守りたい、ただそれだけ(本編完結)   作:ディニクティス提督(旧紅椿の芽)

53 / 56
いやぁ…………マジで難産だったよ…………


Ex.02

とんでもないことを言ってしまってもいいだろうか?

 

 

 

 

 

気がついたら海の上にいたんだが!?

 

 

 

 

 

自分でも何を言っているのかわからない。つーか何故か天海龍も一緒だ。一先ず進路を日本方面へととってもらっている。理由など特にないんだが、母国に帰ればなんとかなるんじゃねえのか?

 

「本当にこの世界はどうなってんだ…………?」

「私にもわからないよ…………クロエちゃんは何かわからないの?」

「私に聞かれても、それはわかりません…………束様のあの装置に聞いてください」

「あんの兎…………ミートパイの中身にしてやろうか?」

 

一先ず天海龍のブリッジに入って状況の確認だ。この場には俺の他に一夏、艦長であるクロエがいる。コア人格の陸奥に日向に速吸は出てきてないようだ。そして、状況なんだが、どうやら俺たちがいる世界とは全く違うようだ。海面上昇により、沿岸部の大半が水没しているようで、島国のほとんどが海の底だ。地球温暖化の影響が大きいらしい。

 

「にしてもだな…………この海岸線の変化じゃ確実に横須賀は沈んでいるじゃねえか。向かったとしても港がなきゃな…………」

「横須賀港以外で補給を受けた事がないので、それは非常にまずい問題ですね…………弾薬に関しては問題ないですが、食糧については二週間分しかないです…………」

「最後に補給したのが一ヶ月前の戦闘の前なんだろ?そりゃ尽きるものは尽きるわ…………水はどのくらいある?」

「あ、水に関してはこの艦で海水を浄化して使っているので心配ないですよ」

「そうか。悪い、少し飲ませてもらうわ」

 

俺はそう言って、ブリッジに備え付けの給水器から水を汲んで一気飲んだ。程よく冷たくなっていた水が喉を通過するとともに、頭も冷えて少し冷静になれた。さて、どうしてこうなってしまったのやら…………。

 

 

時間を遡って振り返ってみるとでもするか…………。

俺と一夏は横須賀港に接岸した天海龍の元を訪れていた。補給を受けるというわけではなく、単に仕事が無くて、いたずらに動かしているよりは帰港して停泊していた方が操艦をしているクロエに負担がかからずに済むとのことだ。天海龍は全長415mという巨体であるが、その操艦はクロエ一人にしかできない。天海龍は一般人には想像などできないが、戦艦型のISである。つまり、一人でしか操作できないのだ。いくらコア人格によるサポートがあろうとも負担が大きい事に変わりはない。だから、定期的に帰港して休憩を取る必要があるとのこと。

そんな時に俺たちが来た理由だが、単に暇だったから。それ以外にまともな理由が見つからない。あと、一夏が少し興味を示していたから連れてきた。

 

「それにしても本当に大きいね。他の船が小さく見えちゃうよ」

「仕方ねえだろ。それよりも俺はこいつを一人で動かしているという事が驚きだわ」

「そうだね。クロエちゃんってすごい人だよ」

 

甲板上に上がった俺たちは適当に散策していた。見ようによっては小さな島かと思ってしまうぞ。主砲51cm連装アクティブ・カノン四基、副砲35.6cm三連装アクティブ・カノン二基及び20.3cm連装アクティブ・カノン八基といった超火力兵器が普通に存在している。それだけでは無く、対空兵装である12.7cm連装アクティブ・カノン十四基、40mmパルスレーザー六十四門、30mm三連装対空ガトリングターレット(CIWS)二十基、後部VLS百八十セル、また潜水時に使用する兵器として艦底部1066mm魚雷発射管二十四門、おまけに特殊複合装甲に強制波動装甲…………正直、現行の海軍総戦力が相手になっても勝てるのではないだろうか?それを一個人に預けるとは…………最も、イージス艦を軽く超える火力を有しているDアームズを保有している時点でなんとも言えないのだが。

 

「お久しぶりです、悠助様、一夏様」

「ああ、久しぶりだなクロエ艦長」

「クロエちゃんお久しぶり」

 

丁度艦橋からクロエが降りてきた。そして俺達に敬礼をしてくる。俺達も俺に対して敬礼で返した。いつも通りの白い海軍服に海軍帽がトレードマークだ。こいつがこの天海龍の全権限を有しているなど考えられるだろうか。正直、俺も想像できていなかった。

 

「では艦内を案内しますから、どうぞこちらに来てください」

「了解した。そんじゃ、行くとするか一夏」

「うん。こんな大きい船なんだから中も凄いんだろうね」

 

艦橋への入り口へと入り、そのままエレベーターでブリッジまで上がっていく。相変わらずハイテクな戦艦だよな…………エレベーターにしたって登っていく速さがおかしいのに、俺達には何も重力みたいなものがかからない。謎の技術が注ぎ込まれすぎだろ。さらに言えばこの元の設計が親父とお袋のものだと考えると、親父達は本気でISというものに対して反抗する気だったようだ。というか、その基礎技術を確立した親父達がある意味でとんでもない人間すぎるだろ。

そんなこんなでブリッジに上がった俺たちだが、そこはかなりスッキリとした作りになっていた。艦長席とその他火器管制や通信士用の席が少しある程度だ。おまけに窓なんかは無く、全てモニターとなっている。というか、コンソールもどこか近未来的なものになってないか?タッチペンとタッチパネル方式とか、今のイージス艦でも装備されてないぞ。

 

「ここがブリッジになります。狭いところですが、基本は私一人なのでそんなことはありませんね」

「それにしても相当ハイテクな作りになってんじゃねえか…………」

「す、凄すぎて言葉が出てこないよ…………」

「そうですか?まぁ、殆どの装備が自動装填システムを搭載しているので給弾する人員が必要ないのは事実ですけど」

「アホか。どこにミサイルや魚雷を自動装填するシステムがあるんだよ。しかも次弾発射までラグがほとんどねえじゃねえか。この艦だけで世界を滅せるぞ」

「そういえば束様から今回、新型弾頭を受け取る話がありますね。確かMBH弾頭とか…………」

「話からしてとんでもなく恐ろしいものがやってきそうな予感がするんですけど!?」

 

よりによって新型弾頭…………MBH弾頭ってなんだ?Dアームズには多方向重力空間を形成し、物質をありとあらゆる方向に引き千切って圧し潰すMGF弾頭が搭載されているが、他にどんな弾頭を作ったんだよ。それ一つで都市部の一つや二つ軽く消せそうな気がするんだが…………おお怖え。

 

「ほほーい!くーちゃん、ゆーくん、いっちゃん!おっ久しぶりぃっ!」

 

そんな中、その件の新型弾頭を持ち込んできたと思われる束さん(毎回騒動を引き起こす兎)がブリッジにやってきた。いつも通りの謎のハイテンションでやって来られると、何故かイラっとくるのは正常な判断なんだろうか?つくづくそう思う。

 

「束様、新型弾頭の積み込みは完了しましたか?完了次第、次の航海に入ります」

「ぶー、つれないなぁ。そう思うでしょ、ゆーくん!」

「とりあえず、喧しいから黙っておけ」

「ゆーくんもなの!?い、いっちゃんはどう思う?」

「ちょっとうるさいかもしれませんね」

「いっちゃんまで!?しかも笑顔で言っているから、マジ!?」

 

なんか束さんがギャーギャー騒いでいる。だが、こんなことが日常的に起きてしまえばさらっと流すことだってできるようになるんだよな。こんな日常に慣れてきている俺が怖い。

 

「で、積み込みは完了したのか?」

「とりあえず、生産完了したMBH弾頭720発を弾薬庫に搭載しておいたよ。これで羽虫も一発で片付くね」

 

モニターに突然、今回のMBH弾頭のデータが表示された。そのあまりの性能に俺たちは愕然としてしまった。

 

M(Micro)B(Black)H(hole)弾頭はねー、着弾と同時にその物体を構成する物質を原子レベルで崩壊させて、その部分を抉り取っていく弾頭だよ。作用範囲はMGFより一回り小さいけど、それよりは環境への影響がないから安心して使えるよ」

「どこに安心できる要素があんだよ!?ほとんどマイクロブラックホールじゃねえか!!」

「重力異常を発生させるMGF持ちの悠助様には言われたくないと思いますが…………」

「それにしてもこれは過激すぎないかな…………束さんはどこを目指す気なんだろう…………」

 

アホすぎるこの兎…………一発ぶっ飛ばしてやりたい気分になったが落ち着け。ここでやらかしたらブリッジが吹き飛ぶ。

 

「それじゃ、私はまた雲隠れするからねー。くーちゃん、頑張ってねー」

 

そう言って束さんはブリッジから出ようとした。その時だった、悲劇の始まりが起きたのは。

 

「へぶらいっ!?」

 

ブリッジの段差に躓き、思いっきり転倒して何処かへと吹き飛ぶ束さん。その時、何処か見覚えのある黒い球体が転がってきた。しかも、なんか既に発光して粒子を放出しているやつ。俺はその瞬間思った。いや、俺だけじゃねえな。この場にいる面々全員が思った。

 

(((これ、やばい奴だ!!)))

 

そのの直後のことだった。球体は一気に発光を強め、眩い光を放ってきた。

 

「おっ、やばっ!撤収!」

「おい待て、駄兎!」

 

光に包まれていく中、あの兎がこの場から逃げ出す声が聞こえたのは確かな事だった。

 

 

ああ…………思い出しただけで頭が痛くなってきた。ふざけんなよ、あの駄兎。一人だけ逃げだしやがって…………!

あの時転がってきた黒い球体は、ワールドゲートに違いない。でなければこんな海岸線が変化しすぎた世界に来るわけがない。さらに言えば、どうやら温暖化の影響で気温も海水面も上昇している。

 

「で、この世界についてわかった事はその程度か…………これからどうすればいいんだ?」

「ひとまず現状では日本に向かってさらなる情報を集めるしかありません。機関出力、20%を維持してください」

「でも、警戒とかされないかな…………これだけ大きな船なんだから多分びっくりすると思うよ」

「警戒はされるだろうな。この世界での認識コードがない上に、戦闘艦だから下手したら攻撃される事は覚悟しねえと」

 

これが問題だ。この先、どうやって突き進むべきなんだ?戦闘になったとして、対艦攻撃なんぞした事ねえぞ。Dアームズを使ったとしたって、面倒な事になるやもしれん。何より弾薬費が恐ろしい勢いで吹っ飛んでいく。それだけはなんとしてでも避けなければならん。下手したら生活費すら削らなきゃならねえ事になるかもしんねえんだから。強力な兵器には必ず何かと代償があるもんだ。

 

「——っ!対潜及び水上レーダーに感あり!悠助様は火器管制シートに、一夏様は通信シートに座ってください!」

 

そんな時、レーダーに何か反応があったようだ。俺たちはクロエに言われた通りのシートに座る。マジかよ…………よりによって火器管制か俺。一夏は通信及び解析だから直接戦闘に関わるわけじゃなさそうだし、クロエの判断は正しいと思う。早速一夏は解析作業に入っている。ってか、そんなに操作簡単なのか。

 

「解析結果、出たよ!水中の反応は霧の潜水艦イ号401!水上の反応は霧の軽巡洋艦ナガラ級!」

「霧の…………?どういう事だ?ってか、軽巡洋艦なんて艦種は今時ねえはずだぞ!」

 

軽巡洋艦なんて艦種は時代が変わるとともに消えていった。今はミサイル運用論に基づいてミサイル巡洋艦として纏められているかミサイル駆逐艦としてしか残ってない。だから、大戦時の軽巡洋艦なんて存在してないはずなのだ。だが、現に今、レーダーにその反応が出ている。どういう事なんだ?

 

「攻撃はまだ受けていませんが、こちらは沈められるわけにいきません。全兵装、第二種警戒態勢!強制波動装甲、展開!」

 

クロエの指揮により、兵装パネルに表示されていた各兵装のアイコンが待機状態を示す青から警戒態勢の黄色へと変わる。待機状態では攻撃できないようだが、警戒態勢では発砲可能らしい。しかも、攻撃目標をタッチするだけで。本当、とんでもない技術だよな。

 

「どうやら、ナガラ級はイ号401を狙って攻撃しているみたい。こっちに攻撃はしてこないと思うよ」

「いや、そうとも限りません。流れ弾がこちらに来るかもしれません。ですから、警戒は怠るわけにはいきません」

「まぁ、そうだよな。警戒の手は緩めるわけにいかねえ。それで死んだら元も子もねえぞ」

 

いくら強制波動装甲で守られているとはいえ、出来るだけ脅威は排除しておきたい。こんなところで俺はまだ死ぬわけにはいかんし、一夏も死なせるわけにはいかねえ。そう思った次の瞬間、

 

「!ナガラ級、こっちに向かって何かを射出!水中を向かってきている模様!」

「それは魚雷です!着弾予想地点は!?」

「右側のブリッジ下!」

「了解しました。全兵装、第一種戦闘態勢!ナガラ級を敵性目標と判断、撃沈します!」

「なら、さっさと片付けるとするか!51cmアクティブ・カノン、一番から二番、粒子砲モードに移行。照準、ナガラ級!40mmパルスレーザー、本艦に向かう魚雷を叩け!」

 

俺はタッチパネルを操作し、主砲二基を粒子砲モードに変更し、マップ上に表示されたナガラ級をタッチ、攻撃を開始した。展開した砲門から紫色のビームが放たれ、それに同時並行してパルスレーザーが海面を叩き、魚雷を破壊しようとする。圧縮されたビームは迷いなくナガラ級目掛けて直進していく。

 

「ナガラ級!なんらかのフィールドを展開しているみたい!このままだと…………!」

「心配ねえ。すぐに片がつく!」

 

次の瞬間、ナガラ級に四条のビームが着弾。展開されていたなんらかのフィールドを突破し、艦上構造物を吹き飛ばし、船体を真っ二つにへし折った。その直後、ナガラ級は盛大に爆発を引き起こした。おおう…………おっそろしい攻撃力だ。俺の460mmでも相当なものだが、51cmの一撃はそれを遥かに超えているような気がしてやまない。こんなものが地上に向かって放たれたら最後、その一帯は蒸発確定だ。その後、こちらに向かってきていた魚雷はレーザーに貫かれ、禍々しい色の球体を生み出した。…………なんかあれ、MGFにものすごく似ているんだが…………。

 

「ナガラ級の撃沈を確認。状況終了。以後、全兵装を、第二種警戒態勢へと移行します」

 

クロエのその一言により戦闘態勢を示す赤から警戒態勢の黄色へとまた変わっていった。しかし、本当にこの艦を自由に扱えているんだな…………本当にとんでもないやつだ。

 

「クロエちゃん、向こうから通信が来ているんだけど、どうする?」

「一夏様、向こうとは?」

「イ号401の方からだよ」

 

どうやら401の方から通信が入ってきたようだ。通常回戦での通信がこちら側とも通じるのはなかなかな事だよな。

 

「出てもいいんじゃね?万が一向こうが変な事を言ってきたら沈めればいいだけだ」

「ざ、残忍すぎる!?というかさっきも船を沈めたから、人死んでいるよね!?」

「だろうな…………最も、俺が奪ってきた命は数えきれんが」

「とりあえず通信には応じてみましょう。一夏様、通信をお願いします」

「う、うん。わかった」

 

一夏はクロエに言われた通り回線を開いた。その瞬間モニターに映し出されたのは、俺らと対して年の変わりようがない青年だった。

 

『こちらはイ401、艦長の千早群像だ。貴艦が何故我々を支援したのか聞かせて欲しい』

「こちら天海龍、艦長のクロエ・クロニクルです。こちらも攻撃を受けたので反撃に出たまでです」

『テンカイリュウ?艦長?君は霧じゃないのか?』

「霧?自然現象ではありません。私は人間です、千早艦長」

『…………少し、会って話をしたい。クロニクル艦長、時間をいただいてもいいか?』

「そちらが攻撃をしてこないというのであれば応じます」

『了解した。では指定座標まで来てくれ』

 

千早群像という青年はランデブーポイントを指定してきた。

 

「指定座標は…………硫黄島北東四十キロの海域か。現海域からは遠いのか?」

「それほど離れてはいないみたいだよ」

「では向かうとしましょう。進路を硫黄島へ変更。方位三五○へ回頭、両舷前進、出力十分の一」

 

回頭する天海龍。ってか、この戦艦本当に機動性高いわ。これだけの巨体を誇りながら、回頭までに五秒とかからない。しかも潜航にサイドキックまでできるんだろ?もう、どこを目指しているのかわからねえ船だ。

 

「悠助様、黒龍をいつでも展開できるようにしていてください」

「あいよ。そんじゃ俺は戦闘装備に着替えてくるわ」

 

そう言って俺はブリッジを後にした。しかし、黒龍でどこまで相手にできるのか、怪しいところがあるな。最も、向こうがそんな事になるような真似をしてくるとは思わんがな。あの千早群像って奴はそんな事をする男じゃねえと思っている。まぁ、ただの勘なんだがな。武蔵を呼び起そうとするが起きてこねえし、自分でやるしないのかね。籠手よりディスプレイを展開、戦闘装備着装を選択する。すると、俺の全身を非発光体が包んでいき、それが解かれた後は見慣れたアーマー付きの対Gスーツが姿を見せる。ヘッドギアまでしっかりと装備されているようだ。さて、これで俺の準備は完了だ。あとはランデブーポイントに到着するのを待つとでもするか。

 

 

 

 

 

「——艦長、これでよろしかったのですか?」

「ああ。俺たちの危機を救ってくれた恩人だ。礼の一つもしなければいけないだろう」

 

イ401発令所内でソナー要員の八月一日静は艦長である千早群像に問うが、群像は迷いなくそう答えた。

 

「まぁ確かに侵食魚雷の残弾も無い状況でナガラ級に見つかったのはマジやばかったからな」

「ですが、ナガラ級とはいえ霧の軽巡。クラインフィールドを有しているはずであるのに、それをいともたやすく突破して撃破する火力を有していると考えると、少々怖いですね」

 

群像の答えに夏無得するように頷くのは砲雷長の橿原杏平。実際の所今の401には霧に通用する兵器としての侵食兵器が一つも残されておらず、また虎の子の超重力砲もパーツの破損により使用不可といった状態であり、そんな中ナガラに見つかったのは非常に危機たる状況だった。

それに反して副長の織部僧は、軽巡とはいえナガラ級をクラインフィールド越しに撃破した天海龍の火力に畏怖に近い感情を抱いていた。最も、その表情はアレルギー避けのマスクに覆われており、全く読み取る事ができないが。

 

『でも会ってみるしかないんじゃない?悪い人には見えなかったよ』

 

機関室在中によりモニター越しではあるが、四月一日いおりがそう言ってきた。彼女も群像の考えに賛成しているようだ。

 

「イオナ、君はどう思う?」

「わからない。でも、私は群像の艦だから。群像の命令に従うだけ」

 

そして群像は自身の隣に座る少女に問いかけた。蒼銀の髪を伸ばし、変わった形状のセーラー服を着ている彼女の名前はイオナ。この霧の潜水艦イ401のメンタルモデルである。彼女はただなんでもない事のように答えた。

 

「本気で行くつもりなのか?奴は一撃でナガラ級を沈めたんだぞ。下手すればお前たちだって…………」

「私もキリシマに同感だ。蒔絵に危害が及ばないと言い切れるか?」

 

今度はクマのぬいぐるみとロングコートを着込んだ金髪の少女が群像に問いかけた。クマのぬいぐるみはああ見えて本当は霧の大戦艦キリシマである。とある事情によりこの姿にならざるを得なかったのだ。金髪の方は同じく大戦艦ハルナ。二人は刑部蒔絵を守る為に401に乗船している。当の蒔絵はハルナの膝の上でおとなしくしている。

 

「その点については心配ない」

「なぜそう言い切れる?」

「向こうはこちら側から攻撃を仕掛けなければ応じると言った。その言葉に嘘偽りはないはずだ」

「その根拠は?」

「彼女の目がそう言っていたのさ。機関、微速前進。これより本艦はランデブーポイントへ向かう」

 

群像の命令により401はランデブーポイントへと向かっていく。

 

「艦長、艦影捕捉しま…し……た…………」

「どうした静?」

 

その途中、ソナーに反応があり、天海龍を捕捉した静は群像に報告するが、言葉を詰まらせてしまった。

 

「その、向こうの艦なんですが…………そもそもで400mある艦なんてあるのでしょうか…………?」

「はぁっ!?よ、400m!?それもう島かなんかじゃねえのか!?」

「戦闘艦にしては大き過ぎますね…………」

 

静からの報告に発令所は混乱に陥った。それもそのはず。400m級の戦闘艦など今まで存在した事がなかった。民間の船にまで幅を広げればタンカーなどがそれに該当するが、戦闘艦ではない。そもそもで戦闘艦は被弾する確率を下げる為に、可能な限り船体を小型化しなければならない。大型化は被弾率の上昇に繋がる。かの戦艦大和ですら300mなかったのだ。

 

「ついでに言うと、六十ノット近い速度でランデブーポイントに向かっています…………」

『六十ノット!?戦闘出力でもなけれりゃそんな速度でないんだけど…………』

「最早オーバーテクノロジーだな…………」

 

まざまざと見せつけられる天海龍の脅威の性能。感嘆の声を漏らす者もいれば、驚愕の声を上げる者もいる。それほどまでに天海龍という戦艦は常軌を逸脱していた。

 

「…………艦長、間も無くランデブーポイントです」

「あ、ああ。了解した」

 

そう言うと群像は席を立ち、発令所を後にした。

 

「私も行く」

 

その後を追うようにしてイオナも発令所から出ていった。途中でイオナは群像と合流し、共に甲板上へと上がっていく。そこからはこちらに向かってくる天海龍の姿が見えた。

異世界の戦艦との交流まであと少し——。

 

 

 

 

 

「ランデブーポイントにご到着ってことか?」

 

後部甲板の発着艦用カタパルトデッキに向かうのは少々時間がかかるため俺はブリッジ下部の甲板に出ていた。しばらくして浮上していた蒼き潜水艦の横に天海龍が機関を止め、停止した。ほう、一夏のパーソナルカラーと同じく蒼か…………いい色じゃねえか。その上に人影が見える。一人は千早群像という艦長に間違いない。だがもう一人は、兵器とは無縁そうな少々幼く感じられる少女だ。何故あそこにいるのか気になるな…………。

 

「どうやら、少し待たせてしまったみたいですね」

「全力で飛ばしてきたけどね…………」

 

そう言ってクロエと一夏がブリッジより降りてきた。かなり向こうとの高度差があるが、まぁなんとかなるだろ。

 

「クロニクル艦長、でいいのかな?俺は千早群像、401の艦長をしている。そしてこっちが」

「イオナ。この艦のメンタルモデル」

「そうですか。あと、呼び方は任せます、千早艦長。私はこの天海龍の艦長、クロエ・クロニクルと申します」

「俺は紅城悠助、しがねえ傭兵さ」

「私は織斑一夏です」

 

本当になんとかなりそうな予感がしてきたぞ。最も、まだ自己紹介しかしてねえからなんとも言えんがな。見る限り向こうの兵装は機銃が三基に単装砲が一門。まぁ、たとえ敵になったとしても、俺が出て武装破壊で無力化すればいいか。

 

「では、早速本題に入ろう。もう一度聞く、君は何者なんだ?本当に霧じゃないのか?」

「私達は人間で、この艦も一種のISです。そちらにも質問させていただきます。先ほどから仰っている霧とはなんなのでしょうか?そのまま自然現象と受け取ってもよろしいのでしょうか?」

「霧を知らない…………?それに、ISとはなんなんだ?」

「どうやら、少し認識の食い違いが生じているようですね。一度、情報を整理してみましょう」

「そうだな。そうさせてもらうとしよう」

 

というわけで謎の情報交換会スタートだ。とりあえず俺と一夏は後ろで待機。で、纏まった情報なんだが

 

・霧とは第二次大戦の艦艇を模した超兵器群のこと。ナガラや401も含まれる。

・この世界にISというものは存在していない。

・世界の海は霧に支配されている。海にいるのは基本霧の艦。

・イ401はそんな世界に風穴を開ける為に活動している。

 

との事だ。

 

「つまり、海に出てきた俺達を霧の艦だと思ったと…………」

「それだけじゃない。君達は霧の軽巡ナガラ級を沈めたんだ。霧に対抗できるのは今の所霧だけ。だから君達を霧だと思ったんだ」

「まぁ、そう言う事情なら仕方ねえな。ISを倒せるのはISだけ…………みたいなものか」

「なぁ、そのISとは一体なんなんだ?かつてのテロリストにそんな名前があったような気がするが…………」

「現物を見た方が早いですね。悠助様、お願いします」

「了解っと」

 

とりあえず俺は黒龍を展開する。全身に装甲が纏わりつく感触の後、視界が一気にクリアになる。最後に[ARMOR COMPLETED]の表示が出る。これで黒龍の展開プロセスは完了だ。その光景を見た千早艦長はというと、驚愕の顔をしていた。

 

「ど、どこからそんなものが出てきた!?」

「ああ、これか?量子化しておいたこいつを呼び出しただけさ。武器も積んであるぜ」

 

試しにアサルトライフルを出して見せる。やはり使い込んだこの武器が手に馴染むな。

 

「群像、あの黒いものから重力子反応が検知された。おそらくあれにも重力子エンジンが積まれている。しかも出力で言えば大戦艦級のもの」

「…………イオナが弱いなんて思っていないんだが、軽く霧を凌駕しているような気がしてやまないな…………」

 

イオナと呼ばれる少女の方は相変わらず表情を変えないが、その反対に千早艦長は何かとんでもないものを見るかのような目をしている。そんなに凄いことなのか?俺たちの世界じゃこれがごまんとあるからな。俺たちの感覚と千早艦長達の感覚との差が激しい。というか、随分と霧もやばいけどな。物体の因子を飲み込んで破壊する侵食兵器に全ての攻撃を通させないクラインフィールド、そして重巡以上のみが持つことができる、霧の切り札にして絶対的勝利宣言とも言える超重力砲。こんなもの向けられたら堪ったもんじゃねえ。確実にあの世にいける自信がある。

 

「ではもう一つ質問させていただきます。先ほどそちらの少女がメンタルモデルと言っていましたが、それはどういうことなのでしょうか?」

「メンタルモデルは霧が人類の感情をシミュレーションし、戦術を獲得するために得た姿。私は401であり、401は私」

「潜水艦がイオナちゃんっていうこと…………?にわかに信じられないなぁ…………見た目は普通の女の子なのに」

「まぁな…………少女達が世界を滅ぼしているなんて想像できやしねえ。俺たちでいうコア人格みたいなものだろ、きっと」

「そういえば榛名も武蔵も独立稼動(スタンドアロン)状態で動けるもんね」

「おまけに肉体持ちで俺の家族。似たようなものさ」

 

肝心の当の本人達は全く姿を見せないんだがな。一体どうして呼び出すことができないのやら…………障害でも発生していんのか?それなら機体の展開すらできないはずだが…………現に俺は展開したままでいるわけだし、その線はないか。

 

「理解しました。質問に答えていただきありがとうございます」

「こちらこそ。支援していただいたお礼をしに来たのに、こちらの質問に答えていただき感謝する」

「それでは私達はこれにて」

 

クロエはそう言ってブリッジに戻ろうとする。だが、ふと何かを思い出したのかもう一度千早艦長の方を向き直った。一体何を思い出したのだろうか?

 

「そういえば、何故あなた達はナガラ級に反撃できなかったのですか?同じ霧であるなら撃沈できたはずでは?」

 

クロエはそう千早艦長に問う。確かに401は霧の潜水艦。同じ霧のナガラ級なら撃沈する事もできたはず。なのに、一夏から受けた報告では追われているとの事。海中をかき乱すような音が出ていたらしいが、反撃をしていたかのようには思えない。

 

「それは…………」

「実は先の戦闘で侵食弾頭が底をついてしまったんだ。おまけに超重力砲も使えず、霧に対抗できる手札はなかったんだ。音響魚雷でナガラのセンサーから逃れようとしていた時に、君達がナガラを沈めたんだ。もしあの時君達がいなかったら、俺たちは海の底に沈んでいた。あの時は本当にありがとう」

 

なるほどな…………弾切れで戦闘不能と。そりゃ一大問題だわな。俺らISドライバーであれば近接武装によって弾切れになったとしても幾分かは持つことができる。人型兵器である汎用性の高さがなせる技。だが、向こうは潜水艦だ。近接格闘戦なんて無理に決まっている。だとしたら、逃げの一手しか残されない、か。

 

「それで、これからどうするのですか?そのような状況で戦闘継続は不可能です」

「承知している。我々は今硫黄島の基地に向かい、そこで補給を受ける予定だ。だが、今後も霧が攻めてきたら次こそ持たないな」

 

千早艦長は非常に深刻な顔をしている。まぁ、確かに現状じゃ何分生き残れるかというレベルらしいし、そんな顔になっても仕方ねえか。

 

「そうですか…………では、私達が護衛につきましょう。こうすればあなた達は少し安全になるはずです」

 

俺がそんなことを考えている間にクロエが決断を下していた。って、決めんの早くねえか?まぁ、人としては間違ってないことなのかもしんねえけど、俺らはいつ帰れるのかもわからない状況だぞ。いやでも待て、確か異世界転送中は一日が一時間だから…………別に問題ねえか。それに学園は休業中だし。

 

「本当にいいのか…………?君達を…………霧との戦いに巻き込むかもしれないぞ?」

「別に問題はありません。むしろせっかく助けたのに死なれては寝覚めが悪いですから。悠助様、一夏様もそれでよろしいですか?」

「俺は別に構わねえ。少しはクルーズに出た気分になっていいかもしんねえしな」

「私も大丈夫だよ。それに、千早艦長やイオナちゃんともお話ししてみたいしね」

 

どうやら一夏も向こうに興味津々なようだ。まぁ、ちょっとばかりの旅行だと思ってゆっくりとしてくか。

だが、俺としては不安が残る。401が残弾無しということは自衛力はクラインフィールドに頼るということになる。俺たちが敵を沈めればいい話かもしれんが、もし同じ潜水艦に襲撃されたらそれは不味いことになる。

 

「なぁ、クロエ艦長よ。後部甲板格納庫に401を格納できねえか?どうも不安要素があり過ぎてな、一歩油断したら終わりだ。どうだ、なんとかなるか?」

「なんとかなりますよ。千早艦長、401の全長は?」

「122m、だよな、イオナ?」

「そう。全長122m。とても収容できるとは思えない」

「なら大丈夫です。後部甲板格納庫は全長135mありますから、入りますよ」

 

それでも、戦闘艦としての部分は280mとアイオワ級より10m長い。ってか、

 

「VLSはどうするんだ?発射管が邪魔じゃねえの?」

「忘れましたか?この艦はIS。必要じゃない武装はコアに格納できるんですよ」

「何このチート戦艦。真面目にお前一人で世界を焼けるわな」

 

本気でこいつ一人が世界の命運を握っていると言っても過言ではないわ。建造計画を立てた親父達にガチで建造してしまった束さんが怖いぜ。

 

「…………何から何まで驚かされるな。確かに現状、俺たちだけでは危ない橋を渡るから、その提案に乗せてもらうよ。イオナ、済まないがみんなに伝えてくれ。仮ドックに入るとな」

「わかった。すぐに伝える」

 

そう言うとイオナはサークルを展開する。どうやらあれで連絡を送っているようだ。やはり超性能なんかね、霧って。

 

「伝えた。みんな仮ドックって何って顔してる」

「だろうな。まさか戦艦に格納されるとは誰も思わないさ。では、頼む」

「了解しました。悠助様、格納庫のハッチを揚陸状態にして、アレストワイヤーにて引き上げをお願いします」

「電磁石、引っ付くのか?向こうの材質は?」

「イオナ、艦首の材質を鉄と同じようにすることはできるか?」

「構成要素を変えるのは初めてだけど、やってみる」

「よし、じゃ俺は先に行ってるから。一夏、クロエのとこ頼むわ」

「うん。任せておいて。といってもやることないと思うんだけどね」

 

一夏にクロエのことを任せて俺は先に格納庫へと向かった。発着艦カタパルトデッキに乗り、昇降エレベーターで格納庫内に入り、揚陸用のハッチを開く操作を始めた。資材搬入にも使われるハッチらしいが、厚さが一メートル近くあるんだよな。しかも、これが特殊複合装甲だろ?明らかに簡単に沈める事ができねえだろ、これ。まぁ、作業の続きをするか。パネルを操作し、揚陸状態へと移行する。ゆっくりとだが、重厚な音を立ててハッチが降りていく。波が入ってこようとするが、謎のシールドバリアが展開されており水が入ってこない。そして、丁度一直線上に401が並ぶ。さて、引き上げ作業といくか。

両腕部のマルチランチャーの照準を401の艦首に向けて放った。両方合わせて四門の砲身からそれぞれワイヤーが射出され、強力な電磁石が艦首にへばり付いた。此処からが力勝負だな。ワイヤーを巻き上げつつ格納庫の奥へと下がっていく。凡そ4000トンの船体を引き揚げられるこの機体の出力が本気でおかしい。というか、ワイヤーが悲鳴をあけないのがすげえわ。引き揚げが完了すると各ハンガーより固定用アームが展開され、401をがっちりと固定する。固定完了と同時にハッチをすぐさま閉じ、発令所に向かってタラップが伸びていく。というか、VLSの発射管と昇降エレベーターが完全に撤去されていることに気がつかなかったわ。道理で広いはずだぜ。

 

「こちら黒龍、401の引き揚げ作業完了した」

『了解しました。現在自動航行にて硫黄島を目指しています。私達もすぐにそちらに参ります』

「了解した」

 

さて、じゃ先に客人を迎えるとでもするか。このまま何もせずに放っておくわけにもいかん、

 

「本当に格納できたんだな…………この艦は」

「こんな艦が存在するなんて驚いた…………」

「マジかよ!?ここがあの戦艦の中!?」

「というよりは、格納庫みたいですね」

「それでも空母並みに大きいんだけど…………」

「ここまで大きい艦は初めてです…………」

「すっげい!すっげいよ、ハルハル!この艦を設計した人、私と同じ秘密のお仕事してる人かな?」

「蒔絵、おそらくそれはないと思われる。だが、この艦は霧でもない」

「それでも霧と同等の力があるのか…………人類が末恐ろしく思えてきたな」

 

降りてきた401クルーがそれぞれ感想を述べる。まぁ、ここまで広い格納庫なんざあんまり見ないだろうし、そもそもで潜水艦を格納する戦艦なんて聞いたことねえだろ。

 

「さてさて、一度こっちに来てもらうか。客人をずっと格納庫に置いておくわけにはいかねえからな」

「って、なんかロボットが喋ってるぞ!?ぐ、群像!どうなってんだここ!?」

 

俺の姿を見た色黒ゴーグルが驚愕の声を漏らす。お、何だあれ?新しい型のHMDか?…………できれば白兵戦用に防弾性のNVG(暗視ゴーグル)との機能付きの奴が欲しいんだよな。最も、ISのハイパーセンサーを使えば全て片付くが。

 

「ははっ、驚くのも無理ねえな」

 

俺は黒龍を解除、素顔をさらした。格納庫特有の金属臭がどこか落ち着く感じがする。その時点ですでに相当やばい事は理解しているが。硝煙が煙るところからきてるからそうなるのも仕方ねえことなんだけどな。

 

「ようこそ、天海龍へ。今のは俺の愛機にして商売道具だ」

「今度は跡形もなく消えましたよ…………」

「霧の技術が霞むな…………」

 

今度はフルマスクとぬいぐるみ?がなんか言っている。この世界も中々にカオスなことになっているんだな…………どこからツッコミを入れていくべきなのかわからねー。

 

「全員、お揃いのようですね。天海龍艦長のクロエ・クロニクルと申します」

 

そんな中、クロエと一夏がやってきた。というかここからの移動って徒歩だよな?ブリッジまで相当な距離あるよな?しんどいな、これ。

 

「えーと、臨時の通信士とソナーを担当している織斑一夏です。本来は蒼龍に乗っています」

「同じく臨時で砲雷長をやっている紅城悠助だ。本当は黒龍の搭乗者なんだがな。呼び方は自由で構わん」

 

俺達もクロエに続いて挨拶をする。最もそれぞれ私服だから、何とも示しがつかねえんだがな。俺に至っては都市迷彩仕様の戦闘服だし、ちゃっかりブリッジにタボールが置いてあったりする。まぁ、一夏はそんなものを持っているはずもなく普通の私服だ。一応パーツ風に解説しておこう。

 

頭部:ヘアピン、カチューシャ

胴体上部:蒼と白基調の薄手パーカー

胴体下部:グレーのミニスカート

脚部:膝上までの黒靴下、ブーツ

 

まぁ、本来はただ視察して帰る予定だったから仕方ねえ。

 

「先ほども紹介したが、艦長の千早群像だ。好きに呼んでくれ」

「私はイオナ」

「俺は橿原杏平、火器管制を任されているぜ」

「自分は副長の織部僧です。よろしくお願いします」

「私は四月一日いおり、エンジニアよ。よろしくね」

「八月一日静です。ソナー要員をしています」

「大戦艦ハルナ」

「私は刑部蒔絵だよ!」

「私は大戦艦キリシマだ」

 

…………って、ちょいちょい。色々と突っ込みたいんだが一つだけやっておくか。

 

「なぁ、群像」

「どうしたんだ?」

「お前のところのクルーに、熊がいるのはなんでだ?」

「熊じゃないわ!大戦艦キリシマだ!大戦艦なんだよ!偉いんだよぉぉぉぉっ!」

「まぁ、実際どうでもいいんだがな」

「どうでもいいのかよぉぉっ!?」

「ヨタロウ?どしたの?」

「…………もう私は完全に熊なのか…………蒔絵、少しそっとしてくれ…………」

 

というか、あの熊すげえな。なんか膝をついてのの字を書いているぞ。しかも、虚しいオーラが見える。それが蒔絵という幼女に慰められている姿は非常にシュールだ。

 

「それでは皆さんを食堂に案内します。硫黄島に到着するまで、そこでゆっくりしていてください」

 

クロエはそう言って401クルーを食堂へと連れて行った。さて、俺もその後を追うとするかね。

 

 

「いや、それにしても驚いたな。ここまででかい艦は初めて見た」

「しかも、霧と同等の火力を有してるとなれば、とても心強いです」

「そうですか。そちらの支援になったのであればこちらとしても嬉しいですね」

 

食堂に集まった俺達はすぐに打ち解け、他愛もない話をしていた。こんな風にすぐに打ち解けるのは俺達の特性なのだろうか?それとも、群像達の特性なのか?まぁ、どっちでもいいか。話が通じてバカ話をできる仲になれば、戦場でも安心して背中を預けられる。クロエの周りには群像や僧といった艦の全てを預かる者が集まっている。

 

「イオナちゃんの髪の毛、凄くサラサラしているね…………羨ましいなぁ」

「やっぱり?一夏ちゃんもそう思うよね?」

「そう?私はあまりそういうことを気にしたが事ない」

「そう言えば、一夏さんの声、私の声と似ていますね」

「おそらくそれは中の——」

「待てハルナ!その先は言ってはいけない気がするぞ!」

「それは私も凄く思うよ、ハルハル」

 

女性陣営(熊追加)もなんだか盛り上がっているようだ。大分楽しそうだな。

 

「しっかし、すげえな。驚いてばっかで、そのうち驚きってものを忘れそうだぜ」

「ははっ、そうかよ。そんな事したら人生つまらねえぜ?」

「そいつに間違いねえ。けどよ、うちの艦長は博打打ちがひでえからなぁ…………飽きないんだが、心臓に悪いんだわ」

「御愁傷さん」

 

そんな風に周りを見ている俺だが、俺も俺で杏平とバカ話をしているところだ。中々にこいつと話をしていると飽きなくていい。ってか、なんか気さくに話ができていいんだ。

 

「まぁ、俺は傭兵だからなぁ。命張ってなんぼの世界で生きてきたし、その気持ちわからんでもないわな」

「ん?傭兵?マジでか!?」

「中東から北アフリカといった内戦国に加えて、報酬があれば世界中のありとあらゆるところで戦争やれるぜ?」

「…………敵に回ってなくてホッとしているぜ」

 

そんなに傭兵ってやばいのか?俺の世界じゃ傭兵なんてそこらへんにいたぞ。というか同業者のオンパレード。

 

「それはそうとして、あの一夏って子、すっげえ美少女だよな?あんなの滅多にいないぞ」

「わかるか?あいつの可愛さがわかるのか?」

「おう!写真を撮らせてもらいたいくらいだぜ」

「まぁ、写真くらいならいいか…………下手に手を出したら重力子ビームでローストヒューマンな」

「ぬおっ!?なんという濃密な殺気!?そ、そこまでなのか!?」

「人の彼女に手を出したらそのくらいは覚悟しておけや」

「お前の彼女なの!?お、俺に女運はねえの?」

 

どうやら一夏が俺の彼女だった事に驚きの杏平。そして、思いっきり項垂れていた。

 

「まーまー、そのうちあるだろうよ。気にすんなって」

「そうだといいんだけどなぁ…………けどまぁ、お前と話してると退屈しねえや」

「さよか。まぁ、俺もそれに異論はねぇ。バカ話をして笑いあえる奴になら背中を預けられるだろ?」

「それもそうだわな」

 

そして互いに笑いあう俺ら。もう既に相当交流を深めたような気がするぜ。野郎同士だからできる会話ってのもあるし、どこか新鮮味がある。こんな一時も悪くはねえな。

 

「もうそろそろで硫黄島に到着します。一度、格納庫に移動しましょう」

 

クロエがそう報告してくる。にしても早いな。詳細なデータを見せて貰ったが、この艦、八基の大出力偏向パドルスラスターで動いてんだよ。だからこそ小回りは効くし、何故か瞬時加速も出来るとのことだ。最早、戦艦の定義が俺の中で崩れ去って行った。

 

「って、巡航速度速くないか!?」

「今は確か70ノットらしい」

「この艦マジもんのチートだわ」

 

もうじき到着するという天海龍の速度に杏平は驚きを隠せずにいた。さっきこれ以上には驚く事ないと言っていたが、これは驚くしかなかったようだ。もとより巡航速度50ノット、最大戦速では180ノット出るとかなんとか。これだけで相当な大質量兵器だろ。ぶつかったら一般的な巡洋艦くらいへし折れんじゃね?

さて…………まもなく到着か。向かうとするぜ——硫黄島へ。

 

 

「そんじゃ、引き下ろし作業始めるぞ」

『ああ、始めてくれ』

 

硫黄島の沖合一キロに近づいた時に、格納庫から401を引き下ろす作業を始めた。どうやらイオナが艦尾の材質を変えてくれたらしく、電磁石が普通にくっついた。もっとも、またまた俺のアレストワイヤーによる作業なんだがな。本当、パワーだけは他の機体の追随を許さねえものだ。そのうちサルベージ作業でもできるようになるんじゃねえか?

 

「まもなく完全に着水するぞ。衝撃に備えてくれ」

『了解した』

 

無事に作業が完了した。にしてもヒヤヒヤするもんだよな、この作業。ちなみに格納庫の奥では謎の発光が発生してVLSのユニットと昇降エレベーターが展開されていた。改めてISであると認識させられたぜ。

 

『ここまでの護衛、ありがとう。折角だから、我々の基地に寄っていかないか?ちゃんとしたお礼がしたいんだ』

「そう言ってるが、どうすんだクロエ艦長?」

『どの道未だ帰れそうにありませんし、立ち寄っても問題ないでしょう。千早艦長、その提案に乗せていただきます』

『了解した。今、ヒュウガに確認を取ってくる。それまでそこで待っていてくれ』

 

さて、硫黄島に立ち寄る事に決まったみたいだ。俺の中で硫黄島っていうと、激戦区だったような記憶しかねえんだよな。大戦の後、どっかのテロ屋が潜伏したりとか色々あったらしいしな。それに比べて、ここは一体どうなっているんだ?何故か人工ビーチのようなものが見えるぞ。おまけに要塞砲のようなものまで…………こりゃ完全に基地だな。

 

『すまない。場所はあるがドックへの入り口は海中にしかなかったのを忘れていたよ』

『ならば潜航できればよろしいのですね?』

『?ああ、そうだが…………』

『ではドックのゲートを開いておいてください。あとはこちらから向かいます』

 

どうやら潜航する気でいるようだ…………ハッチの閉鎖は確認しているが、それでも不安は毎回残る。俺は一旦黒龍を解除し、ブリッジへと向かった。

 

『艦内の全隔壁を閉鎖します。悠助様、至急ブリッジまでよろしくお願いします』

「言われなくても向かうっての…………」

 

さっきから隔壁が閉鎖されていく音が聞こえてくるんだよな…………俺、閉じ込められないよな?とはいえこのままでは隔壁に封じられるのは間違いない。ブリッジまでそれなりに距離がある。俺は大急ぎでブリッジに通じるエレベーターを目指した。

 

「よう、なんとか着いたぞ」

「作業お疲れ様でした。では、天海龍、潜航します。一夏様、各ソナーに注意してください」

「わかったよ」

 

一応この艦がISであるため、ハイパーセンサーからの情報がディスプレイに表示される。映像として出ているからな。正直ソナーいらねえんじゃねえかと思ったが、よくよく考えてみれば夜間になれば有視界距離は短くなり、そんな時に襲撃されたら堪ったもんじゃねえ。それを考えたらソナーはやっぱり必要だわ。

ディスプレイには岸壁にぽっかりと開いた穴がある。どうやら、そこが入港ゲートのようだ。

 

「センサーマスト、格納。千早艦長、これより入港します」

『あ、ああ、了解した…………』

 

潜水して入港してくる戦艦なんてまずねえからな。群像、いやその他も相当驚いているようだ。ん?なんかモノクルつけた奴があんぐりと口を開けて唖然としている。

 

「入港完了しました。上陸許可を願います」

『もとより、我々は君たちを歓迎している。さ、一旦こっちに来てくれ』

「了解です。悠助様、一夏様、行きましょう」

「ああ、そうだな。よし、行くとしようぜ、一夏」

「そうだね。早く行こっ」

 

そう言って俺らはブリッジを後にして、甲板上に降りる。どうやら最上甲板の高さをドックの高さと同じくしたようで、割と楽に向こうに行くことができた。にしてもハリネズミだよな、これ。ブリッジの出入り口の真横に30mmCIWSのターレットが配置されてんだよ。万が一、すべての装甲を突破されたら誘爆確定じゃねえか。おお、怖え。

 

「な…………ま、まさか、霧以外で潜航できる戦艦があるなんて…………」

「本当、君達には驚かされてばっかりだ…………」

 

まぁ、驚くのも無理ねえか。俺だってこいつを初めて見た時は海中からまるで海を割るように出てきたから、びっくりしてしまったぞ。しかも水深300mまでの潜航能力に海中でも120ノットという高速を出せる。色々おかしいだろ、おい。

 

「では改めて。ようこそ、蒼き鋼への母港へ。クロニクル艦長」

「クロエで構いません。入港許可ありがとうございます、千早艦長」

「俺の事も群像で構わないぞ。よろしく、クロエ」

「すでに俺らは名前呼びしているんだけどな〜〜」

「艦長はその辺り、まだまだ堅物ですからね」

 

そう言われて「うっ…………」と言葉を詰まらせる群像。実を言うと俺も既に呼び捨てにしている。というか、そうなってしまうのが俺の癖だ。お堅い呼び方はあまり好きじゃねえ。傭兵共は大概こんな感じだからな。

 

「霧でもないのに重力子反応…………それも三人から…………興味が湧いてきたわね。ようこそ、硫黄島に。私はヒュウガよ、よろしくね」

「よろしくお願いします。私はクロエ・クロニクル、天海龍の艦長をしています」

「俺は紅城悠助、傭兵だ。あと臨時の砲雷長」

「私は織斑一夏です。臨時でソナーと通信を担当しています」

 

どうやら、このモノクルがヒュウガと言うらしい。確か、こいつもメンタルモデルだと、彼女が群像達と喋っている時に聞いた。にしても何でなんだ…………束さんと同じ匂いがする。そう、何をしでかすかよくわからないあの空気だ。

 

「それじゃ、軽く挨拶も終えた事だし…………」

「?」

「イオナ姉様〜〜〜〜〜〜!」

 

ヒュウガは俺たちに挨拶をすませると、一目散にイオナの元へ飛んでいった。そして、そのまま押し倒して抱きついている。イオナは飛び込んできたヒュウガを引き離そうとするが、見た目中学生と見た目大学生の体格差がそれを邪魔して、全く引き剥がせずにいる。

 

「思えばあの時…………イオナ姉様により次々と魚雷を叩き込まれた時より…………もうこのヒュウガお姉様無しでは生きていけぬ身体に!演算処理の限界も超えて、もうどうにかなってしまいそう…………!」

「や、やべぇ…………本物のマゾヒストだ…………」

 

訂正。ヒュウガは束さんよりさらにやばそうな匂いを漂わせ始めた。というか、百合百合しいわ。このままイオナを放置していたら、何か手遅れな事になりそうな気がするのは気のせいだろうか…………?いや、マジだな。そんなふうに考えていたらヒュウガがイオナに蹴り飛ばされていた。…………というか、ヒュウガと聞いて天海龍のコア人格の一人、日向を思い出した。あいつも確か戦艦が元だから、あいつが見たらなんと思うのだろうか?下手したら発狂するんじゃねえか?

 

「うわぁ…………なんだか束さんに似てるよ、ヒュウガって人」

「あの人と混ぜ込んだら、塩素系と酸性を混ぜたやつよりも相当危険じゃねえか?」

「それより、変な化学反応引き起こしそうだね…………」

「縁起でもないことに違いはねえわ」

 

どうやら一夏も俺と同じような認識だったようだ。まぁ、あっちはあっちで天災を引き起こすような人間だし、こっちはこっちで駄メンタルモデルだし…………ここも相当にカオスだな、結果的に。

 

「お喋りはそこまでだ。それより、あれはどういう事だ?」

 

そう言って群像が指差した先には船体を赤く染めた艦が一隻いた。見た目は重巡洋艦クラスって所だな。戦艦にしては主砲口径が小さいように思える。

 

「ああ、あれは——」

「——遅かったわね」

 

その艦の甲板上に一人の少女が出てきた。重力に逆らっているような髪型をした青い髪に、同じように透き通った青い目、それに加えて良いスタイル…………間違いなく学園とかにいたらラブレターでも大量にもらっていそうだな。なお言っておくが、俺からすれば一夏の方がどう見ても可愛いのでぶれる事はない。

 

「なぁ、杏平。あいつ誰だ?」

「ああ、あいつはタカオ。前に俺たちと戦って、その時外洋に退去させられたはずなんだけどな…………」

 

どうやら、あいつはタカオというようだ。女性にそんな男みたいな名をつけはしないから、艦船名として判断すると、あいつはメンタルモデルか。てか、以前401に負けていんのかよ…………。

 

「用件を聞こう、重巡タカオ」

「よ、用件!?」

 

群像がそう問うと、タカオは何やら手を弄ばせ、体をモジモジとし始め、頬もほんのりと赤くなっていた。ん?なんでそんな事になっているんだ?いや、まて、もしかしてあいつ…………

 

「…………なぁ、一夏、クロエ。タカオってさ、もしかしてなんだが…………」

「…………間違いなく確実だね。一昔前の私達みたいだよ」

「私はそのようなものに疎いのでよくわかりません」

 

俺の予想は間違いなかった。タカオは間違いなく群像に惚れている。もしや、これから告白でもする気か?割とすごい事になってんじゃねえか。それに気がつかない群像もすげえわ。

 

「わ、渡してもらおうか!」

 

そう言ってずびしぃっとでも効果音がつきそうなほどに群像へ人差し指を向けた。いや、これは告白というよりは脅迫か?群像を渡せとかとでも言うつもりか?

 

「し、振動弾頭とそのデータを!!」

 

だが、そんな俺らの予想に反し、出てきたのは群像達が今アメリカへと輸送しているもの、振動弾頭と呼ばれる霧に対抗するべく人類が開発した兵器、それとそのデータを寄越せというものだった。だが、それを言うのに顔を赤らめる必要があるのか?そして次の瞬間彼女の顔が変わった、やらかしてしまったというものに。その時、俺はこう思った。

 

(タカオ…………それだけはないわ)

なお、そんな事に全くと気づいていない群像はといえば本気で振動弾頭をタカオが狙っていると思っているようだ。

 

「タカオ!振動弾頭は渡さ——」

「バッカじゃねえの!計画と違うじゃん!」

「だ、だってそんないきなり告白だなんて…………」

「押掛け女房志願が今更恥じらってんじゃねーよ!」

「お、乙女にはいろいろあるのよ…………」

「乙女プラグインなんか実装してんじゃねえぞ、コラァ!」

「あーっ!うっさいなぁーっ!そっちこそ何やってた——」

 

群像がなにか言いかけたようだが、それを遮ってヒュウガがタカオの甲板上に飛び乗り、タカオの胸ぐらを掴んで何やら問答が始まった。計画がどうとか乙女プラグインがどうとか言っているが、一体何をしようとしていたんだ?ついでに言えば、現在互いにクラインフィールドと呼ばれる霧の持つ絶対防壁を展開してぶつけ合っての争いになっている。霧の超性能無駄遣いしてんなよ…………。

 

「群像様、これは如何致しましょう…………?」

「…………放置してても良いんじゃないか?とりあえず、ラウンジにみんなを案内しよう。ついてきてくれ」

「了解したぜ。痴話喧嘩に巻き込まれるのはゴメンだ」

「あー、私は残ってあいつらに伝えておく」

 

というわけでキリシマ(見た目は完全に熊)がこの場に残り、他はラウンジへと先に向かう事になった。なお、未だにヒュウガとタカオの痴話喧嘩は終わる気配がない。喧嘩するほど仲が良いのか、それとも違うのかはわからんが。

 

 

結局なんやかんやあって飯を終え、俺は自由に行動していた。というか、ここの飯、全部合成食品だった。まぁ、時代が時代だから仕方ねえんだけどな。霧に海洋を封鎖され、おまけに海に進出してきた者はすべて沈められ、航空機ですら墜とされる始末だ。食料の半分以上を輸入に頼っていた日本は合成食品が出回る社会になった。天然食品もあるにはあるらしいが、相当な高級品だそうだ。ま、合成食品が割安でできるのはもっともな事だし、下手に寄生虫とかの心配もねえから、その辺を考えると安心はできるか。

 

「お、群像じゃねえか」

「悠助か。こんなところでどうしたんだ?」

「なに、ただの散策さ。他にやる事もないからな」

 

適当にぶらついていたら、途中群像と会った。傍にはイオナがいない。どうやら、別行動しているようだ。それだったらちょうど良いか。

 

「なぁ、群像。お前はどうして霧と——イオナと共にいるんだ?」

 

俺はそれが気になって仕方なかった。この世界の連中は霧に煮え湯を飲まさせれてきたようなもんだ。それはきっと群像も入っている。しかしこいつはイオナという霧と共にその道を歩んできた。人類側から見て仕舞えば人類の裏切り者も同然だろ。

 

「そうだな…………俺はこの世界に、この停滞した世界に風穴を開けたいんだ。学院にいた頃からずっと思っていた。こんなところで無為に時間を失いたくない、今すぐにでも行動を起こしたかった。そのきっかけを作ってくれたのが——」

「イオナだった、というわけか」

「その通り。イオナは学院の生徒として俺に接触してきてきたんだ。彼女はうまく生徒に紛れたつもりだったようだったが、その容姿で余計に目立ってたが」

「まぁ、あの蒼銀の髪なんてそうそういないだろうしな。それに、見た感じ中学生に見えなくもない」

「ははっ、イオナに聞かれたらなんて言うんだろうな。——話を戻そう。その会った日の夜、俺は埠頭に呼び出され、そこでイ401と二度目の対面を果たした。その時、俺の頭にはいろんなものがよぎった。行方不明になった父さんに、それで自ら命を絶った母さん、全てを奪っていった霧の艦隊…………そして、この変わらない世界を変えてやりたい、と。その後は俺とイオナで横須賀を飛び出して、今じゃこんな大所帯だ。ついでに、政府からもお尋ね者さ。それでも、この仕事を——振動弾頭をアメリカに届ければ、世界はきっと大きく動く。そう信じているんだ」

 

…………なるほどな。まぁ、言い方は悪くなってしまうが、この霧に支配された世界をぶっ壊したいって事で良いのだろうか?もしそれが本当ならば潜水艦一隻では厳しいものがある。杏平から聞くに、周りには軽巡やら駆逐艦やら挙句大戦艦級まで存在しているとの事。こんな中を潜水艦で切り抜けていくのは難しいんじゃねえか?だが、そんな困難ですらも乗り越えていく、鋼のような意志がこいつには見られる。だから、俺からは何も口出しはできそうにないな。

 

「そういえば悠助は傭兵で、そのISという兵器を扱っているんだよな?どうしてそんな事を?」

 

今度は群像が聞いてくる番だ。まぁよく聞かれる事だから言っても良いか。それに、今更言ったって減るようなもんでもねえし。

 

「元々ISってのは、探査用パワードスーツなんだが、それはいいか。まぁ、最初は復讐目的だったんだわ」

「復讐…………なぜそんな事を?」

「実を言うと俺、目の前で親父達を失ってんだ。殺された、って言った方がいいか。で、その原因がISのコアを擬似的に生み出した廉価品による自爆テロ。だから、元凶となるテロリスト共と擬似コアを全てぶっ壊してやりたかった。けど…………今じゃそんな気持ちも薄れちまって、復讐よりも大切な誰かを守りたいって考えてんだ」

「大切な、誰か…………」

「ああ。傷つきやすいやつだから、尚更な。それがこの力を託された意味だと思ってるぜ」

「そうなのか…………少し辛い事を聞いてしまったな」

「気にすんなよ。今更なんだからさ」

 

どうやら、群像は俺の傷だらけの過去を聞いて申し訳ない気持ちになっているようだが、俺からすればもうなんとも感じてないし、怒りも残されていない。ただ、今残されているのは、一夏を守りたいという思いだけだ。未来永劫変わる事のないだろう。

 

「さて、そろそろブリーフィングルームに到着する。俺は今後の事について僧達と話し合う必要があるんだが——」

「一応、俺も参加させてくれ。今後の事についてなら、俺たちも同行するかどうかを決めなきゃならねえ」

「そうか。それなら、ついてきてくれ」

 

というわけで俺は群像の後をついていく事にした。しっかしな…………こうなんていうんだ?なんかやばい事が起きそうな前兆が見えたり見えなかったりしているんだよ。誰も死なねえ形で全てが片付くといいんだが…………。

 

 

 

 

 

クロエちゃんと悠助から休んで来いと言われて、(一夏)は人工ビーチの方に来ていた。どこか南国のリゾートみたいにビーチベッドが並べられている。浜辺では水着姿のハルナ(あ、コア人格の方じゃないよ)と蒔絵がビーチボールで遊んでいる。でも、ハルナは運動神経が悪いのかうまく取れていない。ビーチベッドにはマリンブルーの髪が特徴的な子——タカオが日光浴をしているようだった。全体的に整った体つきをしていて、まるでモデルのようだ。羨ましいなぁ…………比べると、どうしても私が地味なように思えて仕方ない。けど、このまま照りつける陽射しの下にいると日焼けしそうだったから、タカオのいるビーチベッドの隣に行く事にした。パラソルもでているから、日除けには丁度良さそうだしね。

 

「隣、いいかな?」

 

そう当たり障りのない言葉をタカオにかけた。どこか考え事をしていたようだったけど、私の声に気がついたのか、こちらを振り向いてきた。

 

「別にいいわよ」

「それじゃ、失礼します」

「不思議なものね…………人間は他人の横に来る時に失礼って必ず言うものなの?」

「そうだね。だって、相手に迷惑をかけちゃう事をするかもしれないから、先に断っておくって意味もあるんだよ」

「迷惑、か…………その概念に私は入るのかしら…………?」

 

再びタカオは考え事を始めてしまった。しかもどこか真剣に考えている。となると、悠助と一緒に確信した事だけど、きっとそうなのかもしれない。

 

「…………もしかして好きな人の事考えてる?」

「んなっ…………!?べ、べべべ別に艦長の事なんて…………」

 

完全に墓穴掘ったね…………誰も群像さんだなんて言ってないよ。そういえばイオナちゃんやハルナ、そしてタカオは元々は艦で、メンタルモデルを形成してるって言ってたっけ。だとしたら、好きな人の事を艦長って言うのは納得の事だ。

 

「タカオ、一夏、ここにいたのね」

「あ、イオナちゃん。私に何か用かな?」

「いや、タカオに連絡があってきた」

 

イオナちゃんもビーチに来たみたいだけど、どうやらタカオに連絡があってきた模様。といいながら、ちゃっかり水着を着込んでいる。その水着のせいでより一層幼く見えてしまうのは仕方のない事だと思う。というか、その大きなひよこかあひるかよくわからないビーチボールみたいなものを抱きしめている姿に保護欲を駆り立てられそう…………。

 

「私に?」

「そう。重巡タカオ、現時刻よりヒュウガの管理下より解放する。これであなたは自由」

「もしかして…………艦長が!?私のために…………!?」

「どうしてそう思う?」

「違うのっ!?」

 

タカオさん…………あなたは本当に元々が世界を焼き払えるほどの力を持っている超兵器なんでしょうか?今の彼女からはそんなものの片鱗すら見つからず、どこからどう見ても恋する乙女にしか見えません…………。

 

「群像があなたを思ってかどうかは知らない。けど、あなたはこれで霧に戻れる」

「どうしてそんな敵をみすみす返すような真似を…………」

「わからない。でも、それが群像の考え」

「なんでも知っているように言うのね…………」

「私は群像の艦——」

「あなたに霧のプライドはないの!?」

 

タカオはイオナちゃんにそう問い詰めていた。ここは私が間に入って場を落ち着かせたらいいと思うんだけど、行動に出る前にイオナちゃんがきっぱりと答えた。

 

「群像に会い、従う——それが私の中にあるたった一つの命令…………」

「そう…………!命令で艦長の側にいるの。それなら、艦長の事はなんとも思ってないというわけね」

 

イオナちゃんの答えを聞いたタカオはどこか安心したような顔をしている。まぁ、いつも一緒にいると言っている群像とイオナちゃんの事だからね。タカオはその事について警戒をしていたみたいだ。だが、その心配も先ほど消えたため、どこか勝ち誇ったような顔をしているのだ。しかし、そんな余裕綽々のタカオとは反対にイオナちゃんはどこか悩み込んでいた。

 

「イオナちゃん…………?」

「群像の事?群像は私の…………私の…………」

 

もしかすると、イオナちゃんもそうなのかもしれない。となると、ここで修羅場になるのかな?巻き込まれたくないけどね。そしてイオナちゃん、その先の言葉をちゃんと言わないと。

 

「…………わからない」

 

けど、イオナちゃんの口から出てきた言葉は、明確な答えを出せてないことを意味するものだった。でも、私にもそんな時期があったから、その気持ちはわかるよ。おそらくイオナちゃんも群像さんの事が好きなんだと思う。ただ、群像さんにそれを感じ取っているような素振りは見られなかったんだけどね…………鈍感な人だよ。

 

「霧とは思えない答えね…………まぁいいわ」

 

イオナちゃんの答えを聞いて、タカオはそう言うとビーチベッドから立ち上がった。

 

「タカオ、どこに行くの?」

「別に。何をするにも、もう私の自由なんでしょ」

 

そう言って島の中へと向かっていった。何に対してなのかはわからないけど、どこかイライラしているように見えたよ。どうしたんだろう?

 

「…………私は…………」

 

そんな時、私の隣でイオナちゃんがふと呟いた。小さな声だったけど、近くだったからよく聞こえたよ。

 

「イオナちゃん、どうしたの?」

「一夏…………ううん、なんでもない」

 

イオナちゃんはそう言うけど、顔を見る限りそうには思えなかった。どこか悩んでいるように見える。

 

「もしかして、群像さんの事?イオナちゃんはどう思っているの?」

「それは…………よくわからない。でも、私は群像の艦だから…………だから私は群像を死なせないためにここにいる」

 

お、重い…………まるで悠助みたいなことを言っているよ。でも、それ以上に群像さんの事を信頼しているようにも思えてきた。

 

「でも…………群像が私を褒めてくれると、急に演算に大きな負荷がかかる…………よくわからない感覚…………この感覚はなに?」

 

そう言うイオナちゃんはとても悩んでいるように見えた。でもその悩みは、タカオと同じようなもの。そして、かつての私と同じ悩み。けど、その悩みに対して私が答えを出してしまうわけにはいかない。そういう気持ちは誰かに教えてもらうものじゃなくて、自分で気付く事が大切だって教えてもらったからね。

 

「ごめん、それは私が答えを出していけないものだよ」

「どうして?非合理的。他者と答えを共有しあえれば、すぐに答えに辿り着くのに」

「そうかもしれないけど、それじゃダメなの。自分で導き出した答えが本当に自分が思っている事なんだから、誰かに教えてもらえるようなものじゃないの」

「自分で導き出すもの…………よくわからない。でも、それが大切だという事はわかった。もう少し私自身で考えてみる」

「その方が絶対にいいよ。頑張ってね」

「うん。一夏、ありがとう」

 

そう言ってイオナちゃんもまた島の中へと戻っていっちゃった。でも、まだ私はこっちにいたいし、蒔絵とハルナ、そして途中から来たキリシマ(どう見ても熊のぬいぐるみ)とのやり取りを見ているのも面白いしね。

 

「…………頑張れ、イオナちゃん、タカオ」

 

小声で恋する乙女二人に向かって、もう聞こえないと思うけど声をかけたのだった。ふと見上げた空は、目の前に広がる海のように蒼く澄んでいた。

 

 

 

 

 

「で、状況はどうなってんだ?」

「現在、島の正面に東洋方面第一巡航艦隊旗艦大戦艦コンゴウ、及び重巡マヤ、軽巡ナガラ級が右翼左翼後方に各二隻ずつ展開しています…………」

 

ブリーフィングルームで待機していた俺とクロエを含む、蒼き鋼の面々は結構やばい状況に立たされていた。というのもだ、現状日本の海洋を全て封鎖していると言っても過言でない東洋方面艦隊の第一巡航艦隊旗艦がこっちに向かっているとの事。つまり敵の大将首がやってきているわけだ。そりゃ困惑もするわ。おまけにその他のナガラ級や重巡クラスまでもが進行中。

 

「それで、401の修理状況は?」

「残りのナノマテリアルになけなしの侵食魚雷十四発を補給、ついでに一発だけなら超重力砲を使えるようにはしておいたわ。他にも25mmパルスレーザーや14cm単装アクティブ・ターレットが基本装備となっているけど…………もっとも、その程度の武装じゃナガラ級一隻ともまともにやり合えやしない。潜水艦の主武装は魚雷だからね」

「確かにヒュウガの言う通りです。ちなみに、大戦艦級のクラインフィールドを突破するには侵食魚雷約十五本が必要となります。残念ながら、直接戦闘するのは得策ではないように思えます」

「まぁ、景気良くそうバカスカ撃てるようなものじゃねえしなぁ…………」

 

修理もそうだが、武装面でも401はかなり疲弊していた。おそらくこの状態で出撃でもすれば瞬く間に海の藻屑と化す。無論、そんな事をさせるわけにもいかないが。

 

「…………ヒュウガ、コンゴウと通信できるか?」

「?別にそれくらい造作もないわよ?」

「なら、一つ言伝を頼まれてくれないか?俺に考えがある。ついてきてくれ」

 

そう言って群像はブリーフィングルームを後にする。一体どんな考えが思いついたというのだろうか?例え戦闘に入って天海龍の支援があってとして、401が確実に生き残れるかといったら、そんなもんわからない。下手すれば俺らまとめて水底行き確定。

 

「群像は何を思いついたんだ?」

「さぁな?けどよ、うちの艦長は博打打ちが大好きだから、今回もとんでもない事になりそうだぜ?」

「本当、その通りよ。おかげでこっちは毎日か命懸け。心臓がいくつあっても足りないね」

「ですが、艦長の判断があったからこそ、ここまで来れたんじゃないでしょうか?」

「それに違いはありませんね。そんな艦長ですから、皆が着いて行くんです」

 

401のクルーは皆、群像の事を信頼しているようだ。若干一名よくわからないが、その目は何処にも歪む気配が見られない。こんなに素晴らしい仲間を持てた群像が少し羨ましかった。

 

「それでは、別命あるまで我々は待機。いつでも出航ができる用意をしましょう」

 

僧のその言葉で杏平、いおり、静もまたブリーフィングルームを後にした。残されたのは俺とクロエだけだ。

 

「…………なぁ、クロエ」

「悠助様、どうかされましたか?」

「お前は一夏を連れて天海龍で待機しておいてくれ。何かあったら黒龍に通信を頼む」

「悠助様はどうなされるのですか?」

「俺はこっちで別行動取らせてもらうわ。それに、万が一の時は401の援護をしてやってくれ」

「了解しました。ではそのように」

 

クロエはそう言ってブリーフィングルームを後にした。さて、ここからだな。本腰入れて、腹括っていかねえと。こんな緊張感、戦場に立った時以来だな。懐かしい感覚だ。

 

(なるようになるのを待つだけだな…………)

 

そうは心で思っているのだが、いかんせん嫌な予感しかしなくて、どうしようもなかった。既にコンゴウ艦隊は島の沖合約一キロまで迫ってきていた。

 

 

「…………そんで、この状況何?」

 

現場待機していた俺が見たのは、こちらにやってきたコンゴウ(ロングドレスの金髪)とマヤ(能天気なお祭り女)、そこにこの島にいるイオナ、タカオといったメンタルモデルと群像を交えたバーベキューだった。言っておくが、俺もこの場に巻き込まれてしまっている。

 

「彼等を俺の食事に誘ったのさ」

「見りゃわかるわな。なんでよりによってバーベキューなんだよ」

「まぁ、言われてみればそうよね。人類には周りと囲んで食事を取る文化が多様に発達しているようだし、他の手もあったんじゃない?」

 

肉だの野菜だのをそれっぽく合成したものをコンロで焼いているヒュウガがそう言ってきた。なお、合成したやつがヒュウガである事は言うまでもない。

 

「そうねー、例えば鍋とか?」

「温暖化してただでさえ暑いのに余計に熱くなるわ!ついでに言うと、海岸で鍋ってどんな光景だ!?」

 

そ、想像したくねえ…………こんな暑い日に外で鍋など…………地獄かよ。中東で何故か石鍋料理をアーミアに食わせられた時は、熱中症になるかと思ったぞ。ついでに汗のかきすぎで脱水症状。

 

「そういうわけだから、バーベキューにしたわけだ。ほら、悠助も食べてくれ」

 

いや、あんたそんなこと考えてないだろとかと突っ込みたくなりそうになったが、とりあえず自重しておこう。それに、飯を食ってくれと言われて黙っていないのが俺という生き物だ。合成食品とはいえ、殆ど本物と見分けがつかん。自然と喉がなる。ついでに言えば俺は空腹状態。我慢などできなかった。

 

「うひょーっ!久々の肉だ肉!合成物だと知っていながらも、この味だけは変わんねえなぁ!」

 

焼かれた肉にガッツリと食らいつく俺。どうやら模しているのは牛肉。それも、牛の全部位。有名どころのカルビに、俺の好物に入る牛スジまでもが焼かれていた。合成物だから少々本物に劣るが、それでも普通に食う分にはうまい。ここ最近、一夏が肉料理を食わせてくれなかったから、自重もクソもなく食らいついてしまった。一夏すまん、魚も美味いが…………やっぱ俺は肉派なんだ、文字通りの肉食系なんだよ。黒龍にはレーションが積んであるが、肉料理オンパレードだし、戦地でいい肉になりそうな獲物を見つけたら戦闘中でない限り、捕らえて食っていたくらいだ。なお、欧州で捕らえた鹿肉は割とうまかった。北アフリカ戦線はロクな食いモン無かったしな。

 

「貪欲の悪魔だわ…………食に関する人類の意地は怖いものね…………」

「キリシマのように生の肉を食べるほどではないが、貪り食らっているように見えるな…………」

「わ、私の肉が消えていく…………!」

「すっげい食欲…………ブラックホールみたい」

「ヒュウガ、おそらく食材が三十分で底をつくと思う。追加して」

「はいなー!なら、悠助にはこの漫画肉を出すわよ!」

「おほーっ!気が効くねえ!ヒュウガ、ありがとよ!」

 

メンタルモデル達や蒔絵は俺の異様なまでの食欲に驚きを隠せないでいるようだ。だが、この食欲は生きるためのエネルギーを蓄えるためであり、このエネルギーは一回の戦闘でほぼ尽きると考えていい。それほどまでに俺の動きは激しいからな。

そんな中、ヒュウガは新たなる肉を合成した。見た目は骨つきのでかい肉塊。通称漫画肉と呼ばれるそれは最早バーベキューの域を越え、まるで狩人の主食のような別次元の存在になっていた。それを遠慮なく受け取った俺は迷いなく肉に食らいついた。牛とも豚とも言えない味わいが感じられる。合成物で一番美味いんじゃねえの、これ。

 

「随分と野蛮な食べ方をするものだな、人間というのは」

「んぁ?コンゴウか」

 

ガッツリと食らいついている俺のところに、今回の騒動の中心にいるコンゴウがやってきた。どうにも硬そうな雰囲気の持ち主だ。俺とはソリが合いそうにない。

 

「ちゃんと食ってるか?ぼやぼやしてっと、肉が無くなるぞ?」

「面倒臭い…………これもただの真似事にしか過ぎん。我々には意味のないことだ」

「本当にそう思うか?」

 

どうやらコンゴウはこの行為自体には意味がないと思っているようだ。まぁ、メンタルモデルは食事を必要としないとヒュウガのやつが言ってたしな。お硬いコンゴウには理解ができないことなのかもしんねえ。だが、俺はそんなコンゴウに見せつけるかのように群像達の方を示した。そこではイオナ、タカオ、ハルナ、キリシマ、ヒュウガ、マヤ…………メンタルモデル達が群像や蒔絵と共に、人間と変わらないような様子でバーベキューを楽しんでいる姿がある。

 

「飯を食うってのは単なるエネルギー補給だけじゃねえ。ああやって親睦を深めるような意味合いだってある」

「くだらんな。我々霧は兵器だ、不要な馴れ合いなどいらん」

「つまり、この状況はお気に召さないってことか?」

「当たり前だ。兵器はこんな生温い場所にいるべきではない。本来、戦場にいるべきなのだ」

 

霧は兵器、その考えが骨の髄まで染み込んでいるようだな…………おまけに兵器は戦場にいるべきだと…………これだからお硬い奴は面倒くせえんだよな。唐突に俺はこんな質問を投げかけた。

 

「…………お前の言う戦場ってさ、何色に見えるんだ?」

 

別に戦地の環境とかから判断して答えろなどとは言っていない。あいつにとって戦場ってのはどんな風に感じとられる場所なのかってのを聞きたいだけだ。

 

「そうだな…………黒一色だろう。全てを焼き尽くした後に残るのは、黒く燃え尽きたものしかないからな」

「黒、ねえ…………確かに焼き尽くしたらそんな風になるだろうが、それは状況から判断したんだろ?なら、俺は少し違うぞ」

「ならば聞こう。貴様にとっての戦場の色とはどんなものなんだ?」

 

コンゴウの回答を聞いた俺はその答えを少々否定の意を込めた口調で自分とは違うと言った。そりゃ、自分の感じたことに間違いはないが、状況から判断した答えだったからな。

 

「俺の場合は赤だな。目には見えないが、戦場で流れた血が派手に赤く染めていく。そして復讐心の赤も膨れ上がっていって、再び血で赤く染まる…………俺の言うことももっともだろ?」

「確かにそうかもしれんな…………私の前に倒れた者は百や二百では数え切れない。その者たちの血も戦場に流れているというのか…………」

「その通りさ。お前ら霧は兵器、それに間違いはない。けどよ、折角人間と同じ身体を得たんだ。戦い以外の事を体験してもいいんじゃねえのか?」

「…………ふん、面倒臭い」

 

コンゴウはそう言って俺達から距離をとって、ビーチチェアに座った。どうやら、本気で面倒臭がっているようだ。はぁ…………なんでこうもっと柔軟に考えることができねえのかな、真面目な優等生ってのは。一夏の場合、真面目な優等生だったが柔軟に考えることができていたしな。コンゴウは相当な頑固者だ。同じコンゴウでも、一秋の金剛とは大違いだぜ。向こうは常にハイテンションの英国かぶれみたいなもんだ。

 

「やれやれだな…………で、あの頑固者をどうする気なんだ、群像」

「彼女ともう少し話をしたい。まだ分かり合える可能性が少しでもあるなら…………」

「ひゅうっ。こりゃとんでもねえ甘ちゃんだわな。だが、お前はそれに賭けているんだろ?なら、俺に如何の斯うの言う義理はねえ。やりたいようにやればいいさ」

「ああ、元からそのつもりだ」

 

群像の目に迷いなどない。愚直なまでに真っ直ぐに前を見つめているような目だ。こうなったやつは誰にもその意思を曲げさせることなどできん。

 

「しかし…………メンタルモデルってのは多様なもんだな。バカ真面目な奴もいれば、バカ話のできる奴もいる。人間よりも人間なんじゃねえのか?」

「それはどうかしらねぇ。まぁ私の場合、そのような性格を決める感情というものがあったから、こうしてイオナ姉様に愛を抱くことができたわ」

「お前のその感情だけは人間の中でも非常に珍しいものだってのを気づけ。そんな人間はそうそういないぞ…………」

 

ヒュウガはそんな事を言いながら身体をくねらせている。ヒュウガ以外はその光景をドン引きした目で見ている。無論、俺もだ…………この百合百合しい人間型端末ユニットをなんとかしてやれ。駄メンタルモデルもいいところじゃねえの?てか、なんでお前はそんなどでかいお好み焼きを作ってんだよ。それに蒔絵にマヤ、お前らは何故にハルナで遊んでいる。あとキリシマ、お前は完全に濡れたらダメだってことを理解しろ、座礁してんじゃねえか。タカオは…………とりあえず群像にアタックな。イオナとコンゴウは何やら会話中だからいいか。

この時、俺はこんな風に楽しめているから何も問題はないと思っていた。人も霧も関係なく和気藹々とできる、これが群像の求める世界の在り方だと。だが、そんなものはただの幻想にしか過ぎなかったと、俺は実感させられるのだった。

突如、群像の前に立ち何かを言っていたコンゴウの身体が光り出し、消え始めたのだった。そして、同じようにマヤの身体も。メンタルモデルはナノマテリアルで形成されていることは聞いているが、これは一体どういうことなんだ?

 

「コンゴウの奴…………イオナ姉様を警戒してきたわ…………」

「どうしてだ?同じ霧なんだろ?」

「そう…………けど、イオナ姉様を始めとして、霧は変わり始めた。それも、イオナ姉様と接触した艦から。頭がダイヤモンド並みに硬い優等生さんはその変化が受け入れられないのよ。おそらくユニオンコアをここから離れたところに置いて、精巧に作られたダミーを送ってきたわね。大戦艦級の演算能力じゃなければ出来ない芸当よ」

 

つまりイオナの影響を受けたくなかったというわけか…………確かに兵器は変わることはないと思うが…………それ以前に意思を持ったのならば、いずれ変化は訪れる。それを受け入れられないということは、ずっと今までの姿でありたいのだろう。変化を受け入れることで失ってしまうものもあるからな。だが、生きていく上で何かを捨てなければならない時はいつだってくるのも事実だ。

 

「まずい…………!コンゴウの機関出力が急速に上昇中!攻撃来るわよ!」

「やっぱりどうしてもこうなんのな!」

 

ヒュウガはそう叫ぶと同時にクラインフィールドを展開する。オレンジ色に発光する六角形の障壁が幾多も現れ、島全体を覆った。かくいう俺も黒龍を緊急展開、両腕にブラスターカノンを装備した。その直後のことだった。ヒュウガのクラインフィールドに紫のビームが直撃した。衝撃は伝わってくるが、本格的なダメージは通っていない。まるでDアームズの強制波動装甲と同じだ。

コンゴウからの攻撃は一層激しさを増していく。ビームにミサイルにと、大戦艦の名に恥じない火力だ。次第にクラインフィールドにノイズが現れ始めた。直感的にまずいと思った俺はDアームズを展開、強制波動装甲を最大出力で展開した。

 

「しまっ…………!」

「任せな!」

 

クラインフィールドが欠けたところからコンゴウの砲撃が入り込んでくる。だがそれは砂浜に着弾する事なく、俺の強制波動装甲によって防がれた。ちっ、蓄積率五パーセントか…………あんまり受け続けるわけにはいかねえな。

 

「う、うそ…………どうして、クラインフィールドを…………!?」

「強制波動装甲っていうものなんだが…………まぁ、原理自体は似たようなもんか。それより、島の後方より砲撃を確認。おそらくナガラ級だろうから潰してくるわ」

「…………あんた一人で霧を壊滅させる事ができそうな気がしてやまないわよ」

 

一度ビーチから離脱した俺は島を取り囲んでいるナガラ級六隻のうち、まずは島の裏手を封鎖している二隻から片付ける事にした。あそこはドックの出入り口があるからな。封鎖されちまえばこちらが依然として不利な事に変わりはない。さらに言えばもとより此処は破棄する予定と言っていたから籠城なんてありえねえし、脱出する算段もあるんだろう。あと、ドックの大半を占めている天海龍を出してやらねえと401を出す事もできん。

 

「一夏!聞こえるか?」

『ばっちり聞こえているよ』

 

ひとまず俺は天海龍に通信を入れた。この世界、霧による妨害電波があって通信はままならないらしいが、どうにもISの通常回線、秘匿回線、接触回線の全てが使えるようだ。

 

「なら百八十秒以内に発進できるようにしとけとクロエに伝えてくれ!状況はマジやべえ!発進次第、ナガラ級の殲滅だ!」

『了解!じゃ、そう伝えておくね!』

 

必要事項は伝えておいた。さて、俺の仕事を始めるとするか。

 

「さて、と…………久々に大暴れしてやろうじゃねえか!行くぞ、相棒!」

 

俺はDアームズのブースターを点火、一気に島の後方へと向かう。霧の艦艇に通常の装備が効かないというのは聞いている。どれもクラインフィールドの所為だ。何者をも阻む盾、実弾だろうがなんだろうが受け止めちまう代物。だが、そんな強固な盾にも欠点があって、一定以上のエネルギーが蓄積されると臨界点に達し、フィールドが崩壊するとの事。ついでに言えば、重力子兵器などがオススメとヒュウガが言っていた。だからこそDアームズとブラスターカノンは最適だ。Dアームズ搭載の460mmアクティブ・カノンは言わずも、ブラスターカノンはカノンモード時に小型の重力子砲となる。口径は155mm。大型軽巡洋艦クラスの砲だ。さらに、MGF弾頭をしこたま積んできた。普通の戦場なら五分と経たずに焼け野原どころか何もない大地に変わる規模の火力だ。これだけあっても倒し切れるか怪しいとなれば…………いかに霧というものが常識はずれかを思い知らされる。

しかし、そんな泣き言を言っていられる暇など俺に存在しているわけがない。島の後方へと回った俺はすかさずナガラ級二隻のうち一隻に照準を定めた。

 

「悪いが早々に退場してもらうぜ!」

 

アクティブ・カノンを一番砲二番砲ともにフルバーストで放った。どうやら、アクティブ・カノンは実弾砲でレールガンクラス、粒子砲で重力子ビーム、フルバーストとなれば超重力砲にも匹敵するとヒュウガとクロエがそんな事を言っていた。つまり、当たりどころさえよければ一撃でお陀仏だって可能って事。

アクティブ・カノンの直撃を食らったナガラ級は艦上構造物の殆どを破壊され、そのまま大破、爆発した。おおう…………相変わらずえげつない火力だぜ。っと、感心している暇なんてねえ。本当は照射中になぎ払って壊滅させようとしたが、ナガラ級は射線上から大きく距離を取り、なぎ払おうにも照射時間を迎えてしまった。この後は冷却時間に入るためしばらく砲撃はできない。だからと言って全く攻撃できないというわけではないんだがな。

 

「次はてめえだな!」

 

ブラスターカノンを正眼に構え偏差射撃を行う。禍々しいほど赤く染まった重力子ビームがナガラ級へと放たれるが、向こうも攻撃を警戒しているようでクラインフィールドを張っており、先程のような有効打は与えられていない模様。まぁ、そもそもで基礎出力が段違いだからな…………本命がジェネレーター直結型に対し、こっちはコネクターからの供給だからな…………そりゃロスが出る箇所もあるわ。そんな事を今更ぼやいたってどうしようもないのはわかってんだがな…………。

 

「うおっ、と…………あっぶねー…………」

 

重力子ビームが強制波動装甲を掠めていった。どうやらナガラは俺を放っておけるような存在として扱う気はなく、本気で潰す気でいるようだ。現に俺に向かってミサイルを盛大に放ってきていやがる。ざっと数えて十二発。これが通常弾頭ならそのまま突っ込んでいくんだが、どうもこれ、侵食弾頭らしいのよね。というわけで、頭部近接防御機関砲で迎撃。起爆した弾頭はあの時見た凶々しい球体となって消滅していく。あれを食らったら、強制波動装甲があろうとも俺じゃやべえかもしんねえ。

 

「野郎、海の藻屑となっちまいな!」

 

だが、此処まで接近できれば上等だ。ナガラの艦橋構造物前に立った俺はブラスターカノンを突き刺した。どうやらクラインフィールドの展開が遅れている模様。そのままトリガーを三回引いた。それが決め手となったのか、ナガラは沈黙した。よし、これで敵勢力の排除完了。

 

「こちら黒龍、ナガラ級二隻の排除完了した!すぐに出航してくれ!」

『わかった!天海龍、これより戦線に参加します!』

 

そう一夏から返事が返ってくると同時に、海が割れた。そこから出てくるのはクロガネの巨体。センサーマストがゆっくりと起き上がると共に俺の耳には

 

『全砲塔、目標ナガラ級!斉射、始めっ!』

 

高らかにそう叫ぶクロエの声が響いてきた。放たれた全主砲、副砲のビーム十四条がナガラ級を容赦なく貫いた。それも、二隻同時に。もうえげつない。人の事を言えないかもしれんが、それでも十分すぎるものだ。お陰で残されたナガラ級は二隻のみ。それでもなお攻撃を仕掛けてくるというのは、ただ命令に従うだけだからなのか、それもとバカなだけなのか知らんが。

ちなみに島の反対側ではタカオがマヤと交戦中。正面ではヒュウガとコンゴウの根比べだ。

 

「で、401は?向こうはいつでも出れんのか?」

『うん。ナガラ級の殲滅後に出たいって』

『ならばMBH弾頭の試験もついでに行います。悠助様、一度退避を』

「了解した。後部甲板に退避する」

 

クロエからの指示通りに後部甲板へと退避した。その直後、VLSのハッチが十ほど開き、ものすげえ速さでナガラ目掛けて飛んでいく。だが、ナガラ級も対空攻撃を仕掛けてきており、数は次第に減らされていく。それでも、中にある黒い一発——MBH弾頭ミサイルだけはなかなか落ちない。そして、ナガラ級の直上で弾頭は起爆した。その瞬間、黒いドーム状のオーラがナガラ級二隻を包み込むのと同時に、二隻を構成しているナノマテリアルが強引に結合を破壊され、ドーム状になっている頂点に吸われていく。最早霧であろうと人類であろうと、あの狂気がもたらす破壊からは逃れることは無理だ。完全に二隻のナノマテリアルを吸い終えたオーラは球状となり、その後は萎んで消滅した。…………これさ、ふと思ったんだけど、普通に霧の侵食弾頭兵器と同じくらいやべえんじゃねえのか?というか、クラインフィールドにエネルギーを吸収されないって、どんだけチートな弾頭を作ったんだよ、あの兎。おそらく、天海龍はこの世界でも一人で世界に喧嘩売れるわな。

 

『こちら401、これより脱出する。もしついてきてくれるのなら、この海域で落ち合おう』

「了解だ。そっちこそ、道中気をつけてな」

 

401も無事に脱出完了。このままフルバーストモードを使って、一気に海域を離脱するそうだ。それならいいんだが…………どうにもコンゴウが401を狙うコースに入ってる。この状態はさすがにいかんだろう。しかも、潜水までしていきやがった。…………こうなったら俺に手出しは出来んわ。水中戦だけはいくらなんでも無理に決まってる。

 

「で、これからどーすんだ?」

『装置がどうも不調気味らしいので、もう暫くこちらに滞在です。一先ず合流地点に向かうことにします』

「へいよー…………ま、俺もあのまま放っておくのは気がひけるからな」

『…………帰ったら束さんに何か奢ってもらお』

『可能な限りコンゴウとの交戦位置を避けつつ、最大戦速で抜けます!』

 

どうやら、この世界での航海、もう少し続きそうだな。だが、こんなドンパチも悪くない。一夏には悪いが、俺は戦場にいるときのほうが生き生きしているようだ。それに、俺にはクルーズなんてゆっくりとしたものは似合わねえ。今の天海龍のように激しく波を切り裂きながら突き進んでいくようなもんの方がいいな。まぁ、足裏のランディングラッチを使ってないと立ってもいられんが。だが、それくらいの荒々しさが龍の名にふさわしいだろう。さぁ、向かうとするか、 次の合流点——伊豆・小笠原近海へ。

 

 

合流地点には程なくして着いたのだが、いかんせん天海龍、そしてタカオの艦影しか見えない。海上の天候は最悪と言っても過言ではない大嵐。そのせいで通信障害になったかというと、そういうわけでもない。401は潜水艦だ。此処まで荒れた状況だと水上艦での通信や索敵機能は著しく低下するが、401がいるのは海面と比べて穏やかな海中。つまり、通信機能が低下するなんてことはありえないんだ。

 

「一夏、周辺海域に401の影は見つかったか…………?」

『…………ううん。何も見えないよ…………』

「了解…………」

 

嫌な予感しかしない。既に合流予定時刻から一時間以上過ぎているんだ。あいつの性格からして此処まで遅くなるなんてことはねえはずだろ。俺はタカオに通信を繋いだ。こっちでの戦果はどうなったんだろうか?

 

「…………ハルナ、401とのコンタクトは取れたか?」

『先の戦闘で超重力砲同士が干渉しあい、空間移送に大きな乱れが生じている』

『これじゃ…………概念伝達すら使えやしないっ…………!誰かさんが考えもなしに撃つからよ』

『しょうがないじゃない!やってなかったら、やられてたのはあんたなんだからね』

「収穫はそっちもないんだね…………」

『ああ…………大戦艦級が三隻も集まっているというのに、情け無い限りだ…………』

「悔しいのはお前だけじゃねえよ、キリシマ…………クロエ、アクティブ・ソナーに反応は…………?」

『…………依然として確認されず。信号もキャッチできていません』

 

こっちも全然ダメだった…………。そうなると益々嫌な予感しかしなくなってきていた。いかんいかん、そんな最悪の状況を考えてどうするんだ。

 

『あれ…………?』

「一夏、どうした?」

『海面に何か浮いてるの…………銀色の砂みたいな…………』

『銀砂!?それ、崩壊したナノマテリアルよ!!あんた、今どこにいるの!?』

『401の信号が消えた海域だよ…………』

「俺たちのいる場所より北西だな…………全艦、401の信号ロスト地点に向かうぞ!一夏、その場で暫く待機しててくれ」

 

俺たちは一夏の見つけてくれた手掛かりを求めて、信号ロスト地点に全速力で向かった。群像…………確か、自分の目標のためなら、その途中で死んでも構わないって言ってたよな…………だが、それは違うぜ。目標を叶えるためなら…………その為にも、必ず生きてその結果を見届けなきゃならねえだろ。それに、お前はこんなところで力尽きていいようなタマじゃねえんだ。だから、生きていろよ、群像。

と、思いながら当該海域に到着したのだが…………

 

『艦影なし…………当該海域深度千メートルまでのサーチ、何も無し…………』

『まずいな…………この辺りの海溝は最大で九千メートルにもなる。そこに入られたら終わりだ…………』

 

全くと言っていいほど手応えがなかった。海面に漂うナノマテリアルの残骸は増えていくばかりだ。こうなってしまったら、生存の望みも薄い。

 

『それでも…………さがすしかないじゃない!!』

 

だが、タカオだけは諦める様子などなく、自分の感情に愚直なまでに従って、あろう事か潜航して探し出す気でいる。現に奴の艦は潜航体勢に入っている。

 

「馬鹿野郎!もしかするとこの海域のどこかに401を撃沈した奴がまだ潜んでいるのかもしれねえんだぞ!」

『そうよ!それに、イオナ姉様を襲ったのは恐らく潜水艦…………重巡洋艦のあんたじゃ水中戦は不利ね』

 

しかし、そんな勝手な行動を認めるわけにいかねえ。敵勢力が完全に排除できたかも怪しいところに、友軍を送り込めるかってんだ。そんなの死にに行くようなもんだ。無謀な事をさせて死なせるわけにはいかない。何度もそんな奴らを戦場で見てきたからな。もう俺は沢山だ。

 

『どうして…………どうして、平気でいられるのよ…………!いつものイオナ姉様はどうしたのよ!!』

『平気なわけないじゃない…………!けど、私は姉様に託されたの。もしも姉様に何かあったら、私が姉様の意思を継がなきゃならないのよ』

 

タカオの悲痛な叫びが通信回線越しに聞こえてくるも、それをヒュウガが制する。ヒュウガの言うことは最もだが、この中で一番辛いのもヒュウガである事に間違いない。そんな二人の会話を聞いて、何もできない今の状況がとても腹立たしかった。そんな時、通常回線に何かノイズのようなものが聞こえてきた。…………いや、これはノイズじゃねえ。救助を求める信号だ。えー、内容はと、『401、至急救助を求む、至急救助を求む』——って、

 

「よく聞け!たった今、401からの救難信号をキャッチした!」

『本当か!?』

「ああ…………だが、401は潜水艦としての機能を失っている可能性が高い。おまけに何処まで行っちまったかわからねえし、俺と一夏には潜水用の装備がねえんだ」

『…………なら、私が行くわ。ヒュウガ、アレかして』

『全く…………しょうがないわね。けど、あんたに任せるほかないわ。姉様を頼んだわよ』

『ええ…………でも、早く準備してよね。艦長が…………千早群像が待っているんだから』

 

暫くしてタカオの甲板上からヒュウガのタマゴユニットが落とされた。これ以上、俺たちにできることはない。後はタカオが群像とイオナを見つけてくれる事を只々待つだけだ。

それから三十分は経っただろうか。タカオからは依然として報告がない。もしや、潮流の影響で流されてしまったのだろうか?いやいや、そんな事はないだろう。だが、それでもただ待つだけというのは俺の性に合わない。

 

『見つけた…………!』

 

そんな歯痒い思いがピークに達した時、タカオから発見の報告が上がった。そして、ディスプレイに表示されたのだが…………出ていたのは朽ち果てたナノマテリアルで出来た残骸のみ。あの蒼き潜水艦の姿や面影など残されていない。誰もが生存の可能性を諦めかけた時、俺は残骸の陰に何かが光ったように見えた。

 

「…………タカオ、残骸の陰を確認してくれ」

『…………もう見つけたわよ。全く、あの子ってば勝手なんだから…………これじゃ…………私の入る隙間なんてないじゃない…………!』

 

…………残骸の陰に救命ポッドがあった。中には負傷した群像がいるようだが、イオナの姿が見当たらない。代わりにヒトデのような形をした物体がポッドの中に入っている。確かあれって…………ユニオンコア、だよな?という事は、このポッドって元はイオナを構成していたナノマテリアルなのか!?

 

「悠助…………これって…………」

「ああ…………イオナが自らを犠牲に、群像を救ったんだ…………そして、またあいつも同じさ」

 

俺が指差す方向を見る一夏。そこには、自身を構成するナノマテリアルを海中へと送り込むタカオの艦の姿があった。恐らくこれでイオナと401を復活させる気なのだろうが…………これではタカオが今度消えてしまう事になる。

 

「群像を守ったイオナとの間に入り込む事なんて出来なかったんだろうな…………それでも、あいつは群像に惚れてる。だから、こうやって二人を助けようとしてんだ…………」

「でも…………!こんなのって、悲しすぎるよ…………!もしかするともう会えなくなるかもしれないんだよ…………タカオはそれでいいの!?」

『群像が…………艦長が望んでいるなら、それは私の望みも同じよ…………ならば私は、艦長の為に全てを捧げるわ』

 

半分近いナノマテリアルが海中に送り込まれた。このままだと中にいる杏平や僧たち401クルー、ヒュウガやハルナたちもまずい。

 

「ヒュウガ…………退艦急げ」

『わかってるわよ…………でもまさかイオナ姉様が自らを犠牲にするとはね…………』

 

ヒュウガもその事に関しては予想外だったようだ。次第にゴムボートで面々が退艦していくのが確認できた。それから暫くしてタカオの艦影は完全に消えてしまった。しかし、その直後、ナノマテリアルが送り込まれた海面が突如として輝き出す。それと同時に何かが高速で海面へと浮上してくる音が聞こえる。

 

「…………どうやら、来たようだな」

 

海面を突き破るかのような勢いで浮上してきた艦は、401とタカオ、それぞれの面影を残し、見事に融合した美しい艦影だった。

 

「綺麗、だね…………まるで二人の想いが合わさったような感じがするよ」

「そうだな…………」

 

恐らくここからが正念場だろうな…………401を一度沈めた連中がどこかに潜んでいる海域を突破し、アメリカまで行かなければならねえ。アメリカにだって霧の艦隊はいるだろうし、これまでよりもきっつい航海になる事は間違いない。だが、それでも突き進まなければならないから、このまま立ち止まっているわけにもいかねえ。それに、今の401を俺たちは援護できる力がある。やれるだけやるか。今の俺たちにできる、最大限の支援ってモノをよ。

 

 

401がタカオと融合し、アルス・ノヴァモードになって数日が経った。現在、俺たちは仲良く並進して絶賛逃走中である。と言うのもだ、

 

『なんで、フレッチャー級が三十六隻も追いかけてくんだよ!?過剰戦力じゃねえの!?』

「杏平さん、ぼやいたって仕方ないですよ」

「三十六なんてISに換算したら一個大隊と同じじゃん。二回くらい相手にしたことあるから慣れたわ」

『お前の感覚はどこかずれてると思うのは俺だけか…………?』

『おしゃべりはそこまでだ。今は後方のフレッチャー級をどうにかしないとな…………』

 

何故か霧のフレッチャー級駆逐艦に追われてんだわ。ついこの間も霧の軽巡アガノ級に追われたが、ここまでの規模ではなかったぞ。

 

「てか、この海域は東洋方面艦隊の管轄じゃねえのか?どう見たってフレッチャー級はアメリカ勢だろ」

『霧の管轄なんてあるようでないものだぞ。私とハルナも結構自由に動いていたし』

『最も、401撃沈が霧の総意となっている可能性も否定できん…………』

 

霧って脳筋どもしかいねえのかよ。しかも管轄すらあるようでないとか、それ全然まとまっていねえじゃねえか。それとハルナ、それ本当だったら全ての霧対俺ら二隻と二機という非常に分の悪い賭けになっちまうぞ。そこまで悪い賭けは大嫌いだからな。

 

「でも、なんでこんなに早く見つかったのかな?」

『アルス・ノヴァモードの機関音は非常にユニーク。普通の霧とは違う。だから、完全にその跡を消すのは無理』

『そのせいでここに居ると大声で言っているようなものです。おかげでこうして大部隊が塵に変えようと向かって聞いてるのです』

『ついでに我々天海龍も警戒されています。こちらの重力子エンジンの音も特徴的ですから、否が応でも目立ちます』

「自ら的になっているように言うんじゃねえ…………」

 

まぁ、隠密行動するには向いてねえってことだな…………潜水艦がそれでいいのかと一瞬思ってしまった。

 

「で、ヒュウガ。駆逐艦クラスはクラインフィールド持ってんの?」

『一応あるにはあるけど、人類の攻撃で剥がせるくらい脆いわよ』

 

どうやら駆逐艦クラスは軽巡クラスの下位互換と考えていいものらしい。ついでに潜水艦キラーとしても駆逐艦は使われるからな…………この大部隊で爆雷落とされたらたまったもんじゃねえ。

 

「了解。だとよ、一夏。けどさ、別にお前が出なくてもいいんだぜ?わざわざ危険に自ら突っ込まなくても…………」

「うん、わかってるよ。でも、私がブリッジにいたってできることは限られてくるし、直接役に立てることなんて言ったらこれくらいしかないからね」

「まぁ…………お前がそれでいいんならいいんだけどよ…………」

 

どうやら今までブリッジの通信席にずっといたもんで、なんの役にも立ててないと思ったから、こっちに来たらしいんだが…………別にそんなことはねえんだけどな。というか、通信は極めて重要な仕事やし、自分達の命運を分けるような時もある。ついでに言えば危険にあうリスクもかなり減る。だから一夏に任せていたんだが…………まぁ、こいつがやるって言っているわけだし、言い出したらきかないやつだからな。自由にやらせておくのが一番だ。

 

「行けるな?」

「いつでも大丈夫」

『それでは、RATX4-00及びRATX4-01はそれぞれ第一、第二カタパルトデッキへどうぞ』

 

ハンガーがリフトアップされ、次第に外の景色が見えてくる。そして、俺たちを追ってくる敵の姿もな。しっかし、改めて三十六隻なんて数を見ると気が滅入りそうだ。配置としては十八隻で二列になっているようだが、特に囲もうとかそういった動きは見られない。まぁ、駆逐艦の搭載砲じゃ射程圏外だろうしな。

 

『作戦としてはまずフレッチャー級を401の超重力砲でなぎ払います。その後残敵を掃討するのですが、侵食弾頭兵器は貴重品であることを考慮し、我々のみで撃破します』

「天海龍からの支援は?」

『可能な限り砲撃を行いますが、MGF及びMBHは使いません』

「了解、それがわかればなんかなる」

 

まぁ、あんだけ効果範囲のでかい攻撃をされちまったら、俺たちまで被害を食らってしまうかもしれないわけだしな。友軍に撃たれて落ちるのだけは勘弁してほしいぜ。

 

『作戦を開始します』

 

クロエのその声とともに401は水上でサイドキックを開始。舳先がフレッチャー級の群れの端を捉える直前のタイミングで超重力砲が放たれた。青白いビームがフレッチャーを端から順に消しとばしていく。おっそろしいな、あの攻撃。例え強制波動装甲を最大出力で展開していたとしても、いとも簡単にブチ抜けられそうだ。照射が終了すると、大半のフレッチャー級は姿を消しており、残りも退避行動に移っていた。

 

『RATX4-00とRATX4-01は順次発艦してください』

「了解。RATX4-00、黒龍、紅城悠助、出るぞ!」

「RATX4-01、蒼龍、織斑一夏、出ます!」

 

となると、残ったのは残敵の掃討だけだ。残ったフレッチャー級は十隻程度。三分の二がさっきの一撃で消し飛んだことになる。霧の艦艇ってのは本当にチートだな。カタパルトより打ち出された俺は、そのままフレッチャー級共のど真ん中へと吶喊する。右手には愛用のバスターソード、左手にはブラスターカノンを装備した。ブラスターカノンは言わずも、バスターソードもそれなりに有効だってのがわかっている。大質量エネルギーもクラインフィールドには相当な負荷を与えるようで、駆逐艦クラスにはかなりの脅威となるそうだ。

 

「さてさて、楽しいパーティといこうじゃねえか!」

 

まず目をつけた一隻の土手っ腹にブラスターカノンをぶち込む。クラインフィールドなんてあるようでないもんだ。その一発で大破、海の藻屑となっていく。その攻撃を皮切りに、ビームやらミサイルやらが俺に降り注ぐが、この程度の弾幕なんざ見慣れてきている。最小限の動きでかわしつつ、次の目標にバスターソードを振り下ろした。フィールドが音を立てて崩壊すると共に、鋼鉄を切り裂く手応えが伝わってくる。今度もまた船体の維持ができなくなったのか、真っ二つに折れて海中へと没していく。一方の一夏も、舳先から艦尾にめがけてスライスしていやがる。しかも、ブレードビットで微塵切りにされているやつもいるし…………おそらく俺よりもやり口はエグいんじゃねえのか?

次から次へと敵を斬り伏せたり、撃ち抜いたりしていたら、既に艦影は見えなくなり、敵性反応も消失していた。

 

「意外とあっさり終わっちゃったね」

「手間がかからねえ方が嬉しい時だってあるだろ。天海龍、こっちは掃討完了。帰投する」

 

仕事を終えたならここにいる必要はもうないな。俺たちは天海龍に帰投するのだった。

 

 

「そんで、俺らの後ろを熱狂的なファン二人が付いてきてると、な」

「信号はイ400、イ402…………イオナの姉妹かな?」

 

帰投しても俺たちに安息なんてものはなかった。一旦ブリッジに向かえば、今度は俺たちの後ろを霧の潜水艦である400と402が追跡してきているって言うじゃねえか。いつから追跡してきていたのか気になるところだが、別にいいか。それよりもこの二隻、実は401をかつて撃沈した連中である事が先程群像より伝えられた。因縁のある艦というわけだ。

 

『あの子達、ああ見えてしつこいところあるのよね』

「いや、しつこいところしかねえじゃねえか。で、どうするつもりなんだ?」

『できればここで倒しておきたいところだ。弾薬は余裕があるが、日用品のストックがあまりない。その補給も兼ねてハワイに入港したいが、二隻を引き連れていくわけにもいかない』

『ま、普通に考えてそうだよな。そんな事したら禁固百年や二百年は覚悟だぜ』

『もしかすると終身刑かもしれませんね』

『そのまま水葬される可能性も否定できません』

『あのー、僧や静がそう言うとマジでなりそうに聞こえるんだけど…………』

「緊張感のかけらもねえな…………」

「私はこういう空気の方が気が楽でいいと思うんだけどね」

 

401クルーの皆は自由すぎて困る。いや、むしろこんな奴らだから霧と友好的にできているのかもしれない。そして、見事に怪しさ満点な俺らを受け入れている事もそれに一理あるんだろうな。

 

『おしゃべりはそこまでにしておけ。イオナ、二隻の位置は把握できるか?』

『後方六百メートルにいる』

『しかし、この海域ではあっさり逃げられ、後ろを取られるかもしれないぞ』

『この先のビートン海山に追い込めればいいが…………向こうもそれは警戒しているだろう』

「では、こちから陽動を仕掛けてみましょう。此方にも対潜兵器はいくつかあります」

「まぁ、確実に追い込める保証はねえけどな」

 

アスロックもある事だし、なんとかなるだろ、きっと。それに、魚雷で潰してもいいだろうし。最も、陽動をかけるなんて俺が一番苦手とする事なんだがな。

 

『なら、作戦を開始しよう。此方は先にビートン海山で待機している』

「了解しました。それでは陽動をかけるとしましょう。悠助様、お願いします」

「ったく…………このコンソールにはしばらく触らなくていいと思ったんだが、やるしかねえか」

 

俺はコンソールを操作し、VLSにアスロックを装填する。対潜ロケットと考えてもらっていいな。というか、対潜水艦用の誘導魚雷か?ま、どっちでもいい。使用弾頭は通常弾頭を用いるが、その他に一発だけMBHを混ぜ込んでおいた。陽動という目的ならば、威力のでかいやつを使って恐怖感を与え、追い込んだ方が楽だろう。向こうも感情というものを持っているなら、人間と同じように動いてくれるさ。それに、例えそうでなくても、MBHのあの破壊力だ。二隻くらい此方で仕留める事が出来るやもしれん。

 

「二隻は本艦の後方二百メートルにいるよ」

「VLS、七十一番から九十番、斉射!」

「了解。七十一番から九十番、斉射する」

 

全部で二十発のアスロックが放たれた。本来なら放たれて、空中で分離してからパラシュートによる着水というプロセスを経て攻撃するものだが、うちの天海龍に搭載されているアスロックはその手間要らずであり、直接海面へと飛び込み、攻撃を開始していく。観測モニターには水泡が幾つも発生していく中に、一際禍々しい爆発があったのが映し出される。さて、第一波の攻撃はどんな風になったのか…………。

 

「一夏様、二隻の動向は?」

「やっぱりあの一際危険そうな爆発を警戒したのか、今本艦のほぼ真下。ついでに魚雷発射音を二つ確認したよ」

「仕方ねえ。クロエ、強制波動装甲を最大出力で展開してくれ」

「了解しました」

 

クロエに強制波動装甲を最大出力で展開してもらうと共に、俺は爆雷投下軌条を起動させた。天海龍には全部で八基の投下軌条が装備されている。対潜兵器として古来から使われている爆雷だが、実際当たるかと言われたらそうでもない。いると思った海域に次から次へと落としていくのが運用法だからな。だが、今はそれでも十分だ。敵潜水艦は俺らの腹の下にいるわけだしな、適当に落としても脅しくらいにはなるだろう。

両舷の爆雷投下軌条より各四発ずつ爆雷を落としていく。全部で三十二発の爆雷が一斉に海中で起爆し、強烈な水圧を発生させる。それにより此方へと向かっていた魚雷の信管を刺激したようで、此方の強制波動装甲に攻撃を加える前に破壊できた。

 

「よ、容赦がないよ…………二隻はどうやら諦めて本艦の前方に出てきたみたい」

「使えるものはなんでも使わせてもらうぜ。主砲一番、二番、副砲一番に対潜弾装填、魚雷発射管一番から二十四番まで注水、VLSはアスロックを使う。このまま一気に追い詰めてやんよ!」

 

対潜弾を主砲と副砲に装填し、海面へと叩き込んでやった。滅多な事では当たらないが、それでも十分な脅威を示す事は出来るだろう。おまけに四十インチクラスの魚雷と四十発のアスロックが放たれてんだ。これならいくら霧の艦艇でもビビるんじゃねえのか?

 

「悠助、二隻とも予定地点に到達したよ。これで作戦は終わりだね」

「ん?もうビートン海山に入ったのか?了解、全武装を警戒状態に移行するぜ」

「では、私達は次の報告があるまで待機です。お疲れ様でした」

 

一仕事終え、皆の口から安堵の息が漏れる。さっきから戦闘続きで息が張り詰めていたからな。だが、これで舞台は一応整ったというわけだ。あとは群像からの報告を受けて、ハワイへの進路を取ればいい。長くなると思っていたが、この旅の終わりも見えてきそうだ。

その後、俺たちが400と402撃沈の報告を受けたのは三十分後の事であった。

 

 

二隻を撃沈した401と再び合流した俺たちはハワイへの進路を取っていた。だが、正直なところ歓声などあげられるようなものではなかった。イオナからすれば400と402は姉妹艦である。つまり、俺たちは彼女の姉妹を殺した事になるんだ。素直に喜べるはずなどない。そんな空気が401を支配していた。

 

「それにしても世界ってのは残酷なもんだよな…………姉妹であろうと裏切って行動しなきゃならねえ運命を授けるとかさ」

「そうだよね…………」

 

一夏の場合、俺が手にかけてしまっている。最も、彼女自身があいつらを嫌っていたようではあるし、俺も彼女を解放するにはそれしかないと思っていたからな。それでも、唯一の家族を失ったというところに思うところがあるようだ。

 

「ですが、そうでなければ彼らが命を落としていた事も事実です」

「それはそうなんだがなぁ…………」

 

クロエのいう事も最もだ。やらなければこっちがやられるという状況じゃ、先手をうってやるしかない。それもまた、俺たち傭兵共が散々やってきた事だ。だが、どうにも腑に落ちない。そんなふうな事を考えている時だった。

 

『…………!前方に艦影あり!』

「…………休む暇も考える暇もねえってか?」

 

どうやら401の方で艦隊を捕捉したようだ。俺達も直ぐに警戒状態に入る。

 

「艦種識別はそちらでできますか?」

『ちょ、ちょっと待ってください…………出ました!インディアナ級一、アイオワ級一、ヴァージニア級二、デラウェア級一、レキシントン級二です!』

『なんだ、アメリカさんか?』

 

杏平はそんなふうに呑気に言っているが、今時現存しているアイオワ級なんざ全部記念艦かモスボール状態で博物館になっているかのどれかだぞ。だからアメリカがそんな老体を引きずり出してくるなんて考えられねえ。おまけに霧の艦艇がウヨウヨしているような海に呑気に艦隊を組んで出てきて無事でいられるはずがねえんだ。

 

「一夏、重力子反応は検出されたか?」

「…………全部から出たよ。みんな霧の艦…………」

「シャレになりませんね…………」

 

どうやら、アメリカの霧の艦隊も俺たちを放っておけないらしい。先もフレッチャー級の群れを潰してきたわけだし、今度は一気に大火力ですり潰す気でいるな。確かにこれだけ火力があれば、俺らなんて簡単に海の藻屑だ。

 

『こ、後方に艦影一!高速で接近してきます!』

「今度は何が来るっていうの!?」

「モニターに出してください!」

 

クロエの指示でモニターに高速で接近する艦の姿が映し出された。だが、そこに映っていたのは最早艦の姿なんてとどめていない。あるのは巨大な球体。それが海面より上を浮遊しながら向かってきているのだ。

 

「な、なんなんだよあれ…………」

『識別信号出ました…………大戦艦コンゴウ、及び重巡マヤです』

『それにしては様子が変ね…………』

『様子が変で済むか!?』

 

どうにもあれがコンゴウなようだ…………にわかに信じられんな。何がどうなってあんな姿になってしまったのか、理由がわからない。

 

「ねぇ、悠助…………」

「どうした一夏?」

「よく、わからないんだけどね…………コンゴウはもしかすると悩んでいるのかもしれないんだ…………」

「悩んでいる…………?奴がか?」

「うん…………なんだか、やり場のない怒りとか悲しみが少しだけ感じられるんだよ…………」

 

あの時の襲撃以来、一夏は少しだけなら人の感情というものを距離が離れていても感じるようになってきている。何がどうしてそんな事ができるようになったのかはわからないが、一夏は確かに人の心を読んでいる。ただし、怒りや悲しみといった負の感情に限定されているが。

 

「だが、その原因が分からなければ、何もできねえ…………どうすりゃいいんだ、これ」

「どうしようもないのが現状です——っ!総員、衝撃に備えてください!」

「な、なに——」

 

その直後の事だった。霧のアメリカ艦隊が全艦蒸発した。言っておくが俺たちが攻撃を仕掛けたのはこれっぽっちもない。攻撃したらこっちがやられるのは百も承知だ。だから、撃ったのは後ろのコンゴウだろう。しかし、だ…………この攻撃力、おかしいだろ。

 

「さっきの攻撃はコンゴウなのか!?」

『ああ!コンゴウからの超重力砲だ!』

『どう考えても過剰火力だけどね!』

「冗談じゃねえ火力だろ、おい…………って、このままじゃいられねえ!クロエ!」

「わかっています!次に撃たれるのは私達です!取り舵一杯!前部主砲副砲、全門粒子装填!強制波動装甲、最大出力!」

「了解した!主砲一番二番、副砲一番、重力子チェンパーに装填完了!」

 

次の砲撃を警戒し、こちらも攻撃態勢に入る。だが、向こうと俺らの距離があり、有効射程圏内に捕捉できてない。だが、向こうの超重力砲は俺らを射程圏内に収めている。いつ撃たれてもおかしくない状況だ。そして、ついに第二射が放たれた。

 

『超重力砲、撃てっ!向こうの力場をかき乱せればいい!』

「なら、こちらも力場を荒らしてやります!主砲、撃てっ!」

「了解だ!」

 

401はコンゴウの超重力砲に超重力砲を撃ち込んで力場を荒らしてやり過ごすとの事。ならば俺達も同じように重力子ビームを放っているわけだから、向こうの力場をかき乱せると思い、装填していた重力子ビームを放った。極太の超重力砲をかき分けて進んでいく、蒼い超重力砲とアカのビーム。終いには何かの干渉を引き起こし、周囲に飛散する。海面にも異常が出ているようで、そこらじゅうの重力が変な数値を出しているとか。

 

「な、なんて攻撃力なの…………これが、コンゴウの怒り…………?」

「奇跡的に損傷箇所はないようです…………ですが、そう長くは持たないでしょう」

 

こちらには特に異常が出てないようで一安心したが、もうバカ騒ぎなんてできるような状況じゃねえ。長期戦になればこっちが不利だってのは百も承知。だが、こんな奴相手に短期決戦を挑むのも死にに行くようなものだ。俺がこんな奴を相手にした事がないというのも、そんなことを考えるのに拍車をかけているのかもしれん。

 

「群像、そっちは生きてるか?」

『なんとか生きてるようだ…………だが、コンゴウは概念伝達を切っていて、こちらの説得に応じる気はないらしい』

「だが、だからと言って説得しないわけにもいかねえんだろ?」

『うん。コンゴウは傷ついてる…………だから、私は助けたい』

 

だが、こんな切羽詰まった状況であっても、敵を説得したいようだ。最も、なんとかして奴を止めない限り、俺たちも行動を起こす事ができねえしな。

 

『これから先、俺達は危険な賭けにでる。正直、オッズはかなり悪い。そこで君達にはこの海域から離脱して欲しい。ここまできていうのもなんだが、君達をこれ以上巻き込みたくない』

「おいおい、それはねえんじゃねえの?ここまで一緒に戦ってきたじゃねえか。だったらもうすでにお前の艦隊の一人だ。こっちが協力させて欲しいくらいだぜ」

『し、しかしだ…………』

「ここで引いてしまっては天海龍の名が廃ります。是非戦線への参加をお願いします」

「それに、私だってコンゴウを説得したいしね。硫黄島の時は参加できなかったバーベキューもコンゴウ達も混ぜてやりたいし」

「そういうわけだ。というわけで、指示を出してくれ、群像」

『…………すまない。これより、イオナがコンゴウと物理接触による説得を試みる。俺達はその援護だ!』

「「「了解!」」」

 

こうして、これまでの中で一番の激戦やとなるかもしれない戦いが幕を開けたのだった。

 

 

「それで、作戦は?」

『サプレッションSSMによってイオナ姉様をコンゴウの元へと送り届けるわ。確実を期すためにあなた達に姉様の援護をお願いしたいの』

「それなら任せてくれ。護衛任務は俺の得意分野だ」

「イオナちゃんを必ず送り届けてみせるよ」

 

俺と一夏はそれぞれ黒龍と蒼龍を展開して、天海龍の後部甲板で待機していた。俺たちの任務はイオナをコンゴウの元へ無事に届けた後、説得の時間稼ぎだ。届ける方法が巡航ミサイルにイオナを積み込んでぶっ飛ばすという…………まぁ、無謀といっちゃ無謀なんだろうが、これしか手段がないというのも現実だ。

 

『状況を開始する!』

 

群像の声とともに俺達は甲板を離れ、401と天海龍の上空に待機した。401は海中から現在浮上中、天海龍は全兵装を起動し対空防御に当たる。それと同時にコンゴウからは幾多ものミサイルが放たれてきた。その数、五百十二発。人の事を言えないが、こんなにミサイル撃ったら金が湯水のごとく消え去っていきそうな気がする。っと、そんな事を言ってる余裕はねえ。

 

「一夏、やるぞ!気を引き締めていけ!」

「わかってるって!」

 

俺はDアームズを展開し、ガトリングとVLS、脚部のマイクロミサイルポッドで迎撃に当たる。ガトリングにはキャニスターを、ミサイルは全て迎撃ミサイルに換装してある。放たれてきたミサイルの多くは俺の張った弾幕によりその数を減らすが、何発かは複雑な軌道を描いて俺の迎撃ラインを突破していく。

 

「こっちは気にしなくていいから!悠助は目の前の方を!」

 

だが、それらも一夏の放つアームカノンにより迎撃されていく。禍々しい球体の発光を出しながら起爆してくそれらはまるで、一夏のいうやり場のないコンゴウの怒りそのもののように思えてくる。そんな時、コンゴウの周りにある光が縮退するかのように見えた。

 

「まずい!超重力砲がくるぞ!」

 

俺と一夏はなんとか超重力砲の射線から避けるが、401はクラインフィールドで強行突破する。なんとか抜けた401だが、その眼前には俺の撃ち漏らしたミサイルが迫っていた。そんなピンチの状況で放たれた一発のミサイル。それは放たれてくるミサイルの隙間を縫うように抜けて、海面へと躍り出た。あれがサプレッションSSMか。

 

「悠助!」

「ああ!後ろのロールバーに捕まれ!」

 

一夏をDアームズに掴ませ、そのままサプレッションSSMの後ろを追っていった。道中ミサイルを迎撃していくも、一向にその数は減る事を知らない。全く…………どれだけの弾薬を保有してんだ?そろそろいい加減弾切れになって欲しいと思ってきたぞ。そんな時サプレッションSSMにミサイルが幾つも接近していた。しかし、この距離で迎撃する事は不可能であり、イオナが無事に脱出できたのかどうか怪しく思えるところだった。

 

「あっ!イオナちゃん見つけた!」

「回収してコンゴウに直接配達だ!」

 

なんとかイオナは無事に抜けられたようで、俺達は彼女を回収するべく一気迫った。全く…………久々の高機動戦だから神経がガリガリすり減るわ。迫り来るミサイルやビームを避けつつ、落とせるものは落としていく。

 

「イオナちゃん!手を!」

 

そしてなんとかイオナの元へとたどり着く。一夏が手を伸ばすのを見て、イオナもそれに応じ、Dアームズへと移乗することができたようだ。

 

「このまま一気に突っ切る!お前ら、振り落されんなよ!」

「了解!」

「がってん!」

 

俺はDアームズの推力を限界まで引き上げた。強烈なGが俺の体を襲うが、この際気にしてられるかっての。これを適度なマッサージ程度に感じなきゃならねえ。

吐き出されるキャニスターがミサイルを破壊していくが、目的地であるコンゴウが未だに見えてこない。それと同時にキャニスターの残弾が五割を切った事を知らせるアラートが鳴り響いた。

 

「ちっとばかしまずいんじゃねえのか…………?だが、これで終わってられっかよ!」

 

とうとうやけになった俺はMGF弾頭搭載型巡航ミサイルを二発放った。禍々しい光が多方向重力空間を形成し、その範囲内にいるミサイルを引きちぎって押し潰していく。起爆後も多方向重力空間はしばらく残るため、その部分を回避し、コンゴウへと接近する。さっきの一撃でミサイルの大半が片付き、障害が消えた事から一気に攻め入ることができた。

 

「相変わらず無茶するね…………」

「無茶でもやらねえとやってらんねえだろ。イオナ、そろそろ準備しておけ」

「うん…………了解」

 

コンゴウまでほとんど距離はない。あと十秒もあれば到達できるところまで近づいていた。そして、目標地点に到達した時、イオナはコンゴウに向かって飛び降りていった。

 

「さぁ、行ってこい!イオナ!」

「頑張って、イオナちゃん!」

 

飛んでいった少女に向けて俺達は声援を送る。この後の仕事なんて、ミサイルの迎撃しかないんだがな。

 

「さて、本腰入れていくぞ、一夏!」

「背中は任せてね、悠助!」

 

それでも、任されたからにはやりきってやるさ。依頼された仕事は最後までやり通す、それが傭兵だ。

 

「さぁ、戦闘継続(コンバット・コンティン)だ…………!」

…………。

……………………。

………………………………。

一体どれほどの時間凌いだのだろうか?すでにキャニスターの残弾は尽き、迎撃ミサイルも残りわずか、何よりエネルギー残量も心許ない状況だった。それは俺だけではなく一夏にも言えることだった。それもそのはず、蒼龍に実弾遠距離兵器は搭載されていない。全てがビーム兵器なのだ。言うまでもなくビームは実弾よりもエネルギー消費が激しい。それを何発も放ち続けていたらエネルギーが大量に消費されるのは当たり前だ。俺の場合、実弾兵器が主だったものであるが、割と無茶な機動をして超重力砲を回避したりと、スラスターにエネルギーを持って行かれたから、こんなザマだ。で、肝心の戦況はと言えば…………

 

「終わったの…………?」

 

異形のコンゴウが少しずつ崩壊を始めていた。今はもうミサイルもビームも飛び交っていない、青空が広がって見えていた。戦闘自体は停止している。

 

「どうやらそうみたいだな…………」

 

Dアームズを解除し、俺は一夏の元へと駆け寄った。互いに目立った損傷もない。精々、超重力砲が掠めて装甲が焦げた程度だ。

 

「って、イオナちゃんは!?無事なの!?」

「お、落ち着け!今確認を取るからよ」

 

ひとまずイオナの安否を確認するため401へと通信を繋いだ。単身コンゴウへと乗り込んだわけだからな…………何が起きていてもおかしくはない。安否が気になるのも仕方ないか。

 

「こちら悠助、そっちでイオナの信号を確認したか?」

『現在解析中…………メンタルモデルイオナは…………健在です!!』

『『『よっしゃぁっ!!』』』

「うっし!イオナは無事なようだぞ!」

「それじゃ、説得は成功したってことだね!」

 

イオナの無事で401クルーと俺らも自然と喜んでしまった。全く…………401の連中は艦長も艦も博打打ちが大好きなのか?そう思わせられるほど肝がヒヤヒヤしたぞ。

 

「なら、迎えに行くとするか。今回の英雄をさ」

「そうだね。早く行こっ」

「イオナの回収は此方でやっておく。後はこっちに任せてくれ」

『了解しました。それではお願いします』

 

というわけでイオナを迎えに行くべく、ほぼほぼ崩壊してきたコンゴウの甲板へと上がっていった。にしても、どんな派手な説得をやっていたんだ?艦橋や甲板にどでかい剣が幾つも突き刺さってんぞ。物理接触で説得ってこの事なのか?

だが、実際甲板上に手を繋いで寝っ転がっているイオナとコンゴウの姿を見つけると、無事に説得できたと考えていいようだ。

 

「イオナちゃん、迎えに来たよ。群像さんの元に帰ろ?」

「一夏…………うん、そうはしたい…………でも…………」

 

一夏がイオナに帰ろうと提案するが、当の本人はコンゴウの方を振り向いては言葉を濁した。どういう事なのだろうか?

 

「なに、気にしなくていい。お前にはお前の帰る場所があるんだろう。早く行くといい。それに、私達は繋がっているはずだ」

「コンゴウ…………うん。でも、寂しくなったらいつでもお茶、飲みに来てね」

 

どうやら二人はこの一件(一戦?)で仲直りしてしまったようだ。以前は撃沈も辞さないほどの憎悪を抱いていたのに、こんな風にすっきりとなるなんて、誰が想像できただろうか。まるで夕暮れの河原で殴り合って仲が良くなるみたいな展開だな。コンゴウにそう言われたイオナは起き上がり、一夏によって先に401へと帰還していった。

 

「…………で、どうだ、今の気分は?今のお前を見る限り、憑き物が取れてすっきりしてるぞ?」

 

残った俺はコンゴウに話しかけていた。こいつも変わったからな…………どこか憑き物が取れて、すっきりして丸くなったような気がする。こんなに変わるって事あるんだな。まぁ、前のこいつよりは好感が持てるからいいんだが。

 

「あぁ…………どうやら私は変化を恐れていたようだ。変化する事で今までの自分が消えてしまうと思っていた。だが、私は確実に変わっていた。それを受け入れられず、そして理解者さえも失ってしまったんだ…………お前の言っていた赤い戦場というものがはっきりとわかったよ。溢れ出す怒りや悲しみを抑えきれずに飲み込まれてしまった自分の心が、復讐というものに染まっていたらしい。怒りが作り出した戦場は赤かった。何かをぽっかりと失った私はまともな演算処理などできていなかった。あのまま多大な負荷とともに自壊するのを待っていた。だが、お前達と401が介入した事で、全てが変わった。変化する事の大切さを知った気がする。改めて礼を言いたい」

「なんだよ、急に人間らしくなりやがって…………まぁ、前と比べたら全然マシだけどさ。以前のお前は硬すぎてどいつもこいつも近寄りがたい印象だったぜ。それに、黒以外の戦場の色が見えてよかったな」

「ふっ…………今のこの会話すら心地よく感じる私は、もう艦隊旗艦失格だな。いや、そもそもで旗艦を外されたか…………」

「どっちにせよ、もう自由なんだから、好きなようにすればいいんじゃねえの?401についていくっていう道もあるぜ?」

「いや、今の私にはまだ無理な話だ。少しは自分を探す旅に出たい。それに、私と401は離れていても繋がっている。寂しくはないさ」

 

そういう事な…………だったら俺からはもうなにも言えないな。にしてもなんだ、この展開。一昔前の不良漫画にありそうな展開だな、おい。それに、コンゴウも自分探しの旅に出るとはねぇ…………昔のお硬いこいつはどこへ消え去ったんだ?まぁ、それはいいか。前は前、今は今。世の中は変わっていくものだから、別にこいつが変わったって不思議な事じゃねえ。それに、旅に出るというなら餞別の一つくらいしてもいいだろ。

 

「そっか。それなら、これやるわ」

 

俺は一度黒龍を解除、ステンレスマグにコーヒーを注いだ。元は戦場で一息つく時用として入れておいたもので、安価なインスタント品だ。だが、別に本格的なものじゃねえし、味も悪くねえんだからいいだろ。

 

「む…………なんだ、この濁った湯は?」

「そいつはコーヒーだ。旅に出んなら、それで頭の中すっきりしておけって」

 

コンゴウは訝しげな目をしてコーヒーの入ったマグを見つめる。そして、意を決したかのような顔をしてからコーヒーを一口飲んだ。

 

「…………苦い、だが悪くない」

「ははっ、そいつはよかったな。どれ、俺も少し休むか」

 

俺も自分のマグを取り出し、そこにコーヒーを注ぐ。戦闘後に飲むコーヒーってのもなかなか気分転換にはもってこいだぜ。硝煙くさい戦場で一息つくにはこれが一番さ。

 

「いい旅になるといいな」

「それはお互い様、だろう?」

「違いねえ」

…………。

……………………。

………………………………。

無事にハワイへと入港できた俺ら一行。ひとまず401クルーの多くは消耗資材調達の為、町の方へと向かっていった。ハワイとはいえ、ここも海面上昇の影響を大きく受けており、かつての南国リゾートの面影なんざ残っちゃいない。あるのは本当に火山だけ。それでも海に沈まなかった事が奇跡とも思える。で、入港したのはいいが、ブリッジに転がっているあの兎印の危険物から粒子が漏れ始めているんだよな…………つまり、あともう少しで元の世界へと帰されてしまう。名残惜しいところはあるが、これ以上俺たちがこっちに滞在しているってのもそれはそれで問題がある。だから、俺たちは元の世界に帰らねばならん。もとよりそれまでの時間つぶしが目的みたいなもんだったしな。

 

「そうか…………もう帰らなきゃいけないのか」

「仕方ねえさ。俺たちは本来混じり合う事ない世界の住人同士だ。混じり合ってちゃ、世界に歪みが出ちまうぜ?」

 

そんなわけで最後だから401の甲板にお邪魔している。天海龍と比べたらあまり広さはないな。まぁ、比べる基準が違うってのもあるんだが。丁度出ていた群像とイオナと話をしていた。

 

「それでも、別れというのは寂しい…………」

「それは私もだよ。せっかく仲良くなれたのにね」

 

一夏はイオナの髪を梳かしながらそんな事を言っていた。だが、誰でも別れっていうのはいずれ訪れるものだから仕方ねえ。たまたまその日が今日になったってだけだろ。

 

「イオナがクルー以外に興味を示したのは蒔絵以来だな」

「それってだいぶ前のことだろ?」

「人との交流が少なかったから、そんな事もなかったのさ。お陰でいい刺激になったと思う。改めて感謝するよ」

「よせ。こっちは大した事してねえから、礼を言われるのが恥ずかしいんだ」

 

群像が何か礼を言ってくるが、別に俺たちは特別な事なんて何もしてないわけだから、俺はそれを制止するように手を振った。

 

「さて、俺もそろそろ行かねえといけねえ頃合いだ。短い間だったが世話になったな」

「それはこちらのセリフだ。あの時出会わなければ俺たちの運命は変わっていたのかもしれないな」

「そうに違いない。お、そうだ」

 

すでに粒子は艦の外にも溢れ出てきている。ここまでになればあとは帰るだけだ。だが、最後に一つだけ、なんか残していっても構わねえだろ。というわけで黒龍を展開、右手にアサルトライフルを展開し、一発コッキングして強制排出した。未だに発砲していない綺麗な弾丸だ。それを拾った俺は群像へと手渡した。

 

「手向けの36mm砲弾だ。御守りかなんかとしてでも活用してくれ。じゃ、この後の航海の成功、祈ってるぞ」

「…………ああ、必ず世界に風穴を開けてみせるさ」

 

俺たちは最後に軽く握手を交わすと、俺は直様天海龍の方へと戻った。一夏は俺よりも先に帰投していたらしい。そして丁度俺がブリッジに入った瞬間、視界は眩い光に包まれていった。おそらく次に目開けた時には元の世界に帰っているんだろうな…………この世界も面白いものがたくさんあった。意思を持った兵器、そいつらが人間を見て学んで、ぶつかり合って成長していくようなかんじ。時に出会い、時に別れ…………彼女らは本当に人間と同じように生きていた。おそらく束さんが見たら大喜びで解剖させてとか言ってきそうだ。さて、群像とイオナと401クルーが無事にサンディエゴへと振動弾頭のサンプルを届けられるよう、祈るとするか。

 

 

 

 

 

その後、束さんがいつも通りの呑気なツラして俺たちの目の前に現れたもんだから一人脱走した罪として一発ぶん殴ったのは間違いじゃねえよな?

それと、武蔵や榛名といったコア人格が全く反応しなかったのは、似た名前の奴がいたから出ようにも被りそうで出たくなかったとの事だ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。