守りたい、ただそれだけ(本編完結)   作:ディニクティス提督(旧紅椿の芽)

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どもー、扶桑姉様レベルの不幸がやってきて、何故か突発性難聴になって入院中の紅椿の芽です。

ようやくEXTRA DAYSの記念すべき一話を仕上げられたので投稿していきます。

生ぬるい目でよろしくお願いしますね。


EXTRA DAYS
Ex.01


「あー…………やる事ねえな」

「そうだね…………ちょっと暇だね」

 

十月。特に行事の予定が入ってなく、既に暇な状態である。というか、そもそもで行事云々の前に、学園が閉鎖状態、基本自宅待機な状態だ。とはいえ、何もないとなると、本当に暇で暇で仕方がない。そんなわけで近くの河原に出かけて、一夏と寝そべっているわけだ。久々に日向ぼっこをするのも悪くない。非常に平和なひと時だ。まぁ、いつもの癖で俺らはどっちもIS学園の制服を着ているわけなんだがな。割と機能性に富んでるし、俺の場合私服がほぼねえからな。自然と制服を着る羽目になる。一夏はそれにつられてといった感じだ。なお一夏の服装をパーツ風に解説しよう。

 

頭部:ヘアピンとカチューシャ

胴体部:制服(冬服)

胴体下部:制服ミニスカート

脚部:膝下までの黒靴下、革靴

 

こんな感じだ。制服であるとはいえ、やはり俺の横には天使がいる。こうやって並んで寝そべっていると、周りの野郎共から羨ましそうな視線を受ける。おおう、お前らそれはやめろ。俺はゆっくりとしていたいんだからよ。

 

「こう、なんていうんだ…………何か派手な事ねえかな?」

「そう簡単にはないでしょ…………というか、これ以上起きたら、私の心臓がもたないよ」

「いやいや、襲撃とかそういうのは俺も勘弁だわ。突然人参が降ってきたりとか、そういう奴」

「普通そんな事おきないでしょ!?というか、起きそうで怖いんだけど!?」

 

まぁ、それはそれで怖いわな。突然目の前にでかいメタルの人参が降ってくる事なんて、まずないだろうし。ってか、できればそれだけは起きないでもらいたい。俺の精神衛生上、なにかよろしくない事の予兆だ。大概そういう事が起こると、俺は面倒事に巻き込まれるんだ。

 

「できれば起きない事だけを祈っておくか…………」

「そうだね…………せめて普通の事にしておこうよ」

「そうだな——」

 

そう思った直後の事だった。何かが風切り音を立てて、空の彼方で光った。は?ちょっと待て!?あの勢いで飛んでくるものってなんなんだ!?どう見てもミサイルにしか見えないぞ!?

 

「ぬあっ!?む、武蔵!対空レーダーには何も引っかかってないのか!?」

〔いや、まぁ…………引っかかっているには引っかかっているが…………危険度ゼロだぞ?〕

「いやいや、やべーからな!?とりあえず、アサルトライフル寄越せ!」

〔市街地で発砲する気か!?〕

「んな事より、あれを迎撃するのが優先だろーが!」

 

身の危険を感じた俺は右腕と左腕を部分展開、その手にアサルトライフルを装備する。目標はあの謎の飛行物体。あれがもしミサイルなら、俺たちは確実に死ぬ。だからこそ、早期迎撃が必要なのだ。というか、こんなところで一夏を死なせるわけにはいかん。

 

「落ちろやぁぁぁぁぁっ!!」

「ぴゃあぁぁぁぁぁっ!!」

 

蒼天の空の下、全くと言っていいほど似つかわしくない銃声が鳴り響いた。放たれた銃弾はあの謎の飛行物体へと飛んでいくが、その飛行物体は回避してきやがった。ま、マジで!?あれ本当になんなの!?しばらくして残弾切れの報告が表示され、謎の飛行物体は俺たちの前に突き刺さった。その飛行物体は…………

 

「人参…………?」

「だな…………」

 

紛れもなく人参であった。ただし、野菜の方ではなく、メタルで出来た人参。しかも、全体に方向転換用のマルチスラスターがあり、蔕?葉?の部分がメインブースターとなっているようだ。だとしたら、こんなものを作れるのは一人しか俺は知らない。というか、使うのも一人しか心当たりがない。人参は突如、割れたかと思いきや

 

「ゆ〜〜〜く〜〜〜ん!!いっちゃ〜〜〜ん!!」

 

中から飛び出てきたのは(この世で最も面倒臭くて破天荒な兎)さんであった。俺はアサルトライフルを格納、代わりにブーストハンマーを取り出す。この武器を出してやる事は一つ。

 

「どわっせいっ!!」

「ぎゃぷん!?」

 

フルスイングでぶっ飛ばすのみだ。ハンマーの後部に大出力ブースターを取り付けた吶喊用の武装だが、こうやって何かを吹き飛ばす事だって容易だ。謎の悲鳴を上げて吹っ飛んだ束さんは川へ頭からダイブ、派手な水飛沫を上げた。

 

「あれ…………生きているよね?」

「対IS用の砲弾を撃ち込んでも生きて帰ってきたんだ。この程度じゃ死にはしないだろ」

 

 

「酷いよゆーくん!折角顔を見せに来たのに、この仕打ちはないでしょ!?」

「じゃあ普通に会いに来たら良いじゃねえか!」

 

川から引き上げられた束さんは頭にカニがくっついていたり、ポケットの中に魚が入っていたりと、ある意味大惨事になっていた。しかし、ブーストハンマーによるダメージなど全くと言って良いほどないようで、寧ろピンピンしていた。…………相変わらず思うんだがこの人、ほぼ人間辞めているよな?でなければ擬似コアISをシールドバリア無視で叩き潰すブーストハンマーの一撃を耐えられないと思うのだが。

 

「えー?だって普通に来たら面白くない——」

 

何故だろうか。突然俺は右のマルチランチャーよりチェーンブレードを取り出していた。文字通り、チェーンソー型のブレードである。マルチランチャーユニットから選択して装備する事が可能。なお、従来のランチャーとしても使える。けたたましく音を立てるチェーンブレードを見た束さんはその場で綺麗な土下座を決めたのだった。

 

「すいませんごめんなさいもうしませんから許してください」

「た、束さんが平謝りしてる!?」

「わかればよろしい。で、今日はどんな用件で?」

「そうだ、忘れてた!」

「やっぱその頭綺麗に吹っ飛ばしてやるわ」

 

俺は右腕のハードポイントに105mmオートカノンを展開した。中に装填されているの対IS用APFSDS弾。ついでに言うとこの砲の下に同軸20mm単装機関砲が装備されている。一斉射したら頭くらい綺麗に吹っ飛ばせるだろう。

 

「ゆ、悠助。一旦落ち着こ?このままじゃ話が進まないよ」

「そ、そうだよ!これじゃ、不毛なやりとりだって!」

「…………わーかった。一夏の顔に免じて許すわ。で、その忘れてたって話はなんだ?」

 

一度全てを格納し、俺がそう聞くと束さんは待ってましたとばかりに、謎のテンションへと移行した。やべえ…………なんかものすげえ撃ちたいんだが。

 

「実を言うとねー、こんなものを作ってみたのだー!」

 

そう言って束さんが俺たちに見せてきたのは謎の黒い球体。表面には幾つかの丸いモールドが彫られている。そして…………何故かものすげえ嫌な予感しかしない。本能的にそう言ってくるレベルだ。一体何を持ってきたんだよ、この人…………相当危険な臭いしかしねえじゃねえか。

 

「な、なんなんですかこれ?」

「フフフ…………聞いて驚け!これぞ、私の最高傑作、ワールドゲートなのだー!」

「何じゃそりゃ?」

「これはねー、使った人を設定した世界に送る機会なのだよー。もちろん、帰るときは帰るのボタンを押して帰れるよ」

 

…………聞いててこっちは頭が痛くなってきたぞ。何?世界を飛び越える装置だと!?この人は世界の常識にとらわれる事はないとは思っていたが…………とうとうこのとんでもない領域に到達してしまったのか。というか、別の世界って何?世界なんて俺たちの生きているこの世界しかないんじゃないのか?

 

「てか、それどうやって作ったんだよ?普通じゃ作れないだろ」

「んー、最初はMGF弾頭を複製しようと重力子を濃縮していたんだけどさ、なんか別な反応がでて、多次元空間ができちゃったのよね。試しにその空間に入ってみたらあら不思議、別の世界へと繋がったではありませんか!そしてその空間を制御できるようにしたのが、その装置なのだ!」

「やっぱこの人バカだわ」

 

傑作というよりは、偶然の産物じゃねーか。めちゃくちゃ危険な臭いしかしてこなくなったぞ。しかも、なんか黒いオーラを放っているしよ。おお、怖え。

 

「という事で、私が大丈夫だったんだしー、ゆーくんといっちゃんもなんだか暇そーだったから、試しに使ってみてよー」

 

束さんはそうキラキラした目で言ってきた。って、それを使わせる気で来たのかよ!?マジで怖いんだが!?

 

「な、なぁ、一夏どうす——」

「た、束さん!私、使ってみたいです!」

「マジでぇぇぇぇっ!?」

「え?悠助は嫌なの?暇じゃなかったっけ?」

「いや、まぁ確かにそうだがな…………」

 

一夏は使う気満々なようだ。それも、めっちゃくちゃ目を輝かせている。だが、俺としては反対だ。第一、一夏を危険な目に合わせるわけにはいかん。そんなことをやらかしたら一秋に俺がのされる。

 

「あれぇ?もしかして悠助、怖いの?」

 

一夏は何処か含みのあるような笑いを浮かべた。だが、その笑いは何処か挑発的なものに見える。こ、こいつ…………どこでそんな事を覚えてきやがった!?そして、挑発的されても相手にしないのが俺のルールだが、なんでもないときにされるのは癪だ。

 

「んなわけあるか!行く!行けばいいんだろ!」

 

半ばヤケクソ気味にそう叫んだ。ここまできたら男じゃねえ。使ってやろうじゃないの、その装置。

 

「よし決まったね。じゃ、その丸いモールドに手を当ててね」

 

俺と一夏は向かい合うように立ち、丸いモールドに手を当てた。するとモールドが緑色に発光し始めた。しかも、なんか粒子みたいなものが漂い始めている。

 

「世界はこっちで設定してっと。転送と同時にその機械は黒龍に格納されるようにセットしておいたから。それじゃ、いってらっしゃーい」

 

束さんがボタンを押すと、俺たちは一段と眩い光に包まれた。まるで目の前で閃光弾を炸裂させられた時のようだ。果たしてどこの世界に送り込まれるのか…………というか、別な世界ってどうなってんだ?そんな事を気にしながら、俺の意識は光の彼方へ飛んでいった。

 

 

 

 

 

「さて…………無事に転送できたと思うし、そっちはどうかな『ちーさん』?」

『上空に新たな反応を確認した。今到着したようだな。それにしてもよかったのか?』

「いーよいーよ。それに、面白い反応が起きそうだからねー。ついでにそっちの私がした事の始末も彼らに頼んでいいから。だって、片方は私専属の傭兵だからね」

『こっちのお前ほどではないが、中々に面倒なことをしてくれるじゃないか…………まぁいい。彼奴らにもいい刺激になるだろう。期待させてもらうぞ』

 

 

 

 

 

「って、ここどこだぁぁぁぁぁっ!?」

〔IS学園島、上空七十メートルだ。黒龍、緊急展開するぞ!〕

 

気がつけば何故か学園の上空にいたんだが…………って、世界跨いだのか?実感わかねえな。って、

 

「一夏は!?」

「こ、ここにいるよぉ…………」

 

俺の後ろで蒼龍を無事展開し、なんとか生きているようだ。それを見て俺はかなり安心したわ。

 

「というかここIS学園だよね?」

「そうだよな…………本当に世界を飛び越えたのか実感わかねえな、これ」

 

だが、よくよく見れば学園に生徒がいる。俺たちの学園は現在閉鎖中だから、生徒はまずいない。それに、戦場の跡なんてものは全くと言っていいほどない。となると、

 

「だが、戦場の跡もないわけだし、飛び越えたんだろう、きっと。そう考えるしかねえわ」

「そう、だね…………あれだけ酷い損害を受けたんだから、直ぐに元通りってわけににもいかないしね」

「そういうことだ」

 

二人して別世界に飛んできたと考えた俺らだが、これからどうするといいのか皆目見当が付かず、その場で浮遊していた。そんな時だった。どっかのアリーナに何かが着弾した。は?何が起きたんだ今?

 

「武蔵、状況報告」

〔第三アリーナに無人機が侵入したようだ。数は五。お前なら二分で殲滅できる数だ〕

「そう言われてもな…………あれって俺が手を出していいのかわからんぞ」

 

実際、俺たちとは関係のないことだからな。別に手を出さなくてもいいんじゃないかと思っている。不用意に首を突っ込むのは御法度物だろう?

そんな時だった。

 

『んんっ!学園上空にいる所属不明機に告げる』

 

この声は…………間違いない、この忌々しい声は!

 

「てめえ…………織斑千冬か!」

 

声を聞いた一夏が俺の背中で怖がって震えているから間違いない。それに、あの声を忘れるものか。

 

『その通りだ。だが、勘違いしないでほしい。私は君達の世界にいた腐った人間とは違うぞ。それに、話はそっちの束から聞いている。詳しい事は後で話そう。その前に一つ依頼がある』

 

織斑千冬は一つ息を置いてから言葉を繋げた。

 

『現在学園には無人機と思わしき機体が攻撃を仕掛けてきた。我々学園側も応戦しているが、おそらく厳しい戦いになる。君達には無人機の撃破を頼みたい。コアは全て破壊して構わん。…………生徒の命を守ってくれ』

 

音声のみだが、その声には確かに生徒を守りたいという思いが込められている。だが、俺は聖人君子ではない。自分の利益にならない事はあまりしたくない。それでも、目の前で命が理不尽に散るような事があれば、助けに行きたいと思っている奴が俺の後ろにいることも事実だ。

 

「…………報酬は幾らだ?俺は傭兵、金で動かされる戦争の犬だ。その額で判断してやる」

『傭兵と言っていたな…………損害が小さければその分だけ払おう。頼むぞ』

 

そう言って通信は切られた。なるほどねぇ…………損害の少なさに応じて金を払うスタイルか。悪くないな。寧ろ、やる気が出てきた。

 

「一夏、話は聞いたな?」

「もちろんだよ。ちょっと怖いけど、誰かを守るためだもんね!頑張るよ!」

「よし、それじゃ行くぞ。背中は任せた!」

「うん!」

 

俺はブースターを点火、一気に襲撃されたアリーナへと向かった。さぁ、戦闘開始だ(オープン・コンバット)

 

 

 

 

 

「く、そっ!」

 

雪片を振るい、無人機が振るうブレードを防ぐ。だが、絶対防御がジャミングを受けて正常に働かない上、向こうも前よりパワーアップしてきた。以前はゴリラみたいに巨大な腕が特徴的だったが、今回のはどちらかといえば女性に近い形をしていて、右腕は肘から先が鋭利な物理ブレードになっていて、左腕は前のと同じく巨大な腕だ。その手のひらには四門の砲口が見える。そこからはアリーナの地面をガラスのようにしてしまうような熱線が放たれた。あれに当たってしまえばひとたまりもないだろう。けど、

 

「負けるわけにはいかねえんだよ!」

 

一度ブレードをを受け流し、左腕の雪羅をカノンモードに切り替え、荷電粒子砲を放った。だがしかし、それは無人機の展開するシールドビットに阻まれてしまった。

 

(まずい…………!)

 

そう思った時は既に遅かった。俺は無人機の巨大な腕に殴られ、そこから大きく吹き飛ばされた。地面を何度もバウンドし、アリーナの壁に当たってようやく止まった。くっそぉ…………口の中を切ったのか、少し鉄の味がする。大きく頭を揺さぶられたせいで焦点が合わない。だが、無人機はそれでも攻撃を止めてくれるほど優しくはなかった。悔しい…………俺はみんなを守りたいのに…………そのための力を持っているというのに…………何もできないのかよ!

周りを見れば、箒と楯無さんが無人機に攻撃を仕掛けている。だが、楯無さんはもう傷だらけだ。簪はどうなったんだろうか…………それに、セシリアに鈴、シャルにラウラは無事なんだろうか…………自分の事は何処かどうでもよくなっていた。それでも、

 

(俺は…………こんなところで死にたくない…………!)

 

俺はまだ生きたい…………まだ千冬姉に恩を返せていない!だから、死ぬわけにはいかないんだよ!

だが、俺のそんな思いが誰かに伝わるわけでもなく、迫ってきていた無人機は俺にそのブレードを振り下ろしてきた。振り下ろされる速度がやけに遅く見える。

 

(ここまでなのか…………!)

 

俺はこれから来る痛みに備え、目を瞑った。その直後、何かが切り裂かれる音がした。

…………。

……………………。

………………………………。

だが、幾ら待っても俺に痛みはやってこない。疑問に思った俺は恐る恐る目を開けた。其処には、

 

「一機撃破。次の目標に向かう」

 

黒き装甲を纏い、見るもの全てに畏怖させるよう紅いデュアルアイとブレードアンテナが特徴的で、右手には大剣を、左手にはキャノン砲を構えた、龍が確かに存在していた。

 

 

 

 

 

何とか間に合ったようだな…………。一旦、この世界にいる住人は俺たちの世界の住人と同じではあるが同じではない事を頭に入れておくとするか。なんか、面倒ごとになりそうだし。

 

「で、一夏。残敵は?」

『残り四機じゃないかな?悠助が撃破したのが最初だし』

「わかった。何か変化があったら教えてくれ」

『わかったよ』

 

ひとまずさっきの期待はバスターソードでコアごとぶった切ったし、次のやつを仕留めるとするか。そんなわけで次にロックを掛けたのは楯無(?)とモップ(?)が交戦している機体。俺は左手のブラストライフルを向けた。ライフルと名を打っているが、小型の大口径砲と考えてもらって構わない。オートカノンより取り回しはいい上に弾種もこっちの方が多い。まぁ、口径が84mmしかないのが欠点だがな。それと、カートリッジ式ってとこ。

ブラストライフルには高威力の対IS用APFSDS弾のカートリッジが装填してある。チャンバー内に砲弾が移動した事が、リロード完了という表示としてディスプレイに表される。さて、やるとするか。

交戦中の機体めがけて俺はブラストライフルのトリガーを引いた。口径に見合った反動が俺の腕を襲うが、この際関係ない。向こうは何やらシールドビットによる防御を図ったようだが、お生憎様だ。もとよりシールドバリアを強引に突破するために開発されたのが対IS用APFSDS弾だ。例え絶対防御があろうとも、そんなもん御構い無しに突破する。

だが、この世界じゃシールドバリアの強度が違うのか、弾は微妙に逸れ、左腕を吹き飛ばすだけに終わってしまった。敵を目の前の二機から俺に変更したと思われる無人機は、残されたブレードを構え、俺に突撃してきた。ふう…………やっぱりこうなるのな。大体予想はついていたが、まさかこっちでも優先ターゲットを決めるシステムがあるとはな。まぁ、向こうから向かって来てくれるならありがたい。

 

「くたばりな」

 

俺はバスターソードを振り下ろし、右腕を吹き飛ばした。それと同時に舞い散るオイル。もう何度も見慣れた光景だ。其処から横薙ぎに振るい、上半身と下半身をオサラバさせた。その途中硬いものを砕く感覚があったから、おそらくコアも粉砕しただろう。

残骸をひとまずそのままにし、二人の容態を確認する。楯無の方は所々軽傷といったところだな。モップもたいした怪我はない。俺は次の目標を探すため移動しようとした。このアリーナにはもういない。ここは当面安全地帯だろう。一応、一夏に連絡するか。

 

「こっちは終わったぞ。そっちはどうだ?」

『こっちも二機撃破。残り一機は三年と二年の専用機持ちが倒しちゃったみたい』

「コアはどうした?」

『全部ブレードライフルで砕いたから大丈夫』

「そうか。それじゃ、何処かで合流するか」

 

そう俺は伝え、適当に上空へと舞い上がろうとした時だった。愛機から伝えられるロックオンアラート。無人機を全て撃破した今、こんな事を出来るのはあまりいない。

 

「貴方…………一体何者?」

 

声から判断するに楯無だろうな。背中にランスを突きつけられている。あーあ、面倒なことになったなー。

 

「答える義理はねえよ」

「なっ…………男、だと!?貴様何者だ!?」

「だから、答える義理はねえんだよ。それよりも帰らせてくれねえか?」

「より一層帰らせる気にならなくなったわね…………!」

 

うわ、挙句モップまで刀を突きつけてきやがった。おーう、ガチで面倒なことになったな。

 

「楯無さん…………どうして、そいつに武器を向けているんですか…………!?そいつは俺たちを助けてくれたじゃないですか!?」

「そうだよ、お姉ちゃん…………その人、みんなを守ってくれたんだよ…………!」

「それはわかっているわ。でも、所属不明である以上、簡単に見過ごすわけには行かないわ!」

「でも…………!」

 

この声は簪と…………誰だ?そもそもでこの世界には一夏はいないのか?

 

『各機に告げる。状況は終了だ。所属不明の二機については手を出すな。蒼い方には特にだ。全機、一度第三アリーナへと集合せよ。以上だ』

 

唐突にそんな連絡が入る。ふぅ、どうやら事は全て片付いたようだな。

 

「だ、そうだな。どうだ?俺と一つ事を交えるか?」

「いや…………止めておくわ」

「話がわかってくれて助かる」

 

織斑千冬からの通信が入ると、武器を構えていた二人は素直に武器を下げてくれた。さて、と…………それじゃ全員集まるまで待つとしますか。

 

 

全員が集まるまでそんなに時間はかからなかった。一夏も無事なようだし、ひとまず安心ってところだな。とはいえ、ほとんどの連中から敵を見る目で見られてんだわ。別にこっちは危害を加えるつもりはさらさらないんだがな。まぁ、一部簪や、よくわからん男はそんな周りとは違って、困惑の目を浮かべており、後ろの三年と二年の先輩(会ったことがないから多分そうだ)からは戦友を見る目で見られている。

 

「すまない、待たせてしまったようだな」

「いや、其処まで待ってねえぜ。寧ろ早いくらいだ」

 

とまぁ、散々な視線の中待っていると、織斑千冬が姿を現した。思ったより早く来たな。徒歩だったらそれなりに時間がかかるはずだろ?

 

「そうか。それで、報酬なんだがな——」

「報酬!?それはどういう事ですか、織斑先生!!」

 

報酬について話を切り出した織斑千冬の声を遮って、楯無が声を荒げた。まぁ、無理もないだろ。所属不明の機体が現れて、敵を撃滅したと思ったら報酬が用意されているんだからな。

 

「お前達は少し黙っていろ。彼らは私が雇った傭兵だ。——話を戻そう。報酬はこうなった」

 

俺は渡された封筒を開け、中身を確認する。其処には約百万円ほど入っていた。まぁ、妥当なところだろうな。弾薬費とかを考えればこれくらいは当然だ。寧ろ、これくらいも貰えなれけば、俺はガチでキレるぞ?

 

「まぁ、妥当な金額だな。有難く受け取っておく」

「生徒の命を守ってくれたのであれば、まだ足りないくらいさ。お陰で一般生徒の被害は無しだ」

 

それを聞いた俺は安心した。俺たちの世界で襲撃された時は、規模の違いもあるんだろうが、一般生徒も死んでしまったからな…………今度は民間人を失う事がなくて済んだようだ。

 

「それに比べてお前達、その目はなんだ!それが援軍にきたこいつらに対する礼儀なのか!」

「い、いや…………ですが!」

「まぁ、こいつらもまだ自己紹介をしていないから敵対視するのも無理ないな。おい、自己紹介してくれるか?」

 

自己紹介ねぇ…………別にやっても俺の損にはならないか。それに、この織斑千冬は俺の世界のやつとは全く違っている。だからそれに従ってもいいんじゃねえかと思っている。一夏も俺と同じように思ったのか、同じタイミングで機体を解除した。

 

「お、男…………!?」

「あ、ありえませんわ!?」

「しかも、ISスーツも私達と違うぞ…………」

「てか、雰囲気がそもそもで違うわ…………」

 

敵対視していた連中は次々に驚嘆の声を上げていく。そんなに男性操縦者が珍しいのか?俺の世界じゃ俺を含めて三人、擬似コアも含めれば数えきれんぞ。

 

「俺は紅城悠助、しがない傭兵さ。そして、こっちが」

「織斑一夏です。宜しくお願いします」

 

そう言って一夏は連中に一礼をした。だが、これまた驚愕の声が聞こえてきた。

 

「う、嘘!?あれが、一夏なの!?」

「お、俺と同じ名前!?どうなっているんだ、これ!?」

「なんだか想像できんな…………」

「可愛い…………」

 

どうやら俺が一番最初に助けた奴も一夏というらしい。というか、同名か?いや、だが男の一夏など俺には想像できねえな…………こっちの一夏に男物の制服を着させたようなイメージではなさそうだし。

 

「どうやら、相当意見が食い違っているようだな。一度整理してみるのも手だぞ」

「そうだな…………そっちの事を教えてくれ。俺もこちらの事を教える」

 

織斑千冬とそういう事になり、互いに互いの世界の事について話した。其処でわかった事は次の通りだ。

 

・この世界に俺は存在していない。

・擬似コアが存在していない。

・織斑春十、一秋が存在していない。

・一夏が野郎だった。あと、唯一の男性操縦者。

 

上の三つはなんとなく理解はできたが、最後が少し衝撃的だったな…………だって、一夏が野郎なんだぜ?そりゃビックリもするわ。俺にとっての一夏は女の子の可愛い一夏しか知らんからな。

 

「そうか…………お前の世界で私と篠ノ之は殺されているのか」

「仕方なかったんだ…………あのまま野放しにしておけば、戦争が始まる。俺は一夏を戦争に巻き込ませたくなかったんだ…………」

「擬似コアが存在しているというのも驚いたな。貴様らのコアはどうなっているんだ?」

 

ラウラがそう聞いてくる。ま、擬似コアが男でも使えるとわかればそうも思うわけだ。

 

「いや、俺達のは非常に癖のあるオリジナルコアだ」

「誰が癖のある奴だ、誰が」

「榛名、ちょっとそれは心外です」

「って、何処から出てきた!?」

 

どうやら俺の台詞が気に障ったらしく、武蔵と榛名が出てきた。その事に織斑千冬も驚いていたようだが。まぁ、初見じゃそんな風に驚くのも無理はない。

 

「ああ、私はこいつの機体のコア人格、武蔵だ」

「一夏の機体のコア人格、榛名です」

「コア人格…………!?もう話がついていけないぞ」

「仕方ねえわな。少々、科学力に差があるみたいだし」

「だが、それにしてもありすぎだ…………羨ましいぞ」

 

織斑千冬は何処か羨ましそうな目で俺たちを見てきた。いや、そんな目で見られてもなんとも言えないし、何もできないのだがな。

 

「で、俺たちはこれからどうすりゃいいんだ?このまま帰るって手もあるんだがな」

「ちょ、それは待ってくれ!」

 

俺が帰ると言いだした途端、それに食いついてきた奴がいた。一夏——紛らわしいな、ワンサマーとでも言っておくか。

 

「どうしたワンサマー?」

「わ、ワンサマーって…………って、それはどうでもいい!頼む!俺を鍛えてくれ!」

「ちょ、それはどういうことだ!?特訓なら私達がつけているだろう!!」

「そうですわよ!!箒さんならともかく、私に何か不満があるんですの!?」

「あんた達の教え方が悪いからなのはわかるけど、私との特訓だってあるでしょうが!!」

「そうだよ!!僕だって一夏とちゃんと練習しているのに!!」

「全くだ!!私の特訓では足りないというのか!!」

「おねーさんの教え方の何処に文句があるのかしら?」

 

ワンサマーがそう言うと、それを皮切りに簪を除くギャラリーがギャーギャーと騒ぎ始めた。なんだなんだ?こいつらがワンサマーに特訓しているのか?…………いや、それだけじゃねえな。もっと別な感情も渦巻いている。まさかこいつら、ワンサマーに惚れてんのか?

だが、今そんな事を気にしている余裕などない。ワンサマーの口から出てきた言葉の真意を確かめねばならん。

 

「ギャラリーは黙ってな。ワンサマーは俺に話があるようだ」

「部外者は引っ込んでいろ!これは私達とこいつの——」

「——なら、お前らも俺とワンサマーの会話に口を挟むんじゃねえ。もとよりお前にそんな事を言う権利はない」

 

俺は腰のデザートイーグルを抜き、騒いでいる連中に銃口を向けた。すると直ぐに口を閉ざしてくれた。ふっ、利口な奴らだ。

 

「ゆ、悠助?流石に拳銃はまずいんじゃないかな?」

「だが、黙らせるにはこれがもってこいだ。発砲する気はねえから心配するな」

「だったらいいけど…………」

 

どうやら一夏は俺が発砲する気でいるのかと思ったようだ。だが、別に俺と敵対しているわけでもない人間には銃口を向ける程度の軽い挨拶で済ませる。それが俺の流儀だ。

 

「で、鍛えてくれってどういう事なんだ、ワンサマー?」

「…………俺には誰かを守るような力がない。俺は、俺に関わるみんなを守りたいんだ!なのに…………自分の事で精一杯で、何も守れなかった…………だから、誰かを守れるほど強くして欲しいんだ!」

 

デザートイーグルを納めた俺に聞こえてきた言葉は相当無茶な事に聞こえてきた。誰かを守るってのはわかる。だが、自分に関わるすべての人間を守るってのは無理な事だ。自分の両手から溢れ出ちまえば、守ろうにも守れん。所詮、無理な幻想にしか過ぎない。しかし、こいつの目はそう簡単に諦めるような目をしていない。寧ろ、無理と言われた事でも自分なりに突き通していくような奴の目だ。これには俺も応えてやらなければならないのかもしれん。

 

「そんで?守るのはわかったが、そこにお前の命は含まれているのか?」

「え…………?」

「例えお前が全員を守ったとして、お前が瀕死の重症になったらどうすんだ。残された奴はどう思うんだよ?」

「そ、それは…………」

「全く…………誰かを守るって事は、自分もそこにちゃんと帰らなきゃならねえんだ。それだけは覚えておけ」

 

これは俺の実体験に基づくものだ。臨海学校の時、俺は一夏を守るために墜ちた。その時は一夏を泣かせてしまったからな…………あの時ほど後悔をした時はない。そして、この間の襲撃の時も、一夏の元に無事に帰れてよかった。自分を犠牲にしろなどとは言わん、だから必ず大切な人の元へと帰る、それが今の俺のモットーだ。

ワンサマーは俺の言葉を受けて黙り込んでしまった。まぁ、あそこまで自分の考えを否定させられた上に暗に力が無いと言ったからな。そりゃ、あのくらいはなるわな。

 

「それでも俺は…………守りたい仲間がいるんだ!だから、諦める事は出来ないんだよ!」

 

それでもあいつの目の灯火は消えてなんかいない。むしろTNTをぶち込んだように激しく燃えていやがる。はぁ…………全く、しょうがねえ奴だな。だが、俺は嫌いじゃない。此処まで泥臭い奴を久々に見た気がするな。そして、この意志の強さは一夏に引けを取らない。

 

「はぁ…………わかった。特訓を引き受けてやるよ」

「ほ、本当か!?」

「ああ。だが、途中で投げだそうなどと考えるなよ」

「もちろんだ!あそこまで言って頼んだんだ、無下にはしないよ」

 

ワンサマーの目は完全に燃えていた。この世界も変わらず女尊男卑なんだろうが、此処まで意志の強い奴はそんな世界を変えられる力を持っているやもしれんな。

 

「んで、期間はどうするよ一夏」

「え、どうするって——」

「お前じゃねえよ、ワンサマー」

 

一夏の名前を呼んだらワンサマーが反応してきやがった。あぁ、面倒臭い。だが、これからを考えるといささか早急な対応が必要だな。ま、なんとかなるって考えりゃいいか。

 

「そうだね…………折角来たんだし、一週間はどうかな?」

「お前がそう言うなら俺は反対しねえよ。だとよ、ワンサマー。それでいいか?」

「おう!ありがとうな、え、えっと…………」

「紅城悠助だ。好きに呼べ」

「わかった。よろしく、悠助」

 

ワンサマーはそう言って俺に手を差し出してきた。あ、そういうことな。握手しろってことなんだろう。

 

「こっちこそ。しっかりついてこいよ」

 

俺もそう言って握り返してやった。

 

「——話はついたようだな。それでは一旦解散だ。後ほど事情聴取が行われる。それまで自室待機だ」

 

織斑千冬のその一声で全員が撤収していった。おおう…………すげぇカリスマ性だこと。こっちの織斑千冬とは全く違うぜ。

 

「それで、お前たちは一週間どうするんだ?」

 

俺たちを除く全員が撤収した後、織斑千冬はふとそんなことを言っていた。

 

「どうするって…………どういうことだ?」

「…………一週間どうやって過ごすという意味だ」

「あー…………ノープランだったよ」

 

言われてみればそうだ。これからどこで暮らそうか…………一週間ともなれば野営生活も厳しいところがある。俺だけならそれでもなんとかなるが、今回は一夏もいるわけだしな…………どないしよ?

 

「そこで提案なのだがな、暫くこの学園の生徒として過ごしてみないか?」

 

そんな時、織斑千冬の口から出てきた言葉は俺たちが想像していたものとははるかに予想を超えていた。

 

「折角こっちに来たわけだからな。向こうとどう違うか見ていってほしい。それに、実戦経験があるのだろう?生徒達に実戦とはどういうものかを教えてやってくれ」

 

なるほどな…………俺達を臨時的に学園へと編入する代わり、アグレッサー——つまり教導隊としてやってくれというわけだ。これもある意味取引のようなものだろう。

 

「それは構わんが、寝る所と飯はどうなるんだ?」

「寮の一室と食券を手配しておこう。お前達は交際しているそうだが、いたって健全だと聞いている。同じ部屋でも間違いは起きんだろう」

「「ぶふぅっ!?」」

 

それを聞いた途端、俺と一夏は同時に吹き出してしまった。だってそりゃそうだろ、ほぼ初見の奴から俺たちが付き合ってることを言われたら誰だってそうなるわ。

 

「ってか、誰からそんなことを聞いたんだよ…………」

「お前らの所の束だが?」

「あんの、天災兎ぃぃぃぃぃっ!!」

 

そう空に向かって叫んだのは問題ないと思う。その横であたふたとしている一夏はとても可愛かったことを此処に記そう。

 

「それにしても、こいつが一夏か…………妹であればこんなやつだったのかもしれんな」

 

そういう織斑千冬の表情は俺たちの世界のあいつが見ていたような蔑みを持ったものではなく、ただ単に可愛いものを見るような目であった。

 

「無理とは思うが一夏、暫くは私の事をお姉ちゃんだと思って接してもいいのだぞ?」

「うーん…………善処します。まだいじめられていた時のトラウマが取れてないので…………」

「そ、そうか…………すまなかったな」

 

そういう織斑千冬の顔はかなりしょげていた。まぁ、中身が違うといってもすぐに一夏は切り替えるの無理だろうし、何よりトラウマが取れてない。

 

「で、でも…………少し頼りにしています、"千冬姉さん"」

 

それでも、勇気を振り絞ってそう言った一夏は優しすぎると思うんだわ。ま、それが一夏のいい所であり、俺が惚れた所だったりするんだがな。

 

「こ、これは…………中々に破壊力があるな」

「せやろ。天使やろ」

 

それを聞いた織斑千冬の鼻からは(鼻血)が噴き出ていたのは致し方のない事だ。あの上目遣いでそんな事を言ってこられたらまず耐えられるやつはいない。俺はそう思っている。

 

 

 

 

 

『今日から転校生がこのクラスに編入される事になった。それも二名だ』

 

教室の外の廊下で待機している俺ら。結局の所、俺たちは一組に転校生とした扱いで編入される事になった。まぁ、ある意味監視付きってとこだ。だが、俺らからすれば非常に懐かしい。俺たちの世界とほとんど変わらない教室だからな。

それと、用意してもらった寮の部屋も俺たちが使っていた部屋と同じ番号の部屋だった。どんな偶然の悪戯だ。しかしそれにしても…………

 

(寮長室、超汚かったな…………)

 

鍵を受け取り寮長室に入ればゴミ袋に大量のビール缶、脱ぎ捨てられた服など最早大の大人の部屋ではないと思ったわ。千冬さん…………そこはしっかりしましょうや、俺の世界の織斑千冬と違うんだから。そんな光景を見た一夏が

 

『ちゃんとしなきゃダメだよ、千冬姉さん』

 

なんて言うもんだから、謎の妹パワー(?)ですぐに片付けてしまったものだから、これまた凄い。一夏はどんな力を秘めているのだろうか…………俺には見当もつかん。

 

『転校生!?』

『この時期に!?』

『それも二人!?』

 

なんだか教室盛り上がってんぞ。これも変わらない光景だな。ふと隣を見ると…………

 

「…………なんでそんな仇みたいに人の字を書いて飲んでんの?」

「だ、だってぇ…………き、緊張しちゃって大変なんだもん!」

「わかったから、なるようになるって思っときゃなんとかなるって」

 

完全に緊張している一夏の姿があった。もう緊張しすぎて、色々とおかしくなってしまっている。

 

「でもでも!最初の印象が大事だっていうから…………」

「落ち着きんしゃい」

「ぴゃっ!?」

 

ひとまず軽くデコピンをして意識をこっちへと持ってこさせる。「あうぅ〜〜…………」とかと言っているが、そこまで強く弾いた気はしてないので、俺はスルー。

 

「緊張しすぎんのも考えもんだ。この際、軽いノリで行っちまえばなんとでもなるさ」

「そうかなー…………?」

『静かにしろ。では、入ってきてくれ』

「ほら呼ばれたぜ。俺から先に行くからついて来いよ」

「わ、わかってるって!」

 

そう言って俺は教室へと入った。おおう…………視線が彼方此方から集まってきやがる。相変わらずこれだけは慣れないもんだな。

 

「二人とも、自己紹介をしろ」

「了解した。俺は紅城悠助だ、適当によろしく頼む」

「私は織斑一夏っていいます。どうやら同じ名前の方がいるようですが、全くの偶然です。よろしくお願いしますね」

 

結局のところ、一夏の偽名が思いつかずそのまま行っちゃう事にしたのだった。まぁ、紅城榛名とか考えたが、今度は榛名が抗議してきたからな…………面倒だったぜ。

 

「お、男!?」

「情報は!?他に情報は入ってないの!?」

「あのワイルド系イケメン…………最高よ!」

「てか、あっちの女の子もレベル高いって!」

「あの子、天使だわ…………!」

 

相当キャーキャー騒がれてんな。だが、まだあの時のようなソニックウェーブが来てねえから大丈夫だ。あれはマジ音響兵器の類だろ。

 

「あ、やべ。言い忘れてたが、こいつは俺の彼女だ。ワンサマー、手を出すなよ?」

「さ、サーイエッサー!!」

「いい返事だ」

「って、そんな簡単に暴露していいの!?」

「遅かれ早かれいつかは知られるだろうしな。それに、あそこのワンサマーにお前を取られたくはねえ」

「そ、それはこっちもだよ…………私も悠助を取られたくはないからね」

「一夏…………」

「悠助…………」

 

俺と一夏は互いに向き合ってそう言った。別に恥ずかしいとかと言った感情はない。最早自宅ではこんなのが恒例行事だからな。

 

「んんっ!二人とも、夫婦漫才はそこまでにしておけ。お前たちの席はあの後ろの角だ」

「了解。行くぞ一夏」

「うん」

 

俺は一夏の手を引いて席へと向かった。その間、周りから幾多もの熱い視線を受けていたんだがな。中にはブラックコーヒーを取り出している奴もいた。…………なんだかんだで思うんだが、何故にブラックコーヒーが必要なのだろうか?理由が全くもってわからん。

 

「さて、これでSHRは終わりだ。各自、次の授業の準備をしておけ」

 

そう言って千冬さんは教室から出て行った。ついでにその後を追うように半ば空気と化していた山田先生も。あの人はこの世界でも苦労体質だろうな。

 

 

「では、各種攻撃における戦闘機動について解説を始める」

 

そんで最初の授業なんだが、俺にとっちゃ基礎中の基礎なもんであまり聞く必要もなかった。俺からすれば戦闘機動なんて出来て当たり前のことであり、それ以上に連携やら地形情報の整理とかを同時並行しつつ、残弾数や作戦ターゲットの確認といった複雑な事を一人でやらなければならん。戦闘機動なんてもんは最早反射的に出来てなければならんのだ。俺はそういったことを失敗の許されない戦場で学んできたからな。一夏の場合、先天的にそういったことができるから問題ない。そう考えると一夏はやはり天才児だったんじゃないかと思えてくる。

 

「ここには戦闘のスペシャリストがいるからな。そいつに解説を頼もうかと思う」

 

だが千冬さんはそんな事を言ってきた。周りも「誰だろう?」とか「そんな人いたっけ?」とかと言っている。中には「ボーデヴィッヒさんかな?」とかと言っている奴もいた。まぁ確かにラウラも軍人なわけだし、それくらいできるかもしれんな。ま、俺には関係のなさそうな話だし、少々寝るとしますか。

 

「では紅城、頼むぞ」

 

…………?はて?今千冬さんはなんと言ったんだ?俺に授業を任せるみたいな事を言ったぞ。待て待て待て、確かに扱いはアグレッサーみたいなもんだが、それはワンサマー限定の話なんじゃねえのか?

 

「先生、どうして紅城君なんですか?戦闘のスペシャリストといったら軍人のボーデヴィッヒさんじゃないんですか?」

「あいつもそうだが、紅城はより実戦的なところにいる。もしかすると国家代表と互角かもしれんぞ」

「ちょい待てー、余計なとこつけんなや。第一、交戦経験がねえだろ?」

「そうか?代表候補生や国家代表が二人がかりででも倒しきれなかった襲撃者をたった一人で二機も食ったんだ。強くなければ困るぞ」

「そう言われてもな…………」

 

俺はそう頭を掻いた。いやだってそうだろ?急にそんな事を言われてしまえば、俺だって困るわ。だがまぁ、あの人がこのまま食いさがるわけもなさそうだしな。

 

「そこを頼む、傭兵」

「へいへい…………やればいいんしょ?ただ、俺の経験に基づいて話すぜ?教本はあてにならん」

「それで構わない。現場の声がより一層刺激になるだろう」

 

ガチのアグレッサーじゃねえか。そう言われて教壇に立った俺だが、こんな事をするのは初めてであり、完全に参ってる。

 

(うげ…………)

 

挙句、至る所から視線の嵐。これが実弾だったら俺は蜂の巣の愉快な死体に早変わりだ。おまけに何故か代表候補生からの視線が痛い。千冬さんが余計なこと言うからだ。だが、仕事を任された以上やるしかねえな。

 

「まぁ、なんかこんな風に講師役として呼ばれたわけだが、あまり大したことは言えねえぞ?それに、俺の戦いでは正々堂々なんてものはない。勝つためにはどんな卑怯な手でも使うのが俺の流儀だ。それでもいいなら受けるといい。では、まずは基礎的な機動からだ」

 

俺は黒龍のライブラリからデータを拾い上げ、使えそうな実戦データファイルを開き、それを黒板に投影した。

 

「こいつは慣れれば誰でもできる奴で、死角攻撃(デッドアングル・アタック)という」

 

このとき使ったのは中東での戦闘の奴だ。あの時はラマーチ乗りが初陣だったのか、そのまま動くことなくただ俺に射撃をぶっ飛ばしてくるだけだった。射線は読みやすいわ、動かないわで体のいい的だったわ。その時に使ったのがこの機動。

 

「こいつは瞬時加速により敵機の正面から一気に消え、背後や下、上部を狙う。このとき、スラスターの制御は使わず手足の動き——AMBACを使って制御だ。方向さえ合わせれば射撃戦で引き撃ちにすぐ移行できる。スラスターを使用すれば加速エネルギーも無駄になるからな」

 

次に出した映像はこれまた中東での戦闘。この時は直線的に突っ込んでくる格闘機が相手だった。しかも牽制射撃付きだ。だが、そんなものに俺は関係なくある方法で速攻撃破したんだがな。

 

「こいつは少々面倒な機体制御が必要だ。困惑機動(コンフューズ・アタック)といい、上下左右に機体を振って視界から逃れ、一気に懐に潜り込む格闘用の機動だ。ただ、こいつはナイフやアサルトブレード、ナックルにパイルバンカーと超近接武器でなければ使うのが難しい。だが、距離の取り方さえミスらなけりゃ、バスターソードでもいけるぞ」

 

映像では俺が懐に潜り込んでラマーチの腹にバスターナックルを叩き込んでいる。ちょい刺激が強すぎただろうか?

 

「こいつは水平噴射機動(ホライゾナル・ブースト)。すでに使える奴もいるかもしれんが、一応紹介しておく」

 

映像ではほぼ地面から離れず低姿勢で高速移動する映像が流れている。ただし、場所はイレイズド・セカンドでの対通常兵器戦。今までとの映像の違いに生徒は驚愕していた。だろうな、俺がやっているのはガチのドンパチだからな。模擬戦なんかとは違う、命のやり取りだ。

 

「俺がやっているのは一対多の戦闘だ。こうなると射線が複雑になっちまう。さらに飛んだら飛んだで四方八方から攻撃されちまう。そこで、攻撃される面を一つでも減らすのがこの機動だ。まぁ、普通一対多なんてことにはならんだろうから、別に関係ないか」

 

そして最後に出す映像は再び中東に戻っての映像だ。この時は小隊クラスの部隊に出くわして、面倒なことになったんだわな。

 

「今まで紹介してきた奴が無理だと思える奴はこれを使え。盾吶喊機動(シールド・バッシュ)だ。文字どおり、自前の物理シールドを自身の利き手とは反対の方に展開し、そちらを前に向けて突っ込む至ってシンプルな機動だ」

 

映像では俺がシールドを構えて敵機に体当たり。そして困惑している隙にバスターソードで切り捨てている。今だから思うんだが、俺相当やばいことやらかしてきたんだな。何人かは映像の凄まじさで顔を青くしている。

そんな中でもワンサマーは顔も青くせず、ひたすらにノートを取っている。少しでも多くの事を学びたいんだな、こいつ。

 

「今まで紹介したのはあくまで参考だ。機動なんて学んだところで教本どおりに使っちまったら、そのうち限界がくる。反射的に次にどんな行動をとればいいのかがわかるようになればいい。…………こんなんでいいっすかね?」

「充分すぎるくらいだ。紅城は席に戻ってくれ」

 

そう言われて俺は自分の席へと向かった。それにしても疲れたな…………こんな事今までした事ねえし。だが、いい経験にもなったな。将来の就職先を考えるとしても、いい材料になる。

 

「お疲れ様、悠助」

 

席に戻ると一夏が微笑んでそう言ってきた。そう言ってもらえるだけで俺の疲れは吹き飛ぶ。やはりこいつは俺のオアシスだ。こいつ抜きでは最早俺は行けていけないだろう、断言できるぞ。

 

「ありがとよ、一夏」

 

そんなやり取りをしていたら近くの席の女子が何故か砂糖を吐き散らしていたんだが…………何があったんだ?

 

「とまあ、紅城に紹介してもらったのは国家代表でも使う技能だ。基礎的なものだといって怠るなよ?映像にあったようにあいつは幾多もの戦場を渡り歩いてきたらしい。あれほど動けたら代表候補生にも勝るに劣らないぞ。では、次の機動は——」

 

そんな感じで授業はサクサクと進んでいく。だが俺にとってはつまらないものなので寝ようとした。その時だった。

 

「…………紙製か」

「流石といったところだな。よし、お前は寝ても構わないぞ」

「あざーっす」

 

受け止めた出席簿を千冬さんに投げ返し、俺はガチで眠りに入ったのだった。てか、出席簿を取るのが睡眠するための試験かよ。

 

 

「ゆーすけー、一時間目終わったよ?」

「おお、さんきゅー。いやぁ、慣れない事をすると疲れるもんだわ」

 

爆睡していたのか、完全に授業が終わった事に気付かなかった。まぁ、その代わりと言ってはなんだが、一夏に起こしてもらえたしな。本当、あの声で起こしてもらえるとか最高だわ。天使のささやきみたいなもんだぜ。

 

「でも、あの映像は少し刺激が強すぎだよ…………」

「実際に戦争やってる時の映像だからな、それは仕方ねえさ。あれでも修正少し入ってるからな」

 

実を言うとバスターナックルやバスターソードを使ったシーンではかなり血が飛び散ったり、肉片が飛び散ったりしている。その辺に修正を加えて、全年齢対象にしたのがあの映像だ。まぁ、ライブラリから引き出した時、修正の有無を選択できるようになっていたからな。それがあったからこっちで一度修正をかける手間がなくて済んだぜ。

 

「ちょっとよろしくて?」

 

そんな時だ。俺に話しかけてくる奴がいる。この声にこの口調の奴は一人しか知らん。

 

「オルコットか…………なんか用か?」

「用しかありませんわ!どういう事ですの、あの動きは!?下手をすれば骨折するかもしれない動きですわよ!?」

「それについては私も思った…………自分で言うのもなんだが、遺伝子強化試験素体の私でもあの動きは無理だ。一体、どうやっているんだ?」

 

そこにラウラまで加わってきた。ってか、あの動きそんなにきついものだったのか…………だとしたら完全に科学力の差しかないな。

 

「恐らく俺のISスーツの特性だ。俺のは12.7mm弾を受け止める防弾アーマー付き対Gスーツ…………別名戦闘装備と呼ばれる、実戦仕様のものだ。競技用とは別物であり相当な性能差もあるぜ」

 

一番の理由はこれだろうな。正直、音速越えの追加装備であるB型やBⅡ型での複雑な機動をしても問題ねえし。それと、全身装甲ってのも理由の一つになるのか?

 

「成る程…………つまりスク水と戦闘機のパイロットスーツみたいなものか」

「そう考えてもらって構わん」

 

ラウラはそれで納得してくれたようだが、未だにセシリアは納得できてない模様。何が不満なんだ?

 

「それでも納得できませんわ!私は自分の目で確かめたいのです!ですから、紅城さん、私と模擬戦をお願いしますわ!」

「えー、でも俺、ワンサマーの教導あるし…………」

「でしたら!私が一夏さんに相応しい教導役であるか見極めさせていただきます!」

 

セシリアの奴はそう盛大に、教室中に響き渡るような声で言いやがった。そのせいか、視線が再び俺に集まる。また済し崩しに一夏にも視線が集まるため、より一層一夏は緊張し、体が強張り始めている。さらに、セシリアがそう言ったせいで

 

「ならば私も参加しよう。軍人と傭兵、どれほど違うか確かめたい」

「あ、それなら僕も!射撃戦主体の機体に見えたから、勝負したくなったよ!」

「ならば私もだ!貴様に一夏の教導役が務まるか、この幼馴染の私が見極める!」

「私も参戦するわ!幼馴染なら当然でしょ?」

「待て、一人二組が混じっているぞ」

 

とはいえ五人も相手してたら時間を消費して面倒だ。ならばどうするかだ。簡単だ、俺の得意な一対多の殲滅戦でやりゃいいんだ。

 

「まぁ、そこまで言うなら仕方ねえ。てめえら、機体の状況は?」

「万全ですわ」

「損害はほぼ無しだ」

「あまり攻撃受けなかったしね」

「いつでも構わんぞ」

「すぐにでもできるわ」

「わかった…………放課後、俺対てめえら全員の模擬戦で構わんな?」

「「「「なっ…………!?」」」」

 

五人は驚愕していた。まぁ、そりゃそうだろうな。だって、普通ここまで戦力差のある戦いはしねえだろ。だが、俺たちからすればこんなのが日常茶飯事な上に、俺は一人で十機も喰らい潰し、その後も連続で戦闘し続けていたからな。五機くらいなんとでもなる。

 

「いや、悠助!?それはいくらなんでも無茶じゃ…………」

「大丈夫さ、俺を信じろ。俺は負けねえさ。今までも、ずっとそうだったろ?」

「…………そうだね。うん、それじゃ模擬戦頑張ってね。応援してるから」

「ありがとよ。——で、お前らはそれでいいな?それと兵装は自由で構わんな?」

「構いませんわよ」

「見たところ、アサルトライフルにバスターソード、ナックルしか使ってなかったな」

「僕もそれで構わないよ」

「私もそれで構わん」

「私も別にいいわ」

「じゃ、話は決まったな。アリーナについては俺が話をつけておく。それじゃ、放課後な」

 

そう言ってこの場は解散となった。さて、少々放課後が楽しみになってきたな。それに、兵装が自由だときた。つまり、アレを使っても構わねえって事だよな?

 

「な、なぁ?本当にあんな事言って大丈夫なのか?」

「悠助なら心配いらないよ。多分、今まで倒してきた数は両手の指より確実に多いから。負けるのはまずないと思うよ」

「それでも、一対五は…………」

「実際に見た方が早いよ。それまで待っててね」

「お、おう」

 

ワンサマーの説得は一夏がしてくれたようだ。今のところワンサマーが一夏に惚れるような素振りはない。心配は杞憂に終わりそうだな。

 

 

そして、迎えた放課後。第三アリーナの借用許可が出たためそこで模擬戦を行う事にした。そんなわけで俺はピットのカタパルトで待機していた。その横には一夏とワンサマーの姿もある。

 

「さて、戦闘装備に異常個所無し、っと」

「うおぉ…………悠助のISスーツ、なんかどこかのロボアニメのパイロットスーツみたいだな」

「そうか?俺にはよく分からん」

 

どうやらこの戦闘装備がそのロボアニメのパイロットスーツに似ているらしい。だが悲しいかな、俺はそんなものとほぼ無縁の生活をしてきたから全くもってわかんねえんだ。

 

「じゃ、行くとするか。やるぞ武蔵」

〔了解した。黒龍、展開する〕

 

武蔵のその言葉と共に俺の体を六角形の非発光体が幾多も組み合わさって、装甲を形成していく。それと同時に程よい重量も感じる。そして、ディスプレイには[ARMOR COMPLETED]の表示が出てきた。これで機体の展開は完了したという事だ。

 

「武蔵、Dアームズ、VLSに装填されている誘導弾を全てリストに出してくれ」

〔任せろ。本体はまだいいな?〕

「ああ、リストを見てからから判断する」

 

ディスプレイに誘導弾のリストが表示された。まず一番上に来るのが通常弾頭、低コストで最も装填弾数が多い。次に来るのがキャニスターだ。ベアリングを内蔵した広範囲攻撃ミサイルである。その次が多目的榴弾。こちらは基本何にでも使える。次にほぼ切り札と言ってもいい対IS用成形炸薬弾。コストが通常弾頭よりもかかる。そして最後に本当の切り札とも言える対IS用大型誘導弾アルバレスト。こいつは当たりどころによっては一撃で全てを喰らい潰す。

 

「そうだな。通常弾頭がどれだけ残っているかわからんが、なんとかなるだろ。その他にガトリングとロケットは?」

〔あの戦闘以降、全装填弾数を三割り増しにして詰め込んである。心配するな〕

「よし、じゃDアームズ、リフトオフ」

〔了解。Dアームズ、リフトオフ〕

 

その言葉と共に俺の背中にはDアームズが接続された。同時にディスプレイにも全てのモジュールにある残弾量が表示された。まぁ、アクティブ・カノンの粒子砲に限っては残弾量という概念がないんだがな。あれ、重力子が尽きない限り撃ち放題だし。

 

「って、なんじゃそれ!?それがISなのか!?」

「そう。悠助の黒龍には機体の機能を拡張するユニットが装備されているの。そのうちの一つだよ」

「機体がおまけにしか見えないんだが…………」

「まぁ、そう言うなって。それじゃ、紅城悠助、黒龍、出るぞ!!」

 

俺は機体のスラスターを全開にして、アリーナへと降り立った。だがな、相当こちらにも制約がかかりすぎてつらい。Dアームズのブースターは確かに強力だが、ここで使うには遊びが大きすぎる。かと言ってG型では火力が心許ない。結局、Dアームズで固定砲台としてやるしかないのだ。

アリーナに出た時、既に五人の準備は終わっていた。それにしてもカラフルな機体だこと。

 

「って、なんですの、その装備は!?」

「悪いな、兵装が自由だと言われたらこれを使うに決まっているだろ?」

「だからって自重ってないの!?」

「ない。自重したら死ぬ世界で生きてきたから」

「どんな世界だか知らんが、その鈍重な機体で勝てると思っているのか?」

「接近戦で仕留めてやるわよ!」

「甘く見てるとすぐに終わるぜ?」

「全力を尽くそう。私にできるのはそれだけだ」

「望むところだぜ、軍人さんよ」

 

さて、カウントダウンが始まったようだな。俺の機体は全長約七メートル、アリーナでの機動戦は無理。もとより近接装備もないから、なんとかやりきるしかない。だが、一夏の見ている手前、格好悪いとこだけは見せたくねえんだわ。という事で、この勝負勝たせてもらうとしよう。

そして、カウントがゼロになった瞬間、

 

「VLS、一番から四十八番、通常弾頭装填!フルファイア!」

 

問答無用で通常弾頭の雨を降らせた。それにイージスシステムに引けを取らないほど高性能なマルチロックシステムもある。通常弾頭とはいえ、スタンダードミサイルと同じだ。つまり、

 

「ま、待て!なんだこの弾雨は!?」

「む、無理!避けられない!」

「被弾した!被弾した!」

「本当にありえませんわ!?」

「常識外だよ、これ!」

 

地獄と化す。だが戦場に立った瞬間から俺には容赦など残っていない。あるのはただ一つ。敵を撃滅し、その手に勝利を収める事だけだ。

 

「アクティブ・カノン、一番二番、榴弾装填、撃てっ!」

 

ミサイルでもがき苦しんでいる連中に今度は特大榴弾をお見舞いしてやった。460mm級だからな、相当な破壊力を有しているはずだ。近接信管だから、何かに近づきそこで起爆した。俺からしっかりと確認できるほどのでかい爆煙が見えた。だが、これだけの攻撃をしたところで未だ落ちる気配はない。追加攻撃として115mmガトリングと220mmロケットランチャーを放った。最も、こいつを模擬戦で使った事ないから俺には加減が分からん。使う時はいつも実践のみだったし。

 

「ここまでですわ…………」

「くっそ〜!次こそ負けないわ!」

 

ここでセシリアと鈴が脱落したようだ。残っているのは残りエネルギーも僅かといった篠ノ之にシャルロットにラウラだな。どれ、そろそろ弾薬費がやばそうになってきたし、通常装備に切り替えるとするか。

 

「そろそろDアームズ外すわ。武蔵、格納頼む」

〔了解。ひとまずアサルトライフルを出しておくぞ〕

「お、気が効くな。ついでに対IS用ガトリングも頼む」

〔シールド付きでな〕

 

Dアームズを格納した俺は右手にアサルトライフル、左手にガトリングガンといった基本的な装備に戻る。まぁ、装備はホイホイ変えるからあんまり意味ないんだがな。

 

「くっ…………舐めているのか、貴様!」

 

とかと言って俺に突っ込んでくる篠ノ之。その突撃のスピードに関しては目を見張るものがある。だが、所詮はその程度だ。速いだけで、直線的に突っ込んでくる。俺からすれば体のいい的だ。というわけでアサルトライフルとガトリングを撃ちながら、飛んでくる銃弾やら砲弾やらを避けていく。

 

「なんで!?こんな奇襲じみた攻撃をしたのに!?」

「奴は乱戦慣れをしている!生半可な攻撃は効かんぞ!」

 

どうやら俺が攻撃を避けた事がそんなに驚く事だったようだ。まぁ、ラウラは分析して攻撃かけてくる分、厄介で仕方ないんだがな。だが、今は目の前の篠ノ之を処理するか。さっきから俺の銃撃がこれでとかという勢いで当たっているんだがな。このままだと奴はそのうちエネルギー切れだな。ま、そんな単純に終わらせるほど、俺は優しくねえ。

 

「貴様!この私をコケにするつもりか!」

 

急に加速してきて俺に斬りかかってきたが、まぁ避けられるわな。寧ろこの程度なら白刃取りしても良かったかもしれん。ついでに言えば、俺の攻撃領域に自分からこいつは突っ込んできた。そうなればやる事は一つ。

 

「コケにしてねえよ。ただ、お前の運がなかっただけさ」

「がっはあっ!?」

 

俺は篠ノ之に蹴りを叩き込み、その吹き飛んだボディに左腕のマルチランチャーからグレネードを放つ。それは吸い込まれるかのように篠ノ之へと着弾し、そのまま篠ノ之は戦線離脱が決定したのだった。さすがGEW社製のグレネード。安定の破壊力だ。

 

「体術も使えるの!?あんな無茶苦茶な戦い方、初めて見たよ!?」

「なら、もっと無茶な戦いを見せてやろうじゃねーの!」

 

次に狙いをつけたのはシャルロット。銃撃屋はさっさと潰しておきたい。さらに言えばあの至近距離で放たれるパイルバンカーがマジで怖い。あれ食らったら、黒龍の装甲ですらへこみ傷が付きそうだ。そうなったら武蔵がヘソを曲げそうだし、メンテも少々面倒臭い。装甲のオーバーホールなんてあまりしたくないもんさ。まぁ、異常なまでに堅固な複合装甲だからそう簡単にはやられんけどな。

ガトリングを撃ちながら、一度アサルトライフルを格納し220mmバズーカを展開する。カートリッジにはキャニスターをセット、迷いなく放った。爆音と共に三発の砲弾が放たれ、それらはシャルロットの直前で起爆した。飛び散るベアリングは否応なくシールドバリアを叩いていく。

 

「ぐうっ…………!なんて火力なの!でも、僕だって!」

 

シャルロットは実体シールドを構え、俺が教えたシールドバッシュによる突撃を仕掛けてきた。おまけにパイルバンカーも展開済み。あの一撃は本当にシャレにならんからな。だが、その攻撃には欠点もある。ガトリングによる牽制射撃をしつつ、カートリッジ切れのバズーカを格納、次に取り出したのはブーストハンマーだ。バスターソードよりは攻撃力が落ちてしまうが、今はこっちの方が使い易い。奴が突っ込んでくると同時に俺もブースターを点火、一気に彼我の距離を詰める。

 

「これでもどうかな!」

 

シャルロットはおまけとばかりに重機関銃を放ってくる。だが、その程度の攻撃で俺のシールドエネルギーはまず減らん。いやに硬い装甲により弾き返されるだけだ。それで俺の突進力は抑えられんぞ。

 

「効かない!?…………でも、僕にはこれが!」

 

そう言って彼女は自慢のパイルバンカーを振りかぶった。パイルバンカーは別名『盾殺し(シールド・ピアース)』とも呼称される。構えた盾ごと相手を貫く事ができるという意味だな。しかも六十九口径と話は聞く。相当な破壊力だろう。だが、俺のブーストハンマーも似たようなもんだ。ハンマー後部のブースターを展開し、俺は横殴りに振るった。

 

「えっ…………!?」

「どぅわっせいっ!!」

「きゃあっ!?」

 

構えていたパイルバンカーをシールドごとを吹き飛ばす。そして、その衝撃でシャルロットはアリーナの壁面近くまで吹き飛んだ。そう、これこそがブーストハンマーの威力だ。例え相手がシールドを構えていようとも、それごと相手を叩き潰す。直撃した物理シールドは砕け散り、機体のエネルギーが尽きた事が俺のディスプレイに表示された。さて、これで残るは…………

 

「やっとお前だけになったようだな、ボーデヴィッヒ」

「まさかあれほどの戦力差にもかかわらず、ここまでやられるとはな…………無様なものだ」

 

ラウラはそう言うが、その目に宿る闘志はまだ消えちゃいない。さて、そろそろこっちもカタをつけるとしないとな。向こうはレールカノンが弾切れになったのか、既に砲口は下を向いている。ブラフかもしれんが、その線はないように見える。さっきまで交戦している時、あいつは俺を狙って何度もレールカノンを放ってきていた。全て避けたからいいものの、当たりどころが悪かったら装甲に亀裂が入るんじゃねえの?まぁ、当たってないから無駄弾になったろうがな。そんなわけで彼奴は両手にプラズマブレードを展開している。ワイヤーブレードがいつ展開されるかわからんが、接近戦に持ち込めばなんとかなるだろ。

 

「だが、私とて軍人だ。せめて一矢報いてやるとしよう。さぁ、行くぞ!」

「望むところだってんだよ!」

 

俺とラウラは同時にブースターを点火、一気に距離を詰めた。俺の手には対装甲ナイフが装備されている。別にビームサーベルを使ってもいいんだが、やはり使うとなりゃ実体兵器が俺の性に合っている。

接近し、互いに切り結び、受け流し、偶に避けて再び切り結ぶ。中々の技量があるようだ。だが、あまり一夏を長く待たせるワケにもいかねえ。ここいらでちょっと終わらせるしかねえな。

 

「中々やるようだな!」

「それはこっちのセリフと言いたいところだ。だが、そろそろ終いにしようじゃねえか」

 

切り結んで動かない今、俺の両手には武器を展開することなど不可能。マルチランチャーも徹甲弾を撃てるわけではないため使用不可。チェーンブレードも使い所じゃない。だが、俺にはまだ射撃兵装が残されている。それも、確実に絶対防御を作動させられる射線を取っている武装で。

俺は頭部近接防御機関砲を迷いなく放った。対人用の5.56mmNATO弾がガトリングと同じ速度で放たれる。まぁ、中身はどっかの企業が開発した小型ガトリング[マイクロガン]と同じだからな。ISには非力かと思えるが、実はそうでない。俺が狙っているのは頭部だ。つまり、装甲の無い部分は絶対防御が必ずと言っていいほど作動するもんだ。

 

「なっ…………!?そんなところに武器が!?」

「俺は全身武器みたいなものだ。接近戦に持ち込んだからって撃たれないわけねえだろ?」

 

ラウラのゲージを見ていけば、シールドエネルギーがものすごい勢いで減っていく。絶対防御作動すると派手にエネルギーが減るとは聞いていたが、ここまで減るものなのか?

 

「さて、これで終わりだ!」

「ぐはっ…………!」

 

俺はラウラの腹を蹴り飛ばし、右手に持っていた対装甲ナイフを投げつける。それは残されていたシールドエネルギーを喰らい潰し、試合終了のブザーがアリーナに鳴り響いた。

 

「ふぅ…………戦闘終了だ(コンバット・クローズ)。帰投するぞ」

〔了解した〕

 

 

 

 

 

 

容赦がない。

俺がまず最初に抱いた感想がそれだった。全てを焼き尽くすような異常なまでの火力。それを除いたとしても、全体に隙がなかった。攻撃の一つ一つがまるで命を刈り取っていくような、そんな鋭いもので、今まで強いと思っていたシャルやラウラもそれにやられていった。本当に赤子の手をひねるような、そんな感じ。

 

「これが…………悠助の力…………」

「そうだよ。でも、多分悠助、結構手加減していたかもしれないよ?」

「あれで手加減!?どういうことだよ!?」

「実は悠助の機体には幾多もの砲弾が積まれていて、中にはマイクロブラックホールを作っちゃうようなものもあるんだって。そう言ってたんだよ」

 

俺の横でそう一夏——自分と紛らわしいので織斑さんが言っていた。手加減していたなど、俺には到底信じられなかった。恐らくあれじゃ千冬姉と同等かもしくはそれ以上なのかもしれないと思った。俺は少し怖くなってしまった。悠助という存在が、全てを焼き尽くして、何もかも奪い去ってしまうような、危険な存在として。けど、それ以上に俺はそれを超えてみたいと思っていた。彼を超えたら俺はきっとみんなを守れる、みんなと笑って生きていける。そう思うと、これからの特訓がより楽しみになってきた。

 

 

 

 

 

 

「今帰ったぞー」

「悠助、お疲れ様」

 

俺がピットに戻ると、一夏が俺に抱きついてきた。それを俺は胸部装甲と頭部を解除し優しく受け止めてやった。俺が帰ってくるといつもこうだ。離してくれそうにはない。だが、一夏は甘えん坊だから仕方ねえんだ。それに、俺にとっての唯一の家族みたいなものさ。俺だってこいつの事を考えてばっかりで、つい甘やかしてしまう。でもまぁ、悪い事をしたら素直に謝るような真面目な奴だから、悪い気はしないな。

 

「悠助…………その、凄かったな」

「そうか?本気を出したら戦場の一つ焼け野原にできるぜ?」

「やらなくていいから!というか、さっきの見せられた後だと、本気でやりかねないだろ!?」

「いや、昔に一回やったし」

「この人悪魔だ!?」

 

いやマジであるよ?北アフリカ戦線の時に、ある小国で新政府と旧政府の対立があったんだがどっちもまともな政府じゃなくてよ、そのうち第三勢力の政府が出来ちまいそうだったんだ。だが、そこには戦力もない状況でいつ潰れるかもしれなかったんだが、国民の大半がそこについてたんだわ。というわけで俺がその内戦に介入、新政府と旧政府の全戦力を無力化し擬似コアも全てを砕いてきたんだよ。今頃新政権の元、嘗ての暮らしが出来てりゃいいんだがな。

 

「で、どうだ?特訓についてこれそうか?」

 

俺はそうワンサマーに問う。実際あんなもん見せられたら弱音を吐くのが大半なんだろうが

 

「俄然やる気が出てきた!ビシバシ頼むぜ!」

「よし、それでこそ漢だな」

 

こいつに限ってそんな事はねえだろ。よく言えば熱血漢、悪く言えばただのむさ苦しい奴。だが、そんな奴が少ないこのご時世だからこそ、こういうのは大切にしてやりたいもんだ。

 

『続いて、織斑一夏対更識楯無、更識簪ペアの試合を行います』

「はい!?私、そんな話聞いてないんだけど!?」

 

そんな時、突如試合のコールが流れた。それも何故か試合をするとは言ってない一夏と楯無に簪だ。これは一体どういうことなんだ?

 

『すまん、織斑。更識姉がどうしてもお前と試合したいそうでこうなってしまった。しかも、あの試合の後だからお前も一対多が出来ると思って更識妹まで連れてきた。これは事前に許可の取られてない模擬戦だから拒否してもらっても構わない。お前はどうする?』

 

…………なるほど、毎度毎度問題を引き起こすあの生徒会長の仕業ってわけだな。俺としても彼奴には得物を突きつけられた借りがある。それに、俺の世界じゃ一夏を転ばせた挙句、怪我をさせやがったからな…………あの時、一夏がいじめられてんじゃねえのかって本気で不安になったからな。ま、その夜に生徒会室に乱入してフルオートショットガンのサービスを提供したんだが。

だが、今回オーダーがかかったのは一夏だ。やるかやらないかは一夏に任せたいところなんだが…………どうにも俺は心配性でな、一夏が一人で相手にできるかがわからん。もし無理なら援護機として俺が入ってもいいんだが…………。

 

「わかりました。三分で準備します」

『了解した。そう伝えておくぞ』

 

どうやら一夏はやる気があるようだ。だが…………やはり心配だ。

 

「一夏…………お前、大丈夫か?」

「うん…………突然決まったことだからびっくりしちゃったけど、でも大丈夫。やるだけ頑張ってみるから」

「一夏…………」

「それに、いつまでも悠助に守ってもらってばっかりの弱虫でいられないもん。私だって悠助の背中を守れるくらい強くならなきゃ」

 

そう言って意気込む一夏の顔はいつになく頼りになる顔だった。こいつは甘えん坊で弱虫で…………だけど、何処か真っ直ぐな芯が一本通っていて、簡単に自分の言ったことを曲げたりなんてしない。これ以上、俺が口を出すのも野暮な話だ。

 

「おいで、蒼龍」

 

その言葉と共に、一夏の体が一瞬眩い光に包まれたかと思いきや、既に蒼龍を纏っており、いつでもいけるようであった。両手にはブレードライフルとトンファーブレードがコネクタに接続されている。なんだよ、やる気満々だな。

 

「一夏」

「どうしたの?」

「まぁ、なんだ、悔いの無いようにやって来い」

「わかった。織斑一夏、蒼龍、行きます!」

 

まるで俺が出る時のように一夏もそう言ってカタパルトから射出されていった。そんなあいつの背中がやけに大きく見えたのは気のせいではなさそうだな。

 

 

 

 

 

「すみません。お待たせしました」

「あら、思ったよりも早く来たみたいね」

「…………なんだかごめん。お姉ちゃんの我儘に付き合わせちゃって」

「気にしなくていいよ。私も自分がどれくらい強くなったか気になるしね」

 

上空に躍り出ると、そこには楯無さんと簪が待機していた。楯無さんの機体は私たちの世界と変わらないけど、簪の機体は緋龍とは違う、打鉄と似た機体を使っている。多分、あれが完成した打鉄弐式なんだと思う。見た感じミサイルのハッチらしきものが確認できるし、打鉄よりも装甲が薄いから大体緋龍と似た感じだと思う。

 

「それじゃ、始めましょうかしら」

「…………行くよ」

「うん。こっちも全力で行くからね」

 

楯無さんはランスを、簪は脇の下から何か砲身みたいなものを展開する。多分、あの形状だとビーム兵器かな?少なくとも悠助の使っている実弾兵器とは違っている。私も展開していたブレードライフルとトンファーブレードの刀身を展開した。ここまできたらやるしか無い。

 

『試合開始』

 

そのアナウンスと共に、私はウィングブースターを点火、一気に駆け出した。蒼龍の機体特性上、何度も斬り合うのは少し苦手。だから、一撃離脱を心がける必要がある。というか、単に私の力が弱いだけなのかもしれないんだけどね…………。

 

「来たわよ!牽制射撃!」

「…………わかっているから」

 

私が突っ込むと同時に向こうは牽制射撃をしてきた。楯無さんはランスからガトリングを撃ち、簪は荷電粒子砲を撃ってきた。ただ、連射速度が速い。こっちの簪が使うビームガンと同じくらいだと思う。だが、私もそんな攻撃に当たるわけにはいかない。

一度トンファーブレードを畳み、アームカノンを放った。サブマシンガンと同等の速度で放たれるビーム弾は牽制にはもってこいだ。

 

「び、ビーム兵器!?一旦散開するわ!」

「…………なんか、どっかのロボアニメの機体に見えてきたよ」

 

ビームに驚いてか二人は散開した。近接戦闘に持ち込むにはちょっと距離があるかな…………?仕方ない。ブレードライフルも畳み、ビームライフルとして使うことにした。まず先に狙ったのは楯無さん。あの水のヴェールが少し厄介に思えるからね。

 

「先に私を倒そうってことね…………いいわ、かかってらっしゃい!」

「じゃ、一気に行きますよ!」

 

再びブレードライフルの刀身を展開し、楯無さんに斬りかかった。だが、その一撃はランスによって防がれてしまった。けど、これで十分。

 

「てやぁぁぁぁぁっ!」

「嘘っ!?」

 

私にはトンファーブレードが残っている。それをその場で一回転するように振るい、楯無さんを弾き飛ばした。一度目の攻撃で相手の手を押さえつけ、そこから一気に攻め込む。これが、私の使う二刀流の基本だ。今の一撃で水のヴェールを作っていた腰のあたりにあるアクアクリスタルを一つ破壊したようだ。

 

「…………お姉ちゃん!」

「油断した…………でも、まだいけるわ!簪ちゃん!」

「…………うん!」

 

再び合流した二人。楯無さんは再びランスを向けて突進してきたが、今度は簪が荷電粒子砲を撃って援護してくる。うわぁ…………これ相当心臓に悪いかも。でも、やらなきゃ負けちゃうし、悠助にかっこいいところ見せたいもん。

 

「榛名、行くよ!」

〔了解です!全力で参りましょう!〕

 

私も楯無さんに目掛けて突撃する。ウィングブースターの出力は通常でも瞬時加速と同じくらいの出力だ。けど私は今の所楯無さんを相手にする気は無い。楯無さんを攻撃するように見せかけて、そのまま楯無さんの上を通り抜けていく。

 

「なっ…………!?」

 

その事に楯無さんは驚いていたみたいだけど、私にはあまり関係無いかな?そのまま簪に目掛けて突撃する。

 

「…………油断ならない相手だね」

 

簪は右手を一度フリーにしたかと思いきや、薙刀に持ち替え、私にその切っ先を向けてきた。薙刀…………相手にしたことが無いからわからないけど、やってみる価値はある。

 

「悠助には劣るけどね!」

 

降り降ろされる薙刀をトンファーブレードで受け止め、そこを軸に一回転するようにウィングブレードで斬りつけた。ただの回避運動すら攻撃に変える武器だ。ただし、使い勝手は非常に悪いんだよね…………当たらないときは当たらないし。

 

「…………そこにも武器!?全身ハリネズミだね!」

「その評価は初めてだよ…………」

 

ブレードライフルを薙刀に当て、そのままの勢いで吹き飛ばす。だけど簪もただやられているだけじゃなく、荷電粒子砲を撃ってきた。私は宙返りをするように回避して、一旦距離をとる事にした。やっぱり悠助のように上手くはいかないなぁ…………一対二は難しいんだね。

 

「後ろがガラ空きよ!」

「攻めてくると思ってましたよ!」

 

宙返りした隙を狙って楯無さんがランスを突き出してきた。その一撃を交差させたブレードライフルとトンファーブレードで受け止めた。ぐうっ…………一撃が重いよ!

 

「ねぇ、ところでさ、なんだか暑くないかしら?」

「い、いきなり何を——」

「質問を変えるわ。ねえ、ちょっと湿度が高くないかしら?」

 

そう言われてハッと思った。周りにはなぜか霧が漂っている。これはまずい、私の本能がそう直感的に訴えてくる。

 

清き情熱(クリア・パッション)!」

〔させません!〕

 

ギリギリで榛名がブレードビットを展開してエネルギーフィールドを張ってくれたから辛うじて防げたけど、今のは本当に危なかった…………下手したらあれで終わっていたかも。

 

「…………ターゲット、ロック」

 

だが、そんな風に安心などしている余裕は私にはなかったのだ。これは一対二。楯無さんの攻撃を防いだからといって、簪から攻撃が来ないなんてことはない。ミサイルのハッチが開き、中から高性能誘導ミサイルが放たれた。その数、四十八。正直、今の私には少し荷が重いかもしれない。けど、私は負けるわけにはいかない!

 

「…………ごめん、榛名。あの力、使うよ」

〔謝ることはありません。さぁ、行きましょう!〕

 

——CODE:OVER DRIVE

 

その表示が出てくると同時に、蒼龍は蒼き粒子に包まれていく。そう、これこそが私の切り札、限界負荷機動。悠助が手加減していたって言った理由の一つもこれ。でも、私には手加減できるほどの技量もないからね。これに頼るしかないんだ。

一度ブレードライフルとトンファーブレードを格納し、代わりにビームサーベルを取り出した。取り回しの良さといったらこの武器しかない。飛来してくるミサイルを私は片っ端から切り裂いていった。限界負荷機動をしている間は私の身体能力も飛躍的に向上する。だから、飛んでくるミサイルを切り裂いていくことが可能なんだ。それでも私を仕留めようとミサイルは迫ってくる。

 

「榛名!操作任せるよ!」

〔了解しました!〕

 

それを榛名が操作するブレードビットで切り裂いていく。実質、私は一人で戦っているわけじゃない。榛名という最高のパートナーと一緒に戦っているんだ。

 

「…………嘘…………あれだけあったミサイルを全部落とすなんて…………」

 

いつの間にかミサイルを全て破壊した私は簪に狙いを定め、一気に距離を詰めた。その驚異的な速さに簪は追いつけていない。

 

「すぐ終わらせるからね」

 

簪にブレードライフルをまず横薙ぎに振るい、次に回転するようにトンファーブレードで斬りつけ、そして両方を同時に振り下ろした。その一連の攻撃を防げなかった簪のシールドエネルギーはそこで尽きたようだ。

 

「これなら仕留められた——って、なんで簪ちゃんが倒されているの!?」

 

丁度爆煙が晴れた頃、簪が倒された事に楯無さんは驚いていたようだ。というか、あれで私を倒す気だったんだ…………それじゃあそこまで過激になるはずだよ。

 

「そ、それに、貴女、その姿は!?」

「詳しくは言えません…………けど、この試合、手短く終わらせます!」

「そう簡単にやられないわよ!」

 

再び切り結ぶ私と楯無さん。でも、今は私の方が力が強くなっているから、次第に楯無さんが押されていく。

 

「せやぁぁぁぁぁっ!」

「なあっ…………!?」

 

押し込んでいく勢いでランスを弾き飛ばした。その光景に呆然とする楯無さん。それを好機と見た私は楯無さんの周りを縦横無尽に動き回り、アクアクリスタルを破壊していく。そして、最後のアクアクリスタルを破壊した時、あまりしたくはないんだけど首元にブレードライフルの切っ先を突きつけた。

 

「降参してください。あなたの手元には武器は残っていません。これ以上戦うのは困難だと思います」

「くうっ…………!」

 

楯無さんは苦虫を噛み潰したような顔をしていた。まぁ、無理もないよね…………エネルギー切れでもなく、こんな風に武装を破壊されて、挙句降伏勧告されちゃうんだから。でも、私はあまり戦うのが好きじゃないから、こうやってできる限り相手を傷つけずに済ませたいんだ。あ、でも、悠助に手を出した時はその限りじゃないよ?もしかすると、自分でもわからないうちに天罰を下すかもしれないし…………。

 

「…………お姉ちゃん…………」

「…………わかったわ。降参するわ」

 

その言葉を聞いた私はブレードライフルを引っ込めた。戦う必要がなくなったら、武器を出している意味もないしね。

 

『試合終了、勝者織斑一夏』

「くあぁぁぁっ!でも、悔しいわぁぁぁぁぁっ!降伏勧告されたの生まれて初めてよ!!」

「…………でも、織斑ちゃん格好良かったよ」

「ありがとう。それじゃ、私は戻るね」

 

私はそう言って悠助の待っているピットへと向かった。これで少しは悠助に近づけたかな?

 

 

 

 

 

「ワンサマーよ、一夏の動きよく見ていたか?」

「い、いや、最後は良く分からなかったんだが…………」

 

ピットで一夏の帰りを待っている間、俺はワンサマーにそう聞いていた。全く、限界負荷機動を使いやがって…………あれ使うと身体にもそれなりに負担がかかるんだ。心配するこっちの身にもなってくれよ。だが、あれほど強力な切り札はない。俺も、あれを使うのは最後の最後と決めている。

 

「あれは俺たちの機体に搭載されたシステムでな、あれを使うと機体性能と身体能力が飛躍的に向上するんだ」

「ち、チートかよ…………ただでさえ、悠助達の機体が強いってのに、さらに強くなるのか…………」

「いや、欠点もあってな。慣れない奴は身体に多大な負担がかかるぞ。ましてや、コアと意識が繋がってなけりゃ使えるモンでもない」

 

俺や一夏はそれぞれ武蔵や榛名といったコア人格と繋がっている。だからこそ任意で限界負荷機動を扱うことができる。第一、RATナンバーの機体でなければ使うことはまずできないのだがな。

 

「なぁ…………俺はあれを超えることができるのか?」

 

ワンサマーはそんな事をボソッと言った。恐らく限界負荷機動での動きを超えるつもりでいるのだろうか?だとしたらそれは

 

「無理だな」

「だよなぁ…………」

 

無謀を通り越して、命を失う危険性もある。それに、明らかに大きな差が開きすぎているんだ。これ以上、どうにかなる問題でもない。

 

「だが、所詮は力だ。扱う奴の技量によってはいくらでも変わってくる。下手な奴が使えばどんな最強であっても、ガキの玩具にしかすぎん。お前はそんなつもりはないのだろう?」

「あ、当たり前だろ!」

「それなら構わんさ」

 

そうだ、力は使う奴によっていくらでも変わってくる。俺が守る為に力を振るうように、ワンサマーもまた自分の意思によって力を制御して、それを何倍にも膨れ上がらせ、望む結果を得ることができるだろう。ならば俺のする事はただ一つ。こいつをしっかりと叩き上げることだ。

だがまぁ、その前に

 

「ただいま、悠助」

 

見事に勝ってきたこいつのことを迎えてやらんとな。一夏はまさかの降伏勧告で勝ってきやがった。戦うのが好きじゃないから、こんな風な手を使うとは…………いやはや恐れ入る。

 

「ああ、おかえり一夏。凄かったな、特に最後の降伏勧告とかさ」

「やっぱりあれ以上戦うのは無理だと思ったからね。できる限り相手を傷つけずに済ませたかったの」

「本当にお前は優しすぎるよなぁ…………」

 

口では呆れたように言うが、俺は別にそれでいいと思っている。こいつに戦うってのはあまり似合わんしな。

 

「さて、模擬戦も全部終わったことだし、特訓でもするか」

「おっし!待ってました!」

「お前はすぐにアリーナに来い。先に待っているぞ。じゃ、一夏そういうことで頼む」

「うん。私は千冬姉さんの部屋でも片付けてくるね」

 

またあの魔境に手を出すのか…………昨日片付けたはずだよな?とはいえやる事もないんだし、一夏の自由にさせてやろう。俺は再び黒龍を展開、アリーナへと降り立った。

 

「で、特訓って言っても何をするんだ?」

 

俺に続いてワンサマーも降り立った。機体は白式・雪羅というらしい。確かにあの自称天才の白式とは違って、ウィングスラスターが大型してるわ、左腕に何やら武器腕がついてるわで性能はこっちの方が上のようだ。

そんなワンサマーにやらせる事は

 

「よし、これを振れ」

「はい…………!?」

 

バスターソードの素振り二百回だ。

 

「そ、それだけ!?それ以外にも技術とかあるだろ!?」

「五月蝿え、黙って振ってろ。技能なんざ後ででもどうとなる」

「お、おう…………」

 

何やら文句を言ってきたワンサマーを一睨みで黙らせ、バスターソードを預けた。するとどうだろうか、あまりの重量にワンサマーが転けた。って、それってそんなに重いのか?俺は片手でも振りまわせるんだがな。

 

〔パワーアシストが非常に強いからな、この機体〕

「成る程な。道理で強引に反動を押さえつけられるはずだ」

「ちょ…………これ、持ち上がらねえんだが…………」

「な?これでまずは筋トレしろや。それができたら次の事をしてやるぜ」

「鬼だ…………!!」

 

それでもヒイコラ言いながらワンサマーはバスターソードを振るおうと必死にやっていた。一回持ち上げて下ろすだけで息が上がってる。この先が少々思いやられるぜ…………。

 

 

でまぁ、なんやかんやで一週間の時が過ぎた。あれからというもの、俺と一夏は周りから最早謎の神格化を受けて別の次元のものを見るかのような視線を受けている。いや、其処までの事はないと思うんだがな…………俺は単に実戦慣れをしている傭兵なだけだし。

また、一夏のお陰なのか千冬さんの家事スキルが上がったとのことだ。以前はNBC兵器を生み出したとかという料理も、普通に食って美味い物に変化を遂げたとか。また、普通に掃除や洗濯ができるようになったとかなんとか…………最早一夏はなんなんだ?周りを良い方向に導いていく天使か何かなのか?

そして、肝心の俺なんだが、なんとかワンサマーの教導が昨日で完了した。それにしても大変だったな、彼奴の教導は…………。

 

『センサーだけに頼ってんじゃねえ!てめえの目は節穴か!最後に肝心なのは目で照準合わせんだよ!』

『なんだ、そのクローの使い方は!もっと間合いを詰めてから爪を突き立てろ!』

『ブレードの振り抜きが遅い!バスターソードよりも軽いんだから、すぐに振れるようにしろ!』

『はぁ?ガス欠になったぁ?てめえのエネルギー管理が下手くそだからだろ!常にゲージには目を向けやがれ!』

『雪片は燃費悪いんだからよ、一撃離脱を心掛けろ!あと無闇にレーザー刀身出すな!通常は物理ブレードで斬りあってろ!それ以外は見合いなんかしてんじゃねえ!』

 

とまぁ、ボロクソ言いまくってたら、なんかそれなりに強くなり始めてきた。よくよく思えば俺完全に海兵隊のシゴキみたいな感じに教導してたんだな…………それでいてよくワンサマーの精神が折れなかったこと。それにしても、今まで自分たちが教導役と言っていた彼奴らは何をワンサマーに教えていたんだ?動きが未だに素人から抜け切れてなかったぞ。それに、何故か近接格闘型なのに中距離射撃型の構えも混じっていた。最早なんでもありな状態で、何か一つに絞ってやれているようではなかった。こんなんじゃ強くなろうにも無理だな。

そんでまぁ俺は現在アリーナにいる。今日が最終日だからな。どこまで成長したのかが気になるってもんよ。あれだけやらせておいて何にも成長していなかったら、バスターソードで叩きのめしてやるぜ。

 

「すまん、待たせちまったか?」

 

そう思っているとワンサマーが準備を完了させて来ていた。ギャラリーは何故か多く集まってしまったが、このくらいは別に構わんさ。それよりも俺が気になるのは目の前のワンサマー。目つきは変わらんが、その奥に燃えている闘志は最初にあった時よりも激しさを増し、灼熱の業火となっている。…………こいつは期待できそうだな。

 

「いや、そんなに待ってねえよ。じゃ、始めるとしようぜ。こいつが俺の教導からの卒業試験だ。全力でこい」

「ああ…………あれだけ言われて来たんだ。機体に応えられるように頑張るぜ!」

 

そう言ってワンサマーは物理ブレード状態の雪片を構えた。それを見た俺もバスターソードを右肩に担ぐ。射撃武装はまだ使わん。たまには格闘だけでいくってのもいいもんさ。

 

『試合開始』

 

そのアナウンスとともに俺たちは同時に飛び出した。そして交差する雪片とバスターソード。だが、機体出力の関係上、俺の方が若干押し込んでいる。

 

「初撃を防げるようになったとは、成長したんじゃねえのか?」

「こっちを押さえ込んでいるくせに何を言ってるんだよ…………!」

 

だが、初撃を防いだのは及第点だ。最初はまともに受け止められず弾き飛ばされる日々だったからな。それからすれば相当な成長を遂げている。

 

「くっそぉぉぉぉぉっ!」

「うおっ、と」

 

今度はゼロ距離で荷電粒子砲を撃ってこようとした。なるほど、自分で照準が苦手だから確実に当てられるゼロ距離で狙ってきたわけか。これも悪くない。ま、俺は避けるんだがな。切り結んだバスターソードの一点を軸に、一度逆立ちのような体勢になり、ゼロ距離射撃を回避する。そのまま、ワンサマーの背後へと降り立った。

 

「ふぅ、今のは危なかったな」

「平然と避けている奴に言われたくねえ!?」

「おっと、危ねえ危ねえ」

 

ワンサマーは振り向きざまにレーザー刀身を展開した雪片を振るってきた。上体を大きく逸らし、そのままバク転の用法で距離を取った。

 

「くっそー!当たってくれよ!」

 

距離をとった俺に向かって荷電粒子砲による射撃をするワンサマー。FCSと肉眼をちゃんと使った照準による射撃もできてんじゃねえか。まぁ、ロックオンアラートが鳴れば逃げるが。それでも狙いはそれなりに正確だ。

 

「大分狙い所も良くなってんじゃねえのか?最初よりはマシだぜ?」

「だから、避けられているとスッゲー腹立つんだよ!」

 

荷電粒子砲を撃ちながら俺に突っ込んでくるワンサマーだが、その機動は俺の教えた死角攻撃に近い。あの動きからすると…………

 

「そこか!」

「何故にばれたし!?」

 

俺の真下から攻めてきたワンサマーの一撃をバスターソードで受け止める。大体機動がまだ複雑になってないからすぐに読み取れんだよ。あの程度受け止められなきゃ今頃死んでいるわ。だが、これもまたいい判断と受け取ってやろう。

 

「だが、ここまでくれば——!」

 

そう言って今度は左手のクローを振るってきた。エネルギーの爪が伸びているから、まあ、届くには届くだろうか、お生憎様その攻撃は読めていたんだわ。

バスターソードを右手から左手に持ち替え、右手でそのクローの指の隙間に指を入れて押さえつけた。

 

「嘘だろ!?完全に決まったと思ったのに…………」

「いや、なかなかにいい判断だった。懐じゃ超近接武器の方が取り回しがいいからな」

 

そう言って俺は一度ワンサマーから距離を取った。今までの動きを考えると、こいつは俺の予想以上に強くなるかもしれん。教えた甲斐があったな、これは。

 

「ワンサマー、お前は合格だ。この一週間よく乗り切ったな。褒めてやるぜ」

「ま、マジで!?俺合格!?」

 

俺から合格だと言われて喜んでいるワンサマー。そんなに嬉しいのか?ならば俺も一つ、奮発してやるとするか。

 

「なぁ、ワンサマー。俺の本気の力、見せてやろうか?」

「へ…………?悠助の、本気の力…………?」

「ああ、そうだ。どうせこれが最後なんだし、見ていくか?」

「おう!見れるものなら見てみたいぜ!」

「その言葉、後悔するなよ?」

 

どうやらワンサマーは俺の本気の力を見てみたいようだ。まぁ、折角だしいいか。俺も少々、本気を出してやろうかと思っていたところだし。切り札とかなんだか言っているが、要は使い所ってもんよ。今がその時なら、使ってみる価値はある。

 

「頼むぜ、武蔵。力を貸してくれ!」

〔了解だ!武蔵、推参するぞ!〕

 

——CODE:OVER DRIVE

——RATX4-00 [HYPERION MODE]ACCEPT

 

機体の各所から禍々しいアカの粒子が溢れ出していく。そう、龍の怒りが溢れ出ていくかのように、何もかもを焼き尽くす暴力的なアカに染め上げられていく。他の追随を許さぬ力、それが俺に託された力だ。

 

「さぁ、俺とやりあおうじゃねえか、ワンサマー?こいつにどこまでついてこれるかやってやろうじゃねえの」

「ま、マジかよ…………完全に龍だろ、これ」

「さぁ、行くぞ。かかってこい!」

「ああ!やってやるぜ!」

 

俺はバスターソードを一度引っ込め、代わりにビームサーベルを短刀状態で取り出し逆手持ちにする。それを見たワンサマーは俺に向かって愚直なまでに真っ直ぐな吶喊をしてきた。ふっ、嫌いじゃないぜ、その真っ直ぐさ。だが、それはここが戦場ではないから言えることなのかもしれん。この世界じゃ戦争が起きてないからな。こんな風にただのスポーツとしてのISが生きているのだろう。俺たちの世界とは違う、別な風にな。

 

「チョイサァ!」

 

俺は右手のビームサーベルをまず切り上げ、ワンサマーの動きを止めた。その次に左手のビームサーベルで雪片を打ち砕く。その後は一気に両手のビームサーベルで乱舞をし、止めと言わんばかりに蹴り飛ばしてやった。

 

「ぐほっ…………!?な、なんなんだよ…………その攻撃スピードは…………!捉えられねえ…………!」

「だから切り札なんだ。圧倒的な力は強いが、無闇矢鱈には使えんだろ?隠しておいて、使えば一気に相手の体勢を崩せる。それがこの力さ」

 

ワンサマーはすべての攻撃を受け流すことなどできず、逆に全て受けてしまって残りエネルギーがほとんどないような状態になっている。周りから見れば一体何をされたのかわからない状態だろうが、こいつは少し俺が攻撃を仕掛けた事を理解していた。まぁ、初見で受けて、あれだけ対応できればどうにでもなるだろう。

俺は限界負荷機動を解除し、ワンサマーへと手を差し出した。

 

「これにて俺の特訓の全カリキュラムを終了する。ワンサマー、よく耐えてきたな」

「最後はボコボコにされちまったけどな…………でも、確かに少し強くなれた気がするぜ。ありがとう、悠助」

「気にすんなよ」

 

ワンサマーは俺の差し出した手を握り、俺は腕を引いて立たせた。俺もこの世界に来て幾つかわかったことがある。どうやら、どこの世界でも一夏と名前のつく奴は、どこか一本曲げられない芯のようなものが通っていて、仲間の事がとても大事に思っているんだと、そう改めて実感させられた。

 

 

「さて、じゃ帰るとするか」

「そうだね…………名残惜しいけど、あまりこっちいるのもなんだしね」

 

そしてとうとう迎えた別れの時。その別れ際に一言かけようと、専用機持ちの面々に千冬さんまでもが集まってきた。別にそんな大層な事しなくてもいいんだがな…………。

 

「そうか…………少し寂しくなるな。主に可愛い妹分がいなくなって」

「あはは…………」

 

どうやら千冬さんはこの一週間の内に完全に一夏に堕とされてしまったようだ。それを見たワンサマーがどこか悔しそうな顔をしていたのは謎である。

 

「結局、一度も勝つ事できなかったね」

「全くだ、次元が違いすぎる」

「だが、いい経験にはなったのではないか?」

「それもそうですわね。ここまでの強敵に出会ったのは初めてですわ」

「本当よ…………ああ!次こそ勝ってやるんだから!」

「次こそおねーさんが勝つからね?」

「…………そこまで勝負はお預け」

「分かっている。いつこれるかは知らねえが、きっとな」

「うん。約束するから、きっとまた来るよ」

 

専用機持ちは俺たちに一度も勝つことができなかったことが相当悔しいようで、再戦を望んでいる。まぁ、俺は何度相手してやってもいいんだが、そろそろ残弾がヤベエ。束さんにツケで払ってもらうしかねえな。

まあでも、ここでやったことはそれなりにいい経験にはなったわけだし、この世界の連中も気に入らない奴はいなかった。やはり戦争の有無がこの差を生んだのだろうか?

 

「悠助…………」

「ワンサマーか。お前は俺の特訓のクリアしたからといって、強くなったわけじゃねえ。俺の教えた事、絶対忘れるな。そして、守りたい奴を必ず守れ。そいつの涙を見たくなけりゃな」

「…………ああ!分かっているさ!約束するぜ!」

「ははっ、利口な奴だ」

 

ワンサマーはワンサマーで決意を固めたようだし、俺から教えられる事はもう何一つとしてない。これならきっと、誰かを守れるようになるんだろうな。そんなワンサマーの成長がすこし楽しみを思えてくる。

だが、何時までもこっちの世界にいるわけにもいかんだろう。俺は自宅の管理とかあるし、なによりあっちの世界の住人がこっちの世界で生きていくわけにもいかない。下手すると何か歪みでも生み出しそうだ。あと、弾薬の補給もできねえし。この世界、アルバレストや対IS用APFSDS弾といった対IS用砲弾が存在していない。俺は詰んだも同然だ。

 

「すまない、そろそろ時間だ。色々世話になった、礼を言うぜ」

「次はいつこれるかわからないけど、きっとまた来るからね」

「ああ、その時は盛大なおもてなしをしてやろう。ワンサマーがな」

「待って千冬姉!?千冬姉もその呼び方!?」

 

どうやら千冬さんに俺のワンサマーという呼び方が定着してしまったようだ。まぁ、別にそれはいいんじゃねえの?

 

「じゃ、俺たちは帰るぜ。じゃあな!」

「それじゃ、またね!」

 

その言葉と同時に俺は帰るのボタンを押した。その瞬間、俺の耳から音という音がシャットアウトされ、眩い光へと包まれていったのだった。

 

 

次に気がついた時、俺は夕暮れの河原の土手に寝そべっていた。隣には同じく一夏の姿もある。

 

「どうだった、ゆーくん、いっちゃん。別な世界ってのは?」

 

そんな俺たちの顔を覗き込むかのように、今回の騒動の大元の原因である束さんがそう言ってきた。その顔はどこか満足気そうである。

 

「そうだな…………悪くはなかったな」

「みんないい人しかいなかったもんね」

「そうだったんだ。それじゃ、よかったね!」

 

束さんは大成功といった感じで大喜びしている。まぁ、そんな大はしゃぎの束さんを見てたら今回の騒動を引き起こした事について叱るにも叱れなくなってきた。って、その前に

 

「あれ?今って何時なんだ…………?」

「た、確かに一週間も向こうにいたんだからそれくらいは…………」

 

そう、どれほどの時間が経過したかという事だ。俺たちは向こうの世界に一週間もいたんだ。つまり、こっちもそれと同じくらいの時間が経っているのではないかという不安が押し寄せてくる。

 

「?別にこっちじゃたったの五時間しか経ってないよ?」

 

だが、束さんのその一言で妙に安心した。なんだ、たったの五時間しか経ってないのか…………

 

「はぁ!?五時間しか経ってないのかよ!?」

「うん。言い忘れてたけど、向こうの一日は大体こっちの一時間みたいなもんだから」

「それを先に言えや、オラァッ!!」

 

何故か無性に腹が立ってブーストハンマーで束さんを吹き飛ばしたのだが、別に俺は悪くないよな?

 

 

帰り道。俺と一夏はいつものように並んで歩いていた。その一夏の顔はどこか浮かないような感じにも思える。

 

「ねえ、悠助」

「ん?なんだ?」

「千冬姉さん、優しかったね…………こっちの方とは全く違うよ」

「確かにな」

 

寧ろ向こうのは最早シスコンと言っても過言ではないレベルだったぞ。そんな風に接せられていた一夏も満更ではない様子で、どこか楽しそうだった。

 

「私もあんな姉さんに恵まれたらなぁって思っちゃって…………織斑君が少し羨ましかったよ」

 

そういう一夏の顔はどこか寂しそうなものだった。確かにこいつは家族からも何からも見放されて生きてきたからな…………そう思うのも無理はない。知らず知らずのうちに姉の愛情が欲しかったのかもしれない。そして、それを受けているワンサマーが羨ましかったのか。

 

「だが、そいつは向こうの世界でのことだ。こっちと割り切るしかないだろうな」

「そうだね…………」

 

そんな風に言う一夏の顔はどこか悲しそうだった。そんな彼女の顔を見ているのが俺には到底辛くて耐え難いものである。俺は彼女の手を取った。

 

「え…………?」

「流石に家族の愛情とかってのはわからんが、役不足でなきゃ俺に甘えても構わねえんだぜ?俺はお前の家族みたいなもんだからな」

 

そうだ。俺はこいつの家族なんだ。誰よりも大切な、今存在しているたった一人の家族さ。だから、尚更俺はこいつの悲しむ姿を見たくない。

 

「…………うん!ありがとう、悠助!」

 

少し元気になった一夏は思わず俺に抱きついてきやがった。急な事に驚いてしまったが、なんとか受け止めることができてよかった。それに、夕日に照らされた彼女の顔はとても綺麗で美しかった。確かにこいつはやるときはやるが、か弱い一人の女の子だ。そう思うと、より一層守らなきゃならねえと思ってくるのだった。そうじゃなけりゃワンサマーに笑われちまいそうだしな。

そんな俺たちを夕日は優しく照らし、長い影を帰路に映し出していたのだった。




今回のネタは死神始めましたさんからのネタを使わせていただきました。ありがとうございます。
アンケートについてはまだまだ行っていますので、そちらもお願いします。

また、現在書いている暴鋸物語(仮題)についても感想お願いします。多分、感想で投稿スピード上がるかも…………。

では、今後も生温かい目でよろしくお願いします。
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