シィ・クロラ   作:ティーチャ

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大分遅れました!凝り性なものでどうもすいません!



Have been met ハヴィーン・メット

ほんのり赤らんだ空の下で、ターゲットは600メーター位先に浮いている。まだ、黒い点にしか見えない。

あたしはインカムから雑音交じりに聞こえる指示に忠実に動く。ラジコンみたいに。

「これもうとっていいかな?」

うんざりした様な声色で彼に言う。実際うんざりしていた。

この機械は嫌いだ。理由はいくつかあるけど、一つ代表して言うなら、とにかくうるさい。通信環境の悪い海上だからか、ノイズや混線が雪崩のごとく押し寄せてくる。一度、混線を彼の指示と間違えて敵に発見された事があったが、あの時はインカムを握りつぶしそうになった。

以来、これを着けているとどうにも具合が悪い。

『進路を左に修正しろ』

やれやれ。

今は言われた通りにやるしかない。戦闘になったら外してしまえばいいんだから。

単装砲を持ち直してインカムを調整しようとした時、鋭い音が飛来して海に突っ込んだ。同時に爆発音と水柱が起こる。

海がカーペットみたいに激しくたわむ。あたしは盾を構え、姿勢を低くし、後退した。

一発目を皮切りに二発目、三発目も海面にキスをして、絶頂に達する。

スタートコールはなかった。でも、別段焦りも驚きもしない。この時代、いつだって『こんにちは』の代わりに砲弾が飛んでくるんだ。だから体に染み付いている回避運動はストレッチするのと変わりない。

ターン、タターンと、遅れて発射音が辺りに轟いた。

牽制のつもりでも遠すぎるよ、心中でアドバイスしつつ、フェイントを交えて蛇行する。歩みは遅くなるが確実に近づいて行ける。

砲撃は雨あられの様に降り注ぎ、弾は凶暴な音を立ててすれ違う。

距離が150メーターを切った所で、二人揃って反時計回りに旋回し始めた。

逃げるつもりはないらしい。

そうこなくては。

左に蛇行した勢いで、それに習う。

上から見れば、向かいあってグルグル回っている形だ。

円は100メーター、50メーターと小さくなり、相手の顔が見える距離にまで狭まった。

彼女らの装備は彼の確認したものと全く同じだった。大井と北上についても特に目立つものはない。

インカムを胸ポケットにしまう。もう交戦しているのは見えてる筈だ。わざわざ伝える意味もない。

重い枷が外れた喜びが、脳内麻薬の様にじんわりと染みてくる。自然と口角が上がった。

波に跳ね返った陽の光が目を焼いた。

磯と硝煙の匂いが鼻をくすぐった。

ノイズに似た波の音を聞いた。

握りしめる単装砲と盾の感触が、どこか優しかった。

唇を舐めると少ししょっぱかった。

生きてるんだな、と思った。

 

 

---

 

 

鼻から思い切り息を吸いながら腹をへこます。そして、口から息を吐きつつ腹を膨らます。無駄な上半身の力と緊張感が抜けていった。

単装砲のセーフティを丁寧に外し、

そっと引き金に指をかける。

水上起動装置の細かい動作を確認して、

円を崩して切り込んだ。

磁力の反発みたいに相手は後退する。

あたしはわざとゆっくり構えて、撃った。二人の間の空間に。

弾は何にも当たらなかったが、相手は弾かれたように左右に分かれた。

狙い通り。

北上に突っ込んでいく。

この軽巡姉妹を相手にする場合、北上から潰す。片割れを失った際の精神的な揺さぶりが、大井のが大きいからだ。だから大概北上のが重武装である。

北上と大井が酸素魚雷を撃った。それぞれ五発。

魚雷の間を抜けても良かったけど、姿勢を保ったままで退がる。

距離を離したところで、白く尾を引く魚雷を狙い撃った。

命中。爆発。

更に別の魚雷に誘爆して、爆散する。

海の上には炎が勢いよく燃え続け、火の壁が出来た。

やっぱり弄ってやがった。丸焦げの死体が沢山浮いていたのもこの為か。

壁は衰えを知らず、向こう側が見えない程燃えまくっている。

足を止め、単装砲を壁の右端に向ける。

3つ数えてから撃った。

その瞬間、端から北上が出てきた。

弾は一瞬早く彼女の目の前を通過していった。

北上は大きくバランスを崩して盛大に転倒する。

「北上さんッ」

壁の左端から大井の叫び声が聞こえた。

あたしは北上に魚雷を二発撃ち、大井に盾を構えて突進する。

およそ15メーター。

距離を詰める間に二発は撃ってくるだろう。

大井が引き金に指を添えたのが見えた。

あと、3秒で敵は撃つ。

1、2、3。細い通路を抜ける様に体を横にした。

目の前を連装砲の弾が駆け抜けていった。

あと一発。およそ7メーター程。

この距離になると魚雷の心配は無い。撃った瞬間を迎撃されれば自分が爆発に飲まれる。とはいえ、それはこちらも同じ。

大井はまだ撃たない。確実にあたしを倒す腹づもりのようだ。

いい覚悟だ。

距離は2メーターもなかった。

後方から、あたしの撃った魚雷の爆発する音が聞こえた。当たったのかはわからない。

速度を最大にし、

すれ違う瞬間、起動装置を切った。

慣性を受けて滑り、その勢いで旋回する。

片手で狙いをつける。

大井が先に撃った。

弾は盾に直撃した。

反動で盾はあたしに思い切りぶつかり、一瞬体が浮いた。

衝撃で息が止まる。

星がちらつく視界で引き金を引いた。

ザボン、と音を立て、背面から海に突っ込む。

起動装置をつけると、自動的にあたしの体を海の上まで押し上げた。衝撃のために咳き込みながら、海に立つ。波は穏やかになっていた。

大井はどうなった。見回すと棒立ちになっている大井がいた。

手をだらんと下げ、目は眠そうにとろんとなっている。その体の真ん中には拳大の穴が開いていた。あたしの撃った弾でないのは一目でわかった。

舌打ちをする。

「あいつ・・・」

弾が外れたのは直感でわかっていた。衝撃で照準がずれたから。大井はあたしが水中にいる間に彼に討ち取られたに違いない。

大井はゴブッと、口から重油を吐いて背中から倒れた。慌てて、沈みかけたその体を背負う。

背後から聞き慣れたエンジン音が聞こえた。

振り返るとゴムボートが近づいてきていた。ボートはあたしの横で止まる。

その上には彼と、やはり胸に穴が空いた北上が横たわっていた。魚雷は当たらなかったらしい。

結局、彼がいる時点で勝負はついていた。

「ま、いっか」

無造作に大井を北上の上に下ろした。その頭は北上の艦装に当たって鈍い音を立てた。

 

 

 

 

Epilogue エピローグ

 

血のような茜色に染まった空と海をぼんやり見ていた。

死体はゴムボートが揺れる度、魚みたいに跳ねた。

ついさっきまで生きて戦っていた相手

もう動かない

特に虚しいとか

かわいそうとか

そんな感情はなんら湧いてこない

ただ満たされている

食べたいものを腹一杯食べたい後みたいに

次に海に出られるのはいつだろう

それだけだった

 

 




前書きの通り、執筆ペースは遅いです。どうもすいません。
因みにラストシーンは別の物だったんですが、イマイチだったんで、コンパクトに纏めました。
そういえば、お気に入りが増えて、しかも投票までされてるじゃあありませんか!とっても嬉しいです!
どうかこれからもよろしくお願いします。
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