守りたい、ただそれだけ(本編完結) 作:ディニクティス提督(旧紅椿の芽)
さて、とうとうあの日を迎えることになった。どの日かって? クラス対抗戦の日だ。IS学園の主要行事の一つだ。今年はなんでも日程変更とかを使いまくって、一学期の四月、五月、六学、七月にそれぞれ一つずつ行事を仕込んだようだ。クラス対抗戦は四月の分。全く、面倒にも程があるぜ。
「ねぇ、なんだか険しい顔してない?」
「ん? 気のせいじゃね? それよりも一回戦、楽しみだな」
「そうだね。簪が出るんだもんね」
観客席で普通に観戦することにした俺らはのんびりと試合が始まるのを待っていた。ちなみに本日は飲食が可能。ということなので
「一夏、プリ○ツ食うか?」
「サラダ味なら食べたいかな?」
「安心しろ、サラダ味以外俺は食えん」
「それじゃあ、一本ちょうだい」
こんな感じに菓子を食うことだって可能だ。俺はプリ○ツは普通に好きだからな。あの塩加減とかが俺の好みに合うんだわ。って、そんな事はどうでもいいか。
「それにしても、簪出てくるの遅いね。対戦相手はもう出てるよ」
「本当だな。何か機体トラブルでも…………いや、それはねえか。RATナンバー…………俺らの機体は一度も動作不良を引き起こしてねえし」
「そうだよね。じゃあ、なんなんだろう?」
「人為的ななんかか?」
もし仮にそうだとしたらかなり面倒くさくて厄介な事じゃねえの? できればそういうことは引き起こしてほしくないんだが…………まぁ、やらかしかねん元凶が、この学園には潜んでいやがる。それも、超絶面倒な奴がな。
「試しにピットに行ってみるか?」
「行けるの? 試合前なのに?」
「ダメでも、強行突破すりゃ問題ねえ」
「結局、そうなんだね…………」
ということで、簪のいる方のピットへと向かうことにしたのだった。さて、どんな面倒事が引き起こされているのやら…………胃薬がマジで必要になってきたぜ。
(はぁ…………)
私は内心ため息しかついていない。というのもだ、今目の前に面倒な人間がいるからだ。
「その機体、情報が一切ない上に、学園への申請もない。よって貴様には訓練機で試合してもらう。また、その機体は渡してもらうぞ。いいな?」
織斑千冬。私の可能性を潰した織斑春十の姉で、世界最強。そして、この学園の教師。みんなからは慕われているようだけど、私は嫌いな方の部類に入る。まず、この命令口調な感じが嫌い。いかにも自分が頂点にいると思っている。こんなの、お姉ちゃんに負けちゃえばいいのに…………絶対、お姉ちゃんのほうが何倍も強いと思う。
「…………申請書は提出しましたが?」
「そんな嘘をついてもダメだ。現に私が見てない。IS関連の情報は私に回ってくる手筈になっているんだ」
それもそのはず。私が出したのは、この学園で唯一信頼を置いている、代表候補生の先輩である山田先生。そういう話になっていると悠助から聞いている。だってそうしないと、この教師の餌食になる。具体的には職権乱用による不当な扱いなど。
「念のためだ。私も学園を預かるものとして確認する義務がある」
「…………お断りしますよ」
このままいっても、話は平行線で続くと判断した私は、緋龍を展開、カタパルトに乗る。緋龍に乗っている時、私はなんとも言えない安心感に包まれる。まるで、緋龍が私を抱いているかのように。
「何をしている。さっさと機体を解除しろ、命令だ」
「…………嫌ですね。そうやって人の道を邪魔するしかできないんですか、貴方は」
「ほぅ、教師に向かって舐めた口をきくものだ。では、それ相応の処罰を受けてもらうとするか」
「——させっと思ってんの?」
そう、聞き覚えのある声が聞こえた。出入り口の方を見ると、そこには悠助と一夏がいた。
「何故貴様がここにいる? 関係者以外立ち入り禁止のはずだが?」
「はぁ? 同じRATナンバーの派生機だから見に来ても関係ねえだろ。それに、関係ないんならあんたもそうじゃねえか」
ピットの方へと来てみると、何やら嫌な予感は完全に的中していた。何を隠そう、あの織斑千冬が簪にいちゃもんふっかけていたからな。あー、面倒くさ。なにこいつ、世界最強とかブリュンヒルデを権力とかと勘違いしてんじゃねえの? たかがゴミに捨てられる称号なだけなのによ。
「私にだって関係はあるさ。学園の安全は我々教師が預かっている。所属不明機があれば不審に思うのも仕方ないだろう」
「の割には、機体の譲渡を求めていたようだな。そこまでしていい機体が欲しいのか? …………だったら、さっさと失せろ。この機体はてめえごときが触れていいもんじゃねえ」
俺は腰から拳銃を引き抜き、銃口を織斑千冬へと向ける。弾丸? 9mmパラベラムが入ってりゃ問題ねえだろ。
「ゆ、悠助? さすがに銃はまずいんじゃ…………」
「問題ない。学園側からの許可はもらっている。それよりも、ここから引くのか引かないのか、はっきりしろや」
「っち…………」
織斑千冬は舌打ちをすると、速やかにピットを出ていった。全くもって面倒くせえ奴だ。いっそのこと撃ちたいとか思ったが、自重自重。なんでって? 別に殺すのが嫌なわけじゃねえよ。だって、両手の指より多くの命を頂いてきたしな。てかなにより、一夏にトラウマもんを見せる気にはならねえ。人の頭がザクロになっているのはなかなかにショッキングなもんだわ。
「簪、大丈夫?」
「…………うん。平気」
「時間がねえ。さぁ、思いっきり楽しんでこい」
「…………わかった」
簪はそう言うと前傾姿勢をとる。カタパルトが作動しない今、こうしてブースターを点火して飛び出すしかない。
「…………更識簪、緋龍、出ます!」
そのセリフとともに、緋龍の各部に搭載されたブースターが唸りを上げ、一気に飛び立った。てか、速ぇ。あれって、高機動パックなしだよな? だとしたらあれは機動戦特化の機体なんだろうな…………親父たちはどんなものを残していったんだ、全く。
『これより、三組対四組の試合を始めます』
さて、刮目して試合を見るとしますか。
まず感じたのはなんとも言えない気分の良さ。何よりも速いスピードが私の気分をどんどん高揚させていく。こんな気分になった事はあんまりないかな。
「あなたが四組の代表?」
「…………そうだけど?」
対戦相手からの通信が入ってきた。相手はスウェーデンの代表候補らしい。
「なんだか期待したけど、すぐに終わりそうね」
突然そんな事を言われて、私は戸惑う。一体どういう意味なんだろう?
「そんな昔のテレビでやってたオタク文化の塊みたいな機体に乗っているもの。あの生徒会長の妹って話だからどんなものかと思っていたけど、見当違いだったわ」
はぁ…………やっぱり比べてきたね。そんなのはどうでもいいけど。私にとってお姉ちゃんは越えるべき壁みたいなものだし、それくらい高く見ていてもらわなきゃダメ。でも、私には一つだけ許せない事がある。この機体、緋龍を批難したことだ。まだそんなに付き合いは長くないけど、緋龍はとてもいい機体。そしてなにより、私の目標を達成するのを一緒に頑張る相棒だから。だからこそ、私は彼女の事を許せそうにない。それに、ロボットアニメに出てくるようなISに乗るのが、私の夢だったから。
「…………ふーん、じゃ、倒してみれば?」
「えっ?」
「…………どうせ、倒せないと思うけどね」
私は彼女に向かって挑発をかける。相手のペースを乱して自分のペースに乗せてしまえばいい。そう悠助が教えてくれた。
「このっ、言わせておけば!」
案の定、彼女は怒りやすい性格だったようで、こんな幼稚な挑発に簡単にかかった。本当に、たまに思うんだけど、代表候補生の選考基準に精神の強さも入れるべきだと思うんだよね。
『試合開始』
「速攻で潰してあげる!」
相手の機体は汎用性の高いラファール・リヴァイヴ。開幕と同時にアサルトライフルをフルオートで放ってきた。だけど、
「…………遅い」
この緋龍にそんな柔な銃撃は当たらない。ブースターを点火、一気にその場から離脱し相手の背後へと回る。速度が異常なほど出るこの機体だからこそできること。相手は私が後ろに回り込んだことに気づいていない。
「っ! うし——」
「…………だから、遅い」
私は腕のカバーを開くと、そこからビームを連射する。両腕に内蔵された小型火器、連装アームカノン。単発の火力は低いが、連射力ならマシンガンほどある。私はその銃撃をそのガラ空きな背中へと叩き込む。
「…………さっきの言葉、そのまま返す。速攻で終わらせるよ」
「こいつっ…………!」
アームカノンの放ちながら、相手を中心に円を描くように旋回する。向こうも反撃するため左腕に実体シールドを保持、防御する。アームカノンの単発火力ではあのシールドを突破するのは不可能。
「さぁ、このシールドを破壊できるの?」
「…………やれる」
だけど、アームカノンより火力のある武器はまだある。私は背部のコンテナを前へと向ける。その先端にはビームキャノンが装備されている。緋龍の中で最大の破壊力を持つ武器だ。私は同時に放った。
「うっ、ぐうっ!? な、なによその威力は!?」
威力は抜群だった。現に高硬度を誇るリヴァイヴの実体シールドの表面が溶融している。相手も回避はしたはずだ。掠めただけでこの威力とは…………私はちょっと怖くなった。でも、そんな事を言ってる暇はない。
「…………逃がさない」
私は両手にビームガンを呼び出すと、そのまま二丁拳銃で撃った。反動がほとんど無いこの武器では、照準のブレとかそういうのがない。
「ビーム兵器って…………一体何処の機体よ!?」
彼女が驚くのも無理ない。現在、どの先進国でも荷電粒子砲が限界、それも低出力。緋龍に積まれているのは粒子を利用したビーム兵器。その粒子がどんなものかは知らないけど、ビーム兵器がどの国ででも作られていないという事は確かだ。
「…………教える気はない」
「ならば、力づくで聞いてやるわ!」
そう言うとアサルトライフルを投げ捨て、近接ブレードを取り出した。シールドを前に構えて突撃してくる相手。この距離での対応はギリギリ。でも、何もしないわけにはいかない。
私はフロントアーマーの中からビームサーベルの柄を取り出す。柄を握ると、ビームでできたピンクに近い色の刀身が現れる。
「これでも食らえぇぇぇぇっ!!」
相手が上段から一気に振り下ろす。
「…………やっぱり遅い」
私はその一撃を確実に回避し、もう一度背後へ回る。
「まだまだぁぁぁっ!!」
「…………させない」
振り向きざまに切ってこようとした相手だが、私はその近接ブレードをビームサーベルで弾き飛ばす。弾き飛ばすというよりは、刀身を斬ったという方が正しいかな。相手はグリップの部分だけ持っているわけだし。
「な、な、な…………」
「…………一気に終わらせる!」
狼狽えている相手に、袈裟斬り、切り上げ、唐竹割りを連続で叩き込む。このくらいは普通にできる。そして、派手に態勢を崩したところへ、コンテナ部分に搭載したミサイルを一斉に放った。放たれた十二発のミサイルは相手に全て着弾し、盛大に爆発した。
『試合終了、勝者四組』
その瞬間、喝采が鳴り響いた。一部が物凄く盛り上がっているからズームして見てみると、お姉ちゃんを始めとする二年生の先輩達が応援旗を振っていた。は、恥ずかしい…………あういうの私苦手な事分かっているのに。でも、嬉しいかな。こうやって誰かに褒められる事が気持ちいいから。
相手は気絶しちゃったみたいだけど、救護班が来たしいいか。私はピットの方へと向かった。少し疲れたかな。初めての公式戦だし、緊張もしたしね。悠助や一夏は見ててくれたかな? そんな事がきになる私だった。
「…………ただいま」
「お疲れ。すごかったよ!」
「本当に勝ってきたからな。びっくりだ」
簪がピットに戻ってくるなり、俺たちは賞賛の声をかけた。彼女はそうするに値する事をしたんだ。これを批難しようものなら、そいつらは糾弾されるべきだな。てか、俺が直に粛正してやるよ。物理的会話手段になるけどな。
「…………結構疲れる」
「ま、そいつは仕方ねえ。慣れればなんともなくなるぞ」
実際、二日くらい装備した状態で過ごしたこともあるからな。あれはしんどかった。対物ライフルを構えて塹壕に入って二十五時間耐久なんてもうしたくねえわ。
「…………でも、いい気分になった」
「やっぱり? 空を飛ぶって気持ちいいよね。悠助はどう?」
「さぁ、どうだろうな?」
飛んでいく先々が紛争地帯で、目的が殲滅だから気分がどうたらこうたら考えられねえよ。下手すりゃ、歩兵のロケランシャワーに巻き込まれて死ぬし、擬似コアISにブチ殺されるからな。死と隣り合わせだから、考える余裕もねえんだわ。
さて、ピットの外が少し賑やかになってきたな。音からして借金取りとかみたいに言っている奴らはいないな。
「そんじゃ、俺たちは行くわ。また後でな」
「またね。次の試合も頑張ってね」
「…………うん、頑張る」
俺たちはそう言ってピットを出る。その途中、応援にきた四組と思われる連中と生徒会長の姿を見つけた。いいもんだな、こういうのって。ま、あんまし褒められるような事はしてないから、されなくて結構だけど。
「次は鈴の試合だね」
「ああ、応援するか。一般席で」
「うん!」
一夏はちょっと上機嫌で一般席の方へと向かう。俺はそれを後ろから見ながら向かうことにした。しかしだ
(なんだ、この胸騒ぎは…………)
どうもさっきから胸騒ぎがすんだよな。なにかヤバいことでも起きんだろうか? あまりそういうのは起きて欲しくはねえし、処理すんのも大変だ。まぁ、そうそう起きねえとは思うけどな。だが、保険くらいはかけておきたいもんだろ。
「…………ああ、俺だ。元気にしてるか、"女郎蜘蛛"」
「——なんだよ面倒くせえ。どこのどいつだ、電話かけてきやがったのは…………はいはい」
『ああ、俺だ。元気にしてるか、女郎蜘蛛』
「げっ、お、お前かよ、バレットドラゴン…………」
中東の何処かの国のアジト。そこで一人の女性が電話に出ていた。と言ってもそこに女性らしさなどは一切なく、むしろ男勝りな感じである。相手は
「それで、何の用だ? まさか俺が擬似コア搭載機を掻っ払った事を嗅ぎつけたのか?」
『は? お前、あの蜘蛛は?』
「擬似コアの連中がたかってきたから、コアだけとって自爆よ、自爆。その掻っ払った機体にとりあえずコア嵌めてんだ」
彼女はそう言って笑い飛ばす。だが、実際にはとんでも無いことをしている。ISに搭載された自爆装置の破壊力は、その強固なコアも吹き飛ばすほどの物だ。巻き添えを食らえばまずタダですまない。それが生身なら尚更だ。
さらに言えば、ISコアにはコア適性がある。機体とコアの同調率が低ければ、稼働率は極端に落ちる。それすら引き起こさずに、自爆後も五体満足で無傷でピンピンしている彼女は、ある意味強運に恵まれているといっても過言ではないだろう。
『うひゃぁ…………またやらかしやがったな、こいつ。まぁ、とにかく依頼だ』
「あ?」
電話の先の相手はさらに話を進める。
『どうにもこうにも、俺のいるところがきなくせえからよ、来てくれねえか? 報酬は俺の依頼主に掛け合ってみるからよ』
「マジ? 行くぜ、場所はどこだ?」
『座標だけ教える、面倒なことになりそうだからな』
そう言って電話は切れた。彼女は電話が切れると同時に、準備を始める。服装を平服から対Gスーツへと、頭部にはヘッドギアを装備する。普通の女性には到底似合わない服装だが、彼女はいたって普通に見える。それが何故なのかはわからないが。
「さて、お前の初陣だな」
彼女は振り返り、駐機状態にしてある一機のISに語りかける。
「アメリカの第二・五世代機、その力、俺が直接確かめてやろうじゃねえか!」
そう言って彼女はそのISに乗り込んだ。タンカラーの装甲に、メタリックグリーンのバイザー、滑らかなフォルムに隠されたどこか力強い印象。いかにも自身が兵器であると主張しているかのようなたたずまいである。
「さて、行くとしようぜ、クーガー!」
ブースターを点火させ、一気に飛び立つ彼女。中東の荒野を駆け抜け、彼女が向かう先は太平洋。そこにある世界で最も有名な人工島、IS学園であった。
「さぁ、刺激的なパーティーを始めようじゃんかよ! なぁ、バレットドラゴン!」
「…………俺、とんでもねえ奴呼んだかもしれない」
「どうしたの、そんな頭を抱えちゃって」
「…………いや、こっちの話だ」