機動装置が変な音を立てているのに構わず、一際大きな残骸に身を隠した。頭上からは爆雷が降ってきているけど海底は沈んだ艦艇や航空機で溢れ返っている。核爆弾でも落ちてこない限りは逃げ隠れするのに絶好の立地だった。
鈍い衝撃の後、周りの砂が巻き上がった。落とされる爆雷は、方々で海底を抉りながら周りの残骸たちをさらに小さくしていく。
海上の二人は白い軌跡を描きながら海上を旋回し続け、片方がどこかへ走り去っていった。
白露達の様子はまるでわからないが状況が悪化するのは目に見えていた。
早まる鼓動を抑えながら仰向けに体勢を変える。
次の爆雷投下時を狙って魚雷の発射口を上に向けた。
ごぽごぽ、と空気が出て行く音が耳元をくすぐる。戦闘中じゃなければいつまでも聞いていたいと思う。
頭上の艦娘は5回旋回したところで爆雷を投下した。
今。
発射した魚雷は爆雷に向かって一心に昇って行く。
海上が白い泡で包まれる。
肌を包む海水が一拍置いてびりびりと振動する。
大腿部の発射機構を外してから、魚雷の軌跡を辿っていく。
落ちていく爆雷や魚雷の破片の中には艦娘のエンブレムや艦装の残片も混じっていた。エンブレムは見たことのある物だった。
海上に上がると無線が鳴いた。
『おい、沈んだのか!返事しろ!』白露の声だ。
「いや、生きてる」
『馬鹿!とっとと…』
白露の声を掻き消し、爆音が響く。火線が飛び交う海域に目をやるといくつもの水柱が立ち、人影が海を滑っているのが見える。
腰を落とし、機動装置のエンジンをがんがん吹かす。
リズムよく排気音が鳴る。
人間の心臓のように。
案外そんなに変わらないかも。
足元のそれがちらりとあたしを見た気がした。
走っていいかな?もう限界なんだ。
そう言っている様だった。
「行こうか」
爆音を立て、放たれた矢のように機動装置は発進した。一瞬、首が後ろに倒れそうになる。
最大速で疾走する時間は中毒性の様なものがある。
でも頭は案外はっきりしている。
針の先よりも小さい水滴でも頬に当たった数が分かるくらいに。
右目の限られた視界の中に敵を治めつつ、見る見るうちに戦闘域が近づいてきた。
あたしの方にも砲弾が飛んできたが、遥か後方に流れていった
100m程距離を開けて敵艦隊の後方に付いた。
駆逐艦二人に軽巡一人。軽巡の方はさっきの長良だ。
じわじわと距離を詰めていく。
白露たちは尻に付いた敵を振り切ろうと必死に之字運動を繰り返していた。
敵艦隊の射撃はなかなか的確だった。ただ、戦闘に参加しているのは二人だけ。最後尾の長良は無線で指示だけ出している。駆逐艦二人はビギナーだろうか?
あたしはさらに距離を詰める。もう50mを切った。
単装砲を構える。既に速度は人間なら息も出来ない程に上がっている。
撃つ。
夾叉。
かこん、と数秒経って微かな振動。装填完了の合図。
もう一度撃つ。
やはり夾叉。
単縦陣の敵艦隊はまるで蛇の様な動きで砲弾をかわす。
急に長良が減速した。みるみる内にあたしとの距離が縮まる。
謎の行動に混乱する。
すると長良は屈伸するように腰を高くして、空中に爆雷をばら撒いた。
ひゅ、と息が詰まった。
こんな滅茶苦茶な使い方があるものか。おかしいぞこいつ。
あたしは減速する事無く、左に大きく迂回する。長良が右目の死角に入った。
魚雷と砲弾がいっぺんに飛んできた。
一発も当たらなかったのは奇跡だったが再び大きく距離を離される。
呼吸を整える。
あたしは腰についている彼特性手榴弾に手を添えた。
これで決める。
再び速力を上げて、今度は側面から攻め込む。
狙いは付けず、とにかく接近への布石として単装砲を撃ちまくる。足は止まらないが砲撃の邪魔にはなってはいるようだ。
あたしは無線に叫ぶ。
「合図したら、左にカーブしてくれ」
白露が何か喚く。
あたしは気にせずに距離を詰める。
何度も何度も同じような攻防を繰り返し、ようやっと先頭の駆逐艦に並走する形になった。
この頃になるとロックがあたしにも向いてきており決して遠くない距離に砲弾が着弾していた。
50mを切ったところで鉄球に手を掛ける。これの性質上、ギリギリまで我慢しなければ効果は発揮しない。
40m
30m
20m...
無線に叫ぶと白露達は大きく緩やかにカーブを描く。同じように敵艦隊も付いていこうとする。徐々にあたしとの距離も縮まっていく、ダメ押しでさらに単装砲を撃ち込んだ。
今度こそ確実に足が遅くなる。
先頭を走る駆逐艦に魚雷が残っているのを見とめてから手榴弾のストラップを引き抜いた。
爆発まで5秒!
敵艦隊を追い抜き、大きく切り込む。
目の前を横断しようとするあたしに先頭の駆逐艦は標準を合わせたが遅い。
手榴弾から手を放した。
ほんの一瞬間、長良と目が合った。
驚愕する駆逐艦二人とは裏腹にその顔には何も浮かんでいない。
人形の様な顔に張り付いた二つの目に、何故か既視感が沸いた。
その手が前にいる駆逐艦の頭を掴んで共に倒れたところであたしの視界から彼女達は消えた。
小型ベアリング弾がぎちぎちにる詰め込まれた特性手榴弾は爆発と同時に四方へ弾ける。艦娘に当たってもかすり傷程度だが、魚雷の信管に当たれば100%誘爆を引き起こす。
何千本ものギターの弦が弾けるような音と共に、爆音がした。大きな火柱が黒煙を上げ、艦娘の重油に触れた事で炎上していた。
火柱の向こう側から二つの影が海から出てきた。咄嗟に単装砲を構えたが火の勢いが強まり熱風が飛ばした鉄片が再度派手に散った。あたしが顔を手で庇っている間に煙幕を展開した二人は黒煙の中に消えて行った。
横から白露達の砲弾も飛んできたが無駄に終わった。
―――
「奴らの部隊章、見た?」
帰等中の道すがら、無線から菊月の声が聞こえた。あたしが黙っていると白露が答えた。
「治安隊だろ?ま、途中から来た奴以外話にならなかったがね」
治安部隊は政府が企業に対して唯一、強硬な態度をとれる理由だった。治安維持をという名目で各地の戦場を引っ掻き回して帰っていく、傭兵の間では彼女達を『
「それよりお前!」白露が声を荒げた。
「あたし?」
「随分のんびりやってたな、この野郎」
「へーへー」
言うだけ無駄だと思ったのか、白露はあからさまなため息をついた。
「しかし、こんなお使い仕事にまで出張ってくるとは随分思い切った事してくれるよな。やりづらくなるよ」
「邪魔するなら沈めるだけだ」
「カッコイー♥]
二人の会話を聞き流し、あたしは今日戦った長良の事を思い出す。
最初から最後まで殺しあっていたのにもかかわらず、まともに顔を見たのはあの時だけだった。
無表情に張り付いたガラス玉のような双眸。真っ黒い瞳、正確には幾重にも青を塗り重ねた時に出来るようなほぼ黒に近い濃紺。
あの目に激しい既視感を感じたのは何故だろう。
Epilogue エピローグ
帰等後、あたしは任務の経過を報告する為に彼の部屋を訪れていた。彼の背後の窓ガラスは夕焼けを映している。世界の終わる前の景色と言ってもいい、深い紫色の空。
「---じゃ、そういう事で」
あたしが話し終わると。と彼は暫く、手で顎をさすっていたが、やがて、
「あいつらとはやらないほうがいいな」
無論、治安隊のことだ。
「なんで?」
彼は机上のpcで作業を始めた。既にあたしに対する興味を失ったという合図でもある。
部屋を出たあたしは薄暗い廊下を渡り自室に戻った。
そういえば、と思い出す。右目の調子はどうだろうかと今更になって思い出した。痛みが全く引いていたので完全に失念していた。照明を点け、洗台の前に立つ。
鏡の中のあたしはいつもと変わらなかった。右目が少し腫れているだけだ。
何も変わらない。
そう。
何も。
あたしは暫く動けないでいた。
唐突に頭の中の霧が晴れた気がした。
あたしは自分の瞳を凝視していた。
何で今まで気が付かなかったのだろう。
既視感も何も無いじゃないか。
毎日、あたしはあの目を見ていたんだ。
あたしは鏡の中の目に、触れてみた。
冷たい感触が、いつまでも指の先に残っていた。
遅れてすいません。何回目でしょ…気付いたら10ヶ月も…でも今更、皆さんに見てもらおうなんておこがましい事は言えません。完全に自己満足での投稿です。
いつもいつもプロット立てずに本能的に書き込むので必ずどこかで瓦解します…
で、自己嫌悪の悪循環…
でも、ある程度のストーリーは組み立ったので全部作りたいと思います。
「まだコイツ上げてんのかよ」みたいな感じで流し目で見てってください。