守りたい、ただそれだけ(本編完結)   作:ディニクティス提督(旧紅椿の芽)

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第7話

あの試合から数日が経過した。本当に面倒くさい日々だったわ。怠さが全力全開で体を襲ってくるようなそんな感じ。

だってよ、あいつらいちゃもんしかつけて来ねえんだぜ? 特にモップの奴は自分が戦ってすらいねえのによ。あーあ、こんなんだったら一夏に勧めんじゃなかったと真面目に考えてしまうわー。まぁ、今んところ物理的被害はないからいいんだけどな。…………出た瞬間どんなコネを使ってでも社会的に、生物的に、物理的に抹殺してやるつもりなんだけどな。

 

「あ、悠助、おはよう」

 

おう…………俺の唯一のオアシス、一夏だ。本当いい声してるわー。この声で起こされる俺は相当な幸せもんなんじゃねえかな? 世間一般の評価? んなもん俺の知ったこっちゃねえよ。俺は俺の基準で生きる。それが、俺の傭兵暮らしで身につけた生き方だ。

 

「おう、おはようさん。どうする、飯食いに行くか?」

「少し早いけどね。でも、その前にシャワー、浴びてきてもいいかな?」

「ああ、いいぜ。俺はちっと待ってるからよ」

「うん、ごめんね」

「おいおい、そこは謝らなくてもいいんだぞ?」

 

何はともあれ、一夏がシャワールームへと行く。しばし時間がかかるか。俺はサイドテーブルに置いておいた拳銃を手に取る。無機質な殺意の塊、そんな認識でもいいか。武器には意思があるのかもしれんが、その攻撃には意思が宿らぬ無機なるもの。だからこそ、使用者自ら点検してやんねえとな。

一回、簡単にバラして各部のチェック。そして組み立て。後は残弾の確認。まぁ、これは全然撃ってねえから弾が減ってねえんだがな。ま、これでチェック項目は全て完了。拳銃は再びホルスターへと戻す。そして、ホルスターは俺の制服の腰部分に丁度隠れるように取り付ける。これでよし。近接武装? ナイフが左の籠手に常時最高の切れ味で装備されているから問題ねえや。

 

「今上がったよ」

「おう、了か——」

 

一夏の声がしたもんでつい反射的に振り向いてしまった。うん、それ、めっちゃくちゃ愚行じゃねえか。俺、死すべき。

丁度上がりたての一夏。その肌には水滴がまだついているし、髪も少ししっとりして肌に吸い付いている。そして何より、白い肌と火照った赤がいいコントラストに——って、何をじっくり観察してんの、俺は。あー、前にもこんなことあったなー。確か、俺の家に来てすぐくらい…………。

 

「ぴゃんっ!」

 

…………頼む、一夏。そういう感じの悲鳴をあげんじゃねえ。何か、こう、目覚めちゃいけねえもんが目覚めそうで怖いんだよ。どんなものだよって? 知るか、んなもん。知ってたら教えて欲しいわ。

 

「あー、頼む。着替えはシャワールームでしてくれ」

「ご、ごめんなさ〜〜い!」

 

そう言って目にもとまらぬ速さでシャワールームへと引っ込む一夏。…………なんかサーセン。

…………。

……………………。

数分後。

 

「こ、これで大丈夫だよね?」

 

そう言ってちゃんと制服を着た一夏が出てきた。この学校は制服の改造が可能になっているらしいが、一夏はそこまでの改造はしてないらしい。なんとなくパーツ風に言うと

 

頭部:ヘアピン、カチューシャ

胴体部及び腕部:制服ノーマルタイプ

胴体下部:制服ミニスカート

脚部:膝上までの黒靴下、革靴

 

こんな感じだろうか。伝わりにくかったらすまねえな…………って、俺は誰に説明をしているんだ? てか、ヘアピンとカチューシャつけてくれているんだ…………なんだか嬉しい気持ちになってくるな。

 

「そんじゃ、飯食いに行こうぜ」

「うん!」

 

さて、今日も1日が始まりますか。願わくは面倒ごとに巻き込まれない事を祈ろう。

 

 

「さて、何にしようかねー」

「あ、私は焼き魚定食でお願いしまーす」

「んじゃ、俺は生姜焼き定食、大盛りの麦飯で頼む」

「あいよ、ちょっと待ってな」

 

そういうことで現在、食堂。早めに来たからわりかし席は空いているようだ。窓側とか結構空いている感じがするしな。

 

「へい、お待ち。焼き魚に麦大の生姜焼き、上がり」

「おう、ありがとさん。一夏、窓側の席にでも行くか」

「うん。丁度私も行こうかなって誘おうとしてたしね」

 

それぞれの朝飯を受け取った俺たちは窓側の席へと向かう。この席は海を一望できる場所として結構人気の場所らしい。ちなみに俺たちが初日の食堂で座った席はカウンター席である。滅茶滅茶狭え。

互いに向き合うように座る。なんとなくこうするのが恒例化している。隣り合って座るのがなんとなくむず痒いというか、緊張するというか、なんていうんだ、落ち着かねえんだわ。特にカウンター席に座った時なんかそんな感じだぞ。あんとき食ったものなんざ憶えてやいねえ。

 

「じゃ、いただきます」

「いただきます」

 

食事前の合掌をしてから、箸を手に取る。さて、今日は女子の天敵とよく言われる生姜焼きだ。なぜ生姜焼きが天敵かって? 生姜の臭いが口ん中に残るからだとさ。野郎の俺にゃ関係ねえけどな。

とりあえず一切れ口ん中へ運ぶ。おおっ、こいつは旨え。生姜の香りがいい感じに口ん中を支配して、肉の旨味がそこへなだれ込む感じだ。こいつは麦飯を食う箸が進むぜぇぇぇぇぇっ!!

 

「ゆ、悠助? 少しペース自重しないと…………」

「追加もらってくるわ。お代わり自由って書いてあったしよ」

「…………話聞いてない」

 

俺は次の麦飯を貰うためにも一度カウンターの方へと向かう。

 

「おばちゃん、お代わり頼む」

「おっ、いい食べっぷりだねぇ。特別に特盛りにしてあげるよ!」

「ありがとさん。おばちゃん、気前いいね」

「いやぁ、女って食べない生き物だから作ってもアレだからね」

「あ、そゆこと」

 

そんなこんなでIS学園食堂のいろんな話を聞かされることになった。タメになる知識や裏トークとか様々な。

 

 

 

 

 

悠助がご飯のお代わりをもらいに行った後、急に人が増えてきた気がした。丁度そんな時間帯だからかな。そんなこと気にせずに私は食べるんだけどね。まぁ、太らないようには気をつけているし、問題はないんじゃないかな。少し前までは栄養失調寸前まで陥ってたらしいけど。

私は焼き魚をほぐしてひとつまみ、口の中へ入れる。今日はアジだったっけかな? 脂が少なくてさっぱりと食べられるから嬉しいな。流石に悠助みたいに朝からお肉料理はキツイからね。

そうやって、私が朝ごはんを堪能している時だった。不意に一人の女の子が目に入った。珍しい水色の髪の毛。内側にはねている、メガネっ子。どうやら席を探しているみたいだけど、なんだか混んでいるものだから座れなくて困っている模様。丁度私のいる席はまだ余裕があるし、悠助も1人くらい増えても許してくれるかもしれない。

 

「よかったら、ここをどうぞ。まだ空いてるよ」

「…………あ、ありがとう…………」

 

私はその女の子に声をかけて、こっちによんだ。すると、小声ながら、ちゃんとお礼を言ってきた。律儀なんだね、私の場合、こうやって譲る事が当たり前な時期もあったしね。くじ引きの順番なんていつも最後だったし。

 

「…………! あ、貴女、お、織斑一夏!?」

「あ、うん、そうだけど。どうかした?」

「…………貴女のIS、かっこいいよね!!」

「…………はい?」

 

その女の子は私が一夏であることがわかるやいなや、蒼龍がかっこいいとか言い出し始めた。いや、まぁ、私も蒼龍は気に入ってはいるけど、かっこいいというより、美しいの方じゃないかな?

 

「…………あの試合、私は見ていた。貴女の戦いで、そのISは凄く輝いていた」

「そ、そう? 私はまだまだかなって思っているんだけどね」

「…………でも、あの機体を打ちのめしてくれた事に、感謝してる」

 

え? 春十を打ちのめした事に感謝? 一体どういう事?

 

「あのー、あなたの名前は?」

「…………更識簪。四組よ」

「私は織斑一夏…………って、もう知ってるか。よろしくね、更識さん」

「…………できれば簪って呼んでほしいかな」

「うん。じゃあ、私も一夏でお願い」

「…………よろしく、一夏」

 

そう言う簪は、確かに笑顔を見せていた。

 

「うーい、今戻ったぞ…………って、誰その子? 友達か?」

 

丁度ものすごい量のご飯を持って悠助も戻ってきた。簪、唖然としているけど、早速紹介しないとね。

 

「紹介するよ。私の友達の簪だよ」

「おう、一夏のダチか。俺は紅城悠助。よろしくな、簪さんよ」

「…………四組の更識簪、よろしく。って、紅城君!?」

「あ、名前でオナシャス」

「…………ゆ、悠助君? 確かあの機体」

「あ、闘蛇龍? 何、見たいのか?」

「…………うん!」

「うんじゃ、一夏と共に放課後見せるわ。それでいいか?」

「…………勿論!」

 

あはは〜〜、なんだかISの話題で盛り上がっているね。あれ、なんだろケータイにメールが来てる。ちなみにこのケータイは悠助が契約してくれたもの。千冬姉さんは私にこんなもの持たせてくれなかったからね。えーと、それで中身は

 

『いっちゃんヘルプ! また面倒な機体が来たからコア嵌めてゆーくんに送りつけていい!?』

 

…………相変わらずのぶっ飛びぶりですね。それよりも新型ですか…………なんか面倒なことになりそうな気がするよ。でも、悠助に任せると確実だしね。

 

『それで大丈夫だと思いますよ? いつ送るつもりですか?』

 

そうメールを打って五秒後

 

『今日の放課後、ゆーくんに直で!!』

 

早いよ! 二重の意味で!とりあえずいろんな意味で悠助のストレスがたまる予感のした私は、小さく合掌をするのだった。

 

「…………なぁ一夏、お前何に対して合掌した?」

「さぁね…………?」

「…………不安しかねえ」

 

あはは…………それ、強ち間違いじゃないよ、きっと。

 

 

 

 

 

さて、飯も終わって、今から朝のSHRだ。うん、寝たい。正直織斑千冬の顔見るのが怠い。明らかにこっちに敵対してるような顔で見てくるんだぜ? 誰だって嫌になるわ。あー、鉛玉撃ち込んでやりたい気分になるけど自重自重。

 

「さて、クラス代表の件だが、代表は織斑春十に決定だ」

 

おーし、俺らやる必要なくなったぞ。一夏なんか小さくガッツポーズしてるし。いやー、彼処でお話してて正解だったわ。

 

「ちょ、ちょっと待ってください!! 僕は負けたはずですよ!?」

「あー、それ? 俺ら辞退したから」

「なんだとっ!? お前には誇りとかはないのか!?」

 

俺に突っかかってくる天才君(笑)。なんか睨んでくるけど全然怖くないんだよねー。いっそ睨み返してやろうか? 一人二人は失禁するかもしんねえなぁ、ギャハッ。…………っといけねえ、キャラがぶれるところだった。

 

「いやー、本当はさ、やる気なかったんだよねー。それだけどよ、推薦されるわ、あまつさえ他薦されたら奴の拒否権剥奪されて強制試合、他薦されるはいいとして、それ以外人権無視じゃねーか。俺そういうのの元で動くの嫌いだし。あと、誇りとかって何? 持ってるだけで飯食えんの?」

「こ、この野郎…………!」

「とゆーことで、俺は代表やりません。以上」

 

吐けるだけの毒を吐き散らして、天才君(笑)を轟沈させる。こうでもしておきゃなんとかなるだろうさ。

 

「とにかくだ、クラス代表は織斑春十、いいな?」

 

そういうと織斑千冬は退室していった。その後を山田先生がため息をつきながらついていく。…………ご苦労様です。

 

 

特に特筆するような授業なかったので、一気に放課後へ飛ぶぜ。…………そんでもって俺は誰に説明しているんだろうか。たまにそう考えることがあるんだよな。

そういうことで、俺と一夏に追加して簪は現在アリーナの格納庫に来ている。まぁ、ちょっと点検くらいはしておきたいし、蒼龍のメンテナンスは俺の管轄になるだろうしな。

 

「よし一夏、蒼龍をハンガーにかけてくれ」

「えっと、駐機状態でいいんだよね?」

「ああ」

 

俺がそういうと、蒼龍をハンガーに駐機状態でかける。駐機状態で降りると、丁度胸部のブロックが解放された状態で固定される。駐機状態を解除するにはそのまま乗ればいい。

さて、メンテナンスをするとしますか。機体の各部装甲を開いて中の部分にメンテナンスディスプレイから伸びるコードを差していく。まぁ、そんなに使っていないから損傷もないし問題はないか。

 

「お、武装が幾つかあるな。一夏、説明するか?」

「それじゃお願い。簪もなんだか気になっているみたいだから」

「…………! …………! (コクコク)」

「はいはい、そんじゃいくぞ。ただブレードライフルとトンファーブレードは省くぜ。まずはビームサーベル。まんま粒子ビームの剣だな。腰に4本ほどマウントされているぜ。次がウィングブレード。ブースター周りに固定装備されている。羽根の部分だな。すれ違い様に切れっていうもんだ。そのブースターにはブレードビットが付いている。自立兵器だ。まぁ、こいつは蒼龍のAIがしてくれるっぽいからいいか。両腕には固定兵装でアームカノン。連射力のある小型ビーム兵器だ。後は、ハンドバスターソード。俺のバスターソードを一回りくらい小さくしたもんだ。取り回しは良さそうだ。二本装備されている。こんなもんかな」

「…………す、凄い…………!」

「そんなに武器をどう使えというのかな?」

 

それには俺も賛成だ。明らかに近接戦闘に偏りすぎだろ! なんだよハンドバスターソードって!? どう考えても俺のバスターソードと同じくらい破壊力あんだろうが。…………俺ん家の格納庫にあるものは世界に喧嘩でも売るつもりなのか? あ、そういやまだ何機か奥にあったよな…………第二ブロックに。戦争がおっぱじまりそうな予感するわ。あー、そう考えたら胃が痛いわ。

 

「どれ、メンテは完了したぞ」

「わかった。それじゃ、戻すね」

 

一夏は蒼龍に乗り込み、機体をペンダントの形へと戻す。次は俺の機体だな。弾薬補充とかまだだったし。

速攻で闘蛇龍を駐機状態にし、弾薬補充を始める。消費したのは12.7mm徹甲弾1200発、対暴徒鎮圧用特殊弾35発。バスターソード? 何故か斬れ味最高になってるからいいわ。さて、補充補充。

 

「…………なんか、蒼龍と威圧感が違う」

「そうかな? 私には同じように見えるけど」

「…………あの機体は強い。どのISよりも」

 

なんか後ろでそんな会話が聞こえる。どのISよりも強い、か…………んまぁ、最強はあっても絶対なんてもんはないしな。せいぜい俺は平凡くらいでいられりゃそれで十分だわ。

 

「よっし、弾薬補充終わり」

「お疲れ」

「そんじゃ、いっちょアリーナで射撃訓練してくるわ」

「行ってらっしゃい。気をつけてねー」

「あいよー」

 

そんなやりとりをして俺はアリーナの方へと出る。さて、射撃訓練始めますか。使用武器は…………AISR、対ISライフル。アンチマテリアルライフルのような狙撃型じゃなく、アサルトライフルを大型化してパワーバレルとかをつけたもん。連射力はそこそこ、反動はやべえ、威力は…………擬似コアなら15発程度で沈められる。

 

「…………専用機、か…………羨ましい…………」

 

そんな呟きがふと聞こえたもんだが、対ISライフルの発砲音でかき消されてしまった。

 

 

 

 

 

「…………専用機、か…………羨ましい…………」

 

簪の消えてしまいそうな呟き、それを私は聞き逃すことはできなかった。

 

「簪は一般で入った人?」

「…………ううん、代表候補、日本の」

 

はい…………? か、簪って日本の代表候補生だったの⁉︎ 凄いな…………そういうのになれる才能って。

 

「…………そして、専用機もあるはずだった」

「だった?」

 

その部分が過去形で言われた。え、代表候補生って持っているようなものじゃないの? だって、セシリアだって持っていたわけなんだし。

 

「…………私の機体、打鉄弐式は倉持技研で開発されていた。でも、それはすぐに凍結させられた」

「どういう事…………?」

「…………白式が開発されることになったから。織斑春十が出てから、私の所のスタッフは全員引っこ抜かれてそっちに付きっきり。機体フレームは白式に流され、弐式は開発凍結。私の専用機の話も無くなった、それだけのこと…………でも、私にはそれが受け入れられなかった! やっと、やっと、お姉ちゃんと肩を並べられると思ったのに…………!」

 

そういうことだったんだ…………春十が関係しているんじゃ、私も同罪だよね。

 

「ごめんなさい、私の兄が迷惑をかけて…………」

「…………一夏は悪くない。あの時、織斑春十をボコボコにしてくれたから」

「あ、そ、そう」

 

てっきり責められるのかと思ったら全然違った。てか、朝もこんな感じだからそんなに心配すること無かったんじゃないのかな。でも、念には念って言うしね、う〜ん。

それよりも、酷い扱いだよ。私はここまでひどい目にあったことはないけど、その気持ちはなんとなくわかるしね。

 

「ねぇ、少し話してくれないかな? なんでお姉さんに追いつきたいのかって」

「…………そ、それは」

「いやならいいよ。ただ、私も自分で言うのも変だけど、大変な目にはあったからね」

「…………そうなの?」

「うん。千冬姉さんとは比べられて、身体を蹴られるし殴られるし切られるし、ご飯食べられない日だってあったし、外に放り出されたことだってあるしね」

 

あんまり思い出したくない記憶なんだけどね。

 

「…………私より酷くない?」

「そうなのかな?」

「…………うん。私もね、周りの人からいつもお姉ちゃんと比べられていた。お姉ちゃんはなんでもできるのに、私は普通くらい。頑張ったってお姉ちゃんがいつも追い越していっちゃうから。でも、そんなお姉ちゃんが私は好き。私の憧れだからね」

 

お姉さんが憧れ、か…………私にはわからないかな。その千冬姉さんから酷い扱いされていたし。憧れどころか、不信感と恐怖しか持てないよ。

 

「…………ある日お姉ちゃんはこう言ったの。『いつか、私を超えて見なさい』って。だから私は頑張った。私の家は色々とグローバルな家だから、お姉ちゃんはロシアの国家代表だから、私も日本の代表候補生になった。そして、後は専用機さえくればって時に…………」

「そうなんだ…………」

 

なんだろう、簪の頑張った道のりを、春十が握りつぶしたように感じてきた。そう考えると申し訳なさしか出てこない。どうしたらいいんだろう…………悠助ならどうするんだろうね。

 

 

 

 

 

「こんなもんか」

 

仮想ターゲットを四十四基撃ち抜いたのち、ブザーがなった。これは制限時間。その時間内でどれだけ正確に早く撃ち抜けるかを競う。俺のスコアランクは四だな。やっぱ上には上がいるわ。ちなみに織斑千冬はランク十四だ。余裕すぎて笑える。逆にセシリアがランク二で驚いた。あいつ、スナイパーなんだろうかな。

さて、一通り終えた俺はピットに引き返そうとしたが

 

『待って、待って!! 撃たないで!!』

 

人参が降ってきたもんだから、つい反射的に対ISライフルを向けてしまった。餌食になることのなかった人参はアリーナの地面へと突き刺さる。あれ? アリーナのシールドはどうなったんだ?

 

「ふっふー、この人参ロケットならば、あの程度すり抜けられるのだ〜〜」

「さらりとオーバーテクノロジー使ってんじゃねえ!!」

 

人参が二つにわかれたその内部から出てきたのは、まごう事なき束さんであった。あ、アカン、なんか凄え胃薬が必要な気がしてきた。

 

「今日はねー、これを届けに来たのだ〜〜」

 

そう言って俺に手渡ししてきたのは緋色のカケラ。間違いない、こいつは

 

「ISの携行形態…………まさか⁉︎」

「…………勝手で悪いんだけど、ゆーくんの家の格納庫からその子を連れてきたの。多分、ゆーくんやいっちゃんの近くにいる人になら起動できるよ」

「いや、勝手というか、やっぱまだあったんだ。ま、いいや。弾薬補充さえなんとかなりゃこれくらいはな」

「ゆーくん、太っ腹ー! 束さんから愛のキッスを——」

「あ、そういうの要らないんで」

「ぶー。いけずー。あ、あとその詳細データをあのデカメロンせんせに渡しておいたからねー。じゃ、ばいびー」

 

で、デカメロンせんせって、山田先生だよな? 明らかにある部分を特定していっているとしか思えないわ。そういうと、まるで逆再生のように戻っていった。少々不安になった俺は、何もない空へ向けて一発放った。すると、途中で弾が弾かれる。うむ、シールドはちゃんと復活したみたいだ。束さん、こういうことはしっかりとやる人だからな。

さて、問題は

 

「こいつ、だよな…………」

 

俺の手の中にある緋色のカケラ。どんな機体かは俺は全く知らない。ただ、誰に渡すか、それを考えなければならないと、俺は思った。まぁ、とりあえずはピットに戻るか。

 

 

ピットに戻るとなんだか、お通夜のようなムードが流れていた。な、なにが起きたんだ? 俺には全くをもってさっぱりわかんねえ。とりあえず闘蛇龍を展開解除して、と。

 

「あ、あのー、お二人さん? 一体何があったんだ?」

「ゆ、悠助〜〜」

「な、なんだ?」

 

突然一夏が俺を呼んだと思ったら、その顔が半泣きに近い状態だった。だから何が起きたんだよ!?

 

「じ、実はね——」

 

えー、話を聞く分には、春十のせいで簪の専用機が開発凍結されて、姉に追いつけないと…………。なんか、聞いてると周りの人間がマジでクソな感じしてくんな。てか、その姉ってさ、いい感じに成長の壁になろうとしてんのな。なんかこういうのを見ると応援したくなるっつーの。

 

「つまり、専用機さえありゃいいんだな?」

「そ、そうだよね?」

「…………うん」

「なんでもいいんなら、一機あるわ」

「「…………え?」」

「さっき束さんから預けられてな、ほら」

 

そう言って俺は緋色のカケラを見せる。すると、少し表面が淡く光りだした。これは間違いない、誰かを選んだ証拠。俺と一夏はすでにあるから違う。だから、

 

「簪、お前に託す」

「…………わ、私でいいの?」

「こいつがお前を選んだ、ならお前しか扱えねえだろうさ」

「…………わかった」

 

そういうと簪は俺の手から緋色のカケラを受け取る。しかしどんな機体なのか、俺は全く持って知らない。ということで、メンテナンスディスプレイをスタンバイさせる。

 

「…………おいで」

 

簪がそう呟いた瞬間、その機体は姿を現した。ところどころに目立つ緋色の装甲、頭の特徴的な4本のブレードアンテナ、膝の装甲は見ようには羽根、背中からは二つのコンテナのような物が見える。

 

「悪い、ちょっとチェックするぞ」

 

その機体にコードを差して、メンテナンスディスプレイにデータを表示させる。

 

「RATX4-03 緋龍。武装は両腕部内臓連装アームマシンキャノン、ビームガン二丁、ビームサーベル二本、ミサイルランチャー、ビームキャノンコンテナ二門…………重武装もいいところだ全く」

 

その機体、RATX4-03 緋龍は普通じゃない程のビーム兵器にミサイルを装備していた。しかも格闘兵装もしっかり装備してるし…………親父たちは本当に戦争始める気だったのか? てか、蒼龍と同じ型番…………ってことはRATX4-02とかRATX4-04とかも存在するのか!? どんなことになるんだよおい…………。

 

「どうだ、気分とか悪くないか?」

「…………好調、むしろ今ならなんでもやれそうな気がする!」

「よかったね簪。これから訓練頑張ろ!」

「うん…………!!」

 

そういう簪の顔に曇りなど一切残っておらず、一夏と彼女の笑顔を合わせてとても眩しく見えたことをここに記そう。ただ、この後の訓練で、緋龍と蒼龍の速さに俺が付いて行けなかったのは仕方ない。だって、防御型の二倍の重量だもん! てか、防御型と同じ重量であの速度がでる二機の方がおかしいんだよ!

 

 

 

 

 

「よし、これはこれでおわり…………次の書類は——って、えぇぇぇぇぇっ!?」

 

職員室で真耶は驚きの声をあげていた。何故なら、更識簪が専用機を持つと篠ノ之束印のハンコで押された書類に書かれていたのだから。しかも、真耶に処理しろとの命令付きで。

 

「わかりました…………あの魔の手から守るために、先生、尽力します!!」

 

その日の真耶のやる気を見たものは、皆即発され、仕事へと没頭し始めるのだった。

 

 

 

 

 

「ここにいるのよね…………一夏! 私がきたからには、絶対に守るからね!」

 

夕暮れの頃、少女が一人校門の真ん前でそう宣誓した。彼女はその決意を特にない胸に「ぶっ殺すわよ?」…………胸にしまうと、校舎へと向かって駆け出していくのだった。

 

「…………ところで、総合受付ってどこよ?」

 

…………今ひとつ締めが悪かった。

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