守りたい、ただそれだけ(本編完結)   作:ディニクティス提督(旧紅椿の芽)

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どうも、5ヶ月振りに浮上してきた紅椿の芽です。

まず、遅れた理由ですが…………いやぁ、受験生となると書く暇がなかなかないんですよね。ついこの間もとある大学校の受験を済ましてきたばかりですし…………。

さて、言い訳はこの辺にしておきます。今回は前回以上に難産でしたよ…………では、生温い目でよろしくお願いします。


Ex.03

季節は移り変わり、もう十月の後半だ。おそらく綺麗に色づいていた紅葉も散り始めている頃だろう。だが、今の俺にそんな風景を楽しんでいる余裕など存在していない。むしろその風景を破壊するような真似しかできないのだ。それにだ、俺の今いる場所で、そんな綺麗なものなんて全くと言っていいほど見られねえ。

 

「オラオラァッ! さっさとくたばっちまいな! 体制の雌犬どもがぁっ!」

 

——中東の、それも紛争地域のど真ん中にいればそうなるわ。ここの景色だけは本当に年から年中変わる事がない。女尊男卑が敷いた体制に反発する連中が有志を集って反体制派として抗戦している。もっともそれらは中東に限らず、北アフリカでも起きている。イスラム教と女尊男卑があまりにも正反対すぎるというのが原因だ。てか、崇拝しているのが絶対神とかという本当の神か、人が作った偶像の神かの違いだわ。おまけに女性の独立とかと謎の宣言をする連中もいる。確かにどこでも女性が下に見られるとこがあるが、それは男が彼女達を守る為である。しかし、女尊男卑はそんな事はない。女性達が男を虐げ、服従させる為に生み出された。女性の復権とかと言っているが、そんな事は全くと言っていいほどない。権利という名のを横暴の元に世界を牛耳っているにも等しい。その蔓延る諸悪の根源を叩かなきゃならねえ。この世界に新たな神を生み出した人(篠ノ之束)も言っていた、自分は世界の新しい場所へと向かう為に生み出したのだと、決して人を虐げるモノの象徴ではないと。…………彼女の考えている事がどれほど凄いことなのか、俺にはわからないし、わかるほど頭が良いわけでもない。だが、それでも…………それで良いのかもしれない。俺は傭兵、それ以上でもそれ以下でもない、戦場の生み出したカネに群がる狂犬。多くの事を知る必要はない。ただ、俺がすべき事は——

 

「く、くそっ! 貴様などに殺られる筋合いなど——」

「五月蝿え! その汚ねえ口を今すぐ閉じてやんよ!」

 

目の前の敵を排除する事だ。迷いなどない。そう、始めて俺がこの地に降り立った時から、そんな物は捨て去った。それにだ、戦禍をここだけにとどめておく必要もある。これ以上拡大などさせるわけにはいかない。俺には失うわけにはいかない、大切な人がいるからな。

目の前に出てきたラマーチを対装甲ナイフの一撃で仕留める。装甲を突き刺す感触も、その奥にある生肉を引き裂く感触も、初めの頃は少々抵抗があったが、今となっては何も感じなくなってしまっている。ナイフを引き抜くとともに装甲の割れ目からは鮮血が溢れ出す。おそらく心臓でも貫いたのだろう。操縦者を失い、重力に逆らえなくなった機体はそのまま地上へと墜ちていく。

 

「こいつで四機目…………あいも変わらずわんさか湧いているな。そっちの状況は?」

『こちらは戦車部隊の撤退を援護中です。敵戦力情報をそちらに送信します』

『了解した。こっちの敵は粗方掃討したから私が撤退支援に向かう』

「現在地から考えたらそれが一番だな。レーアはエイミーの支援にあたってくれ。俺も残敵を掃討したらそっちに向かうわ」

『了解しました』

『了解』

 

今回は俺単機で紛争に介入しているわけじゃない。エイミーとレーアも俺と一緒に戦場に来ている。機体はあの襲撃事件の時に使用していたクーガー・カスタムとクロノス。だが、コア自体は擬似コアではなく束さんが開発した試作改良型擬似コアだ。従来の擬似コア——旧型コアは絶対防御のオミット、コアネットワークの接続無しであり、オリジナルコアの完全な下位互換であった。しかし、この試作改良型擬似コアでは絶対防御がある上に、コアネットワークも存在している。その分コストは旧型コアより掛かってしまうと言うが、束さん曰くあんな紛い物よりは全然マシというものだそうだ。操縦者の生存率は格段に良くなるだろうな。ただ、それが戦場に持ち出されるのだけは勘弁。敵勢力に回られるとかなり面倒な事になる。絶対防御があると、一撃必殺のバスターソードも通用しなくなるから、必然とアクティブ・カノンの一撃で葬るか、飽和攻撃でシールドを削りきるしかない。簡単に言えば面倒になるんだ。最も、束さんは今の所それを世界に公表する気はない。武力同士の戦争ではなく、野心と挑戦の戦争がやってくる時を待っているとの事だ。宇宙開発という夢を叶えるためにな。

 

「メイナ!? 此奴っ! 」

 

どうやらお仲間が殺されて激昂した奴は大型の長刀を振り上げ、俺に切りかかってきた。ラマーチ系統の機体じゃねえ。中国の第二世代量産機、殲撃二型。オリジナルコアの量産機、爆鎧蛇を簡易化し再設計した機体だ。中国機らしく近接格闘戦を重視しており、胸部、肩部、二の腕、腰部全面、脹脛にリアクティブアーマーを装着している。動く爆弾と言っても過言ではない。そして、装備の特徴は重量機の特徴である運動破壊ネエルギーを高める重心を先端に置いた近接長刀。日本の近接長刀と似通った形をしているが、性質は全く異なっており、連続攻撃ではなく一撃の攻撃力に長けている。今振るわれようとしている長刀がそれだ。当たればこちらの装甲の一部くらい軽く抉られるだろう。だが、今更その程度の攻撃に臆するなんてことはない。俺は左手にアサルトライフルを呼び出す。今回はオプションパーツとして銃身下部に120㎜滑腔砲を装備している。装填されているのは対IS用APFSDS弾。俺は迷いなく放った。絶対防御を持たない旧型コアISに対して絶大な破壊力を持つそれは吸い込まれるように胴体と腰部の接合部へと直撃した。その瞬間、殲撃二型は上半身と下半身が分離し、そのまま地上へと墜ちていった。

 

「恨むなら、こんなところに出てきた自分を恨むんだな」

 

今の一機を最後に付近の旧型コア反応は消失。以降の増援の可能性は低いと判断した俺はエイミーとレーアが現在戦闘を行っているエリアへと向かう事にした。それにしても…………世界というのはどうしてもこんなに戦場を求めているのだろうか。いや、俺が戦場を求めているのか…………いつの間にか戦いが喜びになっていた自分がいる事を改めて思い出した。一夏に会うまで俺は戦いしか喜びを知らなかったんだからな…………。そんな事を思いながらブースターを点火し、一気に戦闘エリアへと向かった。

 

 

 

 

 

 

「くうっ…………! 戦車部隊の撤退はまだなんですか!?」

「撤退ライン到達率、六十パーセント! このままだと半数が撃破されるぞ!」

 

リニアバズーカを放ちながら、撤退をする戦車部隊を援護する(エイミー)とレーアは依然として劣勢であった。後方には撤退しているロシア製のT-90の他に歩兵部隊の姿も見られる。だが、その全てが撤退できているかと言われると違う。前方からやってくるのは戦闘ヘリだけでなく、ラマーチの一個中隊の姿までもがある。それらが放つ銃弾にある者は穿たれ、ある者は焼かれ、そうして命を散らしていく。それでも戦闘ヘリも最初より数を減らし、ラマーチも二機が墜ちた。だが、命が失われていく事に変わりはない。

 

「あぁぁぁぁっ! う、腕がぁっ! 俺の腕がぁっ!」

「アフマド!? アフマド!!」

「死にたくねえ! こんなとこで死にたくなんてねえよぉぉぉっ!」

「私たちの栄光の為にそのまま果てなさい!」

「男なんてこの世で一番いらないのよ!」

 

戦場だから、戦争だから仕方のないことだっていうのはわかっている…………でも、こんな一方的に嬲るのが戦争のあり方なのかと思ってしまう。

 

(やらせない…………! こんな横暴が許されるなんて…………!)

 

リニアバズーカに添えていた左手にサブマシンガンを呼び出し、頭部の近接防御機関砲と共に放った。一気に弾幕は厚くなるが、それでも力尽きていく兵士は減らない。サブマシンガンの銃弾が何発か直撃し、ヘリの一機は地上に叩きつけられる。しかし、相変わらずラマーチの数は減る気配がない。私の後方から爆音が聞こえてきた。おそらく…………撤退中の戦車が撃破されたのだろう。それに伴って周りの兵達も…………全部を守り切るなんてできないことはわかっている。何かを捨てて何かを得る、その繰り返しだってことくらい…………それでも、私は元米軍人なんだ! 犠牲を出すなんて私が許せない!

 

「レーア! あとは頼みます!」

「お、おい! エイミー!」

 

残弾の尽きたリニアバズーカを格納し、レーザーソードを引き抜いた私はラマーチへと一気に詰め寄った。向こうもアサルトライフルを放ってくるが、殆どを躱し、避けきれなかった幾つかは増加装甲に阻まれて有効打にはならない。そのまま詰め寄った勢いで、ラマーチへとレーザーソードを突き刺した。胴体に深々と刺さったそれは装甲を溶かし、中の人体をも焼き切っていく。そのまま縦に振り上げ、スクラップとなった機体を投げ捨てた。それを見ていた僚機と思える機体が私にはナイフで切りかかってくる。それをレーザーソードで受け止めた。

 

「退きなさい! あのゴミ達を始末できないじゃない!」

「そんな事させませんよ! それに、あなた達に彼らはやらせません!」

「別に男なんて死んだっていいのよ! どうせ女に媚び諂うしか出来ない無能なんだから!」

 

目の前の操縦者はそんな事を言ってくる。どうやったらそんな事がすらすらと口から出てくるのか、私には想像できない。それに、男が無能なんて…………余りにも身勝手だ。確かに世の中は女尊男卑のせいで男の地位はほとんどないに等しい。でも、それでも…………私の知っている人達はそんなことはなかった! どんな理不尽な環境も跳ね返すような、時代に抗う人達だった。私はあの操縦者の一言に嫌悪感を抱いた。

 

「そんなことはないです! そうやって一方的な観念を持っているから、そんな風に思い込んでしまうんです!」

 

一度距離をとってサブマシンガンの銃口を向け、フルオートで放った。幾多もの銃弾が敵機を捉え、装甲の表面を叩いていく。だが、ラマーチの厚い装甲を食い破るにはまだ威力が足りない。レールライフルはまだ調整中、リニアバズーカは残弾無し、狙撃ライフルはかなり前に損失している。有効打を与えられない今の状況が非常に焦れったく思えてきた。

 

『エイミー、戻れ! 敵の砲兵部隊だ! このままだと撤退中の部隊は全滅するぞ!』

 

レーアからの通信を受けた私は嫌な汗を流した。私が前線に出た事で、レーアが敵を抑えられなくなってきていた。剰え、敵の増援部隊を叩くこともできていない。このままではレーアの言う通り、良くて七割、悪くて全滅…………最悪の事態だ。それを引き起こした原因が間接的に私にあるというのも事実だ。こんなところで嘆いている場合じゃないというのは頭の中でわかっている。なのに、自分の感情に駆られた勝手な行動が引き起こしたというのなら、私は遣る瀬無さで胸が一杯だった。自然とレーザーソードを握る手に力が入る。誰にぶつけるべきなのかわからず、その矛先を見失って今にも爆発しそうなほどの怒りが胸の奥底で渦巻いていた。

 

「ほら見なさい! こうやって哀れな男達は私達の前にひれ伏していくのよ!」

 

砲兵部隊の展開は既に完了しているようだ。後は命令が下りればすぐにでも榴弾が放たれ、撤退中の部隊はその爆発に巻き込まれるだろう。その先にあるのは死だけ。

 

「くっ…………!」

 

奥歯を噛み締めしていた。何もできない自分が情けなくて、何もできない自分が歯痒くて…………やり場のない思いが全身を駆け巡っていく。だが、思いだけでは何も変えられないことも事実だ。ただただ、この現実を見つめていることしかできなかった。事態は最悪の展開に向かっている、そう思った時だった。

 

『これより空爆を行う。当該エリアの友軍機は速やかに撤退せよ』

 

突如として入る通信。その直後の事だ。突然大型のミサイルが数発飛来してきたと思いきや、中から大量の子弾を撒き散らし、砲兵部隊がいた所を焼き払っていく。一切の慈悲が存在していないその攻撃に思わず息を飲んでしまった。

 

「な、な、な…………なんで…………あれだけの部隊を一撃で…………」

 

だが、それは敵も同じようだ。先ほどの爆撃を見た目の前の操縦者は信じられないといった声を上げていた。突然の事に反応できず、大きな隙を生み出す。それを見逃すほど今の私は優しくなんてできそうにない。全滅の危機が去ったからといって、まだ敵が残っているなら…………叩くしかない。殺すのも、殺されるのも嫌だが、この時ばかりは…………目の前の敵を倒すことしか考えていなかった。

増加装甲で固められ、より一層破壊力の増した蹴りを叩き込む。完全に呆けていたのかラマーチはその攻撃に対応できず、もろに受けてそのまま大きく体勢を崩した。すかさず私はレーザーソードを構え直し、一気に振り抜いた。高密度のレーザーがラマーチの装甲を溶かしていく音が聞こえる。その音が聞こえなくなった時、戦場には何かが燃えている音しか聞こえなくなっていた。

 

『エイミー、戦車部隊の撤退は完了したぞ。部隊損失率は十二パーセントだ』

「そう、ですか…………」

 

部隊の全滅は免れた。けど、免れただけであって、その途中で力尽きていった者たちもいることは否定できない事実だ。私は心の中で彼らの冥福を祈った。私が彼らにできるのはそれくらいしかない。

未だに消えることのない炎。それが戦場に取り憑かれた者達の魂が未だに繋がれているようにも見えてくる。あの砲兵部隊を焼き払ったミサイルは、おそらく悠助さんが所有しているハルバード対地攻撃クラスターミサイル。大型のミサイルであり、中には子弾を三十詰めることができる、条約に抵触するレベルの危険な代物。爆炎の中からその一撃を放った黒龍の姿が見えてきた。こんな光景を見せられたら、悠助さんがかつて紛争で両陣営を纏めて殲滅したという話も信じざるをえない。

 

「エイミー…………これは一体…………」

 

いつの間にか私の隣に居たレーアがそう声を漏らした。あまりにも変わり果てた周囲の状況に頭が追いついていないようだ。きっと私も彼女と同じ状況になったなら、同じ反応をするに違いない。

 

「…………何もかもを焼き尽くす…………黒き暴龍…………」

 

今のこの様子を表すにはこの言葉が一番ふさわしいと思う。誇張かもしれないが、それ程までに彼は圧倒的過ぎる力を持っていた。改めて彼の脅威を思い知らされる私だった。

 

 

 

 

 

「にしても、紛争というものは消えることがないのかねえ…………」

 

ふと、新聞の世界欄を見ていてそう思った。いつの間にか学園襲撃事件からもうすぐ二ヶ月が経とうとしていた。復興の速度は流石先進国日本と言われるだけあって、結構な壊滅状態にあったにもかかわらず、校舎自体は修繕完了、アリーナもシールドバリアの調整さえ終われば何時でも使えるとのことだ。だが、それでも授業とかはまだ再開できそうにないという。前のような姿に戻るには後一ヶ月を要するとの事。まぁ、一月でそんなに治るんだったら特別問題はないだろう。

しかしだ、学園襲撃事件から世界では紛争が絶えない。つい三日前にも中東ザールガルド自治区における戦闘に俺とエイミー、レーアで介入してきたばかりだ。無論、政府側に着いた女権の連中を皆殺しにして、陣営を壊滅させたがな。それでもこの世界は戦場を欲しているかのように、一つの戦場が終わればまた新しい戦場が生み出されていく。世界に平和など要らないと言わんばかりにな。連日出撃なんてブラック企業も真っ青な事態にはなってないからいいが、このままのペースで紛争をやっていたら人類は滅亡するんじゃないのか?

 

「確かに、ニュースとかもそういう話しかやってないからね」

 

朝飯の後片付けをしていた一夏が俺の呟きに賛同する。今朝のニュースだって紛争に紛争を足して紛争で煮込んだくらい紛争の話しかやってねえ。芸能とか国内の話題もやっているんだが、仕事の関係上、そっちの話は頭に残らないからそんな風に感じるのかもしれない。

 

「こうもドンパチをあちこちでやっていると人間ってやつは愚かな生き物だと思っちまうぜ。あんだけ戦争をやっていんのに、未だに戦う事を止められねえんだからよ」

「…………それ、盛大なブーメランになってない?」

 

一夏にそう苦笑されてしまった。まぁ、俺も戦争経済者だから人のことは言えねえわ。だって、俺が一番戦争に首を突っ込んでいるからな。そのお陰で俺は旨いメシを食って生きていくことができているわけなんだが。ただ、それでも俺は平和でいる事を望んでいるのかもしれん。

 

「なに、俺は唯の一般論を話しただけだぜ。俺もその愚かな生き物に入るんだろうよ」

「うーん、未だに傭兵しているのは否定しないけど、その愚かな生き物ってのは否定しよ?」

 

この何気ない日常が、今の俺には一層大切なものになっちまったからな。これ以上失うのだけはゴメンだぜ。

 

「否定できねえから、とりあえず自覚しておくしかねえんだ。さて、こんなしみったれた話はやめにしようぜ。朝っぱらから気が滅入るわ」

「悠助が始めた話だと思うんだけどね…………でも、明るい話題なんて全然ないよ?」

「そうなんだよなぁ…………」

 

一夏の嘆きは俺にもわかる。政経の話なんざ、議員の汚職やらなんやらによる辞任の話、芸能とかでは薬物とかのネタ。どこに明るさがあるっていうんだよ。唯一ほのぼのしてんのは観覧版くらいしかねえぞ。

 

「こう、いっそ派手な事でも起きてくれりゃいいんだけどな…………今までもあったわけだし」

「そういえばいろんなところに行ったもんね」

「この間は本気で理不尽な世界だったけどな」

 

ふと思い出す別世界での記憶。ワンサマーを少々ましな操縦者に仕上げたり、超絶危険すぎる弾幕の中を突っ切る羽目になったりと、大変だったが退屈はしなかった。最も、あれはあれでかなり疲れるから勘弁して欲しいんだがな。

 

「とりあえず、兎の突撃が来ない事でも祈っておくとしようぜ。突然別世界に飛ばされるのは心臓に優しくねえ」

「あー…………うん、そうだけどね…………悠助が言うと本当に起こりそうだから、あんまり言わないほうがいいと思うよ」

 

誰がフラグ製造機だ、と突っ込みを入れたいがあながち間違いじゃないから反論できん。それにだ、何処と無くだが結構面倒ごとに巻き込まれそうな予感がしているんだよな。本当にならないことだけでも祈っておくか。

 

「それなら尚更ならねえ事を祈るしか——」

「ゆーくぅぅぅぅぅん! いっちゃぁぁぁぁぁん!」

 

突然聞こえてきた不吉な声。俺は迷いなくハンドレールキャノンを展開、対人用ライオット弾をその声がした方向である玄関めがけて放った。一瞬バズーカでもいいかと思ったが、あれだと後部から高熱の圧縮ガスが排出されるからな。下手すれば一夏に被害が及ぶ。その点レールキャノンならバックブラストもねえし、反動もねえから手元がブレる心配もない。最も、黒龍の出力なら強引に押さえつけることだって可能だがな。

 

「そげぶっ!?」

 

どうやらうまく当たったようで、そのまま綺麗にお帰りしてくれた。久々にロックオンを外して射撃したが意外と当たるもんだな。

 

「…………あれ、生きているよね?」

「前にはブーストハンマーの一撃に耐え、アサルトライフルの弾幕を避けたんだ。死ぬ事はねえだろ」

「——って、ちょっとちょっと!? 何を普通に対IS兵器を人に撃っているんですか!?」

 

玄関の方からまた新しい声が聞こえてきた。少なくとも毎回の如く面倒に引きずり込む兎じゃない。そう思った俺と一夏は玄関へと向かうことにした。

 

「ゆ、悠助さん!?ここは戦場じゃないんですよ!? 撃ったらまずくないんですか!?」

 

するとそこには、淡い金髪が特徴的な少女、エイミーがいた。その奥にはレーアと盛大に背筋を反り返らせている束さんの姿も確認できる。どうやら束さんはこの二人も連れてきていたようだ。

 

「大丈夫だ。撃ったのはレールキャノンだし、そいつはそう簡単に死なねえから」

「いやいや! 普通は死ぬんじゃ——」

「まったくもー! ゆーくんは愛情表現が過激すぎるよー!」

「…………アホみたいにぴんぴんしてるから心配しなくていいぞ、エイミー」

「…………全然ブレないね、束さんは」

 

エイミーが心配するのも他所にかすり傷一つない束さんがいきなり起き上がった。その光景にエイミーは驚愕し、レーアは何処か呆れたような顔をしていた。というか、これって下手したらホラーだよな? いくら対人用ライオット弾を使ったとはいえ、元は第三世代主力戦車の正面装甲を突破する事も可能なレールキャノンの直撃を受けて生きているって、大分人間やめてねえか?

 

「で、今回はどんな面倒な話を持ってきたんだ? 流石にこれ以上巻き込まれるのはゴメンだぜ?」

「もー! 束さんがいつそんな面倒な事をしたっていうのさ!?」

「毎度の如くやらかしてんだろうが! 前科二犯だぞ! おまけにこっちは前回飛ばされた先で、世界を滅ぼす火力を見てきたわ! 死ぬかと思ったぞ!!」

 

マイクロブラックホールにも等しい破壊力を持った魚雷やらミサイルが可笑しいほど飛んできたり、重力子ビームがホイホイと飛び交い、止めには海面を割るという色々と規格の違う砲撃がなされたりと、本気で世界が滅びるんじゃないかと思ったぞ。とてもじゃないがこっちの世界とは比較にならないほど、世紀末な状態だった。こっちの世界がまだマシに思えてきたぜ。

 

「…………一体どんなところに行ったらそんな目にあうのかな? 束さんの理解が追いついていないよ?」

「追いつかれたら堪ったもんじゃないぜ…………あれは下手すればトラウマになりかねんぞ。てか、強制波動装甲がなきゃ死んでたわ」

「本当によくあの中を生き抜けたと思うよ…………今でも生きてるのが不思議に思えるしね」

 

同時に遠い目をする俺と一夏。五体満足でいられることが奇跡としか言いようがない。あんなにやばい戦場はこっちじゃまず見れないからな。

 

「うわぁ…………なんだか聞いているだけで絶望に浸れそうです」

「そこを切り抜けてきた二人が純粋に凄いな…………」

 

そんなに遠い目をしていたのか知らないが、エイミーとレーアが同情の目を向けてきた。おそらくこの二人もとんでもない絶望を見るだろうよ…………本当にあれは数の暴力だ。戦術とかそういった概念が片っ端から破壊されていく。戦略も戦術もあったもんじゃねえ。あるのは過剰なまでの火力と物量だけだ。…………まぁ、こっちじゃ俺も人の事は言えないけどさ。

 

「ま、今回はワールドゲートは持ってきてないからそっちの心配はしなくていいよ」

「…………それを聞いて安心するとかどんだけ俺らはそれに振り回されてんだ?」

「そ、それで今度は何を持ってきたんですか?」

「んー、ここじゃちょっと出せないから格納庫に移動しよっか。ゆーくん、別に使ってもいいよね?」

「それは一向に構わねえが…………何をする気なんだ?」

「まー、見てのお楽しみ。えーちゃんにれーちゃんも手伝ってね」

「は、はい!」

「了解した」

 

というわけで、ぞろぞろと地下格納庫へと向かう俺ら。一体何を持ってきたのか気になるが、これが吉と出るか凶と出るかは今の所まったくわからない。それゆえに一抹の不安を抱えるのだった。あとついでにいつものアレをしておくとするか。本日の一夏の装備に加えて、エイミーとレーアもしておいておくとするか。一夏の装備は、

 

頭部:ヘアピン、カチューシャ

胴体上部:白のブラウス

胴体下部:蒼のミニスカ

脚部:太腿中間までの黒靴下(若干の蒼み有り)

 

こんなところだな。そしていつもと変わらず可愛いから仕方ない。エイミーの装備は、

 

頭部:なし

胴体部:黒と白のワンピース

脚部:黒タイツ、黒のストラップシューズ

 

なんか子供っぽい服装だと言ってしまえばそれまでかもしれん。一方のレーアはと言えば、

 

頭部:なし

胴体上部:アイスブルーのVネックシャツ

胴体下部:ダメージジーンズ

脚部:膝下までの黒のブーツ

 

こちらは打って変わって大人びた感じの格好だ。益々エイミーが子供っぽく見えてしまうぞ。

 

 

というわけで地下格納庫へと着いたわけだが一体これから何をするのか皆目見当がつかない。だいたいここに来るのは整備とか補給とかそういったときだけだからな。

 

「…………なぁ、エイミー。なんで日本の一般的な家にこんな物騒な所があるんだ?」

「…………私にもわかりませんよ。そもそもで普通に榴弾やらミサイルがある家なんてありませんから」

 

どうやらエイミーとレーアは格納庫があるということに驚きを隠せないようだ。まぁ、今となっては見慣れた光景だが、初めて見たときは俺も驚いたからな。なんで日本でこんな武装を施した民家があるんだよって思ったぞ。ただ、親父達がしていた事を考えるとこれくらいあって当然なのかもしれない。最も、どうやったら重力子エンジンが搭載されたパワードスーツを開発できるのかってところだけどな。

 

「で、ここに来たってことは俺らの機体に関係することなんだろ?」

「そういう事! というわけで、えーちゃん、れーちゃん! 例の物を出して!」

「わかりました!」

「了解!」

 

二人は束さんに言われると同時に、クーガー・カスタムとクロノスを展開する。一体何を始める気なのだろうか? そう思っていると、二人の前には幾つかのパーツが展開された。パーツのメインカラーは黒と蒼。

 

「た、束さん、こいつらは一体…………」

「ふっふーん! これらはねぇ、黒龍と蒼龍の強化パーツなのだ! というわけで、二人も機体を展開してね!」

「わ、わかりました!」

 

というわけで俺と一夏もそれぞれの愛機である黒龍と蒼龍を展開した。この装甲による圧迫感も久しぶりだ。展開するのはこの間の仕事以来だな。

 

「にしても、具体的には何処を強化する代物なんだ?」

「そうだねえ、ゆーくんの方がパーツ多いから先にいっちゃんのから説明しよう、そうしよう!」

「おい待て。さらっと投げやがったぞ、この兎」

〔まぁ、抑えておけ。後でミートパイの具にでもすれば良いんじゃないか?〕

「お前もお前で言うようになったな」

 

少々面倒くさがって投げた束さんに対する評価はコア人格の武蔵からしても酷いものらしい。てか、人肉ミートパイとかくっそ不味そうだな。確か人肉ってあまりの不味さにサメも吐き出す事の方が多いんじゃなかったか? 精々食うのはそういう民族だけだろ。言っておくが俺にそんな特殊な習慣は無い。

 

「それで、このパーツはなんなんですか?なんだかカニのハサミみたいな形をしていますけど…………」

「それは蒼龍のウィングブースターを強化する追加ブースターだよ。最大速力は大体二百パーセント増加かな。それぞれに重力子エンジンを積んでるから、エネルギー切れの心配は無いね」

 

…………さらっと、重力子エンジンを搭載していると言っているんだが、それってさこの間遭遇した連中(霧の艦隊)のメイン動力だろ。さらに言えば俺たちの機体にも搭載されている事が判明している。黒龍と蒼龍に二基、それ以外のRATナンバーは一基ずつだ。道理で俺たちの機体が規格外な理由が判明したぜ。そういや、格納庫の奥に潜んでいるあの機体には三基だったか…………てか、これ(RATナンバー)開発したの親父達だよな? 技術力はさらっと束さん超えてんじゃねえか?

 

「おまけに、ブースターはフレキシブルアームで接続されているから、かなり鋭角的な機動ができると思うよ。それに、コマンドの入力でビームキャノンにもシザークローにもなる万能装備なのだ!」

「簡単に言えば、火力も上げられて速度も上げられるという装備だ」

 

一夏と同じく近接寄りのレーアが束さんの解説を要約して締めくくった。というか、オーバーテクノロジーも良いところまで進んできたな。しかも、あの途轍もなくゴツイ蒼龍の高機動モジュールとも干渉しないという話じゃねえか。もしかすると、本来の蒼龍の姿へと戻りつつあるのか? それを考えるとすごい事なのかもしれんが、その都度親父達と束さんの常軌を逸脱した科学力に頭が痛くなる。そろそろ頭痛薬の用意した方が良いのかもしんねえ。オススメの頭痛薬を誰でも良いから教えてくれ。

 

「こ、これ以上速くなるって…………」

〔制御にかかる負担が大きくなりますね…………〕

 

現状、格闘機の中では最速と言っても過言では無い蒼龍がこれ以上速くなるという事に一夏と榛名も乾いた笑いしか出ていなかった。これから常に高機動戦闘みたいな感じになるわけだからな。そりゃ精神もガリガリ削られそうだ。

 

「さてさて〜、お次はゆーくんの装備だよ」

「やっと俺か…………で、どんな装備なんだ?」

「こっちも同じく強化ブースターで、ノーマルユニットの推力を増強させるものだよ。今までのブースターと交換で使えるね。アームで接続だからB型の可動ブースターと同じように使えるよ。それと、腕部のマルチランチャーユニットに連装アームカノンを装備! これで弾切れの心配は減ったね。いやぁ、この馬鹿げた出力に対応させるの大変だったよ」

 

お、意外や意外。いたってまともな発言が聞こえてきたぞ。まぁ、これで通常時の火力も増強されたし、機動性も増した。おかげでさらにピーキーな性能になったんじゃねえか?てか、それ以外の陳列されている装備はどうなるんだ?

 

「で、本題がここから。ノーマルユニットをベースとして上部に240㎜アクティブ・カノン二門、両肩部に十八連装マイクロミサイルと三連装ホーミングミサイルに38㎜ガトリングガン、右腕部ハードポイントに203㎜多目的砲(マルチキャノン)、左腕部ハードポイントに25㎜連装ガトリングガン、両脚部には大型複合ミサイルコンテナを装備するよ」

「簡単に言えば、重火力制圧型装備ですね」

 

そう俺と同じ射撃寄りのエイミーが纏めてくれたが…………内容は全くもって普通じゃなかった。いったいどれだけの重火器を搭載すれば気がすむのだろうか。Dアームズを使っている身としては今更な話のようにも思えるが、この装備だと焦土作戦を単機で行えるように思えてくるんだが。

 

「…………これで世界を焼き払えとでも言うつもりか? 明らかに過剰すぎる火力だろ」

「そうなんだけどねぇ…………RATナンバーのデータを整理していたら、黒龍の拡張ユニットにこのデータがあったんだよ。火力支援という名の殲滅専用装備であるG型ユニットを超える火力を持たされたこの装備名はTB型ユニット」

「TB型…………? どういう意味なんだ?」

「シミュレーション上で一斉発射をしたら、まるで雷鳴のように聞こえてきたんだよ。おまけにB型ほどじゃないけど、これだけの重装備にもかかわらず速いからね。まるで稲妻(Thunder Bolt)のようだから、TB型」

 

…………怖えよ、普通に考えて。全身にこれでもかと搭載された重火器を一斉射撃だと? そりゃ雷みたいな音がなっても仕方ねえだろ。てか、何処かでこの姿見た事あるな…………耐久性があって、ハードポイントにミサイルしこたま仕込んで、ほぼメインにガトリング…………もしやこれって…………

 

「…………A-10 サンダーボルトⅡがモチーフなってねえか?」

「さぁね? 束さんにはそこまでの事はわからないよ。ただ、ISの攻撃を受けて、エンジン一つと主翼の半分と垂直尾翼を一つ失っても飛んでるって、飛行機と言っていいの?」

「それこそ俺に聞くんじゃねえ」

 

あいつだけはどこの戦場でも見かけなかったけどな。アーミア曰く、唯一ISの攻撃から生きて帰ってきた攻撃機だとか。不死身かよ。

 

〔この装備で制限解除などしたら、各国軍が総力で相手になっても勝てるかもしれんな…………我ながら恐ろしいぞ〕

 

重火力に慣れている武蔵ですら恐怖を抱いているほどだ。いかに気の狂った装備だか理解できるだろうか。しかしな…………親父達は一体どこを目指す気でいたのだろうか? 亡き今本当に気になってくる。

 

「さてさて、装備も渡せたことだし、そろそろ撤収するとしましょうかねえ〜」

「本当、マイペースですよね…………」

「博士だから仕方ないだろ」

 

目的を達成したと思われる束さんは既に撤収する素振りを見せていた。そんな自由奔放すぎる姿に助手の二人は何やら呆れ顔だ。むしろ、最早どうにもならないと思い諦めの域に達してるのかもしれない。適度に流せるような人間ならなんとかなると思うんだが、この二人にそれは無理だろう。特に真面目気質のエイミーなら尚更だ。

 

「じゃ、マスドライバー借りていいかい?」

「おう。ついでに大気圏突破できるくらいの速度にしておいてやるよ」

「おうふ…………それじゃ、束さんミンチになっちゃうよ」

「大丈夫だ、ミンチよりもひでえ状態にしてやる」

「全然大丈夫じゃない!? いっちゃ〜ん、ゆーくんがなんだかサディストになってるよ〜!」

「いつも通りですから、心配しなくていいです」

「いっちゃんもなんか冷たい!?」

 

そりゃ扱いに慣れてきたからだろう。今まで散々いろんな事にぶん回されてくれば耐性もつくしな。おそらく前回以上にとんでもない目にあうことはないだろうから、その点の心配はなくていいがな。

 

「ほら、目的は達成したんですから、帰りますよ」

「全くその通りだ。二人とも、騒がしくしてしまったな」

 

エイミーとレーアは機体を展開したまま、束さんをガッチリとホールドし、そのままマスドライバーへと向かう。まぁ、アレって同時に二機上げられる代物だから問題はないだろう。俺の場合、その二機分の推力を使ってじゃないと上げられない代物を使っているんだがな。

 

「まぁ機にするな。いつも通りのことだから慣れちまったぜ」

「たまには常識の範囲内で行動してくれると嬉しいんだけどね…………」

 

一夏はそう苦笑しながら言った。まぁそらそうだわな。だがしかし、残念な事に現在進行形でグレイ宇宙人のように連れて行かれている兎は常識を自ら生み出してしまうような人間だ。そんな奴らに俺たちの常識なんざ通用しねえだろ。言うだけ無駄かと思ってくるくらいだ。

 

「あ、言うの忘れてたけど、明後日にIS学園の防護シールドのチェックも兼ねて二人のテスト稼働をするからね〜」

「おし、言うこと言ったら射出確定な」

「いつでも大丈夫です!」

「こちらも同じくだ!」

「いや待って待って!? た、束さんは何の準備も——」

「射出」

 

迷いなんてなかった。俺はマニュアル操作でマスドライバーを起動、クーガーとクロノスを一気に空へと打ち上げた。レールガンよりは遅めの速度だが、それでも速いことに変わりはない。しかし、これでも束さんは死ぬ気配がない。現に謎の悲鳴が未だに聞こえてきているんだ。普通ならもう体が裂けてミンチになっているはずだぜ? …………つくづく人の領域に収まらない人間だと思い知らされるわな。

 

「…………あれ、生きているよね?」

「対IS用の砲弾を撃ち込んでも、レールガンクラスの速さで打ち出されても悲鳴をあげているんだから、生きていることには間違いねえぜ」

 

 

「TB型装備時の瞬間火力はG型を軽く超える、か…………使いどころに困る代物だな」

 

一夏が眠りについた後、俺は一人格納庫で愛機の整備をしながら、今日渡された新装備であるTB型装備を装着した黒龍のシミュレーションデータを見ていた。テスト稼働が明後日に控えているとあらば、一通りデータに目を通すことはしなきゃ、その装備を有効に活用できなくなるからな。それにしてもな…………明らかにこの装備は狂っているとしか言いようがない。両肩に装備された38㎜ガトリングガンは分間3900発のレートで放たれ、三連装ホーミングミサイルには対地攻撃用のクラスター弾頭や対艦ミサイルやらが搭載され、両脚部の大型複合ミサイルコンテナにはMGF弾頭もMBH弾頭も搭載可能で、極め付けに背部ユニットの240㎜アクティブ・カノンだ。流石にDアームズや天海龍搭載型程の口径は無いが、ISの武装の中で最強の破壊力を有するアクティブ・カノンであることに変わりは無い。どう見てもG型のレールキャノンコンテナに近い形状なんだがな…………。なお、アクティブ・カノンの定義は砲身が変形し、モードの切り替えができるということ。だからブラスターカノンもこの部類に入るらしい。ちなみにこの240㎜アクティブ・カノンのみ束さん製ではなく、親父達が生み出したものであり、このデータから以降のRATナンバーが有するビーム兵器が作られたそうだ。…………本当親父達はチートかなんかかよ。

総火力は軽く見積もって巡洋艦と同等かそれ以上だ。それだけ火力面で強化されたのはいいが、操縦性は極端に悪くなった。FCSの同時ロック数はDアームズのネメシスモードほどでは無いにせよ、同時攻撃可能数十二、同時ロック可能数はその五倍である六十。これだけで思考制御の大半を持って行かれてしまう。手持ち火器の分まで余裕があるのか全くわからん。さらに強引に機動性を上げた結果、常に高機動戦確定である。黒龍はその装甲のせいで鈍重と思われがちだが、脚部にはそれぞれ三基のサブスラスターがある。これだけで藍狂狼のバックユニットにあるブースター四基分と同じ推力を得られている。さらに、各ユニットごとに異なるが、大出力スラスターが装備されるんだ。イカれた仕様であること間違いない。

 

〔もとより、お前が扱うことを前提に開発されたからな。こんな狂気の産物(Insanity Products)を自身の手足のように扱えるお前が異常なんだ〕

「狂気の産物って…………自分で言って世話ねえな。しかし、この実弾兵器のオンパレードに、凶悪な重力子兵器を積んでりゃ狂気ともとれるわな。あと、人をさらっと人外呼ばわりしてんじゃねえよ」

〔それがお前なんだから仕方ないだろ。それと、これだけ武装を追加されてもまだハードポイントに空きがあるぞ〕

「これ以上俺の脳を酷使させるな」

 

いくらハードポイントに空きがあろうと、まともに武器が使えるのかわからねえ状況でこれ以上武装を増やされた暁には、俺の脳神経が焼き切れること間違いなしだ。状況判断による武装切替は得意だが、同時並行で使用できる武装には限界ってモンがあるぞ。そう考えると愚痴ってしまいたくなるのは仕方のないことだと思う。そんな胸の内をディスプレイに表示されていた武蔵にぶつける。そうでもしないとストレスにやられてしまいそうだ。

 

「第一、Dアームズを使った時ですら、お前のサポートを使ってようやく本領発揮ってところなんだぜ。これも多分お前のサポート必須だろうな」

〔それがだな…………お前一人で全ての操作ができるようになっているぞ〕

「…………は?」

〔これだけは実際に運用してみなければ分からないだろうな…………〕

 

武蔵の一言に俺は思わず言葉を失ってしまった。おい待て待て、あの普通じゃねえロックオンを俺一人で行う事が可能だっていうのか? 今まで俺一人が同時にかける事ができた同時攻撃可能ロック数はG型ユニットの三連装ミサイルポッド使用時の六だぞ。その倍はあるかという今回のこれを一人で出来るとか…………人間をやめているとしか思えない。俺はまだ人外の域に足を踏み入れる気はないぞ。

 

「その運用する時に廃人にならねえだろうな…………?」

〔乗り手を選ぶ事はあるだろうが、乗り手を潰すことはないさ。ましてや私達はRATナンバー…………モルモットのような実験機かもしれないが、人道に反することだけはしないぞ〕

 

それに私達は何年共にいると思っているんだ、と止めに言われてしまった。そう言われてしまえば俺は納得するほかない。確かにRATナンバーは実験的な特徴を多く持っている機体が殆どであり、どれもこれも一癖あるものだ。だが、俺たち傭兵からすれば戦場で生き残るために力が必要となる。何より信じられるのはカネなどではなく、自分の力だけだ。俺とこいつは幾多もの戦場に身を投じ、そしてその度生き延びてきた。だからこそ、俺はこいつの言っていることを信じる。それが戦友として、一人の操縦者として俺ができることだ。

 

「そうか…………お前がそう言うんなら信じるさ。まぁ、やばい時はサポートを頼むぜ?」

〔当たり前だ。もとより操縦者をサポートするのが私達コア人格の任務だからな〕

 

そう言って互いに拳をぶつけ合うようなモーションを取ったが、向こうは唯の空間投影ディスプレイに表示されているだけであり、ぶつかることはなかった。代わりに、武蔵がスタンドアロンモードで黒龍の左手を動かし、その拳とぶつけ合うことになった。か、硬え…………これさ、普通に殴るだけでも相当なダメージが入るだろ絶対。道理で蹴り飛ばしたり殴り飛ばした機体の装甲がへこんだり割れたりしている筈だ。全身凶器じゃねえか。愛機が相変わらずの凶悪な性能であることを改めて実感したのだった。

 

「その時は期待させてもらうぞ、相棒」

〔大船に乗ったつもりでいて構わん〕

「戦艦だけに、ってか?」

〔誰か上手いことを言えと?〕

「そのつもりはねえんだけどな…………とりあえず点検完了だ」

 

全チェックリストを確認し終えた俺はメンテナンスディスプレイを閉じ、各部装甲カバーを閉じた。メンテナンス時にはこうやって各部の装甲カバーが展開されるが、一度こちらからロックをかけてしまえば、破損しない限り中身が見えることはない。てか、実体攻撃であれば、大抵のものなら防ぎきることができる装甲だ。破損する気配が全くと言っていいほど見えない。もとよりそう易々と当たるわけにもいかんしな。

 

〔ああ、了解した。ならば次の仕事が来るまで少し休ませてもらうとしよう〕

「そうしたほうがいいだろ。戦場に疲れ果てたやつなんざ連れて行けるわけねえしな」

 

それが原因で撃墜されましたなんてなったら笑い話にもならん。それに、休める時に休んでおくのも重要なことだ。それは人にも機械にも言えることであり、その中間に位置するこいつには益々言えることだ。

 

〔それには賛成だ。ではな、戦闘がなく朝を迎えられることを祈ろう〕

「ああ。そんじゃ、また後でな」

 

武蔵が表示されていたディスプレイが閉じられた事を確認した俺は地下格納庫を後にした。戦闘がなく朝を迎える、か…………果たしてそれができるのか、今のところ俺には全くわからない。今のところ、夜に戦闘に駆り出される事だってしょっちゅうあった。戦地との時差の関係上、それは仕方のない事だが、夜間に飛行していかなきゃならないというのは、中々精神的に来るものがある。学園にいた時は、基本的に仕事もなく、一夏とゆっくりとした夜を過ごす事ができた。そんな日が永遠とは言わなくてもいいから、一日でも多くできるように、今は戦わなきゃならねえんだ。

そんな時、ふと俺は腕時計に目が行った。そういや稼働試験は明後日と言っていたな…………なら、明日は少し時間があるな。だとすればやる事は決まった。一夏には悪いが、明日だけは一人にさせてもらうか。別に二度と帰ってこないわけじゃねえし、きっと大丈夫だろう。だって明日は…………俺にとって大切な日だからな。そう考えながら俺は自室へと向かっていったのだった。

 

 

 

 

 

『この出来損ないが!』

 

こう言われ始めたのはいつからだったんだろう…………。

 

『落ちこぼれは逆らうな!』

 

私には姉と双子の兄がいた。二人はなんでもできるような人だった。

 

『クズはこっちの言う事を聞いてればいいんだよ!』

 

けど私は、どれをとっても良くて平凡。できない事だって幾つかあった。

 

『何も出来ないとか、ゴミじゃんかよ!』

 

だから私は、彼らと比べられて、世界から見捨てられていたのだろう。

 

『これだから出来損ないは…………』

 

けど、それでも、周りから非難されても、そうされないように人一倍努力をした。そして、私の事を認めてほしかった。

 

『まぁ、あの人の妹なら出来て当然よね』

 

だが、そんな願いは届かなかった。私が努力してやっと追いついた時には、すでに二人にとって当たり前の事となっていて、周りもそれに同調してそれを当然としか捉えていなかった。私の努力は認めて貰えなかったのだ。

もっと努力したら認めてもらえると考えた私は、それまで以上になんでもやるようになった。何を言われても、只々やれる事をやった。それしか方法がなかった。

 

『今回はミスが一箇所あったぞ。兄の方はミスなどないというのに情けない話だな』

 

けど、ミスをしてしまった私には欠陥品の烙印を押される運命しかなかった。たった一箇所のミスで、私は自由を失ったのだった。

その日の帰り、私の下駄箱から靴がなくなっていた。すぐに見つかったけど、私の心に暗い影を落としたのは間違いない事実だ。その日を境に私は周囲から虐められるようになった。

 

『お前にこんなものはいらないだろ。って事で没収』

 

最初は揶揄われたり冷やかされたりするようなものだったけど、いつの間にか私物を盗まれたり壊されたりするようになった。水を掛けられた事もあったし、帰り道に道路脇のドブに向かって突き飛ばされた事だってあった。

 

『やっと帰ってきたのかよ。さっさと晩ご飯作って洗濯しとけよな』

 

家に帰っても私に自由などない。父さんも母さんもいなくなってから、私が家事の全てをするようになっていた。姉も兄も手伝ってくれる事なんてなかった。それらを全て終えてから、勉強しなきゃいけなかったから、あんまり寝る事は出来ていなかったかもしれない。それに、ちょっとでも失敗したり帰るのが遅かったりすると、外に一晩放り出されていた。どこに行っても自由がなかった。

 

『君に剣道は向いてないな』

 

姉に無理やり剣道に連れて行かれたが、私にはその才能がなかったようで、師範に向いてないと言われた。みんなの前で言われた事もあってか、そこの道場でも虐められた。身体を休める事ができていなかった私には、苦痛以外の何でもなかった。そんな私はいつも剣道場の裏で泣いていた。

 

『あれれ? こんなところでどしたの?』

 

そんな時、私に声をかけてきてくれる人がいた。最初はまた私をいじめてくるのかなと思ってしまったけど、全然そんな事はなかった。寧ろ、私の事を褒めてくれた。褒められた事なんてあまりなかったから、嬉しくて泣いてしまった。これが私と束さんとの出会いだ。

それからはずっと束さんが私に剣道とは違うものを教えてくれた。それが二刀流。でも、一度だけ剣道を始めようとした時、束さんに教えてもらえと師範から怒られた事もあった。それ以降師範から怒られる事はなかったけど、様子を見に来ることは時々あって、その度に『やはりな』と何か含みを持った言い方をしていた気がする。ただ、束さんが練習から離れた時に、他の子達から石とか生卵を投げつけられた事もあった。それでも、頑張ったら束さんが褒めてくれたから、なんとかやっていけた。

 

でも、そんな日々は長くは続かなかった。

 

白騎士事件が発生したのだ。それによりISの名は世界各国に知れ渡り、世界の中心とも呼べる存在へとなっていった。けどそれ以降、束さんは姿を消してしまった。

唯一の心の拠り所を失った私は、どこに行っても虐められてばかりだった。そんな時に転校してきたのが鈴だ。鈴は日本語にまだ慣れてなくて、他にも中国人だからという理由で虐められていた。その頃も私は相変わらず虐められていたから、その辛さを知っていたから、彼女の事を助けようとした。

 

『あ、ありがと…………』

 

その時、鈴に感謝の言葉を言われた時は多分鈴以上に救われたような気がした。鈴と友達になるのにそう時間はかからなかった。お互いにとって気を許し合える仲になっていたのかもしれない。

けど、姉がISの国際競技大会で優勝してから、私に対する虐めや風当たりはより一層酷くなっていった。

 

『千冬様の恥晒し!』

 

ただ普通にいただけなのに殴られた事もあった。

帰り道に川に突き落とされた事もあった。

靴の中に泥を詰め込まれた事もあった。

教科書やノート、内履きや靴に落書きされたり、隠されたり、捨てられたりもした。

体育館の倉庫に閉じ込められた事もあった。

周りにいるのが殆ど敵だった私にとって、生き地獄にも等しい世界だった。私に対する態度が悪化するのに拍車をかけたのがISの適性検査だった。どんなに低くてもランクはCまでなのに、私はそれ以下のD…………姉がランクSだった事もあって、中学に上がる頃には生傷が絶えない日々になっていた。ご飯もまともに食べられないし、周りの事を知るような余裕もなく、頭の中にあったのは今のこの状況から逃げたいという思いだけだった。そんな私を鈴は支えてくれた。だから、余計な心配をかけたくなくて無理に笑顔を見せていた。

 

『んなっ!? こんな可愛い子が虐められているとか絶対許せねぇ!!』

『俺たちも力になるぜ。よろしくな!』

 

中学に入ってから、虐められていた私を助けてくれた二人の男子がいた。弾と数馬だ。偶然だったにせよ、二人は何の関係もない私を助けてくれた。ある時、どうしてなのかと聞いてみたら

 

『理由なんて必要なのか?』

『俺たちがやりたいようにやっただけさ』

 

そうあっさりと返してきた。そんな事を言ってくれる人がいるんだと、私は内心驚いていた。その時にちょっとお腹の音が鳴っちゃって、帰り道に弾の実家である食堂でご馳走になった。一日ぶりに食べたご飯はとても美味しくて、とても温かくて、とても優しくて、涙が溢れ出て仕方なかった。そんな私を一緒に来ていた鈴がしょうがないな〜、といった顔で見ていた事は覚えている。

そんな優しい人達だから、私は心配をかけたくなかった。どんな事をされても私が我慢すれば、誰にも迷惑はかからない。虐められて辛い日々だったけど、みんなには出来るだけ笑顔で接して、心配 をかけないようにしてきた。

 

『なんだ、まだ生きてたのかよ』

『千冬様の恥晒しはさっさと消えなさい!』

『じゃ、いっその事殺しちゃおっか』

 

でも、いつの間にか私は限界を迎えていたようだ。腕を軽く切られた私はそこにいることが怖くなって学校から逃げ出した。けど、痛みが酷くて意識は朦朧としてくるし、逃げている途中どこかで靴は脱げるし、あまり食べる事が出来てなかったから、足もどこかおぼつかず、走り続けた先にあった電信柱に寄りかかっていた。

そして、その時助けてくれたのが悠助だった。それから先はずっと悠助に助けられっぱなしだ。誘拐された時も真っ先に来てくれたし、どんな時でもそばにいてくれたから…………いつの間にか心の底から気を許せる相手になっていて、彼の前だと素の自分をさらけ出せていた。だから…………気がついたら彼に惹かれていた。彼がいたから本当の自分を取り戻せた。彼には感謝してもしきれない。

 

(あ、れ…………?)

 

そう思った時、周りの風景が変わっていった。さっきまで昔の事を走馬灯のように思い出していただけなのに、今はそうじゃない。どこまでも広がる黒い空間。私の眼の前にはその暗い世界だけが広がっていた。

 

(ここは一体——)

 

ここがどこなのかという手がかりを探すために一歩踏み出そうとした時だった。私の眼の前を突然炎が遮ったのだ。周りに燃えるものは何もないのに、炎の勢いは止まるどころか加速していく。そして、その炎の中に私はあるものを見つけてしまい、大きく目を見開いた。黒い角ばった装甲、頭部の紅いブレードアンテナ…………後ろ姿しか見えないが、見間違える筈がない。あれは黒龍だ。

 

「悠助っ!!」

 

思わず叫んだ。私の声が聞こえたのか、黒龍は一度こちらを向いた。だが、その姿を見た私は言葉を失った。黒龍の堅固な装甲には至る所に亀裂が入っていて、他にも銃弾が当たったような跡や切りつけられたような跡があった。そして…………全身に返り血を浴びていた。思わず一歩後ずさってしまった。どうしてそんな姿になってしまったのか私にはわからない。ただその場にとどまることしか出来なかった。そんな私を見ていた黒龍はまた向き直って、炎の中へと歩みを進めていく。

 

「待って! 悠助、一体どこに行くの!?」

 

遠ざかっていく彼の機影を追いかけようとするが、そうしようとした時に炎の壁はより一層激しさを増した。そして、再び彼は私の方へ目を向けた。見るもの全てを畏怖させるような紅い双眸。炎の壁と相まって、まるでこっちに来るなと言わんばかりだ。機械的なものであるはずなのに、どこか悲しげな雰囲気を醸し出している。わからなかった…………どうして一緒に行ってしまってはダメなのか、その理由がわからなかった。私は悠助とならどこまでも行けるというのに…………。

 

「置いて行かないでよ…………悠助ぇぇぇぇぇっ!!」

 

そう叫んだ時、黒龍の機影は業火の中に消えていたのだった——。

 

…………。

……………………。

………………………………。

 

「…………っ!!」

 

突然飛び起きた私。目を覚ますといつも通りの部屋の光景が目に入ってきた。その事に安心感を抱きながら、荒くなった呼吸を落ち着かせる。少し汗もかいてしまっていたようだ。

 

(夢、だったの…………?)

 

夢にしてはやけに現実味を帯びていた。あそこまで鮮明に過去が思い出されるなんて…………そのせいか少し手が震えていた。まだ完全に克服できたわけじゃないから、ふとした事でこうなってしまう。悠助には仕方のない事だからゆっくりと治していけばいいって言われたけど、そんな弱い自分がいる事にちょっとだけ悔しい思いをしていた。克服できるようにならないといけないのにね。

 

(でも…………だめ…………思い出しちゃうなんて…………)

 

心なしかもう眠りたくない。眠ってしまったらあの夢の続きを見る事になってしまうかもしれない。さっきまで見ていた夢が何を意味しているのかはわからなかったけど…………でも、悠助と離れ離れになるのはもう嫌だから…………例えそれが夢であっても離れ離れになりたくない。

 

(悠助のところに行っても大丈夫、かな…………?)

 

彼に依存している事は自分でも理解している。それが悠助を縛り付けているかもしれないって事も…………けど、今だけは彼に甘えたい。そう思いながら悠助の部屋へと向かった。

 

 

 

 

 

「ん? 一夏、どうしたんだこんな時間に?」

 

自室に向かっていた俺だが、部屋に入ろうとした時一夏がこっちに向かってきているのがわかった。いつもなら彼女はこの時間にはぐっすりと眠っているはずなんだが…………どうかしたのだろうか?

 

「ちょっと目が覚めちゃって…………」

 

どうやらこんな時間に目が覚めてしまったらしい。現在深夜零時。俺はよくこの時間まで起きているから夜中に目が覚めるなんて事はないんだが、俺よりも早く寝ている一夏は時々こうなるらしい。ただ、いつもならすぐにまた眠れるらしいんだが、今回ばかりはそうでないようだ。

 

「そうか…………なら、今晩は俺の部屋で寝ても構わねえからこっちに来い」

 

俺はそう言って彼女を部屋に呼び込んだ。まぁ、別に一緒に寝る事なんていうのは別段彼女に問題はない。問題は俺だ。理性がいくつあっても保てるかわからねえ。野獣を通り越して魔獣にでもなるんじゃないかと心配しているくらい、最近は危険なレベルに達してきている気がすんだよな。最も、そうなったら最後、一秋の奴が飛んできて俺を殺しにかかるんじゃねえだろうか? だが、簡単にその程度なら排除できそうな俺がいるのも事実だ。

 

「うん…………ありがと」

 

一夏は俺に促されて部屋へと入った。その後を追うように俺も入る。俺の部屋といっても、一般的な男子高校生のそれと比べるとかなり殺風景だ。物がマジでねえからな。あるとして押入れにしまってある白兵戦用の銃火器とボディアーマーだけだ。あとは床に敷きっぱなしの布団くらいか。そんな俺の部屋は電気をつけてないにもかかわらず妙に明るい。見てみればカーテンを閉めてなかったようで、月明かりがそのまま入ってきていたようだ。

 

「わぁ…………明るいね」

「そうだな。そういや今日は満月か」

 

窓からは静かにだが煌々と輝いている満月がよく見える。こんな風にゆっくりと月を眺めるなんて事はなかったから、俺にしちゃ新鮮味がある。

 

「なんもねえけど、立ってんのもなんだし、座ったらどうだ?」

「それじゃ…………そうさせてもらうね」

 

一夏はそう言って俺の敷きっぱなしの布団の上にぺたんと座った。その横に俺も腰を下ろした。二人で並んで座るなんて事は最近なかったからな…………妙に彼女を意識してしまう。

 

「それにしても急にどうしたんだ? いつもならもう夢の中だろ?」

「うん…………そうなんだけどね…………」

 

一夏はそう言うと俺の方へ寄りかかってきた。どうしてだろうか、いつも以上に彼女が弱々しく感じる。

 

「少し嫌な夢を見ちゃって…………」

「嫌な夢?」

「うん…………昔の事とかかなり鮮明に思い出しちゃって…………それに、悠助が私にこっちに来るなって言って一人でどっかに行っちゃうのも…………」

 

俺が離れるか…………そんな事あるわけないのにどうしてそんな夢を見ているんだ。そんないつも以上に弱々しくなっている彼女の肩に俺は手を回し、さらに俺の方へと引き寄せた。今の俺にはこれくらいしかしてやる事ができない。

 

「何言ってんだよ。まぁ、昔の事は俺にはどうにもしてやれねえけどよ…………俺はもうお前の側を離れねえって言ったじゃねえか。だから、心配しなくていいさ」

 

かける言葉もセンスもクソもねえ。未だに俺は唯の戦う事しかできない傭兵だ。だが、そんな俺でも隣にいる少女の事を守りたいって思っているんだ。だから、せめてでも支えになれればいいと思っている。

 

「ありがと…………でも、もう少しだけこうさせて…………」

「ああ。気がすむまでゆっくりしていいぞ」

 

俺に体を預けてきた彼女は暫くして再び夢の中へと戻っていった。その顔に先程までの弱々しさは無く、むしろどこか安心した様な顔をしていた。それを見た俺もまたホッとした気分になるのだった。

にしても、俺が一夏に向かって『こっちに来るな』、と言ったのか…………多分だが、それは恐らく俺のいるところ——つまり戦場に来るなという事だろう。彼女にはその手を血で汚してほしくはない。汚れ仕事をするのは俺だけで十分だからな。かりそめの平和でもいい、これ以上争い事に彼女を巻き込みたくないし、悲しませたくもない。尤も、その側にいるやつが頻繁に戦場に行って人殺しをしているんだけどな。

さてと、俺も一眠りするとするか。だが、一夏の頭が俺の肩に乗っている以上、横になって寝るのは無理そうだ。久々に座ったまま寝るとするか…………明日は朝一で出る予定だしな。寝てる間に仕事が入らねえ事を祈って、俺は瞼を閉じた。

 

 

 

 

 

「う…………うぅん…………」

 

眩しく感じて目を覚ました。どうやら悠助の部屋に来てそのまま眠ってしまったみたいだ。

 

「あれ…………?」

 

でも、肝心の悠助の姿が見えない。下に降りたのかな? 部屋から出たのは確実だと思う。時計を見ると、もう朝ご飯の準備をしなきゃいけない時間になっていた。そして、蒼龍に一件のメールが届いていた。差出人は悠助。私はすぐにそのメールを開いて確認した。

 

『悪い、少し出かけてくる。朝飯は少し遅くなるかもしれねえ』

 

結構遠くの方に出かけたのかな? もしかしてまたお仕事なのかな?

 

「ねぇ榛名、悠助どこに行ったかしってる?」

 

せめて行き先くらい教えてくれたらいいのに、と思いながら榛名に問いかけた。多分、武蔵と常時繋がっているからどこに行ったかすぐにわかると思う。

 

〔では行ってみますか?〕

「え? そんなに近くにいるの?」

〔いえ。ISで飛んでいかなければならないところですけど…………〕

「じゃ、行ってみようよ」

〔…………わかりました。でも、まず着替えてきてください。それと、ある程度の覚悟も決めて…………〕

「…………? わかったよ」

 

私は榛名に言われるまま、出かける支度を始めた。でも、ある程度の覚悟って…………一体悠助はどんなところに行っているの?

 

 

 

 

 

「やけに朝霧が濃いな」

 

黒龍を飛ばして数十分、人里離れた山間部に俺は来ていた。山間部とはいえ、ある程度開けていて、ちょっとした空き地の様になっている場所だ。人の気配はまずしない。聞こえるのはただ自然と吹き抜ける風の音、どこかを流れている小川のせせらぎ、鳥のさえずりだけだ。戦闘で疲れた連中にとっては憩いの場に最適かもしれない。だが、今日に限っては霧が濃い。そのせいで視界は非常に悪く、足元に注意を払って歩かなければならない。

 

「だが、いいじゃないか。霧がお前の姿を隠しているから、気付かれなくて済むぞ」

 

その哀しみに満ちた顔をな、と隣を歩く武蔵がそう言う。今の武蔵はいつもの露出の高い服装では無く、スーツのような服装をしている。かくいう俺は戦闘装備のままであるが。にしても、いつの間にか顔に出てしまっていたか…………できる限り出さないようにしていたんだがな。

 

「まぁ、この場には俺たちしかいないから気づかれるも何もないだろ?」

「それもそうだな。だから、自分の気持ちに素直になればいいさ」

「…………つくづく思うけどよ、本当人間臭いよな、お前らって」

 

武蔵の言うことについ苦笑が漏れてしまった。だが、こいつらの人間臭い言動や行動は、そんじょそこらの人間よりも人間らしいと思えるくらいだ。

朝露に濡れながら俺は目的地を目指して進み続ける。その途中、俺は黒龍の拡張領域よりあるものを取り出した。今朝、無理を言って買ってきた花束だ。まだ花弁が散っている様子はないし、萎れてもいないようだ。

そして、やっと目的地にたどり着いた。そこにあるのはただ一つの石碑。所々に蔓が伸びて巻きついているが、文字が読めないというほどでもないし、別段取らなくても問題はないと思ったから、そのままにしておこう。自然のままが一番だ。だが、どうしてこんな人気のないところに石碑があるのか疑問に思う奴もいるだろう。本来石碑は人の目につく場所にあるからな。しかし、ここに刻まれた者達の名は闇に葬られたから、表立って立てるわけにはいかないのだ。

 

「久しぶり、親父、お袋」

 

そう、丁度四年前の今日に起きた擬似コア搭載型ISの自爆テロで死んだ親父とお袋の墓だ。他の亡くなった人々はそれぞれの家族の墓の下に眠っているらしいが、俺のところは生存者が俺一人だ。無論、親父達が墓参りに行ったこともねえから、俺の家の墓が何処にあるかわからねえ。だがな、傭兵稼業をしていくうちに、親父達がしていた事が今の世界に飛んでもねえ喧嘩を吹っかけている事のように思えてな…………せめて騒乱から離れた世界で安らかに眠ってもらいたいと願って、最初の報酬でこの墓を建てたわけだ。

俺は持っていた花束を石碑の前に置き、胡座をかいて座った。

 

「へへっ、もう今日で四年も経っちまったよ。時間が過ぎるのは早いもんだな」

 

ついつい乾いた笑いが出てしまった。時間が経つ事の早さを嘆いているのか、それとも返事が返ってこない事を嘆いているのか、俺にもわからない。

 

「去年も来たけどさ、あれからいろいろあったよ。ほら、去年話したよな? 俺が拾った女の子の話。そいつと一緒にIS学園に行く事になってさ…………毎日がドタバタしてたよ。勿論、どれもこれも良くも悪くも思い出。行事だとなんか擬似コアISが乱入してきたり、ドイツの違法システムが起動したやつと対峙したり、暴走した軍用ISを止めたり、その後にやってきた無人機共を塵に変えたりとかさ…………ただ戦場にいるだけじゃ得られない体験を何度もしたよ」

 

俺は親父達に聞かせるように今までの事を話していった。多分、他の生徒でもこんな風に親に話しているかもしれないんだが…………俺と決定的に違うのは、話したら返事が返ってくる事。俺の場合、ただの一人語りにしか過ぎないんだ。でも、それでも…………せめて家族と一緒にいる気分だけでも味わいたいんだ。

 

「それとさ…………連れてきた女の子なんだけど…………あ、名前は一夏っていうんだ。俺、実はその子と…………付き合っているんだ。可愛くてすげえ美人で、ちょっと弱虫なところもあるんだけどさ…………どこか一本しっかりとした芯が通っている…………正直、俺には勿体無い子だよ」

 

こんな何気ない会話が普通にできる一般人を時々羨ましく思ってしまうのは仕方のない事なのだろうか…………俺だって木の股から生まれたわけじゃない。家族と過ごす時間が恋しくなるときだってある。確かに今の俺には新しい家族がいるが…………それにしたって俺を産んで育ててくれた両親と一緒にいたいと思うときだってある。

 

「親父達にも紹介したいよ。こんな戦場でしか生きられないような奴が作った彼女なんだから…………でも、こっちに連れてきたらあいつはきっと悲しむだろうから…………他人の不幸を嫌い、他人の幸せを願うような奴だから…………女を泣かせるのは男としてダメな話だろ?」

 

だが、どうしてなんだろうか…………ただ話しているだけなのに…………涙が溢れて仕方ない。止めたくても、流れ落ちる雫は戦闘装備の表面を濡らしていく。

 

「本当にさ…………どうしてこんな事になっちまったんだろうな…………俺のような歳の奴は大概親と喧嘩したりするみたいだが…………俺にはそんな事も羨ましく思えてきちまうよ…………」

 

自嘲気味に言って自分の気を紛らわそうとするが、全くもって気分が変わる気配がない。寧ろ、より一層涙が出てきちまった。

 

「…………なぁ、どうしてなんだよ…………どうして親父達が死ななきゃならなかったんだよ…………! 全く意味わかんねえよ! 俺だってこの現実を受け入れなきゃならねえって事は頭でわかってんだ! でもな! やっぱり心がまだ受け入れたくねえんだ…………! 話したい事も、やりたい事も沢山あったのによ…………折り合いなんてつけられるわけねえだろ! なんでなんだよ! 俺が何かしたっていうのかよ!」

 

俺の感情を抑える事など出来なかった。感情を殺せないなんて兵士としては失格なんだろうが…………今となってはそんな事関係ない。一夏のいる手前、こんな姿を見せる事なんて出来ないから、ずっと胸の内に秘めていた。その感情の堰が今決壊して、全て溢れ出てきている。親父達な既に死んだ、その事に間違いはない。だが、事実を認める事と、それを受け入れて折り合いをつけるのはまだ別だ。墓とか墓地とかは残されたものが死者を思って折り合いをつける場所だと言うが、俺は未だに折り合いなんてつけられそうにない。

 

「なぁ…………頼む…………もう一度、もう一度だけでいいから! 声を聞かせてくれよ…………父さん、母さん…………!」

 

朝の森の中に、俺の泣き叫ぶ声だけが響き渡った。

 

 

 

 

 

悠助の後を追って着いた先はとある森の中。その中でも少し開けている場所だった。そこにあったのは小さな石碑。そして…………その前で泣き叫ぶ悠助とその隣に立っている武蔵の姿だった。

 

(ね、ねぇ、榛名。ここって一体…………)

〔…………辛い事を言うことになるのですが…………ここは、悠助さんのご両親のお墓なんです…………〕

 

私の質問に答える榛名の声もどこか悲しげだった。そういえば悠助の母さん達って、テロに巻き込まれて…………もうこの世にいないんだった。それを今更思い出した。知っていたけど、こうやって現実を目の当たりにするとこっちも辛い気持ちになってくる。…………榛名が覚悟してって言った意味がわかった気がするよ。

 

(あんなに取り乱している悠助、初めて見たよ…………いつもならもっと冷静なのに…………)

 

今の悠助はいつもの冷静な彼とは違って、奥に押し込んでいたものを全て吐き出して、感情のままいるように思える。悠助はいつも物事を冷静に判断して、たとえどんな些細な事でも、どんなに辛い決断でも、容赦なく決めるのに……今の彼にそんな冷徹さは感じられない。まるで人が変わってしまったようだった。

 

(それだけ、悠助にとって大事な存在だったって事だよね…………大切な人がいなくなるのは辛い事だから…………)

 

ふと頭の中に浮かんできたのは、臨海学校での出来事。あの時、悠助の意識が戻らないかもしれないって聞いた時、目の前が真っ暗になったような気がした。きっと悠助も、父さんや母さんが亡くなった時に、同じような気持ちになったのかもしれない。石碑の前では感情を爆発させた悠助が未だ涙を流していた。その光景を目の当たりにしている私の胸は何処か締め付けられるように痛かった。

 

(悠助…………辛かったら私に甘えてもいいのに…………どうして無理に押さえつけようとしていたの…………? 辛いなら、辛いって言って欲しかったな…………私は悠助に助けられたんだから、今度は私が助ける番だよ)

 

そう木陰で私は一人そう思った。だけど、いざ悠助のところに行こうと思ったけど、その為の一歩を踏み出そうにも、どうしてなのか踏み出す事ができなかった。大切な人の心を癒せないでいる自分が悔しくて仕方なかった。

 

 

 

 

 

どれほど泣き叫んでいたんだろうか。俺の目から涙はもう流れ落ちていなかった。だが、心の内を曝け出せたせいもあってか、今の俺の心は少しだけ晴れ間がさしていた。ついでにいつの間にか武蔵は引っ込んでしまったようだ。俺の涙を見ないように、俺一人にさせてくれたのだろうか。そうだとしたら感謝しないとな。こんな姿はあまり人に見せられるものじゃない。

 

「へへっ、悪いな。なんだかみっともねえ姿を見せちまったな。何、もう大丈夫だ。またいつもの生活に戻るわけだし、俺はまだ一人になったわけじゃねえからな——で、さっきからそこにいるのは誰だ?」

 

ずっと気になっていた事だ。どうにも俺と以外の何者かがこの場にいる気がしてやまない。もし、この場所を乱そうとする者ならば…………そう考えた俺は腰に常備しているデザートイーグルに手を伸ばし、俺はその気配のする方を向いた。

すると、茂みの方がガサガサと動ぬ。そして、そこから出てきたのは、

 

「い、一夏…………どうしてここに…………」

「ごめんね…………悠助がどこに行ったのか気になっちゃって…………ついてきちゃった…………」

 

私服姿の一夏だった。どうやってついてきたのだろうかと思ったが、おそらく榛名あたりがナビゲートしたんだろう。それなら俺のいる位置がわかっても仕方ない。

 

「そっか…………」

「ごめん…………怒ってる、よね…………?」

「別に怒ってないが…………見たのか? 俺の泣き叫んでいる姿」

「うん…………」

 

…………めちゃくちゃ恥ずかしいんだが。今まで一夏の前で涙を流す事なんてほとんどなかったからな…………。

 

「…………失望したか? あんな男としてだらしねー姿見てさ」

 

おそらくあんな姿を見た一夏は俺に失望でもしただろうと思って、自嘲するようにそう言った。まぁ、誰だってそうなるよな。あんな姿を女の前でみせるとは情けねえものだ。

 

「そんな事ないよ! だって悠助…………ずっと一人で抱え込んでいたんでしょ…………なのに私の前で弱音を吐く事なんて無かったよ…………でも、悠助だって人なんだから、泣いたっていいと思うよ。だから、悠助は全くかっこ悪くないよ!」

「一夏…………お前…………」

 

俺がぶっきらぼうに言った言葉を全て否定するように、一夏は声を張り上げてそう言った。こいつがここまで声を張り上げるのは滅多にない事だ。その姿に思わず俺は固まってしまった。

 

「悠助だって前に言ってたでしょ…………辛かったら辛いって言ってって…………私に甘えてもいいんだよ…………私だって、ただ守られる存在じゃないから…………」

 

愛する彼女の言葉は俺の胸に深く突き刺さってくる。かつてこいつに向かって言った言葉をそのまま返されてきた。なのに、振り返ってみれば俺にも当てはまる事がほとんどだ。人に言っておきながら、自分は全くできてなかったとは飛んだ皮肉な話だ。これは当面一夏に頭が上がらねえわ。

一方の彼女はといえば、感情が昂ぶっていたせいか、目尻に涙を溜めている。全く…………言いたい事を言い切る芯の強さはあるくせに、それでいて泣き虫なんだからよ。俺は彼女の側に歩み寄り、そのまま彼女の事を抱き締めた。

 

「ありがとよ。そう言ってくれるだけで、俺は十分だ。やっぱりお前は本当に優しい奴だぜ。でもよ、好きな女の前でくらいちょっとカッコつけさせてくれよ」

「悠助…………」

「あ、ただちょっとだけ泣き虫なのが欠点か」

「も、もう! そんな事言うんだったら心配して損したよ!」

 

俺の余計な一言でちょっとだけ怒ってしまった一夏。だが、その少しだけ頬を膨らませた姿すら愛おしく思えてしまう。まぁ、大して怖くないからな。

 

「でも…………悠助がいつもの調子に戻れて良かったよ」

 

そう言って柔らかく微笑む一夏の顔はとても綺麗だった。そして、一瞬だけお袋の姿が重なって見えてしまった。

 

「お前のおかげさ。本当にありがとよ」

 

俺は一度一夏を離し、墓石の方へと向き直る。それにつられて一夏も墓石の方へ向いた。

 

「親父、お袋。こいつがさっき話した俺の彼女、一夏だ。本当俺にはもったいないくらい可愛い女の子さ。ただな…………やっぱり俺は親父達を殺した擬似コアが許せねえ。きっとこれからも戦いに身を投じる事になるだろうよ。それでもさ、俺はこいつと一緒に生きていく事に決めたんだ。あぁ、親父達の分まで生きてやるさ。だから、そっちに行くのはもう少し先になりそうだぜ。暫く二人でゆっくりと過ごしててくれよな」

 

形はどうであれ、結局一夏と親父達は対面する事になってしまったな。だが、後悔はない。どっちにせよ感じるのは一夏だ。最終的に辛いかどうかを決めるのは一夏自身だからな。

俺が親父達にそう言った後、一夏はしゃがみ込んで墓石に刻み込まれている親父達の名前に目線を合わせた。

 

「えっと、は、初めまして。悠助の恋人の織斑一夏です。いつも悠助に助けられています。自分で言うのもなんですが、私は気弱で自信なんてない、悠助と真逆の立ち位置にいます。でも、悠助はそんな私をどんな時も助けてくれました。この恩は返しても返しきれなさそうです。だから私は悠助を支えながら一緒に生きて生きたいと思います。ですので、よろしくお願いします、お義父さん、お義母さん」

 

一夏も俺と同じように親父達への気持ちを伝えたようだ。にしても、改めてそう言われるとどこか照れくさいものがある。だがな…………その、義父、義母だけは早いんじゃねえのか? 時期的な意味で。親父達が聞いたらどんな返事をするんだろうな。きっとあの二人の事だ、快活に笑って、直ぐにオーケーサインでも出す事だろう。

 

「伝えたい事、ちゃんと伝えたよ」

「そうか。それじゃ、帰るとするか」

 

元より少し話をしたら適当に帰るつもりだったが、少し時間が延びてしまった。だが、不思議と悪い気はしない。寧ろ、親父達と一緒にいる時間が少し増えて喜んでいるのかもしれない。

もし、今も親父達が生きていて、一夏と会ったらどうなんだろうか? 親父は親父で騒ぎそうだし、お袋は一夏に料理を教えるかもしれない。そうなれば、きっと笑顔の絶えない平和な未来が待っていたのかもしれないな。

だが、今更そんな事を考えたって、事実が根本から変わる事なんてない。いつか折り合いをつけて、事実を受け止めなければならねえ。それが、生きる者達に与えられた最大の試練だろうな。

 

「そういや、一つだけ言い忘れてた。親父達の遺したRATナンバー、あれは今の世界に抗うどころか、どでかい楔を打ち込んだよ。もしかすると、そのうちISの戦争利用も終わって平和な時代が来るかもしれねえな。まぁ、それについてはまだわからねえけど。でもな、親父達が生んだ龍達は確かにその翼を強くはためかせているぜ」

 

そう、親父達の功績は何と言ってもRATナンバーの開発だ。あの機体があったからこそ、俺は世界に抗う事が出来たし、一夏を守る事だって出来た。現在稼動しているRATナンバーは二十機程度。それでいて全機が全ISのトップに立つ性能を保持しているんだから、親父達の技術力はとんでもねえものだ。束さんですら驚愕する代物だしな。

そんな強力すぎる力を託してくれた親父達に礼を言わなきゃ恥ってものだろ? 親父達が生んだ龍達の行く末を俺は見届けなきゃなんねえのかもな。それが俺に課せられた使命かもしれん。

 

「悠助…………?」

「あぁ、悪い悪い。こいつらの事を話していたからな」

 

不思議そうに俺を覗き込んでくる一夏に、俺は左手の籠手を指差しながら答えた。それを見た一夏は納得したような顔になった。

 

「そういえば、蒼龍や黒龍達を作ったの、悠助のお父さん達だもんね」

「開発者に機体の感想を伝えるのは操縦者の務めだろ? 最高の相棒達を託してくれた親父達に礼をしないとな」

 

これで俺のしておきたい事は全て終える事ができた。これで一応は思い残す事はない。

 

「よし、じゃ帰るぞ」

「うん!」

 

俺と一夏は同時に黒龍と蒼龍を展開、そのままゆっくりと上昇していく。できる限りこの場を騒がしくしないようにするためでもある。

 

(じゃあな。また来年、ここで会おうぜ)

 

みるみる小さくなる墓石に向かって俺は心の内でそう伝えた。ここを離れれば、俺はまた戦場に身を投じる事になる。嘗ての民間人の俺ではなく、一傭兵としての俺に変わるのだ。その切り替えの意味を込めてだ。結局俺は戦う事でしか平和を守れないからな。

 

「しっかりついてこいよ!」

「むしろ追い抜いちゃうかもね!」

 

俺たちはそのまま全ブースターを全開(フルアクセル)、その空域を一気に離脱し、自宅の方へと向かった。太陽が完全に登りきった朝の空は、今の俺の心と同じように蒼く澄み渡っていた。

 

 

 

 

 

親父達の墓参りに行った翌日。俺たちはIS学園第三アリーナに来ていた。復旧自体は比較的進んでおり、元々被害の少なかったアリーナやグラウンドは普通に使えるとのこと。だが、未だに存続させるか否かの会議が終わってない模様な上に、校舎の方にダメージがいっているものだから、完全な復旧にはまだ時間がかかるそうだ。おかげで人影なんざ全くない。ほんの数ヶ月前は、このアリーナだってごった返すほどの生徒で埋め尽くされていたのにな。いかに戦闘の傷跡が酷いものかってのも身にしみてわかるぜ。

 

「やっぱり人影は全くないんだね…………昔のようには戻れないのかな?」

「さあな? どの道戦闘の傷跡が残った場所は元どおりになるわけでもねえし、その傷跡は見えないところにも刻まれちまってるから、どうしようもねえだろ」

 

この惨状を見た一夏の言葉に俺はそう返した。人ってのは一度傷ついたら中々立ち直れないものだ。報告によれば何人かはPTSDに近い状態らしいし、重症者ではISというもの自体を忌避しているそうだ。戦闘が残す傷跡は物理的なものだけじゃない、精神的な目に見えない深い傷を負わせていくんだ。

 

「この調子じゃ、中卒扱いしにかならねえんじゃねえの? 就職先に困る奴らがホイホイ出てくるぜ」

「…………心配する所、そこなの?」

「いや、そこが一番大事じゃねえか?」

「それはそうだけどさ…………私達のこれからを心配しなくていいの? この先どうやっていくの?」

「どうするも何も今まで通りさ。俺は傭兵としての仕事があるわけだし、お前はお前で有香子さんのとこでバイトしてんだろ?」

「な、なんでそれを知ってるの!?」

「俺が知らないとでも思っていたのか? 残念だが、その情報は筒抜けだぜ」

 

一夏がバイトしている事に気づいたのは学園の一時閉鎖が決まって二週間経ってからだ。実を言うと有香子さんの方から電話がかかってきてな、一夏のおかげで助かってると言われてな、その時にバイトしていると気づいたのだ。

 

「ぜ、絶対知らないと思ってたのに…………」

「てか、本人から直接電話がきたぞ。というかなんでバイト始めたんだ?」

「そ、それは…………いつも有香子さんにはお世話になっているし、それに…………少しでも悠助の力になれたらいいなぁって思ったから…………」

 

俺にばれた事が相当恥ずかしいのか、一夏は顔を赤らめながらそう答えた。待て待て待て待て、この子どんだけ優しすぎんだよ。俺の手助けのためにバイト始めたって…………ウチの経済状況がさらに良くなるぞ。なお、現在の貯蓄、三百万ドル程なり。この間派手なクラスターミサイルを数発撃ったからな…………あれ、かなり高く付くんだわ。対地攻撃用巡行クラスターミサイル、通称ハルバードはMGF弾頭ほどではないが、常識外れの破壊力を有している。此方から着弾地点までGPS誘導、着弾地点付近で内部に格納されている中型爆弾を三十発も撒き散らすという、地上部隊にとっては悪魔の兵器だ。無論、その分金もかかるわけさ。ちなみに一発で、36㎜対IS用APFSDS弾が二千発近く買える。やはりミサイルの類は金がかかって仕方ねえわ。

 

「はぁ…………全くもってお前というやつはお人よしすぎるというかなんというか…………どこぞの頭痛薬よりも優しさでできてんじゃねえの?」

「むぅ…………なんだか素直に喜んでいいのかわからない評価だよ」

 

実際もって優しすぎるからそう言われても仕方ないんじゃねえのかと思ってしまう。こういう奴って、道端に捨ててある子犬とか見つけたら絶対拾って帰ってくるタイプだろ。なお、俺の場合は容赦なく見捨てるがな。

そんな風に考えていた時だ。上空から何かが降ってきた。一応黒龍のレーダーでも捉えている。突入速度はまるでバンカーバスターと同じくらいだ。だいたいこんな事をしでかす人間は一人しかいない。そんな事を思いながら、地面に突き刺さる直前で謎のホバリングをしてから突き刺さるメタルの人参を眺めていたのだった。

 

「ようやく来たみたいだな」

「そうみたいだね」

 

そして俺と一夏は同時に思った、あの兎がやって来たと。

 

「ヘーイ! 二日ぶりぃ! ゆーくん! いっちゃん!」

 

割れた人参から飛び出てきたのは、俺たちをここに呼び出した本人の束さん。相変わらずのハイテンションについていけなかったが、ある意味正常なため特に心配することなどなかった。てか、レールキャノンの直撃に、ブーストハンマーでのホームラン、おまけにマスドライバーでぶっ飛ばされる、と常人ならどれか一つでも死ぬものを全てくらって生きてんだから、死ぬ要素が一つとして見つからんわ。

 

「とりあえず〜、いっちゃん成分の補給〜」

「ちょ…………た、束さん…………! く、くすぐったい…………ですぅ…………! ひゃんっ!?」

 

飛び出してきた束さんはまるで磁石のように迷いなく一夏へと抱きついた。だいたいこうなる事は予想できてるからなぁ…………束さんのスキンシップをもろにくらっている一夏は非常にくすぐったそうにしている。そしてだ…………その時の声が色っぽくてだな…………色々と俺には毒なんだ。

 

「ウェッヒッヒッ、さぁて次はどこの香りを嗅ごうかなぁ〜。王道に髪? それとも腋? ちょっとマニアックに足の裏? それともマイナーすぎる靴の匂い? どれがいいかなぁ〜?」

「ど、どれも…………ひゃあっ…………! だ、だめ…………ですぅ…………!」

 

あかん、真面目にこの光景は凄まじく目に毒だ。いたいけな美少女を少々残念な美女が攻めていく態勢。純粋ゆえにあげるか弱い悲鳴に、そこへ躙り寄る悪魔の呟き。どう考えても精神衛生上よろしくない。しかもとうとう束さんは背中からサブアームを出してきやがった。おそらく強行手段に出るつもりだろう。というか、既に髪の匂いを嗅ぎつつ、左手で 一夏の服を脱がせて腋の下を露出させ、サブアームを器用に使って右足の靴を脱がせていた。一体どんな技術を使ったらそんなことができんだよ。って、このままだと本当にやべえ。下手すると一夏がガチ泣きするぞ。こうなったら一気に止めてやるしかない。そう思った俺は黒龍を展開、ツインガトリングガンを装備した。

 

「うほほ〜、いっちゃんの髪の匂い、とてもいいねぇ〜」

「だ、だから…………束…………はうっんっ…………さん…………っ! ほ、本当に…………そ、そこは…………らめぇっ…………!」

「やっぱりいっちゃんは最高だよ〜。さぁて、お次は——」

「その辺くらいにしておけ。今ならまだスキンシップとして受け取ってやるぞ」

「えぇ〜…………束さんはもっといっちゃんを感じ——」

「その前にハイエナの餌に仕立ててやろうか? 安心しろ。30㎜なら一発で挽肉だぜ」

「調子に乗ってすいませんでした!」

「分かればよろしい」

 

一夏が完全にやばそうな状態に突入する前に、束さんを止めるべく俺は彼女のこめかみにツインガトリングガンを突きつけた。一応中には実弾が装填されている。ついでに言えば銃身は回転済みだ。いつでも撃てる状態にある俺の様子に気づいてか、束さんはその場で綺麗なジャンピング土下座を決めたのだった。

一方、束さんに弄ばれていた一夏はというと、そそくさとはだけさせられた服を着なおしたりしていた。ついでに言っておくが、どうやら一夏は学園に戻るということで冬服の制服を着てきていた。この姿の一夏を見るのも随分久しぶりな気がする。

 

「…………見た?」

「な、何をだ…………?」

「…………なんでもない」

 

靴を履き直している一夏は顔を赤らめながらそう言ってきた。一応俺はそう言ったものの…………実を言うと結構見ちまっているんだよな…………その、白の下着とか。完全に目に焼き付いている。って、いかんいかん。煩悩を焼き払わねえと。というか、妙に恥じらいを持っている分、一夏の動きの一つ一つが色っぽく感じてしまう。俺、色々と末期じゃねえか?

 

「ふぃ〜、まぁ、一応いっちゃん成分の補給は出来たし、これで束さんは後三ヶ月は戦えるね!」

 

恥ずかしがっている一夏とは対照的に何やら満足そうな顔をしている束さん。もはやこの状況をどう収拾がつけたらいいのか、俺には全くもって見当がつかない。

 

「「「アホか!!」」」

 

とかと考えていたら、一秋とエイミーとレーアが束さんに盛大なツッコミをぶちかましていた。赤面して俯いている一夏、地面に頭が突き刺さっている束さん、それをハリセンで叩き続ける三人…………ただでさえカオスな状況がより一層カオスになった所為で、俺は原因不明の頭痛に悩まされたのだった。

 

 

「さてー、じゃ気を取り直して稼働テストを始めるとしよっかー!」

 

あの混沌とした状況から立ち直って十分、ようやく本来の目的である稼働テストを開始することとなった。なんとか一夏も立ち直り、いつも取りの状態になっている。

 

「で、ようやく本題に入ったのはいいんだが、なんで三人も来てんだ? 別にターゲットドローンを展開すれば済む話じゃねえか?」

 

さっきから気になっていたことだが、何故一秋やエイミー、レーアが来ているんだ? ただの稼働テストならアリーナの設備であるターゲットドローンを用いた方がいい場合もある。

 

「まぁ、そう言われちゃうとそうなんだけどねー。でも、今回のテストは実戦形式で行った方がより正確なデータが取れるんだよ。戦闘用に開発されたRATナンバーならなおさらね」

「ついでに、こいつらの機体のテストも兼ねてるんだ」

 

そう言って一秋はエイミーとレーアをに何かの指示を出した。指示を受けた二人はおもむろに機体を展開する。俺はこの時、二人の愛機であるクーガーとクロノスが展開されると思っていた。だが、光が消え、展開された機体を見た俺はそれが全く違う代物になっている事に気づいた。エイミーの機体はオリーブドラブを基調として、全体的に角張った装甲が特徴的で重装甲機である事がわかる。それに対してレーアの機体はスカイブルーを基調として、流線型の装甲と各所のスタビライザーが特徴的で高機動機である事が予想できる。だが、俺はこのような機体を今まで見た事がない。

 

「これが私達が試験運用する機体です。私が搭乗しているのが、NSDナンバー試作一号機のウェアウルフで」

「私が搭乗しているのが、NSDナンバー試作二号機のスティレットだ」

「試作機…………? というと束さんのオリジナルか?」

「いや、こいつらはとある企業が開発した奴さ。まぁ、面々はお前さんも一夏も知っているぜ」

「わ、私も? 一体誰なの、一秋お兄ちゃん?」

「こいつらだよ」

 

そう言って一秋は俺達にディスプレイを見せてきた。どうやら通信用ウィンドウが展開されているようだ。

 

『やっほー! 久し振りね、悠助、一夏』

「「鈴!?」」

『あら、私だけじゃないわよ』

『そうだよ! 僕達もいるからね。あ、お久しぶり、二人とも』

『相変わらずの仲良しさに安心しましたわ』

『全くだ。変わっていたらいたでどうしようかと思ったぞ』

「シャルロットにセシリア!?」

「ラウラまでもかよ!?」

 

そう、映し出されていたのは祖国へと帰らざるを得なかった嘗ての同級生である代表候補生共だった。あ、ついでに言うと、どうやら楯無は普通に家業をし、簪と渚はその補佐に当たっているとのこと。傭兵としての仕事がめっきり減ったとあいつは嘆いていたな。

 

「それにしても、どうしてみんなが…………」

『あら、まだわかりませんの?』

「も、もしかしてこの二機って、お前らが建造したとかって言わねえよな…………?」

『冗談抜きで我々が建造したぞ』

 

きっぱりと言い切ったラウラの言葉に俺は驚きを隠せなかった。

 

「って、おい。欧州の統合防衛整備計画はどうなったんだ? 各国で開発された機体のコンペじゃねえのか?」

『最初はそうだったんだけどね…………どうも、コンペだとお金がかかるって今更気付いたみたいで…………』

『結局、共同開発という結果に落ち着いたのだ』

『その中でも特にRAT/Fナンバーを持っている英独仏が主導となっているんですの』

「あれ? それだと鈴はなんか関係ないんじゃない?」

『そうでもないよ。欧州の機体って射撃戦型が多くて近接戦闘に少し不安を抱えていたんだ』

『それで、近接戦闘に関するノウハウを手に入れるため——』

『私が特別顧問として、近接戦闘における指導をしてるのよ。といっても、立ち回りとかそういうのだけどね。技術的な物は私には無理』

 

わーお…………なんとも無茶苦茶な開発陣営だこと。で、兵装搭載能力に長けるフランスに、FCSを含む全センサー類がぶっ飛んだイギリス、装甲と駆動系は世界トップクラスのドイツ、近接戦闘での一撃離脱と継戦能力が強味の中国と…………なんとも一癖どころか二癖以上もある厄介な面々じゃねえか。

 

「その辺はいいとして、よくお前らがこんな短期間で開発できたよな。普通は半年とかかかる代物だぞ」

『まぁ、そこは欧州のGEWことデュノア社だから、設計自体は一週間もかからなかったよ。コンセプト自体は固まっていたし、要求仕様を満たすタイプを幾つか考えるだけだったからね』

「そ、それでもお金とかはどうだったの? 確かISの開発ってお金がとてもかかるんだよね?」

『あら、資金は私が出しましたわよ。オルコット財閥の財力を持ってすれば、ISの十機くらいまでなら建造可能ですわ』

「そ、それに対応する技術とかは——」

『我がドイツの優秀な技師(気の狂った変態)達にかかれば造作もない。対象の慣性すら殺す兵器(アクティブ・イナーシャル・キャンセラー)を開発した奴らだからな』

「しかしだな…………欧州の近接装備って、大半がアサルトブレード、もしくはパイルバンカーだろ? それ以外への対応って——」

『あ、それは中国から長刀十種と青龍刀の他槍とか色々持ち込んで行ったから、それの解析が行われているわ。ま、こっちからすれば陳腐化した技術だから別にいいけど』

 

…………よくよく考えてみれば、ある意味あいつらISの生産とか正規運用とかの場に一番近い場所にいたわ。俺? 紛争地域に強襲仕掛けるとか、基地を襲撃して防衛戦力壊滅させるとか、現場よりの使い方しかしたことがねえ。学園に入学するまで競技という概念もほぼ無かったしな。

 

『まぁ、他国からの干渉も何回あったり、久々の全身装甲だから技術者達がダウンしたりしたんだけどね。そんな紆余曲折あって完成したのが、Neo Stratos Defenser(新たなる成層圏の守護者)ナンバー、略称NSDナンバーさ』

「また仰々しい名前にしたことで。で、その試験運用テストに実戦経験のあるエイミーとレーアを搭乗させた、と。そこまではわかったが、なんで俺らが必要なんだ? お前らのとこの機体との戦闘とかってやってねえの?」

『やりましたわよ。リヴァイヴ、メイルシュトローム、ゲヴィッター…………欧州の量産機は全て倒しておりますわ』

『だが、それでも稼働率は思ったより低くてな…………限界を出させる相手が必要だったのだ』

「その役目が私達って事?」

『その通りよ。というわけでしっかりと頼んだわよ』

『予備パーツは用意してあるから、装甲を破壊しても構わないからね。それじゃ』

 

シャルロットの言葉を締めに、ウィンドウは閉じられる。つまりあれか、俺らの機体の稼働テストの相手としてエイミー達を、向こうの稼働テストの相手として俺ら。確かにこれなら面倒ごとは一発で終わるだろう。

 

「そういう事なのさ。ゆーくん達のデータは束さんが、えーちゃん達のデータはかずくんが取るからね」

「時間も押している。早いとこ始めるとしようぜ」

 

まぁ、一人で四機もデータをまとめ上げられる奴がいたら相当びっくりするぞ。何はともあれ、色々と驚かされる事もあったが、こうして稼働テストは始まるのだった。

 

 

「各部異常なし。システムオールグリーンだ」

「こっちも大丈夫だよ」

 

アリーナの中央部にて機体を展開した俺と一夏は機体のチェックを行っていた。一夏の蒼龍に追加されたブースターは、ウィングブースターの付け根付近に装着されており、さながら鳥の尾羽のようにも見えなくはない。しかし、このブースターには独自に重力子エンジンが搭載されているという代物だ。おまけにビームキャノンやらクローにも変わるそうだ。これで遠距離攻撃能力も強化されたわけだな。

一方の俺はと言えば、全身にこれでもかと装着された火器類に目を通していた。おかしいんだよな、この搭載弾薬量。両肩で三十六発のマイクロミサイル、六発の中型ミサイル、そして五万発近い38㎜弾(内訳は対IS用APFSDS、焼夷徹甲弾、榴弾の三種)、ミサイルコンテナには両脚部で九十八発、両腕の連装アームカノン、右腕の203㎜多目的砲、左腕の25㎜連装ガトリングガン、止めは240㎜アクティブ・カノンと通常のISが搭載できる火力を軽く超えている弾数なんだよな…………ミサイルに関しては装填数がそれなだけで、撃てば格納されているミサイルをリロードして撃てるから、実質何発なのかはわからない。

というか、そもそもで黒龍自体が色々ぶっ飛んだ性能だからな…………桁外れの兵装搭載能力、至近距離から距離一万二千までの敵機を捕捉及び攻撃可能なFCS、重装甲ながら機動戦闘ができるブースター及びスラスター、極め付けは戦闘区域で容易に換装できる事だろう。この全てをほぼ最高レベルで可能にしているこの機体、ある意味悪魔だ。本当に龍という存在そのものを体現したかのような代物だ。

 

「それにしても…………とんでもない武装の量だね。正直、正面にだけは立ちたくないよ」

「それがだな…………ガトリングとミサイルコンテナは後方にも攻撃が可能らしいぞ」

 

そう、このTB型装備のコンセプトは単機で敵中にて全方位に攻撃を行うというものだ。正直、主力兵装を正面に向けて攻撃した方が俺の脳への負担は減るんだけどな…………これ、ハイパーセンサーがある事を前提で作ったろ。じゃなきゃ、ミサイルコンテナの一部が回転するとか、ガトリングが砲塔と化したりしねえはずだ。てか後で知った事なんだが、G型装備って広範囲殲滅砲撃型かと思いきや実は中距離支援砲撃型だった。ま、今更どう使おうが関係ねえがな。

 

「今回は味方だから良かったけど…………その装備の悠助が敵になったら、私、裸足で逃げ出すよ、絶対」

「その数秒後に転ぶ未来が俺には見えた」

「そんな!?」

 

敵だったら逃げ出すと一夏に言われて少々へこんだ。だってそうだろ、この武装のせいだと言っても、好きな奴に裸足で逃げ出すと言われて仕舞えば誰だってへこむわな。しかしなぜだろうか、一夏が逃げる様子を想像すると、その次の瞬間何かに躓いて転ぶ姿しか思い浮かばない。あいつ、何もないところで転ぶ事あるからなぁ。

 

「だってお前、この間何もないところで転びかけたばかりだろ」

「うぐっ…………そ、それを言われると反論できないじゃん」

 

むぅ、と効果音がつきそうな表情をしてくる一夏。何か言いたげな顔をしているが、俺はその道を悉く封じてきたからな。俺は初っ端から勢力を削いでいくスタンスだから、基本的に反論なぞさせないぞ。

 

「まぁそう不貞腐れるな。さっさと稼働テストを終わらせて帰るぞ」

「…………わかったよ。でも、これが終わったら一つ言う事聞くこと。いい?」

「へいへい。仰せのままに」

 

どうにも一夏は少々へそを曲げちまったようだ。こんな風になることは滅多にないんだがな。にしても、一体一夏は俺に何を命令する気でいるんだ? ま、それは後で考えることにしよう。今はこの機体の限界性能を引き出してやるだけだ。

 

『さて、それじゃ稼働テストを始めるよ〜。みんな、準備はいい〜?』

「ああ、俺はいつでも大丈夫だ」

「私も大丈夫です」

「いつでもいけます!」

「特に問題ない」

 

目の前には新型のウェアウルフとスティレットなる機体を装備したエイミーとレーアが待機している。以前は僚機として戦った仲だが、今は仮想敵機として俺は認識しているせいか、どうも先ほどからさっさと戦いを始めたがっている俺がいる。

 

『そんじゃ各機、状況を開始せよ!』

 

一秋のその言葉を聞いた俺は迷いなく両肩の38㎜ガトリングガンの照準をエイミーとレーアのそれぞれに合わせ、そのまま対IS用APFSDSを放った。強力な破壊力を持つ砲弾が二人へと襲いかかるが、ギリギリで躱されてしまった。だが、二手に分かれたという点では戦力分散ができたからよしとしよう。

 

「一夏、俺はエイミーをやる。お前はレーアをやれ」

「わかった!」

 

おそらく今の俺にスティレットの相手は無理だろう。こちとら機動力がそこそこしかないからな。むしろ今回機動力を向上させている一夏の方が適任と判断したまでだ。

俺たちも二手に分かれ、俺はエイミーにロックオンをかけた。背部にある240㎜アクティブ・カノンを実弾砲モードで起動、偏差射撃を行った。TB型装備の中で最も高い破壊力を誇る武器による攻撃はそれなりに恐怖を植え付けたのか、エイミーはさらに俺から遠ざかっていく。

 

「おいおい、逃げてないで俺と戦えよ。じゃねえとテストができねえだろうが!」

「無理ですよ! そんな重装備と悪魔の武器を向けられたら誰だって逃げますって!」

 

と言いつつも俺に向かってアサルトライフルによる攻撃はしてくる。ばら撒かれた弾を避けつつ、多目的砲と連装ガトリングガンによる迫撃をしていく。ついでに言うとTB型装備の武装は全て固定武装のようなものだ。だから、今の俺の両手には120㎜滑腔砲装備型アサルトライフルを構えている。しかも、本来の固定武装とは一切干渉してないからな…………機動弾薬庫というよりは、機動要塞と同じじゃねえのか?

 

「仕方ねえだろ。それがこいつの仕様なんだからよ!」

 

両肩の十八連装マイクロミサイルを一斉射、まるでエイミーの視界をミサイルで塞ぐかのような弾幕を張った。

 

「ちょっとぉぉぉぉぉっ!? 少しは自重とかできないんですかぁぁぁぁぁっ!?」

 

もはや恐怖でしかないと言った表情で俺に文句を言ってくるエイミーだが、向こうもただではやらせてくれないのか、ミサイルの半分を躱し、もう半分は撃ち落とすかシールドで受け止めるかしてダメージを受けないようにしていた。そしてそのまま両背部に展開されたロングレンジキャノンと思われる武装と、両手のバズーカで攻撃を再開してきた。完全にこれはあれじゃね? 砲撃戦特化型じゃねえのか? しかもあのロングレンジキャノン、弾速を見る限りリニアキャノンと同等。量産機であれば当たったたら即御陀仏だろうな。最も、俺は大出力ブースターを動かして躱していくがな。着弾したら最後、誘爆すること間違いなし。それだけは勘弁したい。

 

「相変わらずデタラメな動きをしますね! そんな動きをして体が持っていることが凄いですよ!」

「伊達に四年も傭兵やってるわけじゃねえんだよ! この程度の動き、生身で擬似コアの連中と殺り合うより遥かに楽だぜ!」

 

滑腔砲と多目的砲にキャニスターを装填し、アサルトライフルと連装ガトリングガンによる攻撃を行う。正直、ミサイルはひとまずお預けだ。ただでさえこっちの弾数ですら多いからな。ミサイル等の高火力兵器抜きでも、一機二機どころか十機二十機落とせんじゃねえの?

 

「さぁ、ここからさらに本気出していくぜぇっ!!」

「望むところですっ! ウェアウルフの本気を見せてあげます!」

 

そうエイミーは意気込むと、ウェアウルフのハードポイントに武装を展開していく。両腕には二連装機関砲、両脚部にミサイルポッドとまるで黒龍を意識したかのような武装だ。ならば俺も負けるわけにはいかない。鳴り響く銃声、その音が張り巡らされた空間を俺達はただひたすらに飛翔していた。

 

 

 

 

 

「てやぁぁぁぁぁっ!」

「ふんっ!」

 

私——一夏とレーアの間では近接戦闘が行われていた。私はいつものブレードライフルとトンファーブレードを展開して振るうが、レーアもまた大剣と小剣をうまく使って切り結んでいる。そのせいか、互いに一歩も引けない状況となっていた。

 

「やはり、近接格闘戦では分が悪いか!」

「そう言ってるけど、こっちはかなり必死だよ!」

「私にはそう思えないがな! 近接格闘戦能力は蒼龍が全IS中トップクラスと聞いているぞ!」

「私はそんなこと知らないよ!?」

 

というか今初めてそんなこと聞いたよ…………まぁ、確かに全身刃物みたいな構成の機体で強い事は分かっているんだけど、私自身の技術が未熟だからまだまだトップクラスなんて言えないよ。

それよりも、レーアの纏っているスティレットとかという機体もかなり強い。肩や脚に装備されている翼のようなパーツは、蒼龍でスキャンしたデータ曰く、ウィングブレードと同じようなものだという。つまり、ちょっと向きを変えるだけでも十分な攻撃になりうるのだ。そっちも注意しながら、一度距離を取り、ブレードライフルからビームを放った。このまま切り結んでいては埒があかないと思ってそうしたのはいいけど…………

 

「どうした? 私はここだぞ!」

 

どうしてなのか当たらないの! 私が撃ったビームが当たる確率は三十パーセント以下…………ほとんど当たりません。どうしてここまで当たらないのか、私にもよくわからない。というか、悠助が言うには、ブレードライフルの銃身が短いから弾道がぶれてしまうらしい。牽制の意味合いが強いとのことだけど…………それでも当たらないと惨めな気分になるよ!

 

「これでも狙っているつもりなんだよ!」

 

半ばヤケになった私は左腕のアームカノンを放った。小型のビーム弾が撒き散らされるようにして放たれていくが、これもまた近距離射撃兵装であるため、レーアの元までは届かない。こちらもまた牽制の武器らしいけど…………今は少し複雑な気分になる。

 

「そうか。だが、撃つとはこういう事だ!」

 

レーアは大剣をしまうと、その手にあるものを呼び出した。それは悠助が最もよく使ってきた装備の一つ。私にもよく見覚えのある武器。複数の銃身を束ねた武器、ガトリングガンだ。それを見た瞬間、私はレーアを中心に回るような機動をとった。今まで間近であの武器の凄さを見てきたから、避けなければいけないと、本能的に動いている。一度当たったら最後、蜂の巣になっちゃうかもしれない。

連続して放たれる弾丸は私のすぐ後ろを掠めていく。…………これがいつもは味方だったから物凄く頼りになっていたけど、今じゃ完全に恐怖の対象。というか、よくよく考えてみたら悠助はそのガトリングガンを今の装備だと四門まで同時に構える事が出来るんだった。そう思うと、より一層悠助が敵に回るという事がいかに危険な状態なのか理解した。

 

「そう簡単には当たるつもりないよ!」

「ならばこれを喰らうがいい!」

 

そう言ってレーアは小剣までしまい、新たな武器を呼び出す。銃のような武器という事はわかるけど、銃身が二枚の板のようなものでできている。よく見ればその銃身が一瞬眩く光った。あの武器は一体…………。

 

防御障壁(フィールド)、緊急展開!〕

「榛名!?」

 

突然榛名がブレードビットを円形状に配置しエネルギーフィールドを展開したのだ。突然の事に驚いた私だが、その直後フィールドには銃弾が当たった。全く弾が見えなかった。榛名がエネルギーフィールドを展開してくれなかったら確実に当たっていたに違いない。

 

「い、今の攻撃は…………!?」

〔あれはレールライフルです。悠助さんのレールキャノンを手持ちにしたようなもの、もしくはハンドレールキャノンを小型化したもので、破壊力に関しては狙撃銃と同じと考えてください!〕

 

その奇抜なデザインに反して、とんでもない武器である事を榛名から教えられた私は、絶対照準を定められないように複雑な軌道を描くように動き始めた。榛名から言われたのもあるけど、あれに当たったらまずいと何かが訴えている。多分、蒼龍でも装甲が割れるかもしれない。早くこの状況をなんとかしないと…………!

 

「バリアフィールドばかり張っていては勝てないぞ!」

「そんな事…………私が一番分かっているよ!!」

 

何故か弾丸が通ってくる道が見えてきた私は、その道を避ける最小限の動きでレーアへと迫って行った。当たるか当たらないかの位置をギリギリで掠めていく弾丸。どうして見えるようになったのかはわからない。あの日、最大出力限界負荷機動(オーバードライヴ・フルバーストモード)を何かをトリガーとして起動した時から、人の想いや、数瞬先の未来が見えるようになったと思うんだけど…………その前もさっきと同じような事は起きていたんだよね。どうしてそうなったのか、今度束さんに聞いてみようかな。

 

「馬鹿なっ! 今の弾は確実に当たるコースだったはずだぞ!? やはり、ただ者じゃないな、お前は!!」

 

私が弾を避けた事に驚くレーアだけど、どうやらそれが彼女の魂に火をつけたみたいで、より一層過激な攻撃をしてきた。その為未だに不利なのは私である事に変わりはない。一体、この状況を変えるにはどうすれば…………!

 

〔一夏! ここは試しにブースターをキャノンモードに変更しましょう! 速度は落ちますが、攻撃力は上がります!〕

「わかった! そっちの制御は任せるよ! あと、ブレードビットは戻しておいて!」

〔はい! 榛名におまかせください!〕

 

ちょうど腰の辺りにキャノンモードとなったブースターが配置される。他にもクローとして機能するブースターは、先ほどまでエネルギーを放出していた時の姿とは違って、そのカニのハサミのようなパーツを閉じ、まるでレーアの持つレールライフルと似たような姿をしていた。

 

〔主砲! 砲撃開始っ!〕

 

榛名のその声と共に、濃い桃色のビームが左右交互に放たれた。その太さはブレードライフルのビームよりも何倍も大きい。ビームはレーアを掠めて、アリーナのシールドに直撃した。

 

「ぐうっ…………! まさかここまで破壊力があるとはな…………!」

 

けど、掠めただけなのにレーアの左肩に装備されているブレードベーンは綺麗に吹き飛ばされていた。…………一体どんな破壊力を持っているだろう…………?

 

〔初弾、夾叉! 第二射、てーっ!〕

 

…………そして、何故か榛名がノリノリで砲撃しているんだよね。確か、榛名って戦艦の魂を受け継いでいるとかって悠助が言っていたから、多分その一面が出ているんだと思う。普段、少し子供っぽい榛名からは想像ができないよ。

そんな事を考えている間にレーアとの距離を詰めた私はブレードライフルの刀身を展開、彼女が持つ武器を吹き飛ばすように振るった。

 

「なあっ!? 武器だけを吹き飛ばしただと!?」

 

大剣の腹を当てるように振るった結果、レーアが構えていたレールライフルを吹き飛ばした。その事にレーアは物凄く驚いているみたいだけど…………ここまで綺麗にできるとは私も思っていなかったよ。

 

「てやぁぁぁぁぁっ!」

 

その場で一回転するように、トンファーブレードを振るって、そのままウィングブレードで斬りつけた。接近戦に持ち込めばこっちにも勝機はある!

 

「ぐうっ…………! そう何度も、やらせるかぁっ!」

 

振り返る勢いでブレードライフルを振り上げたけど、レーアが取り出した大剣にその一撃を受け止められてしまった。まずい! 蒼龍は一撃離脱戦法(ヒット・アンド・アウェイ)を基本とする高速近接戦闘型。だから、切り結んで単純な力比べとなるとこちら側が不利になる。

 

「くうっ…………! 私だって、負けられないんだぁぁぁぁぁっ!」

 

私はもう負けたくなんかない。そして、弱かった頃の自分と決別したい。きっと私がまだ弱かったからあんな夢を見たのかもしれない。だから、今はこの戦いに勝ちたい!

 

〔シザークローモード、起動!〕

 

私が蒼龍思った時、榛名が追加ブースターをシザークローモードへと変形させる。先程までカノンモードだった砲身は展開し、カニのハサミのように大きく開いて、レーアの左腕と右脚をがっちりとつかんでいた。

 

「し、しまっ——」

 

レーアは必至にもがいて逃げようとするけど、クローが押さえつける力の方が強いのか、全く動けずにいる。

 

「これでぇぇぇぇぇっ!!」

 

私はトンファーブレードを折り畳み、代わりにアームカノンを彼女の胸にめがけて放った。マシンガンと同じ速度で放たれるビーム弾はスティレットのシールドエネルギーを喰らい潰していく。チャージされているエネルギーがものすごい勢いで減っていっている。それでも、心の中で引いた銃爪から指を離さなかった。

 

「…………一夏」

 

チャージしていたエネルギーが切れ、カチカチと音を鳴らしているアームカノン。息が上がっている私に、レーアの落ち着いたような声が響いてきた。

 

「お前の勝ちだ…………」

 

 

 

 

 

「レーアが墜とされたんですか!?」

「他人を気にしている余裕があるのかよ!!」

 

一夏がレーアを倒した事に動揺していたエイミーに向けてガトリングガンを放つ。だが、弾の切れた二連装機関砲の代わりに展開した物理シールドによって防がれてしまう。36㎜弾の破壊力は戦車の上面装甲を突破可能、そして人体なら霧散するというものだ。今の所耐えているようだが、おそらくそれもいつまで持つかわからないだろう。現に、直撃した所は派手に抉れているからな。

にしても、いつまでもあのシールドが邪魔でエイミーにダメージを与えられていない。俺は迷いなく多目的砲を放った。203㎜という重砲クラスの砲弾が物理シールドを一撃で破壊した。元よりガトリングが当たったところから劣化していたんだろうけどな。

 

「おらおらおらァッ! ケツ捲くって逃げてんじゃねえ!」

「無理無理無理無理!! というか悠助さん怖すぎますよ!!」

 

エイミーはそう言いながらも俺に向かって八発の小型ミサイルを放ってきた。複雑な軌道を描いて飛来してくるそれらだが、イレイズド・セカンドを襲撃した時と比べたらまだまだマシだ。というわけで頭部近接防御機関砲による迎撃を試みる。今まで雑魚や生身の人間を始末する為に使っていたこの武装がようやく本来の近接防御機関砲(CIWS)として役目を果たしたな。八発という割と少なめのミサイル共はあっさりと始末したのだった。てか、5.56㎜にしては破壊力あるな、これ。

 

「それ、CIWSだったんですか!? 今まで対人機関砲だとばかり思ってましたよ!!」

「本来は近接防御機関砲なんだから、たまにはこういう風に使ってやらねえとな!!」

 

脚部ミサイルコンテナを解放、そこから両方合わせて十八発のミサイルを放つ。お生憎様、こちとら爆装しているにも等しい量のミサイルやらなんやらを積み込んでいるからな。弾薬費は束さん持ちらしいし、盛大に撃ってやるぜ。

 

「その程度ですか!」

 

だが、そのミサイル群はエイミーが取り出した大型のライフルらしき武器によって大半が落とされてしまった。放たれたものを見ればレーザー兵器であることは間違いないんだが、いかんせんあのような武器を俺は見たことがない。新作兵装かなんかか?

 

〔どうやらあの武器はセレクターライフルというらしい。メインコンポーネントを共通化する事で、戦場において武装を簡単に変化させることが可能なようだ〕

「くそ厄介な兵器だな!」

 

つまり、あの武器単体で実弾もレーザーも放てるというわけか。しかしだ、武器がでかすぎるのか知らんが、エイミーの身長を遥かに超えるサイズとなっている。そのせいでエイミーの身長の小ささがより一層際立っているのだ。

 

「このまま一気に攻めさせてもらいます!」

 

左手にブルパップ式のアサルトライフルを展開し、右手に構えた件のセレクターライフルの銃身を今度は肩越しに担げるように変形させたエイミーは俺に向かって攻撃を再開してきた。弾速からしてアサルトライフルは軍用のISでは平均的なサイズの36㎜弾。一方のセレクターライフルは大口径のレーザーライフルだ。このところ光学兵器は相手にしてなかったからどう動けばいいのやら。

銃弾と緑色レーザーを避けつつ、多目的砲に装填したキャニスターを放つ。基本的には密集した歩兵共に叩き込む砲弾だが、ショットガンよりもそこそこ射程があるため回避機動中に撃つ分には勝手がいいのだ。

 

「そう簡単に俺がさせると思ってんのか!!」

 

アサルトライフル下部120㎜滑腔砲にAPFSDS弾を装填、左右交互に放った。追加ブースターによる強引な軌道変更と重量増加による慣性制御が高難度化したため、照準は正確に定まらないが、それでも今は構わない。むしろ、現行の主力戦車主砲と同じ口径の砲弾がランダムで飛来してくることで、それなりに恐怖を植え付けることができるからな。

 

「思ってませんよ! それでも、この機体の優位性を示すには、レーアが落とされた今では、悠助さんに善戦するほかないんです!!」

「なんならもっと本気でかかってこいよ! こんな生温い攻撃じゃ、俺に善戦どころか、一撃も入れられねえぞ!!」

「そんなこと…………否が応でもわかってます!!」

 

エイミーは左肩から大型のバズーカらしきものを展開する。そして放たれたのは極太の緑色レーザーだった。おいおい、また光学兵器かよ…………あの機体、どれだけ機体出力高いんだ?

 

「その程度、当たるかよ!!」

 

だが、でかい砲身を向けられている以上、慣れちまえば避けることは可能だ。俺はレーザーを交わすようにバレルロールをし、両肩部三連装ホーミングミサイルよりクラスター弾頭を選択、全部で六発放った。中に詰められている子弾はハルバードに詰められている奴ほど威力は無いが、それでも40㎜HE弾と同じ破壊力は有している。それが一発につき十二発詰められている。おまけに分裂した後の残りの弾頭も通常弾頭となっている為、総合的に七十八発分のグレネードが襲いかかることになる。歩兵陣地にぶっ込んだら敵さんは壊滅的被害を受けること間違いなしだ。

 

「いいか、撃つってのはこうやるんだよ!!」

「本当、相変わらず可笑しい火力ですよね!?」

「可笑しくて上等! この程度でビビってケツが引っ込んだら終わりだぞ!!」

「私には引っ込むものがありませんよ!!」

 

…………あれ? 俺なんか言っちゃまずいことでも言っちまったか? その証拠にエイミーが若干逆ギレしてる。何故なのかはわからない。こんな会話、戦場じゃ四六時中聞こえてきたからな。しかしだ、彼女が謎の逆ギレを起こしたことで、攻撃の精度が若干粗くなっている。そのせいで弾道を予測できない。それに、これ以上この戦いを長引かせるのも俺としてはやめておきたいものだ。TB型の異常なまでにピーキーな性能をこれ以上抑えつけるのは無理だろうからな。

一度距離を大きく取り、回避行動を取り続ける俺はTB型の全武装のロックをエイミーへと集中させた。初期に表示されるマーカーが全てウェアウルフへとかかっていく。もう、この一斉射撃で終わらせてやろう。

 

「こいつで終いにしてやるよ!! 全武装(オールウェポン)一斉射(フルバースト)!!」

 

240㎜APFSDS弾、203㎜焼夷榴弾、120㎜APHE(徹甲榴)弾、25から36㎜のAPDS弾、40㎜HE弾、小型重力子ビーム弾、そして総勢百十八発のミサイル群。全身に仕込まれたありとあらゆる火器を放つ様は圧巻の一言に尽きるだろう。しかも、撃った際の反動は追加ブースターと元からあるスラスターで相殺できている。火力ではおそらくDアームズと同等かもしれない。武装の総数ではこちらの方が圧倒的に多いしな。

 

「た、単機でこの火力とかあり得ませんよぉぉぉぉぉっ!?」

 

そして、その総火力をまともに食らったエイミーは爆炎を通り越して火球に包まれた。それでもなお爆炎に向かってミサイルやら砲弾やらが撃ち込まれてくのだから、最早オーバーキルになるんじゃ無いだろうかと不安になる。

一斉射撃が終了し、爆煙が少し晴れると、片膝をつき、装甲の至るところを破壊されたウェアウルフの姿を確認することができた。バイタルではエイミー自身への怪我は一つも無い模様。それはそれですごいが。普通、あの爆発なら並大抵のISは絶対防御も突破されて操縦者にも被害が出るはずなんだがな。あの機体は操縦者の生存性が高いようだ。

 

「…………も、もう、降参でーす…………きゅうんっ」

 

だが、衝撃までは耐えられなかったのだろう。彼女は目を回してそのまま気絶してしまった。ここが戦場だったら命は無いだろうが…………まぁ今はいいか。それに、なんだかんだで最後まで俺に食らいついてきたからな。もう傭兵として生きていくには十分なくらいの技能を身につけられただろう。元米軍な訳だしな。

 

「全く、こっちはド派手にやられたようだな…………」

 

そう愚痴りながらもどこか満足そうな顔をしたレーアが来た。よく見れば肩のブレードベーンが吹き飛ばされ、胸部装甲も幾多もの弾痕がある。一体一夏はどんな攻撃をしたんだと気になるな。弾痕って、あいつは基本近接攻撃が主体だろ? 射撃は控えめに言っても苦手だったはずだ。まさかの至近距離射撃か? それにあの弾痕から推測するにアームカノンのものと思われる。そう考えるとあいつも思い切ったことしたなと思う。

 

「そっちも手酷くやられたようじゃねえか。どうだった、一夏の腕は?」

「近接戦闘は最高クラスだ。射撃は正直に言って下手そうだが、その分弾道予測は難しいからある意味で天才かもな」

「そうだろ? 今のところ俺はあいつとやりあったことが無いから俺はなんとも言えないんだがな。で、今あいつはどうしてる?」

「私を倒した後、極度の緊張感から解放されたせいか、疲れたと言って引き上げたぞ」

 

そう言ってレーアは気を失っているエイミーを米俵のように担ぎ上げた。こんなことを言うのはどうかと思うが、レーアもアーミアと同様にそんじょそこらの男よりも男らしいんだよな。というか、エイミーが子供っぽいだけだからか。

 

「それにしても、お互い大変だな」

「何がだ?」

「子供っぽい奴の世話をするってことさ」

「とか言いながら、お前も満更じゃねえんだろ?」

「そうかもしれないな」

 

そう言って互いに笑みがこぼれた。まぁ、子供っぽい奴の面倒を見るのは確かに大変だが、その苦労すら簡単に消してしまう愛しさも兼ね備えているからな。本当、可愛いってのは世界最強の武器なんじゃねえのか。ついついそう考えてしまう。

 

『状況終了、テストは以上で終わりだ』

 

こうして無事に稼働テストは終了したのだった。

 

 

「はふぅ…………疲れたぁ〜〜」

 

自宅に着いたらソファへと飛び込んでくつろぎ始める一夏。相当疲れていたようだ。まぁ、レーアとやり合ったんだからそうもなるか。一方の俺はといえばそこまで疲れてはいない。この程度、中東まで飛んで戦闘して帰ってくるより遥かに楽だぜ。

あと、シャルロット達に今回のデータを送ったら、オーバーホールが必要かもしれないと嘆いていた。尤も、俺らRATナンバーに中破一歩手前で耐えたから良しとするとかなんとかとも言っていたんだがな。

 

「でもよ、レーアに勝ったって言うじゃねえか。嬉しいことなんじゃねえの?」

「でもでも、レーアは元気そうだったのに、私はこんなにもヘトヘトなんだから、なんかそういうところで負けた気がする〜〜」

「そいつだけは、実戦経験の差だからどうしようもねえだろ」

 

どう足掻いても埋められない差があることに一夏は悔しさでも感じているのか、ソファの上で足をばたつかせている。その度にスカートの中が見えそうになってしまうのだが…………ここは煩悩をジェノサイドして耐えるとしよう。ついでに言うと一夏は家に帰ってきてから私服に着替えたようだ。

 

頭部:ヘアピン、カチューシャ

胴体上部:白のブラウス

胴体下部:蒼のミニスカ

脚部:大腿部中間までの黒靴下(白のライン入り)

 

てか、いつの間に着替えたし。やはり女子というのは私服の方を着ていたいものなのだろうか? 野郎の俺にはよくわからない事だわな。俺なんて上は黒のインナーに下は未だに都市迷彩戦闘服で、デザートイーグルをホルスターに入れっぱなしだぜ。

 

「あ、そう言えば悠助」

「なんだ?」

「終わったら一つ言う事を何でも聞いてくれるって、約束したよね?」

 

…………やっべえ、完全に忘れてた。戦闘に集中していたから頭の中からキレイに吹っ飛んでいたぞ。この事を正直に言ったらどうなるんだろうか? …………良くて拗ねる、悪くて泣き出すかもしんねえ。幸いにも詳細内容を話されてないからいっその事覚えていた事にしておくか。

 

「ああ。で、俺は何をすればいいんだ?」

「悠助は特に何もする事ないよ。ちょっと待っててね」

 

そう言って一夏は立ち上がり、ペン立ての方へと向かった。一体何を俺にするつもりなんだろうか?

 

「あったあった。悠助にするのはこれだよ」

 

一夏が俺に見せてきたのは俺も良く見慣れたもの。耳かき棒だった。という事は…………

 

「お前は俺の耳かきをしたい、という事でいいのか?」

「うん、そうだよ」

「けどな、それじゃお前に得がないんじゃねえのか? むしろこれって俺が得するんじゃねえの?」

「いいの、私がやりたいからやるの」

 

そう言われて一夏に丸め込まれた俺。戦闘中とは立場がまるで逆である。いつもなら俺が丸め込めるんだがな。どうも今日の一夏はいつになく強気だ。

 

「ほら、こっちに来てよ」

 

そう言って俺の真向かいに座り、太ももをポンポンと叩いてくる一夏。ついでに言うと俺も耳かきをしたいと思っていた頃だ。仕方ねえ、ここは一夏の好きにさせよう。大分俺も甘くなったな。結局俺は一夏のもとに向かう事にした。その前にホルスターとナイフシース付きの籠手を外す。こいつをつけっぱなしにしておくと、寝っ転がった時に痛いんだよ。一応材質が黒龍の複合装甲とバスターナックル、対装甲ナイフと同じものを使っているからな。そら痛いわ。

 

「ここでいいか?」

 

俺は一夏の太ももに頭を乗せた。それと同時に俺の鼻には女特有の香りがしてきた。多分、これが一夏の香りなんだろうな。しかし何故だろう、不思議と心が安らぐような気がする。…………どうして束さんが一夏の香りを嗅ごうとしたのか今なら分かる気がするぜ。ついでに一夏の太もも柔らけえ。極上の枕だ。

 

「うん、大丈夫だよ。それじゃ始めるね」

「ああ、宜しく頼む」

 

俺の耳に耳かき棒が挿入された。もう何度もしてもらっているわけだが、それでもやはり少し強いのか、ちょっとずつしか取っていかない。だが、それでも気持ちいいものだから、自然と全身の力が抜けていく。

 

「どう? 気持ちいい?」

「ああ。最高だよ」

 

今度は綿棒に変えたのか、擦り付けて取っていくような感じだ。柔らかい当たりがより一層俺の眠気を誘ってくる。

 

「ふぅー…………ふぅー…………」

 

おそらく仕上げに入ったのだろうか、軽く息を吹きかけて耳カスを吹き飛ばしている。この耳に息が吹きかかる瞬間、なんとも言えない快感に襲われるのだ。ただでさえ抜け始めていた体の力がさらに抜けていった。

 

「こっちの方は終わったよ。向きを変えてもらっていいかな?」

「ああ、了解した」

 

一夏に言われたように頭の向きを変えて、今度は右耳を彼女へと向けた。その時、俺の顔は一夏の体の方へと向いている事に気がついた。心臓の鼓動はより一層強くなる。だが、それよりもさらに一夏を近くに感じている事が、謎の安心感を俺に抱かせてくれた。

 

「ふふっ、こうして悠助の耳かきをしていると、なんだか頼られている気がしてとても嬉しいんだよね〜〜」

「ほう、そうなのか。なら、これからも頼むとするわ」

 

別にこれだけを俺は一夏に頼っているわけじゃない。俺は殆ど家事が出来ねえから、それを一夏に全て任せっきりなのだ。俺が出来るのは、戦って、カネを稼いで、今の生活を食いつながせる事だけ。それ以外は一夏がやっている。つまり、俺の生活は一夏によって支えられているわけであり、こうして今も傭兵として働けるのも一夏のお陰なのだ。だから、言葉にはしないが、いつも一夏を頼ってばかりなんだ。

 

「わかったよ。それじゃ、続き始めるね」

 

右耳に耳かき棒が挿入された。先ほどと同じ、優しいやり方だ。ほどよい力加減が疲れた体に効いていく。正直、これほど気分のいい耳かきをしてもらえる俺は、世界一の幸せ者だ。

 

「あ、大きいのあったよ」

「マジか。どんだけ取れるんだ、俺の耳カスは」

「私としては、やりがいがあって楽しいけどね」

 

そこそこ大きいやつが剥がし取られた感触が伝わってくる。にしても、気持ち良すぎる。あまりの気持ち良さに強烈な睡魔が襲ってきやがった。だがしかし、ここで眠ればあの快感を楽しめなくなる。ここは意地でも起きてやるぞ。

 

「じゃ、また綿棒で拭き取るね」

 

しかし、そうやって意識を保とうとしたが、強敵が現れたのだった。いや、あの綿棒は反則じゃねえか? めちゃくちゃ気持ち良すぎるんだが。いざ拭き取り始められると、先ほど以上に優しい当たりがさらなる眠気を呼んできやがる。そろそろ限界じゃねえか…………?

 

「ふぅー…………ふぅー…………」

 

…………あぁ、もうダメだ。この天使は確実に俺を落としにかかってきている。逃れる事は決してできない、この母性溢れる俺の彼女の優しいが強烈な攻撃は俺に多大なダメージを与えていく。

 

(やっべえ…………真面目に眠気が…………)

 

俺の天使は本当に最強だぜ。気がつくと意識がどんどんと有耶無耶になっていく。この瞬間、俺は一夏に白旗を上げていたのだった。

 

 

 

 

 

「悠助、耳かき終わった——」

 

悠助の耳かきを終えた私は、そう彼に伝えようとしたのだけれど、

 

「…………」

 

どうやら寝ちゃったみたいだ。そんな無防備な彼の姿を見て思わず笑みがこぼれてしまった。私の視界の先にあるのは、いつもの凛々しい顔でもなく、ましてや険しい顔でもない、安らかな寝顔だった。ふと、こんな顔もできるんだと思ってしまう。そして、この顔を見れるのは今この場にいる私だけという、謎の優越感があった。

そう思っていると、突然悠助が私の服を掴んできた。あまりも唐突な事だったので思わず驚きそうになったけど、流石に起こしちゃうのはかわいそうだと思い、なるべく平常を保った。でも、いきなりどうしたんだろう…………?

 

「…………一夏ぁ…………どこにも行かないでくれぇ…………俺を…………俺を一人にしないでくれぇ…………」

 

悠助の目から涙が一筋流れ落ちていた。安らかな寝顔は既になく、どこか寂しげな顔がそこにあった。…………そういえば、悠助ってお父さんもお母さんも亡くしているんだったっけ…………私には一秋お兄ちゃんがいるから血の繋がった家族はいるけど、悠助はもう血の繋がった家族はいないんだよね…………ずっと一人で孤独から耐えていたんだよね…………そう考えると、悠助が御墓参りに行った時、あそこまで取り乱すのも当然の事だよね。

私には鈴達がいたように、悠助にも有香子さんを始めとするこの街の皆が支えてくれていたと思うけど、家族がいない寂しさを紛らわす事にはならなかったのかな…………私は身内が身内だったからよくわからない。でも、悠助が寂しがっていたって事はわかるよ…………だって、そうじゃなかったら、こんな泣きつく事なんてないはずだから。

 

「大丈夫、私は悠助のそばにいるから…………だから、安心していいよ」

 

私は悠助にそう語りかけるように言いながら、彼の頭を優しく撫でた。ちょっと硬めの髪の毛がチクチクとするけど、不思議と触り心地がよかった。悠助は安心したのか、さっきの寂しげな顔は消えて、また安らかな寝顔へと戻っていた。

 

(これじゃ、いつもと立場が真逆だよ)

 

そんな事を考えたらふと笑みがこぼれてしまった。私はいつも悠助に守ってもらってばかりだけど、今この瞬間だけは悠助の事を守ってあげたい。悠助は確かに強いけど、それでも私と同じ人間だから、こんな風に弱いところだってある。それに、悠助の帰る場所を私が守らないといけないからね。そうじゃなかったら、誰が悠助の事を守るの? きっと、それは私にしかできない事だから…………だから、私がやらなきゃいけないんだ。だって、悠助が私の事を守ってくれるように、私も悠助と同じ思いだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

——守りたい、ただそれだけ。




この5ヶ月で思った事

・ここの一夏より可愛い一夏ちゃんがいる

・TS一夏の素体に吹雪(艦これ)とかいけんじゃね?

・鉄血のオルフェンズ二期マジパネェ。

・黒龍のデザイン、ちょい変更。


至極どうでもいいような事でした。
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