皇帝のお気に入りの殺人娘   作:粉プリン

1 / 1
あくまで、暇つぶしだから(震え声)


一話

そこは深い森の中だった。一般人には到底辿りつけないような秘境の奥底、年中日が陰り光の一切届かない黒の土地に古びた洋館が立っていた。レンガで出来た塀には蔦が覆い茂り庭は荒れ放題。だが不思議と不潔な印象は与えなかった。その中に一人の男が入っていった。男はこの館の主に頼まれ街まで買い物に行っていた。街まで片道約二時間。小間使いである自分に逆らえる権利は無いが愚痴の一つでも呟きたかった。そうして屋敷の中を歩きまわり、奥の方にある天井まで比喩なく届く一際大きい扉をノックした。

 

「お嬢様、ただ今戻りました」

 

「入りなさい」

 

中から相変わらず高飛車なそれでいてまだ幼さを残す女の子の声が聞こえる。思いつきで自分を買い物に行かせた挙句感謝の一つもないが、ここでは常識だ。そうやって歯向かった末に無残な死を遂げた小間使いも少なくはないと聞く。せめてここに居る間だけはいうことを聞いていよう。そう思い直して中に入った。部屋の中はこれでもかと言うほど豪奢な造りになっていた。かと言って金や宝石を飾り立てるのではない。

 

全てが透き通っているのだ。

 

床は黒と薄い桃色がかった白のチェック模様のガラス。不思議な事に床の下は空に浮いてるかの様などこなまでも続く暗闇。壁も先が見えない暗闇だが少女が腰掛けているベッドから100m辺りまでは不思議と明るく見渡すことが出来た。部屋の中央には床と同じチェック模様のテーブルと椅子が。少女の腰掛けているベッドは幾何学な形に切り抜かれたガラスを組み合わせた透明でいて存在感を強く主張するものだった。

 

「早くそこに置いて出て行ってくれないかしら?それともあなたには物を置くという原始的な行動すら取れない劣等種なわけ?どうでもいいけどこれ以上私の時間に干渉するのはやめてくれる?」

 

入り口に立っているだけでこのようなことを言われるのだ。男は苛立ちを隠しながらさっさと出て行く事にした。その時

 

カシャン

 

と音がなった。音の方を見ると今し方買ってきた水晶の飾りが置いた衝撃でかけたようだ。これは叱られると思いふと少女の方を見ようとして

 

「アバタ・ケダブラ!」(息絶えよ)

 

突然男の体を緑色の閃光が襲った。その瞬間男は妙な虚脱感を覚えると同時に抗えない永遠の眠りについた。男の体が倒れるのもましてや死んだことにも関心を寄せずに少女が呟いた。

 

「まったく買い物一つまともにこなせないなんてなってないんじゃないかしら。これだから劣等種なのよ。また他のに替えてもらわないといけないじゃない。死んでまで私に迷惑をかけるなんて万死に値するわ!」

 

そう言い再び男のほうを見て呪文を唱えた。

 

「セクタムセンプラ!」(切り裂け)

 

途端に男の体が見るも無惨に切り裂かれおびただしい量の血が床にこぼれ血だまりを作り始めた。だが自分で行った行為に少女はまた激怒した。

 

「そうやって床を汚してまだ私に楯突くのかしら?テルジオ!」(拭え)

 

また呪文を唱えると床の汚れも男の死体も消え、初めからそこにあったかのようにベッドに腰掛ける少女と先の少し欠けた水晶の飾りが置いてあった。

 

「アクシオ」(来い)

 

呼び寄せた水晶の飾りを観察するとやはり先が欠けていた。

 

「レパロ」(直れ)

 

が、やはり呪文を唱えると欠ける前にの状態に戻っていた。

 

「うん!これならいいわね!ずいぶん綺麗な飾りじゃない!」

 

一転して少女は飾りが直ったことに喜びさっきまでの苛立ちや背筋が凍るような冷たい殺気を引っ込めた。そうして少女がおもむろに床に向かって飾りを投げつけた。当然飾りは床にぶつかり先程よりもひどい壊れ方を

 

しなかった。

 

床にぶつかると同時に床が波打ち水晶の飾りをその床下に取り込んだ。すると少女の後ろの辺りから先ほど投げ込んだ飾りが数倍の大きさになって床から生えてきた。見れば他にも床から生えたと思しき飾りがあちこちに点在していた。ちょうど周囲の明るい場所だけを選んで。飾りの場所に納得したのか少女はベッドから立ち上がった。その体には何も纏っていなかった。陶磁器のような一度も陽の光を浴びたことのない白い肌。幼さの中に酷い残忍さを兼ね備えた赤黒い右目と心の奥底まで見透かされるような錯覚さえ覚える青緑色の左目。床に届きそこで終わらずに辺りに散乱し床を軽く覆う圧倒的な長さを誇る銀髪。少女故の未発達なのに見る者に陶酔感すら沸かせる完璧な造形美の身体。その全身を一瞬にして包み込んだ服はどこの誰が考えたのかも分からない物だった。少女には少し早い大人の黒い下着とガーターまではわかるがその上は手と脚に拘束具のような黒い革を巻き、そこに明らかに歩くのに不便だと思われる少女の手のひらほどもある大きさの古びた錠前を掛ける。その上に黒いローブを着込みまた黒い革の拘束具を巻き付ける。更に腰には手足に付けた錠前を10個ほど回すように掛ける。お陰で錠前同士がぶつかり合いガチャガチャと耳障りな音を立てていた。首にも黒い革の拘束具を巻きこちらには透明な硬い金属で出来た鎖をへその辺りまで垂らしている。鎖の先には一本の古びた鍵がぶら下がっていて、それが腰の錠前に当たり騒がしさを助長していた。頭には先端にガラス球の装飾を施した大きなくたびれた三角帽を被り、仕上げに長過ぎる髪の毛を頭ほどの大きさの穴の開いた水晶球で先端を一つにまとめそこに通し下を留めてぶら下げる。不思議と重さは感じられなかった。少女がいきなりこのような格好になったのは意味があった。昨日の朝、洋館の周りにはいるはずのない梟が屋敷の中に迷い込んだ。その梟は手紙を咥えていてそれがなんと自分宛てだった。生まれてこの方誰かに手紙を書いたり貰ったりしたことがなかったため最初は興味が湧いたが中身を読んでその興味も何処かへ失せてしまった。

 

『親愛なるアリアス・ヴァレンタイン・ウォルコット殿

 

この度ホグワーツ魔法魔術学校にご入学が決まりました事心より歓迎いたします。

 

教科書及び必要な参考書はリストにまとめそちらに同封されております。

 

つきましてはこの手紙が届いた次の日の昼、そちらに説明の為お邪魔させて頂く事になります。

 

貴女がホグワーツ魔法魔術学校に入学するその時を心待ちにして待っています。

 

校長アルバス・ダンブルドア』

 

いきなりこんな手紙が届けられたのだ。もらった当初彼女は自分の将来を他人に決められたのに苛立ち、使用人を何人か惨殺したが返り血を浴びた頭で考えた結果、会って話くらいはしてやろうと決めた。せめて自分の行き先を勝手に決めた愚か者の顔は拝んでおきたかった。すると玄関の呼び鈴がなったのが微かに聞こえた。おそらく来たのだろう。しばらく待っているとドアがちゃんとノックされた。ここに住み始めた最初の時期も、使用人がノックをせずにいきなり入ってきた時などは磔の呪文をかけていたのを思い出し小さく嗤った。

 

「君がアリアス嬢かね?初めまして、儂の名前はアルバス・ダンブルドア。手紙にも書いてあったがホグワーツの校長をしておる」

 

「ご親切にどうも。それでそのホグワーツの校長先生とやらが私になんのようかしら?」

 

ダンブルドアに椅子に座るように告げ、自分も反対側に座った。

 

「実はここに不思議な力を使うと言われている子がおると聞いての。君はその力がどんなものが理解してるかの?」

 

「何?初めてあった女性にいきなり説教をするのがホグワーツの教えなのかしら?」

 

「説教ではない。ただ君の力についての見解を聞きたいだけじゃ」

 

「……ふぅん。まぁいいでしょう。特別に聞かせてあげるわ。と言っても聞いても意味はないと思うけど」

 

「どういう意味かの?」

 

「当たり前だからよ。私はこの不思議な力を使えて当たり前。私は選ばれた特別な存在。だからこの力を使って好きなことをするし私にはその権利がある。いや、この力に目覚めたものとしてこの力を使う義務があると言えばいいかしら?」

 

「……ずいぶんと立派な考えを持ってるの」

 

「あら?萎縮してしまったかしら?それはどうもごめんなさい。そういう気遣いには慣れていないの」

 

「構わぬよ、儂も慣れておるからの」

 

「なら良かったわ。それで聞きたいのだけれども何故貴方は私の入学を勝手に決めたのかしら?私は一度も話を聞いたことのない場所になんてこれっぽっちも行く気なんてないわ」

 

「それはそうじゃ。そのために儂が来たのじゃよ」

 

「要するに貴方が私にここに入学するように説得しに来たのかしら?だとしたらお生憎様、今更学校になんて通う気もないし、そもそも学校に行かなくても十分この力は使役できてるわ」

 

「じゃが、一方で危険な面もある。君は杖を使わずに魔法を使ってるようじゃがそれは極めて危険じゃ。杖は儂ら魔法使いにとっていわば友として魔法の補助を手伝ってくれる存在。それを無しに魔法を使えるのは一種の才能じゃが、それでも杖を持ったほうが何かと安全じゃ」

 

「このままじゃいつか私が怪我をするとでも?」

 

「物事に絶対は無い。人が死にまた生まれるように、永遠に変わらないことなど無いのじゃ。君が怪我をする可能性もな」

 

「ふぅん、ご高説ありがとう。それで、満足したかしら?」

 

「そうじゃの、これで後は君がホグワーツに通う事を決めてくれれば大満足じゃの」

 

「しつこいわね、そういう男は嫌われるわよ」

 

「じゃがの、君には魔法使いとしての素質が備わっておる。それも世界を変えることができるほどの物がじゃ。わかるかの?君の意志でその力は善にも悪にもなる。今のこの時期が大切なのじゃ」

 

「……前言撤回する、やっぱりホグワーツに入学するわ」

 

「そうかの?出来ればそう思った理由でもあれば聞かせてくれんかの?」

 

「別に?ただなんとなくよ。あなたの説得はしつこいし、たまには外に出ないと運動不足にも成りかねないし丁度いいわ。暇しないんでしょうね?」

 

「そうじゃな、おそらくじゃが今年は刺激的な一年になると思っておる」

 

「……そう、とにかく私はホグワーツ入学を決めたわ。貴方もさっさと帰ったらどうかしら?校長は暇なはずは無いと思うわよ」

 

「確かに君の言うとおり暇ではないかの。それではそろそろお暇させてもらおう。それと教材の件じゃが」

 

「それくらい一人で買えるわよ。リストやらに載ってるものがどこにあるのかさえ教えてくれれば良いわ」

 

「そうかの?」

 

その後『漏れ鍋』という店の事とその先のダイアゴン横丁への生き方を教えたダンブルドアは、アリアスに電車の券を一枚渡すと礼をして去っていった。アリアスは今さっきダンブルドアから聞いた漏れ鍋の話を紙にまとめるとテーブルの端にある小さなベルを鳴らした。しばらくするとノックの後、使用人と思しき女が入って来た。

 

「何か御用でしょうか、お嬢様」

 

「この紙に書かれてる場所でこっちの紙のリストに載ってるものを買って来なさい」

 

使用人に向かって紙を投げよこし言った。神は使用人名の下まで落ちることなく漂い使用人はそれを掴んだ。

 

「分かりました」

 

一言呟き使用人は部屋から出て行った。後には部屋の主である自分だけだ。アリアスは先程まで来ていた服をひとつずつ丁寧に脱いでいくと再び裸の状態でベッドの中に包まった。近くに置いてある目覚まし時計の時刻を調整し夕食の時刻に起きるようにセットしてアリアスは眠りについた。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

1週間後、アリアスはダイアゴン横丁を訪れるべく漏れ鍋に来ていた。使用人に買い物を頼んだがリストにの一番上に書いてあった杖は、店主が本人に買わせに来いと言ったらしく売ってもらえなかったらしい。随分と上から目線だが、聞くところによると杖は魔法使いが選ぶのではなく、杖が魔法使いを選ぶらしい。それなら自分で買わせるのも理解出来る。理解したとしても納得はしていないが。漏れ鍋の中に入ると中は外から見た時と違って広々とした造りになっていた。おそらく空間に干渉する魔法があるのだろう。バーテンダーをやっているトムに話をすると裏のレンガ塀のところまで連れて行ってもらい、そこで開け方を教わった。ダイアゴン横丁に入ってみるといかにも魔女と言った格好をした人で溢れかえっていた。目線を向ければ鍋屋があったり、薬草店があったりと見ていて飽きない場所だったがあまり人混みの中にいるのは好きではないし通る人がいちいちこちらを見て来たり服装に目が行っていて、いい加減イライラしてきたのでさっさと用事を済ませることにした。奥まで進んで行くと店先に『Ollivander』と大きく書かれた文字の隣に杖が書き込まれた店を見つけた。ここがリストに載ってたオリバンダーの店なのだろう。入ってみると店の中に様々な杖が飾ってあり如何にもな雰囲気を醸し出していた。

 

「おやおや、今度は小さなお客様がいらっしゃったようじゃ」

 

一瞬小さなと言われて舌でも切り飛ばそうと思ったが杖を売ってもらわないとホグワーツに行けないのでそこは我慢した。

 

「杖を探してるのだけど」

 

「お伺いします。杖腕はどちらで?」

 

「杖腕?利き腕なら両方よ。どちらが特別得意はないわ」

 

「なるほど。さて、お嬢さん。オリバンダーの杖は、杖の一本一本に強力な魔力を持った物を芯に使っております。例えばユニコーンの鬣や不死鳥の羽根、ドラゴンの心臓の琴線などじゃ。ユニコーンも不死鳥もドラゴンもみなそれぞれ違う物じゃから、この世に同じ杖は一つとしてない。もちろん、あなたが他の魔法使いの杖を使っても、決して自分の杖ほどの力は出せないわけじゃ」

 

「要するに相性の良し悪しがあるって事?」

 

「そうじゃ。それではまずこれを握ってみてください」

 

そう言ってオリバンダーが一本の杖を渡してきた。

 

「25cm、イチイの木にユニコーンの毛、しなやかで力強い」

 

握ってみたが反応はなかった。試しに振ってみても特に何かが起こることは無かった。

 

「ふむ……どうやらその杖は違うようじゃな」

 

そう言い奥に行った後また新しい箱を手に戻ってきた。これも何回も繰り返したが一向に自分の杖が決まる気がしない。かれこれ30分近くも杖を握らされたがどれもこれも反応無しで面白くない。買いに来いと言ったのはそっちなのにいざ来てたらこのザマだ。もうお腹も空いてくる時間帯だから早く帰りたかった。

 

「店主。まだ私に相応しい杖は見つからないのかしら?高級店と聞いていたけど客を待たせるだけの店だったようね」

 

「ま、待って欲しい!これはどうじゃ?」

 

オリバンダーがまた新しい杖を持ってきたが結果変わらず反応無し。さっき握ったやつはほんの少しだけ反応したからさっきよりも駄目な杖だった。自分に与えられる杖は無いのかもしれない。そうなったらいっそ自分で一から作ってみるのも悪くないと思える。そう思い出て行こうとしたが、店の奥を覗くと奥の壁際に厳重に鎖で留められた杖があった。黒塗りの大きな木に先端をダイヤの形に加工し、真ん中に青白く光る玉が棒で支えられていた。不思議と一目見た時にピンと来たためオリバンダーに聞いた。

 

「店主。そこにある杖を渡してくれ」

 

「それはいけませんぞお嬢さん!その杖だけは他の魔法使いに渡らないように厳重に保管してあるのじゃ!その杖は呪われているのじゃ!」

 

「……いいか?オリバンダー」

 

そこで一度オリバンダーの目を覗き込み殺気を当てながらもう一度言った。

 

「それを渡せ」

 

「……は、はい」

 

オリバンダーが懐に閉まっていた鍵を取り出すと杖にかけられた鎖の錠を外していった。そうして自由になった杖は時折震え、今にも暴れだしそうな雰囲気が出ていた。

 

「48cm、暴れ柳の中心幹、セストラルの毛、そして吸魂鬼の魂と言われる珠……」

 

握ってみた瞬間全身に伝わる感覚でわかった。この杖こそが自分の使うべき杖だと。少し振ってみただけでまるで自分の腕のように感じられた。これなら違和感などなく魔法を使えるだろう。ダンブルドアが言っていた杖は魔法使いにとって補助と言っていたのも頷ける。

 

「店主、いい買い物だった。これを買っていく」

 

そのままカウンターに金を置くとオリバンダーの静止も無視して店の外に出た。さっそく魔法を使う為に路地裏に入り『姿くらまし』使ってみた。すると今までの感覚が嘘のように実にスムーズに魔法を使うことが出来た。

 

「これなら今までの魔法よりも断然威力も精度も桁違いの魔法が出せるわね!」

 

テンションの上がったアリアスはそのままいくつかの魔法を試した後その結果に満足し食事を取るため自分の部屋から出た。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

数日後、アリアスはトランクを一つ持ち、キングズ・クロス駅に来ていた。髪は魔法で短くして(それでも地面につくかつかないかの長さだが)いつもの水晶球で纏め、服装は流石にいつものでは目立つため黒の簡単なフリルの付いた袖と裾の長いドレスのような服を着てきた。どうせこれも向こうに着いたらあまり着ないし、他のも魔法か梟便で送ってもらえばいいだけだ。今日からついにホグワーツでの生活が始まるためこうしてホグワーツ行きの列車に乗りに来ていた。と言ってもダンブルドアから言われた安全な魔法の使い方を習う気などない。元より魔法を誰かのために使う気など無いためそんなことを学びに行くのはない。まだ見ぬ魔法を求めて、未知の知識を求めてこの学校に来たのだ。あのヨボヨボの爺の話など変わり身に聞かせていたのだから当たり前だ。私を縛れるのはこの世界で私のみ。それだけだ。そんなことを考えつつも脚は既に駅内のプラットホームに進んでいた。しかし同封されていたチケットには今日の11時に9と3/4番線から列車が出るとしか書いてない。そもそも3/4などと言うホームはない。がおそらくは一般人に見つからないように偽装が施されているのだろう。それを暗示したのが3/4番線なら

 

「やっぱりね。そう言うことだと思った。案外単純だったのね」

 

9番線と10番線の間にある通路に柱が立っていてホームから見て三番目の柱に手を当ててみると先が火への中に埋まっていた。そっと潜ってみると人が溢れかえっていて親が代わる代わる子ども達に別れの挨拶をしていた。これがホグワーツ行きの列車なのだろう。時計を見るとあと十分ほどで列車が出るようだ。今のうちに席を確保するため中に乗り込んだ。車内は一つに四人ほどが入り込める小さめの部屋がいくつも並んでいた。俗に言うコンパートメントだった。その中の一番後ろがまだ誰も来ていなかったためそこに陣取った。発車まで時間があるため何をして時間を潰そうか悩んでいるとコンパートメントの扉が開いた。

 

「ここいいかな?他の場所はもういっぱいで……ここしか開いてないんだよ」

 

いきなり扉をあけて来て上に返事を聞かずに入り込んできた赤毛の男の子と眼鏡をかけた黒髪の男の子に殺意が湧くがいきなり問題を起こせば困るのは自分だ。ここは堪えろと自分に言い聞かせた。

 

「僕はロン、ロン・ウィーズリー」

 

「僕はハリー・ポッター」

 

聞いてもいないのに自己紹介を始めたがどうせこれ以上関わることはないし名前を言えばそれで終わりだ。

 

「……アリアス・ヴァレンタイン・ウォルコット」

 

「うわー、すごい名前だね」

 

名前に凄いも凄くないもないだろう。そう思っているとハリーがじっとこちらを見つめていた。

 

「何か私に用かしら?」

 

「い、いや!ただ僕の名前を聞いて驚かないんだなって……」

 

「あら、私はそんなに凄い有名人にあったのかしら?」

 

「ハリーのこと知らないのか?!」

 

ロンが勢い良く立ち上がりでかい声を出すが寝起きがあまり良くなかった私の耳元で叫ばないで欲しい。うっかり殺しても文句は言えない。

 

「ハリーって言えば生き残った男の子だろ?例のあの人に勝ったっていう」

 

「……あぁ、聞いたことはあるわね。別段大したことじゃないと思ってその時は聞き流したけど」

 

「大した事ないって……」

 

ロンが何やら驚いてるが見ず知らずの犯罪者を追い返した程度で名前が売れてたらきりが無い。自分も屋敷の中では恐怖の代名詞だったらしいがそれを語るものは片っ端から粛清したためもうそんなことを思ってる奴はいないはずだ。いても変わらないけど。すると扉がいきなり開き明るい茶髪の子が立っていた。

 

「誰かヒキガエルを見てない?ネビルのペットのトレバーがいなくなったのよ」

 

いきなり自己紹介もなしに自分の事を押し付けてきたこの子はおそらく自分とは相容れないだろう。というかこんな子こっちから願い下げだ。

 

「いや、見てないな」

 

「僕も」

 

「そう、あなたは見た?」

 

「どうでもいいけど、最近の女の子は自分の名前も言えないのかしら?そこの二人は最初に名乗る程度には教養があるのに、あなたにはないのね」

 

言われた女の子は指摘されたことが恥ずかしかったのか顔を真っ赤にしていた。

 

「何よ!あなただって最近の女の子じゃない!」

 

「人の事よりまずは自分のことでしょ?それに最初に入ってきたのはそっち。ならまず名乗るべきはそっちからでしょう?私なにか間違ったこと言ってるかしら?」

 

そこまで言うと女の子はコンパートメントから出て行ってしまった。

 

「僕なんだかあのことは仲良くやれなさそうだよ」

 

「奇遇だね、僕もだ」

 

そうしてしばらくハリーとロンと話していると車内販売が巡回してきた。なにか買うかと聞かれたが自分は魔法で持ち込んだスコーンとクッキーがあるし、ロンもお金が無いのか遠慮していた。しかしハリーが大金持ちだったらしくほとんど全てのお菓子を買っていた。

 

「アリアスも食べなよ、このかぼちゃパイとか美味しいよ」

 

「遠慮しておくわ。私は自分で持ってきたものがあるし」

 

そう言って今日の朝焼き上げたクッキーを食べた。間に自分の好きなクリームとジャムを挟んだクッキーは久しぶりに作った割には上等な出来だった。

 

「おや?これはこれはハリーポッターじゃないか」

 

そんな私にとっての楽しい時間をいきなりぶち壊したこの金髪のナルシスト野郎をどうしたものかと考えていた。ハリーを見つけた途端図々しくもコンパートメントの中に入ってきて更には自分の隣りに座ったのだ。大方自分の家の権力に縋る虎の威をかる狐だろう。どうでもいいが早く出て行って欲しかった。

 

「優しいねぇ。英雄のハリーポッター様は貧乏なウィーズリー家の子供にもお恵みを与えるなんて」

 

「僕はそういう目的でロンと食べてたわけじゃない。」

 

「そうだったのか?ウィーズリー家は貧乏だしそう見えても仕方なかったね。謝るよ」

 

謝る気もないのにそう言いナルシストはこちらを向いた。

 

「君もこんな奴らと関わらない方がいい。どうせなら僕のいるところに来ればいい。ここにある物よりもっといいお菓子があるよ?」

 

ナルシスト野郎が誘ってきたのでこちらもそれなりの言葉で返事をしてやろう

 

「そうなの?それはありがたい提案ね。でも遠慮しておくわ。私何でか知らないけどあなたとあったことがある気がするの。知り合いのキザでナルシストなバカ男を知ってるのだけど…………ごめんなさいね?あなたがそんなことある訳ないし」

 

「そ、そうかい。なら僕はここで失礼させてもらうよ。行くぞクラップ、ゴイル」

 

捨て台詞を残して金髪ナルシストは手下を引き連れて逃げていった。

 

「凄いね、マルフォイによくあそこまで言えるよ」

 

「あのタイプは家が偉いからそれで調子に乗ってるだけ。本人にはなんの力もないわ。別に怖がる必要もないのよ」

 

「アリアスってなんか僕達よりもずっと大人だね」

 

「そうかしら?あなた達も言いたいこと言えばいいだけよ」

 

列車が揺れた。だんだん減速していることからおそらく着いたのだろう。席から立ち上がりトランクを持つとコンパートメントから出ようとした。

 

「待ってよ!どこに行くの?」

 

「そろそろ着くわ。あなた達もその格好じゃマズイでしょ?早く着替えなさい」

 

そう言い残し出口に向かった。停車したあと降りると遠くに大きなお城が見えた。この距離でもそこそこ大きく見える為実際にはとてつもなく大きいのだろう。

 

「いっち年生はこっちだ!いっち年生は早く来い!」

 

ずんぐりむっくりな巨体の男が案内をしていた。ハリーが駆け寄って抱き着いているから知り合いなのだろう。ここからホグワーツまではボートで行くらしく四人一組でボートに乗り込まされた。幸い自分の乗り込んだボートはまだ緊張してるのか他の三人も一言も喋らなかったため静かに景色を眺めることができた。岸につくと大男に先導される校舎の中に入り大きな扉の前まで案内された。自分の部屋の扉といい勝負かもしれない。深い緑色の帽子をかぶり同じ色のローブを着ている教師のような女性が扉の前に立っていた。

 

「ハグリッド、案内ありがとうございました」

 

「いやいや、マクゴナガル先生。それが俺の仕事なんで」

 

ハグリッドは扉を少しだけ開けると先に中に入っていった。

 

「ホグワーツ入学おめでとう。新入生の歓迎会がまもなく始まりますが、大広間の席につく前に、皆さんが入る寮を決めなくてはなりません」

 

マクゴナガル先生の話によると寮は四つあるそうだ。 グリフィンドール、ハッフルパフ、レイブンクロー、スリザリン。それぞれ輝かしい歴史があり、偉大な魔法使いや魔女が卒業したという。ホグワーツにいる間は、自分の属する寮の為になる行いをすれば得点が入り、反対に規則に違反した時は寮の減点となる。そして学年末には最高得点の寮に名誉ある寮杯が与えられるようで、四つの寮は互いに競い合っているらしい。

 

「そろそろ歓迎会が始まります。皆さん二列になって付いて来てください」

 

マクゴナガル先生の先導で大広間に入ると中には部屋を埋め尽くさんばかりの生徒がいた。四つの縦長なテーブルがありそれぞれ寮毎に分かれているのだろう。テーブルの間を抜けきり前まで来るとそこに椅子があり、その上に古びた帽子が置かれていた。すると防止がいきなり歌い出しだ。

 

 

私はきれいじゃないけれど

私を凌ぐ賢い帽子

あるなら私は身を引こう

山高帽子は真っ黒だ

シルクハットはすらりと高い

私は彼らの上を行く

私はホグワーツ組分け帽子

かぶれば君に教えよう

君が行くべき寮の名を

 

グリフィンドールに入るなら

勇気ある者が住まう寮

勇猛果敢な騎士道で

ほかとは違うグリフィンドール

 

ハッフルパフに入るなら

君は正しく忠実で

忍耐強く真実で

苦労を苦労と思わない

 

古き賢きレインブンクロー

君に意欲があるならば

機知と学びの友人を

必ずここで得るだろう

 

スリザリンではもしかして

君はまことの友を得る?

どんな手段を使っても

目的遂げる狡猾さ

 

かぶってごらん恐れずに

君を私の手にゆだね(私に手なんかないけれど)

だって私は考える帽子

 

 

帽子が歌い終わったあと広間から割れんばかりの拍手が巻き起こった。どうやらあの帽子を被ることで自分の入るべき寮を決めることが出来るらしい。と言ってももちろん他人に自分のことなど決めさせる気などないが。

 

「ではアルファベット順にファミリーネームを呼ばれたら呼ばれたら前に出てきて組み分け帽を被ること」

 

マクゴナガル先生の言葉でいよいよ組み分けが始まった。

 

「では始めましょう。……ハンナ・アボット!」

 

ハンナと呼ばれた女の子が前に出てきて帽子を被った。帽子がしばらく悩んだあと大広間に響く声で「グリフィンドール!」と叫んだ。なるほとああやって決まるのか。

 

「ハーマイオニー・グレンジャー!」

 

列車の中でヒキガエルを探していた女の子が呼ばれていた。どうやらグリフィンドールに決まったらしい。その後に呼ばれたハリーとロンもグリフィンドールに決まり、特にハリーが入った時はそれまで以上の拍手が鳴り響いた。

 

「アリアス・ヴァレンタイン・ウォルコット!」

 

私の名前が呼ばれたため前に出た。と言うが私以外はほとんど残っていない。椅子に深く腰掛け、自然と足と腕を組み眼下の生徒たちをただ見つめた。それだけなのに誰も声を発そうとしなくなった。まあ私に見惚れているのだと思って無視する。マクゴナガル先生が頭に組み分け帽を載せた。と同時に頭の中に声が響いてきた。

 

『これは………まさかあの者と同じ素質を持つものがもう一人いたとは…』

 

『あの者とは誰かしら?』

 

『うーむ、これは教えても良いのやら』

 

『いいから早く教えなさい』

 

『名前を言ってはいけない。例のあの人だ』

 

『ふーん、そう。で、私はどの寮に入るのかしら?』

 

『聞いた割には淡白だの。……例のあの人と同じ道を歩ませないためにもグリフィンドールに入れてやりたいが、それでは君の素質は永遠に伸びないだろう。ならばここは』

 

「スリザリン!」

 

私の入るべき寮が決まったが拍手はなかった。いや、校長は拍手をしていたが。さっさと席についた。その後校長から食事前に注意事項が述べられた。話に上がった森と四階の右側の廊下には今度寄ってみよう。テーブルの上には金色に輝く食器に豪勢な食事が盛りつけられていた。自分の館で食べていたものと味はだいぶ違うがここの料理も食べられないほどではなさそうだ。食事の時間が終わり校長の指示の下監督生と一緒にスリザリンの寮に帰った。扉の前には偉そうに腕を組んだ肖像画が飾られていた。

 

「合言葉は?」

 

すると肖像画が喋り出した。多分寮に入るためのセキュリティの要素があるのだろう。

 

「純血」

 

パスワードが不快な単語だが。純血のどこが偉いのだか。そんなんで偉いなら私は選ばれた血だ。それこそ足元にも及ばないだろう。もちろんそれを声に出して言うことはしないけど。入り口から階段を下って行くと地下室に出た。なんとも陰気な寮だがここに入ることに決まった以上我慢しなければ。談話室をさらに下った右の階段の先が女子の部屋らしい。荷物が置かれている部屋に入るとどうやら四人部屋らしい。自分以外の人がいるのが気に食わないがどうせいないのと同じ扱いをするだけだから関係ないだろう。荷物をまとめた後魔法で体を清めると、風呂にも入らずに服をすべて脱ぎ去って泥のように眠り果てた。明日は風呂に入ろうと誓って。




主人公の杖はリリカルのはやてが持っているデバイスの円形の場所がひし形で、コアが水色に輝き、あとは全部黒い木の幹で出来てると思っていただければいいです

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。