シィ・クロラ   作:ティーチャ

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前回の続きです。お気に入りに入れてくれた方ありがとうございます。とても励みになりました!
因みに、私は艦これやってませんので設定の相違があったらご勘弁を。一応wikiとか見て調べたりはしてます。


Setup time セタップタイム

護衛対象の輸送船は外洋のど真ん中で炎をあげていた。海面には焼け焦げた死体が浮いている。あたし達が来る間に襲撃されたのは明らかだった。

言わんこっちゃない。大方、半分の距離だけ護衛させて、報酬をケチろうとしたんだ。

彼は特に驚いている風でもなく、携帯電話でどこかに連絡を始めた。恐らくは依頼人。どこかの大企業だろう。

こんな時代になってからは企業が強い力を持つようになった。土地、資源、技術、食料、人。あらゆるものを独占した彼等は自社の利益の為に、他社との争いを繰り返している。政府や軍もまだ存在するが、全くと言っていいほど機能していないし、そもそも、それらも企業の力によって成り立っている。

会話を終えた彼は電話をしまうと服を脱ぎ始めた。下にはウェットスーツを着ている。

「で、どうすんの?」

「襲撃した奴を追撃する」

二言三言の間に彼はダイビングのセットを終えていた。ガスマスクも外していたが、既に水中マスクがその顔を隠している。

彼はタンクのバルブを緩め、錨を下ろした。

「ラジオ使うよ」

彼は答えずに、背中からダイブし、沈んでいった。

ポーチから煙草を取り出して口に咥える。ついで、備え付けのラジオのスイッチを入れた。

ノイズが波の音が掻き消して自己主張を始める。似たような音だから対抗心があるのかもしれない。

赤ん坊をあやすようにひねりを回すと、ラジオは陽気なギターの音と歌声を吐き出し始めた。

煙草に火を付けようとするがマッチを忘れた。

炎上中の船まで行こうかと思った時、炎を背負った死体がこちらに流れてきた。最期に善行でも積もうとしているのだろうか。

「ちょっとゴメンねー」

煙草の先端を火に当てた。やがて、灰色の煙を出しながら先端は明滅し始める。焦げた様なすえた様な香ばしい匂いがした。

海水をかけて火を消してやる。死体は役目を終えたようにいずこかへ流れて行った。

煙を吸い込んで、吐き出す。潮風を浴びてる上、日が経ちすぎている煙草は苦味しか感じなかった。煙はその場に少し留まり、やがてのろのろと昇っていく。

海面を覗いてみる。絵の具を塗りつぶしたようなダークブルーに遮られて底は見えない。

当分上がってこないだろう。少なくとも、彼にとっては重要な作業だ。商売道具のあたしを失う訳にはいかないから必死こいて敵の分析をしている。

でも、あたしは相手が深海棲艦だろうが海賊だろうが艦娘だろうがどうでもいいし、自分の命にも特に執着はない。空虚な気持ちを満たしてくれる奴なら誰とだってやってやるし、やられてやる。

煙草が短くなっていた。火種を潰してポケットに突っ込む。

不意に、バシャッ。と、でかい音。

反射的に単装砲を音の方向に向ける。

先には死体があった。生きているのかと思ったが、完全に炭化している。

海中に何かがいるのに気づいた。背びれを水面から出し死体の周りを悠々と泳いでる。

サメだ。死体の匂いを嗅ぎつけたらしい。生で見るのは初めてだ。

単装砲を置き、自動小銃を取り出す。単装砲では弾がもったいない。でも、殺しはしない。

サメは死体の腕に噛みつき、振り回した。腕は用意に千切れた。もいだ獲物を持ってサメは見えなくなった。

すると方々で水を叩く音がし始めた。結構な大所帯だ。彼は大丈夫だろうか。でも、浮いている死体の数を見るに食べ物には困らないだろう。

サメ達は獲物の周りを泳ぎ、試し噛みをする。そして、また周りを泳ぎ始める。それの繰り返し。一見、ワンパターンに見えるが、バラバラになった部位を持って潜る時の動きは素早く、美しい。

相手が生きた獲物なら、さらに洗練された動きになるに違いない。

それから、暫くサメ達の技に見惚れていた。

太古から生存競争に勝ってきた彼等は何千、何万と代を重ねていく内に確実かつシンプルな狩猟方法を確立してきたに違いない。そして、また新たな狩りの方法を生み出していくのだろう。そう思うと子孫を残す事を馬鹿にできない。あたしも子供作ってみようか。でも作ったところであたしが強くなるわけじゃないしなぁ。てか作る相手がいないし...

「おい」

「んおぁっ」

びっくりして変な声を上げてしまった。

振り向くと彼はゴムボートの上にいた。既にガスマスクを被って。サメ達の立てた音のせいで彼の上がった事に気付かなかったらしい。しかし、乗り込んだ際の振動すら感じなかった。前は何の仕事をしていたんだろうといつも思う。

彼が足元に何かを投げた。最初は小さな石ころだと思ったが、よく見ると熱で丸まった鉄の破片だった。しかも、ただの鉄塊ではなく酸素魚雷の一部を構成しているものだ。

「はぐれだ。軽巡か駆逐か。重雷装巡洋艦かもしれん」

彼は食事中のサメ達を見ながら言った。

相変わらず暗い海底でよく見つけられるものだ。素直に感心する。

「もう探偵にでもなったら?」

もちろん彼は答えなかった。

その後、依頼主から連絡があった。

襲撃者の正確な方向がわかったらしい。そんな訳で電探を常にオンにしておけと言われた。おかげでラジオは聞けない。

サメや死体や船達に別れを告げ、再びボートで移動する。いつになったら自由に走れるのだろう。

船べりに寄りかかって彼を見る。

彼は背を向けてボートを操縦している。

そういえば今日も顔を見れなかったなと思う。

長い付き合いだが、一度もその顔を見れたことがない。というより、彼が徹底的に見せないようにしているのだ。

何かコンプレックスでもあるのだろうか。頰が垂れてるとか、出っ歯だとか。

あたしは彼のマスクの下を想像してみる。

目の大きさ。鼻の形。黒子の有無。顎は尖っているのか、丸いのか。いろんなパーツを福笑いみたいにくっ付けていくけど、どれもしっくりこない。結局、出来るのはなっぺらぼうだけだ。さっぱり想像できない。

いつも見えるのは後頭部だけ。髪の毛が全く無い、異常に白い頭。その頭には幾本もの青い血管がハリガネムシみたいに浮んでいる。だが、一番目を見張ったのは彼の耳だ。

...やめよう。暇すぎると碌な事考えない。

彼から視線を外して、もっぱら海を見る。

でも、一度張り付いた記憶は容易に剥がれなかった。

左耳の無い彼の頭は暫くあたしをグロッキーにさせた。

 

 

ーーー

 

電探の残り時間が15分を切ったところで反応があった。30km内に二つ。それを彼に伝えると、双眼鏡で辺りを見回し始めた。15km内に入ったところで反応が不自然に減速する。こちらもボートの速度を緩める。相手も電探を持ってるらしい。

「確認した。大井と北上」

「装備は?」

「北上。14cm連装砲カケル2。61cm酸素魚雷20発。大井、20.3cm連装砲カケル1、61cm酸素魚雷10発。22号対水上電探カケル1」

「随分金持ちだなぁ」

 

作戦はまず、あたしが交戦する。そこで彼の狙撃で援護という形になる。先に狙撃の方が好ましかったが、少し風が出始めた。向こうもこちらの存在に気付いている。あたしはともかく、彼は発見されたら逃げられない。だから、あたしとの戦闘中に狙撃させた方のが、彼の存在をある程度カモフラージュできる。向こうの電探には彼の反応はない筈だ。

電探はもう必要ないので、ボートに置く。代わりに盾を左手に持った。

水上起動の電源を入れて海に立つ。

やっと、自由に踊れる。

あたしは一回だけ伸びをしてからターゲットに近づいていった。

 

 

 

 

あたしは海に全てを置いていく

 

意識も

 

戦意も

 

地上のあたしは抜け殻だ

 

海なら何も考えずにいられる

 

何も考えずに

 

舞える 飛べる

 

撃つことが出来る

 

地上はごちゃごちゃしすぎて

 

 

 

いやだ

 




ここまで読んでくれた方ありがとうございます!
襲撃者追撃の話は次の話で終わります。
それから、また別の話になるので、どうぞ見てやってください。
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