思い返せばずっと、人間共に使役される存在だった。
鬼の四天王が一人、伊吹萃香。それが今の我の名であり個体名。我らが母上である鬼子母神様より賜りし、誇りだ。
母上は常に、信に足る人間には仁を貫けと我らに教えてくれた。人に従うのではなく対等に、力を貸すのはその人間が己より強いか又は友である時だけだと、教えてくれた。
最初は、その通りだった。我らを倒して名を上げようと挑み来る勇者を返り討ちにし、笑って酒を酌み交わして、また挑まれる。人の危機や困り事には酒を対価に手を差し延べる。それを繰り返す、楽しく愉快な関係だった。
なのに、ある時から人は策を用いる様になった。酒に毒を混ぜたり、寝ている所を集団で囲ったり、卑怯卑劣姑息な手段で「討伐」と「名声」だけを求める、「誇り」を失った生き物になってしまった。
勿論それには、人と鬼の価値観の違いも含まれているだろう事は想像に難くない。しかしそれを感情が拒む。
失望したし、絶望もした。既にありもしない人間の姿を渇望して落胆し、幻滅を繰り返して理解した。それはきっと永劫に叶わないと。
鬼の中でも上位に座する我が、貧弱な人間に従わされている事実は、元・人間である身からしても憤りを感じる。
東方Projectの伊吹萃香、それが我が「声」に願った事。
同じ身体、同じ能力、同じ強さ。我はそれらを産まれ持っていた。仲間の中に星熊のは残念ながら居なかったが、それを補って余りある、魅力的な同朋達だ。
「来い、前鬼」
ーーまた、あの人間に喚ばれる。忌ま忌ましい、忌ま忌ましい事この上ない。至上に最上な極上の嫌悪をこの身に抱いて、我はその人間の下へと召喚される。
神鳴流。
退魔のための剣を振るう、古来より在る一族。剣を振れぬ者は苻を、術を以って魔を征する。眼前の男は剣よりも術に秀でた優秀な人間、名を近衛門左衛門と言う。
「帝の命を狙う不届き者が都に潜んでいるとの情報が入った。見つけ次第、殺せ」
「…………」
「チッ、少しは主人に愛想良く出来ないのか。折角、美しい顔をしているのだからな。ん?」
男はーーー近衛は、我の顎を軽く持ち上げ、唇を重ねてくる。くちゅくちゅと淫靡に響く水音、しかし我の心は氷の様に冷たく、炎の様な激情を宿す。嫌悪感を隠しもせずに不快な顔をした所で、近衛は愉快そうに付け上がるだけ。
近衛は最低の人間で、近衛家でも異端児として有名な男らしい。己が式神は全てが人間形態、または変化が可能な雌で揃えている。そしてそれらの全てが全て、まだ幼い少女の外見をして、そうさせているとの事。
曰く、「式神しか愛せない男」。
幼子の姿を好む理由は知る由もないし知りたくもない……今の我はただ、コイツに成すがままにされるだけだ。術で強制的に縛られたこの身が嘆かわしい、同朋を庇う為とはいえ、この程度の術式下に敷かれるなど。
ーーー口惜しい
「フッ、今回も良くやったな前鬼。私はお前を誇らしく思うよ」
「…………」
「だんまり、か。まぁ今は気分が良いから許そう、また私の役に立ってもらうぞ?」
『送還』と呟いた近衛に呼応して、我のこの身が雅に光る。不本意ながら、人の作り出した術式が生み出す光を我は好む。花火などといった物は、人間であった頃から変わらずに好きな事が起因してるのやもしれぬが。
瞬く間に現るは我が故郷、人里離れた妖怪の山。そんな我に気付いた同朋がちらほら見受けられ、声を掛けられる。それら全てが全て、我には心地良いもので、近衛によって荒んだ心が癒されていく。
何時か、きっと我は自由を再び手にする。それだけを目標に、今は生きていこう。そう、同朋たちの笑顔に誓った。
伊吹萃香こと「我」さんです
これで理解した方もいらっしゃるのではないでしょうか、皆、時系列がバラバラな事を
並べると
3兆年前ー「自分」
1500年前ー「我」
1989年(原作開始14年前)ー「私」
1993年(原作開始10年前)ー「僕」
1995年(原作開始8年前)ー「俺」
ちなみに「僕」はナギが麻帆良で※※された後に来ております
ではでは