。

——限界負荷機動、起動。

——CODE:OVER DRIVE

——RATX5-01 [LEVIATHAN MODE] ACCEPT

 

「リヴァイアサン…………モード…………?」

〔そう。私には私が生成する強大なエネルギー蓄えるため、幾つものエネルギーコンデンサーが搭載されている。それらを一気に全て開放した状態、それがリヴァイアサンモード〕

 

リヴァイアサン。かつて何かの本の題名にもなった、強大な力を指し示す言葉。そして、海を統べるとも言われている強大な龍でもある。見た目中学生とも言えるイオナの外見からは想像がつかない名前だ。

 

〔…………何か不名誉な事を言われた気がするけど、今は後回しにしておく〕

 

あ、やっぱり聞こえているんだ…………心の中で話す時も気を使うなんて辛いよ。

 

「それで、これからどうしたらいいの?」

〔ブラスターライフルを構えて〕

 

私はブラスターライフルを展開、無人機へと向けた。でも、まだ射程距離外。そう、センサーリンクに表示されていた。

 

「で、でも、まだ射程距離外——」

〔フィンビット、エネルギーライフリング形成〕

 

イオナの声とともに六基のフィンビットがブラスターライフルの周りに集まってくる。それはまるでレールガンの銃身を作るように組み合わさり、ブラスターライフルの銃口の先には二枚のフィンのように見えるパーツが組み上がっていた。

そして、私の目の前にまた新たなディスプレイが表示される。そこに書いてあったのは

 

[BLUSTER SWORD:ACTIVE CANNON MODE]

 

「アクティブ…………カノン…………!?」

 

アクティブ・カノン。その名前は教科書にも載っている。この世に存在しているアクティブ・カノンは父さんの黒龍が持つ460mmとなんか戦艦みたいなのが持っている51cmの二種類だけ。その両方がとんでもない破壊力を持つ、決戦兵器とか戦略兵器とかと言われてもおかしくない兵器だ。けど、そんな兵器を私は今、右手に構えていることになる。そう考えたら怖くて腕が震えてきてしまう。

 

〔悠夏、恐れないで。この付近に味方はいないから誤射はない〕

「そういう問題じゃなくて! なんでこんな兵器がこの機体に積まれているの!? アクティブ・カノンって機体単体で使えるものじゃ——」

〔普通ならそう。でも、私は普通とは違う。だから装備できた。心配しないで、悠夏がトリガーを引くとき、それは私もトリガーを引いているから。あまり気にしなくていい〕

 

イオナはそういうけど、やはり強大な力を持たされるとかなり怖い。その力を間違った方向に使ってしまうんじゃないかって考えたりしてしまう。って、それは今いいか。

 

〔悠夏、最終権限を渡す。悠夏の思うタイミングでトリガーを引いて〕

 

照準用の特別なセンサーリンクが降りてくる。ふぅ…………ここまできたらやるしかないみたい。でも、どうしてなんだろうか。さっきまでの僻んだ自分はどこかへ消え、寧ろ何かをやる自分がいることに歓喜している。

エネルギー縮退率、九十五パーセント…………エネルギーライフリング、正常…………発射シークエンス、最終段階。

 

(やれる…………私ならやれるんだ!)

 

そう自分を鼓舞する。右腕だけで撃つのは不安なので、フォアグリップを引き出して左手でそれを掴んだ。センサーリンクのど真ん中には先頭を行く無人機がロックされていた。外しはしない、必ず撃ち落とす!

 

「いっけぇぇぇぇっ!」

 

そして、縮退率が百パーセントを超えた瞬間、私はトリガーを引いた。その瞬間、蒼天の空を蒼き一条の閃光が引き裂いていった。強烈な反動が腕を襲い、身体も軋みを上げ、展開したスラスターで押し返してるにもかかわらず体ごと下がっていこうとする。けど、こんなのに負けてられない!

真っ直ぐ突き進んだ閃光は無人機の軍団を全て飲み込んでいく。その光景はさながら、強大な海龍(リヴァイアサン)が全てを喰らい尽くしていくようにも見える。エネルギーの放出が終わると、そこには無人機の影などは一切無く、唯の空だけが広がっていた。

 

「はあっ、はあっ…………これで、終わったの…………?」

 

強烈な反動から解放された衝撃で、疲れが一気に出てきた。心なしか汗をかいている。

 

〔増援はなし。これで終わり〕

 

イオナからそれを聞いて一気に力が抜けていく。そうなんだ…………守れたんだ、私…………。誰かの役に立てたんだ…………。

そう思った直後私の意識は完全に途切れた。

 

 

 

 

 

「な、なんなんだ今の輝きは!?」

 

(悠助)と交戦していた有人機の奴は突然空をぶった斬った閃光に驚きを隠せてないようだ。あの輝きは…………アクティブ・カノンだな。それも、深蒼龍に積んだ奴。束さんもよく組み込んだもんだ、エネルギーがあまりにも大きすぎるからアクティブ・カノンで放出しろだなんてよ。しかし、今回はそれがあって助かった。あの射撃方向には増援と思わしき機体群がいた。おそらく全機無人機だ。こっちは誰も手を出せない状況にいたから、悠夏があれを放ってくれてよかった。まぁ、あと此奴と無人機一機しかいないんだが。

 

『悠助、こっちは終わったよ』

「おおう、そうか。それなら——」

〔悠夏が気絶したぞ。イオナが機体の制御をしているが、ここから避難させたほうがいい〕

 

…………は? 悠夏が気絶? アクティブ・カノンの反動に耐え切れなかったか? まぁ、それは後で追々聞くとして、気絶状態で放ったらかしにしておくのも酷な話だろう。てか、自分の娘にそんなことはできん。

 

「悠夏の回収を頼む。その後はここから退避しておいてくれ」

『了解。全く…………待っていなさいって言ったのに、無茶しちゃって…………お説教が必要だね、悠夏』

 

この瞬間、俺は一夏から底知れない恐怖を感じたのは言うまでもない。顔は笑っているが、目が全く笑っていなかった。これはマジで怖い。今後待っている説教に関しては、悠夏に同情しよう。だが、だからと言って説教を受けさせないわけにはいかないが。

一方の俺といえば、カラドボルグとブラスターカノンで切り結んでいる状態だ。向こうが持ち出した長刀にこちらのショートブレードをカチ合わせる。どうやら向こうの長刀は、中国系の柳葉刀に近い。いわゆるトップヘビー型ってところだ。それゆえ一撃は重い。正直このブレードでは不安しかねえ。

 

「貴様らっ! 一体何をした!?」

「さぁな? ま、どうせお前は死ぬんだし、俺としても答える義務はねえ」

 

右腕のブラスターカノンを解除し、バスターソードを取り出した。残弾の切れた武器は使えねえしな。それに、近接戦となりゃ此奴ほど頼りになる武器はねえ。

長刀とバスターソードを斬り結ばせる。唯の細いブレードに肉厚の刀身を持つバスターソードがぶつかり、一気に攻勢に出た。

 

「だからよ、そのまま逝っちまいな!」

「そうはいくものか!」

 

奴は一度俺から距離をとった。あのまま斬り結んでいるのは不利だと判断したのだろう。その判断は間違ってない。バスターソードであればあんな長刀簡単に圧し折ることができるからな。挙句、旧型擬似コアだろ。絶対防御が存在しないから不用意に自身を危険にさらすこともできない。どうやら、奴は相当な乗り手のようだ。

 

「我々には目的がある! この世界を変えるべき義務が!」

 

再び斬り結ぶ。しかし、機体出力では俺の方が勝っているため、俺にとっては大したものではない。左腕のブラスターカノンを解除し、代わりに二連装機関砲を装備させる。

 

「義務だと? どんな義務があるってんだよ、えぇ? テロリストさんよぉ!」

「この世界は変わってしまった…………どこにいても女性が差別されている…………だから変えるしかないのだ! かつての女性至上主義の世界へと!」

 

…………此奴の言っていることは間違いねえ。未だオリジナルコアを扱えるのは女が殆どだが、現在実稼働しているのは改良型擬似コアだ。それを男が殆ど使っている。そして、かつての女尊男卑の反動か、男尊女卑なんてものが始まっている。女尊男卑ほど激しいものではないが、それでも差別なんてものはある。特にここみたいな軍事関連のところではそうだ。戦場に立つのは男だけで十分という考え方が根強いのか、前線に立つ女兵士はあまりよく思われていない。大概の奴は傷つけさせたくないという考えだが、過激な奴らだと女尊男卑の生き残りとかそんな事を言っている。そんな事がないのは俺のとこの部隊だけだった。

 

「だからって、何故ここを襲撃した! 襲撃なら委員会だけで十分だろうが!」

「ここはかつて、ISを纏う気高き乙女の学園だった…………だが、今は違う! 貴様のような信念あるものではなく、ただこの風潮に流された愚者が来ている! それを粛清するべく、私はここに来たのだ!」

 

再び距離を取り、また俺に斬りかかってきた。成る程な…………ここに野郎どもがたかってきたのか気に食わねえってことな。確かに、かつてISは女の象徴みたいなもんだった。だが、そう崇め奉られるのを束さんは嫌っていた。寧ろ、一つの道具、一人の相棒として扱って欲しかった。それならば、此奴もまた極度に女尊男卑に染まった人間、って事だな。…………世迷言も大概にしろ。

 

「ふざけてんじゃねえよ!」

 

バスターソードを横薙ぎに振るい、奴を弾き飛ばした。ここまできたら奴は俺たちの敵、女権の連中だ。敵を潰すのが俺ら兵士の仕事だ。だから、容赦などしない。

 

「粛清だと? てめらがしてんのはそんな綺麗事じゃねえ! ただのテロだ! それ位理解してろ!」

「何故だ!? 何故わからない! このまま男尊女卑が続けば、貴様の家族にも被害が出るのだぞ、紅城悠助!」

「わかるもんかよ! もし被害が出そうになったら、俺が直々に止めに行く! それにな、俺は深く考えんのが苦手なんだよ!」

 

バスターソードを縦一文字に振り下ろした。奴は長刀でその一撃を受け止めようとしたが、お生憎様、俺のバスターソードは武器ごとシールドバリアごと敵ISを撃破するための武器だ。受け止めたのも一瞬で、長刀は見事に砕け散った。そして、奴のシールドバリアに当たる感触が手に伝わってくる。もっとも破壊力の高い縦振りの一撃を喰らった奴はそのままの勢いで地上に叩きつけられる。

 

「くたばるがいい!」

 

バスターソードを逆手持ちし、俺も奴にめがけて急降下した。

 

「イェアァァァァッ!」

 

その切っ先は奴へと向けられている。PICを一時的にカットし、そのまま自由落下での威力で攻撃する。そして、バスターソードの切っ先は奴の胸に突き刺さった。

 

「貴様…………ワザとコアだけを破壊したな…………」

 

だが、奴を殺しちゃいねえ。流石にここじゃ殺した後が面倒くせえからな。それに、学び舎で殺しをしたんじゃ後味が悪すぎるだろ。あの時みたいに大部隊が攻め込んできているわけじゃねえし。

 

「ああ。流石に若い奴らの前で殺しはせん。だが、お前には査問会が待っているだろうよ。そこで全てを話してもらうぞ。それまで眠ってな」

「…………私の、負け、か…………」

 

機体の機能を失ったカラドボルグが奴を守る事などなく、俺が放った睡眠ガスグレネードをまともに受け、奴は完全に眠った。

 

〔付近に機体反応はなし。状況終了だ〕

「やっと終わったか…………一夏、こっちに教員部隊を二人送ってくれ。首謀者を拘束した」

『分かった。お疲れ様、悠助』

「お前こそ、な。ついでにお前のクラス全員呼んでくれ。挨拶をしなければならんだろ」

『でも、今日の事で心に衝撃を受けた子も…………』

「それじゃ、何のためにここに来たのかわかんねえだろ。俺はぬるま湯なんかにつけねえ、熱湯か冷水だけだ。あまり好ましくないが、今の時期に経験しておけばこの後で適切な判断もできるだろ」

『相変わらずスパルタだね…………分かったよ。悠助のいるところに連れて行くね』

「ああ、すまんな」

 

そう通信しているうちに教員部隊が来たようだ。使用機体はデバステーター、うちの主力と同じ。ただ、訓練機仕様か実戦仕様かの違い。

 

「お疲れ様です、紅城少佐」

「少佐はよせ。今日付けで俺は軍人じゃねえよ」

「そ、それは失礼しました」

「ああ、謝らなくていい。それよりも、そいつの事頼むぞ」

「了解しました、少佐」

「だからよせって…………まぁ、いいか」

 

揃いも揃って少佐、少佐と…………もう俺は国連軍所属じゃねえっつの。最早少佐で俺の名は通っているのか?

連行されていく首謀者と入れ違いで一夏達が来たようだ。一夏以外の奴らにはどうも疲れのようなものが見える。おそらく突然の襲撃に精神が参っているんだろう。一夏も昔はそんな事があったからな。寧ろ、疲れが出ない俺が既に異常なんだ。戦いに出すぎてその感覚が麻痺しているんだろうよ。

 

「お、おい…………あれって——」

「うそ、だろ…………なんでここに——」

「どうして、国連の英雄が…………?」

 

そんな奴らでも俺の顔ーーというか、黒龍のフルフェイスバイザーを見た途端、口々に疑問を出してきた。それだけ俺が国連のプロパガンダに使われているってことだよな。てか、俺が国連の英雄かよ。まぁ、それも既に過去のものってもんだわな。

 

「全員連れてきたよ」

「そうか、ありがとう」

 

俺は一夏にそう礼を告げると、一つ深呼吸をした。

 

「総員、傾注。貴様らは戦場というものを知っているか? 否、今日この時まで知ることはなかっただろう。どうだ、自分達が死ぬかもしれないと思った感想は? 怖いだろう? それが正しい反応だ。人間は誰しも怖いと思う。だが、貴様等と一般人ではすべきことが違う。一般人は逃げ、自分の安全を確保する。だが貴様等はその一般人が逃げる時間を稼ぎ、守りきることが任務だ。だが、力を持たない奴はそんなことをするな。自分が勇敢だと思っていようがそれは唯の蛮勇だ、無謀な事にしか過ぎん。むやみに命を散らすのは唯の犬死と同じだ」

 

俺の周りで戦死した奴はあまりいない。いるとしても、それは昔の傭兵時代に戦線に一人で突っ込んでいって自爆した奴くらいか。彼奴は撤退中の友軍を守るべく、ナイフしか装備されてないラマーチで戦っていたからな。奴のおかげで友軍は生き残ったが、奴を失ったことはそいつ等の心に深い傷を負わせた。無駄死ではないが、やはり死ぬってのはダメなもんだ。

 

「それとだ、貴様等には守りたいものがあるか? それが自分の権力といったものであれば捨てろ。そんな俗物を守るために俺たちはあるんじゃねえ。俺たちが守るのは人、それも自分の肉親や友人といった奴らだ。失いたくない彼らを守るのが、俺たち兵士の役目だ。英雄と呼ばれなくてもいい、勇敢でもなくていい。ただ、貴様等が為すべきと思った事を最後までやり遂げろ。だがな、今の貴様等ではまだ右も左も分からないヒヨッコにしか過ぎん。他人を守るどころか自分すら守れんだろう。だから、俺はそんな貴様等を教導するために来た」

 

俺は黒龍を解除し、素顔をさらした。久し振りに感じる外気が何処か新鮮に感じる。やはり、バイザー内にいると空気も人の熱で生暖かく感じてくるからなのだろうか。まぁ、そんなことはどうでもいいか。

 

「今日付けでIS学園防衛学科の実技教導役となる、紅城悠助だ。俺の指導は過酷と言われているが、貴様等のような兵士の候補には生温いものだ。心してかかってくれ。俺からは以上だ」

「それじゃ、これで急務連絡は終わり。一旦教室に戻って、それから今後の連絡をするから」

 

一夏がそう言うと、皆は何処か困惑した状態でアリーナを出て行く。というか、俺がここに来るってことがそんなに驚くことなのかよ。だが、俺としてはこっちに来た甲斐がある。間違いなく彼奴等は各国軍の兵士になる。そんな中で真っ先に命を散らすのは実戦経験の少ない兵士だ。若い命が散っていくってのはどうしても気に入らん。それはどのベテラン兵士もよく言っている。だから、少なくとも初戦で死なないよう、俺たちが彼奴等を教導していく、アグレッサーと同じようなことだ。そこに所属しているのが俺の娘だったら尚更だ。家族を失いたくないという思いがそうさせているんだろう。

 

「じゃ、私達も行こっか。一応形だけでも手続きをしないといけないからね」

「そうだな。救援に来たとはいえ、入り方は襲撃者と変わりはねえからな」

「そういうこと。下手したら教員部隊に拘束されていたよ?」

「救援依頼を出したやつに言われても説得力ねえわ」

 

談笑し合いながら俺たちは教員の申請所へと向かった。戦いから離れた場所に来たかと思えば、間接的に戦場と繋がっている。どうやら、俺は戦場と切っても切れない何か深い縁があるようだ。あまり嬉しくねえことだな。けどまぁ、そいつは俺が戦場に初めて立った時から決まっていたことなのかもしんねえ。それか、俺が殺してきた奴らから戦場を忘れるなとでも言われているんだろうよ。そんなことを思いながら、俺と一夏は歩みを進めていくのだった。

…………。

……………………。

………………………………。

申請を終えた後、天海龍から俺宛に私物がダンボールで送られてきた。大した量もないから二箱で済んだがな。中身は軍服とか書類とかそういう類の奴。それ等を俺の自室となる寮の教員室に運び込み、大浴場で一人疲れを癒していた。しかし、風呂なんていつぶりだ? 天海龍は広い割にシャワー室程度しかねえし、娯楽もねえもんな。そのせいか広い風呂って奴がここまで気分のいいものだってことが改めて感じられる。

 

(やはり、仕事後の一っ風呂は気分がいいもんだ。これで一杯やれたら更にいいんだがな)

 

ふと、自前の焼酎を持って来れば良かったと思う。あれだけが仕事終わりの楽しみみたいなもんだったし。

 

「はい、一杯どうぞ」

「おお、気が利くな。ありがたく頂くぞ」

 

湯気で誰がいんのかわからねえが、酒の入ったお猪口を俺に渡してきた。それを受け取った俺は一気に飲んだ。あー、こいつは日本酒だな。焼酎とはまたちょっと違う。まぁ、悪くはねえんだけど。

 

「もう一杯いかが?」

「そうだな、もう少し貰おう——」

 

って、待て待て。この声は——

 

「一夏!? おまっ、何やってんの!?」

「何って、晩酌のお伴だよ?」

 

だからと言って風呂まで来ることはねえだろ! あ、あかん、タオルで隠すべきところが隠れてはいるが、髪を濡らさないように上に纏めていたりと、いつ目とは違う姿に見惚れてしまう。というか、色っぽい。なお、二人で風呂に入ったことは何度かある。その度に俺は撃沈させられてきたわ。

 

「母さん、言われたもの持ってきたよ」

「ありがと、悠夏」

「待てオイ、悠夏も来てんのか!?」

「あ、父さんもここにいたんだ」

「しかも抵抗とか一切ねえ!?」

 

どうなってんの、この状況…………というか、悠夏のような年頃の女って親父と風呂に入るのとか絶対いやがるもんだと思うんだが…………。

 

「いいじゃん。だって、家族みんな揃うの久しぶりだもん」

「そうだよ。ここ何年かは家を開けっ放しにしていることが殆どだったからね」

「まぁ、確かにその通りなんだがな…………」

 

家族と長い間会わないってのは辛いものだ。俺は国連軍に所属していたし、一夏もここの教員として働いていた。自ずと悠夏を一人にしていたわけか…………そりゃ、寂しい思いもさせてしまっただろうよ。

 

「家族サービスくらいしてやったらどうだ? お前も家族といたかったんだろう?」

「一夏も会いたいと思っていたようですから、少しくらいいいんじゃないですか?」

「私がいたからといって悠夏が寂しくなかったわけじゃない。悠助はそれくらいするべき」

「…………ナチュラルにお前等も出てきて、風呂に入ってんじゃねえよ」

 

武蔵、榛名、イオナまでもが風呂に入っていそう言ってくる。てか、武蔵、お前もちゃっかり酒飲んでんな。それと、イオナはどうしてスク水をきて風呂に入ってるんだ。

だが、こいつ等の言うことも間違いじゃねえな。俺だって一夏や悠夏の元にはいたかった。俺の帰れる場所はそこしかないんだからな。二人が幸せでいてくれる場所、そこだけだ。それを考えたら、今日くらいは別にいいんじゃねえかと思ってくる。

 

「…………今日だけ特別だぞ」

「ふふっ、ありがと、悠助。じゃ、はい。次の一杯どうぞ」

「ほらほら、母さんの用意してくれたおつまみだよ。父さん、これ大好きだったでしょ?」

 

気を許した途端、俺に奉仕してくる二人。風呂には入ってるが水入らずでこうしていられる今の時間が、俺にとってはどこか懐かしくて、安らぐものだった。戦場に立ち続けていたせいか、こういうところが新鮮味を帯びて感じられる。そんな空間が今ここに、確かに存在している。それがなんだか嬉しくも思えてきた。

しかし、どうもコア人格達は俺たちの近くにやって来ない。全く…………なんのために出てきたのやら。

 

「おいお前等、こっちに来ねえのか?」

「いや、折角の血の繋がりのある家族が一緒になっているんだから、私達は少し下がっていようかと…………」

「余計な気を使わなくていい。第一、お前等だって俺の家族だ。お前達も揃ってこそ俺の家族なんだぞ?」

 

そう言うと、武蔵は少しため息を吐いた。

 

「…………全く、お前ってやつは変わらないな」

「昔から色々強引、そして優しい」

「そこが悠助さんのいいところですけどね」

「そういうことだ、私達も混ぜてもらっていいか?」

 

武蔵は俺たちにそう聞いてきた。そんなの答えは決まってんじゃねえか。

 

「ああ、いいともさ。お前らもいいだろ?」

「もちろんだよ、榛名は私の大切な相棒だからね」

「私も。今日はイオナに助けられちゃったしね」

 

俺たちがこいつらを仲間外れにする理由などないし、するつもりなどない。全員が揃ってこそ俺の家族だ。一人でも欠けてはならない。だからこそ俺はこいつらを守り続けるんだ。

 

「だってよ? だから、お前らもこっちにいていいんだぞ」

「本当、皆さん優しすぎます…………でも、榛名はそんなところが大好きです!」

「私も、本当の事を話しても悠夏は私を拒絶なんかしなかった。寧ろ、受け入れてくれた。悠夏、ありがとう」

「お前の家族は皆、お前に似て優しい人しかいないようだな。私は羨ましく思うぞ」

「ははっ、俺の無茶を受け入れてるお前も十分凄えけどな」

 

単に風呂で談笑しているだけなのに、ここまで楽しく感じられたことはあまりない。俺も小せえ時は親父と風呂に入っていたのかもしれないが、いかんせん記憶がねえ。歳食ってきたからな。

 

「じゃ、折角全員揃ったわけだし、悠夏の入学祝いでもするか!」

「じゃあ、それは風呂を出た後にしよ。ここじゃ流石に無理だからね。貸切状態にしておくのもそろそろ限界だし」

「貸切状態にしてきたのかよ…………じゃ、早めに上がるわ」

「それなら一旦私達も引き上がるとするか。榛名、イオナ」

「そうですね、わかりました」

「了解、きゅーそくふじょー」

「イオナは潜水艦かなにかなの!?」

 

どうやら悠夏は未だにイオナに振り回されているようだな。だが、イオナはいざって時には頼りになる存在だ。今日の一件しかり、一夏が悠夏を産んだ時しかり。あいつは芯が一本どっしりと通っている。現にあいつは俺の頼みである、悠夏のそばにいてくれってことを忠実にやってくれている。そして、悠夏を守ってくれた。だからこそ、俺は信頼をおける。まぁ、俺は家族には絶対的な信頼をおいているんだが。いつか悠夏にもそんなものを持ってもらいたいと思っている。

さて、大分身体の疲れも取れてきたことだし、俺は上がるとするかね。風呂の中で俺のアクティブ・カノンをタオルで隠し、風呂を出ようとする。その時、俺は悠夏に聞いておきたいことがあった事を思い出した。

 

「なぁ悠夏」

「どうしたの、父さん?」

「どうしてお前は防衛学科に来たんだ? 別にお前には色んな道があったのによ」

 

悠夏には色んな進路があったはずだ。無論、IS以外でもそれは良かったはずだ。なのにどうしてここに来たのか、俺はそれが知りたかった。誰だってそうだろ? 自分の娘がもしかすると兵士になるかもしれないようなところに来てんだから。

 

「んー…………父さんみたいになりたかったから、かな?」

 

その口から出てきた言葉を聞いた俺は驚きを隠せなかった。よりよって俺みたいになりたいのかよ…………

 

「俺みたいに、なりたかった…………?」

「うん。母さんから聞いたよ、父さんが母さんを守っていたってこと。そんな風に誰かを守る父さんが格好良かったから、いつの間にか背中を追いかけていたみたいなんだ。私も誰かを守ってみたい、そんな風に思っていたんだよ」

 

そんな事を言う悠夏はどこか恥ずかしげな顔をしていた。そして、それを聞いていた一夏も頬を緩ませている。俺を追いかけていた、か…………本当なら喜ばしいことなんだろうが、俺としては素直に喜べない。傭兵としての汚い一面も見られているかもしんねえ。正直、汚れ仕事に手を出しているのが殆どだからな。そんなところまで悠夏に似られたら困る。それに、俺は自分から突っ込んでいくような性の人間だ。それは傷を負いやすくなる事を意味している。俺は悠夏にはそうなって欲しくない。

かといって、こいつの道を応援したいとおもっている俺がいるのも事実だ。だとしたら俺はこいつに一つアドバイスしてやる必要があるのかもしんねえな。

 

「そうか…………それならお前に一つ教えてやる。大事な事だ、よく聞いておけよ」

「う、うん」

「守るのは一向に構わねえんだが、お前が傷つくことだけは可能な限り避けろよ。たとえそいつを守りきったとしても、お前が傷つくかもしくは最悪死んだとしたら…………残された奴はどう思う? 悲しむに決まっているだろ? 守るってのは身体的なものだけじゃねえ、心まで守ってやらなきゃなんねえんだ。俺は昔それをしてやることができなかった…………だから、お前はそうならないようにしろ。言えんのはこれだけだな」

 

そうとだけ言って俺は風呂を出、脱衣所へと向かった。火照った身体がエアコンの涼しい風で程よく冷えていくのがわかる。だがあまり長居すると風邪引くからさっさと着替えることにしよう。といっても、手元には軍服しかねえんだが。

それにしても、悠夏も俺の血を引いているってことがよくわかった。守りたい、か…………俺は昔、そんな事を一切思ってなかった。ただ復讐だけに駆られて、自分が傷つくことも厭わず、すべてを破壊していた。守ることなどとは反対のこと、壊すことしかしてなかった。けど、そんな事を一夏が変えていった。戦うことしかしてなかった俺に、別の幸せをもたらしてくれた。そこから守りたいと思ったんだっけな。そうして、現在に至るわけだ。気がつけば守りたいものが増えていて困ったことになっている。けど、俺はそれでも十分いいんじゃねえかと思っている。壊すだけの人生よりは何倍もいい。

 

 

正直、この世界に平等なんてものはありえないのかもしれない。虐げていた者、虐げられる者。彼らの立場が変わっていく事はあるが、それだけでは何も変化などない。寧ろ悲しみや憎しみを呼び起こし、新たなる戦争の火種となるのかもしれない。そして、誰かは傷ついていく。そうやって世界のバランスは取られているのかもしれない。

だが、俺からすればそんな世界は気に食わない。全人類が平等になることなどはないなんてわかっている。それでも、その差別が戦争を引き起こし、罪のない人間までもを巻き込んでいくことだけはいただけない。戦場だけが否が応でも誰もが死んでいくことを唯一の平等であると教えてきた。

しかし、俺はその平等も気に食わない。これ以上否定を続ければ差別のない世界であることを望んでいるように思えるが、それは唯の夢物語であることだってのは俺だってわかっている。

 

『差別が戦争を引き起こし、戦場が平等に人を殺していく。そして、再び新たな差別を生み出していく』

 

これが世界の摂理であるのかもしれないと、俺は思ってしまっている。

だからこそ、俺はこの世界に抗い続けようと思っている。俺には大切な家族がいる。失いたくない場所がある。それを守るために俺は武器を手に取ろう。傷つけるだけの戦いは要らない。悲しみを生むだけの戦いは要らない。俺の手の中にあるもの、それらを守るために戦うことだけが俺に課せられた使命なのだと思っている。世界がどんな醜い争いに呑まれようが、俺はその全てを壊して守りきってみせる。家族というものを持った時から、俺はそう覚悟を決めた。そんな俺が生み出した覚悟の根源はたった一つの思いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

——守りたい、ただそれだけ。

 

 

 

 

ー完ー




これにて『守りたい、ただそれだけ』本編完結いたしました。
色々と言いたいことはありますが、次回改めてあとがきという形で更新させていただきます。
アンケートがあるので、そちらもぜひお願いします。
ここまで読んでくださった皆様、本当にありがとうございました。
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