シィ・クロラ   作:ティーチャ

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 相変わらずの投稿ペースです。待っていた方、大変お待たせしました。申し訳ありません。
 今回は特にバイオレンス描写が顕著ですのでご注意を。


Black Out ブラック・アウト

 陽の光を浴びた雲は黄色に染まり、海も同じ色でてらてらと輝いている。

 代わり映えしない天気の下であたし達は前進する。その間、空気を裂く音と共に何発もの砲弾が飛来して来る。殆どは視界の外でひっそりと果て、そうでないものは水の壁となって行く手を遮った。砲弾の持ち主たちは水平線の果て、黒い海と山吹色の空との境目に黒い点となり、それが閃く度にあたし達の周りは賑やかになった。

 あたしは砲撃の手が緩むのを見計らって小指を影の隣に置いた。電探が無い時などは時はいつもこうして大体の距離を測る。

 点は四つ。いずれも小指の第一関節五分の一程度の大きさ。これまでの経験から2分もしない内に接敵するだろう事や奇襲の得意な軽巡と駆逐艦混成の機動部隊である可能性を後方の二人に伝えた。

 菊月は「そうか」と、たった一言。白露に至っては、「ごめん、アタシ自分が見たものしか信じないんだ」と、非常に腹の立つ答えが返ってきた(しかも笑顔で)。

 全くなんて奴らだろう。人の提供した情報をパンの耳ぐらいにしか思ってない。情報はテーブルの上に置いてあれば断りも礼も無くつまんでいいようなモノではない事をこいつらは知らないのだ。

 大嫌いなインカムも常時付けておかなくてはならないし、本当に他人と組むと碌なことが無い。

 だから敵は二手に分かれた時は心中で膝を打った。

「あんたらは左舷の方をよろしく。後は自由にやっていいよ」

 一拍置いて端末から菊月の声が返ってきた

「一人で大丈夫か?」

 なんでお前に心配されなきゃいけないんだ。

「一人のが大丈夫」

 ぎゃははと白露の笑い声が無線と後方から同時に響いた。冗談だと思ったらしい。確かに初対面の奴が素面でそんな事言えば冗談だと思うかもしれない。もちろん冗談じゃない。

「まぁ、頼んだ」

 そう言ってあたしは陣形から外れた。

 

 ---

 

 敵が間近になるとその場に停止して単装砲を構えた。肩の力を抜き、正面を見据える。相手は曙と長良の二人。大きな二重螺旋を描きながら向かってくる。あたしはすっかり冷えきった引き金に指を掛ける。

 1回

 2回

 3回

「駆けつけ一杯」

4回目に二人が重なった瞬間に人差し指を引き絞った。

 鋭角に撃ち込こんだ砲弾は水柱にならない代わりに膨大な飛沫を浴びせて彼女達に覆いかぶさった。

 単装砲を構えたまま次発装填を待っていると、すぐ横を砲弾が掠めていった。視界が遮られているにしては恐ろしく正確な射撃。直後、全身を濡らした長良が突っ込んできた。単装砲を持つ手と反対の手にはコマンドナイフが握られている。

 まさか突っ込んでくるとは思っていなかったあたしは引き金を引いてしまった。大事にとっておいた弾はあらぬ方向に飛んでいく。次の装填を待つ余裕は無く、振り上げられたナイフをすんでのところで盾で防いだ。キリリと嫌な音を立てて盾の表面を刃が引っ掻く。

 それでも長良は止まらない。ナイフを捨てて勢いに乗ったまま盾の上から体当たりをかまし、あたしの単装砲の砲身を掴んだ。

 へし折られる。そう思った時長良が素早く手を引いた。同時に黒い液体がそこらじゅうに撒き散った。

 鉄をバターのように切断する天龍型の近接武器を、さらに折れる寸前まで加工した特製銃剣。それが彼女の手に噛み付いている。配色を単装砲に合わせていたせいで気付かなかったのかもしれない。使う機会も少ないのであたしも忘れていた。

 威力を裏付けする様に長良のダランと下がった左手からは決して少なくない量の重油が噴出している。その上余程強く握ったのか折れた刃が食い込んでいる真ん中の三指に至っては皮一枚でくっ付いている様な有様で今にも落っこちそうだ。彼女の足もとの海面は見る見るうちに黒く染まっていく。粘着質の重油すら切り裂きながら刃は手から抜けて落ちて海中に沈んでいった。

 重油まみれの単装砲を使えば火達磨になるので、怯んでいる彼女に盾を正面から叩きつけた。うぐっ、と唸る声が聞こえる。距離が近いため大した威力は出なかったけど隙を作るには十分だった。さらに盾の頭で鳩尾を突いた。長良の体がくの字に折れ曲がる。

 しかし彼女はしつこかった。よろめく間際に重油が噴出している掌をあたしの顔面に思い切り擦り付けた。その際、千切れた指が左目に直撃して鋭い痛みが走った。長良の凄まじい叫び声が上がる。

 真っ暗な視界の中、目を擦りつつ跳ね回る心臓を必死に押し留める。

 落ち着け、姿勢を低くしろ。相手の片腕は潰れている。焦ることは無い。

 落ち着いて。深呼吸しろ。

 そうだ。

 よし。

 曙はどこに行った?

 あたしを撃つなら絶好の機会だ。

 白露達の方に行ったのか?

 無線からは何も聞こえてこない。

 相当な痛みなのか長良は声を上げ続けている。

 重油は拭き取ったけど暗さに慣れたせいか海面の反射が目に痛く、左目は痙攣したまま涙が止まらない。結局目を瞑ったまま、あたしはゆっくり腰を上げて耳にあるインカムのボタンを押そうと片手を上げかけた。

 かちゃ、と絶叫の中で微かな金属音が聞こえた。平生聞きなれた音で無かったら気にも留めていなかったかもしれない。単装砲を構える時の音だった。

 あたしは海面に後頭部を叩きつけるように倒れ込んだ。ほぼ同時に爆音と熱を持った何かが物凄い勢いで鼻先を通過していく。絶叫は不自然な程ピタリと止んだ。

「くそっ!」

 あたしは倒れたまま水上起動装置を回した。頭のてっぺんを海水が激しく叩き、肩が置いていかれそうになる。

「何してるッ、とっとと撃てッ」

 長良の怒号が聞こえ、間を置かずに真横から砲撃を受けた。塩辛い海水が顔にかかる。立ち上がる暇は無い。あたしは大きく息を吸い込むと海中に潜った。

 途端に不安が舞い込んできた。一刻も早く海上に出たい衝動に駆られる。

 何故。いつもと変わらない、あたしの大好きな海の中なのに。

 違う。あたしだ。

 いつもと違うのはあたしだ。

 視界不良のまま海に潜るのがこんなに不安だなんて。

 それは久しぶりに感じた恐怖だった。




 次でこのお話はおしまいです。

 私も艦これ始めたのですが...飛龍はともかく、日向がさっぱり出てきません。筑摩がわらわら出てきます。
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